第1 この記事の対象と結論
本問は,成績不良・反抗的態度を理由とする普通解雇と,後に発覚した経歴詐称への対応を問う。
公式資料から独自に整理した評価項目は24項目であり,重み5は6項目,重み合計は93である。
これらは法務省の公式採点基準・配点又は得点予測ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和元年司法試験・労働法第1問(設問1・2) |
| 問題文 | 法務省・問題PDF(22〜23頁)(https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf) |
| 基準時 | 令和元年5月15日の試験実施時を本記事の分析基準とする。無期契約移行後の解雇を検討する。 |
| 資料状態 | 出題の趣旨(https://www.moj.go.jp/content/001305186.pdf)33〜34頁の本問部分と,採点実感(https://www.moj.go.jp/content/001308864.pdf)31〜32頁の本問部分・31頁総論・34〜35頁末尾を実読済み。 |
| 主要事項 | 普通解雇,解雇予告,理由追加,再解雇,賃金・退職手当 |
| 主要判例 | 細谷服装事件,山口観光事件 |
| 評価項目 | 24項目/重み5:6項目/合計:93 |
| 答案分量 | 2373字(見出し・句読点を含み空白・改行を除く。空白等を含む文字数も2500字以内。) |
| 試験後の改正 | 民法は令和2年施行の債権法改正前を用いる。後発法・判例を当時の根拠に混ぜない。 |
| 確認日 | 令和8年10月19日(日本時間) |
答案は普通解雇を無効とする方向で論じる。理由追加は肯定説を採るが,公式資料は説得的な否定説も評価しており,結論の一致だけで評価する問題ではない。
第4に評価表,第5に答案と解説を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象とし,公式資料を要約した。
「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」は重みと別の区分である。
条件付き項目は,その構成を採る場合の評価であり,全答案への累積要求ではない。
公式資料の関連範囲を読んで記載がないものは「記載なし」と示す。
負例の回避も同じ表に含め,重みの合計から外さない。
一般的な答案作法は,公式の個別評価項目と区別して解説する。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)事項 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け |
| 2 | 一方が軽い表現で触れる補強,又は典型的な誤り |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項 |
重みは本記事の独自分析である。
各段階に一定数を割り当てたものではなく,重み1が0項目でも欠落を意味しない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
詳細な事実と就業規則は法務省の問題文(https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf)22〜23頁を参照されたい。
Xは有期契約を経て無期の常勤スタッフとなったが,店長Pの着任後に評価が低下した。
全員の面前で文書への署名を求められ,Xが大声で抗議して破棄したところ,即日普通解雇となった。
予告・予告手当はなく,退職手当の支給が通知された。
後に,採用時の専門学校卒業証明書が偽造で,実際は中退していたことが分かった。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・前提 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | Xの相談を受ける弁護士 | 無期契約・普通解雇。Xの自己評価は客観的事実と区別する。 | 実体・予告手続の効力と,具体的な請求・主張 |
| 2 | Y社の対応を検討 | 当初の普通解雇を争う訴訟。詐称は解雇前に存在し,認識が後である。 | 理由追加と再解雇の区別,解雇の種類,賃金・退職手当 |
第4 評価項目と重み
1 設問1:普通解雇の効力と請求
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】普通解雇と特定し,懲戒解雇と区別する | 5 | 33頁・労働法第1問・設問1(本件解雇の性格(普通解雇)) | 31〜32頁・3(1)(本件解雇の性質(普通解雇)) |
| 2 | 【必須】解雇の実体面と予告手続を別の法規範として整理する | 5 | 33頁・労働法第1問・設問1(解雇の事由・手続の両面) | 31〜32頁・3(1)(実体面) |
| 3 | 【必須】成績不良の評価に有意な事実を摘出して解雇事由に当てはめる | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(事実関係に照らしながら議論) | 31〜32頁・3(1)(Xの成績不良) |
