第1 両規範の位置付けと比較の対象
弁護士職務基本規程と司法書士行為規範は,自由と独立,公正・誠実,秘密保持,利益相反の回避などの職業倫理を具体化している。
ただし,契約書を作成する規律の強さ,同意で受任禁止を解除できる範囲,業務別の確認事項,違反の法的効果は一致しない。
本記事では,職種全体の厳格さを順位付けせず,問題となる行為,業務,義務を負う主体及び例外を対応させて比較する。
調査の基準日は令和8年10月3日である。
日弁連公表の弁護士職務基本規程は平成16年11月10日制定の会規第70号であり,掲載PDFは平成26年12月5日及び令和3年6月11日の改正を掲げ,後者は令和4年11月1日に施行されている。
司法書士行為規範は,令和4年6月23日・24日の日本司法書士会連合会第87回定時総会で承認され,令和5年4月1日に施行されたものである。
| 比較事項 | 弁護士職務基本規程 | 司法書士行為規範 |
|---|---|---|
| 全体構成 | 13章。1~82条に68条の2があり,本則の独立した条は83本 | 15章・102条 |
| 規律の強さ | 82条が一部の条項を行動指針又は努力目標とする | 各条文の義務・禁止・努力文言を確認する |
| 一般的な契約書作成 | 30条の例外付き義務 | 23条の努力義務 |
| 利益相反の配置 | 27・28条,共同事務所・法人の規定等 | 全業務の25条等と,裁判業務の58条等 |
| 業務別の独立章 | 刑事弁護,組織内弁護士,事件相手方等 | 登記,供託,裁判,成年後見,財産管理,民事信託支援等 |
| 個人への法定懲戒権者 | 所属弁護士会(弁護士法56条2項) | 法務大臣(司法書士法47条) |
いずれの規範も,業務を行う法律上の権限を新設するものではない。
弁護士は弁護士法3条,司法書士は司法書士法3条等による職務・業務の範囲を前提として,各規律を読むことになる。
弁護士側の全文と条文別索引は,弁護士職務基本規程の総合記事で確認できる。
第2 義務・努力目標・契約書・説明の違い
1 弁護士82条と司法書士の努力文言
(1) 弁護士の解釈適用指針
弁護士規程82条1項は,職務の多様性と個別性を踏まえ,自由と独立を不当に侵さないよう実質的に解釈・適用することを定める。
同条2項は,第1章,20~22条,26条,33条,37条2項,46~48条,50条,55条,59条,61条,68条,70条,73条及び74条を,行動指針又は努力目標として解釈・適用する対象に挙げている。
この一覧にあるのは33条であり,複数の依頼者に対する不利益事項の説明を定める32条ではない。
また,37条は2項だけが対象であり,必要な法令の調査を怠ってはならないとする1項まで努力目標になるわけではない。
対象条文と懲戒判断の関係は,82条の行動指針・努力目標で詳しく扱っている。
(2) 司法書士の条項ごとの読み分け
司法書士規範には,弁護士82条2項と同じ形の包括的な列挙はない。
それでも,契約書作成の23条,賠償責任保険加入の40条,不動産登記での公平確保の45条,民事信託支援の81条などは,条文自体に努力を求める文言がある。
包括的な列挙がないことから,全条文を結果の実現を保証する義務として読むことはできない。
2 契約書作成は弁護士が義務,司法書士が努力義務
(1) 弁護士30条の原則と例外
弁護士規程30条1項は,受任に当たり,報酬に関する事項を含む委任契約書の作成を義務付ける。
作成に困難な事由があるときは,その事由がやんだ後に作成する扱いである。
同条2項は,法律相談,簡易な書面作成,顧問契約その他の継続的契約に基づく事件など,合理的な理由がある場合に作成を不要とする。
したがって,すべての依頼で例外なく書面が必要という規定ではないが,原則を単なる推奨へ弱めることもできない。
(2) 司法書士23条と遺産承継業務78条
司法書士規範23条は,依頼の趣旨,報酬及び費用に関する事項を記載した契約書を作成するよう努めることを定める。
この一般規定は,弁護士30条と同じ義務規定ではない。
一方,遺産承継業務の78条は,委任契約書を作成するなどして,受任事務の内容及び範囲を依頼者に明らかにすることを義務付ける。
