第1 この記事の対象と結論
令和2年司法試験の倒産法第2問は,事業を維持したままD社へ譲渡するため,破産と民事再生のどちらが適するかを,三つの方策から比較する問題です。
本稿では再生手続の申立てを助言する構成を採り,開始前融資,抵当権の処理,不可欠な仕入先の維持を検討します。
1 対象と資料の状態
問題本文と,法務省の出題の趣旨・採点実感の関連範囲を読んで校正した個別問題の記事です。
答案の法令基準時は試験実施日の令和2年8月12日で,現在の実務への助言を目的とするものではありません。
| 方策 | 破産での問題 | 再生の中心制度 | 答案の着眼点 | 資料状態 |
|---|---|---|---|---|
| D社の融資 | A社の開始前借入れは当然には財団債権にならない | 120条の共益債権化 | 開始前に必要な資金を確保する趣旨と不可欠性 | 両資料実読済み |
| E銀行の抵当権 | 別除権行使を止める制度がなく,消滅許可も実行申立てで阻止され得る | 31条と148条 | 中止と消滅の補完関係 | 両資料実読済み |
| F社の旧債権 | 取引維持を理由とする同種の例外弁済制度がない | 85条5項後段 | 少額性と事業継続への著しい支障 | 両資料実読済み |
2 結論を支える比較
再生を選ぶという結論だけでは十分ではありません。
必要な融資を受け,工場・敷地を保持し,部品供給を維持できる仕組みを,趣旨・要件・事実・効果の順に説明することが中心です。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 独自の評価単位
以下の43項目は公式資料から独自に抽出したもので,法務省の公式採点基準・公式配点ではありません。
「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」の区分と,重みは別の指標です。
高評価や条件付きの項目を,すべての答案が累積して書くべき必須事項に置き換えないでください。
負例は,記載量を増やす項目ではなく,誤った処理や過剰記載を避けるための項目です。
2 五段階の共通基準
重み5は,採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのものです。
重み4は,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)です。
重み3は,どちらか一方が明示する中核の理由付けです。
重み2は,一方が軽い表現で触れる補強又は典型的な誤りです。
重み1は,一方が控えめに触れるだけの事項です。
本稿では両資料に現れるだけで自動的に重み4とせず,具体的に何を検討させ,どの程度取り上げたかを判断しています。
3 件数と重み5の所在
重み1は0件,2は1件,3は12件,4は19件,5は11件で,合計N=43,重み合計W=169です。
重み5は番号1・2・4・10・15・21・25・28・30・38・43です。
番号10・25・38は高評価の機会であり,条文の指摘を超えた理由付けや制度間の関係を評価する位置付けです。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
精密機械を製造販売するA社は,令和2年4月末の資産が約10億円,負債が約13億円で,資金繰りが悪化しています。
代表者Bが5月1日に弁護士Cへ相談し,財務状態が良好な同業のD社へ事業を譲渡する方針について,E銀行以外の債権者は代金額も含めて賛成しています。
D社は申立て直後・開始前の資金援助を3000万円以内で検討していますが,優先弁済を懸念しています。
E銀行は工場・敷地の抵当権者で,被担保債権の残額は2億円です。
A社は担保財産を1億円,Eは1億8000万円と評価し,Eは速やかな担保権実行を表明しています。
F社は製造に不可欠な部品を供給し,代替調達は極めて困難です。
4月仕入分480万円の5月15日支払がなければ,取引を打ち切る意向です。
2 設問が求めること
Cの立場から,破産と再生を比較し,事業譲渡まで事業を維持するための三方策を踏まえ,どちらの申立てを助言するかを論じます。
①開始前融資の優先性,②抵当権実行の阻止と抵当権消滅,③F社との取引維持が指定された検討対象です。
D社への譲渡を目的に据え,制度の紹介だけで終わらず,事案に即した助言まで到達する必要があります。
問題文にない保全管理人の選任事情や,F社との契約類型を確定事実として補わないことも大切です。
第4 評価項目と重み
1 全評価項目
番号は記事全体の通し番号です。
各行に区分と由来を付し,出典はPDFの物理頁で示します。
「記載なし」は関連範囲を実読した結果であり,法的な誤りや不要性を意味しません。
番号20の別除権協定は,任意交渉を検討する構成で適用される許容分岐です。
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 三つの指定方策を破産手続と再生手続で比較する。(必須/両者由来) | 5 | P23「破産手続による場合と再生手続による場合とを比較」 | P5「比較の視点」 |
| 2 | 事業を維持継続してD社へ譲渡する目的に即して制度を選ぶ。(必須/両者由来) | 5 | P23「本件事業を維持継続した上でD社に」 | P5「どちらの申立てをすべきか」 |
