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登記申請を受任した司法書士の注意義務―委任範囲・疑念の程度・第三者の正当な期待と最高裁令和2年3月6日判決(AI作成)

登記申請を受任した司法書士の注意義務は、登記書類を形式的に確認することだけで常に尽きるわけではありません。他方、取引に関係したというだけで、前件取引の本人性を全面的に調査し、代金決済の中止まで勧告する義務が当然に生じるわけでもありません。
最高裁令和2年3月6日第二小法廷判決は、委任契約の内容、取引への関与、疑いの程度、依頼者又は第三者の知識経験、他の資格者代理人・仲介業者の関与等を総合考慮する枠組みを示しました。

第1 結論と判決の射程

この判決から実務上導けるのは、「司法書士は必ず前件申請まで調査すべきである」又は「具体的委任がなければ何もしなくてよい」という一律の結論ではありません。誰との関係で、どの役割が正当に期待され、どの疑念を認識し、どの措置を合理的に取り得たかを事実ごとに分ける必要があります。

最高裁は原審を破棄して差し戻しており、司法書士に注意義務違反がないことを最終確定したものではありません。本記事は、最高裁が示した判断枠組みと、受任・取引記録への落とし込みを扱います。

第2 最高裁令和2年3月6日判決の事案

1 三つの売買と連件申請

所有名義人Aから合同会社、合同会社から被上告人、被上告人から別会社へ、不動産の売買契約が順次締結されました。後二つの売買に係る所有権移転は中間省略登記の方法により処理され、前件申請と後件申請は連件申請とされました。

前件申請は弁護士が受任し、上告人である司法書士は、合同会社と最終買主から約13万円の報酬で後件申請を受任しました。司法書士が受任した時点で、一連の売買契約と前件・後件登記の内容等は既に決定されていました。

2 司法書士が認識した問題点

書類確認等の会合で、所有名義人Aと称する者が述べた生年と、あらかじめ提示されていた印鑑証明書の生年が食い違いました。別の印鑑証明書が示されましたが、コピーに「複製」の文字が確認できないという問題もありました。

一方、前件申請については弁護士が受任し、委任状には公証人による本人確認に関する認証が付されていました。被上告人は不動産業者で、その代表者と仲介業者等も会合に出席し、問題点を確認していました。後に印鑑証明書の偽造が判明し、後件申請は取り下げられ、前件申請は却下されました。

3 原審の判断

原審は、司法書士が前件申請についてさらに調査し、後件登記が実現しない危険を警告し、代金決済の中止等を勧告すべき注意義務を負っていたとして、3億2400万円等の支払を認めました。

最高裁は、被上告人との関係で司法書士に正当に期待された役割の内容や関与の程度等を十分に審理せず、直ちに注意義務違反を認めた点を違法として、原判決の司法書士敗訴部分を破棄しました。

第3 委任者に対する注意義務

最高裁は、登記申請の委任を受けた司法書士は、委任者との関係で、登記申請に用いる書面相互の整合性を形式的に確認する義務だけを負うものではないとしました。

確認の過程で、その申請が申請人となるべき者以外による申請であること等を疑うべき相当な事由がある場合には、注意喚起を始めとする適切な措置を取る義務を負うことがあります。

ただし、その措置の要否・合理的な範囲・程度は委任契約の内容に従って定まり、委任の経緯、取引への関与、委任者の知識経験、他の資格者代理人・仲介業者等の関与、疑いの程度、関係者の認識と言動を総合考慮します。

第4 委任者でない第三者に対する注意義務

第三者との関係では、委任者に対する義務と同じ判断をそのまま当てはめることはできません。

もっとも、第三者が登記に係る権利の得喪・移転について重要かつ客観的な利害を持ち、そのことを司法書士が認識でき、さらに第三者が司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を持つ場合には、司法書士が第三者に対しても適切な措置を取る義務を負い、不法行為責任を問われることがあります。