| 4 | 【必須】反抗的態度の重大性を誘発事情等と併せて具体的に評価する | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(事実関係に照らしながら議論) | 31〜32頁・3(1)(反抗的態) |
| 5 | 【必須】就業規則該当性・客観的合理性・社会的相当性の位置付けを示して説得的に評価する | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(権利濫用が成立するか否か) | 31〜32頁・3(1)(バランスよく説得的に議論) |
| 6 | 【負例】就業規則の合理性・周知の前提論に過大な紙幅を使わない | 2 | 記載なし | 31〜32頁・3(1)(時間と紙幅をかける必要性は低い) |
| 7 | 【必須】予告又は予告手当の欠如を労基法20条の独立問題として論じる | 5 | 33頁・労働法第1問・設問1(予告又は予告手当の支払) | 31〜32頁・3(1)(これを正面から論じるべき) |
| 8 | 【必須】労働者帰責事由による予告除外と就業規則の関係を検討する | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(就業規則条項との関係) | 31〜32頁・3(1)(同旨の就業規則規定との関係) |
| 9 | 【必須】細谷服装判決の効力発生条件を踏まえ,予告違反を絶対的無効としない | 5 | 33頁・労働法第1問・設問1(法違反の場合の効果) | 31〜32頁・3(1)(絶対的無効をもたらすわけではない) |
| 10 | 【高評価】労基法20条3項の予告除外認定を指摘する | 3 | 記載なし | 31〜32頁・3(1)(除外認定の問題) |
| 11 | 【必須】解雇無効の効果として労働契約上の地位確認請求を示す | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(具体的にどのような請求) | 31〜32頁・3(1)(地位の確認) |
| 12 | 【必須】解雇無効と賃金支払請求を接続する | 4 | 33頁・労働法第1問・設問1(具体的にどのような請求) | 31〜32頁・3(1)(解雇期間中の賃金の支払) |
| 13 | 【負例】損害賠償も請求すると述べる場合は固有の根拠を示す | 2 | 記載なし | 31〜32頁・3(1)(その理由を全く説明していない) |
2 設問2:経歴詐称への対応
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 14 | 【必須】当初解雇への理由追加と別個の再解雇という二つの対応を区別する | 5 | 34頁・労働法第1問・設問2(第1に) | 31〜32頁・3(1)(二つの可能性) |
| 15 | 【必須】経歴詐称の重要性・態様等を検討し,形式的事由該当だけで済ませない | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(経歴詐称の評価) | 31〜32頁・3(1)(実質的に見ても懲戒解雇に値する) |
| 16 | 【必須】山口観光判決の懲戒解雇に関する理由と本件普通解雇との差を論ずる | 5 | 34頁・労働法第1問・設問2(解雇が懲戒解雇であった点が異なっており) | 31〜32頁・3(1)(この判例に明確に触れたものは少数) |
| 17 | 【高評価】理由追加の当否を当事者への具体的影響を踏まえて理由付ける | 3 | 記載なし | 31〜32頁・3(1)(当事者にもたらす具体的な意味) |
| 18 | 【許容分岐】理由追加を否定する立場では,普通解雇でも制限される根拠を説得的に示す | 3 | 34頁・労働法第1問・設問2(説得的に議論を) | 31〜32頁・3(1)(追加が認められないことを説得的に述べた答案) |
| 19 | 【許容分岐】新たな懲戒解雇について就業規則該当性と実質的相当性を審査する | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(懲戒解雇事由に該当するか否) | 31〜32頁・3(1)(新たな懲戒解雇が可能) |
| 20 | 【高評価】当初解雇が無効の場合に備えた予備的な解雇の意思表示を説明する | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(主張の仕方) | 31〜32頁・3(1)(解雇という行使方法) |
| 21 | 【高評価】新たな解雇の効力発生時と賃金請求権の発生期間を対応させる | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(賃金及び退職金の処理) | 31〜32頁・3(1)(賃金請求権の発生期間) |
| 22 | 【高評価】既払退職金と後の懲戒解雇等の関係を具体的に整理する | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(賃金及び退職金の処理) | 31〜32頁・3(1)(既に支払った退職金の処理) |
