第1 理由の追加と理由提示不備は別の問題である
行政処分の理由が後から増えたときは,追加された理由を主張できるかという問題と,処分時に必要な理由を示していたかという問題を分けて検討する必要がある。
情報公開の非公開決定について,最高裁平成11年11月19日判決は,取消訴訟において通知書に付記していなかった非公開理由を主張することを認めた。
一方,最高裁平成4年12月10日判決は,当該事件で通知書の理由付記が不十分であると判断し,後日の口頭説明によってその瑕疵が治癒したとはいえないとした。
両判決は矛盾するものではない。
前者は訴訟で審理できる実体上の非公開理由,後者は処分時の理由付記という手続上の要件を扱っている。
したがって,「理由が追加されたから当然に違法である」とも,「後から詳しく説明すれば当初の理由提示不備も解消する」とも,一律にはいえない。
本記事は,この二つの情報公開判決を中心に,通知書,理由説明書及び訴訟上の主張を比較する方法を整理する。
現行法の確認日は令和8年10月6日であるが,両判決が判断したのは当時の地方公共団体の条例であり,現行の行政機関情報公開法や行政手続法を直接適用した判決ではない。
第2 最高裁平成11年11月19日判決が認めたこと
1 事件と結論
最高裁平成11年11月19日第二小法廷判決は,平成8年(行ツ)第236号,民集53巻8号1862頁の事件である。
逗子市情報公開条例に基づく非公開決定について,市の監査委員が住民監査請求に関して事情聴取した文書等が問題となった。
非公開決定では争訟の方針に関する情報という理由が示され,訴訟では意思決定過程における情報という別の理由も主張された。
最高裁は,通知書に記載されていなかったという理由だけで後者の主張を排斥した原審の判断を是認せず,原判決を破棄して差し戻した。
追加理由を認めた結果,最高裁が全対象文書の非公開を最終的に適法と確定したわけではない。
非公開事由に該当するかどうかを,具体的内容に即してさらに審理する必要があるとしたのである。
2 理由通知の目的と訴訟での主張
判決本文6頁の三・2は,理由通知の目的について,実施機関の判断の慎重・公正妥当を担保して恣意を抑制し,不服申立てに便宜を与えることにあると説明する。
その目的は,具体的な理由を記載して通知することでひとまず実現され,条例に,通知書の理由以外の理由を非公開決定取消訴訟で主張することまで禁止する趣旨を読み取れる規定はないと判断した。
この判断を援用するときは,①対象となる処分と文書,②適用法令の理由提示規定,③新たに主張された不開示事由を特定する。
情報公開以外の許認可,課税又は裁量処分についても無条件に理由を差し替えられるという一般命題へ広げることは適切でない。
3 追加理由の中身は別途審査される
同判決7頁~8頁は,監査が終了した後であっても,将来の同種監査への影響を含めて,具体的な情報の内容を審理する必要があるとする。
ある手続が終了したという事実だけで,あらゆる将来の支障を否定できるわけではない。
反対に,将来への支障があり得ると抽象的に述べれば不開示にできるという判断でもない。
追加理由への反論は,主張の可否だけで終えず,その法定要件と前提事実を対象情報ごとに点検する必要がある。
理由の追加が許されることと,その理由が事実・証拠によって裏付けられていることとは,別の問題である。
第3 最高裁平成4年12月10日判決が否定したこと
1 根拠条項だけを示した通知書
最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決は,平成4年(行ツ)第48号,裁判集民事166号773頁の事件である。
当時の東京都公文書の開示等に関する条例に基づく非開示決定の通知書には,条例9条8号に該当する旨だけが付記されていた。
最高裁は,この通知書が条例7条4項の理由付記の要件を欠くとした原審の判断を是認し,行政側の上告を棄却した。
判決本文2頁~3頁は,非開示事由のどれに該当するかを,その根拠とともに知り得る理由が必要であるとする。
ただし,文書の種類・性質等とあいまって請求者がそれらを当然知り得る場合は別であるという留保もある。
「条番号しか書かれていなければ,どの事件でも必ず違法になる」と判旨を広げてはならない。
2 後日の口頭説明による治癒
同判決3頁の二は,後日,実施機関の補助職員が請求者に口頭で非開示理由を説明したとしても,付記理由不備の瑕疵が治癒したとはいえないと判断した。
ここで否定されたのは,当該事件における後日の口頭説明による治癒である。
