法務省関係

東京高検検事長の勤務延長問題

目次
第1 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長(令和2年2月8日から同年8月7日まで)等
第2 検察官を含む一般職の国家公務員に関する定年の定め
第3 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約,及び内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等
第4 検察官の勤務延長に関する法務大臣の答弁
第5 検察官の勤務延長に関する内閣法制局長官の答弁
第6 検察庁法22条及び32条の2に関する法務大臣等の答弁
第7 勤務延長に関す総理府人事局及び人事院の答弁
第8 黒川弘務東京高検検事長を検事総長に任命することは法的に可能であること
第9 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関する弁護士会の反対意見
第10 選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為が弁護士会の懲戒対象となる場合
第11 河野克俊統合幕僚長の勤務延長(平成28年11月29日から平成31年4月1日まで)
第12 国会答弁資料
第13 関連記事

第1 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長(令和2年2月8日から同年8月7日まで)等
1(1) 検事長の任命権者である内閣(検察庁法15条1項)は,令和2年1月31日,下記の理由により,国家公務員法81条の3第1項に基づき,同年2月8日に63歳の定年を迎える黒川弘務東京高検検事長の勤務を半年間延長するという閣議決定を行いました(首相官邸HPの「令和2年1月31日(金)定例閣議案件」参照)。

   東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するためには,同高等検察庁検事長黒川弘務の検察官としての豊富な経験・知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であり,同人には,当分の間,引き続き同検事長の職務を遂行させる必要がある。



(2) 黒川弘務東京高検検事長(平成31年1月18日就任)が検事長就任前に検察官として捜査公判に対応していたのは以下の時期だけですから,合計で11年10ヶ月半ぐらいです。
① 1983年4月7日から1991年7月24日までの約8年4ヶ月半
・ 東京地検検事,福島地検郡山支部検事,新潟地検検事,東京地検検事及び名古屋地検検事をしていました。
② 1995年7月20日から1998年10月6日までの約3年3ヶ月半
・ 青森地検弘前支部長及び東京地検検事をしていました。
③ 2010年8月10日から同年10月24日までの約2ヶ月半
・ 松山地検検事正をしていました。
・ 2010年9月21日から報道されるようになった大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件に対応するため,同年10月25日,法務省大臣官房付となりました。
(3)ア 黒川弘務東京高検検事長の定年退職は,「業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき」(人事院規則11-8(職員の定年)7条3号)に該当するため,勤務延長されました(令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁参照)。
イ 「重大かつ複雑困難な事件の捜査」が何であるかについては,捜査機関の活動内容及びその体制に関する事柄でもあることから,国会答弁でも明らかにされませんでした令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁参照)。

(4) 内閣は,令和2年2月7日以前に検察官の勤務延長がなされた実例を把握していません(衆議院議員奥野総一郎君提出東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)参照)。
(5) 勤務延長は定年延長ともいわれます。
2(1) 35期の黒川弘務と林眞琴のどちらが検事総長となるかについて,法と経済ジャーナルHPに以下の記事が載っています(ログインしない限り,途中までしか読めませんが,途中まででも読み応えのある記事です。)。
・ 官邸の注文で覆った法務事務次官人事  「検事総長人事」に影響も(2016年11月22日付)
・ 法務・検察人事に再び「介入」した官邸 高まる緊張(2017年9月17日付)
・ 上川法相が林刑事局長の次官昇格を拒否か、検事総長人事は?(2018年1月18日付)
・ 「次の検事総長は黒川氏」で決まりなのか、検察の論理は(2019年1月24日付)
・ 稲田検事総長が退官拒絶、後任含みで黒川氏に異例の定年延長(2020年1月31日付)
(2) 林眞琴は,2014年1月9日から2018年1月8日までの間,法務省刑事局長をしていました。
(3) 黒川弘務は,2011年8月26日から2016年9月4日までの間,法務省大臣官房長をしていて,2016年9月5日から2019年1月17日までの間,法務事務次官をしていました。
(4) 「法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)」も参照してください。
(5) 黒川弘務東京高検検事長は,賭け麻雀問題により,令和2年5月22日に依願退官しました(「黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題」参照)。
3 exciteニュースの「”真っ黒”な甘利明を検察はなぜ「不起訴」にしたのか? 官邸と癒着した法務省幹部の”捜査潰し”全内幕」(2016年6月3日付)には以下の記載があります。
   「官房長という役職自体が、予算や人事の折衝をする役割で、政界とつながりが深いのですが、とくに黒川氏は小泉政権下で法務大臣官房参事官をつとめて以降、官房畑を歩んでおり、自民党、清和会にと非常に太いパイプをもっている。官房長になったのは民主党政権下の2011年なんですが、このときも民主党政権には非協力的で、自民党と通じているといわれていました。そして、第二次安倍政権ができると、露骨に官邸との距離を縮め、一体化といっていいくらいの関係を築くようになった。とくに菅官房長官、自民党の佐藤勉国対委員長とは非常に親しく、頻繁に会っているところを目撃されています」(前出・司法担当記者)
4 以下の閣議書を掲載しています。
① 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関して法務省が作成し,又は取得した文書
② 黒川弘務 東京高検検事長の勤務延長に関する閣議書(令和2年1月31日付)
→ 略歴書が付いています。
③ 黒川弘務 東京高検検事長任命の閣議書(平成31年1月8日付)
→ 詳細な履歴書が付いています。
④ 林眞琴 名古屋高検検事長及び小川新二 高松高検検事長任命の閣議書(平成29年12月26日付)


第2 検察官を含む一般職の国家公務員に関する定年の定め
1 検察庁法
(1) 検察官の定年退官を定める検察庁法22条は以下のとおりです。
   検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
(2) 検察庁法32条の2は以下のとおりです。
   この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。
2 国家公務員法
(1) 定年による退職を定める国家公務員法81条の2第1項は以下のとおりです。
   職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
(2) 定年による退職の特例を定める国家公務員法81の3は以下のとおりです。
① 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
② 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。
(3) 国家公務員法81条の2及び81条の3は,国家公務員法の一部を改正する法律(昭和56年6月11日法律第77号)によって追加されました条文であり,昭和60年3月31日に施行されました。
3 人事院規則
・ 人事院規則11-8(職員の定年)のうち,勤務延長を定める6条ないし10条は以下のとおりです。
第六条 法第八十一条の三に規定する任命権者には、併任に係る官職の任命権者は含まれないものとする。
第七条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。
一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。
二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。
三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。
第八条 任命権者は、勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合には、あらかじめ職員の同意を得なければならない。
第九条 任命権者は、勤務延長の期限の到来前に当該勤務延長の事由が消滅した場合は、職員の同意を得て、その期限を繰り上げることができる。
第十条 任命権者は、勤務延長を行う場合、勤務延長の期限を延長する場合及び勤務延長の期限を繰り上げる場合において、職員が任命権者を異にする官職に併任されているときは、当該併任に係る官職の任命権者にその旨を通知しなければならない。
4 人事院の文書
・ 定年制度の実施等について(昭和59年12月25日付の人事院事務総局任用局企画課長の文書)のうち,勤務延長に関する部分は以下のとおりです。
1 規則11―8第7条の各号には、例えば、次のような場合が該当する。
(中略)

  (3) 第3号
 定年退職予定者が大型研究プロジェクトチームの主要な構成員であるため、その者の退職により当該研究の完成が著しく遅延するなどの重大な障害が生ずる場合
 重要案件を担当する本府省局長である定年退職予定者について、当該重要案件に係る国会対応、各種審議会対応、外部との折衝、外交交渉等の業務の継続性を確保するため、引き続き任用する特別の必要性が認められる場合
 2 勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合の期限は、当該勤務延長の事由に応じた必要最少限のものでなくてはならない。
3 任命権者は、勤務延長職員の勤務延長の事由となった職務の遂行に支障がないと認められる場合以外は併任を行うことができない。

4 勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合の職員の同意は、定年退職日又はその期限の到来の日に近接する適切な時期に書面により得るものとする。

第3 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約等,及び内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等

1 検察官の勤務延長に関する政府答弁の要約等
(1) 検察官の勤務延長に関する法務大臣及び内閣法制局長官の答弁を要約すれば,以下のとおりになると思います(私独自の要約です。)。
   一般法たる国家公務員法の懲戒,服務等の諸規定については,特に読替規定を置くこともなく,当然に検察官にも適用されているのであって,例えば,任命権者から懲戒処分を受けた職員は人事院に不服申立てを行ってその審査を受けることができるものとされているところ、これは内閣が任命する検事長についても変わらない。
  また,公務員の中の新陳代謝を図りながら,きちっとした年齢まで働けるということを前提に,安心して人生設計をさせて,しっかり職務に当たらせるという定年制度の意義自身は,同じ国家公務員たる検察官と一般の公務員とで同じであるから,そこのところについて何か検察官の特殊性がどうこうという議論は基本的にはない。
   さらに,検察庁法32条の2は,その職務執行の公正が直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすという検察官の職務と責任の特殊性は国家公務員法施行後も変わらないことから,検察庁法中,検察官の任免に関する規定を国家公務員法の特例としたというものであり,他の一般の国家公務員についても定年が定められた昭和56年の国家公務員法改正後において検察官に特別の定年が定められているのは,その職務と責任に特殊性があることによるものと解される。
   ところで,昭和55年10月の総理府人事局作成の想定問答には,検察官の場合,勤務延長が認められないと記載されているものの,その理由は必ずしも明らかではないし,大学の教員についても勤務延長が認められない理由が職務の特殊性によるものかどうかも明らかではないし,当時と比べて色々検察行政が複雑化しているといった情勢の変化からすれば,行政府の判断として責任を持って解釈変更をするのであれば問題はない。
また,司法大臣の決定により最大で3年間,引き続き検事は在職できるとしていた裁判所構成法80条ノ2と同趣旨の規定が検察庁法で定められなかった理由について帝国議会議事録等でも特段触れられていないため,その理由は必ずしも明らかではない。

   そのため,国家公務員が定年により退職するという規範そのものは,検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというべきであって,検察官の定年による退職は,検察庁法22条により定年年齢及び退職時期について修正された国家公務員法81条の2第1項に基づくものと解される。
   よって,前条第1項の規定により退職した場合に適用される国家公務員法81条の3は検察官にも適用されるものと解される。
(2)ア 検事総長,次長検事及び検事長の任免権者は内閣であり(検察庁法15条1項),検事及び副検事の任免権者は法務大臣であり(国家公務員法55条1項),検事及び副検事の免職権者は法務大臣です(国家公務員法61条)。
イ 検事長,検事及び副検事の補職権者は法務大臣です(検察庁法16条1項)。
(3) 検察官の勤務延長について(2020年1月16日作成の法務省刑事局のメモ)を掲載しています。
2 内閣又は法務大臣による懲戒処分の実例等
(1) 平成22年9月に発覚した「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」では,任命権者である内閣又は法務大臣による懲戒処分(検察庁法25条ただし書・国家公務員法84条1項)が実施されましたところ,衆議院議員浅野貴博君提出懲戒処分を受けた検察官の処遇等に関する質問に対する答弁書(平成24年6月29日付)には以下の記載があります。
 お尋ねの検察官の行為の中には、刑法(明治四十年法律第四十五号)などの法令に違反するものが含まれているところ、このうち、前田恒彦検事は、平成二十一年七月に、公判の紛糾及び上司からの叱責を避けるため、公判係属中の事件の証拠であるフロッピーディスクに記録された文書データを変造したものであり、この行為は、刑法第百四条の証拠隠滅罪に該当し、大坪弘道検事及び佐賀元明検事は、平成二十二年二月に、前田恒彦検事が証拠隠滅の罪を犯したことを知りながら、これを知った他の検事に他言を禁じ、前田恒彦検事に対し、当該データの改変は過誤によるものとして説明するよう指示するなどした上、当該データが過誤によって改変された可能性はあるが改変の有無を確定できず、改変されていたとしても過誤にすぎない旨事実をすり替えて捜査を行わず、また、次席検事及び検事正に対しても、虚偽の報告をし、検事正らをして、捜査は不要と誤信させることにより、証拠隠滅罪の犯人である前田恒彦検事を隠避させたものであり、この行為は、同法第百三条の犯人隠避罪に該当し、また、三浦正晴検事長については、前田恒彦検事による前記証拠隠滅の事実につき、同検事に対する指導監督が不適正であったものであるが、これら四名以外の行為については、法務省として、職員に対する懲戒処分の公表に当たっては、「懲戒処分の公表指針について」(平成十五年十一月十日付け総参-七八六人事院事務総長通知)を踏まえ、個人が識別されない内容のものとすることを基本としており、お尋ねの「詳しい経緯」を明らかにすることにより、特定の個人が識別されるおそれがあることなどから、お答えすることは差し控えたい。
(2) 原田明夫検事総長は,平成14年4月22日に逮捕された三井環大阪高検公安部長の収賄・詐欺事件の監督責任を問われ,同年,戦後初めて検事総長として戒告処分を受けました(産経ニュースHPの「元検事総長の原田明夫氏死去」(2017年4月7日付)参照)。
(3) 裁判官の場合,行政機関が懲戒処分を行うことはできません(憲法78条後段)。

近藤裕之検事(46期の裁判官)に対する懲戒免職の処分説明書

第4 検察官の勤務延長に関する法務大臣の答弁
1 令和2年2月25日の衆議院予算委員会第三分科会における森まさこ法務大臣の答弁
   検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の二点でございまして、国家公務員が定年により退職するという規範そのものは、検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというべきでございますので、結局、検察官の定年による退職は、検察庁法二十二条により定年年齢と退職時期につき修正された国家公務員法八十一条の二第一項に基づくものと解されます。
   したがって、前条第一項の規定により退職した場合に適用される同法八十一条の三の規定は検察官にも適用されるものと解しております。

2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 法務省においては、国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として検察官についても検討を進める過程で、昨年のうちから現行の国家公務員法と検察庁法の関係について必要な検討を行っていたところ、検察官の勤務延長について判断したものでございます。
 その上で、令和二年一月十七日から同月二十四日にかけて関係省庁と協議を行い、異論はない旨の回答を得て、最終的に結論を得たものでございます。
② 委員がお示しになりました一月十六日付けの法務省の文書でございますが、国会にももう提出をしておりますが、こちらで、先ほど委員がお示しになりました、「(本来であれば、国公法に定年制度が導入された時点で、検察庁法に必要な読替規定を置くことが望ましかったとも言えるが、)」の後に、一般法たる国公法の諸規定、懲戒、服務等については、特に読替規定を置くこともなく、当然に検察官にも適用していることからも明らかなとおり、解釈上、検察官が同法八十二条の三に規定する勤務延長制度の対象となる職員と考えることに問題はなく、その結果、検察官に同制度を適用することについても問題はないと考えられると記載されておりますとおり、他の読替規定を置くこともなく、検察官に適用されている懲戒、服務等を引きまして、そしてまた、解釈上、勤務延長制度の対象となる職員と考えることに趣旨等から問題はないというふうに考えて、ここに書いてありますとおり、結果として適用をするというふうに結論付け、そしてこの翌日の一月十七日から二十一日までの法制局との協議については、その旨記載した文書で臨んでいるということでございます。
③ 国家公務員法上、例えば懲戒処分については、任命権者から懲戒処分を受けた職員について、人事院に不服申立てを行ってその審査を受けることができるものとされておりますが、これは、内閣が任命する検事長についてもその点は変わらないところでございます。
3 令和2年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 東京高等検察庁管内でおいて遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するためには、黒川検事長の管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠であり、職務を遂行、引き続き勤務させることとしたものでございます。
② (山中注:重大かつ複雑困難な事件の捜査は何であるかという質問に対し,)個別の事件に関しましては、捜査機関の活動内容やその体制に関わる事柄でもあることから、お答えを差し控えさせていただきます。
③ 黒川検事長につきましては、東京高検、検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するための管内部下職員に対する指揮監督が必要不可欠ということで、人事院規則一一―八との関係では、七条三号の業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときに該当するところでございます。
④ 委員お示しの大正十年の衆議院の委員会におけるこの裁判所構成法の提案理由におきましては、第八十条の二を設けて検事の定年を定めた理由については、後進のために進路を開いて、新進の者をしてその位置を進めしめ、もって司法事務の改善を図るということの目的のためなどと説明されております。
 しかしながら、同条ただし書において在職期間の延長を定めた理由については、必ずしもつまびらかではございません。
⑤ お尋ね(山中注:裁判所構成法で認められていた検察官の定年延長が,昭和22年5月3日の日本国憲法の施行と同時になくなった理由)については、検察庁法が定められた昭和二十二年の帝国議会議事録等についても特段触れられておらず、理由はつまびらかではございません。
⑥ 委員の御意見のようなこと(山中注:「司法大臣が場合によっては定年延長することができるとしていたために、行政権の司法権、検察に対する行政介入が起こることができたわけです。これをさせてはならない、司法権の独立、検察の独立、中立でなくちゃいけない、だからこれを除外したんです」という意見)が記載されている資料もなく、昭和二十二年の趣旨が、必ずしもその理由はつまびらかではございません。




