裁判所の交通事件共通書式は,交通事故訴訟の基本的な主張,損害額,治療費及び相続関係を整理する公式の書式である。
もっとも,共通書式へ金額を入力しただけでは,証拠を受領・確認・提出したか,既払金をどの損害項目へ充当したか,未確認事項が何かまでは管理し切れない。
本記事では,令和8年5月14日版の共通書式を提出書式として尊重しつつ,法律事務所内部で「主張・認否・証拠・既払金・未確認事項」を突合する事件管理台帳として使う方法を説明する。
第1 公式の共通書式と内部管理台帳を区別する
1 公式書式の四つのシート
裁判所が公表する令和8年5月14日版の共通書式は,次の四つのシートからなる。
- ① 事案の概要
- ② 損害額一覧表
- ③ 治療費等集計表
- ④ 相続等一覧表
共通書式には自動転記及び自動計算の機能があり,基本的な主張,認否・反論,必要書証及び計算を整理するために用いられる。
2 内部管理項目を公式書式へ無理に追加しない
裁判所の詳細マニュアルは,行の挿入又は削除を行わないよう案内している。したがって,事務所独自の確認欄を公式Excelへ無制限に追加するのではなく,提出用の共通書式と内部管理台帳を分ける。
内部台帳は公式書式ではなく,山中法律事務所側で確認漏れを防ぐための補助資料である。裁判所又は相手方へ提出する場合は,担当裁判体の指示と提出目的に従う。
第2 内部管理台帳の基本列
1 一つの損害項目を一行にする
治療費,休業損害,入通院慰謝料,後遺障害逸失利益,修理費,評価損,代車料等を別行にし,少なくとも次の列を設ける。
- ① 損害項目又は争点
- ② 当方の主張額・主張要旨
- ③ 相手方の認否・反論
- ④ 根拠証拠番号と証拠の標目
- ⑤ 証拠の状態
- ⑥ 既払額・支払日・支払者
- ⑦ 未確認事項
- ⑧ 次の作業,担当者及び期限
- ⑨ 最終確認日
2 証拠番号だけでなく証拠の状態を持つ
「甲5」と記載されていても,依頼者から未受領,受領したが未読,内容確認済み,提出用PDF作成済み,裁判所へ提出済み,相手方への送達確認済みでは意味が異なる。
証拠状態は,例えば,未入手,受領済み,内容確認済み,提出準備済み,提出済み,送達確認済み,不足・差替え要というように分ける。
ファイルが存在すること,内容を読んだこと,主張を裏付けること及び裁判記録へ提出されたことを同一視しない。
第3 主張と証拠を対応させる
1 主要事実ごとに根拠証拠を置く
裁判所の詳細マニュアルは,主張の根拠となる主要な証拠について,証拠番号及び必要に応じて証拠の標目を記載するよう求めている。
内部台帳でも,「治療費一式―診療報酬明細書」という大括りだけでなく,治療期間,受診先,支払額及び因果関係の各主張が,どの資料のどの部分で確認できるかを記録する。
2 証拠がない欄を空白にしない
証拠が未入手,存在不明又は提出不要と判断した場合は,その状態を明記する。空白のままでは,未検討なのか,証拠がないのか,記載漏れなのか区別できない。
未確認事項は「Unknown」として残し,取得先,取得方法,費用,期限及び結論への影響を記録する。
第4 既払金と損益相殺を管理する
1 支払ごとの台帳を作る
任意保険,自賠責保険,人身傷害保険,労災保険,健康保険,加害者本人その他の支払を,支払者,支払日,金額,名目及び対象費目ごとに記録する。
同じ金額を治療費欄と既払金欄の双方で重ねて控除したり,逆に控除を落としたりしないよう,支払明細,振込記録及び保険会社の内訳を突合する。
2 自動計算と法的評価を分ける
共通書式には過失相殺,労災保険金,人身傷害保険金等について自動計算機能がある。
しかし,控除の対象費目,時期,代位の範囲又は計算方法に争いがある場合は,自動計算の結果をそのまま結論とせず,採用する法的構成と計算過程を別に示す。
第5 ファイル名と版管理
1 裁判所マニュアルの例
詳細マニュアルは,更新日,作成・更新者,ファイルの種類及び事件番号を含むファイル名の例を示している。
内部運用でも,提出用,作業用,相手方受領版及び裁判所確定版を区別し,同じ名称のファイルを上書きし続けない。
2 内容の同一性を確認する
Excelの共通書式,提出用PDF,証拠説明書及び準備書面で,金額,証拠番号,日付及び主張が一致しているかを提出直前に確認する。
PDF化後は,ページ欠落,印刷範囲,非表示行,数式結果,文字切れ及び証拠番号を確認する。元のExcelが正しくても,提出したPDFが同じ内容とは限らない。
第6 事件の段階ごとの使い方
1 受任・提訴前
損害項目,責任原因,時効,既払金及び不足資料を洗い出し,依頼者へ追加資料を依頼する。共通書式へ入力する前に,事故証明書,診断書,診療報酬明細書,収入資料等の基本資料の有無を確認する。
2 争点整理中
相手方の認否・反論を反映し,争いのない項目,証拠だけが不足する項目,法的評価が争われる項目及び金額だけが争われる項目を分ける。
準備書面を提出するたびに,主張と証拠の対応及び残ったUnknownを更新する。
3 和解・判決前後
和解案又は認容見込額を,請求額,既払金,過失相殺,費目拘束及び遅延損害金と突合する。
事件終了時には,最終支払,回収,保険者代位,預り金精算及び依頼者への返却資料まで記録し,訴訟上の終局と事務処理の完了を分ける。
第7 提出用チェックリスト
- ① 提出時点の最新版書式を使っているか。
- ② 事案の概要から入力し,自動転記部分を確認したか。
- ③ 主張は簡潔にし,詳細は準備書面へ分けたか。
- ④ 主要な証拠番号と標目を記載したか。
- ⑤ 自動計算の前提と手入力箇所を確認したか。
- ⑥ 既払金を支払資料と突合したか。
- ⑦ Excel,PDF,証拠説明書及び準備書面が一致するか。
- ⑧ 提出後に裁判所の記録へ反映されたことを確認したか。
第8 出典・関連記事
1 裁判所資料
① 裁判所「民事訴訟(交通事件)で使う書式」。
② 裁判所「共通書式のトリセツ・詳細版(令和8年5月14日版)」。
③ 大阪地方裁判所「主張一覧表の利用について」。
2 関連記事
① 「東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出」。
② 本記事の内部管理台帳は,裁判所の公式書式そのものではなく,公式書式の目的及び注意事項を踏まえて作成した実務上の補助方法である。