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特殊詐欺の受取役が強盗へ変更した場合の指示役の責任―共謀の射程,共犯と錯誤及び刑法38条2項(AI作成)

第1 問題の所在と結論

特殊詐欺の指示役が,被害者から現金をだまし取る計画を立て,受取役を被害者宅へ向かわせたところ,受取役が現場で暴行・脅迫を用いて現金を奪った場合,指示役も強盗の共同正犯になるのかが問題となる。

この問題は,直ちに「詐欺と強盗のどちらが重いか」又は刑法38条2項の錯誤論から始めるべきではない。検討順序は,次のとおりである。

  1. 当初の共謀が,誰から,どの財物を,どの目的・方法で取得する内容だったかを確定する。
  2. 受取役による方法変更が,当初共謀の射程内か,共謀からの逸脱かを判断する。
  3. 射程内と認められる場合に,指示役が認識した犯罪事実と実現した犯罪事実のずれを,刑法38条2項と構成要件の重なり合いの観点から処理する。
  4. 射程外であれば,強盗の結果を当然には帰属させず,それ以前に成立した詐欺未遂,窃盗その他の犯罪を,認識時点ごとに別に検討する。

「同じ被害者から同じ現金を取る計画だった」という事情は重要であるが,それだけで強盗まで共謀したことにはならない。暴行・脅迫への移行を,指示役が認識・容認していたか,従前の指示や利益分配が強盗の実行にも機能していたかを,具体的証拠から認定する必要がある。

第2 刑法上の出発点

刑法60条は,2人以上が共同して犯罪を実行した場合に,すべて正犯とする。共同正犯の成立には,単に結果が客観的に役立ったことだけでなく,特定の犯罪を共同して実行する意思と,それに基づく重要な関与を認定する必要がある。

詐欺罪は人を欺いて財物を交付させる犯罪であり,強盗罪は暴行又は脅迫によって財物を強取する犯罪である。対象財物が同じでも,財物取得の手段・態様が異なる。そのため,電話やメッセージで確認された計画が,欺罔による任意の交付に限定されていたのか,抵抗時には暴力を用いることまで含んでいたのかが中心となる。

第3 最初に共謀の射程を確定する

共謀の射程とは,共犯者間で意思を通じた犯罪計画が,実行者の現実の行為のどこまでを含むかという問題である。結果発生後の一般的な予見可能性だけで決めるのではなく,共謀の内容と形成過程を証拠により確定する。

別の犯罪類型に関する下級審裁判例であるが,福岡地方裁判所判決は,冷水に入れる暴行の共謀があっても,抵抗する被害者の手首を結束バンドで縛る暴行については,方法・程度の違い等を具体的に検討している。この裁判例は特殊詐欺から強盗への変更を直接判断したものではないが,「暴行一般」という抽象語で射程を広げず,合意された方法と現実の方法を比較する必要があることを示す参考になる。

第4 射程を判断する具体的事情

判断事項射程を肯定する方向射程を否定する方向
対象同一被害者,同一場所,同一財物別の被害者・財物へ独自に対象を変更
共同目的指示役の利益を実現するための取得実行者が自己のために独自犯行へ移行
方法の合意抵抗時の威迫・実力行使を予定又は容認詐欺に限定し,暴力を禁止する具体的指示
先行寄与被害者選定,現金準備,住所共有,役割指示が強盗にも利用された方法変更後,従前の寄与との結び付きが切断
現場との連絡抵抗や変更の報告を受け,続行・回収を指示変更を知らず,知った後は中止・離脱を明確にした
利益分配強盗で得た財物を予定どおり分配・回収実行者が隠匿し,指示役に分配しない
変更の程度計画実現のための手段調整の範囲生命・身体への危険を質的に高める独断の変更

