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共同正犯・幇助犯と正当防衛―急迫性・防衛意思を関与者ごとに判断する方法

複数人が関与する暴行事件では、現場全体を一つの正当防衛又は一つの違法行為として処理してはならない。
侵害を利用して相手を攻撃させようとした者と、突然の侵害に直面して反撃した者とでは、急迫性、防衛の意思及び相当性の評価が異なり得る。
共同正犯、指示役、後発的な声援者又は逃走支援者について、各人が何を知り、何を意図し、どの行為を促進したかを個別に整理する必要がある。

第1 正当防衛と共犯を分けて考える

刑法36条は、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為を罰しないと定める。
複数人が関与した場合には、まず現に行われた反撃行為が正当防衛又は過剰防衛となるかを検討し、次に、各関与者について共謀、実行、指示又は援助の内容を検討する。

同じ現場にいたというだけで、全員について急迫性や防衛意思を共通に扱うことはできない。
関与者別の認識と目的が異なる場合、違法性又は責任の評価も異なり得る。

第2 最高裁平成4年6月5日決定

1 共同正犯者ごとの個別判断

最高裁平成4年6月5日決定(平成2年(あ)第788号、判例秘書L04710041)は、共同正犯者について過剰防衛の成否を個別に判断した。
侵害を予期し、その機会を利用して他の共同正犯者に反撃させようとした者については急迫性を否定する一方、積極的な加害意思のなかった実行者については過剰防衛が成立し得るとした。

この決定は、共同して反撃したという外形だけで、全員の正当防衛又は過剰防衛を一括して決められないことを示す。
背後者が侵害を利用しようとしたことと、実行者が現場で認識した侵害状況を分けて評価する必要がある。

2 事件記録の整理方法

関与者ごとに、①侵害をいつ、どの程度予期したか、②現場へ行く必要があったか、③凶器を準備したか、④相手の侵害を利用する意思があったか、⑤実際の侵害をどのように認識したか、⑥反撃を誰が決めたかを整理する。

同じ会話又は映像でも、ある者には先行事情を示し、別の者には突然の侵害を示すことがある。
供述調書を人物別に読むだけでなく、同一時刻の認識を横に並べた供述対応表を作ることが有用である。

第3 侵害を予期していた場合の急迫性

1 予期だけでは直ちに否定されない

最高裁平成29年4月26日決定は、侵害を予期していたというだけで、刑法36条の急迫性が直ちに否定されるものではないとした。
従前の関係、予期の内容及び程度、侵害を避ける可能性、現場へ出向く必要性、凶器の準備、予期した侵害と実際の侵害の異同並びに侵害に臨んだ意思等を総合して判断する。

判断の中心は、刑法36条の趣旨に照らし、その場面で私人による対抗行為を許容できるかである。
「喧嘩を予想していた」「現場から立ち去らなかった」という一事情だけで結論を決めてはならない。

2 関与者ごとに総合事情が異なる

対立関係を作り、相手の攻撃を待ち受けていた者と、その計画を知らずに同行した者とでは、予期、回避可能性及び侵害に臨んだ意思が異なる。
一人について急迫性が否定されても、別の一人について当然に否定されるとは限らない。

反対に、実行者の反撃が正当防衛又は過剰防衛と評価されても、背後者が別の違法行為を計画し又は実行していた可能性は別に検討する必要がある。

第4 声援・見張り・逃走支援と幇助

1 悪質な意思だけでなく促進効果を確認する

声援、見張り、道具の提供又は逃走支援の申出が幇助となるかは、行為の印象的な悪質さだけで決められない。
正犯者がその言動を認識し、実行行為の開始、継続又は強化に物理的又は心理的な影響を受けたかを確認する。

具体的には、①声が届いたか、②正犯者が意味を理解したか、③その前後で行為が変化したか、④援助がなくても同じ行為をしたか、⑤逃走支援の申出が実行時の安心感を与えたかを検討する。

