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平成7年度最高裁民事破棄判決等の実情―55件から学ぶ原判決監査と差戻審実務(AI作成)

第1 対象資料と確認範囲

1 年次解説の位置付け

本記事は,井上繁規「最高裁民事破棄判決の実情(1)~(4・完)―平成七年度―」(判例時報1553号,1554号,1556号,1557号)全83頁を通読し,平成7年度に最高裁判所が原判決等を破棄した民事事件の全体像を,弁護士実務の観点から整理するものである。

同解説は最高裁判所調査官による有力な年次資料であるが,個々の判決全文そのものではない。本記事では,年次解説により55件全体の件数,類型及び概要を確認し,そのうち3判決について裁判所ウェブサイトの公式全文を確認した。別の2判決は後続の裁判所公式判決から引用関係を確認したが,当該判決全文は未取得である。残る50判決は年次解説だけを確認しており,個別の判旨として断定する根拠には用いない。

2 55件という数字の読み方

年次解説によれば,平成7年度の判決による終結件数は2572件,破棄判決は55件であり,比率は約2・13%であった。破棄差戻しは32件,破棄自判は24件であり,同一事件の一部について差戻し,他の部分について自判した重複例が含まれる。職権による破棄は1件,上告論旨に理由があるものは54件であった。

もっとも,これは旧民事訴訟法下の処理統計である。現在の通常上告,上告受理申立て及び許可抗告とは入口,審査方法及び分母が異なるため,約2・13%を現在の「上告成功率」又は個別事件の見通しとして用いてはならない。

第2 平成7年度の破棄理由から見える四つの監査領域

1 訴訟要件・当事者・並行手続

年次解説には,当事者適格,訴訟代理権,訴えの利益,固有必要的共同訴訟及び争訟性に関する破棄例が含まれる。本案の権利関係だけでなく,誰が,誰を相手に,どの手続で,いつまで争えるのかを独立して点検しなければならない。

訴え提起時に存在した利益又は当事者適格が,別手続の確定,法人・団体の消滅,権利承継その他の後発事情によって変化することもある。受任時だけでなく,口頭弁論終結前,上訴前及び差戻審開始時に再点検する必要がある。

2 請求・抗弁・予備的主張の判断漏れ

判断漏れの監査では,請求の趣旨と主文だけを照合しても足りない。請求原因,抗弁,再抗弁,予備的請求及び予備的主張を一行ずつ並べ,判決理由のどこで採否が示されたかを対応させる。

年次解説には,通行地役権の時効取得に関する予備的主張,契約解除が無効である場合の未払賃料請求,手形関係の抗弁等をめぐる判断漏れが紹介されている。ただし,本記事ではこれらの個別判決全文を確認できていないため,具体的判旨としてではなく,点検項目を発見するための二次資料上の例として扱う。

3 証拠から主要事実までの推論

原審の事実認定を監査するときは,「証拠→証拠から直接読み取れる事実→中間事実→適用する経験則→主要事実→法律効果」という推論の鎖を分解する。反対証拠と別の合理的な仮説も同じ表に置き,どの段階に飛躍又は矛盾があるかを特定する。

上告審は通常,事実認定をやり直す審級ではない。単に別の心証も可能であると主張するのではなく,重要証拠の見落とし,証拠に基づかない認定,経験則に反する推論又は結論に必要な中間事実の欠落が,判決結果にどのように影響するかを示す必要がある。

4 実体法上の判断枠組み

平成7年度には,医療水準,退院時の説明・指導義務,スキー接触事故の注意義務,交通事故の遅延損害金,借地,ゴルフ会員権・預託金,求償,手形,不当労働行為,行政処分及び知的財産等,多様な分野の事件が含まれる。

分野が異なっても,①適用条文と基準時,②規範が考慮を求める要素,③各要素に対応する事実と証拠,④反対方向の事情,⑤誤りが主文に与える影響を分ける方法は共通する。

第3 裁判所公式全文を確認した代表3判決

1 スキー接触事故と上方滑走者の注意義務

最高裁第二小法廷平成7年3月10日判決・平成6年(オ)第244号は,スキー場で上方から滑降する者は,前方を注視し,下方の滑走者の動静に注意し,接触又は衝突を回避できるよう速度及び進路を選択すべき注意義務を負うとした。

事故現場は急斜面ではなく,雪が降っていたものの下方を見通すことができ,上方の滑走者は下方の滑走者より速い速度で滑っていた。最高裁は,時間的余裕をもって下方の滑走者を発見し,事故を回避できたとして過失を認めた。もっとも,損害額及び被告側が主張した過失相殺は更に審理を要するとして差し戻している。

実務では,抽象的なマナー違反の有無だけでなく,コース図,双方の開始地点と進行方向,弧の大きさ,速度差,斜度,天候,視界,発見可能地点,回避行動に必要な時間及び衝突地点を図面と時系列で固定する。

2 退院時の説明・療養指導と受診遅延

最高裁第三小法廷平成7年5月30日判決・平成3年(オ)第2030号は,未熟児として出生し,退院時にも黄疸が残っていた新生児について,「何か変わったことがあれば医師の診察を受けるように」という一般的な注意だけでは不十分であったとした。

