第1 最初に分けるべき三つの問題
自サイトの記事やデータが他サイトに掲載されていると分かった場合は,①どの権利についてどの行為が問題になるか,②自サイトへの流入や事業にどのような影響があるか,③訂正,出典表示,許諾交渉,削除又は法的手続のどれを求めるかを分けて検討する必要がある。
出典が記載されていることは転載の許諾を意味せず,アクセス数が減ったことも,それだけで著作権侵害を意味しない。
本記事は,ウェブサイト運営者とその相談を受ける弁護士が,第三者利用を発見した段階で事実・権利・証拠を整理するためのものである。
令和8年10月4日に確認した著作権法,文化庁の説明,裁判所公表の判決及びGoogle公式文書を基に,初動で検討する事項を示す。
証拠の保存順序や観測方法は,本記事における実務上の提案であり,裁判所が定めた統一的なチェックリストではない。
第2 何が利用されたのかを特定する
1 事実・法令・判決と独自の文章を分ける
著作権法2条1項1号は,著作物について,思想又は感情の創作的な表現を要件としている。
人名,所属先,年月日その他の単なる事実やデータと,執筆者が作成した解説,論評,図表又は写真は,保護の判断を分けなければならない。
文化庁の利用案内も,単なる事実・データ,アイデア及びありふれた表現を著作物から区別している。
同法13条は,法令,所定の公的機関が発する告示・訓令・通達等,裁判所の判決・決定・命令・審判等を権利の目的から除いている。
判決本文を掲載したサイトが,その判決本文自体について独占的な著作権を取得するわけではない。
他方,民間の執筆者による判例解説,要旨,論点の比較又は独自の図表は別に検討する必要がある。
「官公庁の文書だから全て自由に転載できる」とまとめることもできない。
同条の対象となる文書か,別に創作性のある写真・地図・説明資料等か,第三者の著作物が含まれるか,公開サイトの利用条件がどうなっているかを確認する。
情報公開で取得したこと,PDF化又はOCRをしたこと,取得に費用がかかったことだけでは,元の情報全体について新しい著作権が生じるものではない。
2 編集物・データベースとしての保護
同法12条は,素材の選択又は配列に創作性がある編集物を,12条の2は,情報の選択又は体系的な構成に創作性があるデータベースを保護する。
個別の事実が保護されない場合でも,集合物の選択・構成が別に保護されることはあり得る。
しかし,収録件数,収集期間又は投下費用が大きいことだけで,創作性を満たすと決めることはできない。
請求を検討するときは,選択した対象,項目,分類,関係付け及び構成のうち,どこに独自性があり,相手サイトがそのどの部分を利用したのかを具体化する。
全体又は一部の取り込みについても,件数だけでなく,創作性のある部分が共通するかを比較する。
個別の事実を公的資料から独自に収集した可能性と,自サイトの構成を取り込んだ可能性を分けて調べる必要がある。
3 権利者と許諾の範囲
自サイトに掲載した文章や画像でも,外部執筆者,撮影者又は資料提供者が権利を有する場合がある。
制作契約,著作権譲渡,利用許諾及び職務著作の要件を確認し,自分がどの権利に基づいて請求できるかを特定する。
第三者から転載許諾を得て自サイトに掲載した資料について,他サイトへの再許諾までできるとは限らない。
AIを用いて作成した文章も,「AI作成」という表示だけで,サイト運営者に著作権があるとも,ないとも決まらない。
人による創作的な関与の内容と,取り込まれた文章に保護される表現があるかを検討する必要がある。
権利帰属が不明なまま,サイト内の全ての文章・資料について自分が権利者であると申し立てない。
第3 利用の方法ごとに判断する
1 リンクと転載は別である
自サイトの記事へリンクすることと,記事本文・画像を相手のサーバーに複製して表示することは異なる。
リンク先,リンクに添えられた文章,サムネイル,埋込みの仕組み及び実際の配信元を確認する。
「リンクがあるから適法」「リンクだけだからどのような表示も問題ない」という両方向の決めつけを避ける。
文章の複製,公衆送信又は翻案が問題になる場面では,同法21条,23条及び27条の権利と,利用された表現・方法を対応させる。
見た目が似ているという印象だけでなく,共通する記述,順序,特徴的な言い回し及び元資料との違いを比較することが重要である。
