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債権譲渡の通知後でも相殺できるか―民法468条・469条と同一契約から生じた反対債権(AI作成)

第1 譲渡通知が来た後の支払請求と相殺

1 譲渡人,譲受人,債務者を分ける

Aに工事代金や売買代金を支払うBに,Aがその代金債権をCへ譲渡した旨の通知が届いたとする。
Aが譲渡人,Cが譲受人,Bが債務者である。
BがAに対して損害賠償債権などを有する場合,Cからの請求にその反対債権による相殺を対抗できるかが問題となる。
譲渡通知が届いたという一事だけで,相殺の可能性がすべて失われるわけではない。

民法468条は債務者の抗弁の対抗を,同法469条は相殺権の保護を定める。
まず代金債権の存否・額・弁済期を検討し,次に反対債権による相殺を検討する。
本記事は令和8年10月3日時点の現行条文を基準とする一般的な債権譲渡の解説であり,譲渡制限特約のある債権等の特則は第5で区別する。

2 基準は対抗要件具備時である

通常の指名債権譲渡では,譲渡人の通知又は債務者の承諾が,債務者に対する対抗要件となる(民法467条1項)。
通知の場合は,通知書の日付だけでなく,債務者に到達した時を確認する。
Cその他の第三者との優劣を決める確定日付の問題と,Bがどの抗弁・相殺をCに対抗できるかを決める基準時を混同しない。
債権譲渡登記を利用している事案では,債務者対抗要件をどの方法で具備したのかも別に確認する。

第2 民法468条の抗弁と469条の相殺

1 そもそも代金が発生していない場合

Bが主張するのが,既払い,契約の無効,履行期限の未到来など,請求された債権自体に関する事由であれば,まず民法468条を検討する。
同条1項は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できるとする。
工事の未完成と,完成した工事に契約不適合がある場合とでは,報酬債権の発生や救済の構成が異なる。
「不満があるので相殺する」と一括せず,請求権の発生要件,支払拒絶の根拠及び反対債権の要件を分けることが必要である。

2 反対債権を使って清算する場合

BのAに対する損害賠償債権などを自働債権とし,Cに譲渡された代金債権を受働債権として清算する場面では,民法469条を検討する。
同条が相殺の対抗を保護しても,自働債権の存在・金額・弁済期や,民法505条・506条の要件の立証が不要になるわけではない。
減額請求によって代金そのものを減らす場合と,損害賠償債権で相殺する場合も区別する。

第3 民法469条の三つの保護類型

1 対抗要件具備時より前に取得した債権

民法469条1項により,Bは対抗要件具備時より前に取得したAに対する債権による相殺を,Cに対抗できる。
取得の時期と弁済期は異なるので,通知時点で未払期限が到来していなかったことだけで,同項の保護を否定しない。
実際に相殺する時には,相殺適状にあることを確認する。

2 前の原因に基づき,後に取得した債権

同条2項1号は,対抗要件具備時より後に取得した債権でも,具備時より前の原因に基づいて生じたものを保護する。
契約締結日,義務違反,損害の発生,解除通知などを分け,どの事実が反対債権の原因となるのかを説明する。
古い基本契約があることだけで,後日のあらゆる取引の反対債権が当然に保護されるとはいえない。

3 譲渡された債権と同一契約に基づく債権

同条2項2号は,1号に該当するもののほか,Cが取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた反対債権を保護する。
例えば,譲渡された請負代金債権と,同じ請負契約に基づく契約不適合の損害賠償債権であれば,同号の検討対象となる。
反対債権の発生が通知後であることだけを理由に,相殺を断念する必要はない。

ただし,同じAとの取引であることと,同一の契約から生じたことは別である。
別工事,別注文,追加工事,基本契約に基づく個別契約を扱う場合は,契約関係を図示し,譲渡対象となった代金と反対債権の対応を確認する。
同条2項ただし書により,対抗要件具備時より後に他人の債権を取得した場合は,同項の保護から除かれる。

Bが取得した反対債権適用を検討する規定主な立証事項
通知等の基準時より前に取得469条1項取得日,発生原因,弁済期
基準時より前の原因から,後に取得469条2項1号原因成立と債権発生の時系列
譲渡対象の代金と同一契約に基づき,後に取得469条2項2号契約の同一性,義務違反,損害及び金額
基準時より後に他人の債権を取得同項ただし書譲受時と取得経路。2項の保護は受けられない

第4 請負代金が譲渡されたときの実務

1 譲渡された範囲を先に確認する

工事代金の一部だけが譲渡されている場合,Aに残る代金債権とCが取得した部分を分ける。
出来高払,追加工事,留保金,既払金,消費税相当額を契約・請求書に即して確認し,二重の支払や同じ損害の二重の控除を避ける。
Cが請求する債権の範囲と,BがAに請求できる反対債権の範囲を対応させた計算書を作る。

2 修補費用の見積額がそのまま相殺額になるとは限らない

契約不適合の内容,契約上要求される性能,補修方法の相当性,補修費用の内訳,追完の催告・機会を確認する。
見積書があることだけで,記載された全額の損害賠償債権が成立するわけではない。
支払拒絶,報酬減額,損害賠償及び相殺の選択と,清算後の残代金の遅延損害金は,雨漏り・施工不良と工事代金で詳しく扱う。

相殺の通知では,譲渡通知の対象債権,自働債権の根拠・額及び相殺する範囲を特定する。
通知先を譲渡人だけで足りると決めつけず,受働債権の帰属と対抗要件の状況に応じて検討し,譲受人からの請求にも相殺の根拠と計算を明示する。

第5 経過措置と特別な場面

1 譲渡の原因である法律行為の時を確認する

平成29年法律第44号附則22条は,施行日前に債権譲渡の原因である法律行為がされた場合について,従前の例によるとする。
令和2年4月1日以後に通知が届いたとしても,譲渡契約が施行日前であれば,現行民法469条の条文だけで処理できない。
代金の原因である契約の締結日と,債権譲渡の原因である法律行為の日を,別々に記録する。

2 譲渡制限特約,差押え及び倒産

民法466条4項・466条の3に関係する場合には,468条2項・469条3項による基準時の読み替えがある。
債権譲渡登記,譲渡制限特約,供託又は複数の譲渡がある場合は,一般的な通知の場面と区別して資料を確認する。

差押えと相殺は民法511条の記事,破産・民事再生による制限は倒産時の相殺の記事を参照されたい。
訴訟で相殺を主張したときの既判力・別訴との関係は,相殺の抗弁と既判力で扱う。

第6 確認資料と出典

1 確認資料

①譲渡契約書,譲渡通知書・承諾書,到達記録,登記を利用した場合の関係資料
②譲渡された代金の契約書,注文書,追加変更契約,請求書及び支払履歴
③反対債権の原因となる義務違反,催告,解除,損害と金額の資料
④双方の弁済期と相殺通知の到達資料
⑤同一契約から生じたことを示す契約番号・工事範囲・注文の対応表

2 出典

e-Gov法令検索・民法466条,466条の3,467条~469条,505条・506条及び平成29年法律第44号附則22条。
本記事の469条に関する説明は,現行条文本文を直接確認したものである。
請負代金の譲渡後の個別紛争すべてについて,裁判例により同一の結論が確定しているという趣旨ではない。