メインコンテンツへスキップ
       

確定判決の後に取消し・相殺・解除・建物買取請求をして争い直せるか―基準時後の形成権行使と既判力に関する最高裁判例5件(AI作成)

第1 この記事の結論

民事訴訟で判決が確定した後に,相手方に対する取消し,相殺,解除,建物買取請求等の意思表示をして,判決の結論を争い直したいという相談がある。
本記事は,この場面について,最高裁判所の判例5件を判決原文で確認し,実務上の確認事項を整理したものである。

結論は,次のとおりである。
①確定判決の既判力は,事実審の口頭弁論終結時(基準時)の権利関係についての判断に生じ,基準時より前に存在した事由に基づいてその判断を争う主張は,後の訴訟では原則として許されない。
②基準時の後に意思表示をしても,それだけでは「基準時後の事由」にならない。
判例は,取消権と白地手形の補充権については後の主張を許さず,相殺と借地上の建物の買取請求については請求異議の事由として主張できるとしている。
③前の訴訟で主張しなかった別の取得原因(相続による共有持分の取得等)を後の訴訟で主張することも,既判力に抵触するとされている。
④基準時前から存在した解除原因に基づく解除を判決確定後に主張できるかを正面から判断した最高裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらなかった。
⑤前の訴訟で主張することがおよそ期待できなかった事由には既判力による遮断が及ばないとする見解(期待可能性説)があるが,強い批判もあり,これに頼ることを前提に訴訟を組み立てるのは危険である。
⑥したがって,前の訴訟の段階で,取消し・解除・相殺等の原因を全部調べ,必要なものは予備的にでも主張しておくことが最も確実な対応である。

第2 既判力の基準時と遮断の仕組み

1 既判力は基準時の判断に生じる

確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。
給付訴訟や確認訴訟の判決の主文は,事実審の口頭弁論終結時における権利関係の存否を判断したものと理解されている。
当事者が攻撃防御の資料を提出できるのは口頭弁論の終結時までだからである。

既判力は,後の訴訟の裁判所が,基準時の権利関係について前の判決の判断を前提にしなければならないという形で働く。
その結果として,当事者が基準時より前に存在した事由を持ち出して前の判断と矛盾する主張をしても,その主張は排斥される。
これが,いわゆる既判力の遮断効である。

2 条文上の手掛かり

民事執行法35条2項は,確定判決についての請求異議の事由は「口頭弁論の終結後に生じたものに限る」と定めている。
確定判決に基づく強制執行を止めようとする債務者は,基準時より前の事由を請求異議の訴えで主張できないことになる。
確定判決の効力が及ぶ人の範囲は,当事者,当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人,口頭弁論終結後の承継人等である(民事訴訟法115条1項)。

3 なぜ遮断されるのか

遮断の根拠は,二つの面から説明されている。
一つは,確定判決による紛争の解決を蒸し返させず,勝訴した当事者の地位と法的安定を守るという制度的な面である。
もう一つは,前の訴訟で主張立証の機会が与えられていたのに,これを使わなかった以上,その結果は自分の責任として引き受けるべきだという面である。

この二つは,第4の3で触れる期待可能性説をどう評価するかに関わる。

第3 最高裁判例5件

1 取消権:基準時後に行使しても争えない(最高裁昭和55年10月23日判決)

最高裁昭和55年10月23日第一小法廷判決(昭和55年(オ)第589号,民集34巻5号747頁)は,売買契約による所有権の移転を請求原因とする所有権確認訴訟で,請求を認容する判決が確定した後の事案である。
敗訴した当事者は,判決確定後に,売買契約は詐欺によるものであるとして取消しの意思表示をし,後の訴訟で所有権の存否を争った。

判決は,当事者が売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され,請求認容の判決が確定したときは,その後の訴訟で取消権を行使して所有権の存否を争うことは許されないとした。
前の訴訟で取消権を行使し,その効果を主張することができたのにしなかったことが,理由の中心である。

2 白地手形の補充権:特段の事情がない限り争えない(最高裁昭和57年3月30日判決)

最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決(昭和54年(オ)第110号,民集36巻3号501頁)は,手形要件の一部を欠く白地手形に基づく手形金請求が,その欠缺を理由に棄却されて確定した後に,白地部分を補充して再び手形金を請求した事案である。

判決は,前の訴訟と後の訴訟は目的である権利の存否を異にするものではないとした。
その上で,手形の所持人が前の訴訟の事実審の最終口頭弁論期日以前に既に白地補充権を有しており,これを行使して手形金を請求することができたのに行使しなかった場合には,その後に補充して手形上の権利を主張することは,「特段の事情の存在が認められない限り」前の判決の既判力によって遮断されるとした。