| 23 | 【許容分岐】懲戒解雇事由がある場合にも普通解雇を選択する余地と効果を検討する | 4 | 34頁・労働法第1問・設問2(解雇の種類の選択) | 31〜32頁・3(1)(普通解雇とすることの可否) |
| 24 | 【負例】設問2の対応・効果の検討を設問1への偏重で落とさない | 2 | 記載なし | 31〜32頁・3(1)(適切なバランスで論述) |
3 重みの分布
重み1:0項目,重み2:3項目,重み3:3項目,重み4:12項目,重み5:6項目。
総項目数は24,重み合計は93である。
重み5は番号1・2・7・9・14・16であり,普通解雇の特定,実体と手続の分離,20条の独立審査,予告違反の効力,理由追加と再解雇の二経路,山口観光判決との区別という骨格を示す。
これらの合計は公式得点ではなく,許容分岐を全て採ることを求めるものでもない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施時の法令・判例による。
設問1はXの救済,設問2はYの防御と予備的な対応を順に論じる。
理由追加を肯定する構成を採用するが,許容される否定説を排除しない。
判例名は判示の役割を示すもので,判決の事実をそのまま本問へ移す趣旨ではない。
2 答案
1 設問1
(1) Xは無期契約の常勤職員である。
Pの説明,解雇通知書の根拠条項及び退職手当の支給予定から,本件は普通解雇である。
実体面では労働契約法16条,手続面では労働基準法20条を分けて検討する。
(2) 解雇が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められないときは,解雇権濫用として無効となる。
就業規則32条の事由該当性と併せ,行為の程度,勤務実績,指導・改善の機会等を具体的に評価する。
成績不良について,P着任前のXの評価はB+で,その後もCにとどまり,Dは将来の警告にすぎない。
Xの自己評価をそのまま採用できないが,ささいなミスや小さなトラブルから,能力不足又は成績不良で改善の見込みがないとする客観的裏付けは乏しい。
常勤化され昇進も期待された者を,十分な指導や他店舗への配置等も検討せず解雇する相当性は低い。
他方,大声で抗議し文書を破棄した行為は職場規律を害し,協調性を疑わせる。
しかし,Pの従前の叱責や全員の面前での非難・署名要求という誘発事情があり,Xはその後も勤務に就こうとしていた。
一度の反抗で従業員として不適格,あるいはこれに準ずるやむを得ない事由があると断定するのは困難である。
事情の詳細によるが,懲戒に至らない指導等の余地も考慮し,普通解雇は濫用として無効と考える。
(3) Yは予告も予告手当支払もしていない。
就業規則33条ただし書は労基法20条を排除しない。
同条1項ただし書の労働者の責めに帰すべき事由は,生活保障としての予告を失わせてもやむを得ないほど重大なものを要し,本件行為では足りない。
3項及び19条2項による監督機関の除外認定の有無も確認する。
したがって即時解雇としての効力は生じない。
ただし,細谷服装事件判決によれば,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後30日経過又は所定の予告手当支払の時から効力が生ずる。
即日帰宅命令だけで固執と即断せず意思を解釈する必要がある。
予告違反だけで永久に無効になるとは主張せず,16条違反を中心に据える。
その実体的無効は期間経過や手当支払で治癒されない。
(4) Xは労働契約上の権利を有する地位の確認と,解雇期間中の賃金支払を求める。
就労の意思・能力があり,Yの受領拒絶で就労できない場合は,旧民法536条2項により賃金請求権を失わない。
予告手当は,予告不足を理由とする賃金請求との関係を整理し,有効終了を前提とする予備的請求として検討する。
解雇無効から損害賠償まで当然に導くことはできない。
2 設問2
(1) Yは,経歴詐称を当初解雇の補強事由として追加する方法と,別に解雇する方法を区別して検討すべきである。
卒業証明書を偽造して提出した態様は悪質で,重要な経歴詐称又は不正な採用として40条1号に当たり得る。
しかし,卒業が採否・配置・処遇に及ぼす重要性は不明である。
接客係としての実際の能力,約2年の勤務と常勤化,従前の評価も踏まえ,形式的該当と解雇に値する重大性を分けて判断する。
(2) 山口観光事件判決は,懲戒が企業秩序違反への秩序罰であるため,処分時に認識していなかった非違行為を,特段の事情なく当該懲戒の有効性の根拠とできないとした。
本件は普通解雇であり,同じ結論を直ちに採ることはできない。
普通解雇では契約の存続を困難にする事情を客観的に判断するので,解雇時に存在した詐称は原則として追加できると考える。
ただし,理由を限定した通知の趣旨や労働者の防御上の不利益を無視した信義則違反の追加は許されない。
Yは紛争の一回的解決という理念だけでなく,詐称により損なわれた採用上の信頼,32条7号への該当性及び16条上の相当性を具体的に主張する必要がある。
理由追加を封じると,解雇時に客観的な信頼破壊があっても,当初解雇の無効から新たな解雇までの賃金負担がYに生じる。
他方,追加を許せばXの訴訟上の見通しと防御を害するから,詐称の具体的内容を示して反論の機会を確保すべきである。