第5 検察官の勤務延長に関する内閣法制局長官の答弁

1 令和2年2月25日の衆議院予算委員会第三分科会における近藤正春内閣法制局長官の答弁
① 基本的には検察庁法と国家公務員法の改正の問題ですので、その内容については法務省の方で御検討されるということで私ども聞いておりまして、当時と比べていろいろ検察行政が複雑化しておって、そういった中で勤務延長という制度の趣旨を考えたときに、それを検察官に適用しないということではないのではないかということで、まさしくその後の検察行政をめぐる情勢の変化ということが今回の解釈変更の前提であるというふうにお聞きをしております。
② 国会で制定されました法律について、政府は誠実に執行していく義務を憲法上持っておりまして、その執行をしっかりやっていくということでございますけれども、その執行していく段階で、ある程度、いろいろな議論をして、解釈の変更をせざるを得ないと、これはいろいろなものがあると思います、細かいものから大きなものまであるのかもしれませんけれども、それにつきましては、あくまでも行政府の判断として責任を持ってやっていくということで、問題はないというふうに思っております。
③ ちょっと答弁の仕方が悪かったかもしれませんけれども、(山中注:昭和55年10月の総理府人事局作成の想定問答集によれば,検察官の場合,勤務の延長が)除外されるということは当時判断をされて除外をしたんです、そこの理由は必ずしもつまびらかではないと。今の時点で解釈を考えると、当時はそういう配慮をしました。ただ、そのほかにも、教育公務員なんかも適用除外にしていまして、それも勤務の特殊性なのかどうかはわかりません。

 そういう意味では、その後、教育公務員については、定年延長も、制度が認められたりしなかったりという議論、また、して、しないとかいう議論をしておりますけれども、そういう意味では、当時除外をしたというのはもう確定した解釈、当時、総理府部内でそういう解釈をしていたということではあると思いますけれども、今の段階で適用をもう一度考えた場合に、そこに、先ほど申し上げたような、検察官だからひとえに勤務延長はできないということにはならないというふうに私どもも考えたということでございます。
2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における近藤正春内閣法制局長官の答弁
① 今回の国家公務員法の定年引上げに関する法案の検討作業は、昨年のもう夏過ぎ、秋頃からずっとやっておりまして、その段階で、検察庁法についてもどういう対応をするかは、法務省の方で御検討されながら徐々に審査を進めていったわけでございますけれども、当初は私どもも、適用が今ないというところから、現在、検察官に対して勤務延長制度は適用がないという従来の解釈は当然承知しておりましたので、その上でどういうふうにしていくのかという議論を当初していったものと思っております。その上で、ずっと議論はしてきたということでございます。
 法務省においては、そういう理解、当然、両省庁の担当者、刑事局と私どもの二部では同じ共通の認識でずっと審査をしてきたということだと思います。
② 先ほどもお答えしましたように、ずっと昨年から続けておりました審査の過程で、現在の国家公務員法と検察庁法の関係についての解釈について新しい解釈を取りたいということで一月十七日に御相談があり、担当者も、前提が変わりましたので、いろんな審査の前提が変わりますので、その段階で私まできちっと上げて、一度了解をした上で新しい審査に入る必要があるということでそういう応接録を作り、私にも報告をし、私も了解の回答をしたということでございます。
   今や国家公務員に定年も入り、定年によってやめるという規範は、一般公務員も、検察官も一般公務員ですから、そこは同じ思想のもとで、職務の特殊性等で年齢、定年の延長が一般職もいろいろ変わっておりますけれども、その中の一つとして検察官も従来規定がされておりまして、その定年と定年延長ということ自身と個々の職務の内容のどうこうということはとりあえず関係のない制度、つまり、一般的な職務、ある程度、公務員の中の新陳代謝を図りながら、きちっとした年齢まで働けるということを前提に、安心して人生設計をさせて、しっかり職務に当たらせるという定年制度の意義自身は、同じ国家公務員たる検察官も、一般の公務員、一般職の全体は同じ意味だと思いまして、そこのところについて何か検察官の特殊性がどうこうという議論は基本的にはないものというふうに考えます。

第6 検察庁法22条及び32条の2に関する法務大臣等の答弁
1 昭和24年5月11日の参議院法務委員会における高橋一郎法務庁検局長の答弁

 第三十二條の二は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。從つて、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。
 このような職責の特殊性に鑑み、從來檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、從つてその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。
 よつて、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。
2 令和2年3月5日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の答弁
① 先ほど引用いたしました伊藤元検事総長の新版検察庁法逐条解説によりますと、二十二年の定年の趣旨(山中注:昭和22年制定の検察庁法22条で定年を定めた趣旨)は、検察自体の老化を、検察全体の老化を防ぎ後進に就任の機会を与えるためと考えられてきたが、その後、昭和五十六年の国家公務員法の改正により他の一般の国家公務員についても定年が定められた以後の趣旨については、検察官にはその特別の定年、つまり年齢が六十歳よりも高い年齢が定められているのは、その職務と責任に特殊性があるものによるものと解さなくてはならないということになろうなどと記載されております。
② 昭和二十四年の参議院法務委員会における逐条説明では、同条(山中注:検察庁法32条の2)について、検察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴機関、公訴提起機関と規定されており、その職務執行の公正が直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼす、このような職責の特殊性に鑑み、従来検察官については、一般行政官と異なり、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を与えられた、与えられていたものである、この特殊性は、国家公務員法施行後も変わらないことから、検察庁法中、検察官の任免に関する規定を国家公務員法の特例としたなどと説明をされております。

第7 勤務延長に関する総理府人事局及び人事院の答弁
1 総理府人事局の答弁
・ 昭和56年6月2日の参議院地方行政委員会における森卓也総理府人事局次長の答弁
 今日まで、国家公務員制度のもとでは、大学の教官とか、あるいは検察官等の職員を除きましては、定年制は設けられていなかったわけでございますが、これは職員の年齢構成が比較的若かったこと。後進に道を譲るという伝統もありまして、勧奨によりますところの退職が比較的円滑に行われて新陳代謝が働いていたという事情があったために、特に定年制を必要としなかったということでございます。
2 人事院の答弁
(1) 昭和56年4月28日の衆議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(2) 昭和56年5月7日の衆議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
① 退職の特例でございますが、通称勤務延長と言っておりますので、勤務延長と言わしていただきますが、勤務延長につきましては、この法案に示されておるところによりますと、延長することについての第一次の判断者は任命権着ということにいたしております。したがいまして、第一回目の勤務延長を行う権限者は任命権者でございます。この場合は人事院の承認を要するということにはなっておりません。これは、ここにも書いてありますように、「その職員の職務の特殊性」――「職務の特殊性」として例示的に申し上げますと、非常に端的に言いますと名人芸、たとえば通産省あたりにはレンズをみがく非常に名人芸の方もおりますし、植物園で高山植物を栽培するのに非常にたけておるような職員もございます。そういうものがわかりやすいから例示いたしますが、要するに、その者の有する知識、技能、経験、そういうものが職務遂行上不可欠で、しかも代替者が直ちに得られないというようなケース、それからいま現にその職員が担当しております業務がある一定期間継続性がありまして、その職員を欠きますと、その業務の遂行に支障が生ずる、つまり業務の連続性がある、しかも非常に緊急な業務であるというような職務についておる職員、そういうことを例示として考えております。
 第二回目以降は、人事院の承認に係らしめておるわけですが、これはまさに特例でございますので、これが乱にわたるというようなことがあっては定年制の趣旨が損なわれるということになりますので、人事院で審査を必要としておるわけでございます。この場合は、当初においてその者を勤務延長した事情の説明、それが継続しているかどうかの証拠資料、そういうものを取り寄せて審査する予定にしてございます。
② 勤務延長につきましては、公務上の必要性ということが原則でございまして、属人的な要素で勤務延長を行うということは考えてございません。
③ 再任用につきましては、一たん定年退職した者をその者の技能とか経験、それが公務に非常に有用であるということで再採用しようという制度でございます。これも任命権者の裁量によって再任用を行うことができるという規定になっております。
 この場合、人事院規則で定めるのは、その基準を定めるわけでございますが、第一点は、その職員の能力、技能が公務に活用できるというその職員の経歴とか持っておる特殊技能の証明、そういうものが第一点、それから勤務実績が良好であるという証明、それから再任用する場合の官職は定年退職前の官職と同等以下の官職に限りますという、そういう三つの基準を設けまして、あとは再任用の手続などを定める予定でございます。
④ 現在の職員の在職状況から見ますと、いま先生御指摘のような将来に対する不安が生じてまいります。そういうこともありますので、今回意見を申し上げるに際しまして、準備期間を五年程度置けばよろしいという意見を申し上げておるわけでございまして、その間にそういうことも含めて長期的な人事計画あるいは要員計画というものを各省に立ててもらう、人事院と総理府はそういう各省の計画について指導をしたり援助をしたりするということで、円滑な定年制の実施を確保するようにという趣旨でございます。
 それから、なお申し上げますと、そういうことで余人をもってかえがたいような人が発生しました場合は、先ほど来申し上げております勤務延長とか再任用で業務に支障のないような措置をとっていただく、こういうことになろうかと思っております。
(3) 昭和56年5月28日の参議院内閣委員会における斧誠之助人事院任用局長の答弁
 いまおっしゃいましたのは、勤務延長と再任用の関係であろうかと思いますが、勤務延長と申しますのは、役所側の要請でなお職にとどまってもらいたいという場合でございまして、再任用の場合は、その職員が希望して、そしてその職員の能力、技能、技術、そういうものが公務に非常に有用であるというそういう場合にもう一回再採用で役所に来てもらおうと、こういうことでございまして、違いは役所側が積極的に要請して延長するか、職員が希望して、その希望者に対していろいろ能力評価をした上で有用であるという認定のもとに再任用をするか、そのところの違いでございます。
(4) 令和2年3月6日の参議院予算委員会における松尾恵美子人事院給与局長の答弁

① 国家公務員法上、勤務延長は、職員の職務の特殊性又は職員の職務の遂行上の特別の事情から見てその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときに、定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定めて行うことができるものとされております。
 詳細につきましては人事院規則一一―八第七条第一号から第三号までに規定しておりまして、職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき、二番目といたしまして、勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき、三番目といたしまして、業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときに勤務延長を行うことができるものとされております。
② これは任用局企画課長通知というのに定められておりまして、例えば次のような場合が該当するということで、先ほど説明申し上げた第一号に該当する場合として、定年退職予定者がいわゆる名人芸的技能等を要する職務に従事しているため、その者の後継者が直ちに得られない場合、例えば第二号に該当する場合として、定年退職予定者が離島その他のへき地官署等に勤務しているため、その者の退職による欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な支障が生ずる場合、第三号に該当する場合の例といたしまして、定年退職予定者が大型研究プロジェクトチームの主要な構成員であるため、その者の退職により当該研究の完成が著しく遅延するなどの重大な障害が生ずる場合、重要案件を担当する本府省局長である定年退職予定者について、当該重要案件に係る国会対応、各種審議会対応、外部との折衝、外交交渉等の業務の継続性を確保するため、引き続き任用する特別の必要性が認められる場合というふうに規定されております。



第8 黒川弘務東京高検検事長を検事総長に任命することは法的に可能であること

1   衆議院議員奥野総一郎君提出東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)には以下の記載があります。
① 黒川弘務検事長の勤務期間の延長は、検察庁における業務遂行上の必要性に基づくものであるところ、検察官も一般職の国家公務員であるから、一般職の国家公務員に適用される国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第八十一条の三第一項の規定により、任命権者である内閣において閣議決定して行ったものである。
② 検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)第十九条第一項に定める資格を有し、かつ、国家公務員法第三十八条及び検察庁法第二十条に定める欠格事由に該当しない日本国籍を有する者については、年齢が六十五年に達していない限り、検事総長に任命することは可能である。
2(1) 東京高検検事長の定年が半年間延長された件に関する質問に対する答弁書(令和2年2月18日付)に関する内閣法制局の開示文書を掲載しています。
(2) 質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~(法務省)を掲載しています。
3 衆議院議員加藤公一君提出質問主意書に対する内閣の答弁書の効力に関する質問に対する答弁書(平成12年12月5日付)には以下の記載があります。
 一般職の国家公務員は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第九十八条第一項の規定により、その職務を遂行するについて法令及び上司の職務上の命令に従わなければならないこととされており、質問主意書に対する答弁書の中に法令の解釈が示されているような場合には、当該解釈に従い法令を執行する義務を負うものである。

第9 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長に関する弁護士会の反対意見
1 検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明(令和2年3月13日付の大阪弁護士会の会長声明)の記載

 検察庁法は、検察官の定年について「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定め(同法第22条)、国家公務員法との関係については、「検察庁法第15条、第18条乃至第20条及び第22条乃至第25条の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」と定めている(同法32条の2)。これは、定年を定める検察庁法第22条が一般法である国家公務員法の特例をなすので、国家公務員法の適用を受けないことを定めたものである。したがって、本閣議決定は検察庁法に違背する。
 また、1981年(昭和56年)に国家公務員法が改正され、国家公務員の定年とその延長の制度が導入されたが、同法案を審議した当時の衆議院内閣委員会で、人事院事務総局任用局長は、「今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。検察官については、国家公務員法の定年延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されている。」旨を答弁しており、本閣議決定まで30年近く、1981年(昭和56年)の答弁を否定する取扱いはされてこなかった。
 検察庁法第22条が国家公務員法の適用を受けないのは、検察官が、公益の代表者として 刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、準司法的職務を行うことから、行政権の一部に属しながらも、他の行政権力からの独立が要請されるためである。検察官は独任制の機関とされ、訴追などの検察権の行使を公正に行うために身分保障が与えられている。
 本閣議決定は、憲法の基本原理である権力の監視・抑制の理念に沿い、長年にわたり築かれてきた検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の精神に違背することになる。
2 検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明(令和2年4月6日付の日弁連の会長声明)の記載
   検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで、国公法第81条の3第1項は、検察官には適用されていない。
   これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。
   したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。