義務の対象は範囲の明確化であり,契約書の作成はその方法として示されている。
23条が努力規定であることだけから,遺産承継業務でも受任範囲を曖昧にしてよいとはいえない。
3 意思尊重と説明・報告の対象
(1) 意思の尊重と意思表明の支援
弁護士規程22条は委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重することを定め,82条2項の対象となる。
22条2項は,疾病その他の事情で意思を十分に表明できない依頼者について,適切な方法による意思確認の努力を定めている。
司法書士規範10条1項は,意思を尊重して依頼の趣旨に沿う業務を行う義務を定め,2項は意思表明に困難を抱える依頼者への支援の努力を定める。
どちらの規定も,意思表明の困難を判断能力の低下だけに限定してはいない。
(2) 受任時から終了時までの説明・報告
弁護士規程29条1項は,事件の見通し,処理方法,報酬及び費用の適切な説明を求める。
36条は必要に応じた経過・帰趨への影響事項の報告と協議,44条は終了時の説明を定めており,これらは82条2項の列挙対象ではない。
司法書士規範21条は処理方法等の説明を,22条は報酬・費用の金額又は算定方法の明示と十分な説明を求める。
24条2項は必要に応じた経過・重要事項の報告に加え,終了時には経過と結果を遅滞なく報告することを定める。
報酬の相当性については,弁護士24条も司法書士22条2項も,経済的利益,難易,時間及び労力等に照らした適正・妥当性を求めている。
契約書の規律の違いから,報酬の説明や相当性に関する規律まで弱いと推測することはできない。
第3 受任禁止・利益相反・同意の違い
1 応諾義務と不当・不正な依頼
(1) 司法書士法21条の依頼に応ずる義務
司法書士法21条は,正当な事由がなければ依頼を拒めないと定めるが,簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼を除外している。
また,業務の公正を保ち得ない事件を禁止する規範25条など,受任を制約する規定も別に適用される。
依頼に応ずる義務は,受任禁止を無視して依頼を引き受ける根拠にはならない。
(2) 明らかな不当性と調査後に残る不正の疑い
弁護士規程31条は,依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件の受任を禁じる。
司法書士規範28条は,目的,手段又は方法に不正の疑いがあり,合理的な方法で調査してもなお疑いを払拭できない場合の受任を禁じる。
後者を,少し疑いが生じただけで直ちに拒否する規定とも,明白な不正が判明するまでは必ず受任する規定とも読めない。
2 同意による例外は条項ごとに異なる
(1) 弁護士27条・28条の同意者
弁護士規程27条は,従前の相談・受任,現在の相手方からの別事件の依頼,公務・裁判外紛争解決手続での関与等を規律する。
同意の例外は3号に限られ,受任している事件の依頼者の同意を要する。
28条は親族,現在の依頼者・継続的な法律事務提供先,依頼者相互及び自己の経済的利益との相反を加え,次のように同意者を分ける。
①28条1号の親族関係及び4号の自己の経済的利益との相反は,その事件の依頼者。
②28条2号の現在の依頼者等を相手方とする事件は,その事件の依頼者と相手方。
③28条3号の依頼者相互の相反は,その事件の依頼者と他の依頼者のいずれも。
現行の弁護士法25条は9号まであり,法人所属等に関する職務制限も含む。
規程27条の五つの号だけで法律上の制限をすべて確認したことにはならず,27条・28条の利益相反と同意も併せて参照されたい。
(2) 司法書士58条は裁判書類作成も対象
司法書士規範58条の「裁判業務」は,裁判書類作成関係業務と簡裁訴訟代理等関係業務を含む。
認定司法書士が代理人になる場合だけの規定ではない。
58条1項は,相手方から受任している事件,従前の賛助・受任承諾,信頼関係に基づく相談,現在の相手方からの他事件の依頼,現在の依頼者を相手方とする他事件及び現在の依頼者との利益相反を禁止する。
