第1 三つの時点を区別する
1 処分に適用する法令の基準時
申請から処分までに法令が改正された場合,申請時と処分時のどちらの法令を適用するかが問題となる。
原則は処分時であるが,経過措置又は個別法の特則があるときはそれに従う。
2 裁判所が処分の違法性を判断する基準時
取消訴訟で裁判所が処分の違法性を判断するときは,原則として処分時に存在した法令及び事実関係を基準とする。
口頭弁論終結時の事情で処分理由を作り直すものではない。
3 処分が効力を生ずる時
処分が成立しても,相手方に告知される前から当然に外部的効力を生ずるとは限らない。
原則として,相手方に告知された時に効力が発生する。
処分時,違法判断の基準時及び効力発生時は似ているが,異なる問題である。
第2 法令適用は原則として処分時を基準とする
1 最高裁大法廷昭和50年4月30日判決
最高裁大法廷昭和50年4月30日判決(昭和43年(行ツ)第120号・民集29巻4号572頁)は,薬局開設許可の距離制限を定めた薬事法の規定を違憲とした判決である。
同判決の事案では,申請後に距離制限が導入された。
最高裁は,行政処分は原則として処分時の法令に準拠すべきであり,許可申請者は申請によって申請時の法令により許可を受ける具体的権利を取得するものではないという考え方を示した。
2 申請時基準となる場合
法令に明文の経過措置がある場合,申請時の法令を適用する旨の特則がある場合,又は改正法の施行時期・適用関係から別の結論となる場合は,その定めを優先する。
行政庁の審査遅延が問題となる場合も,直ちに旧法適用となるのではなく,不作為の違法,信義則又は国家賠償の問題を区別して検討する。
3 申請権と実体上の許可請求権を区別する
申請者には適法な申請に対する審査・応答を求める手続上の地位が認められても,申請時の法令により必ず許可を受けられる実体上の権利が当然に生じるわけではない。
審査基準,標準処理期間及び不作為の救済と,適用法令の基準時を混同してはならない。
第3 裁判所の違法判断も原則として処分時を基準とする
1 最高裁昭和28年10月30日判決
最高裁昭和28年10月30日判決(昭和26年(オ)第412号・行裁集4巻10号2316頁)は,裁判所における行政処分の違法判断について,当該処分がされた当時を基準とする考え方の基礎となる判例である。
処分後に事情が改善し,又は新たな資料が得られても,それによって処分時の調査不足・事実誤認が当然に治癒されるわけではない。
反対に,処分後の事情悪化だけで,処分時に適法だった処分が遡って違法になるものでもない。
2 処分後の事情にも別の意味がある
処分後の事情は,訴えの利益,事情判決,執行停止,損害の範囲,再申請又は新たな処分の必要性を判断する資料になり得る。
違法判断の基準時に用いないことと,訴訟上まったく意味がないことは同じではない。
3 理由の差替えとの関係
訴訟で行政庁が処分時の理由と異なる理由を主張できるかは,根拠法令,処分の同一性,理由提示制度の趣旨及び相手方の防御権を踏まえて別に検討する。
処分時に存在しなかった事実を後から付け加える場合と,処分時に存在した事実について法的評価を補充する場合を区別する必要がある。
第4 処分は原則として告知時に効力を生ずる
1 最高裁昭和50年6月27日判決
最高裁昭和50年6月27日判決は,行政処分は原則として相手方に告知された時に効力を発生するという考え方を示した。
行政機関内部で決裁が完了した日,処分書を作成した日又は発送した日と,相手方に到達・告知された日は一致しないことがある。
効力発生時,審査請求期間又は出訴期間の起算点を検討するときは,処分書,発送記録,配達記録及び受領状況を確認する。
2 告示・公告による処分
不特定多数者を対象とする処分,所在不明者に対する処分又は個別法が告示・公告を効力発生要件とする処分では,個別の到達ではなく法定の告示・公告時を基準とすることがある。
必ず個別法の規定を確認する。
3 電子通知
電子情報処理組織を用いる処分では,通知がシステム上利用可能となった時,閲覧した時その他の到達時期について個別法・利用規約・通知記録を確認する。
紙の郵便と同じ前提で判断してはならない。
第5 出訴期間との関係
1 効力発生時と「処分があったことを知った日」
取消訴訟の主観的出訴期間は,原則として処分又は裁決があったことを知った日から進行する。
効力発生時と知った日は同日になることが多いが,常に一致するとは限らない。
2 審査請求をした場合
審査請求をした場合の出訴期間,裁決前置の有無及び個別法の特則を確認する。
処分書の教示が誤っていた場合又は教示がなかった場合も,救済規定の適用を検討する。
第6 実務上の時系列表
1 記録すべき日付
①申請日,②法令改正の公布日・施行日,③経過措置の基準日,④決裁日,⑤処分書作成日,⑥発送日,⑦到達・告知日,⑧処分を知った日,⑨審査請求日,⑩裁決日・送達日,⑪訴訟提起日を一つの表にする。
2 各日付に結び付く法的問題
申請日には適用法令・経過措置,処分日には違法判断,告知日には効力発生,知った日には主観的出訴期間,処分日には客観的出訴期間が結び付く。
日付を一つだけ「処分日」と呼ばず,用語を分けて記録する。
第7 出典及び関連記事
行政事件訴訟法14条(e-Gov法令検索)及び本記事でリンクした裁判所HPの判例結果詳細を確認した。
行政事件全体は,行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。
処分性,差止め及び執行停止の時間軸は,行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方も参照されたい。