第10 選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為が弁護士会の懲戒対象となる場合
1 令和元年7月8日付の日弁連懲戒委員会の議決書は,以下の判断を含む原弁護士会の決定を相当であると判断しました(2019年弁護士懲戒事件議決例集(第22集)102頁,103頁及び112頁)。
   弁護士は「職務の内外を問わず,弁護士としての品位を害する非行」があった場合は弁護士会が懲戒をなすものとされているところ,選挙により選ばれた公職者がその職務上行った行為については,選挙民がその当否を判断するのが民主主義の本筋であることからすると,かかる行為については,犯罪を構成する場合,行為の違法性が重大である場合,あるいは,違法行為と知って故意に行うといった悪質性が高い場合に,弁護士としての品位を害するものとして懲戒の対象とするのが相当である。
2 令和2年4月5日現在,森まさこ法務大臣は福島県弁護士会所属の弁護士(47期)でありますところ,東京高検検事長の勤務延長を決定した閣議決定は,「憲法の基本原理である権力の監視・抑制の理念に沿い、長年にわたり築かれてきた検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の精神に違背することになる。」(大阪弁護士会の会長声明)ものであったり,「検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすもの」(日弁連の会長声明)であったりするわけですから,当該閣議決定を求めた法務大臣の行為の違法性は重大であるのかも知れません。




3 私は,弁護士会の懲戒基準を理解する能力を有していないことを付言しておきます「弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)」参照)。

第11 河野克俊統合幕僚長の勤務延長(平成28年11月29日から平成31年4月1日まで)
1(1) 1954年11月28日生まれの河野克俊統合幕僚長(海上自衛隊出身)は,平成26年(2014年)10月14日付で第5代・統合幕僚長に就任し,平成28年(2016年)11月28日に62歳の定年を迎えたものの,自衛隊法45条3項及び4項に基づき3度の勤務延長を経て,平成31年(2019年)4月1日付で退官しました(退官時の年齢は64歳4ヶ月余りです。)。
(2) Wikipediaの「河野克俊」には以下の記載があります。
   自衛隊最高指揮官である安倍晋三内閣総理大臣が最も信頼する自衛官といわれ、歴代の防衛大臣からも厚い信頼を得ていることから、法令(自衛隊法施行令)で定める定年年齢(62歳)を越えた後も3度の定年延長を経て統合幕僚長の地位に留まり、初代統合幕僚会議議長の林敬三に次いで歴代第二位の在職(統合幕僚長としては最長)となった。
2 自衛隊法45条は以下のとおりです。
(自衛官の定年及び定年による退職の特例)
第四十五条 自衛官(陸士長等、海士長等及び空士長等を除く。以下この条及び次条において同じ。)は、定年に達したときは、定年に達した日の翌日に退職する。
② 前項の定年は、勤務の性質に応じ、階級ごとに政令で定める。
③ 防衛大臣は、自衛官が定年に達したことにより退職することが自衛隊の任務の遂行に重大な支障を及ぼすと認めるときは、当該自衛官が第七十六条第一項の規定による防衛出動を命ぜられている場合にあつては一年以内の期間を限り、その他の場合にあつては六月以内の期間を限り、当該自衛官が定年に達した後も引き続いて自衛官として勤務させることができる。
④ 防衛大臣は、前項の期間又はこの項の期間が満了する場合において、前項の事由が引き続き存すると認めるときは、当該自衛官の同意を得て、一年以内の期間を限り、引き続いて自衛官として勤務させることができる。ただし、その期間の末日は、当該自衛官が定年に達した日の翌々日から起算して三年を超えることができない。
3(1) 参議院議員古賀之士君提出統合幕僚長の定年延長に関する質問に対する答弁書(平成29年6月13日付)には以下の記載があります。
   平成二十八年十一月二十八日に発令された自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第四十五条第三項の規定による河野克俊統合幕僚長の勤務期間の延長は、我が国を取り巻く安全保障環境等を踏まえ、自衛隊の各種任務を適切に遂行するために防衛大臣が判断し行ったものであり、同様の事由が引き続き存することから、今般、同条第四項の規定により、その勤務期間を延長したものである。
(2) 参議院議員古賀之士君提出統合幕僚長の定年延長に関する再質問に対する答弁書(平成29年6月27日付)には以下の記載があります。
① お尋ねの「我が国を取り巻く安全保障環境等」とは、我が国周辺を含むアジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因がより深刻化しており、周辺国による軍事力の近代化・強化や軍事活動等の活発化の傾向がより顕著となっていること等を念頭に置いたものである。
② お尋ねの「各種任務」とは、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第三条に規定する任務である。
③ お尋ねの「自衛隊の統合幕僚長の適格者」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、河野克俊統合幕僚長の勤務期間の延長については、先の答弁書(平成二十九年六月十三日内閣参質一九三第一一九号)においてお答えしたとおりである。
4(1) 内閣の答弁書からすれば,「我が国を取り巻く安全保障環境等を踏まえ、自衛隊の各種任務を適切に遂行するため」であれば,自衛隊法45条3項の「自衛官が定年に達したことにより退職することが自衛隊の任務の遂行に重大な支障を及ぼすと認めるとき」に該当することとなります。
(2) 例えば,「令和元年版防衛白書の刊行に寄せて」(防衛白書の発行日は令和元年10月25日)には以下の記載がありますから,中国及び北朝鮮といった周辺国の活動が劇的に緩和しない限り,常に自衛隊法45条3項の事由が存在することとなる気がします。
   わが国を取り巻く安全保障環境は、かつて想定していたよりもはるかに速いスピードで厳しさと不確実性を増しております。とくに顕著な変化は、宇宙・サイバー・電磁波といった領域の軍事利用が急速に拡大していることです。近年の技術革新により、これらの領域は陸・海・空という従来の領域と並ぶ重要性を持ち始めました。また、地域に目を向けると、中国は周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、日本海さらには太平洋に進出する戦闘機や爆撃機の飛行も増加しつつあります。北朝鮮は依然としてわが国全域を射程におさめる弾道ミサイルを数百発保有、実戦配備しております。5月以降、相次いでいる日本海への短距離弾道ミサイルなどの発射は、北朝鮮が、3度に亘る米朝首脳の会談や面会の後も、関連技術の高度化を図っていることを示すものであり、わが国として看過することはできません。

第12 国会答弁資料
① 令和2年2月    3日から同年3月2日までの分
② 令和2年3月    9月の参議院予算委員会(質問者は小西洋之)→大臣官房人事課作成分刑事局作成分
③ 令和2年3月11日の衆議院法務委員会(質問者は山尾志桜里)→大臣官房人事課作成分刑事局作成分

第13 関連記事
① 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
② 勤務延長制度(国家公務員法81条の3)の検察官への適用に関する法務省及び人事院の文書(文書の作成時期に関する政府答弁を含む。)
③ 国家公務員法81条の3に基づき,検察官の勤務延長が認められる理由
④ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する法案審査資料
⑤ 最高裁判所長官任命の閣議書
⑥ 最高裁判所判事任命の閣議書
⑦ 各府省幹部職員の任免に関する閣議承認の閣議書
⑧ 黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題

旧司法試験の成績開示範囲の拡大

目次
1 平成16年度司法試験からの開示範囲の拡大
2 平成18年度司法試験からの開示範囲の拡大
3 平成20年度からの開示範囲の拡大
4 関連記事その他

1 平成16年度司法試験からの開示範囲の拡大
(1) 平成16年度司法試験から「丙案」制度が廃止された関係で,それまで不合格者に対してのみ行っていた論文式試験の成績通知が合格者に対しても行われるようになりました。
(2) 論文式試験合格者に対しては,科目別順位ランク及び総合得点が通知されるようになりました。

2 平成18年度司法試験からの開示範囲の拡大
(1) 東京地裁平成16年9月29日判決は,平成9年度から平成11年度までの司法試験の成績に関する個人情報開示請求訴訟において,①論文式試験の科目別得点及び総合順位,並びに②口述試験の科目別得点は不開示情報であるものの,③口述試験の総合順位は開示すべきであると判断しました。
   控訴審である東京高裁平成17年7月14日判決は,論文式試験の総合順位も追加で開示すべきであると判断しました。
(2)ア   平成18年度からは,論文式試験の総合順位も通知されるようになりました。
イ 平成19年7月発行の日弁連新聞第402号には,「司法試験の成績については、1983年以降に実施された旧司法試験第2次試験ファイルに記録されている情報が開示される。法務大臣宛に開示請求し、手数料300円、本人確認資料などが必要となる。」と書いてあります。

3 平成20年度からの開示範囲の拡大
・ 平成20年度(行個)答申第1号(平成20年4月14日答申)に基づき,合格枠制対象の合格者(いわゆる丙案合格者)に該当する可能性がある人(平成8年度から平成15年度までの司法試験において,受験回数が3回以内で論文式試験に合格した人)であっても,法務大臣に対して保有個人情報開示請求をすれば,論文式試験の総合得点及び総合順位を開示してもらえるようになっています。

4 関連記事その他
(1) 旧司法試験の成績に関する開示請求については,法務省HPの「司法試験ファイル,旧司法試験第二次試験ファイル及び司法試験予備試験ファイルに係る開示請求について」に書いてあります。
(2) 司法試験に関する成績開示は現在,「司法試験における試験成績の本人通知について」(平成17年11月8日司法試験委員会決定)に基づいて運用されています。
(3) 弁護士法人福間法律事務所HP「司法試験(口述)の成績開示、11番でした。」(2017年10月7日付)には,昭和61年度司法試験合格者の開示請求の体験談として,「論文試験については席次資料は残っておらず、AからHまでの7段階評定で、私の成績は、7科目中6科目がA、1科目がBの、総合Aであり、口述試験は席次成績が残っており、11番でした。」と書いてあります。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 旧司法試験の「丙案」制度
・ 旧司法試験の成績分布及び成績開示

旧司法試験の「丙案」制度

目次
第1 平成3年の司法試験法改正による「丙案」制度の導入

1 法曹基本問題懇談会(昭和62年4月から昭和63年3月まで)
2 法務大臣官房人事課長試案及びその後の経緯(昭和63年4月から同年12月まで)
3 司法試験制度改革に関する法曹三者協議会(昭和63年12月から平成2年10月まで)
4 法制審議会の答申(平成3年2月)
5 司法試験法の改正(平成3年4月)
6 参考資料
第2 平成8年度から平成13年度までの司法試験
1 法曹養成制度等改革協議会(平成3年6月から平成7年11月まで)
2 「丙案」制度の実施決定(平成7年12月11日)
3 司法試験制度と法曹養成制度の改革に関する法曹三者の協議会(平成8年7月から平成9年10月まで)
4 法曹三者の協議会
5 その後の日弁連決議
第3 平成14年度及び平成15年度の司法試験
1 司法制度改革審議会の意見書(平成13年6月)
2 司法試験管理委員会の決定(平成13年11月)
3 「丙案」制度の廃止
第4 旧司法試験の司法試験合格者数の推移,及び合格枠制における制限枠の推移
1 旧司法試験の合格者数の推移
2 合格枠制における制限枠の推移
第5 昭和39年8月28日付の臨時司法制度調査会意見書
1 昭和39年8月28日付の臨司意見書の記載
2 弁護士会の反対決議
3 臨司意見書が日の目を見たのはごく一部だったこと
第6 関連記事その他

第1 平成3年の司法試験法改正による「丙案」制度の導入
1 法曹基本問題懇談会(昭和62年4月から昭和63年3月まで)
・ 昭和62年4月27日に第1回会合が開催された法曹基本問題懇談会は,昭和63年3月公表の意見において,「当面緊急に必要な改革」として以下の記載をしています。
    司法試験の合格者を当面現行制度の下における修習が可能な範囲内で増加させ,それと併せて,全受験者がなるべく平等な条件の下で受験できるようにすることにより,大学における法学教育を受けた者が長期にわたって受験勉強に専念しなければ合格するのが困難となっている現状を改めるため,受験者が受験できる回数をある程度の範囲内に制限すべきである。

継続受験者の受験回数別・年齢別断念状況(平成元年11月20日配布の,「司法試験制度改革の基本構想」の添付資料)

2 法務大臣官房人事課長試案及びその後の経緯(昭和63年4月から同年12月まで)
(1) 法務省は,法曹基本問題懇談会の意見を受けて,具体的改革案として,昭和63年4月13日,大臣官房人事課長名で「司法試験改革試案」を作成して公表しました。
    その骨子は,①合格者700人程度への増加,②受験回数制限の導入(司法試験第二次試験は,連続した3年以内に3回以内の受験を認める。ただし,司法試験が行われる年の3月31日に満24歳に達していない者の受験のうち2回は,回数制限対象の受験とはみなさない。),③大学推薦制の導入及び④教養選択科目の廃止でした。
(2)ア 法務省の試案に対する大学の意見は,合格者の増加についてはすべての大学が賛成,受験回数制限と教養選択科目の削減については4分の3が賛成,大学推薦性については賛否相半ばするという状況でした。
イ 日弁連は,法務大臣官房人事課長試案について,昭和62年3月に設置された法曹養成問題委員会において検討をするとともに,全国単位弁護士会から意見を求めた結果,昭和63年11月18日の理事会において,日弁連の意見を以下のとおり集約することが承認されました(日弁連新聞1988年12月1日号)。
(法務省人事課長試案に対する意見集約について)
    試案に対する52単位会からの意見及び法曹養成問題委員会の答申を踏まえて集約した結果,当連合会の試案に対する基本的意見は次のとおりである。
一 回数制限は反対する。
二 大学推薦は反対する。
三 試験科目中の教養選択科目廃止は賛成する。
四 増員については,その前提となる諸条件の整備が必要である。
    なお,回数制限とのセットは反対する。
(3) 法務省は,こうした経緯を踏まえて,司法試験改革問題を最高裁,法務省及び日弁連による法曹三者協議会の議題として取り上げることを提案し,昭和63年12月19日の法曹三者協議会から,この問題が協議の議題とされることとなりました。
    また,協議の開始に当たり,法務大臣官房人事課長試案を議論の前提とはせず,改革の必要性から議論すること等が確認されました。
3 司法試験制度改革に関する法曹三者協議会(昭和63年12月から平成2年10月まで)
(1) 昭和63年12月19日に開始した法曹三者の協議は,概ね毎月1回程度開催され,法務省が作成した資料等に基づいて詳細な議論が重ねられ,平成元年6月27日の第7回の協議において最高裁が,同年9月28日の第9回の協議において日弁連が,それぞれ,改革の必要性等についての意見表明を行い,その内容について,同日の協議終了後,法曹三者共同の記者会見が行われました。
(2)ア 司法試験制度改革の基本構想(平成元年11月20日付の法務省の文書)において,少数回受験者の優先枠として以下の三つの案が示されました。
甲案:司法試験第二次試験は,初めて受験した年から5年以内に限って受験できることとする。
乙案:論文式試験及び口述試験の合格者を決定するに当たり,当該試験の合格者数の80%以上に相当する数を初回受験から5年以内の受験者から決定し,その余の合格者は初回受験から6年以上の受験者から決定することとする。
丙案:論文式試験及び口述試験の合格者を決定するに当たり,当該試験の全受験者からその者の受験回数にかかわらず全合格者の70%の合格者を決定し,その余の合格者を初回受験から3年以内の受験者から決定することとする。

(3)ア 基本構想三案につき,受験者の多い大学の意見は,大部分が三案のいずれかの案を支持するものでしたが,特に合格者の多い5校程度の大学は一致して丙案支持であり,丙案以外は反対であると明言する大学もありました(法制審議会司法試験制度部会における法務省説明要旨(「司法試験制度はこう変わる 法曹養成制度改革」(法務大臣官房司法法制調査部編。ジュリスト増刊 基本資料集)(平成3年9月20日発行)38頁)参照)。
イ 日弁連は,平成2年7月25日の法曹三者協議会において,「司法試験制度改革に関する提案」を示し,その中で,合格者700人程度への増加及び教養選択科目の廃止といった司法試験改革を平成4年度司法試験から実施し,平成8年度司法試験の終了後に効果に関する検証を行った上で,多数回受験者の滞留現象や合格者の受験回数,年齢分布などにおいて「より多くの者がより早く合格する」方向での改善効果が見定められず,悪化の傾向が見られたときには,平成9年度司法試験から丙案又はその修正案を実施すべきと提案しました。
    その結果,見直しの余地を残しながらも,最終的には丙案又はその修正案により当面の司法試験制度の改革を図るという点において,法曹三者の意見が一致することとなりました。
(4)ア 司法試験制度改革に関する基本的合意(平成2年10月16日付)において以下のことを決定しました。
・ 法曹三者は,司法試験制度の抜本的改革を実現するために法曹養成制度等改革協議会(仮称)を設置することとする。
・ 合格者は平成3年から600人程度に増加させ,平成5年からは700人程度とする(合格者の増加数は,平成3年から平成7年までの間に合計900人以上となることを目途とする。)。
・ 平成7年の試験において,なお少数回受験者の合格者の大幅増(合格者中3年以内受験者30%以上又は5年以内受験者60%以上など)が実現しなければ,平成8年から合格枠制を実施する。