| 3 | 開始前の原因に基づくD社の貸金は原則として破産債権となる。(必須/両者由来) | 3 | P23「開始前の原因により生じた債権」 | P3「D社の貸金」 |
| 4 | 民事再生法120条による開始前融資の共益債権化を指摘する。(必須/両者由来) | 5 | P23「第120条による共益債権化」 | P3「民事再生法第120条」 |
| 5 | 同条の対象を再生申立て後・開始前の借入れに特定する。(必須/両者由来) | 3 | P23「いわゆる救済融資」 | P3「再生手続開始前に資金援助をするD社」 |
| 6 | 事業継続に欠くことができない行為という120条の要件を示す。(必須/両者由来) | 4 | P23「その要件を踏まえつつ」 | P3「再生債務者の事業の継続に欠く」 |
| 7 | 共益債権化によりD社が再生債権者に優先して弁済を受けると説明する。(必須/両者由来) | 3 | P23「後に優先的な弁済を受ける」 | P3「同条の制度の説明」 |
| 8 | 必要な救済融資を確保して事業継続を可能にする制度趣旨を説明する。(必須/両者由来) | 4 | P23「当該制度が民事再生法に設けられている趣旨」 | P3「制度趣旨に言及する」 |
| 9 | 資金繰りの窮迫と事業維持に照らしD社の融資の不可欠性を当てはめる。(必須/両者由来) | 4 | P23「事案に即して当該制度の適用可能性」 | P3「借入れの不可欠性」 |
| 10 | 120条の制度趣旨から要件を解釈し,その解釈と事案の当てはめを順に示す。(高評価/採点実感由来) | 5 | 関連範囲に記載なし | P3「制度趣旨を基に要件の解釈をした上で」 |
| 11 | D社への開始前融資対応を155条1項ただし書の再生計画に委ねない。(負例/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P3「再生計画による対応を念頭に置くことは適切な方策」 |
| 12 | D社の破産債権性に紙幅を割き,120条の要件等の説明を圧迫しない。(負例/採点実感由来) | 2 | 関連範囲に記載なし | P3「論述に多くの紙幅を割く答案」 |
| 13 | E銀行の抵当権は別除権で,開始のみでは実行を阻止できないとする。(必須/両者由来) | 3 | P23「別除権者(破産法第65条)」 | P3「抵当権の実行を阻止する方策」 |
| 14 | 破産には再生法31条に相当する担保権実行の中止手段がないと比較する。(必須/出題の趣旨由来) | 3 | P23「抵当権の実行を止めるための手段がない」 | 関連範囲に記載なし |
| 15 | 民事再生法31条の担保権実行手続中止命令を指摘する。(必須/両者由来) | 5 | P23「第31条による担保権の実行手続の中止」 | P3「民事再生法第31条」 |
| 16 | 31条の再生債権者の一般の利益への適合要件を示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「趣旨やその要件を踏まえつつ」 | P3「再生債権者の一般の利益に適合すること」 |
| 17 | 31条の競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがない要件を示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「各制度の適用可能性」 | P3「競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないこと」 |
| 18 | 一時的な実行留保による不利益と不当な損害を区別して評価する。(高評価/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P3「一時的に抵当権の実行が留保される」 |
| 19 | 事業価値の維持・譲渡による一般利益とE銀行の不当損害を事案に即して当てはめる。(必須/両者由来) | 4 | P24「事案に即して各制度の適用可能性」 | P3「事案に即した当てはめ」 |
| 20 | 両手続で別除権協定による抵当権抹消を交渉する可能性を押さえる。(許容分岐/両者由来) | 3 | P23「いわゆる別除権協定」 | P4「別除権協定の締結に向けた交渉」 |
| 21 | 民事再生法148条の担保権消滅許可制度を指摘する。(必須/両者由来) | 5 | P23「第148条による担保権消滅」 | P3「同法第148条及びその制度」 |
| 22 | 148条の対象財産が事業継続に欠くことのできないものである要件を示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「その要件を踏まえつつ」 | P4「事業の継続に欠くことができないもの」 |
| 23 | 不可欠財産の保持による事業継続を確保する担保権消滅制度の趣旨を説明する。(必須/両者由来) | 4 | P24「各制度が併せて民事再生法に設けられている趣旨」 | P4「同法第148条の要件や同条の制度趣旨」 |
| 24 | 工場・敷地の事業上の役割を148条の不可欠性へ具体的に当てはめる。(必須/両者由来) | 4 | P24「事案に即して各制度の適用可能性」 | P4「事案に即した当てはめ」 |