追加が認められて当初の普通解雇が有効となっても,予告の問題と退職手当の支給義務は残り,懲戒固有の不支給効果まで遡って生じさせることはできない。
(3) 追加が認められない場合等に備え,当初解雇が無効である場合に雇用を終了させるという予備的意思表示として,新たな懲戒解雇をすることも考えられる。
40条1号の該当性に加え,労契法15条・16条に照らし,詐称の重要性,偽造の態様及び勤務実績を評価する。
就業規則上の手続を確認し,弁明等の機会も考慮する。
証明書偽造は単なる経歴の不記載より悪質であるが,専門学校卒業が採用でどの程度重視されたかは不明である。
常勤化までの勤務実績を覆す信頼侵害の立証がないまま,最も重い懲戒を有効と断定することはできない。
Yは採否への影響と実績を考慮しても雇用継続が困難な理由を具体化し,説明できなければ新たな懲戒解雇を選ぶべきではない。
普通解雇を遡って懲戒解雇に転換するものではなく,当初の普通解雇は制裁ではないから二重処分とも直ちにはいえない。
新たな解雇が有効なら,その効力発生前までの賃金請求権は残り,以後は発生しない。
懲戒解雇なら40条により退職手当は不支給となる。
当初解雇が無効なのに退職手当を既に支払っていれば,その法律上の原因を欠く給付について不当利得返還を検討する。
ただし,賃金との一方的相殺は当然にはできない。
懲戒解雇事由に当たる行為を理由に,新たな普通解雇を選ぶことも可能である。
その場合も32条と16条の要件を満たす必要があり,退職手当は支給する。
予告又は予告手当を履行し,懲戒解雇を選ぶ場合も名称だけで予告除外としない。
終了日が変われば賃金及び退職手当を再計算し,普通解雇の場合には既払金を当然に没収せず,規程による退職手当額との差額を清算する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
| 番号 | 評価対象 | 答案・解説の対応 |
|---|---|---|
| 1 | 普通解雇と特定し,懲戒解雇と区別する | 本件は普通解雇 |
| 2 | 解雇の実体面と予告手続を別の法規範として整理する | 実体面では労働契約法16条 |
| 3 | 成績不良の評価に有意な事実を摘出して解雇事由に当てはめる | Dは将来の警告 |
| 4 | 反抗的態度の重大性を誘発事情等と併せて具体的に評価する | 誘発事情 |
| 5 | 就業規則該当性・客観的合理性・社会的相当性の位置付けを示して説得的に評価する | 行為の程度,勤務実績 |
| 7 | 予告又は予告手当の欠如を労基法20条の独立問題として論じる | 労働基準法20条 |
| 8 | 労働者帰責事由による予告除外と就業規則の関係を検討する | 生活保障としての予告 |
| 9 | 細谷服装判決の効力発生条件を踏まえ,予告違反を絶対的無効としない | 即時解雇に固執 |
| 11 | 解雇無効の効果として労働契約上の地位確認請求を示す | 地位の確認 |
| 12 | 解雇無効と賃金支払請求を接続する | 旧民法536条2項 |
| 14 | 当初解雇への理由追加と別個の再解雇という二つの対応を区別する | 別に解雇する方法 |
| 15 | 経歴詐称の重要性・態様等を検討し,形式的事由該当だけで済ませない | 形式的該当と解雇に値する重大性 |
| 16 | 山口観光判決の懲戒解雇に関する理由と本件普通解雇との差を論ずる | 山口観光事件判決 |
| 18 | 理由追加を否定する立場では,普通解雇でも制限される根拠を説得的に示す | 解説・普通解雇でも理由追加を制限する立場 |
| 19 | 新たな懲戒解雇について就業規則該当性と実質的相当性を審査する | 労契法15条・16条 |
| 20 | 当初解雇が無効の場合に備えた予備的な解雇の意思表示を説明する | 予備的意思表示 |
| 21 | 新たな解雇の効力発生時と賃金請求権の発生期間を対応させる | その効力発生前までの賃金 |
| 22 | 既払退職金と後の懲戒解雇等の関係を具体的に整理する | 不当利得返還 |
| 23 | 懲戒解雇事由がある場合にも普通解雇を選択する余地と効果を検討する | 新たな普通解雇を選ぶ |
| 6・10・13 | 周知論の過大記載,除外認定,損害賠償 | 設問1(3)及び(4)。周知論は広げず,根拠のない損害賠償も避ける。 |
| 17・24 | 追加の具体的意味・配分 | 設問2(2)・(3)で防御上の不利益と各枝の効果を示す。 |
(2) 設問1:事由と予告違反を混ぜない
成績不良と反抗の双方を,勤務実績,誘発事情及び改善可能性へ結び付ける。
公式資料は具体的事情が十分でないことを踏まえて一定の方向を示すことを求めており,解雇無効という結論だけで足りない。
予告をしないことは,社会的相当性の一事情にとどめず20条の問題として扱う。
細谷服装判決の「即時解雇に固執しない限り」という留保と,実体的な解雇権濫用が治癒されないことを分ける。
除外認定は採点実感だけが少数答案の検討として取り上げた発展事項であり,それを全答案の必須に格上げしない。
(3) 設問2:理由追加と新たな解雇の効果
普通解雇でも理由追加を制限する立場は,理由を示して解雇した使用者の選択,労働者の防御,解雇当時の判断と後の訴訟との関係などから説明できる。
採点実感は,説得的に追加を否定した答案を高く評価している。
