第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,国や自治体から補助金・助成金を受けて設備を購入し,又は施設を整備した会社が破産した場合に,交付した側の返還請求がどの債権区分になるか,破産管財人が補助対象の財産を売るときに何を確認すべきかを整理する。
法令は,令和8年9月29日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認した。
裁判例は,最高裁判所の判決と東京地方裁判所平成12年3月23日判決を裁判所ウェブサイトの判決全文で確認し,裁判所ウェブサイトに掲載されていない裁判例は判例秘書で判決本文を確認した。
2 結論
①国が直接交付した補助金等の返還金は,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)21条1項により国税滞納処分の例で徴収できるので,破産法上の「租税等の請求権」として扱われ,破産手続開始前の原因によるもので納期限から1年以内のものは財団債権となる。
②交付決定の取消しが破産手続開始の後でも,取消しの原因が開始前に大部分そろっていれば,開始前の原因に基づく請求権として財団債権になり得る(名古屋高等裁判所平成5年2月23日判決)。
③国の補助金を財源として自治体や事務局が交付する間接補助金や,自治体が独自の要綱で交付する補助金には,補助金適正化法21条1項が適用されず,返還請求権は原則として一般の破産債権となる。
④補助対象の財産を処分するには交付した側の承認が要り,承認に補助金相当額の納付を条件とすることができる。
担保権の実行で施設が使えなくなる場合についても,最高裁判所令和3年3月2日判決は,改めて承認を得る必要があるとし,納付を条件とした承認を適法とした。
⑤ただし,承認の条件として納付を約束した金額が,破産手続で財団債権として優先されるかは別の問題であり,同判決も判断していない。
第2 補助金をめぐる三つの請求
1 交付決定の取消しによる返還
補助金適正化法17条1項は,補助事業者等が「補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」と定める。
取り消した場合,既に交付された補助金は,期限を定めて返還が命じられる(同法18条1項)。
返還を命じられた補助金には,受領の日から納付の日までの日数に応じて年10.95パーセントの加算金が付き(同法19条1項),納期日までに納付しなければ年10.95パーセントの延滞金が付く(同条2項)。
2 財産の処分の承認と納付の条件
補助金適正化法22条は,補助事業者等が補助事業等により取得した政令で定める財産を,「各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。」と定める。
また,交付決定には条件を付すことができ(同法7条1項・3項),補助事業の完了により相当の収益が生ずると認められる場合には,交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を付すこともできる(同条2項)。
実務では,財産の処分を承認する際に,処分代金のうち補助金相当額の納付を条件とする例がある。
交付決定の取消しによる返還金と区別して,この条件に基づく納付金を「返納金」と呼ぶことがある。
3 間接補助金
補助金適正化法2条4項1号は,「国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」を「間接補助金等」と定義している。
国の補助金を財源に,県や市,国が公募した事務局などが事業者に交付するものがこれに当たる。
第3 国の補助金の返還金が財団債権になる仕組み
1 補助金適正化法21条
補助金適正化法21条1項は,「各省各庁の長が返還を命じた補助金等又はこれに係る加算金若しくは延滞金は、国税滞納処分の例により、徴収することができる。」と定め,同条2項は,その先取特権の順位を「国税及び地方税に次ぐものとする。」と定める。
2 破産法上の区分
破産法97条4号は,「国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」を「租税等の請求権」と定義している。