3 相殺:口頭弁論終結後の相殺は請求異議の事由になる(最高裁昭和40年4月2日判決)

最高裁昭和40年4月2日第二小法廷判決(昭和38年(オ)第1066号,民集19巻3号539頁)は,債務名義となった判決の口頭弁論終結前には相殺適状にあったにすぎず,口頭弁論終結後に相殺の意思表示をした場合の請求異議の事案である。

判決は,相殺は相殺適状に達した時に当然に効力を生ずるのではなく,相殺の意思表示によって効力を生ずるとして,口頭弁論終結後の相殺の意思表示による債務の消滅を請求異議の事由として主張することは許されるとする大審院の判例を改める必要はないとした。
当時の民事訴訟法545条2項(現在の民事執行法35条2項に当たる)の適用上の判断であり,判決文は「既判力」の語を用いていない。

4 建物買取請求権:判決確定後に行使して請求異議で主張できる(最高裁平成7年12月15日判決)

最高裁平成7年12月15日第二小法廷判決(平成4年(オ)第991号,民集49巻10号3051頁)は,借地上に建物を所有する賃借人が,賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権(当時の借地法4条2項)を行使しないまま,請求を認容する判決が確定した事案である。

判決は,賃借人はその後に建物買取請求権を行使して請求異議の訴えを提起し,その効果を異議の事由として主張することができるとした。
その理由として,建物買取請求権は,前の判決で確定された建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり,別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であることを挙げている。
現行法では,借地権の存続期間満了の場合の建物買取請求権は借地借家法13条1項に定められている。

5 別の取得原因:前の訴訟で主張しなかった相続も争えない(最高裁平成9年3月14日判決)

最高裁平成9年3月14日第二小法廷判決(平成5年(オ)第921号,集民182号553頁)は,所有権確認請求を棄却する判決が確定した後に,前の訴訟の原告が,前の訴訟で主張していなかった相続による共有持分の取得を主張した事案である。

判決は,所有権確認請求を棄却する判決が確定したときは,原告が事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断に既判力が生じるから,その時点以前に生じた共有持分の取得原因事実を後の訴訟で主張することは既判力に抵触するとした。
この判決には反対意見がある。

6 5件の整理

権利・事由判例判決確定後の主張判例が示した理由の要点
詐欺による取消権最判昭和55年10月23日許されない前の訴訟で取消権を行使し,その効果を主張できたのにしなかった
白地手形の補充権最判昭和57年3月30日特段の事情がない限り許されない前の訴訟の時点で補充権を有し,行使して請求できたのに行使しなかった
相殺最判昭和40年4月2日請求異議の事由になる相殺は意思表示によって効力を生ずる(大審院の判例を維持)
借地上の建物の買取請求最判平成7年12月15日請求異議の事由になる請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なる,別個の制度目的と原因に基づく権利
前の訴訟で主張しなかった別の取得原因最判平成9年3月14日許されない基準時に所有権を有しない旨の判断に既判力が生じる

第4 解除権と,判決確定後に初めて分かった事実

1 解除権について判例は見当たらない

賃料不払を理由とする解除に基づく明渡請求が棄却されて確定した後に,基準時前から存在した別の解除原因(例えば用法違反)を理由に解除し,再び明渡しを求めることができるかは,実務でも問題になる。
この点を正面から判断した最高裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,「解除」「既判力」「口頭弁論終結後」等の語を組み合わせて調べた範囲では見当たらなかった。
見当たらないことは,判例が存在しないことの証明ではない。

令和6年司法試験の論文式試験(民事系科目第3問)は,まさにこの場面を素材としている。
問題文の会話は,賃貸借の終了に基づく明渡請求権という同じ訴訟物で再び訴えることを前提に,基準時後の解除権の行使の主張が遮断されないとするのは難しいとする説が強いと述べている。
法務省の出題の趣旨も,基準時前の用法遵守義務違反の主張が既判力によって遮断されることを検討の前提としている。
解除権を取消権と同じように扱えば,基準時前に存在した解除原因による解除の主張は遮断されることになる。

2 基準時後に生じた解除原因は別である

これに対し,基準時より後に新たに生じた事由は,既判力によって遮断されない(民事執行法35条2項参照)。
例えば,明渡請求が棄却された後に,新たに賃料不払が続いた場合や,新たな用法違反が始まった場合には,その新しい事実を理由とする解除と明渡請求は,前の判決によって妨げられない。
ただし,その解除が有効か(信頼関係の破壊があるか等)は,後の訴訟で改めて審理される。