ただし,山口観光判決は懲戒解雇の事件であり,普通解雇へ当然に同じ結論が及ぶと説明してはならない。
肯定説でも,紛争の一回的解決だけを掲げるのではなく,当初解雇時の既存事実を使う理由と当事者への効果を示す必要がある。
追加が否定される場合に備えた新たな解雇は,別の意思表示であり,当初の普通解雇を遡って懲戒化するものではない。
新たな解雇の効力発生までの賃金,退職金不支給条項,既払金の法律上の原因の有無まで追うことで,設問の「対応」を具体化できる。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
学歴が採用・処遇にどこまで影響したか,解雇予告の除外認定の有無,該当する手続規定等は問題文だけでは確定しない。
答案はこれらを不明のまま結論に必要な条件として扱う。
労基法20条の重大帰責性,普通解雇の理由追加及び新たな解雇の相当性は,具体的事情に依存する解釈・評価である。
不法行為による損害賠償,刑事責任,採用意思表示の取消しの独立した論述は,本答案では広げていない。
既払退職金を返還請求できることと,賃金から当然に控除できることも同一ではない。
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他年度の比較では,無期・有期や解雇の種類の前提をそろえる。
3 本問の論点に関連する記事
① 中途採用における使用者側の留意点――募集・選考・内定・試用期間の実務(AI作成)(https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/08/20/chuto-saiyo-shiyosha-ryuiten/)
後年の実務記事は参考案内であり,試験当時の法状態の根拠には用いていない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
① 法務省・令和元年司法試験問題(選択科目)(https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf):PDF22〜23頁,労働法第1問。
② 法務省・令和元年司法試験論文式試験問題出題趣旨(https://www.moj.go.jp/content/001305186.pdf):PDF33頁の労働法第1問から34頁の第2問見出し直前まで。
③ 法務省・令和元年司法試験の採点実感(選択科目)(https://www.moj.go.jp/content/001308864.pdf):PDF31〜32頁の第1問,31頁の科目総論,34〜35頁の科目全体の評価・末尾。
④ 法務省・平成31年司法試験の実施日程等について(https://www.moj.go.jp/content/001265952.pdf):PDF1頁の表。選択科目は5月15日。
⑤ 法務省・平成31年司法試験受験案内(https://www.moj.go.jp/content/001273105.pdf):PDF1頁の2。選択科目は9時30分〜12時30分。
2 法令
① 労働契約法(平成三十年法律第七十一号による平成31年4月1日施行版)(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128/20190401_430AC0000000071)15・16条。
② 労働基準法(平成31年4月1日施行版)(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049/20190401_430AC0000000071)13・19・20・24条。
③ 民法(平成31年1月13日施行版)(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20190113_430AC0000000072)536条2項・703条。
法令の当時版はe-Govの公式改正履歴と当該版の公的API取得本文で照合した。
3 裁判例
① 最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決・昭和30年(オ)第93号(細谷服装事件)(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-54823.pdf):全2頁の理由を確認した。
② 最高裁第一小法廷平成8年9月26日判決・平成8年(オ)第752号(山口観光事件)(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-62805.pdf):全2頁の理由を確認した。
4 確認状態
試験実施日は令和元年5月15日と公式日程の原本で確認した。
出題法令の公式基準日自体は未確認であり,本記事が用いる試験実施時の分析基準と区別する。
公式資料の実読範囲から評価対象を抽出し,重みと答案への対応は本記事が独自に判断した。
判決原文と当時の条文による確認は,公式資料の紹介とは別に行った。
採点実感が許容する理由追加否定説や懲戒解雇否定説は,採用しないことだけで誤答となるものではない。
参考とした他年度記事は形式・表示構成のために用い,本問の法的内容の根拠にはしていない。