国税徴収法2条5号は,「滞納処分の例により徴収することができる債権のうち国税(その滞納処分費を含む。以下同じ。)及び地方税以外のもの」を「公課」としており,国税庁の国税徴収法基本通達(第2条関係9)は,「国税滞納処分の例による」旨の規定がある債権もこれに当たるとしている。
このため,補助金適正化法21条1項が適用される返還金・加算金・延滞金は,租税等の請求権として扱われる。
そのうち,破産手続開始前の原因に基づいて生じ,開始時に納期限が到来していないもの又は納期限から1年を経過していないものは財団債権(破産法148条1項3号)となり,それ以外は優先的破産債権となる。
3 独立行政法人の助成金
独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条は,同法15条1項6号及び2項3号により機構が交付する助成金について,補助金適正化法の規定(罰則を含む。)を準用すると定めている。
このように,国以外の法人が交付するものでも,個別の法律で補助金適正化法が準用されている場合は,返還金が租税等の請求権になり得る。
交付元が独立行政法人や公益法人であるときは,その法人の設立根拠法に準用規定があるかを確かめる必要がある。
第4 「破産手続開始前の原因」の判断―名古屋高裁平成5年判決
1 事案
名古屋高等裁判所平成5年2月23日判決(平成4年(ネ)第268号,判例秘書の判例番号 L04820037)は,社会福祉法人が国の補助金等の交付を受けて園舎を整備し,承認を受けずに担保に供するなどして交付の条件に違反した後に破産宣告を受け,その直後に国が交付決定を取り消して返還を命じた事案である。
国は,補助金適正化法21条1項により国税滞納処分の例によって徴収できる請求権であるとして,破産管財人に交付要求をした。
破産管財人は,返還請求権は破産宣告後の原因に基づくものであるとして,財団債権であることを争った。
2 判断
同判決は,破産宣告前の原因に基づいて生じた債権であるというためには,「請求権自体が破産宣告の当時既に成立していることを要せず、その債権発生の基本となる法律関係が破産宣告前に生じていればよく、債権の成立に必要な事実の大部分が破産宣告前に具備されていれば足りる(一部具備説)ものと解される。」とした。
そのうえで,交付決定の取消権は,条件違反があるだけで直ちに行使できるものではなく,補助目的達成の可否を補助関係の全過程を通じて総合的に判定し,補助金等交付の目的の達成が困難となった時点で初めて行使すべきものとした。
本件では,破産宣告の直前には補助目的が達成される可能性はほとんどなくなっていたから,遅くともその段階で返還請求権の成立に必要な事実の大部分が生じていたとして,返還請求権を財団債権と確認した。
3 実務での読み方
交付決定の取消しや返還命令が破産手続開始の後に出されても,それだけで開始後の原因による請求権になるわけではない。
取消しの原因(無断の売却・担保設定,事業の中止など)がいつ生じ,補助目的の達成がいつ困難になったかを,開始の日と比べて判断する。
開始前に原因がそろっていれば,開始後の取消しでも財団債権(又は優先的破産債権)になり得る。
第5 補助金適正化法21条が適用されない補助金
1 間接補助金
補助金適正化法21条1項が国税滞納処分の例による徴収を認めているのは,「各省各庁の長が返還を命じた補助金等」である。
「補助金等」は,国が国以外の者に対して交付するものと定義されている(同法2条1項)。
これに対し,間接補助金等(同条4項)の返還は,国ではなく交付した県・市や事務局が求めるものであり,同法21条1項の文言には当たらない。
そのため,事務局や自治体が交付した間接補助金の返還請求権は,別の法律に国税滞納処分の例による旨の定めがない限り,租税等の請求権には当たらないと考えられる。
2 自治体が独自の要綱で交付する補助金
自治体が法律や条例の委任によらず,要綱だけに基づいて交付する補助金について,裁判例は,交付決定を行政処分ではないとしている。
①東京地方裁判所平成12年3月23日判決(平成9年(行ウ)第158号,裁判所HP掲載)は,非権力的な給付行政の分野における補助金の支給関係は,申請者の申込みに対する行政庁の承諾によって成立する契約関係であるのが原則であり,法律や条例の委任がなく,内部の規則だけで交付決定に処分性を与えることはできないとした。
②名古屋地方裁判所昭和59年12月26日判決(昭和52年(行ウ)第23号,判例秘書の判例番号 L03950750)は,知事及び市長の補助金交付決定が,地方自治法242条の2第1項2号の「行政処分」に当たらないとした。