同意の例外は4号の「受任中の事件の相手方から依頼される他の事件」に限られ,受任中の事件の依頼者の同意を要する。
5号・6号に,弁護士28条と同じ同意例外を読み込むことはできない。
58条の裁判業務規制を,登記を含む全業務へそのまま広げることもできない。
登記では,25条の公正を保ち得ない事件の禁止,26条の公務等との関係,27条の公正への懸念の説明,29条の特別関係の告知及び登記業務の規定を重ねて確認する。
3 共同依頼者の対立は受任前と受任後を分ける
弁護士規程32条は,同一事件の複数依頼者間に対立のおそれがあるとき,受任時に辞任の可能性等の不利益を各依頼者へ説明することを求める。
対立が現実化した後は,42条により速やかに事情を告げ,辞任その他の適切な措置を採ることになる。
司法書士規範27条は公正を保ち得ない事由が発生するおそれの説明を,31条は同一事件の複数依頼者間に利益相反が生じた場合の告知と適切な措置を求める。
受任後に25~29条の事由を知った場合には,30条による告知と措置も問題になる。
両規範の事後措置を,常に全員辞任,又は一人だけ辞任すれば常に継続可能という定型へ置き換えることはできない。
具体的な禁止条項,秘密の取扱い及び対立の内容を確認する必要があり,受任時の説明だけで対立発生後の対応が済むわけではない。
第4 秘密・記録・財産・相手方との関係
1 守秘義務の対象と開示例外
(1) 弁護士規程23条と弁護士法23条
弁護士規程23条は,依頼者について職務上知り得た秘密を,正当な理由なく漏らし,又は利用することを禁じる。
弁護士法23条は,職務上知り得た秘密の保持を定め,弁護士であった者にも適用される。
規程の「依頼者」という文言だけから,依頼者以外の秘密が法律上保護されないとはいえない。
(2) 司法書士11条の必要な限度での開示
司法書士規範11条1項は業務上知り得た秘密の保持と利用禁止を定め,司法書士でなくなった後にも及ぶ。
2項は,本人の承諾,法令,自己の権利防御の必要その他の正当な事由がある場合に,必要な限度で秘密を開示できるとする。
これは必要限度を超える開示や,秘密の無制限な利用を許す規定ではない。
2 事件記録と預り金・預り品
(1) 記録作成と秘密の保護
司法書士規範18条は,事件の概要,金品の授受その他の重要事項の記録作成・保管と,保管・廃棄時の秘密等の保護を定める。
弁護士規程18条は保管・廃棄時の秘密等の保護を定めるが,この条文の違いは,弁護士に他の規程や委任関係上の記録義務がないことを意味しない。
(2) 分別管理と終了時の返還
弁護士規程38条は,依頼者,相手方その他の利害関係人から預かった金員の分別保管と状況の記録を求める。
司法書士規範36条は,依頼者から又は依頼者のために受領した金員の分別管理を求め,依頼者のために金品を受領した場合の速やかな報告も定める。
預り品については,弁護士39条と司法書士35条が善良な管理者の注意による保管・管理を求める。
終了時には弁護士45条と司法書士41条による精算・返還等があり,一般的な預り金管理と,後述する財産管理者としての規律を区別する。
3 補助者・紹介対価・依頼者との経済関係
(1) 補助者等への指導監督
弁護士規程19条は事務職員・司法修習生等の違法・不当行為や秘密漏えい・利用を防ぐ指導監督を求める。
司法書士規範19条は常時の補助者の指導監督に加え,業務を包括的に処理させることを禁止する。
(2) 紹介対価等と依頼者保護
広告,非資格者との違法な提携,紹介対価及び違法行為の助長は,弁護士9~14条,司法書士12~17条でそれぞれ規律される。
紹介を受けた対価だけでなく,紹介をした対価を受け取る場合も,弁護士13条及び司法書士12条の禁止を確認する必要がある。
(3) 金銭貸借・保証と賠償責任保険
依頼者との金銭貸借・保証は弁護士25条と司法書士39条が特別の事情のない場合に禁止し,司法書士40条は賠償責任保険加入の努力を定める。
基本規範中の条項の有無だけで,保険制度や他の規程全体の有無まで判断することはできない。
4 相手方代理人を介さない直接交渉
弁護士規程52条は,法令上の資格を有する代理人が選任された相手方について,正当な理由なく,その代理人の承諾を得ない直接交渉を禁じる。
