第1 保護対象と相手の行為を対応させる
データベースの情報が他のサービスで使われている場合は,まず,何を保護しようとしているのかを特定する必要がある。
個々の事実,独自の文章,情報の選択,分類・関係付け,契約上の利用制限,営業秘密又は限定提供データは,それぞれ成立要件も請求方法も異なる。
収集に長年を費やしたという事情だけでは,これら全てを排他的に利用できる権利が生じるわけではない。
本記事は,令和8年10月4日に確認した現行法令と裁判所公表の判決本文に基づく一般的な実務解説である。
特定のウェブサイトによる模倣又は不正取得を認定するものではなく,以下の保存・対照表の作成方法は本記事の実務上の提案である。
相手が参照したという証拠と,保護される構成・表現を利用したという証拠を区別することが,請求を過度に広げないためにも重要となる。
第2 創作性を具体化する資料
1 情報の選択と体系的な構成
著作権法2条1項10号の3は,情報の集合物で,情報を電子計算機で検索できるように体系的に構成したものをデータベースと定義する。
同法12条の2が保護するのは,そのうち情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものである。
検索できることと著作物であることは別であり,件数,開発費,処理速度又は情報の正確性だけを創作性の説明に置き換えることはできない。
選択については,選べた情報の母集団,採用・除外の基準,実際の選定結果及び基準を変えた履歴を示す。
体系的な構成については,項目の組合せ,分類階層,テーブル間の関係,実データ及び検索結果をそろえ,別の構成も可能であった中でどのような選択をしたかを説明する。
全件収録を目指すDBであっても構成に創作性がある可能性はあるが,「独自の工夫がある」という説明だけでは具体的な保護範囲は分からない。
2 通常の項目と独自の関係付けを分ける
氏名,日付,住所等の一般的な項目,ありふれた並び順,形式の統一又は重複除去は,それだけで創作的な構成となるとは限らない。
関連人物を示す仕組みであれば,どの期間の重なりを採り,どの関係を除外し,どの組合せを表示するかという具体的な構成と実際の情報集合を検討する。
ただし,計算方法というアイデア,プログラムの表現,その結果として構成されたDBは別の対象であり,機能が同じという理由だけでDBの複製を認定しない。
3 制作履歴と権利帰属
設計書,元データ,版ごとの構造,分類の改訂理由,試作版,原稿,公開履歴及び外注契約を保存する。
Gitの最初のコミット日時は,その時に記録されたことの資料であって,制作開始日又は最初の公開日を当然に証明するものではない。
追跡対象外のファイル,移行前の版,復元した資料も区別し,相手による利用時点の構成を再現できるようにする。
自社のサーバーにDBがあることだけで,その著作権が自社に帰属するとは限らない。
外注,共同制作,職務著作,譲渡及び利用許諾を確認し,誰のどの権利について請求できるかを定める。
AIが関与した文章についても,人の創作的な加筆・編集を具体的に確認する。
第3 国内裁判例から分かること
1 構成の共通部分を検討した旅行業DB事件
知財高裁平成28年1月19日判決(平成26年(ネ)第10038号)は,旅行業向けDBの具体的なテーブル,フィールド及び関係付けを検討した。
共通部分を特定し,その部分の創作性及び相手DBで本質的特徴を認識できるかを検討している(判決35頁~40頁,56頁~58頁,71頁~74頁)。
項目の追加,名称変更又は一部だけの利用という事情があっても,保護される構成の共通性を検討する必要がある。
2 抽象的な工夫の説明では足りない顧客DB事件
知財高裁令和2年10月28日判決(令和元年(ネ)第10071号)は,顧客と見込み客の区分,氏名の書換防止,文字化けへの対処等を踏まえても,問題となったDBの著作物性を認めなかった。
正規化についても,創作性を基礎付ける具体的な説明が不足しているとされた(判決65頁~66頁)。
同事件では別の請求について一部の金銭請求が認められており,事件全体が全面的に棄却されたと説明してはならない。
3 パッケージと蓄積後のDBを区別したeBASE事件
東京地裁平成30年3月28日判決(平成27年(ワ)第21897号,平成28年(ワ)第37577号)は,情報が蓄積される前のパッケージと蓄積後のDB,辞書の検索可能性及び制作契約上の権利帰属を区別した(判決35頁~42頁)。
一般不法行為の請求についても,原告が主張する仕様に基づくDBの構築を認定できなかったこと等が問題となった。
この判断を,「DBの模倣は一般不法行為にならない」という一律の規則に置き換えることはできない。
第4 依拠性と保護対象の共通性を別に対比する
1 参照した証拠が示す範囲
相手の出典表示,リンク,取得記録又は参照したとの説明は,依拠性を検討する資料となる。
しかし,事実を参照したことと,創作的な文章・構成を取り込んだことは同じではない。
共通する官公庁資料や第三者資料から同じ結果になる可能性も残した上で,保護対象のどの部分が共通するかを示す。