③浦和地方裁判所平成5年10月18日判決(平成2年(行ウ)第15号,判例秘書の判例番号 L04850557)も,市長の市商工会議所に対する補助金交付決定が同号の行政処分に当たらないとした。
いずれも住民訴訟で交付決定の取消しを求めることができるかを判断したもので,破産手続での扱いを直接判断したものではない。
しかし,地方自治法231条の3第3項が地方税の滞納処分の例による処分を認めているのは,「分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入」に限られる。
要綱に基づく補助金の返還請求権に,滞納処分の例による徴収を認める法律の定めがなければ,租税等の請求権ではなく,原則として一般の破産債権になる。
3 交付要綱の文言だけでは決まらない
交付要綱や交付規程に補助金適正化法の定めによる旨が書かれていても,それによって補助金適正化法21条1項が当然に適用されるわけではない。
強制徴収の権限は,法律で定められていなければ認められないからである。
破産管財人が財団債権として交付要求や請求を受けたときは,根拠とされた条文を示してもらい,それが法律又は法律の委任に基づく条例かを確かめる。
第6 破産管財人が補助対象の財産を売るとき
1 処分の承認が要る場面
補助対象の財産を破産管財人が売却する場合,交付した側から,補助金適正化法22条又は交付決定の条件に基づく処分の承認を求められることが多い。
承認に際しては,売却代金のうち補助金相当額の納付を条件とされることがある。
2 最高裁判所令和3年3月2日判決
最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(令和2年(受)第763号,民集75巻3号317頁)は,破産事件ではないが,補助対象の施設が担保権の実行で売却された場合の承認と納付の条件を扱っている。
事案は,国の交付金を財源に県・市を経て株式会社に交付された間接補助金で整備された堆肥化施設に根抵当権が設定され(設定は承認済み),会社の操業停止後に担保不動産競売で売却されたというものである。
国の機関は,競売による売却の前に,県からの「目的外使用(補助事業を中止する場合)」としての処分承認の申請に対し,国庫補助金相当額の納付を条件に承認し,県はこれを納付した。
県は,承認に法令上の根拠がなく納付の条件も無効であるとして,国に不当利得の返還を求め,第1審(宇都宮地方裁判所平成31年3月7日判決(平成28年(ワ)第403号,民集75巻3号383頁,判例秘書の判例番号 L07450282))と原審(東京高等裁判所令和元年12月5日判決(平成31年(ネ)第1777号))は,県の請求を認めた。
原審は,交付決定の条件の下では担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと判断していた。
最高裁判所は,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して県の請求を棄却した。
同判決は,当初の担保権設定の承認の際に,その後に担保権が実行されて補助金の交付の目的に沿った使用ができなくなり,目的外使用の状態に至ることまで承認していたとはうかがわれないから,交付決定の条件により,この目的外使用についても改めて承認を得ることが必要であったとした。
そして,補助金適正化法22条に基づくものとしてされた承認は,同法7条3項による交付決定の条件に基づくものとして適法であり,交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件も無効とはいえないとした。
同判決の補足意見は,担保権設定の承認の際に担保権実行時の補助金相当額の返納を条件として承認することは可能であり,そのような運用をしている行政機関も存在するようであると述べている。
この補足意見によれば,担保権設定の承認がそのような条件を付さずにされた場合,設定の承認が当然に担保権実行の際の目的外使用の承認を含むとまではいえない。
3 同じ施設をめぐる住民訴訟
同じ施設をめぐっては,県が国に納付したことが違法な公金の支出であるとして当時の知事の損害賠償責任を求める住民訴訟も起こされた。