リンク及びSNSの埋込みの詳しい検討は,ウェブ上のリンク・YouTube・X埋込みと著作権を参照されたい。
2 出典表示だけでは引用にならない
同法32条1項による引用は,公表された著作物について,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究等の引用の目的上正当な範囲内で行われる必要がある。
出典を表示したかに加え,何を説明・批評するために,どの部分を,どの量と方法で利用しているかを検討する。
出典リンクを付けて本文を広く転載し,元記事の閲覧を代替する構成である場合も,リンクの存在だけで引用の要件を満たすと扱わない。
同法48条の出所明示と,19条の氏名表示権その他の著作者人格権も区別する。
引用の要件を満たすか,必要な出所が明示されているか,著作者名がどう表示されているかは,関係する別の問題である。
権利制限規定が適用されても,著作者人格権への影響を当然に消すものではない(同法50条)。
3 AI要約・学習・検索用取得を一括しない
AIを使って短く言い換えた場合でも,元の創作的な表現を利用しているか,事実だけを抽出して独自に説明したものかを具体的に比較する。
元記事を読んだという事情や内容の類似だけで,表現の複製・翻案を直ちに認定することはできない。
反対に,AIによる処理を挟んだことだけで,転載・翻案に関する検討が不要になるわけでもない。
取得,学習,検索時の処理及び回答画面への表示は別の行為である。
同法30条の4は非享受目的の利用について,47条の5は情報処理に付随する軽微利用等について,要件と権利者の利益を不当に害する場合の除外を定めている。
「AIの利用だから全て30条の4で許される」「検索結果だから量を問わず47条の5で許される」とは判断できない。
相手サービスの表示画面だけでは,学習用データに使ったか,検索時に取得したか,別の資料から生成したかを確認できない場合がある。
確認できる出力と,未確認の内部処理を分けて記録する。
判例データの利用については,判例データベースを法律事務所の生成AI・RAGに使えるかで,判決本文・民間の要旨・利用規約を区別している。
第4 連絡する前に保存する証拠
1 両サイトの同じ時点・版を保存する
まず,自サイトと相手サイトの対象URL,ページ全体,問題となる箇所,取得日時及び取得方法を保存する。
画面のスクリーンショットだけでなく,取得できる範囲でHTML,画像ファイル,PDF及び表示された出典・リンクも保存し,問題箇所の前後関係が分かるようにする。
ログインの有無,地域,端末又は表示条件によって内容が異なる場合は,その条件も記録する。
自サイトについては,公開日だけでなく,編集履歴,元原稿,入稿データ,制作契約,取材・資料取得の記録及び問題となる版の更新日時を保存する。
公開ページの日時表示だけで,自分が先に創作したこと又は相手が自サイトに依拠したことの全てを証明できると考えない。
ファイルのハッシュ値は,同じファイルかを確認する補助となるが,そのファイルがいつ公開されていたかや内容が真実であることまで証明するものではない。
2 対照表と運営主体の確認
対照表には,①自サイトの表現,②相手サイトの表現,③共通する公的資料・事実,④独自の表現と考える部分,⑤相手の出典表示,⑥利用範囲を並べる。
同じ事実を記載している部分と,同じ創作的な文章を利用している部分を分けることで,請求の対象を過度に広げることを防げる。
相手の公開日が確認できない場合や,元資料からの独自作成を排除できない場合は,未確認事項として残す。
運営会社・運営者,問い合わせ先,利用規約,配信サービス及び権利侵害申告の窓口も確認する。
公開情報で分からない場合は,必要な手続を検討するのであって,氏名や住所を推測して相手と断定しない。
削除・書換えによる証拠の消失が懸念される場合は,任意保存で足りるか,裁判上の証拠保全等が必要かを,証拠と急迫性に応じて検討する。
第5 流入減少の原因と損害を分けて立証する
1 競合登場後の減少だけでは原因が決まらない
相手サイトの公開後にアクセスが減っても,その時系列だけで原因は確定しない。
Googleの検索流入減少の調査案内は,順位変更,技術上の問題,季節性・検索需要の変化及び計測上の問題等を確認対象としている。
第三者利用がなかった場合の流入を直接観測できないことを踏まえ,比較期間と代替原因を記録する必要がある。