3 期待可能性説とその限界

前の訴訟で主張立証の機会があったことを遮断の正当化根拠とみる立場からは,前の訴訟で主張することがおよそ期待できなかった事由には既判力による遮断が及ばないとする見解(期待可能性説)が唱えられている。
法務省が公表した令和6年司法試験の出題の趣旨も,この見解を,遮断を否定するアプローチとして紹介している。

他方で,同じ出題の趣旨は,この見解に対する批判として,次の点を挙げている。
①既判力の制度的な効力からすれば,例外を認めることには慎重であるべきこと。
②再審事由を定める民事訴訟法338条1項5号は,刑事上罰すべき他人の行為によって攻撃防御方法の提出を妨げられた場合でさえ,再審の訴えによって初めて確定判決を覆すこととしており,同条2項は有罪判決の確定等を要件としていること。
③期待可能性の有無を後の訴訟の裁判所が審理することになり,審理の負担が重くなること。

また,同年の採点実感は,期待可能性がなかったといえる場合を厳格に解する答案を高く評価し,「知らなかった」ことを単純に無過失と同視して安易に期待可能性がなかったとする答案を,慎重さを欠くとしている。
判例も,白地補充権について「特段の事情」がある場合の例外を残すにとどまり(第3の2),期待可能性説を採用したものは見当たらない。
実務では,「判決確定後に初めて知った」というだけで再び訴えることはできないと考えて準備するのが安全である。

第5 実務での対応

1 前の訴訟の段階で行うこと

①解除による明渡請求をするときは,賃料不払だけでなく,用法違反,無断転貸,その他の約定違反の有無を,訴え提起前に調べる。
②取消原因(詐欺・強迫・錯誤等),解除原因,相殺に使える反対債権がある場合は,主位的主張が認められないときに備え,予備的にでも主張しておく。
③相手方の主張する事実に,別の解除原因や取消原因を基礎付ける事実が含まれていないかを確かめる。
④所有権確認等の訴訟では,売買,時効取得,相続等,考えられる取得原因を全部検討してから主張を絞る。

2 判決確定後に相談を受けたときの確認手順

①後の訴訟の訴訟物が前の訴訟と同じか(同じ権利関係の存否を争うものか)を確認する。
②持ち出そうとする事由が,基準時の前に存在したのか,後に新たに生じたのかを,日付で分ける。
③基準時前の事由なら,その権利の性質を確かめる(第3の表)。取消権や別の取得原因であれば,原則として主張できない。
④相殺や建物買取請求のように請求異議の事由になるものは,強制執行の段階での手続(請求異議の訴え)を検討する。
⑤基準時後に生じた新しい事由があれば,その事由を理由とする新たな請求として組み立てる。
⑥期待可能性説に依拠するしかない事案では,前の訴訟の争点・進行,資料へのアクセス,相手方による隠蔽の有無等を具体的に検討し,敗訴の見込みを含めて依頼者に説明する。

3 勝訴した側の対応

後の訴訟を提起された側は,前の判決の確定を主張し,訴訟物が同じであること,持ち出された事由が基準時前に存在したことを,前の訴訟の記録と日付で示す。
期待可能性説を主張されたときは,相手方が前の訴訟の時点でその事実を知り得たことを,問題となる事実の期間・頻度・場所等の具体的事情で示す。

第6 関連記事

①令和6年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目
②別件判決・先行訴訟の準備書面は後訴でどう使われるか
③一部請求で負けた後に残額を請求・相殺できるか
④連帯保証人だけが先に敗訴したとき

第7 出典

1 法令

いずれもe-Gov法令検索で現行の本文を確認した。
①民事訴訟法114条1項,115条1項,338条1項5号・2項
②民事執行法35条2項
③借地借家法13条1項

2 判例

いずれも裁判所ウェブサイトの判決原文で確認した。
①最高裁昭和55年10月23日第一小法廷判決(昭和55年(オ)第589号)民集34巻5号747頁
②最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決(昭和54年(オ)第110号)民集36巻3号501頁
③最高裁昭和40年4月2日第二小法廷判決(昭和38年(オ)第1066号)民集19巻3号539頁
④最高裁平成7年12月15日第二小法廷判決(平成4年(オ)第991号)民集49巻10号3051頁
⑤最高裁平成9年3月14日第二小法廷判決(平成5年(オ)第921号)集民182号553頁

3 公的資料

①法務省「令和6年司法試験の結果について」の「論文式試験出題の趣旨」(民事系科目〔第3問〕は13頁~17頁)
②法務省「令和6年司法試験の採点実感」の「民事系科目」(第3問は21頁~27頁)