宇都宮地方裁判所平成28年3月23日判決(平成25年(行ウ)第2号,判例秘書の判例番号 L07150155)は,補助金適正化法22条は補助事業者等が主体となってする処分を制限するものであり,担保権者が主体となってする担保権の実行はその枠外にあるなどとして,請求を認容した。
しかし,控訴審の東京高等裁判所平成29年1月26日判決(平成28年(行コ)第162号,判例秘書の判例番号 L07220068)は,知事に過失があったとはいえないとして原判決を取り消し,請求を棄却した。
その後,前記の最高裁判所令和3年3月2日判決が,担保権の実行による目的外使用についても交付決定の条件に基づく承認が必要であり,納付の条件も有効であるとした。
担保権の実行や破産管財人の換価には承認も納付も要らないという主張は,最高裁判決の後は,交付決定の条件の定め方によっては通らないことを前提に対応する必要がある。
4 破産管財人の対応
①交付決定通知書と交付決定に付された条件,交付要綱・交付規程,処分制限期間及び処分の承認の基準の原本を取り寄せる。
②直接補助か間接補助か,交付元は国か自治体・事務局か,補助金適正化法を準用する法律があるかを確かめる。
③処分の承認を求められたら,承認を得ないで処分した場合に交付決定が取り消されて全額の返還を求められるおそれと,納付の条件を受け入れた場合の負担とを比べる。
④納付を条件とする承認に応じる場合も,納付金が破産手続で財団債権として優先されるかは別に検討し,裁判所と協議したうえで記録に残す。
納付金を財団債権とする明文の規定はなく,最高裁判所令和3年3月2日判決も,破産手続での扱いは判断していない。
⑤財団債権として交付要求された場合は,第5の3のとおり,徴収の根拠となる法律の条文を確かめる。
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第8 出典
1 法令
①補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)2条,7条,17条から19条まで,21条及び22条
②破産法(e-Gov法令検索)97条4号,98条1項及び148条1項3号
③国税徴収法(e-Gov法令検索)2条5号
④独立行政法人中小企業基盤整備機構法(e-Gov法令検索)15条及び16条
⑤地方自治法(e-Gov法令検索)231条の3
2 通達
3 裁判例
①最高裁判所第三小法廷令和3年3月2日判決(令和2年(受)第763号,民集75巻3号317頁)
②東京地方裁判所平成12年3月23日判決(平成9年(行ウ)第158号)
③名古屋高等裁判所平成5年2月23日判決(平成4年(ネ)第268号,判例秘書の判例番号 L04820037)
④名古屋地方裁判所昭和59年12月26日判決(昭和52年(行ウ)第23号,判例秘書の判例番号 L03950750)
⑤浦和地方裁判所平成5年10月18日判決(平成2年(行ウ)第15号,判例秘書の判例番号 L04850557)
⑥宇都宮地方裁判所平成28年3月23日判決(平成25年(行ウ)第2号,判例秘書の判例番号 L07150155)
⑦東京高等裁判所平成29年1月26日判決(平成28年(行コ)第162号,判例秘書の判例番号 L07220068)
⑧宇都宮地方裁判所平成31年3月7日判決(平成28年(ワ)第403号,民集75巻3号383頁,判例秘書の判例番号 L07450282)
第9 確認状態
補助金適正化法,破産法,国税徴収法,独立行政法人中小企業基盤整備機構法及び地方自治法の各条は,e-Gov法令検索(法令API)で令和8年9月29日現在の条文を確認した。
最高裁判所令和3年3月2日判決と東京地方裁判所平成12年3月23日判決は,裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した。
名古屋高等裁判所平成5年2月23日判決,名古屋地方裁判所昭和59年12月26日判決,浦和地方裁判所平成5年10月18日判決,宇都宮地方裁判所平成28年3月23日判決,東京高等裁判所平成29年1月26日判決及び宇都宮地方裁判所平成31年3月7日判決は,裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,判例秘書で判決本文を確認した。
間接補助金・自治体の要綱補助金の返還請求権が破産手続で一般の破産債権になるとの整理(第5の1・2)と,破産管財人の対応(第6の4)は,条文と裁判例から本記事が導いたものであり,破産手続での扱いを直接判断した裁判例は確認していない。