母親は黄疸を心配して血液型検査を依頼していたが,医師は血液型を誤って判定し,血液型不適合はなく未熟児だから心配ない旨を説明していた。この先行説明により両親が黄疸を楽観視したという具体的経過を踏まえ,医師は,黄疸が増強し得ること,哺乳力低下等が重篤な疾患につながる危険,そのような症状が出た場合に速やかに受診すべきことを具体的に説明・指導する義務を負うとした。

この判決は,退院患者にあらゆる稀な疾患を詳細に説明すべきだとするものではない。患者側が心配していた具体的危険,医師の安心させる説明,退院後に観察を患者側へ委ねる事情,重篤化までの時間及び受診遅延との因果関係を一体として評価している。

3 新規治療法の普及と医療水準

最高裁第二小法廷平成7年6月9日判決・平成4年(オ)第200号は,未熟児網膜症に対する光凝固法を前提とする検査・診断・治療が,当時の医療水準であったかが争われた事案である。

最高裁は,新規治療法に関する知見と,実施に必要な技術・設備とは同じ速度で普及するとは限らないとした。その上で,医療機関の性格,所在地域の医療環境,医師の専門分野及び類似施設への知見の普及状況等を考慮し,類似施設に知見が相当程度普及し,当該施設にも知見の獲得を期待するのが相当な場合には,特段の事情がない限り,その知見が当該施設の医療水準となるとした。

自院に技術・設備がない場合も,知見が医療水準となっていれば,実施可能な施設への転医等が問題となり得る。医療事件では,診療当時の文献・学会発表,類似施設の導入状況,院内の診療体制,医師の専門性,自院での実施可能性及び転送可能性を分けて証拠化する必要がある。

第4 受任事件で使う三つの作業表

1 破棄理由カード

欄記載事項
原審の前提原審が認定した事実及び採用した法的枠組み
正しい基準適用すべき条文,判例,経験則及び基準時
原審の推論証拠から主要事実,主要事実から結論へ至る過程
破綻箇所飛躍,欠落,取り違え又は矛盾
判決への影響その誤りが主文を左右する理由
破棄後自判可能性と差戻審で追加審理すべき事項

2 判断漏れ点検表

請求の趣旨,請求原因,抗弁,再抗弁,予備的請求・予備的主張,主文及び理由の該当箇所を一つの表に置く。各主張について,「未判断」「言及のみ」「採用」「排斥」を区別する。請求自体が主文から漏れた裁判の脱漏と,請求に対する攻撃防御方法の判断漏れも分ける。

3 並行手続表

家事審判,行政手続,知的財産の審判,清算手続その他の並行手続があるときは,手続名,管轄,当事者・利害関係人,参加・陳述の機会,不服申立方法と期間,一方の確定が他方へ与える効果,中止・猶予・参加・保全処分の要否を一覧化する。

一方の手続で判断を得ても,他方の手続での救済が当然に確保されるとは限らない。後発的な訴えの利益の変化と,不服申立ての機会が実質的に閉ざされていないかを確認する。

第5 破棄自判・破棄差戻しと残存争点

最高裁が法的誤りを認めても,損害額,過失相殺,因果関係,寄与度又は未判断の抗弁について追加の事実認定が必要なら,差戻しとなる。スキー接触事故判決では,被告の過失自体は最高裁が認めたが,損害額と過失相殺は原審に差し戻された。

上訴方針を立てるときは,求める破棄理由だけでなく,破棄後に残る争点,立証責任,既提出証拠及び追加証拠を先に一覧化する。差戻審の初動については,民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証(AI作成)も参照されたい。

第6 旧法判例を現行実務へ使う際の注意

平成7年度の事件は旧民事訴訟法下のものであり,当時の上告理由及び条文番号を現行法へそのまま転記できない。判決が示した実体法上又は手続法上の一般法理を取り出した上で,現行民事訴訟法312条,318条,325条等のどのルートに位置付けるかを改めて検討する。

また,特別養子,知的財産の共有・審判,旧借地法,旧商法,国籍法,労働法,行政法令及び条例等は,その後の法改正と後続判例を確認する必要がある。判旨として現在も重要であることと,現在の事件に直接適用できることは別である。

原判決の実体監査を行う際は,最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリスト(AI作成)も参照されたい。

第7 出典及び一次資料の確認状況

裁判所ウェブサイトの判例検索は全裁判例を収録するものではないため,検索で見つからないことだけから,当該判決が公刊されていない又はデータベースに存在しないとは断定していない。

第8 まとめ

平成7年度の55件から得られる中心的な教訓は,原判決の誤りを「結論への不満」として一括せず,訴訟要件,請求・主張の処理,証拠から結論までの推論,実体法上の判断枠組み及び破棄後の残存争点に分解することである。

個別事件では,破棄理由カード,判断漏れ点検表及び並行手続表を作成し,一次資料で確認した命題と,年次解説だけに基づく探索情報とを明確に分ける必要がある。