メインコンテンツへスキップ
       

特殊車両の休車損害を立証する方法―遊休車,レンタル,外注,相当期間及び利益計算(AI作成)

タンクローリー,霊柩車,レッカー車,クレーン車,検診車その他の特殊な設備又は用途を持つ車両が事故で使用できなくなった場合,通常の乗用車の代車料だけでは営業損失を処理できないことがある。

もっとも,「特殊車両」という名称だけで休車損害が認められるわけではない。事業上の使用必要性,社内の遊休車,外部調達の可否,相当な休車期間及び失われた利益を具体的資料で立証する必要がある。

第1 休車損害の意味と基本構造

1 休車損害とは

休車損害は,営業に用いる車両を事故のため使用できず,相当な修理又は買換期間中に得られなかった利益である。

最高裁判所昭和33年7月17日第一小法廷判決は,事故で損傷した貨物自動車の休車による利益喪失を,具体的理由を示さず全て特別損害として排斥した原判決を破棄した。

2 四つの確認事項

  • ① 事故車を当該事業に使用する必要があったか。
  • ② 社内に代替可能な遊休車又は余力がなかったか。
  • ③ 外部から同等の車両又は代替サービスを合理的に調達できなかったか。
  • ④ 修理又は買換えに必要な相当期間と,その間の純利益喪失はいくらか。

第2 「特殊性」は相対的に判断する

1 社会的に珍しいかだけで決まらない

休車損害との関係で重要なのは,車種が珍しいかどうかよりも,その事業者の業務,保有車両,設備,許認可,契約及び受注内容に照らして代替が可能かどうかである。

一般的なトラックでも特定の荷台,架装,容量,衛生設備又は取引先指定を備えるため代替困難なことがある。反対に,特殊な名称の車両でも,他の保有車又は外部レンタルで業務を維持できることがある。

2 車両ごとに特定する資料

  • ① 車検証,車両仕様書,架装明細及び写真
  • ② 許認可,検査又は取引先の仕様条件
  • ③ 事故前の運行日報,配車表,受注書及び契約書
  • ④ 当該車両でなければ履行できない業務の内容

第3 遊休車がないことの立証

1 保有台数だけでは足りない

予備車又は非稼働車が存在するように見えても,定期点検,故障修理,乗務員配置,拠点,車格又は設備の違いによって代替できない場合がある。

他方,単に「全車稼働していた」と述べるだけでは足りない。全車両一覧,日別の稼働状況,運転者の勤務表,配車記録,点検・修理記録及び受注実績を提出する。

2 公開裁判例の対照

神戸地方裁判所平成14年判決は,35台の車両に乗務予定を割り当て,点検・修理又は欠勤のため稼働できない車両を除く全車両を常時稼働させていた事実から,他車で補えなかったと認定した。

これに対し,東京簡易裁判所平成25年6月25日判決は,47台の稼働率が96.2%で,少なくとも1台の非稼働車両があったところ,その車両を稼働できなかった理由を裏付ける証拠がないとして,遊休車の存在を認め,休車損害を否定した。

両裁判例の違いは,非稼働車が数字上存在するかだけでなく,その理由と代替可能性を資料で説明できたかにある。

第4 外部からの代替調達と損害拡大防止

1 レンタル,傭車及び外注を調べる

特殊車両のレンタル会社,同業他社への傭車,外部委託,臨時架装又は別方式による履行の可否を早期に照会し,回答を保存する。

照会先,日時,必要仕様,希望期間,提示価格,在庫,納期及び断られた理由を一覧にする。代替車が存在しないことを抽象的に述べるよりも,市場調査の経過を示す方が有効である。

2 代替費用と休車損害を比較する

一般には,合理的な代車又は外注で営業を維持できるなら,損害拡大防止の観点からその利用を検討する。

もっとも,代替費用が予想される休車損害を上回る場合,著しく高額な代替を常に選ぶ必要があるとは限らない。事故時点で得られた情報を基に,代替費用,失注額,取引継続への影響及び契約上の責任を比較する。