| 25 | 中止だけでは一時的,消滅だけでは実行が先行し得るため,両制度が補完すると説明する。(高評価/両者由来) | 5 | P24「各制度が併せて」 | P4「両者は互いに補完し合って」 |
| 26 | 中止・消滅制度があることにより別除権協定の交渉も可能になると論じる。(高評価/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P4「このような制度の存在により」 |
| 27 | 破産法186条の任意売却型担保権消滅制度の存在を押さえる。(必須/両者由来) | 4 | P23「破産法第186条以下」 | P4「破産法第186条に基づく担保権消滅制度」 |
| 28 | E銀行が破産法187条に基づき実行を申し立てると消滅許可を阻止できるとする。(必須/両者由来) | 5 | P23「同法第187条参照」 | P4「同法第187条に基づく担保権の実行の申立て」 |
| 29 | 破産の消滅制度が本件の不可欠財産保持・D社への事業譲渡を確保する手段とならないと評価する。(必須/両者由来) | 4 | P23「D社への譲渡に役立つ制度であるとは言い難い」 | P4「担保目的財産の保持という本問での要請にそぐわない」 |
| 30 | 民事再生法85条5項後段の早期弁済許可を本件の対応手段とする。(必須/両者由来) | 5 | P24「第85条第5項(後半部分)」 | P4「民事再生法第85条第5項後段」 |
| 31 | 85条5項の前段と後段の趣旨・要件の違いを区別する。(必須/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P4「その前段(前半)との区別」 |
| 32 | 85条5項後段が裁判所の許可を要する制度であると示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「弁済許可の制度」 | P4「裁判所による許可」 |
| 33 | 85条5項後段に再生債権の少額性が必要と示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「その要件を踏まえつつ」 | P4「再生債権の少額性」 |
| 34 | 早期弁済しなければ事業継続に著しい支障を来す要件を示す。(必須/両者由来) | 4 | P24「その要件を踏まえつつ」 | P4「事業の継続に著しい支障」 |
| 35 | 480万円を債務総額・資産状況等に照らして少額と評価する。(必須/両者由来) | 4 | P24「事案に即して当該制度の適用可能性」 | P4「再生債権の少額性が求められていること」 |
| 36 | 代替調達が極めて困難な不可欠部品の供給停止を著しい支障へ結び付ける。(必須/両者由来) | 4 | P24「本件事業に欠かせない部品の調達先」 | P4「事業の継続に著しい支障を来すこと」 |
| 37 | 再建型手続で取引先を維持し事業継続を図るための例外弁済という制度趣旨を説明する。(必須/両者由来) | 4 | P24「当該制度が民事再生法に設けられている趣旨」 | P4「再建型倒産手続における取引先維持の必要性」 |
| 38 | 制度趣旨から少額性・著しい支障を解釈した上で事案を丁寧に当てはめる。(高評価/採点実感由来) | 5 | 関連範囲に記載なし | P4「制度趣旨に遡って要件」 |
| 39 | 破産には取引維持のため旧債権を例外弁済する同種の明文制度がないと比較する。(必須/両者由来) | 4 | P24「弁済を可能とする明文の根拠規定はない」 | P5「③の方策として有効な手段がない」 |
| 40 | 本件を85条2項の中小企業保護の問題として処理しない。(負例/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P4「同条第2項による弁済許可の問題とする答案」 |
| 41 | F社への緊急弁済を155条1項ただし書の再生計画に委ねない。(負例/採点実感由来) | 3 | 関連範囲に記載なし | P4「同法第155条第1項但書」 |
| 42 | 制度紹介にとどまらず,なぜ破産には同種の事業継続保護制度がないかを制度趣旨から比較する。(高評価/両者由来) | 4 | P23「破産手続ないし再生手続の特徴や違い」 | P5「なぜそれが破産手続にはないのか」 |
| 43 | 三方策の比較結果を自らの理由付けで申立て選択の助言へ結び付ける。(必須/両者由来) | 5 | P24「自らの考え方を論じ,結論を示す」 | P5「自らの言葉で論じ,結論を明示」 |
第5 模範解答
1 前提と表記
以下は2500字以内の一つの答案例で,唯一の正解答案ではありません。
法令名・条番号は試験当時の法状態を基準とし,答案中の再生法は民事再生法を指します。
工場等の価額は裁判所の価額決定等によって確定するので,A社の主張する1億円で当然に抵当権が消えるとは扱いません。
2 答案例
1 申立ての選択
Cは,再生手続開始の申立てを助言すべきである。
破産でも事業を継続して譲渡することは可能であるが,本件では事業を維持してD社へ譲渡するために必要な三方策について,再生の方が有効な制度を備えている。
2 D社の開始前資金援助
開始前の原因による貸金債権は,財団債権に該当しない限り破産債権であり,優先弁済できない。