実務上は,利用された記事群と利用されていない記事群を分け,検索語,端末,期間及び検索表示の種類ごとに,表示回数,クリック数,クリック率及び平均掲載順位を比較する方法がある。
記事改訂,URL変更,人事異動やニュースによる需要の変化,サイト障害及びGoogleの更新が同じ時期にないかも確認する。
比較する記事群の違いも影響するため,この方法だけで厳密な因果関係が証明されたと扱わない。
2 引用・評価・訪問・受任は別の指標である
他サイトに出典リンクがあること,記事への評価が高まること,読者がリンクをクリックすること,相談又は受任につながることは別の段階である。
相手サイト内で必要な情報が得られれば,リンクをクリックしない利用者もいる。
紹介による流入増加と,閲覧の代替による減少の双方を観測する必要がある。
GA4等の参照元データ,Search Consoleの検索データ,サーバーログ,問い合わせ記録及び売上・費用の資料は,それぞれ確認できる範囲を分けて保存する。
参照元が記録されない訪問もあり,集計方式の異なる表示回数とセッション数を同じものとして比較しない。
アクセス減少率を,そのまま売上又は利益の減少率に置き換えない。
3 差止めと損害賠償で必要な検討は異なる
著作権法112条は,権利侵害又はそのおそれに対する停止・予防の請求を定めている。
この請求は,損害額を計算できた場合にだけ検討できるものではない。
他方,金銭請求では,権利侵害,故意・過失,損害及び因果関係を,請求の根拠に応じて整理する必要がある。
同法114条2項には侵害者が得た利益による損害額の推定,3項には権利行使につき受けるべき金銭相当額の請求がある。
自サイトが無料で公開されているという事情だけで,使用料相当額の検討を終えることはできない。
利用量・期間・用途,既存の許諾契約や料金,比較できる取引条件等を確認し,相手企業全体の利益を対象行為の利益と同一視しない。
同法114条の5による相当な損害額の認定も,損害が生じたことが認められ,額の立証に必要な事実の立証がその性質上極めて困難である場合の規定である。
権利侵害や損害発生の確認を省略し,裁判所がアクセス減少率から自由に賠償額を決める制度ではない。
第6 権利侵害が明確でない場合の検討
1 収集の労力だけを独占権に置き換えない
最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決(平成21年(受)第602号,同第603号)は,著作権法6条の保護を受けない北朝鮮映画の放送を扱った事件である。
同条各号の著作物に該当しない著作物の利用について,著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害等の特段の事情がない限り,不法行為を構成しないとした。
同事件の具体的な放送態様についても,自由競争の範囲を逸脱する営業妨害とは認めなかった(判決7頁~8頁)。
この判決は,ウェブサイトの転載又は事実データの取得を直接判断したものではない。
しかし,収集に時間・費用を投じたこと,競合相手が利用したこと,又は流入が減ったことだけで,一般不法行為が当然に成立するとする説明は適切でない。
著作権侵害が明確でない場合には,具体的な利用態様と,著作権による独占とは別に保護される利益を検討する必要がある。
2 契約・不正競争・アクセス方法を別に確認する
利用規約の違反を主張する場合には,相手との契約成立,当時の規約,対象行為及び合意内容を確認する。
サイトに規約を掲示しただけで,全ての閲覧者にあらゆる禁止事項が契約上当然に及ぶと決めない。
一般公開された情報と,アクセスを限定して提供した情報,営業秘密又は限定提供データ等も,それぞれの要件に従って区別する。
大量取得による負荷,認証やアクセス制限の回避,虚偽表示,個人情報の再公開等がある場合は,著作権と別の問題が生じ得る。
これらは,ログ,提供条件,技術的な仕組み及び実際の被害を確認した上で,個別に調査する事項である。
通常の競合サイトの登場と,違法な取得・利用を同一視しない。
第7 求める対応を決め,限定して連絡する
1 訂正・表示改善・許諾・削除の選択
目的が誤記の訂正なら訂正箇所を,出所の混同の解消なら表示方法を,継続利用の条件設定なら対象範囲・期間・対価・改訂対応を,侵害の停止なら削除又は利用停止の範囲を具体化する。