特徴的な誤り,珍しい表記揺れ,更新の順序又は独自の除外結果が一致する場合は,依拠性についての間接事実となり得る。
誤りが共通の一次資料にもある場合や,後の訂正によって双方が同じ内容になった場合を区別する必要がある。
同じ誤記があること自体は,DBの選択・構成に創作性があることを証明しない。
2 対照表の作り方
①原側の利用時点の版と相手側の版,URL,取得日時及び閲覧条件を固定する。
②共通する事実・一次資料由来の記述を表示する。
③原側の選択・構成・文章のうち,創作性を主張する箇所と理由を示す。
④相手側に残る共通部分,変更・追加された部分及び独立作成の可能性を記載する。
⑤参照・取得を示す資料と,複製・翻案等を示す資料を別欄にする。
⑥確認済み事実,相手の説明,推論及び未確認事項を分ける。
全体の収録率だけで結論を出さず,共通部分に保護される特徴があるかを評価する。
画面の並び替えが違うことだけでDB構成の利用を否定せず,反対に,同じ人物・事件が載っていることだけで構成の利用を認定しない。
ハッシュ値は保存したファイルの同一性を確認する補助であり,公開時期,内容の真実性又は侵害の成立を単独で証明するものではない。
第5 一般不法行為と不正競争を検討する
1 著作権による独占と別の利益
最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決(平成21年(受)第602号,同第603号)は,著作権法6条の保護を受けない北朝鮮映画について,著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益の侵害等の特段の事情がない限り,不法行為を構成しないとした。
事実データの利用を直接判断した事件ではないが,収集費用,競合又は無許諾という事情だけから独占を導く主張には注意が必要である(判決7頁~8頁)。
知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)は,ニュース見出しの著作物性を否定する一方,鮮度,反復継続,営利目的,配信規模及び競合関係等を踏まえて不法行為の損害賠償を認めたが,差止めは認めなかった(判決21頁~24頁)。
この事例だけから「ただ乗りは常に違法」と一般化せず,後の最高裁判決の射程と,個別の保護利益・利用態様を検討する。
2 営業秘密・限定提供データの要件
不正競争防止法2条6項の営業秘密は,秘密管理性,有用性及び非公知性を要する。
同条7項の限定提供データは,業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され,及び管理されている技術上又は営業上の情報であり,営業秘密は除かれる。
現行条文の除外は「営業秘密」であり,旧条文の「秘密として管理されているもの」をそのまま用いない。
一般公開の本文に転載禁止と書くだけで,営業秘密又は限定提供データになるわけではない。
会員向けの一括データ等は,実際の提供先,蓄積量,管理方法及び不正取得・使用・開示の各類型の要件を確認する。
無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データについては,同法19条1項9号ロの適用除外も確認する。
3 契約・負荷・虚偽表示
規約違反は,相手との契約成立,取得時点の規約,同意及び禁止範囲を確認する。
大量取得によるサービス妨害,認証回避,誤認を生む表示又は信用を害する虚偽事実の告知等があれば,その行為と被害を別に立証する。
ただし,robots.txtへの違反や出典の省略だけから,契約違反,不正アクセス又は信用毀損の成立を一括して導くことはできない。
第6 請求と証拠収集を設計する
著作権法112条の差止め,不正競争防止法3条の差止めと,損害賠償はそれぞれ要件を確認する。
一般不法行為の成立から,当然に同じ範囲の差止請求権が生じるわけではない。
アクセス減少だけで損害額を決めず,許諾取引,収益,問い合わせ等と,検索需要・順位変更等の代替原因を調べる。
任意照会の前に両者の版,制作履歴及び取得記録を保存し,照会事項を対象ファイル,期間及び処理方法に限定する。
訴訟では,著作権法114条の3の書類等の提出,民事訴訟法220条以下の文書提出,226条の文書送付嘱託又は234条の証拠保全を,対象・所持者・立証事項・必要性に応じて検討する。
これらは,相手の全DBや全ログを無条件に取得できる制度ではない。
第7 関連記事と調査範囲
自サイトの記事・データを他サイトに利用されたときは,証拠保存,引用・出典表示,流入減少及び初動対応を扱う。
判例データベースを法律事務所の生成AI・RAGに使えるかは,判決本文,民間の要旨及び契約条件の区別を扱う。
本記事の裁判例の説明は,リンク先の公表判決本文の確認範囲に基づく。
判例秘書等での網羅的な検索,個別DBの制作全履歴,実際の不正取得又は損害の確認は行っていない。
個別案件では,利用時点の構造・実データ・制作履歴,権利帰属及び相手の利用箇所をそろえた対照表の作成が必要となる。