・ 平成12年の試験終了後に,それまでの検証結果に基づき,その間に行われた試験方法をその後も継続するべきか(丙案が実施されている場合にはこれの廃止も含む),他の方法を採るべきかを協議することとする。
イ 「法曹養成制度等改革協議会」の設置要綱は,平成3年3月4日開催の法曹三者協議会で決定されました。
4 法制審議会の答申(平成3年2月)
・ 法制審議会は,丙案の導入等を内容とする平成2年10月22日付の法務大臣の諮問に対し,平成3年2月4日,諮問に係る改正は相当であると答申しました(「法制審議会答申(平成3年2月4日付)及びその関係資料(旧司法試験の「丙案」制度の導入)」参照)。
5 司法試験法の改正(平成3年4月)
(1)ア 司法試験法の一部を改正する法律(平成3年4月23日法律第34号)による改正後の司法試験法6条2項及び3項は教養選択科目を削除したものとなり,8条2項は受験回数が3回以内の受験者について論文式試験で特別枠を設けて合格させるという「丙案」制度を定めました。
イ 司法試験第二次試験の論文式による試験の合格者の決定方法に関する規則(平成3年7月4日司法試験管理委員会規則第1号)によって,「丙案」制度の詳細が定められました。
ウ 平成4年度以降の司法試験の論文式試験及び口述試験は,教養選択科目(政治学,経済原論,財政学,会計学,心理学,経済政策又は社会政策のうちの1科目)を含まないものとなりました。
(2) 司法試験法の一部を改正する法律(平成3年4月23日法律第34号)の法律案審議資料1/2及び2/2を掲載しています。
(3) 9期の中坊公平日弁連会長は,参考人として出席した平成3年4月16日の参議院法務委員会において以下の発言をしています。
 まず、丙案というものは受験回数によって合否を差別する制度でありまして、司法試験法に定めております判断基準である学識、応用能力に関係ない要素によって合否が決定されることを意味いたしております。この意味におきまして、司法試験法の根本的な理念である平等の原則にもまた反することは明らかであります。
 現在の採点からいたしますと、四回以上の受験者は四回以上というだけで五百一番目の者が不合格となり、逆に三回以内の者は一千八百番目であっても合格するという異様な状態をつくり出すことになるわけであります。しかも、このような合格者に二つの群れをつくること、特にその一群れにげた履きの合格者が存することは、広い意味では法曹全体にとって一種の分裂を招くことになり、外部からも法曹全体に対する信用を損なうおそれがあり、統一修習、法曹一元の立場からも危惧される点が多いと考えております。このため、日弁連におきまして積極的に丙案に賛成する会員は極めて少ないのであります。しかしながら日弁連といたしましては、先ほどから申し上げておりますように、多数回受験者の滞留現象を緊急に改善することは極めて重要であるという視点から、やむを得ず丙案の導入も考えなければならないと考え、基本合意に踏み切ったものであります。
 日弁連といたしましては、増員と運用改善によって丙案を実現しないで済むことを希望いたしております。また、改革協においてより抜本的な改革案が提案、実行されることによって、もっとすっきりした形態のものができ、多数回受験の滞留現象の解消に役立つことを希望しておるものであります。
6 参考資料
・ 「司法試験制度はこう変わる 法曹養成制度改革」(法務大臣官房司法法制調査部編。ジュリスト増刊 基本資料集)(平成3年9月20日発行)が非常に参考になります。


第2 平成8年度から平成13年度までの司法試験
1 法曹養成制度等改革協議会(平成3年6月から平成7年11月まで)
・ 平成3年6月25日に開始した法曹養成制度等改革協議会は,平成7年11月13日付の意見書において以下の意見を表明しています(司法制度改革審議会の配布資料一覧の「政府関係等」参照)。
① 司法の機能を充実し、国民の法的ニーズに応えるため、法曹人口を増加させる必要があり、そのために、司法試験合格者を増加させる措置を採るべきであるとする点で意見の一致を見た。
② 合格者の具体的な増員数及びこれに伴う司法修習制度の具体的な改革案に関しては、意見の一致を見ることができなかったが、合格者については、法曹人口を大幅に増加させるため、中期的には年間1,500人程度を目標としてその増加を図り、かつ、修習期間を大幅に短縮することを骨子とする改革を行い、これに伴って、民事訴訟法及び刑事訴訟法の両訴訟法を司法試験制度の改革を行い、また、法曹資格取得後の継続教育の充実を図るべきであるとする意見が多数を占めた。
    これに対し、司法試験合格者を1,000人程度に増加させるべきであるとする限度で多数意見と一致しつつ、法曹人口の増加は、裁判官・検察官の増員及び法律扶助制度等の「司法基盤」の整備と一体のものとして行うべきであるという観点から、それ以上の増員については、上記の点に関する具体的な計画を策定し、司法試験合格者の増員を検討していくべきである、また、修習期間の短縮には反対であるとする少数意見が述べられた。
③ 今後、法曹三者は、本意見書の趣旨を尊重して、真に国民的見地にたった司法試験制度及び法曹養成制度の抜本的改革を実現させるため、直ちに協議を行い、速やかに具体的な方策を採らなければならない。
2 「丙案」制度の実施決定(平成7年12月11日)
・ 司法試験管理委員会は,平成7年12月11日,最高裁及び法務省からの二委員の賛成,日弁連からの委員の反対の多数決により,平成8年度司法試験から,受験回数が3回以内の受験者について論文式試験で特別枠(約200人)を設けて合格させるという「丙案」制度の実施を決定しました(「司法試験「丙案」の廃止を求める決議」(平成12年10月18日付)参照)。
3 司法試験制度と法曹養成制度の改革に関する法曹三者の協議会(平成8年7月から平成9年10月まで)
(1) 平成8年7月にスタートした法曹三者の協議会は,平成9年10月28日付の司法試験制度と法曹養成制度の改革に関し,当面採るべき方策及び今後協議すべき事項等について法曹三者による合意において以下の合意に達しました。
(司法試験合格者の増加について)
・ 司法試験合格者を,平成10年度(山中注:平成11年4月開始の53期司法修習につながるもの)は800人程度に増加させ,平成11年度から年間1,000人程度に増加させる。
(司法修習制度について)
・ 修習期間を1年6か月とし,前期修習を3か月間,実務修習を12か月間,後期修習を3か月間行う。
・ 新たな司法修習制度は,平成11年度に始まる司法修習(山中注:平成11年4月開始の53期司法修習)から実施する。
(司法試験制度について)
・ 司法試験第二次試験のうち論文式試験の科目については,憲法,民法,商法及び刑法の4科目に加え,民事訴訟法及び刑事訴訟法を必須科目とするとともに,法律選択科目を廃止する。
    同口述試験の科目については,論文式試験の科目のうち商法を除く5科目とする。
・ 新たな司法試験制度は,平成12年度の司法試験第二次試験(山中注:平成13年4月開始の55期司法修習につながるもの)から実施する。

・ 法曹三者は,司法試験第二次試験のうちの論文式試験の合格者の決定方法について,日弁連が,平成8年度及び9年度の論文式試験の結果を見ると,短期間の受験での合格者が著しく増加するなど相当の改善効果が現れていることなどにかんがみ,遅くとも平成13年度の司法試験においては合格枠制を廃止すべきであると強く提言したことを受けて,今後の司法試験の結果及び司法試験をめぐる動向等を踏まえつつ,同提言も含め,法曹の選抜及び養成の在り方について,広く,かつ,真摯に検討するため,速やかに協議を開始する。
(2) 司法試験法の一部を改正する法律(平成10年5月6日法律第48号)による改正後の司法試験法6条2項及び3項に基づき,平成12年度以降の司法試験では,法律選択科目(行政法,破産法,労働法,国際公法,国際私法及び刑事政策)が廃止され,民事訴訟法及び刑事訴訟法が必修化され,商法の口述試験が廃止されました。
4 法曹三者の協議会
(1) 法曹三者の協議会は,昭和45年5月13日の参議院法務委員会の付帯決議(今後,司法制度の改正にあたっては,法曹三者(裁判所,法務省,弁護士会)の意見を一致させて実施するように努めなければならない。)等に基づき,昭和50年から平成3年までの間に164回開催され,平成8年から平成9年までの間に20回行われました(司法政策決定過程における日弁連のスタンスとその特徴-1990年以降を中心に-2頁参照)。
(2) 平成8年に自民党に設置された司法制度特別調査会は,司法制度に関する事項が三者協議を中心 に決定されてきたあ り方に疑問を呈し,同年6月に「21世紀の司法の確かな指針」と題する報告により司法制度審議会(仮称)の設置を提言し,司法制度改革の抜本的な検討を政府に求めました。
(3) 司法制度改革審議会設置法(平成11年6月9日法律第68号)に基づき平成11年7月27日に司法制度改革審議会が内閣に設置されてからは政府主導で司法制度改革が進められるようになりましたから,従来のような法曹三者の協議会は開催されなくなりました。
5 その後の日弁連決議
(1) 日弁連HPの「司法試験「丙案」の廃止を求める決議」(平成12年10月18日付)には以下の記載があります。
    上記三者合意(山中注:平成9年10月28日付の法曹三者の合意のこと。)に基づき、1998年10月15日、法曹三者による「法曹の選抜及び養成の在り方に関する検討会」が設置され、遅くとも2000年末までに結論を得ることを目指し(設置要綱)、丙案の存廃問題に関する協議が続けられている。同検討会では、司法試験結果の分析、丙案導入の立法事実の解消の有無、丙案を廃止した場合の将来予測等につき協議を重ねてきているが、状況は予断を許さない。法務省は、1999年11月4日の検討会において、「現時点で平成13年度からの合格枠制廃止という結論には至らない」旨の意見を述べており、また、仮に丙案廃止について合意が成立したとしても実際の廃止のためには少なくとも1年以上の周知期間が必要という立場をとっていることなどからみて、同検討会において、「遅くとも平成12年度試験をもって丙案を廃止する」という当連合会の方針を実現することは極めて厳しい情勢にある。
(2) 日弁連HPの「法曹人口、法曹養成制度並びに審議会への要望に関する決議」(平成12年11月1日付)には以下の記載があります(臨時総会決議の日付は平成6年12月21日,平成7年11月2日及び平成9年10月15日です。)。
    新規法曹の数が法曹三者の合意となったのは、1990年(平成2年)の「司法試験制度改革に関する基本的合意」において、丙案実施のための5年の検証期間中に合格者数を年間700人程度まで漸増させるとされたときからである。以後、司法試験合格者数は法曹三者で決定していくことを前提として、日弁連では、1994年(平成6年)の臨時総会で「当面の司法試験合格者は今後5年間で800名程度とする」こと、1995年(平成7年)の臨時総会で「平成11年度から1000名程度に増加する」ことを決議した。さらに1997年(平成9年)の臨時総会では、その増員時期を「平成10年から」と1年早め、法曹養成制度等改革協議会が最終答申した多数説の1500人増員については「平成14年10月に3年にわたる1000名増員の影響を調査、検証して決する」ことを決議し、その旨を法曹三者で合意した。

第3 平成14年度及び平成15年度の司法試験
1 司法制度改革審議会の意見書(平成13年6月)
・ 司法制度改革審議会の意見(平成13年6月12日内閣提出,同月15日閣議決定)は,「平成14年の司法試験合格者数を1,200人程度とするなど,現行司法試験合格者数の増加に直ちに着手することとし,平成16年には合格者1,500人を達成することを目指すべきであり,法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには新司法試験の合格者数の年間3,000人とすることを目指すべき。」としました。
2 司法試験管理委員会の決定(平成13年11月)
・ 司法試験管理委員会は,平成13年11月9日,以下の趣旨の決定をしました。
① 平成14年度以降の司法試験について,司法制度改革審議会意見を最大限尊重する。
② 平成14年度から,司法試験合格者数が1,200人程度になることが見込まれることから,合格枠制における無制限枠と制限枠の比率を,「7対2」から「9対2」に変更する。
③ 平成16年度以降に行われる司法試験第二次試験の論文式による試験における合格者の決定方法は,司法試験法第8条第2項に規定する方法である,いわゆる合格枠制によらないものとする。
3 「丙案」制度の廃止
・ 「丙案」制度は,平成15年度司法試験を最後に廃止されました。

第4 旧司法試験の合格者数の推移,及び合格枠制における制限枠の推移
1 旧司法試験の合格者数の推移

平成元年度:506人,平成2年度:499人
平成3年度:605人,平成4年度:630人
平成5年度:712人,平成6年度:740人,平成7年度:738人
(合格枠制(「丙案」制度)の開始)
平成8年度:734人,平成9年度:746人,平成10年度:812人
平成11年度:1000人,平成12年度:994人,平成13年度:990人
平成14年度:1183人,平成15年度:1170人
(合格枠制(「丙案」制度)の終了)
平成16年度:1483人,平成17年度:1464人
平成18年度:549人,平成19年度:248人,平成20年度:144人,平成21年度:92人,平成22年度:59人
2 合格枠制における制限枠の推移
・ 合格枠制における制限枠は,平成8年度ないし平成10年度(51期ないし53期)については2/7であり,平成11年度ないし平成13年度(54期ないし56期)については2/9であり,平成14年度及び平成15年度(57期及び58期)については2/11でした。


第5 昭和39年8月28日付の臨時司法制度調査会意見書
1 昭和39年8月28日付の臨司意見書の記載
(1) 昭和39年8月28日付の臨時司法制度調査会意見書(略称は「臨司意見書」です。)には以下の記載があります。
(102頁の記載)
    司法研修所の教官から、司法修習生の中でも、高年齢者ほど修習効果が上がらず、年少者はこれと逆に能力の伸長の度が大きいことが指摘されている。
(105頁の記載)
    現行司法試験制度の有するこれらの欠陥及びその原因にかんがみ、将来性に富む優秀な者を多数法曹に迎
え入れるためには、さかのぼつて、大学における法学教育について検討を加えるほか、司法試験の性格を改めるべきかどうか、試験方法等に改善を加えるべきかどうか、受験回数又は受験年齢の制限を行うべきかどうか、さらには司法試験の管理運営にいかなる改善を加えるべきか等の諸点について検討を加え、早急に適切な方策を樹立する必要がある。

