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行政処分の遅延と国家賠償―水俣病認定業務最高裁平成3年4月26日判決と立証チェックリスト(AI作成)

行政への申請から長期間処分がない場合、経過年数だけで国家賠償法上の違法が決まるわけではない。最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決は、水俣病認定業務の遅延について、申請者の保護利益を認めつつ、遅延の長さと処分庁の回避努力を組み合わせた判断枠組みを示した。

第1 判決の位置付け

本判決は、昭和61年(オ)第329号、民集45巻4号653頁に登載された破棄差戻判決である。水俣病認定申請に対する処分が長期間されなかったことについて、熊本県に国家賠償責任があるかが争われた。

最高裁は、認定申請者には、申請に対する処分が適正かつ迅速にされることによって、不安感・焦燥感を抱かずに済む利益があり、その利益は単なる内心の利益にとどまらず、法的保護の対象となり得るとした。他方、原審の判断枠組みではなお審理を尽くしていないとして破棄し、事件を差し戻した。

第2 国家賠償法上の違法となる判断枠組み

1 通常必要な期間を超えただけでは足りない

最高裁の枠組みは二段階である。まず、客観的にみて、処分のために手続上必要と考えられる期間を超えて処分できなかったかを確認する。しかし、この超過だけでは国家賠償法1条1項の違法は直ちに成立しない。

次に、その通常の期間に比べて更に長期間にわたり遅延が続き、しかも、処分庁が通常期待される努力をすれば遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったかを判断する。したがって、「何年かかったか」と「なぜ短縮できなかったか」を別々に立証する必要がある。

2 主観的な苦痛だけの問題ではない

長期待機による不安・焦燥は、申請者の主観的感情だから当然に法的保護の外にある、というものではない。ただし、保護利益が認められることと、処分庁の行為が違法であること、担当公務員に故意又は過失があること、損害及び因果関係があることは別の要件である。

国家賠償請求では、保護利益、違法性、故意・過失、損害及び因果関係を分けて主張立証する。遅延期間だけを一つの要件として扱わない。

第3 遅延事件の証拠化

1 申請者側の時系列

① 申請日、受理日及び受付番号
② 補正要求、その根拠、補正提出日及び補正の必要性
③ 検査、調査、審査会付議、意見照会及び再照会の日
④ 問合せ、回答、見通し説明及び督促の日
⑤ 処分日又は現在まで未処分であること
⑥ 遅延により生じた生活上・医療上・経済上の不利益及び精神的負担

受付票、申請書控え、補正書、行政文書開示資料、電話メモ、電子メール、録音、診療録、家計資料及び申請者の日記を、出来事ごとに結び付ける。

2 処分庁側の回避努力

処分庁については、案件数、人員、専門家・審査会の開催状況、標準処理期間、平均・中央値・最長処理期間、滞留案件の把握時期、増員、応援、外部委託、審査方法の改善、優先順位、申請者への進捗説明及び個別案件固有の停滞理由を確認する。

大量申請又は専門判断の困難さは重要な事情であるが、それだけで免責されるわけではない。遅延を認識した後に、実施可能な措置を検討し、どの措置をいつ実施し、なぜなお解消できなかったかが問題となる。

3 比較対象を選ぶ

同じ制度、同じ時期、類似する資料量・医学的難度の申請を比較する。単純な平均期間だけでなく、補正の有無、争点数、検査回数、審査会への付議回数及び申請者側の協力状況をそろえる。個別事情を無視した比較は、処理の遅さも合理性も正確に示さない。

第4 国家賠償と行政訴訟を混同しない

国家賠償請求は、違法な遅延によって生じた損害の賠償を求める手段である。処分を得ること自体を直接の目的とするものではない。

現行の行政事件訴訟法3条5項は、行政庁が法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるのに、これをしないことについて不作為の違法確認の訴えを定める。同法37条は原告適格を定め、同法37条の2・37条の3は義務付けの訴えの類型と要件を定める。

「遅延について損害賠償を得たいのか」「不作為が違法であることを確認したいのか」「一定の処分をさせたいのか」により、訴訟類型、被告、要件、立証事項及び期待できる主文が異なる。出訴期間、原告適格及び併合要件を含め、現行法に即して選択する必要がある。

第5 差戻後の経過と読み方

最高裁平成3年判決は、申請者側の最終勝訴判決ではなく、原判決を破棄して更なる審理を命じた判決である。

後年の福岡高裁平成29年4月28日判決の裁判所掲載PDFが記載する事実経過によれば、差戻後の福岡高裁は平成8年9月27日に原告らの請求を棄却し、その判決は確定した。本記事では平成8年判決自体の全文を確認していないため、この点は後年の裁判所掲載判決による間接確認として扱う。

この経過は、最高裁が保護利益と判断枠組みを示したことと、個別事件でその要件が最終的に満たされたことは別であると示している。破棄差戻判決を引用するときは、差戻後の立証課題と最終結果を可能な限り確認する。

第6 受任時チェックリスト

① 申請の根拠法令、要件及び標準処理期間は何か。
② 申請はいつ適法に受理され、補正はいつ完了したか。
③ 通常必要な処理期間を何から立証するか。
④ その期間を超えた後、更にどれだけ遅延したか。
⑤ 処分庁が通常期待されるどの措置を講じなかったか。
⑥ その措置により遅延を解消できた蓋然性があるか。
⑦ 申請者側の不協力、資料不足その他の代替原因はあるか。
⑧ 保護利益、故意・過失、損害及び因果関係を別々に立証できるか。
⑨ 国家賠償、不作為違法確認又は義務付けのどれが目的に合うか。
⑩ 差戻判決又は中間的判断を最終勝訴と誤記していないか。

第7 出典及び確認状態

① 最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決(昭和61年(オ)第329号、裁判所公式全文)
② 国家賠償法(e-Gov法令検索)
③ 行政事件訴訟法(e-Gov法令検索)
④ 福岡高裁平成29年4月28日判決(差戻後の経過を記載する裁判所掲載PDF)
⑤ 富越和厚「最高裁民事破棄判決の実情(上)(下)―平成3年度―」判例時報1419号15頁以下、1420号20頁以下(年度全体の索引として利用した二次資料)

判例秘書では本判決本文を照合していない。本記事は一般的な実務整理であり、個別事件では制度の根拠法令、処理基準、申請記録、行政内部資料及び最新判例を確認する必要がある。