事実データの出典表示をお願いすることと,法律上の出所明示義務を主張することも分ける。
任意の出典表示・リンク設定は協議事項となり得るが,単なる事実の利用全てに法律上の表示義務があるとはいえない。
許諾を検討する場合は,全文又は一部の転載,要約,画像利用,検索用の蓄積,AI処理,再提供及び第三者への再許諾を分けて定める。
掲載場所,更新時の追随,誤情報の訂正,終了時の削除,対価及び履行確認の方法も明確にする。
許諾できる権利を自分が有していることが前提である。
2 最初の連絡に記載する内容
①対象となる両サイトのURL及び確認日時
②自分が権利を有すると考える具体的な文章・画像・構成
③問題とする相手の利用箇所と方法
④許諾の有無,引用等について確認した内容と未確認事項
⑤求める対応,その理由及び合理的な回答期限
⑥担当窓口と,対応後の確認方法
断定できない点は,照会又は協議事項として記載する。
自分が権利を有しない公的資料まで削除対象に含めたり,確認していない悪意や内部処理を非難したりしない。
相手への連絡や検索サービスへの申告の前に,対象と根拠を再点検し,送付内容及び返信を保存する。
3 運営者への請求と検索結果の対応
相手サイトの運営者による削除と,検索サービスからの検索結果の削除は異なる。
検索結果から表示されなくても,元ページの公開が続いている場合がある。
プラットフォームの申告手続を利用するときは,対象サービスの現行の窓口・条件を確認し,権利者,対象URL及び侵害箇所を正確に示す。
Googleの正規URL指定の案内は,重複・類似ページについて検索上の正規URLを整理する仕組みを説明するものである。
canonicalの設定は著作権の帰属を裁判する制度ではなく,相手サイトが元サイトを正規URLとして指定するかも自分だけでは決められない。
著作権の申告,元ページの削除,正規URLの整理及び検索順位の回復を,一つの措置で必ず実現できると説明しない。
第8 弁護士への相談時にそろえる資料
①自サイトの原稿・更新履歴と,相手サイトの保存画面・HTML等
②権利帰属又は許諾を確認できる制作契約・資料利用契約等
③保護される表現と共通する事実を分けた対照表
④発見から連絡・返信までの時系列と,現在も続く利用の範囲
⑤検索・訪問・問い合わせ・収益の推移と,同時期の別の変化
⑥希望する解決,急ぐ理由,継続利用を認め得る条件及び費用面の制約
この段階では,確認済みの事実,相手の説明,こちらの推測及び未確認事項を別欄にする。
権利や損害に不確実な点が残っていても,資料を持ち寄ることで,先に保存すべき証拠,調べるべき事項及び交渉・保全・訴訟の優先順位を具体化できる。
第9 関連記事
①ウェブ上のリンク・YouTube・X埋込みと著作権―リツイート最高裁判決を含む(AI作成)
②判例データベースを法律事務所の生成AI・RAGに使えるか―判決本文・判例要旨・利用規約の分け方(AI作成)
③法律事務所のLLMO・GEO対策-Google公式見解,効果測定,弁護士広告及び外注先管理(AI作成)
④山中弁護士がAI作成又はAIリライトの記事を投稿するときに行っているハルシネーション防止方法(AI作成)
第10 出典と調査範囲
①e-Gov法令検索・著作権法(定義,編集物・データベース,権利の目的とならない著作物,複製・公衆送信・翻案,引用・出所明示,権利制限,差止め及び損害額の規定を確認)
②文化庁「他人の著作物を利用したい場合など」(著作物・保護対象・権利制限・許諾の確認順序)
③最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決(平成21年(受)第602号,同第603号。全9頁,特に7頁~8頁)
④Google Search Central「Debugging drops in Google Search traffic」
⑤Google Search Central「How to specify a canonical URL」
本記事では,特定サイトによる転載,データベースの取り込み又は学習利用の事実を認定していない。
判例秘書による網羅的な裁判例検索,特定サービスの内部処理の確認及び実際のアクセス解析は行っていない。
個別データベースの創作性,一般不法行為・不正競争の要件,海外運営者に対する手続及びAI処理への権利制限の適用は,対象資料と利用態様をそろえて別途調査する必要がある。