利益分配は,共謀の射程を推認する一事情であるが,犯行後に利益を受け取ったという事実だけで,犯行時の意思連絡を当然に認定できるわけではない。受領時に財物の取得方法を知っていたか,事前の合意に基づく分配か,犯行後に新たに生じた関係かを区別する。

第5 共犯と錯誤及び刑法38条2項

刑法38条2項は,重い罪に当たるべき事実を知らなかった者を,その重い罪によって処断しないと定める。判例上,認識した犯罪事実と実現した犯罪事実が異なる場合,両罪の構成要件が重なり合うか,どの限度で故意を認められるかが問題となる。

最高裁昭和54年3月27日決定を引用した東京高裁平成25年8月28日判決は,認識した無許可輸入罪と実現した禁制品輸入罪について,犯罪構成要件が重なり合う限度で,軽い無許可輸入罪の故意と共謀を認めた。この判例群は,異なる罪名なら故意が常に全部否定されるわけでも,重い結果が生じれば重罪の故意が当然に認められるわけでもないことを示す。

もっとも,詐欺と強盗の関係で何罪がどの限度で成立するかは,輸入犯罪の判例を機械的に当てはめて決められない。詐欺と強盗の構成要件,実行行為,既遂時期及び訴因を対比し,認識事実と実現事実が実質的にどこまで重なるかを個別に検討する必要がある。

とりわけ,指示役については,①強盗行為が共謀の射程内かという共同正犯の問題と,②射程内であっても強盗の重い事実をどこまで認識していたかという錯誤の問題を分ける。①を飛ばして②だけを論じると,共謀外の独自犯行まで錯誤論で処理する危険がある。

第6 共謀の射程を否定した場合

方法変更が共謀の射程外である場合,指示役に強盗の共同正犯を認めることはできない。ただし,それまでの行為が無罪になるとは限らない。電話による欺罔が開始していれば詐欺未遂,受取役への情報提供や移動指示が別の犯罪の幇助等に当たる可能性があり,後に強盗で得た財物と知って受領・保管した行為については,犯行後の別罪を検討する余地がある。

反対に,共謀の射程内でも,刑法38条2項により重い罪で処断できないことがあり得る。したがって,「射程外なら錯誤,射程内なら強盗」という二択ではなく,射程,故意,構成要件の重なり合い,既遂・未遂及び犯行後の行為を順番に検討する。

第7 刑事弁護で確認すべき証拠

  • 犯行前のメッセージ,通話録音,グループチャット及び消去データ
  • 被害者,財物,回収場所,役柄,服装,偽造書類に関する具体的指示
  • 被害者が抵抗した場合又は現金交付を拒んだ場合の事前の指示
  • 現場からの報告,方法変更の相談,続行・中止・離脱の指示
  • 指示役が暴行・脅迫を知った時刻と,その後の言動
  • 報酬額,回収経路,分配方法,犯行後の財物処分
  • 実行者が独自に携行した凶器や,ほかの共犯者が知らなかった準備
  • 当初計画に基づく先行行為が,現実の強盗にどの程度利用されたか

第8 判例資料の到達範囲と留保

令和5年司法試験の刑事系公式資料は,共謀の射程を先に検討し,その後に共犯と錯誤を処理するという問題構造を確認する資料として用いた。もっとも,司法試験資料は,特殊詐欺から強盗への方法変更について一般的な判例法理を確定する裁判例ではない。

裁判所ウェブサイトで,抽象的事実の錯誤及び共謀の方法・範囲に関する公表裁判例を確認したが,特殊詐欺の受取役が現場で強盗へ変更した事案に直接一致する上級審裁判例は確認できなかった。裁判所ウェブサイトは全裁判例を収録するものではない。判例秘書についても利用環境を確認できなかったため,直接対応裁判例が存在しないとは述べない。

第9 関連記事

特殊詐欺における実行の着手については,特殊詐欺は現金の交付要求前でも詐欺未遂になるか―最高裁平成30年3月22日判決と実行の着手(AI作成)を参照されたい。

第10 出典