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有責配偶者からの離婚請求―別居期間は何年なら認められるのか,最高裁平成2年11月8日判決から考える(AI作成)

不貞行為や一方的な別居等によって婚姻関係の破綻について主として責任を負う配偶者から離婚を請求する場合,「別居が何年続けば離婚できるか」という質問を受けることが多い。しかし,最高裁判例は,別居期間だけで自動的に結論を出す年数基準を採用していない。

最高裁昭和62年9月2日大法廷判決が示した枠組みを前提に,最高裁平成2年11月8日判決は,原審が約8年の別居期間を短いとした判断を破棄し,口頭弁論終結時の事情を十分に審理すべきであるとした。重要なのは,別居年数,夫婦の年齢・同居期間,未成熟子の有無,離婚後の生活の苛酷性及び離婚請求者が行ってきた経済的配慮等を総合することである。

第1 昭和62年大法廷判決の基本枠組み

最高裁大法廷昭和62年9月2日判決・昭和61年(オ)第260号は,有責配偶者からの離婚請求であっても,夫婦が相当の長期間別居し,その間に未成熟の子が存在せず,相手方配偶者が離婚によって精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等の著しく社会正義に反する特段の事情がないときは,請求を認容し得るとした。

「相当の長期間」は固定された年数ではない。夫婦の年齢,同居期間,別居に至った経緯,別居後の交流及び生活関係等と比較して評価される。未成熟子がいるか否かも重要であるが,それだけが独立した機械的要件ではなく,子の監護・生活の実情を含む全体事情の中で検討される。

第2 最高裁平成2年11月8日判決

最高裁第一小法廷平成2年11月8日判決・平成元年(オ)第1039号は,有責配偶者である夫からの離婚請求について,原審が,別居期間約8年は同居期間及び当事者の年齢との対比で短く,請求は許されないと判断した事案である。

最高裁は,別居期間が約8年に及んでいること等を踏まえ,別居期間だけを形式的に比較して請求を排斥するのではなく,原審口頭弁論終結時における諸事情を審理判断すべきであるとした。そして,離婚により相手方配偶者が精神的,社会的又は経済的に極めて苛酷な状態に置かれるか等の点について審理が尽くされていないとして,原判決を破棄し,事件を原審へ差し戻した。

この判決は,「別居8年なら必ず離婚が認められる」としたものではない。最高裁は離婚を自判で認容せず,総合判断に必要な事実の審理が不足しているとしたのである。

第3 別居年数だけでは決まらない

別居期間は重要な事情であるが,開始日と年数を数えるだけでは足りない。次の事情を同じ時間軸に並べる必要がある。

① 婚姻日,同居期間及び実質的に共同生活が失われた時期
② 別居開始の経緯,別居を継続させた事情及び修復に向けた協議
③ 当事者の年齢,健康状態,就労能力及び収入
④ 未成熟子の年齢,監護状況,教育費及び親子交流
⑤ 別居中の婚姻費用,住居費,医療費,学費等の負担状況
⑥ 離婚後の住居,生活費,年金,財産分与及び慰謝料の見通し
⑦ 離婚を求める側が提示した給付と履行可能性
⑧ 相手方が離婚を拒む理由と現在の生活実態

同じ8年の別居でも,短期間の同居後に双方が自立して生活している事案と,長年専業で家計を支えた高齢の配偶者が生活基盤を失う事案とでは,評価が異なり得る。

第4 判断の基準時は現在に近い

平成2年判決が重視したのは,原審口頭弁論終結時の事情である。提訴時に離婚請求が認められにくい状態であっても,審理中に別居期間が伸び,子が成長し,生活費の支払いや財産給付の提案が変化することがある。他方,病気,失職,介護又は住居喪失によって,相手方の不利益が深刻化することもある。

したがって,訴状提出時に作成した事情一覧を固定せず,期日ごとに更新する。口頭弁論終結前には,収入資料,婚姻費用の支払履歴,子の進学状況,健康資料,住居資料,年金見込額及び具体的な給付提案を再確認する必要がある。