第三者に対する義務では、特に、疑いの程度、第三者の不動産取引に関する知識経験、第三者の利益を保護する他の資格者代理人・仲介業者等の関与を十分に検討し、司法書士の役割と関与に応じて判断します。

第5 注意義務の範囲を決める事情

確認項目具体的に確認する資料・事実
委任契約委任状、見積書、受任時メール、具体的指示、報酬、調査対象
取引への関与取引設計への参加時期、契約交渉、会合出席、決済への関与
疑念の内容本人確認資料の不一致、書面の外観、説明の変遷、警告兆候
依頼者・第三者の属性不動産業者か、取引経験、担当者の専門性、自ら確認した事項
他の専門家等前件・後件を担当する弁護士・司法書士、仲介業者、公証人の役割
期待と伝達誰が司法書士に何を期待し、その期待を司法書士が認識できたか
可能な措置注意喚起、追加資料要求、担当専門家への照会、決済延期の提案、辞任

これらを一括して「司法書士は専門家だから責任を負う」「依頼者でないから責任を負わない」と処理せず、義務の相手方と内容ごとに評価します。

第6 破棄差戻しを「責任なし」と読まない

最高裁は、司法書士が問題点を認識し、相応の疑いを有していたと考えられることも指摘しています。他方で、前件申請の調査について具体的委任を受けていなかったこと、前件を弁護士が受任し公証人認証付き委任状があったこと、被上告人が不動産業者で仲介業者等と問題点を確認していたことも重視しました。

したがって、判決は注意義務の存在を全面否定したのではなく、注意義務の相手方、正当に期待された役割、関与の程度等をさらに審理すべきだとしたものです。破棄差戻しという結論から「司法書士は責任を負わない」という一般命題を導くことはできません。

また、最高裁判決には草野耕一裁判官の意見があります。多数意見と結論は同じですが、委任者でない者に対する職業的専門家の義務について独自の整理を示しているため、多数意見の一般論と区別して読む必要があります。

第7 取引実務のチェックポイント

1 受任範囲と役割分担を記録する

連件申請や複数専門家が関与する取引では、前件・後件の各申請、本人確認、権限確認、契約内容確認、決済条件確認を誰が担当するかを受任時に書面化します。担当外とする事項も、問題発見時の連絡先・連絡方法まで定めます。

報酬額の小ささだけで義務範囲が決まるわけではありません。報酬、具体的指示、取引設計への関与、会合での言動その他の事情を合わせて、実際の受任内容を記録します。

2 疑念を発見した後の対応を記録する

書類の不一致等を認識した場合は、発見日時、対象資料、説明した相手、回答、追加確認、決済・申請への影響判断を記録します。口頭で指摘しただけで終わらせず、誰が何を確認することになったかを明確にします。

直ちに全面調査や辞任が必要になるとは限りませんが、疑いが解消していないのに役割分担が曖昧なまま決済へ進むことは危険です。照会、追加資料、専門家間の確認、依頼者への説明、決済延期の提案等から、疑いと受任範囲に応じた措置を選びます。

3 責任論では要件を分ける

損害賠償を検討するときは、①誰に対するどの注意義務があったか、②どの行為・不作為が違反となるか、③適切な措置が取られていれば決済・損害を回避できたか、④損害額、⑤被害者側の知識・関与等を分けます。

本人確認資料に不一致があったという事実は重要ですが、それだけで義務の範囲、違反、因果関係及び損害額がすべて確定するわけではありません。

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第9 出典・確認状況

最高裁令和2年3月6日第二小法廷判決・平成31年(受)第6号・民集74巻3号149頁及び判決全文PDF。裁判所ウェブサイト掲載の裁判例結果詳細と判決全文で確認しました。

司法書士法1条から3条まで、不動産登記法1条、民法709条。現行条文はe-Gov法令検索で確認しました。最高裁判決が引用した司法書士法1条は判決当時の条文であり、現行1条は司法書士の使命を定めています。

本判決は裁判所ウェブサイトで全文を確認できるため、判例秘書を一次的な裏付けには用いていません。差戻審の最終結論は本記事の射程に含めていません。