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AIで時短した職員を損させない法律事務所の評価制度-隠れた生産性,品質指標及び余力配分(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 AI時短を処理件数だけで評価しない

生成AIによって定型的な整理,要約又は初稿作成の時間が短くなっても,その職員に追加案件だけを配分すればよいとは限らない。
件数だけで評価すると,職員には改善成果を申告せず,自分だけの方法として保持する誘因が生じ得る。他方で,AI利用に伴う根拠確認,修正,他の職員への支援及びテンプレート整備は,処理件数には表れにくい。

法律事務所では,①確認・修正を含む総作業時間,②重大な見落とし及び手戻り,③依頼者への説明と納期,④他者支援,教育及び業務改善への貢献を組み合わせて評価することが考えられる。
また,短縮された時間を,追加案件,分析の深化,研修・業務改善又は休息・納期余裕のいずれに配分するかを,評価期間の前に定めることが望ましい。

本記事の評価項目と配分方法は,法令上当然に義務付けられた唯一の制度ではなく,後記の調査結果と法律事務の特性を踏まえた実務上の提案である。

2 本記事の根拠と限界

本記事は,①日本の就業者を対象とするパーソル総合研究所の調査,②海外のオフィスワーカー等を対象とするIvantiの調査,③顧客対応担当者を対象とする実証研究及び④厚生労働省の労働時間ガイドラインを主な根拠とする。
ただし,①及び②は主として回答者の申告に基づく調査であり,AI導入が特定の結果を生じさせたという因果関係を直接証明するものではない。③は法律事務所を対象とする研究ではない。

本記事は,これらの資料から直接確認できる事実を「調査結果」として記載し,法律事務所への当てはめを「実務上の提案」として区別する。裁判例の判示を根拠とする記事ではないため,判例秘書による裁判例検索は実施していない。

第2 調査から分かることと分からないこと

1 日本の就業者調査

パーソル総合研究所が令和7年10月に正規雇用就業者3,000人を対象として実施したインターネット調査では,生成AI利用者のタスク時間は平均16.7%削減された一方,仕事全体の時間が減少した者は25.4%であった。削減された時間の61.2%は仕事に再投資され,その再投資先の75.4%は通常業務であったと報告されている。

同調査は,生成AIを頻繁に利用する者ほど,他者への教示又はサポートに関する負担を感じる傾向も報告し,職場の生成AI活用を支える者の貢献を適切に評価する必要性を提言している。
もっとも,これは観察及び意識調査であり,生成AIが労働時間又は負担の増減を引き起こしたことを実験的に証明したものではない。

2 海外の「隠れた生産性」調査

Ivantiの令和7年の調査は,6,000人を超えるオフィスワーカー並びに1,200人のIT・セキュリティ担当者を対象とした国際調査である。職場で生成AIを利用する者の32%が生産性向上を秘密にしていると回答し,その理由として,秘密の優位性を保ちたいこと,雇用削減への懸念又は能力への不安等が挙げられた。また,オフィスワーカーの52%が,効率化すると使用者から仕事を増やされる旨の設問に同意した。

ただし,同調査は日本限定ではなく,IT管理製品を提供する事業者による調査であり,回答は加重処理されていない。
したがって,「日本の法律事務所職員の32%がAI時短を隠している」と読み替えることはできない。改善成果を申告しにくくする制度上の誘因があり得ることを検討するための参考資料として扱うのが相当である。

3 顧客対応業務の実証研究

Erik Brynjolfsson,Danielle Li及びLindsey R. Raymondによる研究は,生成AIを導入した顧客対応担当者5,179人のデータを分析し,AIへのアクセスによって1時間当たりの解決件数が平均約14%増加し,経験又は技能の低い担当者では約34%増加したと報告している。経験又は技能の高い担当者への効果は小さかった。

この研究は,導入時期の差を利用して生産性への影響を分析している点で,単なる意識調査より因果関係に接近している。
しかし,対象は顧客対応業務であり,法的根拠の確認,証拠評価,助言又は裁判所提出書面の品質を直接測定したものではない。1時間当たりの解決件数という指標だけを法律事務所の評価制度へ移すこともできない。

4 法律事務所への当てはめには限界がある

法律事務では,速く作成された文書でも,適用時点の法令,判例,通達又は原資料を取り違えれば利用できない。案件数又は文字数が増えても,重大な期限,請求原因,抗弁又は証拠上の弱点を一つ見落とせば,平均的な出来栄えでは補えない場合がある。