司法書士規範65条1項も代理人の了承を要するが,例外の文言は「特別の事情」であり,裁判業務等の章に置かれている。
司法書士65条2項は,資格者代理人のいない相手方が代理人の役割を誤解している場合,その誤解に乗じて不当に不利益へ陥れることも禁じる。
弁護士側の交渉の範囲や例外,懲戒例は,相手方本人との直接交渉で説明している。
第5 業務別の規律を横断して読む
1 不動産登記と商業・法人登記
(1) 不動産登記の確認・公平・立会
司法書士規範43条は登記原因の調査・確認による真正の担保を,44条は本人・意思・目的物等の確認による実体上の権利関係の把握と確認記録の作成・保管を定める。
45条の当事者間の公平確保は努力規定だが,44条の確認・記録まで努力義務へ変わるわけではない。
46条は,一部当事者から手続中止又は申請取下げの申出があった場合,全当事者の意思を確認して適切な措置を採ることを求める。
47条は補助者に不動産取引の立会を行わせることを禁止し,48条は必要な範囲で他の代理人と連携する努力を定める。
(2) 商業・法人登記の確認と助言
49条と50条1項は,商業・法人登記の真正の実現や実体関係の把握に向けた努力を定める。
しかし,議事録等の書類作成を受任した場合の50条2項は,代表者等に事実・経過等を確認して作成する義務であり,51条の法令遵守の助言も義務として定められている。
(3) 供託の目的と相談者の状況
供託の52・53条は,実体上の権利関係と関連手続を踏まえることや,相談者の状況を把握して役割・内容・方法を説明・助言することを定める。
弁護士規程に同名の独立章がないことから,弁護士がこれらの業務で確認や説明を省略できるとは導けない。
双方のために手続をする弁護士の問題は,登記申請・公正証書・即決和解と弁護士法25条1号で扱っている。
2 本人訴訟支援と認定司法書士の代理
(1) 書類作成による支援と代理権
司法書士規範56条は裁判書類作成関係業務による本人訴訟の支援を,57条は簡裁訴訟代理等関係業務での代理人としての責任と依頼者の自己決定権尊重を定める。
書類作成による支援と,紛争の代理を同じ権限として扱うことはできない。
(2) 140万円の基準は個別の債権額
司法書士法3条2項による認定等の要件と各業務の範囲が前提となり,同条1項7号の裁判外和解代理は,対象となる民事紛争と140万円の基準により画される。
最高裁第一小法廷平成28年6月27日判決は,債務整理について,個別の債権額で代理権の範囲を判断し,債務者が得る減額利益を基準にする解釈を否定した。
倫理規範に支援の規定があることや依頼者が希望することは,法律上の代理権不足を補わない。
(3) 虚偽証拠と手続遅延の禁止
裁判手続での偽証・虚偽証拠や不当な遅延については,弁護士規程75・76条と司法書士規範63・64条が禁止を定める。
司法書士の裁判書類作成による支援も,これらの規律と無関係ではない。
3 成年後見・財産管理・遺言執行・民事信託
(1) 成年後見で尊重する意思と生活事情
司法書士規範69~73条は,本人の意思,心身の状態,生活・財産状況への配慮,相談時の助言,申立書類や任意後見契約の内容・説明,支援者との連携等を定める。
本人の利益を説明するときも,本人の意思や生活事情を離れて検討する規律ではない。
(2) 財産管理者の立場に応じた義務
財産管理の74~76条は,財産の分別と善管注意,委任者への説明・報告,利益相反行為の禁止及び選任目的に即した誠実な管理を定める。
79条は終了時の受領権限を有する者への引渡しを求めており,一般的な預り金とは別に,管理者としての立場を確認することになる。
(3) 遺言執行後も残る裁判業務の制約
77条2項は,遺言執行者である司法書士が,遺言者の相続財産に係る事件で,一部の相続人又は受遺者から依頼され,他の相続人又は受遺者を相手方とする裁判業務を行うことを禁じる。
遺言執行者でなくなった後も同様であり,遺言が特定財産に関する場合の対象は,その財産に限られる。
これは,相続人のすべての事件を将来にわたって受任できないという禁止ではない。
弁護士側には同文の条項がないが,そのことだけで遺言執行後の対立代理が自由になるわけではなく,利益相反・秘密保持等と個別の関与を別に確認する必要がある。