破産には,A社自身の開始前借入れについて,裁判所の許可だけで当然に財団債権化する救済融資の一般規定はない。
再生では,申立て後開始前に事業の継続に欠くことができない借入れをする場合,裁判所はその請求権を共益債権とする許可をすることができる(民事再生法120条1項)。
権限を付与された監督委員の承認によることもできる(同条2・3項)。
開始前にも必要な融資を確保し,事業価値と将来の弁済原資を維持するため,融資者に優先性を与える制度である。
A社は資金繰りが悪化し,新規借入れも困難で,事業維持ができない状態にある。
D社の3000万円以内の支援は,事業を譲渡まで継続するために不可欠と認められ,事前に許可等を得れば,D社の貸金債権は共益債権となり,随時,再生債権に先立って弁済される(121条1・2項)。
再生計画成立後の対応では,直ちに融資を求められるD社の懸念を十分に除けない。
3 E銀行の抵当権
抵当権は両手続で別除権となり,手続外で行使できる(破産法65条,民事再生法53条)。
まず,Eとの別除権協定により抵当権を抹消してD社へ譲渡することを目指すが,Eは実行方針を明らかにしており,合意できない場合にも備える必要がある。
破産には再生法31条に相当する実行中止制度がない。
破産法186条の消滅許可も,財産を任意売却して換価するための制度であり,Eが所定期間に実行申立ての証明書面を提出すれば不許可となる(187条1項,189条1項)。
したがって,Eの意向に反して工場等を確保し,D社への事業譲渡を実現する有効な手段とはならない。
再生では,競売が申し立てられた場合,再生債権者の一般の利益に適合し,競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがなければ,相当期間の中止を命じ得る(31条1項)。
財務状態が良好なD社が譲受けを予定し,他の債権者も代金額を含め賛成しているので,事業価値を保って一体的に譲渡することは一般の利益に適合する。
Eの回収が一時的に遅れることだけを不当な損害とせず,担保価値の保全,譲渡による回収の見込み,中止期間を踏まえて要件充足を主張すべきである。
さらに,事業継続に不可欠な工場・敷地について,価額相当額の納付による担保権消滅許可を申し立てる(148条)。
担保価値に相当する回収を確保しつつ,不可欠な財産を事業に利用し続ける制度である。
A社の1億円という評価にEが異議を述べれば,価額決定請求を受け,評価人の評価に基づき裁判所が価額を定める(149・150条)。
所定額の納付時に抵当権が消滅し(152条),Eの不同意のみで妨げられないが,納付資金は別途確保する必要がある。
消滅制度だけでは決定前の実行を防げず,中止だけでは一時的な猶予にとどまるため,両制度が補完して事業継続を確保する。
この備えが,Eとの協定交渉を可能にする点にも意義がある。
4 F社との取引維持
4月仕入分480万円は,支払期が5月15日であっても,原則として旧債権である。
破産では手続外弁済が原則禁止され(100条1項),取引維持のためこれを例外弁済する同種の明文制度はない。
再生でも計画外弁済は禁止されるが,少額債権を早期弁済しなければ事業継続に著しい支障を来すときは,裁判所は弁済を許可できる(85条1項・5項後段)。
これは単に手続の円滑な進行を図る同項前段と異なり,不可欠な取引を維持して事業再建を図るための例外である。
少額性は総債務や資産状況に照らして相対的に判断すべきで,480万円は総債務13億円の約0.37%にとどまる。
しかも,他の調達先の確保は極めて困難で,F社が供給を打ち切れば製造事業の継続に著しい支障が生じる。
よって,同項後段の弁済許可を求めるべきであり,Fの中小企業性等を要する同条2項や,将来の再生計画による処理は本件に適さない。
清算と公平な換価配当を基軸とする破産と異なり,再生には事業継続を保護するこれらの仕組みがある。
以上の比較を踏まえ,再生を選び,資金援助,工場等及び不可欠な取引を確保してD社への譲渡を図るべきである。
以上
3 制度趣旨から要件・事実・効果へ
D社の問題では,融資者を優先するだけでなく,申立て後の不安定な時期にも資金を供給してもらい,事業価値を維持する趣旨を説明します。
この趣旨から,本件事業を譲渡まで続けるための融資の不可欠性を判断し,120条の許可等による共益債権化へ接続します。
破産の保全管理人の借入れが財団債権となる別の構成はありますが,保全管理命令の必要性などの前提を要します。
A社自身の通常の借入れが,許可だけで一般に優先化される制度と混同してはいけません。
E銀行の問題では,31条の中止は実行を一時留保する制度,148条の消滅は不可欠な財産を担保負担から解放する制度として区別します。
中止がなければ消滅の実現前に競売が進むおそれがあり,消滅がなければ中止期間が終わった後の実行を防げません。
この時間と効果の違いを示すことで,番号25の補完関係を説明できます。
D社の財務状況や他の債権者の賛成は一般の利益の評価に使い,Eの回収の一時的な遅れだけで不当損害を認定せず,担保価値や回収見込みも検討します。
A社の評価額を一方的に採用せず,価額決定と納付資金の確保を留保する必要があります。
F社への480万円は,支払期だけを根拠に共益債権と扱いません。
85条5項後段は,少額債権を早期弁済しなければ事業継続に著しい支障が生じる場合の例外です。