この判決を,訴訟で別の実体上の不開示事由を一切主張できないという根拠として引用することはできない。
当初の理由付記の適否を論じるときは,通知書の記載内容と,理由提示を求める規定の趣旨・要件を具体的に検討する。
第4 現行の行政手続法との関係
1 申請拒否処分と不利益処分
行政手続法8条は,申請により求められた許認可等を拒否するときは,原則として,申請者に対し同時に理由を示すことを求め,書面で処分するときは理由も書面で示すことを求める。
ただし,法令上の要件又は公にされた審査基準が客観的指標で明確に定められ,申請内容から不適合が明らかな場合には,申請者の求めがあったときに示せば足りるという例外がある。
同法14条は,不利益処分の理由提示について,処分と同時に示す原則と,理由を示さずに処分すべき差し迫った必要がある場合の例外を定める。
後者の場合には,名宛人の所在不明等の困難な事情があるときを除き,処分後相当の期間内に理由を示さなければならず,書面処分の理由は書面で示す必要がある。
法律が明示的に認める後日の理由提示と,違法な理由提示不備が事後説明で治るという主張を混同しないことが必要である。
2 適用法令を先に確定する
同法3条3項により,地方公共団体の機関がする,根拠規定が条例又は規則に置かれている処分には,同法の申請・不利益処分等の規定が直接適用されない。
当該自治体の行政手続条例,情報公開条例その他の個別規定を確認する必要がある。
国の処分でも,行政手続法の適用除外や個別法の特則を確かめてから,8条又は14条による理由提示の問題を検討する。
裁判所の司法行政文書開示制度も,行政機関情報公開法を直接適用する制度ではない。
司法行政文書開示手続と取扱要綱に基づく制度であり,その苦情申出に情報公開訴訟の判例を援用するときも,規律の共通点と相違点を示す必要がある。
第5 実務では三つの書面を並べて比べる
1 比較表を作る
原処分の通知書,審査請求段階の理由説明書及び訴訟の準備書面を,次の観点で並べると,追加の内容を特定しやすい。
理由説明書で追加された主張と,訴訟での追加主張を区別し,平成11年判決が直接判断したのは後者であることも明示する。
| 確認項目 | 通知書 | 理由説明書・準備書面との比較 |
|---|---|---|
| 対象情報 | 不開示とされた記載部分 | 同じ部分か,対象や情報の定義が広がったか |
| 法的根拠 | 条・項・号と具体的理由 | 別の号の追加か,同じ号の説明の補充か |
| 前提事実 | 処分当時の事実 | 当時存在した事実か,処分後に新たに生じた事実か |
| 支障の説明 | 公開から支障に至る経過 | 支障の内容,対象者,業務及び根拠資料が変わったか |
| 理由提示 | 通知書で分かる理由 | 後の説明と切り離して,当初の記載が十分であったか |
2 処分後の証拠と処分後の事実を区別する
処分後に作成された証拠が,処分時に既に存在した事実を裏付ける場合と,処分後に初めて生じた事実を処分の根拠にする場合とは異なる。
資料の作成日だけで前者を排除せず,何の時点の事実を証明する資料なのかを確認する。
取消訴訟における違法判断の基準時は,行政処分の適法性の基準時と効力発生時期で整理している。
3 反論を二つに分ける
理由提示が不十分だと主張する場合は,①通知書のどの記載ではどの要件の根拠が分からないか,②当該制度が要求する理由の程度を示す。
追加された実体上の不開示事由に対しては,別に,対象情報,条文の要件,支障の具体性及び公表状況を検討する。
そのうえで,追加・差替え自体の許否が問題となる場合は,当該処分に適用される法令と判例の射程を論じる。
情報公開・個人情報保護審査会への反論の構成は,意見書の書き方と提出方法を参照されたい。
答申を根拠に用いるときは,公表答申書の頁,判断主体及び射程の確認も併せて行う。
第6 出典
①最高裁平成11年11月19日第二小法廷判決・平成8年(行ツ)第236号・民集53巻8号1862頁及び判決本文1頁~8頁,特に6頁の三・2及び7頁~8頁の三・3。
②最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決・平成4年(行ツ)第48号・裁判集民事166号773頁及び判決本文1頁~4頁,特に2頁~3頁の一及び3頁の二。
③行政手続法3条・8条・14条(e-Gov法令検索)。
④裁判所「司法行政文書開示手続」及び裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱前文・記第8の2。