第5 離婚請求者側の主張立証

離婚請求者側は,婚姻関係が長期間にわたり実体を失っていることだけでなく,相手方と子の生活に対してどのような配慮をしてきたかを具体的に示す必要がある。

婚姻費用の支払については,合計額だけでなく,支払日,金額,対象期間及び不足・遅滞の有無を一覧にする。住居を提供している場合は,所有・賃貸関係,ローン又は賃料,離婚後も居住を継続できるかを明らかにする。

財産給付の提案は,抽象的な「相応の解決金」では不十分である。金額,支払時期,担保,財産分与・慰謝料・養育費との関係,税務上の取扱い及び現実の履行可能性を示すべきである。

第6 相手方配偶者側の主張立証

相手方配偶者側は,有責性を指摘するだけでなく,離婚が現在の生活にどのような具体的影響を与えるかを立証する。年齢,健康,就労歴,収入,住居,介護,年金,保険,扶養家族及び財産の状況を資料化する。

「離婚したくない」という意思は重要であるが,苛酷性の判断では,離婚により失う生活保障,代替手段の有無,離婚請求者からの給付の不足及びこれまでの別居生活の実態を具体的に示す必要がある。

未成熟子がいる場合は,子の年齢だけでなく,監護者,教育・療育・医療の必要,親子関係,養育費の履行状況及び離婚が生活に与える影響を整理する。

第7 有責性と財産・生活保障を混同しない

有責配偶者であるという評価と,財産分与,慰謝料,婚姻費用及び養育費の額は,相互に関連しつつも同じ問題ではない。離婚請求を認めるかという判断の中で経済的苛酷性が考慮される一方,各金銭請求にはそれぞれの根拠と算定資料が必要である。

財産分与の対象,基準時,評価時及び特有財産を整理せずに,解決金だけを先行させると,生活保障が十分かを判断できない。離婚訴訟の進行と財産資料の準備については,離婚訴訟の標準審理モデル―財産分与を含む事件を長期化させない準備(AI作成)も参照されたい。

第8 受任時のチェックリスト

① 婚姻,同居,別居,調停及び訴訟の時系列を月単位で作成する。
② 破綻原因に関する双方の主張と裏付け資料を分ける。
③ 婚姻費用,養育費,住居費等の支払履歴を通帳等で確認する。
④ 子の年齢,監護,学費,健康及び親子交流を確認する。
⑤ 双方の収入,資産,負債,年金,健康及び住居を確認する。
⑥ 離婚後の生活設計と具体的な財産給付案を作成する。
⑦ 口頭弁論終結時まで事情の変化を更新する。
⑧ 年数だけを根拠とする断定的な見通し説明を避ける。

第9 現行民法との関係

離婚訴訟では,民法770条の裁判上の離婚原因を前提に,信義則上,有責配偶者からの請求を認めることができるかが問題となる。判例上の枠組みは,条文に「別居○年」と記載された制度ではない。

個別事件では,現行民法,家族法改正の施行時期,調停前置,財産分与及び子に関する手続を確認する必要がある。過去の判例を用いる場合も,判決当時の法令と現在の法令を区別する。

第10 出典及び確認状況

① 最高裁大法廷昭和62年9月2日判決・昭和61年(オ)第260号:裁判所公式判決全文を確認した。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/213/055213_hanrei.pdf

② 最高裁第一小法廷平成2年11月8日判決・平成元年(オ)第1039号:裁判所公式判決全文を確認した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-76103.pdf

③ 民法770条:令和8年10月1日時点のe-Gov法令検索を確認した。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

④ 裁判所「夫婦関係や男女関係に関する調停」:離婚調停等の公式案内を確認した。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/fuufu/index.html

⑤ 「最高裁民事破棄判決等の実情―平成二年度―」:年度内判決の位置付けを確認するために用いた二次資料である。

判例秘書では,令和8年10月1日時点で上記各判決本文を照合していない。裁判所公表全文及び現行法令は確認済みである。個別事件では,口頭弁論終結時までの事情変化を含め,判例の要件を機械的な年数基準に置き換えず検討すべきである。