(110頁ないし112頁の記載)
(受験回数又は年齢の制限)
    優秀な素質のある者を若年層から多数合格させるためには、試験方法の改善のほかに、司法試験を受験することができる回数を適当に制限し、あるいは受験することができる年齢を制限するという手段も、諸外国の例に見るように、また、人事院の実施する国家公務員採用上級試験においてその受験年齢の上限を三四歳程度に制限している例に見るように、当然考えられるところであり、当調査会は、この点についても検討を加えた。
審議の過程においては、(イ)司法試験の合絡者の半数以上は弁護士になるのであるから、必ずしも高年齢層を排斥する必要はなく、したがって、年齢又は回数について制限することは適当ではなく、また、必要もないとする意具(ロ)「何回も繰り返し、また、相当の年齢に達しても受験しようという人にとって希望をもたせる必要もあるので、制限を行なうことは反対である。もし、制限するとすれば、回数は一〇回程度、年齢ならば、三四、五歳程度にとどめるべきである。また、すでに述べたとおりの改善を試験方法等について行なえば、制限を必要としない事態になることが予想される。」との意見、(ハ)公務員となる者はともかく、弁護士となろうとする者に対してあまりきびしい制限をすることは、職業選択の自由にも関係する人権問題であるとの意見等の反対意見もあったが、これに対しては、(イ)無制限に放置すると、見込みのない者が何回も受験する事態を招きやすく、本人のためにもならないから、回数を五回位に制限すべきであるとの意見、(ロ)弁談士全体の質の向上という見地から見ても、できるだけ若い将来性のある者が弁護士となることが望ましいとする意見、(ハ)「法曹として必要な適正な価値判断を伴つた論理的思考力は、本質的には、その人の素質によるところが大きいから、何回も受験しなければ合格しない人ほ、素質的に法曹に適していないとみなしてもよいのでばないか。その意味で受験回数を制限することが必要であり、その限度は三回位が適当である。」との意見、(ニ)司法修習生は国費で養成しており、その意味でも、弁護士となろうとする者は、裁判官又は検察官となろうとする者と同様、公的な性勝をもつものであるから、年齢等についても前者と同様に制限されてしかるべきであるとの意見、(ホ)年齢は三四歳以下で受験回数は五回までとすべきであるとの意見、(ヘ)最初の受験の時から五年間に限り、かつ、その受験をも含めて三回に限って受験しうることとすべきであるとの意見等、何らかの回数又は年齢の制限を考慮すべきであるとする意見が強かった。
この問題は、反対意見にも見られるとおり、多年勉学して受験しようとする者を排除し、回数を重ねて実力を備えるに至つた者を不適格とすることの当否、弁護士となろうとする者についての職業選択の自由と弁護士の公的性格から来る制約との関連等の困難な問題点を含んでおり、また、回数制限については、実施に際して受験者の照合等に関する技術上の難点が予想される等の点があるので、今直ちに結論は下しがたく、前記の反対意見をも考慮に入れつつ、関係当局において早急に検討する必要があるということに意見の一致を見た。

(2) 臨時司法制度調査会意見書105頁がいうところの「現行司法試験制度の有するこれらの欠陥及びその原因」は概要,①大学卒業見込者の合格率がそれ以外の者の合格率を相当程度下回っているという欠陥,並びに②その原因は主として,大学における法学教育が学制改革により根本的に変革されたのに対し,司法試験が旧来のままであることから,両者の間に間隙(かんげき)が生じていること,及び司法試験が知識の試験に傾き,能力,将来性,教養等の面の考査をおろそかにしがちであることです。
2 弁護士会の反対決議
・ 昭和42年5月27日の日弁連定期総会決議「司法制度の確立に関する宣言」には以下の記載があります。
    われわれは、昭和39年12月19日臨時総会において、簡易裁判所判事及び副検事に対する法曹資格及び弁護士資格を付与すること、簡易裁判所の事物管轄の拡張をすることに反対を決議いたしまして、さらにその後においても、高等裁判所支部の廃止や司法試験法の改正等に反対の決議を行うのみならず、これらの施策の実施を阻止するために一大運動を展開してきたことは皆様ご承知の通りであります。
3 臨司意見書が日の目を見たのはごく一部だったこと
・ 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)56頁には以下の記載があります。
    臨司では司法試験改革や裁判所の適正配置問題など、今日法曹界で論議されている司法制度の問題点があらかた取り上げられた。ただ、結果的に日の目を見たものはごく一部だったところから、「裁判所がいいところだけをつまみ食いした」などとの批判もあったが、毎回ほとんど全委員の出席を得て会議の議論は終始真剣そのものだったと思う。

第6 関連記事その他
1(1) 昭和62年4月から平成14年12月までの経緯の骨子については,法務省HPの「司法試験制度等改革の経緯 [公表済み]」が分かりやすいです。
(2) 明治9年開始の代言人試験から平成23年3月までの経緯の詳細については,法務省HPの「法曹の養成に関するフォーラム」に載ってある「新しい法曹養成制度の導入経緯と現状について(平成24年4月13日更新)」(339頁あります。)が参考になります。
2(1) 司法修習生の修習期でいえば,51期から58期までの間,「丙案」制度が実施されていました。
(2) 受験回数3回以内の合格者については,「丙案」制度があったから合格できた可能性があることにかんがみ,「丙案貴族」といわれることがありました。
3 法務省HPの「第二次試験試験問題・試験結果等」に,平成8年度ないし平成22年度の第二次試験短答式試験問題平成14年度ないし平成22年度の論文式試験問題・出題趣旨平成15年度ないし平成23年度の口述試験における問題のテーマが載っています。
4(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 司法試験の得点別人員調(昭和58年度から平成10年度まで)
・ 司法試験の得点別人員調(平成11年度から平成22年度まで)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 旧司法試験の成績分布及び成績開示
・ 旧司法試験の成績開示範囲の拡大
・ 司法修習生の給費制及び修習手当
・ 司法修習生の修習資金貸与制
・ 司法修習生の修習給付金及び修習専念資金
・ 給費制を廃止した平成16年の裁判所法改正の経緯
・ 平成31年3月提出の,法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案の説明資料

旧司法試験の成績分布及び成績開示

目次
1 旧司法試験の成績分布が分かる資料
2 旧司法試験の改正内容
3 関連記事その他

1 旧司法試験の成績分布が分かる資料
(1) 旧司法試験の成績分布が分かる資料として,以下の法務省文書を掲載しています。
   修習期でいえば,38期(昭和59年4月採用)ないし現行65期(平成23年7月採用)が受けた司法試験に関するものとなります。
① 昭和58年度から平成10年度までの司法試験の得点別人員調
② 平成11年度から平成22年度までの司法試験の得点別人員調
(2) 「人員累計」欄の数字が,それぞれの得点ごとの順位となります。
(3) 旧司法試験の短答式試験(択一試験),論文式試験及び口述試験の得点ごとに各種人数が記載されています。

2 旧司法試験の改正内容
(1)ア 平成3年度までは,旧司法試験の論文式試験において教養選択科目がありました(司法試験法の一部を改正する法律(平成3年4月23日法律第34号)参照)。
   そのため,司法試験論文式試験得点分布表では,6科目合計の法律得点のほか,教養選択科目(政治学,経済原論,財政学,会計学,心理学,経済政策又は社会政策のうちの1科目)を含む7科目合計の総得点の両方を記載した得点分布表になっています。
イ 例えば,昭和62年度司法試験論文式試験得点分布表(全員)(PDF14頁)についていえば,総得点196点は9人であり,そのうち,法律得点168点は7人,162点は2人となります。
   また,総得点175点は71人であり,そのうち,法律得点157点は1人,155点は1人,154点は6人,153点は7人,152点は10人,151点は12人,150点は8人,149点は8人,148点は11人,147点は4人,146点は1人,145点は1人,144点は1人となり,総得点175点「以上」は572人となります。
(2)  平成12年度の旧司法試験では,論文式試験につき,法律選択科目の廃止,民事・刑事の訴訟法の必修化という改正があり,口述試験につき,商法の口述試験廃止という改正がありました(司法試験法の一部を改正する法律(平成10年5月6日法律第48号))。
   その結果,論文式試験は憲法,民法,刑法,商法,民事訴訟法及び刑事訴訟法の6科目となり,口述試験は憲法,民法,刑法,民事訴訟法及び刑事訴訟法の5科目となりました。

3 関連記事その他
(1) 法曹基本問題懇談会の取りまとめ意見書(昭和63年3月8日付)以降の,旧司法試験制度の改革の経緯は,法務省HPの「司法試験制度等改革の経緯(公表済み)」が分かりやすいです。
(2) 昭和58年当時から,論文式試験の1科目の得点は,1,2問の平均点であると思われます(平成14年1月当時の取扱いにつき,司法試験第二次試験合否判定方法・基準(平成14年1月23日司法試験考査委員会議申合せ事項)(リンク先PDF2頁)参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 旧司法試験の「丙案」制度
・ 旧司法試験の成績開示範囲の拡大

新任検事辞令交付式に関する文書

目次
1 新任検事辞令交付式に関する文書
2 関連記事その他

1 新任検事辞令交付式に関する文書
・ 令和7年 4月 7日の77期新任検事辞令交付式関係文書
・ 令和5年12月18日の76期新任検事辞令交付式関係文書
・ 令和4年12月12日の75期新任検事辞令交付式関係文書
・ 令和4年 4月23日の74期新任検事辞令交付式関係文書
(73期新任検事辞令交付式はなし。)
・ 令和元年12月16日の72期新任検事辞令交付式関係文書
・ 平成30年12月17日の71期新任検事辞令交付式関係文書
・ 平成29年12月18日の70期新任検事辞令交付式関係文書
70期新任検事辞令交付式終了後の集合写真

2 関連記事その他
(1)ア 最高検察庁ホームページに新任検事辞令交付式,新任検事任官者歓迎式の写真が載っています。
75期76期
イ 津島淳オフィシャルサイトの「法務副大臣活動記(42)」に令和4年度新任検事辞令交付式の写真が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 新60期以降の,新任検事辞令交付式及び判事補の採用内定の発令日
・ 検事の研修日程
→ 新任検事辞令交付式の翌日から実施される新任検事研修等について記載しているほか,「新任検事のTOEFL受験について」を掲載しています。
・ 検事採用願を提出した検事志望の司法修習生は二回試験に落ちない限り採用されると思われること
・ 司法修習生の組別(クラス別)志望状況
・ 69期以降の司法修習生組別志望等調査表は存在しないこと
・ 司法修習生の検事採用までの日程
・ 現行60期以降の,検事任官者に関する法務省のプレスリリース
・ 53期まで存在していたかもしれない,新任検事の採用における女性枠
・ 集合修習時志望者数(A班及びB班の合計数)と現実の判事補採用人数の推移

法務省出向中の裁判官に不祥事があった場合の取扱い

目次
1 法務省出向中の裁判官は法務大臣による懲戒処分の対象となること等
2 法務省出向中の裁判官が懲戒免職又は停職処分となった場合の取扱い
3 法務省出向中の裁判官が刑事罰を受けた場合の取扱い
4 法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体の法的不利益
5 共済年金の職域加算額,及び年金払い退職給付等
6 関連記事

1 法務省出向中の裁判官は法務大臣による懲戒処分の対象となること等
(1) 裁判官が法務省等の行政機関に出向している場合,依願退官した上で外務省に出向している人を除き,検事の身分を有しています(「現職裁判官の分布表」参照)。
   そして,法務省出向中の裁判官について,国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行(例えば,女性のスカート内の盗撮)があったような場合,法務大臣による懲戒処分の対象となります(国家公務員法82条1項)
(2) 懲戒処分の場合,検察官適格審査会の議決(検察庁法23条)は不要です(検察庁法25条ただし書)。
(3)ア 検察官の場合,60%以下の給料しか受け取れなくなる起訴休職制度(国家公務員法79条2号,一般職給与法23条4号)がありません(検察庁法25条本文のほか,大阪地裁平成25年9月4日判決(判例秘書に掲載)参照)。
   そのため,懲戒処分としての免職,停職又は減給の処分(国家公務員法82条1項)を受けない限り,不祥事を起こした検察官は引き続き従前と同額の給料を支給されることとなります。
イ 公務員が刑事事件につき起訴された場合に休職処分を行うか否かは,任命権者の裁量に任されています(最高裁昭和63年6月16日判決)。
(4) 処分説明書の様式は,処分説明書の様式および記載事項等について(人事院HPの昭和35年4月1日付の人事院事務総長通知)に載っています。

2 法務省出向中の裁判官が懲戒免職又は停職処分となった場合の取扱い
(1) 懲戒免職となった場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア)   裁判官は,退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法12条1項1号)し,懲戒免職の日から3年間は弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条3号)。
   また,懲戒免職の日から3年を経過した後であっても,登録請求を受けた単位弁護士会としては,資格審査会の議決に基づき,日弁連に対する登録の請求の進達を拒絶することができますし(弁護士法12条1項2号),日弁連は,資格審査会の議決に基づき,登録を拒絶することができます(弁護士法15条1項)。
(イ) 在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたことを疑うに足りる相当な理由があると思料される場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条2項2号)。
イ 年金
   平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2) 停職処分を受けた後に辞職した場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア) 裁判官は,退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)。
   ただし,停職期間の月数の2分の1に相当する月数を退職手当の算定の基礎となる在職期間から除算されます(国家公務員退職手当法7条4項)。
(イ) 弁護士登録との関係では,法令上は特段の制限がありません。
   ただし,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 年金
   平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されますし,職域加算額は,停職期間に相当する部分の25%が削られるだけです(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されますし,終身退職年金は,停職期間に相当する部分の50%が削られるだけです(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。

3 法務省出向中の裁判官が刑事罰を受けた場合の取扱い
(1) 禁錮以上の刑に処せられた場合
ア(ア) 執行猶予が付いたとしても,①検事としての身分を自動的に失います(国家公務員法76条・38条2号。規定の合憲性につき最高裁平成19年12月13日判決参照)し,②退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法13条及び14条。規定の合憲性につき最高裁平成12年12月19日判決参照)し,③裁判官の任命資格を失います(裁判所法46条1号)。
   また,執行猶予期間が満了して刑の言渡しが効力を失う(刑法27条)までの間,弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条1号)。
(イ) 執行猶予が付けられずに実刑判決を受けた場合,刑の執行が終わり,罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した時点で,懲役又は禁錮の刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項前段)から,その時点で弁護士となる資格を再び取得することとなります。
(ウ) 在職期間中の刑事事件に関して起訴された場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条1項2号)。
イ 平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2)   罰金刑に処せられた場合
ア   ①検事としての身分を自動的に失うわけではありません(ただし,盗撮の飯島暁裁判官のように辞職するのが通常と思われます。)し,②懲戒免職にならない限り退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)し,③裁判官の任命資格を失いません(裁判所法46条参照)。
   また,弁護士となる資格を有します(弁護士法7条参照)ところ,医師法4条3号のような,罰金刑に処せられた者に関する条文が弁護士法にあるわけではないものの,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 退職共済年金,公務員厚生年金及び年金払い退職給付については,特段の不利益はありません。
(3) 罰金刑の位置づけ
ア 罰金刑は前科となりますが,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過した場合,罰金刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項後段)から,市区町村の犯罪人名簿から記載が削除されます(前科記録の抹消)。
イ   検察庁の前科調書(犯歴事務規程13条2項)から前科の記載が削除されるのは,有罪の裁判を受けた者が死亡したときだけです(犯歴事務規程18条)。

4 法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体の法的不利益
   法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体は,裁判官又は弁護士の資格に何らかの法的影響を及ぼすものではありません。

5 共済年金の職域加算額,及び年金払い退職給付等
(1)ア 国家公務員の場合,平成27年9月30日までに勤務した分については,共済年金に職域加算がありました。
平成27年10月1日以降に勤務した分については,年金払い退職給付が発生しており,有期退職年金(10年又は20年支給ですが,一時金も選択できます。)及び終身退職年金の半分ずつとなります。
イ 退職共済年金の基本額は老齢厚生年金に対応し(年金の2階部分),退職共済年金の職域加算額は企業年金等に対応していました(年金の3階部分)。
   また,老齢厚生年金の受給権は懲戒免職等による影響を受けませんから,そのこととの均衡を図るため,退職共済年金の基本額の受給権は懲戒免職等による影響を受けないのだと思います。
(2) 平成24年の国家公務員共済組合法等の改正により,平成27年10月1日,厚生年金及び共済年金が統合されたり,共済年金の職域加算が廃止されたりしました(被用者年金制度の一元化)。
   そして,共済年金の基本額は公務員厚生年金に,共済年金の職域加算額は年金払い退職給付に引き継がれました。
(3) 共済年金の職域加算額は,共済年金の基本額の10%から20%ぐらいでした。
(4) 国家公務員の年金払い退職給付の創設については,財務省広報誌「ファイナンス」2013年1月号が参考になります。
   これによれば,標準報酬月額36万円で40年加入の場合,年金払い退職給付のモデル年金月額は約1.8万円とされています。