したがって,前記の調査は,AI利用者に仕事を追加すべき割合又は賃金を直接示すものではない。法律事務所では,対象業務ごとに,速さとともに必須確認事項,修正の量及び結果を測定する必要がある。

第3 AIで速くなっても職員が申告しにくい理由

1 追加案件だけが返ってくる

改善前と同じ品質の成果物を短時間で作った職員に対し,短縮した時間の全てを追加案件で埋めると,効率化の利益は事務所だけに帰属し,職員には追加負担だけが返ると受け取られ得る。
その場合,所要時間を短く申告しない,改善方法を共有しない,又は試行錯誤を勤務時間外に行うという望ましくない誘因が生じる。

2 確認・教育・改善の仕事が見えにくい

AI利用では,出力を得る時間のほかに,入力資料の選別,秘密情報の処理,引用の照合,誤りの修正,成果物への統合及び保存後の読戻しが必要となる。
また,活用に習熟した職員は,他の職員からの相談対応,テンプレートの更新又は事故の早期発見を担うことがある。これらを評価対象から外すと,組織全体の再現性と安全性を支える仕事が過少評価される。

3 利用実態が地下化する

AI利用を申告すると仕事だけが増え,失敗だけが本人の責任になる制度では,承認された環境での利用記録や失敗事例が集まりにくい。
その結果,事務所は,どの業務で効果があり,どこで誤り又は情報漏えいの危険が高いかを学習できない。

利用を促進する場合も禁止する場合も,対象データ,利用可能なサービス,人による確認及び事故報告の基準を明示する必要がある。評価制度は,この利用ルールと矛盾しないように設計する。

第4 法律事務所で測るべき四群の指標

1 総作業時間と処理量

時間については,AIの回答が表示されるまでではなく,①準備・指示,②出力の読取り,③一次資料の確認,④修正・統合,⑤上席レビュー,⑥差戻し後の手戻り及び⑦保存・送信後の確認を含む総作業時間を測る。
同時に,案件数,文書数又は処理項目数を記録するが,難易度の異なる業務を単純に一件として比較しない。

2 品質と手戻り

品質指標には,重大な見落とし,引用又は日付の誤り,修正箇所数,差戻し回数,再作業時間及びチェックリスト適合率が考えられる。
軽微な表記修正と,結論を変える事実・法令・証拠の誤りは分けて記録する。発見された誤りの件数だけでなく,職員が自ら安全に中断し,確認又は相談へ切り替えた行動も評価する。

3 依頼者への提供価値

依頼者に関する指標には,初回応答又は納品までの時間,期限遵守,説明のやり直し,同じ問い合わせの再発,苦情及び依頼者満足が考えられる。
連絡回数が多いこと自体ではなく,現在の状態,次の作業,依頼者がすべきこと及び次回連絡時期が理解されたかを見る。

4 組織への貢献

個人の処理件数に加え,①他者へのAI利用支援,②安全なテンプレート又はチェックリストの改善,③失敗事例の共有,④一次資料の確認経路の整備,⑤研修の実施及び⑥事故の早期報告を評価する。
共有によって他の職員の時間又は手戻りが減った場合は,支援した職員の成果として記録する。

第5 短縮時間の配分を先に決める

AIで短縮された時間の配分先は,少なくとも次の四つに分けて考えることができる。

  1. 追加案件又は繁忙業務への対応
  2. 一次資料確認,反対仮説の検討又は依頼者への説明等の深化
  3. 研修,テンプレート・チェックリストの改善又は知識共有
  4. 休息,突発案件への余裕又は納期バッファ

全てを追加案件に固定せず,対象業務,繁閑及び品質リスクに応じて配分する。例えば,試行期間中は短縮時間の一部を検証と改善に留保し,品質が安定した後に追加処理へ移す方法がある。

配分を評価期間の後に決めると,職員は効率化によって自分の負担がどう変わるかを予測できない。評価期間の開始時に,短縮時間の測定方法,配分の原則及び見直し時期を共有することが重要である。

第6 評価制度を設計する手順

1 対象業務と基準線を決める

最初から事務所全体を一つの指標で評価せず,契約書の条項比較,証拠一覧の作成,面談記録の整理,裁判例候補の抽出等,境界を定められる業務から始める。
導入前の所要時間,差戻し及び重大な見落としを一定期間記録し,導入後も同じ定義で比較する。担当者の経験,案件の難易度及び入力資料の量が大きく異なる場合は,その差を注記する。