(4) 信託関係人への配慮と設定後の支援
80条は,委託者,受託者,受益者その他の信託関係人の知識,経験及び財産状況等に配慮した業務を定める。
81条は,設定時の委託者の意思尊重と正確な情報提供,設定後に必要に応じて行う継続支援を,努力の文言で定めている。
関係人への配慮を求めることと,全員を共同依頼者として受任することは同じではない。
4 刑事弁護と組織内弁護士
(1) 刑事弁護の独立章
弁護士規程46~48条は,最善の弁護,接見機会・身体拘束からの解放,防御権の説明等を定め,82条2項の対象となる。
49条は国選事件で被告人等から対価を受けることを禁止し,私選への働きかけも禁止するが,後者については日弁連又は所属会の会則による例外がある。
司法書士規範68条の検察庁提出書類の作成は,弁護人として活動する権限を付与する規定ではない。
(2) 組織内の違法行為への対応
弁護士規程50条は組織内弁護士の自由と独立を自覚した職務への努力を,51条は担当職務に関する組織内の違法行為への適切な内部措置を定める。
51条の説明・勧告等から,一律の外部通報義務や,違反結果を必ず阻止する義務まで導くことはできない。
第6 共同事務所・法人・共同業務の違い
1 遵守体制を整える主体と規律の強さ
(1) 共同事務所の監督者
共同事務所では,弁護士規程55条は監督権限のある弁護士による遵守措置の努力を定める。
司法書士規範82条は,監督する立場の司法書士がいる場合,その者に法令・会則等を遵守するための必要な措置を求める。
(2) 個人への努力要請と法人自体の義務
法人については,弁護士61条が社員である弁護士による措置の努力を定めるのに対し,司法書士88条は法人自体に必要な措置を求める。
文言の強さだけでなく,義務を負う者が個人か法人かも異なる。
2 利益相反の拡張と移籍後の制約
(1) 他の所属者の事件と公正保持の例外
弁護士規程57条と司法書士規範84条は,他の所属者に受任禁止がある事件について,共同事務所の他の所属者にも制約を及ぼす規定である。
いずれも公正を保ち得る事由がある場合の例外を置くが,情報遮断措置があるという理由だけで常に受任できるとは定めていない。
(2) 法人自体と社員等の禁止・準用
法人では,弁護士63~68条,司法書士90~95条等により,法人自体と社員等の規律を分けて確認する。
司法書士90条の同意例外は4号に限られ,91条の法人と社員等の関係,92・93条の個人の禁止を同じ例外として混合できない。
準用にも除外があり,弁護士69条と司法書士96条を通じて個人の規定がすべてそのまま法人に適用されるわけではない。
(3) 旧共同事務所・旧法人での自らの関与
司法書士規範85条は,旧共同事務所で他の所属者が扱った裁判事件に自ら関与していた場合,その相手方から裁判業務を受任することを禁じる。
旧司法書士法人で自ら関与した事件には58条2項・92条2項があり,共同事務所と法人を取り違えてはならない。
秘密についても,弁護士56・62条,司法書士83・89条が他の所属者等の秘密と退所後等の規律を定める。
受任防止の記録・当事者情報の確認は弁護士59・68条,司法書士87・95条にあり,これらの予防措置は努力の文言で定められている。
(4) 司法書士99条の共同業務と復代理
司法書士規範99条1項は,他の司法書士と共同して業務を行う場合,各司法書士と依頼者の委任関係を明確にして協力することを定める。
2項は,復代理人を選任した場合の十分な意思疎通を求める。
同条を,弁護士や税理士等を含む他専門職全般との協働についての明文規定として説明することはできない。
第7 懲戒・民事責任・契約や訴訟行為の効力
本記事では,①規範上の禁止・義務,②法定懲戒,③委任契約等に基づく民事責任,④委任・和解・訴訟行為それぞれの効力を,別々の問いとして整理する。
一つの行為の効力が維持されても,他の三つの問題まで解決したことにはならず,違反があればすべて無効になるという整理も適切ではない。
1 法定懲戒の権者・事由・処分
(1) 弁護士法による懲戒