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前科抹消があった場合の取扱い

目次
第1 総論
1 前科抹消の意義
2 前科が抹消される場合
3 前科抹消があった場合の効果
第2 前科抹消があった場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
1 犯罪経歴証明書
2 前科抹消があった場合の取扱い
第3 前科抹消があった場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
1 犯罪人名簿
2 本籍市区町村による犯罪歴の把握
3 検察庁に対して行う,刑の消滅等に関する照会
4 前科抹消があった場合の取扱い
第4 検察庁は行政官庁等からの前科照会に回答していないこと,及び最高裁昭和56年4月14日判決の判示内容
1 検察庁は行政官庁等からの前科照会に回答していないこと
2 最高裁昭和56年4月14日判決の判示内容
第5 就職希望者の前科前歴の秘匿に関する裁判例
第6 前科抹消とは関係のない事項
1 総論
2 検察庁の犯歴抹消
3 海外旅行における取扱い
第7 関連条文
1 刑法
2 少年法
3 公職選挙法
第8 関連記事その他

第1 総論
1 前科抹消の意義

     昭和35年版犯罪白書の「四 前科の抹消」には,前科抹消の意義として以下の記載があります。
    犯罪を犯し刑を科せられた者は,いわゆる前科者として,いろいろな面で不利益な取扱いをうけることがある。社会的には,前科者という烙印をおされ白眼視されることもあろうし,法律的には,前科者のうち懲役に処せられた者が,その執行をおわった後五年内にさらに罪を犯し,ふたたび懲役を科せられる場合には,累犯として,法定刑が二倍となるし,また,資格に関する法律(たとえば,弁護士法,弁理士法,医師法など,その数は少なくない)で,一定の資格を制限され,公共的な職業につけないとされているのが少なくない。
     前科者は,かように,社会的ないし法律的に不利益な取扱いをうけるが,すでに罪の償いをして更生し,または更生しようとしている者に対しては,いつまでもこのような不利益をあたえておくべきでない。こうして,前科抹消の制度が設けられた。前科の抹消とは,禁錮以上の刑の執行をおわってから罰金以上の刑に処せられず一〇年を無事に経過したとき,また,罰金以下の刑の執行をおわってから罰金以上の刑に処せられずに五年を無事に経過したときは,いずれも,さきの刑の言渡が効力を失うという制度である。刑の言渡の効力がなくなるのだから,前科の烙印も当然に抹消されるわけである。
2 前科が抹消される場合
(1) 以下の場合,前科が抹消されます(「犯罪経歴証明書発給要綱について(通達)」6項参照)。
① 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過しているとき(刑の全部の執行猶予の場合につき刑法27条の2,刑の一部の執行猶予の場合につき刑法27条の7)
② 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け,罰金以上の刑に処せられないで10年を経過しているとき(刑法34条の2第1項前段)
③ 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を受け,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過しているとき(刑法34条の2第1項後段)
④ 恩赦法の規定により大赦若しくは特赦を受け,又は復権を得たとき
⑤ 少年のとき犯した罪により刑に処せられてその執行を受け終わり,又は執行の免除を受けたとき(少年法60条)
(2)ア 「刑の執行が終わった」というのは例えば,以下の場合です。
① 現実に全部の刑の執行を受けた場合
② 仮釈放を取り消されることなくその期間を満了した場合
③ 未決勾留日数が刑に満つるまで算入された場合
イ 「刑の執行を免除された」というのは例えば,以下の場合です。
① 刑の時効が完成した場合(刑法31条)
② 外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたことにより,刑の執行を免除された場合(刑法5条ただし書)
③ 恩赦としての「刑の執行の免除」を受けた場合(恩赦法8条)
(3)ア 「刑に処せられた」とは,その刑の執行を受けたことをいうものではありませんから,刑の執行が猶予された場合も「刑に処せられた」に該当します最高裁昭和24年3月31日判決参照)。
    ただし,刑の執行猶予の期間が満了して刑の言渡しの効力が失われた場合(刑法27条),禁錮以上の刑に処せられたことがないこととなります。
イ 刑の執行が終わった場合の起算日は,刑の執行終了日の翌日です(累犯加重を定める刑法56条1項に関する最高裁昭和57年3月11日判決参照)。
(4)ア  刑法34条の2第1項に「刑の言渡しは,効力を失う」とあるのは,刑の言渡しに基く法的効果が将来に向って消滅するという趣旨であって,その刑の言渡しを受けたという既往の事実そのものを量刑判断にあたって斟酌することは同条項に違反しません(最高裁昭和29年3月11日判決参照)。
イ 刑法34条の2は,刑法の一部を改正する法律(昭和22年10月26日法律第124号)によって追加された条文であり,施行前に刑の言渡しを受けた人にも適用されました。
(5)ア 道交法違反の罰金刑(いわゆる赤切符)は刑の消滅の中断事由ですから,例えば,2016年8月に公職選挙法違反で罰金刑に処せられて罰金を納付し,2018年8月に道交法違反で再び罰金刑に処せられて罰金を納付した人の場合,復権令(令和元年10月22日政令第131号)の対象にはなりませんでした。
イ この場合,再び罰金以上の刑に処せられなければ,2023年8月(最後の罰金納付日から5年後の日)に2個の罰金前科が同時に消滅することとなります。
3 前科抹消があった場合の効果
(1)ア 前科抹消があった場合,以下の効果が発生します。
① 警察庁が発行する犯罪経歴証明書(海外の大使館・移民局等に提出するもの)に記載される前科ではなくなります。
② 市区町村役場が作成する犯罪人名簿に記載される前科ではなくなります。
③ すべての懲役前科について前科抹消があった場合,懲役前科に基づく資格制限(例えば,弁護士の欠格事由を定める弁護士法7条1号)がなくなります。
イ すべての罪について前科抹消があった場合,法令上の資格制限がすべてなくなります。
(2) 刑の執行猶予の期間満了(刑法27条の2及び刑法27条の7),又は刑の消滅(刑法34条の2)があった犯罪については恩赦の対象とする必要がないため,恩赦の対象とはなりません恩赦の実施について(平成元年2月6日付の法務事務次官の依命通達)参照)。
(3)ア 懲役前科について復権したにすぎない場合,刑の消滅と異なり,執行猶予,累犯前科,刑の消滅等の刑法総則の適用上何らの変更も生じません(法律のひろば1989年4月号33頁参照)。
    ただし,令和の御即位恩赦の場合,特別基準恩赦においても懲役前科は復権の対象外となりました。
イ 懲役前科について特赦があった場合,執行猶予の欠格事由及び累犯前科の対象から外れます。
    ただし,令和の御即位恩赦の場合,特別基準恩赦における特赦は実施されませんでした。

第2 前科抹消があった場合,犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなること
1 犯罪経歴証明書
(1) 犯罪経歴証明書は,海外の公的機関(大使館・移民局等)の求めに応じて取得するものであり(警視庁HPの「渡航証明(犯罪経歴証明書)の申請について」参照),無犯罪証明書ともいいます(大阪府警察HPの「犯罪経歴証明書の申請手続きについて」参照)。
(2) 以下の文書を掲載しています。
① 警察証明事務マニュアル(平成19年3月改訂)
② 犯罪経歴証明書発給事由一覧(平成31年4月1日改定分)
2 前科抹消があった場合の取扱い
(1) 前科抹消があった場合,警察庁が発行する犯罪経歴証明書に記載される前科ではなくなります。
(2) 恩赦法に基づく復権を得た場合,禁錮以上の刑について10年が経過する前,及び罰金以下の刑について5年が経過する前であっても,犯罪経歴証明書に記載される前科ではないこととなります。
    ただし,この場合,犯罪経歴証明書発給申請書(別記様式第1号)の注記欄にあるとおり,同申請書と一緒に,特赦状,復権状等を提出する必要があります。

第3 前科抹消があった場合,犯罪人名簿に記載される前科ではなくなること
1 犯罪人名簿

(1) 犯罪人名簿は,もともと大正6年4月12日の内務省訓令第1号により市区町村長が作成保管すべきものとされてきたものですが,戦後においては昭和21年11月12日内務省発地第279号による同省地方局長の都道府県知事あて通達によって選挙資格の調査等の資料として引きつづき作成保管され,昭和22年に地方自治法が施行された後も明文上の根拠規定のないまま従来どおり継続して作成保管されています(最高裁昭和56年4月14日判決における裁判官環昌一の反対意見参照)。
(2) 本籍市区町村長は,地方公共団体の自治事務として犯罪人名簿を作成しているのであって,特段の法的整備がなされているわけではありません(衆議院議員木村太郎君提出犯罪人名簿に関する質問に対する内閣答弁書(平成22年3月12日付))。
(3) 大阪市の犯歴事務に関するマニュアル(令和元年11月に情報提供された文書)を掲載しています。

2 本籍市区町村による犯罪歴の把握
(1) 罰金以上の刑に処する裁判が確定した場合,地方検察庁の本庁の犯歴事務担当官は,本籍市区町村長に対し,既決犯罪通知書を送付してその裁判に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程3条4項)から,本籍市区町村長はこれによって犯罪歴を把握しています。
(2) 前科登録と犯歴事務(五訂版)9頁には,「昭和35, 6年ころから道路交通法違反事件が急増し,従来の方式のままではその犯歴を適正かつ的確に登録管理することが不可能になったため, 同37年6月には,道路交通法違反の罪に係る裁判で罰金以下の刑に処したものについては,市区町村長に対する既決犯罪通知をしない取扱いが実施され」と書いてあります。
 そのため,道交法違反の罰金前科については,そもそも本籍市区町村の犯罪人名簿に記載されていません。
(3) 恩赦があった場合,地方検察庁の本庁の犯歴担当事務官は,本籍市区町村長に対し,恩赦事項通知書を送付して恩赦に関し必要な事項を通知します(犯歴事務規程4条及び8条)。

3 検察庁に対して行う,刑の消滅等に関する照会
(1) 罰金以上の刑に処せられたことが刑の消滅の中断事由になります(刑法34条の2)ところ,道交法違反の罰金(いわゆる赤切符です。)については,検察庁から本籍市区町村に対する既決犯罪通知が送付されません。
 そのため,市区町村においては,犯罪人名簿に登録された犯歴について,刑の消滅の事実の有無を知る必要があるときは,その都度,有罪の確定裁判の言渡しを受けた者の本籍地を管轄する地方検察庁(本籍地検)に対し,その旨の照会を行わなければなりません。
(2) 市区町村が刑の消滅等に関する照会を行うのは,例えば,以下の場合です(前科登録と犯歴事務(五訂版)160頁及び161頁参照)。
① 行政官庁等から犯歴に関する身分証明の依頼があった場合
② 犯罪人名簿の整備・閉鎖を行う場合
(3) 令和元年10月10日付の総務省の行政文書開示決定通知書によって開示された,刑の消滅等に関する照会の書式について(昭和34年8月13日付の自治庁行政局行政課長の通知)を掲載しています。

4 前科抹消があった場合の取扱い
(1) 前科抹消の対象となった犯歴については,犯罪人名簿から削除されます。
(2) 例えば,那覇市犯罪人名簿事務取扱規程(昭和51年5月1日訓令第4号)には以下の条文があります。
① 1条(目的)
    この訓令は、犯罪人名簿(以下「名簿」という。)の整備及び身分証明の手続等について規定し、もって身分証明及び選挙人名簿の調製事務の適正な処理に寄与することを目的とする。
② 2条(定義)
   この訓令において「身分証明」とは、犯歴の有無に関する証明をいう。
③ 3条(名簿の取扱い)
    名簿は、第1条の目的のためにのみ整備及び保管され、その登録されている事項は人権に重大な影響を与えるので取扱いを厳重にし、担当職員以外にみだりに閲覧させてはならない。
④ 6条(通知の取扱い)
1 市長は、犯歴票保管庁の犯歴係事務官、刑務所の長、更生保護委員会の委員長及び保護観察所の長から刑の執行状況等に関する各種通知書を受理したときは、次の各号により名簿に記載する。
(中略)
(2) 恩赦事項通知書を受理したときは、その通知に係る既記載事項を朱線で消除又は変更し、備考欄に恩赦事項を記載する。
(中略)
(9) 自由刑執行終了通知書を受理したときは、刑終了日の欄に刑終了の年月日を、備考欄に刑の始期年月日を記載する。
(中略)

(11) 仮出獄期間満了通知書を受理したときは、刑終了日の欄に仮出獄期間満了の年月日を、備考欄に仮出獄の年月日及び仮出獄期間満了の旨を記載する。
⑤ 10条(名簿の閉鎖)
1 名簿に記載された者が次の各号のいずれかに該当する場合は、名簿を閉鎖し、破棄又は焼却する。
(1) 刑法(明治40年法律第45号)第34条の2の期間を経過したとき。

(2) 刑法第27条の期間が満了したとき。
(3) 恩赦により刑の言渡しがその効力を失ったとき。
(4) 再審又は非常上告の結果無罪になったとき。
(5) 少年法(昭和23年法律第168号)第60条の適用を受けたとき。
(6) 本籍が他の市町村に異動したとき又は他の国籍を取得し、日本の国籍を離脱したとき。
(7) 死亡したとき。
2 前項(第6号及び第7号を除く。)の規定により名簿を閉鎖しようとするときは、犯歴票保管庁に照会し、確認した後に閉鎖するものとする。

第4 検察庁は行政官庁等からの前科照会に回答していないこと,及び最高裁昭和56年4月14日判決の判示内容
1 検察庁は行政官庁等からの前科照会に回答していないこと
     前科登録と犯歴事務(五訂版)26頁ないし28頁には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 検察庁における前科の調査回答は,検察,裁判の事務処理上これを必要とするものについて行われるものであることは犯歴把握の目的からみて当然のことであり,みだりに前科が他の目的に利用されることはない。
    したがって,一般人からの照会に対してはもちろん,法令に基づいて付与される特定の資格が前科のあることを欠格事由とする場合において, これを取り扱う主務官庁が欠格事由の有無の判断資料として前科を知る必要がある場合であっても,原則としてその照会には応じていない。
    行政官庁等からの法令上の欠格事由の調査のための前科照会に対する回答事務は,従前から地方公共団体が行ってきた身分証明事務に属するものと考えられているからである。
② 市区町村の犯罪人名簿の記載のみでは,恩赦に該当しているか,刑の言渡しの効力が失われているか等が明確でないときは,市区町村長から検察庁に照会が行われれば回答することになるが, この場合でも,道交犯歴については原則としてその調査は行われない。
    道交犯歴自体が法令上の欠格事由となることはごくまれにしかないからである。
③ 法令が罰金の刑を欠格事由としている場合及び叙位,叙勲又は褒章用の刑罰等調書作成のために道交犯歴の回答を必要とする場合は,道交犯歴をも調査するものとして運用されているので, この照会に際しては,照会書に前科の利用目的及び道交犯歴の回答を要する旨を,例えば「叙勲のため道交犯歴要回答」等と明記する必要がある。
   なお,検察庁では,前科の利用目的が栄典を目的とするものであっても,各省の大臣表彰,知事表彰,市区町村長表彰等表彰を目的とする前科照会には一切応じていない。条例等で前科を表彰の欠格事由としている場合でも,検察庁における犯歴把握の目的外の利用と認められるからである。
    したがって, この場合は,市区町村において,道交犯歴以外の前科を備付けの犯罪人名簿により回答するか否かは,市区町村が独自の判断で決することになる。
    犯歴事務の運用面で,行政官庁等からの法人及び外国人の前科照会に対しては,個別的に人の名誉の保持.人権の尊重を十分に考慮しつつ,照会を求める事項,回答を必要とする理由, 回答の使用目的等を慎重に検討した上,他に調査の方法がなく,真にやむを得ないと認める場合には,前記の方針を若干緩和して照会に応ずる取扱いとしている。
④ 市区町村を含む行政官庁等からの前科の照会に対しては,特赦・大赦・復権のあった前科,刑法34条の2の規定により刑の言渡しの効力が失われた前科,執行猶予期間を経過した前科及び少年法60条1項又は2項の適用がある前科については回答されない。
    しかし,照会事項が恩赦になっているか,刑が消滅しているか等ということであれば, これについて回答されることは当然である。
2 最高裁昭和56年4月14日判決の判示内容
(1) 最高裁昭和56年4月14日判決は以下のとおり判示しています(ナンバリングを追加しています。)。
① 前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。
② 前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。
(2) 最高裁昭和56年4月14日判決の判示と異なり,犯罪人名簿は,弁護士登録等のための資格調査でも利用されています(東京都HPの「○犯罪人名簿の取扱について」参照)。