少額性を480万円という絶対額だけで決めず,総債務等との相対関係から判断し,代替調達の困難と供給停止を著しい支障へ結び付けます。
2項の中小企業者保護や5項前段の手続の円滑な進行と,後段の事業継続保護を区別してください。
4 答案と各評価項目の対応
全43項目について,答案の実在する対応文を掲げます。
短い引用は所在を示すもので,その一語だけで要件・理由付けが充足するという意味ではありません。
高評価項目は前後の趣旨説明・事実評価を併せて読み,許容分岐を採らない答案へ番号20を強制しないでください。
| 番号 | 重み | 区分 | 答案中の対応箇所 | 解説上の位置付け |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 必須 | 「本件では事業を維持してD社へ譲渡する」 | 総論。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 2 | 5 | 必須 | 「D社へ譲渡するために必要な三方策」 | 総論。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 3 | 3 | 必須 | 「財団債権に該当しない限り破産債権」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 4 | 5 | 必須 | 「民事再生法120条1項」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 5 | 3 | 必須 | 「申立て後開始前」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 6 | 4 | 必須 | 「事業の継続に欠くことができない借入れ」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 7 | 3 | 必須 | 「随時,再生債権に先立って弁済」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 8 | 4 | 必須 | 「融資者に優先性を与える制度」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 9 | 4 | 必須 | 「事業を譲渡まで継続するために不可欠」 | ①資金援助。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 10 | 5 | 高評価 | 「開始前にも必要な融資を確保し」 | ①資金援助。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 11 | 3 | 負例 | 「再生計画成立後の対応では」 | ①資金援助。誤処理・過剰記載を避ける。 |
| 12 | 2 | 負例 | 「救済融資の一般規定はない」 | ①資金援助。誤処理・過剰記載を避ける。 |
| 13 | 3 | 必須 | 「抵当権は両手続で別除権」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 14 | 3 | 必須 | 「実行中止制度がない」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 15 | 5 | 必須 | 「31条1項」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 16 | 4 | 必須 | 「再生債権者の一般の利益に適合」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 17 | 4 | 必須 | 「不当な損害を及ぼすおそれがなければ」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 18 | 3 | 高評価 | 「一時的に遅れることだけを不当な損害とせず」 | ②担保権。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 19 | 4 | 必須 | 「他の債権者も代金額を含め賛成」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 20 | 3 | 許容分岐 | 「Eとの別除権協定により」 | ②担保権。条件付きの交渉構成。 |
| 21 | 5 | 必須 | 「担保権消滅許可を申し立てる」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 22 | 4 | 必須 | 「事業継続に不可欠な工場・敷地」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 23 | 4 | 必須 | 「不可欠な財産を事業に利用し続ける」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 24 | 4 | 必須 | 「事業継続に不可欠な工場・敷地」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 25 | 5 | 高評価 | 「両制度が補完して事業継続を確保」 | ②担保権。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 26 | 3 | 高評価 | 「Eとの協定交渉を可能にする」 | ②担保権。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 27 | 4 | 必須 | 「破産法186条の消滅許可」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 28 | 5 | 必須 | 「実行申立ての証明書面を提出すれば不許可」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 29 | 4 | 必須 | 「D社への事業譲渡を実現する有効な手段とはならない」 | ②担保権。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 30 | 5 | 必須 | 「85条1項・5項後段」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 31 | 3 | 必須 | 「同項前段と異なり」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 32 | 4 | 必須 | 「裁判所は弁済を許可できる」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 33 | 4 | 必須 | 「少額債権を早期弁済」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 34 | 4 | 必須 | 「事業継続に著しい支障」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 35 | 4 | 必須 | 「総債務13億円の約0.37%」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 36 | 4 | 必須 | 「他の調達先の確保は極めて困難」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 37 | 4 | 必須 | 「不可欠な取引を維持して事業再建」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 38 | 5 | 高評価 | 「少額性は総債務や資産状況に照らして相対的」 | ③取引維持。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 39 | 4 | 必須 | 「同種の明文制度はない」 | ③取引維持。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
| 40 | 3 | 負例 | 「Fの中小企業性等を要する同条2項」 | ③取引維持。誤処理・過剰記載を避ける。 |
| 41 | 3 | 負例 | 「将来の再生計画による処理は本件に適さない」 | ③取引維持。誤処理・過剰記載を避ける。 |
| 42 | 4 | 高評価 | 「清算と公平な換価配当を基軸とする」 | 総合比較。発展的な理由付けの評価機会。 |
| 43 | 5 | 必須 | 「以上の比較を踏まえ,再生を選び」 | 総合比較。趣旨・要件・事実・効果の対応を確認。 |
5 補足と採用しなかった枝
F社が継続的給付義務を負う契約であれば,破産法55条・民事再生法50条による履行拒絶制限等も問題になります。
ただし,その契約類型は与件から確定できず,4月分の旧債権の緊急弁済という本問の中心を当然に置き換えるものでもないため,答案では主ルートに採用していません。
これは公式資料から抽出した追加評価項目ではなく,法令に基づく条件付き補足です。
試験後の改正や裁判例で本問の評価基準を書き換えてはいません。
第6 関連記事
1 同年度の記事
同年度の別問題の記事は,ここで内容を比較する資料として用いていません。
2 他年度の倒産法
令和3年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
3 関連論点
事業継続と清算の制度上の違いは,救済融資,別除権,早期弁済を横断して検討すると整理しやすくなります。
第7 出典及び確認状態
1 法務省の公式資料
令和2年司法試験論文式試験問題・選択科目の物理4頁の倒産法第2問を使用しました。
令和2年司法試験論文式試験問題出題趣旨は物理23頁の第2問開始位置から24頁の倒産法末尾まで実読済みです。
令和2年司法試験の採点実感・選択科目は物理1頁の科目総論と第2問の出題方針,3頁の第2問開始位置から5頁の関連記載・末尾注記まで実読済みです。
同じPDFに収録された他問題の本文を本問の法的根拠として用いていません。
確認日は令和8年10月18日です。
2 法令と証拠の区別
e-Gov法令APIの破産法・令和2年4月1日施行版と,民事再生法・同日施行版の関連条文を独立に確認しています。
公式資料に書かれた評価の記述と,本稿による評価単位の分割・重み・答案例は区別しています。
判例データベースの網羅検索はしていないため,未検索を裁判例の不存在の根拠にしていません。
本稿の模範解答・解説・重み付けは独自の分析であり,公式の合格保証や採点結果ではありません。