弁護士法56条は,法律・会則への違反,会の秩序又は信用を害する行為,品位を失うべき非行等を懲戒事由とし,所属弁護士会を懲戒権者とする。
個人への処分は57条により戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名である。
規程の形式的な抵触と,法56条による懲戒事由の判断は分けて検討することになる。
また,法63条は,懲戒事由があったときから3年を経過すると手続を開始できないと定めるため,懲戒を検討する場面では期間も確認する必要がある。
(2) 司法書士法による懲戒
司法書士法47条は,同法又は同法に基づく命令への違反を対象に,法務大臣が戒告,2年以内の業務停止又は業務禁止を行うことができると定める。
法人への処分は48条により戒告,2年以内の全部又は一部の業務停止及び解散であり,個人と法人の種類も異なる。
行為規範との抵触を指摘する場合も,法47条の懲戒事由にどう当たるかを区別して検討する必要がある。
司法書士法2条には公正・誠実な業務等の義務があるため,行為規範が法律そのものではないことから,その行為に法的責任が生じないとはいえない。
2 説明義務と委任契約上の責任
最高裁第三小法廷平成25年4月16日判決は,債務整理で時効完成を待つ方針を採った弁護士について,依頼者に不利益・リスクや別の選択肢を説明する委任契約上の義務を認め,原判決を破棄して差し戻した。
規程36条を委任契約の解釈の手掛かりとして明示的に論じたのは補足意見であり,法廷意見と区別する必要がある。
同判決は,倫理規範の存在から直ちに損害額まで確定するという判断ではない。
説明すべき内容,実際の説明,損害及び因果関係は,具体的な委任関係と事実に即して検討する問題として残る。
3 無効・訴訟行為の排除と倫理評価
(1) 権限外の委任と和解合意
最高裁第一小法廷平成29年7月24日判決は,330万円の過払金返還請求について認定司法書士が代理する委任契約を無効とした一方,200万円の和解合意の効力を当然には否定しなかった。
和解について公序良俗違反となる特段の事情がある場合を留保し,委任契約と和解合意を分けて判断している。
和解が有効に扱われたことを,権限外の受任が適法だったという意味へ読み替えることはできない。
(2) 共同事務所の規程違反と訴訟行為
最高裁第二小法廷令和3年4月14日決定は,弁護士規程57条違反にとどまる訴訟行為について,相手方がその排除を求めることを認めなかった。
法律上の受任禁止と会規上の規律を区別したものであり,補足意見も受任の倫理的な適切性を肯定した判断ではないことを示している。
第8 出典・参考資料
1 法令
①e-Gov法令検索「弁護士法」3条,23条,25条,56条,57条及び63条。
②e-Gov法令検索「司法書士法」2条,3条,21条,47条及び48条。
③e-Gov法令検索「裁判所法」33条1項1号。いずれも令和8年10月3日の現行本文を確認。
2 職能団体の正式な規程・規範
①日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(平成16年11月10日会規第70号,掲載PDFに平成26年12月5日・令和3年6月11日改正)。前文,本則及び附則。印刷頁1頁~33頁,PDF1頁~17頁。
②日本司法書士会連合会「司法書士行為規範」(令和4年6月23日・24日第87回定時総会承認,令和5年4月1日施行)。前文,1~102条及び附則。PDF1頁~13頁。
3 裁判例
①最高裁判所第三小法廷平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号,裁判所公表本文PDF1頁~13頁。法廷意見1頁~5頁,36条を論じる補足意見12頁~13頁)。
②最高裁判所第一小法廷平成28年6月27日判決(平成26年(受)第1813号・第1814号,裁判所公表本文PDF1頁~5頁)。
③最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,裁判所公表本文PDF1頁~5頁)。
④最高裁判所第二小法廷令和3年4月14日決定(令和2年(許)第37号,民集75巻4号1001頁,裁判所公表本文PDF1頁~4頁)。