2 援助対象となる正犯行為の違法性を確認する

幇助犯は、援助の意思だけで成立するものではなく、援助対象となる正犯行為との関係を要する。
正犯者の行為が客観的に正当防衛として適法である場合、正犯行為の違法性を前提とする通常の幇助犯の構成は困難となる。

ここで「悪意があるから別個の犯罪又は未遂」と抽象的に処理してはならない。例えば暴行罪には未遂処罰規定がなく、声援者自身が実行行為をしていない限り、幇助の従属性と援助対象の違法性を正面から検討する必要がある。

3 二つの理論構成と人物別整合性

第一の構成は、幇助犯の成立に、正犯行為が構成要件に該当するだけでなく違法であることを必要とする立場である。
この立場では、実行者の行為が正当防衛として違法性を阻却されるなら、その行為に対する後発的声援について幇助犯は成立しない。

第二の構成は、共犯の従属性について正犯行為の構成要件該当性を基礎としつつ、侵害を計画的に招来するなど緊急状況を作出した背後者には、実行者に認められる違法性阻却の効果を及ぼさないとする立場である。
この構成でも、事件発生後に現場へ加わって声援しただけで、緊急状況を作出していない者まで当然に例外へ含めることはできない。

関与者緊急状況の作出実行者の防衛行為との関係幇助等の検討
指示者・背後者対立を計画し、侵害を利用するなど作出に関与実行者とは別に急迫性・防衛意思を評価阻却効果を援用できない例外に当たるかを検討
後発的声援者発生後に関与し、作出していない正当防衛行為を認識して促進したか正犯違法を要する立場では不成立。構成要件該当性で足りる立場でも作出者例外を安易に拡張しない

同じ理論を採りながら、背後者には阻却効果を否定し、緊急状況を作出していない後発関与者にも同じ結論を機械的に及ぼすと、人物別の理由付けが整合しない。
正当防衛行為に対する悪意ある後発的声援という同一事案を直接扱った最高裁判例は、今回確認できていないため、採用する理論と例外の射程を明示する必要がある。

第5 弁護実務の人物別チェック表

1 実行者

実行者については、現に何を見聞きしたか、侵害を招いたか、退避可能性があったか、身体防衛と報復のいずれを意図したか、反撃の回数、強度及び終了時点を確認する。
一回目と二回目の打撃で侵害状況が変わった場合には、各打撃を分けて評価する。

2 指示者・背後者

指示者又は背後者については、対立の経緯、侵害の予測、現場形成への寄与、実行者への指示、現場支配及び他人を戦力として利用する意思を確認する。
実行者の反撃が現場で防衛的なものであっても、背後者が侵害を利用しようとした事情は、その者自身の急迫性判断に影響する。

3 後発関与者

後から現場に加わった者については、先行事情を知っていたか、どちらが攻撃者であると認識したか、声援等がどの行為に向けられたか、正犯者が認識したか、援助後に具体的行為が促進されたかを確認する。
誤認がある場合には、故意、違法性に関する錯誤及び正犯行為の客観的違法性を混同しない。

第6 確保すべき証拠と記事の限界

現場映像、通話録音、メッセージ、位置情報、凶器の取得記録、移動経路及び各人の負傷状況を早期に確保する。
各関与者の供述については、「誰から何を聞いたか」「何を見たか」「その時どう考えたか」「次に何をしたか」を時刻ごとに区切る。

本記事は、最高裁平成4年6月5日決定の全文を判例秘書で確認し、最高裁平成29年4月26日決定を判例秘書及び裁判所公表全文で確認した上で整理したものである。
前者は共同正犯者ごとの過剰防衛、後者は侵害予期と急迫性を扱った判例であり、あらゆる後発的幇助の結論を直接示すものではない。
個別事件では、正犯行為の各時点の適法性と、各関与者の認識、意思及び促進効果を改めて立証する必要がある。