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AI時代の若手弁護士育成―判断を任せる範囲・監督・結果の振り返り(AI作成)

第1 作成経験を,判断と結果の経験へつなげる

1 AIの文章を整えるだけでは見えにくい経験がある

生成AIに草案や論点候補を作らせる場合,若手弁護士が修正した書面の数だけでは,自ら何を判断し,どの結果を確かめたかが分からない。
本記事では,登録後の若手弁護士を育成する場面で,判断を任せる範囲,行為前の監督,結果の振り返りを対応させる方法を提案する。
一定の経験数やAIの正答率を満たせば独り立ちできるとする基準ではなく,この方法の教育効果を実証したものでもない。

望月弁護士のAIと育成に関する論考は,判断が帰結につながる経験を重視する。
この発想を実事件へ応用するときは,失敗を経験させるために依頼者の権利を危険にさらさず,監督者の介入と依頼者への説明を設計する必要がある。
本記事の表は,令和8年10月5日時点の法令・会規を踏まえた運用例であり,法定の育成様式ではない。

2 目的・採否・反対案・検証を分ける

判断経験は,①依頼者の目的と制約を確認する,②採る方針を決める,③反対意見や代替案を検討する,④原資料で前提を検証する,という場面へ分けて考えられる。
AIが候補を出しても,誰が理由を検討し,採否を決め,説明したかを残す。
目的は望む解決と制約の把握であり,先に決めた勝訴結論へ証拠を合わせることではない。

第2 AIや上司の回答を見る前の判断を残す

1 短い事前メモを用いる

若手には,AIや上司の回答を見る前に,①重要な事実,②不利な資料,③考えられる選択肢,④予測と理由,⑤分からないこと,⑥相談すべき条件を短く書いてもらう方法が考えられる。
全作業で長い論文を求めず,争点と資料に戻れる程度の記録にする。
AIを利用した後は,回答との差だけでなく,自分の前提が変わった理由と採用しなかった案も残す。

予測が当たったことだけを評価せず,必要な情報を求めたか,反対資料を見たか,分からないことを上申したかを確認する。
形式の整ったAI文章を提出したことと,その内容を独立して理解・判断したことは区別する。

2 資料の追加で以前の判断を点検する

新しい資料,相手方の反論,依頼者の希望の変化があったときは,以前のメモのどの前提が変わったかを特定する。
追記した回答が整って見えても,以前の反対証拠や留保が落ちていないか,記録から出力へ逆に照合する。
検証済みという印をそのまま引き継がず,影響する部分を再確認して,確認日と対象版を更新する。

第3 任せる範囲と,相談する条件を先に決める

1 草案作成と,外部へ行う行為を分ける

調査や草案を任せることと,相手への提案,依頼者への重要説明,裁判所への提出を任せることは,別に決める必要がある。
受任体制や権限を確認したうえで,金額・期限・争点・対外的な約束などの条件に応じて,行為前に監督者へ相談する範囲を定める。
期限を失う行為や,一度伝えると交渉に影響する発言は,最終書面の査読だけでは十分に回収できないことがある。

判断場面若手に任せる例行為前に確認する条件の例
調査・草案原資料の抽出,候補比較,反対資料の指摘原典未確認,適用時点が不明,重大な不利益
交渉選択肢と想定反応の準備金額・責任の承認,新たな約束,交渉方針の変更
依頼者への説明確認済み事項の報告案結論変更,重要なリスク,判断を求める事項
提出・期限日程整理,提出資料の準備提出前の最終版,期限疑義,権利の放棄・制限

この表の境界は,各事件の重要性,若手の経験,監督者の確認可能性,契約上の担当に応じて調整する。
一律の金額や経験年数だけで判断せず,予定する行為の不可逆性と,修正できる時点を考慮する。

2 監督者が不在のときの経路を決める

相談条件を定めても,監督者につながらなければ機能しない。
代替担当,緊急連絡先,判断を留保する条件,依頼者へ伝える担当を決め,期限前に余裕を持って上申できるようにする。
監督者の確認待ちを理由に期限を失わないよう,担当者だけでなく体制全体の滞留も確認する。

共同受任する弁護士の意見が異なる場合には,意見を協議・調整するとともに,弁護士職務基本規程41条が定める,依頼者に不利益を及ぼすおそれがある場合の事情の説明にも留意する。
同条を,すべての職員やすべての育成場面に一律に適用される規定として扱うものではない。

第4 結果を,当時の情報に戻って振り返る

1 結果だけで当時の判断を採点しない

振り返りでは,①当時使えた情報,②選べた案,③予測,④採用理由,⑤実際の結果,⑥途中で分かったことを対応させる。
結果を知った後の情報を,当初から分かっていたものとして評価しない。
よい結果でも偶然や相手方の事情があり得る一方,結果が悪かったことだけで,当時の選択が不合理だったとは限らない。

予測と結果が違った場合は,事実把握,証拠評価,法的検討,説明,交渉のどこに原因があったかを検討する。
AIの出力だけでなく,監督者の指示,情報の渡し方,確認時間,相談条件の不足も分析対象に含める。
若手だけへ原因を帰属させる振り返りでは,体制上の問題を見落とすおそれがある。

2 次に任せる範囲へ反映する

振り返りの結論は,次の事件で任せる判断,確認する資料,相談条件,監督者の支援へ具体的に戻す。
同席回数や処理件数とは別に,若手が実際に判断し,結果を確認した場面を記録する。
対外行為のリスクが大きい場合は,模擬事例や内部比較で練習し,実事件では監督を厚くする選択肢もある。

第5 育成時間と,秘密を守る記録を確保する

1 効率化で生じた時間の用途を決める

AIで作成時間が短くなっても,自動的に教育時間が増えるわけではない。
事前メモの確認,行為前の相談,原典照合,結果の振り返りについて,担当者と予定時間を事務所の業務計画へ組み込む方法が考えられる。
育成の原資を確保する必要性と,その費用を個別の依頼者へ請求できるかは別に検討する。

2 集計台帳と,事件の詳細記録を分ける

案件配分の集計には,判断場面,担当,監督,振り返り日など必要な項目を残し,事件の秘密や詳細な資料を無制限に複写しない。
具体的な判断過程はアクセスを限定した事件記録・育成記録に残し,集計台帳から管理番号で対応させる方法が考えられる。
AIの共有知識庫やメモリを用いる場合も,別の依頼者の情報が検索・共有される範囲を確認する。

弁護士情報セキュリティ規程は,情報の取扱い,組織・人的措置,外部委託等について定めている。
学習不使用という条件だけで,共有先や検索権限の管理が済むわけではない。
また,民法644条,職務基本規程35条~37条等を踏まえ,事件処理と依頼者への必要な報告・調査を育成より後回しにしない。

第6 関連記事と出典

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2 出典

① 民法(644条,645条)
② 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(23条,35条~37条,41条,82条。37条2項は努力規定としての文言であり,82条2項の位置付けにも留意する。)
③ 日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程」(3条~6条)
④ 望月宣武のAIと弁護士育成に関する論考(判断と帰結をつなぐ教育上の提案。本記事の監督工程の効果を実証した資料ではない。)