第5 就職希望者の前科前歴の秘匿に関する裁判例
    仙台地裁昭和60年9月19日判決(判例秘書に掲載)は,就職希望者の前科前歴の秘匿に関して以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
①   使用者が雇用契約を締結するにあたつて相手方たる労働者の労働力を的確に把握したいと願うことは、雇用契約が労働力の提供に対する賃金の支払という有償双務関係を継続的に形成するものであることからすれば、当然の要求ともいえ、遺漏のない雇用契約の締結を期する使用者から学歴、職歴、犯罪歴等その労働力の評価に客額的に見て影響を与える事項につき告知を求められた労働者は原則としてこれに正確に応答すべき信義則上の義務を負担していると考えられ、したがつて、使用者から右のような労働力を評価する資料を獲得するための手段として履歴書の提出を求められた労働者は、当然これに真実を記載すべき信義則上の義務を負うものであつて、その履歴書中に「賞罰」に関する記載欄がある限り、同欄に自己の前科を正確に記載しなければならないものというべきである(なお、履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味するから、使用者から格別の言及がない限り同欄に起訴猶予事案等の犯罪歴(いわわゆる「前歴」)まで記載すべき義務はないと解される。)。
そして、刑の消滅制度が、犯罪者の更生と犯罪者自身の更生意欲を助長するとの刑事政策的な見地から一定の要件のもとに刑の言渡しの効力を将来に向かつて失効させ、これにより犯罪者に前科のない者と同様の待遇を与えることを法律上保障しているとはいえ、同制度は、犯罪者の受刑という既往の事実そのものを消滅させるものではないし、またその法的保障も対国家に関するもので直接私人間を規律するものではないことからみても、同制度の存在が、当然には使用者に対し、前科の消滅した者については前科のない者と同一に扱わなければならないとの拘束を課すことになるものでないことはいうまでもない。
②   しかしながら、犯罪者の更生にとつて労働の機会の確保が何をおいてもの課題であるのは今更いうまでもないところであつて、既に刑の消滅した前科について使用者があれこれ詮策し、これを理由に労働の場の提供を拒絶するような取扱いを一般に是認するとすれば、それは更生を目指す労働者にとつて過酷な桎梏となり、結果において、刑の消滅制度の実効性を著しく減殺させ同制度の指向する政策目標に沿わない事態を招来させることも明らかである。
したがつて、このような刑の消滅制度の存在を前提に、同制度の趣旨を斟酌したうえで前科の秘匿に関する労使双方の利益の調節を図るとすれば、職種あるいは雇用契約の内容等から照らすと、既に刑の消滅した前科といえどもその存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼさざるをえないといつた特段の事情のない限りは、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないと解するのが相当であり、使用者もこのような場合において、消滅した前科の不告知自体を理由に労働者を解雇することはできないというべきである。


第6 前科抹消とは関係のない事項
1 総論
   前科抹消は,刑事事件の有罪判決を対象とするものです。
   そのため,前科抹消によって,①交通違反の違反点数が消滅してゴールド免許を取得できるようになったり,②運転免許の取消し又は停止が救済されたり,③運転免許証の欠格期間が短縮されたり,④交通違反の反則金の支払義務が消滅したり,⑤医師法違反等を理由とする医師に対する行政処分が消滅したりすることはありません。
2 検察庁の犯歴抹消

   前科調書作成のために検察庁が管理している犯歴の抹消は,有罪の判決を受けた人が死亡した時点で行われている(犯歴事務規程18条参照)のであって,前科抹消によって犯歴が抹消されるわけではないです。
3 海外旅行における取扱い
(1) 日本人が海外に行く場合
ア 執行猶予付の懲役刑又は禁錮刑に処せられた場合,執行猶予期間が満了するまでの間,旅券の発給を拒否される可能性があります(旅券法13条1項3号参照)。
イ 留置所ブログの「執行猶予中のパスポート取得について」には以下の記載があります。
   執行猶予中のパスポート申請にはその他の書類が必要になり、また審査には1ヶ月以上の時間がかかり、その審査によってパスポートが発給されない場合もあります。
   旅券法には「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」に対しては、一般旅券の発給をしないことができる(13条1項3号)という規定があるからです。
   執行猶予中に外務省の審査により発給されるパスポートは、「渡航先」や「有効期限(8ヶ月)」が制限された特別なパスポートが発給されます。
ウ 実刑に処せれらた場合,仮釈放されていたとしても,刑期が満了するまでの間,旅券の発給を拒否される可能性があります(旅券法13条1項3号参照)。
エ 刑罰等について虚偽の申告をして旅券の交付を受けた場合,5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科されます(旅券法23条1項1号)。
オ アメリカ,カナダ,オーストラリア「以外の」国に渡航する場合,入国審査で犯罪歴の有無を質問されることはないみたいです(弁護士法人泉総合法律事務所HPの「前科の生活への影響とは~前科者の資格制限、仕事、履歴書、海外旅行」参照)。
カ 行政書士佐藤智代法務事務所ブログ「「前科があります」アメリカビザ申請」には以下の記載があります。
① 前科がある方は、ESTAでの入国は出来ません。米国への渡航には目的に応じたビザを取得する必要があります。
   逮捕後に経過した期間に関係なく過去の犯罪歴はすべて申告しなくてはならないため、犯罪歴がある方は生涯米国への渡航にESTAを利用することはできません。
   きっと大丈夫だろうと、ESTAで犯歴を申告しない「虚偽の申請」は絶対にお勧めしません。
   我が国と同様、アメリカへの入国不適格事由に「犯罪者」と規定されています。
② ビザ申請時の逮捕歴や有罪の判決を受けたことがあるかの質問に対しては、「Yes」か「No」でしか回答できません。この質問に、「Yes」と回答した場合に、上記の犯罪者の規定にあてはまるのかどうかを領事部が審査します。
   そして、
・ 18歳未満で犯罪の回数が1回だけの場合で
・ 犯罪発生日から5年以上経過しているか、拘禁刑の場合は、刑執行から5年以上経過している場合
・ または、法定刑が1年以下の犯罪で下された量刑が6か月以下の場合
であれば、発給してもらえる可能性はあります。
キ 事実上の問題として,刑の消滅等があった場合,警察庁の犯罪経歴証明書に記載されなくなるわけですから,海外の公的機関(大使館・移民局等)が警察庁の犯罪経歴証明書を通じて知ることはできなくなります。
   また,道交法違反の罰金前科(いわゆる赤切符)については,そもそも市区町村の犯罪人名簿に記載されませんから,海外の公的機関(大使館・移民局等)が市区町村に照会して調査することはそもそも不可能です。
ク 警察証明事務マニュアル(平成19年3月改訂)末尾4頁には,「警察庁は、証明書に記載される犯罪経歴は捜査上の資料であり、我が国警察当局及び司法当局以外には開示されないものであることを理由として、現行法上は行政サービスの対象とはなり得ないとの立場を堅持している」と書いてあります。
(2) 外国人が日本に入国する場合
ア 出入国管理及び難民認定法(略称は「入管法」です。)5条1項4号は「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。」を無期限の上陸拒否事由としています。
イ 「刑に処せられた」とは,歴史的事実として刑に処せられたことをいうのであって,刑の確定があれば足り,刑の執行を受けたか否か,刑の執行を終えているか否かを問いません。
   また,「刑に処せられたことのある者」には、執行猶予期間中の者、執行猶予期間を無事経過した者(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二十七条)、刑法の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三十四条の二)及び恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)の規定により刑の言渡しの効力が消滅した者(同法第三条及び第五条)も含まれます出入国管理及び難民認定法逐条解説(改訂第四版)208頁)。
ウ 上陸拒否事由に該当する場合,上陸拒否の特例(平成22年7月1日施行の入管法5条の2)が適用されるか,上陸特別許可(入管法12条)を受けない限り,出入国港において日本国に上陸することができません。
   上陸拒否の特例が適用される例としては,①在留資格認定証明書の交付を受けた場合(入管法7条の2),②再入国の許可を受けた場合(入管法26条1項)及び③在留特別許可を受けた場合(入管法50条1項)があります。この場合,法務大臣から,特定の事由のみによっては上陸を拒否しないこととした旨を記載した「通知書」を交付されますから,上陸審査時に入国審査官に対してこの通知書を提示すれば,通常の上陸審査手続により上陸を許可してもらえます。
   上陸特別許可は,退去強制歴があるため上陸拒否期間中の外国人が,本国で日本人と出会って婚姻したような場合(入管法12条1項3号参照)に適用されることがあります(法務省HPの「「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」の公表」参照)。この場合,入国審査官,特別審理官及び法務大臣という三段階の手続を経る必要があります。
エ Wikipediaの「指紋押捺」に以下の記載があります(指紋押捺制度が合憲であることにつき,最高裁平成7年12月15日判決(裁判所HPに掲載)参照)。
   2007年(平成19年)11月20日、入管難民法改正が施行され、「特別永住者、外交官、政府招待者、16歳未満の者、日本国籍保持者」以外の訪日外国人は、入国審査にあたり、両手の人さし指の指紋採取と顔の写真撮影が義務・必須化された。同様の制度を導入するのはアメリカ合衆国のUS-VISITに続き、世界で2番目となった。
   指紋と顔写真のデジタルデータは、空港から出入国在留管理庁のサーバに送られ、5秒前後でいわゆるブラックリストと照合される。同リストには国際刑事警察機構(ICPO)と日本の警察が指名手配した約1万4,000人と、過去に日本から強制退去となった約80万人の外国人の指紋や顔写真が登録されている。入国管理局は、ブラックリストに指紋が載っている人物がJ-BISを通過できる確率は、0.001%と試算をしている。
オ 出入国在留管理庁HP「入国・帰国手続<査証・在留資格認定証明書>」が載っています。

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恩赦の効果を含む前科抹消につき,この本を参照しながらブログ記事を作成しました。

第7 関連条文
1 刑法
・ 27条の2(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
   刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
・ 27条の7(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
   刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
・ 34条の2(刑の消滅)
① 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
② 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。

2 少年法
・ 60条(人の資格に関する法令の適用)
① 少年のとき犯した罪により刑に処せられてその執行を受け終り、又は執行の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向つて刑の言渡を受けなかつたものとみなす。
② 少年のとき犯した罪について刑に処せられた者で刑の執行猶予の言渡を受けた者は、その猶予期間中、刑の執行を受け終つたものとみなして、前項の規定を適用する。
③ 前項の場合において、刑の執行猶予の言渡を取り消されたときは、人の資格に関する法令の適用については、その取り消されたとき、刑の言渡があつたものとみなす。

3 公職選挙法
・ 11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
① 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 
以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
② この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については、第二百五十二条の定めるところによる。
③ 
市町村長は、その市町村に本籍を有する者で他の市町村に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて、第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由がなくなつたことを知つたときは、遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
・ 11条の2
(被選挙権を有しない者)
   公職にある間に犯した前条第一項第四号に規定する罪により刑に処せられ、その執行を終わり又はその執行の免除を受けた者でその執行を終わり又はその執行の免除を受けた日から五年を経過したものは、当該五年を経過した日から五年間、被選挙権を有しない。
・ 252条
(選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止)
① この章に掲げる罪(第二百三十六条の二第二項、第二百四十条、第二百四十二条、第二百四十四条、第二百四十五条、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三及び第二百五十三条の罪を除く。)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
② この章に掲げる罪(第二百五十三条の罪を除く。)を犯し禁以上の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
③ 第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条又は第二百二十三条の二の罪につき刑に処せられた者で更に第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者については、前二項の五年間は、十年間とする。
 裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者(第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者を除く。)に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、第一項に規定する者で第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられたもの及び第二項に規定する者に対し第一項若しくは第二項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の十年間の期間を短縮する旨を宣告することができる。

4 旅券法
・ 13条(一般旅券の発給等の制限)
① 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
一 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者
二 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾こう引状、勾こう留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者
三 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
四 第二十三条の規定により刑に処せられた者
五 旅券若しくは渡航書を偽造し、又は旅券若しくは渡航書として偽造された文書を行使し、若しくはその未遂罪を犯し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百五十五条第一項又は第百五十八条の規定により刑に処せられた者
六 国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律(昭和二十八年法律第二百三十六号)第一条に規定する帰国者で、同法第二条第一項の措置の対象となつたもの又は同法第三条第一項若しくは第四条の規定による貸付けを受けたもののうち、外国に渡航したときに公共の負担となるおそれがあるもの
七 前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
② 外務大臣は、前項第七号の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければならない。
・ 23条(罰則)
① 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 この法律に基づく申請又は請求に関する書類に虚偽の記載をすることその他不正の行為によつて当該申請又は請求に係る旅券又は渡航書の交付を受けた者
二 他人名義の旅券又は渡航書を行使した者
三 行使の目的をもつて、自己名義の旅券又は渡航書を他人に譲り渡し、又は貸与した者
四 行使の目的をもつて、他人名義の旅券又は渡航書を譲り渡し、若しくは貸与し、譲り受け、若しくは借り受け、又は所持した者
五 行使の目的をもつて、旅券又は渡航書として偽造された文書を譲り渡し、若しくは貸与し、譲り受け、若しくは借り受け、又は所持した者
六 第十九条第一項の規定により旅券の返納を命ぜられた場合において、同項に規定する期限内にこれを返納しなかつた者
七 効力を失つた旅券又は渡航書を行使した者
② 営利の目的をもつて、前項第一号、第四号又は第五号の罪を犯した者は、七年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
③ 第一項(第四号及び第五号の所持に係る部分並びに第六号を除く。)及び前項(第一項第四号及び第五号の所持に係る部分を除く。)の未遂罪は、罰する。
④ 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 一般旅券に記載された渡航先以外の地域に渡航した者
二 渡航書に帰国の経由地が指定されている場合において、経由地以外の地域に渡航した者

5 出入国管理及び難民認定法
(上陸の拒否)
第五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
(中略)
四 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

第8 関連記事その他
1 司法研究の委嘱を受けた裁判官は,研究題目等によつては身分帳簿の内容を了知することが許される場合があるとされています(最高裁昭和57年1月28日決定)。
2 前科証拠は,自然的関連性があることに加え,証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに証拠能力が肯定され,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定されます(最高裁平成24年9月7日判決)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 恩赦制度の存在理由
・ 恩赦の手続
・ 恩赦申請時に作成される調査書
・ 恩赦の効果