2 個人評価とチーム評価を組み合わせる

個人には,総作業時間,期限遵守,自己発見した誤り及び相談・中断の適切さを評価する。
チームには,共通テンプレートの利用率,手戻りの減少,重大事故の防止,他者支援及び知識共有を評価する。個人の件数だけで競わせると,確認又は共有を省く誘因が生じるためである。

3 効率化を直ちに恒久ノルマへ変えない

短期間の測定結果を直ちに恒久的な処理件数へ置き換えない。AIのモデル更新,業務の難易度,繁忙期及び確認対象の増減によって,効果は変わり得る。
まず試行期間と見直し日を定め,速さ,品質,負担及び依頼者への影響を合わせて評価する。

4 説明・見直し・異議申出の経路を置く

評価項目,データの取得方法,評価者及び利用目的を職員へ説明する。個々の数値には,案件難易度,緊急対応又は教育負担等の事情を記載できる欄を設ける。
数値に誤りがある場合又は品質確保のために時間を要した場合に,訂正又は異議を申し出られる経路も定める。

第7 研修・確認作業と労働時間

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間を労働時間とし,使用者の指示による業務に必要な学習又は研修も労働時間として扱うとしている。

したがって,事務所がAI利用の習得,出力確認,テンプレート整備又は他者への教示を求める場合,それらを処理件数の外に置き,職員が勤務時間外に吸収することを前提としてはならない。
自己申告制を採用する場合も,実際の労働時間を正しく申告しにくくする運用を避け,必要に応じて実態を補正する。

なお,具体的な賃金,残業代,人事評価又は不利益取扱いの適法性は,就業規則,雇用契約,実際の指揮命令及び個別の経緯によって異なる。本記事は,個別紛争についての法的結論を示すものではない。

第8 導入時のチェックリスト

  1. 対象業務とAIを利用できない情報・場面を定めたか。
  2. 導入前後で同じ範囲の総作業時間を測っているか。
  3. 処理件数を案件難易度と切り離して比較していないか。
  4. 重大な見落とし,手戻り及び再作業時間を記録しているか。
  5. 一次資料確認,安全な中断及び早期相談を評価しているか。
  6. 他者支援,教育及びテンプレート改善を評価しているか。
  7. 短縮時間の配分原則と見直し日を事前に共有したか。
  8. 研修,確認及び改善に要する労働時間を把握しているか。

第9 本記事で確認できていないこと

令和8年9月23日現在,日本の法律事務所を対象として,AI利用による時短,成果物の品質,職員の負担及び評価制度を同時に測定した公表実証研究は,本記事の調査範囲では確認できていない。
また,パーソル総合研究所及びIvantiの割合は,山中理司法律事務所又は日本の法律事務所一般にそのまま当てはめることはできない。

そのため,実際に制度を導入する場合は,まず対象業務を限定し,4週間から8週間程度の試行で,総作業時間,重大な見落とし,手戻り,教育負担及び依頼者への影響を記録した上で見直すことが考えられる。
個別の賃金変更,降格,解雇その他の労働法上の問題を扱う場合は,関係法令,裁判例及び就業規則を別途確認する必要がある。

第10 関連記事

AIによる時間短縮が課題ごとに異なること,人間が保持すべき役割及び報酬との関係については,「AIに代替される弁護士業務と人が担う役割-仕事がなくなる条件・根拠・限界(AI作成)」を参照されたい。

生成時間と確認・手戻りを含む総作業時間,生成前フィルタ及び中断後の再開方法については,「AIを使うほど仕事が増える理由-法律実務で使う生成前フィルタと中断後の再開カード(AI作成)」を参照されたい。

秘密情報,利用サービス,ログ,承認,研修及び事故対応を含む事務所内ルールについては,「法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方(AI作成)」を参照されたい。

第11 出典・参考資料

  1. パーソル総合研究所「生成AIが就業者にもたらす影響に関する調査」及び「調査報告書」(令和8年2月3日公表)
  2. Ivanti「2025 Technology at Work Report」(令和7年)
  3. Erik Brynjolfsson, Danielle Li and Lindsey R. Raymond, “Generative AI at Work,” NBER Working Paper 31161(令和5年。Quarterly Journal of Economics掲載版は令和7年)
  4. 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン