第1 民事再生でも滞納国税の納付原資が必要である
会社が民事再生を申し立てても,滞納国税が通常の借入金や買掛金と同じ割合で減額されるわけではない。
一般優先債権に当たる国税については,再生計画による再生債権の弁済とは別に,納税資金と納付時期を確かめる必要がある。
本記事は,法人の通常再生について,申立て前の準備からスポンサーへの事業譲渡までを想定し,弁護士と税理士が確認する事項を整理する。
地方税,社会保険料,個人再生及び会社更生は,それぞれの制度に即した別の検討を要する。
法令と国税庁資料の確認基準日は令和8年10月14日である。
第5の資金繰りの見方及び第6の資料整理は,条文と行政資料を踏まえた実務上の提案である。
第2 再生計画,国税の徴収及び議決権を分ける
1 一般優先債権は随時弁済する
国税徴収法8条は,国税優先の原則を定める。
一般の優先権がある国税の債権は,共益債権に当たるものを除き,民事再生法122条1項の一般優先債権となり,再生手続によらず随時弁済される(同条2項)。
一般優先債権は再生債権から除かれているので(同法84条1項),再生計画の再生債権者向けの減額条項だけで,この滞納国税の元本を減らすことはできない。
再生計画には,共益債権及び一般優先債権の弁済に関する条項も定めなければならない(民事再生法154条1項2号)。
「計画に納税予定を記載すること」と,「計画によって国税の権利を減額すること」は区別する必要がある。
2 再生手続開始だけで国税の滞納処分は止まらない
民事再生法39条1項が中止する強制執行等は,再生債権に基づくものを対象とする。
一般優先債権である国内の国税の滞納処分は,再生手続開始の決定だけでは中止されない。
同法122条4項による強制執行等の規律を,国税の滞納処分にそのまま当てはめることもできない。
納税資金の不足があるときは,税務署の徴収担当と協議し,後記の猶予制度の要件,申請及び許可の範囲を確認する。
3 国税の納付相談と計画案への投票は別である
民事再生法87条の議決権は,再生債権者に認められるものである。
一般優先債権としての国税を持つことだけでは,再生計画案の議決権は生じない。
税務署との納付協議が進んでも,銀行や取引先等の議決権者による計画案可決の見込みは,別に検討する必要がある。
第3 分割納付の相談と法定の猶予を区別する
1 相談中・申請中・許可済みを分ける
分割納付の相談をしただけで,納税の猶予又は換価の猶予が認められたものとして資金繰り表を作ることはできない。
国税庁の案内では,猶予が認められると猶予許可通知書が送付される。
相談記録,申請書控え及び許可通知書を分けて保管し,対象税目・金額・期間・分割納付日・担保・差押えの扱いを確かめる。
納税の猶予がされた国税については,国税通則法48条1項により,猶予期間内の新たな督促及び滞納処分は,交付要求を除き禁止される。
既にされた差押えの解除は別の判断であり,猶予を受ければすべての差押えが当然に消えるわけではない(同条2項)。
換価の猶予についても,許可の対象と差押え・換価に関する効果を個別に確認する。
2 申請による換価の猶予と職権による換価の猶予
申請による換価の猶予は,国税徴収法151条の2による。
一時の納付が事業継続等を困難にするおそれ,納税について誠実な意思,所定の申請・添付書類等が必要となり,原則として納期限から6か月以内に申請する。
他の国税の滞納についても,同条2項の除外対象を含め,税目ごとの確認が必要である。
6か月を過ぎた場合や他の国税の滞納がある場合でも,税務署長の職権による換価の猶予(国税徴収法151条)を受けられることがある。
ただし,期限を過ぎれば必ず職権で猶予されるという制度ではない。
国税庁は,原則として担保が必要である一方,猶予額100万円以下,期間3か月以内,又は提供できる担保がない場合は担保不要と案内している。
3 納税の猶予と「取引先が再生を開始した」場合
通常の納税の猶予は,国税通則法46条2項の災害,事業の休廃止,事業上の著しい損失等の事実と,それによる一時の納付困難を要件とする。
再生会社自身の損失と納付能力を,決算書,仮決算及び収支資料により検討する必要がある。
再生手続を開始したという事実だけから,納税の猶予が自動的に適用されることはない。
国税庁の「通常の納税の猶予の要件等」には,取引先等である債務者の民事再生開始により,売掛金等の回収が不能又は著しく困難になった場面が掲げられている(4(3)ホ(ニ)J)。
これは,回収難を受けた納税者側の猶予該当事実に関する記載であり,再生会社自身への一律の猶予を定めた記載として読むべきではない。
同資料の4(1),4(3)及び4(4)に従い,該当事実と納付困難との関係を確認する。
第4 猶予期間と延滞税を別に計算する
通常の納税の猶予及び換価の猶予は,原則1年以内であり,要件を満たせば延長されることがある。
延長を含む期間は,通常の納税の猶予では国税通則法46条7項,換価の猶予では国税徴収法152条3項・4項により,原則として合計2年が上限となる。
再生計画の弁済期間が長くても,国税の猶予期間が当然に同じ長さになるわけではない。
延滞税の軽減又は免除は,猶予の種類・理由・期間等に応じて国税通則法63条等で判断する。
元本の納付予定と延滞税の試算を分け,免除等が未確定の金額を当然にゼロとして扱わない。
法定の猶予と国税元本の減額を混同せず,許可条件に沿って継続して納付できるかも確認する。
第5 スポンサーの提示額をそのまま弁済原資にしない
1 入金と支払を時期別に並べる
スポンサーの事業譲渡代金には,契約締結,裁判所の許可等の条件,実際の支払日及び税負担が伴う。
提示額が大きくても,納税や事業継続費用の支払に間に合うとは限らない。
譲渡に伴う消費税・法人税等は,対象資産,対価の配分及び欠損金等により税理士が別に試算する。
| 区分 | 確認する内容 | 資金繰りへの反映 |
|---|---|---|
| スポンサー代金 | 契約,条件,入金日,価格増額の確度 | 確定額と交渉中の額を分ける |
| 滞納国税 | 税目,元本,延滞税,納期限,猶予通知 | 月別納付額を別枠で計上する |
| 事業継続・手続費用 | 給料,仕入れ,予納金,専門家費用 | 法的区分と支払時期を確認する |
| 担保・留置のある資金 | 銀行約定,担保範囲,取立金の額 | 自由に使える資金かを確かめる |
| 再生債権の弁済 | 清算時の見込回収,計画の弁済期 | 控除後の資金で試算する |
この表は実務上の整理例であり,法定の計算式や,すべての支払の優先順位を定めたものではない。
預金残高又は手形取立金が存在しても,銀行の留置権や別除権の対象であれば,自由に使える原資とは限らない。
最高裁平成23年12月15日判決は,商事留置権のある取立委任手形の取立金について,被担保債権額を上回らない限り,通常,再生計画の弁済原資や事業原資に予定できないと述べている。
2 開始の見込みと計画遂行の見込みを分ける
民事再生法25条3号は,計画案の作成・可決又は計画認可の見込みがないことが明らかな場合を,開始申立ての棄却事由とする。
申立て時にスポンサー増額や分割納付が未確定でも,その事実だけで直ちに同号に該当するとは限らず,交渉の具体的な状況を説明する必要がある。
一方,認可段階では,再生計画が遂行される見込みがないときは不認可となる(同法174条2項2号)。
弁護士と税理士は,増額も猶予も実現する場合だけでなく,一方が実現しない場合の入出金も試算すると,資金不足が生じる時点を把握しやすい。
開始決定が得られたことを,猶予許可又は計画の遂行可能性の確認と同じ意味に扱わない。
第6 弁護士と税理士が共有する資料
弁護士は,開始原因・棄却事由,担保権の対象,事業譲渡の条件,主要債権者の議決権及び計画の作成・遂行可能性を確認する。
税理士は,税目と納期限別の滞納一覧,申告・納付の状況,決算・仮決算,延滞税の試算及び譲渡後に発生する税負担を整理する。
両者で同じ月別資金繰り表を使い,税務署との相談内容,申請済みの制度,許可済みの条件及び未確定の収入を更新していく。
少なくとも,納付予定表,猶予申請書の控え,許可通知書,差押関係書類,スポンサーの条件書及び銀行取引約定を照合する。
再生計画が否決され破産へ移る場合の租税の区分は,関連記事で扱う。
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第8 出典
民事再生法(e-Gov法令検索):21条,25条,33条,39条,53条,84条,87条,122条,154条,174条。
国税徴収法(e-Gov法令検索):8条,151条,151条の2,152条。
国税通則法(e-Gov法令検索):46条,48条,63条。
国税庁「納税に関する総合案内」:3「国税を納期限までに納付することが困難な方」の猶予制度の概要・申請方法・許可通知書。
国税庁「第2章 第1節 通常の納税の猶予の要件等」:4(1),4(3)及び4(4)。
最高裁第一小法廷平成23年12月15日判決・平成22年(受)第16号:裁判所PDF4頁~5頁の多数意見。