高額な代替又は外注を選んだ場合は,納期,重要顧客,違約金,事業継続その他の商業上の合理性を記録する。

第5 相当な休車期間

1 期間を段階に分ける

休車期間を一つの塊にせず,次の段階に分けて検討する。

  • ① 事故から損傷調査・見積りまで
  • ② 修理か買換えかを合理的に判断するまで
  • ③ 部品・架装品の発注から到着まで
  • ④ 修理,製作,架装,検査及び登録に要した期間
  • ⑤ 引渡しから営業再開まで

部品の受注生産,特殊な架装又は法定検査に時間を要することは,期間延長の理由となり得る。他方,方針決定が遅れた期間は,特殊車両であることだけでは説明できない。

2 期間を裏付ける資料

見積依頼,保険会社との協議,発注書,部品の納期回答,入荷記録,作業工程表,修理完成日,検査日及び営業再開日を時系列にする。

同種車両の通常の修理期間又は製作期間と比較し,遅延があれば,部品欠品,追加損傷,設計変更等の理由を説明する。

第6 休車損害の計算

1 基本式

基本的には,事故前の相当期間における当該車両の1日当たり売上高から,休車によって支出を免れた変動経費を控除し,相当な休車日数を乗じる。

1日当たり休車損害=1日当たり売上高-休車により免れた経費

休車損害=1日当たり休車損害×相当な休車日数

2 売上と経費の資料

運行日報,配車記録,請求書,売上台帳,確定申告書又は決算書を用いる。季節変動,曜日差及び特定顧客への依存がある場合は,事故直前の短期間だけでなく前年同期等とも比較する。

燃料費,高速料金,歩合給,タイヤ・オイル等は,休車によって免れた範囲を検討する。固定給,車庫代,保険料等は休車中も支出が続くことがあり,費目名だけで一律に控除しない。

神戸地裁平成14年判決は,事故前3か月の運賃収入と,燃料費,タイヤ消耗費,オイル代,修繕費,乗務員人件費等を具体的に認定して日額を算定している。

3 代車料・外注費との重複

代車又は外注によって従前の営業を全て維持できた場合,その費用と同じ期間の休車損害を重ねて請求することはできないのが通常である。

代替手段では輸送能力,作業範囲又は受注量の一部しか補えず,なお利益減少が残った場合は,代替費用と残存減収を分けて立証する。

第7 将来の休車損害

事故車を使用し続け,後日修理する予定である場合でも,将来の休車損害が理論上直ちに排除されるわけではない。

ただし,修理計画,実施時期,所要期間,将来も遊休車又は代替手段がないこと及びその時期に修理する合理性を具体的に示す必要があり,既に休車した事案より立証負担は重い。

第8 実務チェックリスト

  • ① 車両仕様,架装,許認可及び用途を特定したか。
  • ② 全保有車の稼働状況と運転者配置を日別に示したか。
  • ③ 外部レンタル・傭車・外注の照会記録を保存したか。
  • ④ 休車期間を段階別に説明したか。
  • ⑤ 売上と免れた経費を当該車両単位で算定したか。
  • ⑥ 代替費用,残存減収及び保険金の重複を点検したか。

第9 出典・参考資料

1 裁判例

① 最高裁判所昭和33年7月17日第一小法廷判決(昭和31年(オ)第335号・民集12巻12号1751頁)。

② 神戸地方裁判所平成14年判決。

③ 東京簡易裁判所平成25年6月25日判決。

2 文献

① 日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2023年版下巻(講演録編)』所収「特殊車両の休車損害など」。同講演録の裁判例整理は,全裁判例の網羅調査ではない旨が明記されている。

② 物損全般,代車料及び示談時の確認事項は,「物損事故の示談―修理費,車両時価額,評価損,代車料及び保険の実務」参照。