各地の検察庁の執務規程

目次
1 各地の検察庁の執務規程
2 検察庁の司法修習担当部署
3 各地の検察庁の決裁区分に関する文書
4 関連記事その他

1 各地の検察庁の執務規程
(1) 平成28年11月時点のものは以下のとおりです。
東京地検横浜地検さいたま地検千葉地検大阪地検京都地検神戸地検名古屋地検広島地検福岡地検
(2) 各地の検察庁の課及び室に置かれている係の所管事務については,それぞれの検察庁の執務規程を読めば分かりますから,検察修習をしているときに指導係検事にお願いしてコピーをもらえばいいと思われます。

2 検察庁の司法修習担当部署
(1) 検察庁において司法修習生に関する事務を担当する部署は以下のとおりです。
① 東京地検の場合,総務部司法修習課
② 大阪地検の場合,総務部教養課
③ 大阪地検を除く部制庁の11地検の場合,総務部企画調査課
④ 非部制庁の37地検の場合,企画調査課
(2) 東京地検総務部司法修習課は,東京地検九段庁舎(〒102-0074 東京都千代田区九段南1-1-10 九段合同庁舎内)にあります(東京地検HPの「東京地方検察庁九段庁舎(総務部司法修習課,交通部,特別捜査部)」参照」)。


3 各地の検察庁の決裁区分に関する文書
・ 事件処理の決裁区分について(昭和61年12月15日付の大阪地検次席検事の通知)
・ 事件の決裁区分について(平成7年8月28日付の神戸地検検事正の通達)
・ 事件の決裁について(平成18年6月26日付の徳島地検検事正の通達)


4 関連記事その他
(1) 法務省HPに「法務年鑑」のバックナンバーが載っています。
(2) 令和元年11月29日付の法務省の意思確認文書によれば,検察例規集は同日現在,存在しないとのことです。
(3)ア 以下の資料を掲載しています。
(検察事務官向けの法務総合研究所の教材)
・ 事件事務解説
・ 執行事務解説
・ 証拠品事務解説
・ 徴収事務解説
・ 記録事務解説
・ 犯歴事務解説
(その他)
・ 7月16日発生に係る火災について(令和3年7月17日付の東京地検事務局総務課管理室の文書)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 保釈保証金の没取
・ 実況見分調書作成時の留意点
 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

検察官と裁判官の法廷外での面談

目次
第1 検察官と裁判官の法廷外での面談
第2 関連記事

第1 検察官と裁判官の法廷外での面談
平成28年11月24日の山口和之参議院議員(無所属)の質問に対する国会答弁資料に以下の記載があります。

・ 検察官が一般に裁判官室に頻繁に出入りしているという話は承知していないが,一般論として申し上げれば,検察官が必要に応じて裁判官と裁判所内の法廷外において面談することはあるものと承知
   もっとも,そのような場合においても,検察官は,裁判官の中立性・公平性に疑念を抱かせないように配慮しているものと承知。
・ 一般論として申し上げれば,裁判官は,必要がある場合には,法廷外において,検察官に限らず,事件の一方当事者と面談し,必要な範囲で打合せ等を行うことはあるものと承知。
   いずれにしても,法廷外で当事者が裁判官と面談する場合には,いずれの立場においても,裁判官の中立性・公平性に疑念を抱かせないように配慮するなど適切に対応しているものと承知しており,問題はないものと考えている。
・ 一般的に検察官と裁判官の接触を禁止するような指針等は存在していない。
   いずれにしても,検察官が法廷外で裁判官と面談等をする場合には,刑事手続における裁判官の担う役割を十分理解しつつ,裁判官の中立性・公平性に疑念を抱かせないように配慮するなど適切に対応しているものと承知しており,一般的に検察官と裁判官の接触を禁止するような指針等を策定する必要はないものと考えている。


第2 関連記事
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

保護観察制度

目次
1 総論
2 法務省保護局及び地方更生保護委員会
3 保護観察官,保護司及び社会復帰調整官
4 保護観察対象者
5 保護観察の内容
6 被害者等の心情等の聴取及び伝達(心情等伝達制度)
7 更生緊急保護
8 関連記事その他
    
1 総論
(1) 平成20年6月1日施行の更生保護法(平成19年6月15日法律第88号)は,①昭和24年7月1日施行の犯罪者予防更生法(昭和24年5月31日法律第142号)及び②昭和29年7月1日施行の執行猶予者保護観察法(昭和29年4月1日法律第58号)を整理・統合して新たな法律としたものです。
その上で,①保護観察における遵守事項を整理して充実させるとともに,②保護観察の実施状況に応じて特別遵守事項の変更ができることとするほか,③受刑者等の社会復帰のための環境調整の措置を一層充実させ,あわせて④仮釈放の審理において犯罪被害者等の意見を聴取する制度等を整備するものです。
(2) 更生保護制度は,犯罪をした者及び非行のある少年がこれを繰り返さないように,社会内において必要な監督や支援等を行い,改善更生させようとするものであり,「社会内処遇」ともいわれます。
(3) 保護観察は,保護観察対象者の居住地(住居がないか,又は明らかでないときは,現在地又は明らかである最後の居住地若しくは所在地)を管轄する保護観察所がつかさどります(更生保護法60条)。

2 法務省保護局及び地方更生保護委員会
(1) 法務省保護局では,①矯正施設に収容されている人の仮釈放等に関する事務,及び②仮釈放になった人,保護観察付き執行猶予になった人,保護観察に付された少年等の保護観察に関する事務を行うほか,③恩赦,④犯罪予防活動,⑤犯罪被害者等施策に関する事務等を行っています。
    このような仕事を「更生保護」と呼んでおり,直接的な仕事は,①高等裁判所の管轄区域ごとに全国8か所に設置されている「地方更生保護委員会」,及び②地方裁判所の管轄区域ごとに全国50か所に設置されている「保護観察所」で行っています。
    また,これらの仕事と併せ,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った精神障害者の社会復帰の促進を目的とする「医療観察制度」に基づく地域社会における処遇等に関する事務を行っています。
(2) 近畿地方には,近畿地方更生保護委員会(〒540-0008 大阪市中央区大手前4丁目1番76号 大阪合同庁舎第4号館(6階))及び2府4県で6カ所の保護観察所があります。
(3) 大阪保護観察所は,大阪合同庁舎第4号館(5階)にあります。
    
3 保護観察官,保護司及び社会復帰調整官
(1) 地方更生保護委員会の事務局及び保護観察所には,保護観察官が置かれています。
   保護観察官は,医学,心理学,教育学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき,保護観察,調査,生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事しています(更生保護法31条)。
(2) 保護司は,保護観察官で十分でないところを補い,地方更生保護委員会又は保護観察所の長の指揮監督を受けて,保護司法(昭和25年5月25日法律第204号)(同日施行)の定めるところに従い,それぞれ地方更生保護委員会又は保護観察所の所掌事務に従事しています。
(3) 現実の更生保護は,常勤の国家公務員である保護観察官(約1100名)及び民間篤志家である保護司(約5万人)を中心に,更生保護施設といった関係機関の協力(更生保護法61条2項参照)の下に,官民協働体制で実施されています。
(4) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年7月16日法律第110号。平成17年7月15日施行)(=医療観察法)20条に基づき,保護観察所には,精神保健福祉士の有資格者など同法の対象となる人の社会復帰を促進するために必要な知識及び経験を有する「社会復帰調整官」が置かれています。

4 保護観察対象者

(1) 保護観察は,犯罪をした人又は非行のある少年が,実社会の中でその健全な一員として更生するように,国の責任において指導監督及び補導援護を行うもので,以下の人が保護観察対象者となります(①ないし④につき更生保護法48条,⑤につき売春防止法26条1項)。    
① 保護観察処分少年
→ 家庭裁判所で保護観察に付された少年です。
② 少年院仮退院者
→ 少年院からの仮退院を許された少年です。
③ 仮釈放者
→ 刑事施設からの仮釈放を許された人です。
④ 保護観察付執行猶予者
→ 裁判所で刑の執行を猶予され,保護観察に付された人です。
⑤ 婦人補導院仮退院者
→ 婦人補導院からの仮退院を許された人です。
(2) 初の執行猶予者に対する保護観察は任意的である(刑法25条の2第1項前段)のに対し,再度の執行猶予者に対する保護観察は必要的です(刑法25条の2第1項後段)。
    
5 保護観察の内容
(1) 保護観察は,保護観察対象者の改善更生を図ることを目的として,①指導監督及び②補導援護を行うことにより実施されます(更生保護法49条1項)。
(2) 保護観察における指導監督は,以下に掲げる方法により行われます(更生保護法57条)。
① 面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握すること。
② 保護観察対象者が一般遵守事項(更生保護法50条)及び特別遵守事項(更生保護法51条)を遵守し,並びに生活行動指針(更生保護法56条)に即して生活し,及び行動するよう,必要な指示その他の措置をとること。
③ 特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を実施すること。
(3) 保護観察における補導援護は,保護観察対象者が自立した生活を営むことができるようにするため,その自助の責任を踏まえつつ,以下に掲げる方法によって行われます(更生保護法58条)。
① 適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること。
② 医療及び療養を受けることを助けること。
③ 職業を補導し、及び就職を助けること。
④ 教養訓練の手段を得ることを助けること。
⑤ 生活環境を改善し,及び調整すること。
⑥ 社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うこと。
⑦ 前各号に掲げるもののほか,保護観察対象者が健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置をとること。
(4) 保護観察における指導監督及び補導援護は,保護観察対象者の特性,とるべき措置の内容その他の事情を勘案し,保護観察官及び保護司が実施しています(更生保護法61条1項)。
(5) 保護観察所の長は,保護観察付執行猶予の判決を受け,その裁判が確定するまでの者について,保護観察を円滑に開始するため必要があると認めるときは,その者の同意を得て,その者の家族その他の関係人を訪問して協力を求めることその他の方法により,その者の住居、就業先その他の生活環境の調整を行うことができます(更生保護法83条)。
    
6 被害者等の心情等の聴取及び伝達(心情等伝達制度)
(1) 保護観察所の長は,保護観察対象者について,被害者等から,被害に関する心情,被害者等の置かれている状況又は保護観察対象者の生活若しくは行動に関する意見(心情等)の伝達の申出があったときは,当該心情等を聴取し,当該保護観察対象者に伝達するものとされています(更生保護法65条1項本文)。
    保護観察所の長は,被害者等の居住地を管轄する他の保護観察所の長に対し,申出の受理及び心情等の聴取に関する事務を嘱託することができます(更生保護法65条2項)。
(2) 以下のような場合,被害者等の心情等の聴取及び伝達を要しないこととされています(更生保護法65条1項ただし書参照)。
① 保護観察対象者が心情不安定な状態にあり,被害者等の心情等を伝達すると更に混乱させるおそれがある場合
② 暴力団同士の抗争事件のように被害者とされている者が実質的には被害者といえない場合
7 更生緊急保護
(1) 更生緊急保護とは,満期釈放者,起訴猶予者,刑の全部の執行猶予者等のうち,親族からの援助や公共の衛⽣福祉に関する機関等からの保護を受けることができない場合などに,緊急的に,必要な援助や保護の措置を実施することにより,速やかな改善更⽣を図るものであり(更生保護法85条),本人の申出にもとづいて開始します(更生保護法86条1項)。
(2) 法務省の事件事務規程には以下の条文があります。
78条(保護申出手続の教示等)
① 検察官は、被疑者を釈放する場合において、更生保護法(平成19年法律第88号)第86条第2項に規定する更生緊急保護の制度及び申出の手続を教示する必要があると認めるときは、釈放された人の更生緊急保護の申出手続に関する説明書(様式第121号)を示すなどして行う。
② 検察官は、前項の規定により教示をした者について、更生緊急保護の必要があると認めるとき、又はその者が更生緊急保護を希望するときは、前項の説明書を交付するとともに保護カード(様式第122号)所定の事項を記入してその者に交付する。
148条(保護申出手続の教示等)
    第78条の規定は、懲役又は禁錮につき刑の全部の執行猶予の判決の宣告を受けた者及び罰金又は科料の宣告若しくは略式命令を受けた者に対する保護申出手続の教示等について準用する。
(3) 弁護士弓田竜の刑事事件ブログ「更生緊急保護」には,「更生緊急保護のポイントは,弁護人が事前に検察官に対し更生緊急保護を希望する旨の連絡をした上で,被告人質問等において上記②の要件(親族からの援助がない)を満たしている旨を証拠化することです。」と書いてあります。
(4) 法務省HPに「更生緊急保護及び更生保護における社会復帰支援施策について」が載っています。


8 関連記事その他
(1) 仙台市HPに「生活困窮者自立支援、成年後見制度利用促進、再犯防止推進」が載っています。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 6月の保護観察に関する保護観察所との連携等について(令和4年3月3日付の最高裁家庭局第一課長の事務連絡)
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 恩赦の効果
・ 恩赦に関する記事の一覧
・ 仮釈放
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ マル特無期事件
・ 前科抹消があった場合の取扱い

仮釈放に関する公式の許可基準

目次
1 総論
2 刑事施設の長又は少年院の長が仮釈放を許すべき旨の申出をするかどうかの審査基準
3 社会内処遇規則28条に定める基準に該当するかどうかを判断するに当たっての留意事項

1 総論
(1) 地方更生保護委員会は,仮釈放を許すべき旨の旨の刑事施設又は少年院の長からの申出又は職権に基づき,仮釈放の審理を開始します(更生保護法34条及び35条)。
(2) 地方更生保護委員会の委員が直接,受刑者である審理対象者と面接をするほか(更生保護法37条1項),必要に応じて被害者やその遺族,検察官等にも意見を聞くなどした上で(更生保護法37条及び38条),地方更生保護委員会は,3人の合議体の決定(更生保護法23条1項1号)をもって,仮釈放を許す処分をします(更生保護法39条)。
(3)ア 仮釈放について定める刑法28条は以下のとおりです。
    懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
イ 刑法28条の「行政官庁」は,地方更生保護委員会です。
(4)ア 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(略称は「社会内処遇規則」です。)28条は以下のとおりです。
    法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は、懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。
イ 社会内処遇規則28条は,仮釈放を許可する条件は以下の4つであると定めています。
① 悔悟の情及び改善更生の意欲があること
② 再び犯罪をするおそれがないこと
③ 保護観察に付することが改善更生のために相当であること
④ 社会の感情が仮釈放を是認すること
(5) 無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める日弁連意見書(2010年12月17日付)には以下の記載があります。
① 「悔悟の情」は有罪の自認が前提とされており,刑事裁判において公訴事実を否認し,かつ,それを維持して判決確定後も再審請求をしている場合などは「改悛の状なし」と認定される傾向にあるといえる。
② 釈放後の帰住先があることは,上記要件に加えて刑事施設の長が仮釈放の申出をする場合の前提として必要とされている。
③ 国際基準によって求められているのは,当該受刑者が安全に社会復帰できる状態となっているか否かである。そのためには,本人が罪を認め悔い改めることを内容とする「悔悟の情」は不要であり,また,罪の重大さに見合った十分な期間服役したことに加えて,「社会の感情」を考慮することも相当ではない。したがって,本来,「円滑な社会復帰が見込まれる場合」には仮釈放が認められるべきであり,かつ,規則ではなく刑法において具体的な基準が明らかにされるべきである。

2 刑事施設の長又は少年院の長が仮釈放を許すべき旨の申出をするかどうかの審査基準
    社会内処遇規則28条に定める基準を具体化した,犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について(平成20年5月9日付の法務省矯正局長及び保護局長の依命通達)8頁及び9頁によれば,刑事施設の長又は少年院の長は,保有する情報の範囲内において,それぞれ当該アからオまでに定める事項を考慮するものとされています。
ア 規則第28条本文における悔悟の情があるかどうかの判断
    申出に係る刑を言い渡される理由となった犯罪の被害の実情についての認識, 当該犯罪を悔いる気持ち及び当該犯罪に至った自己の問題性についての認識の表れと認められる言動の有無及び内容その他の事項
イ 規則第28条本文における改善更生の意欲があるかどうかの判断 次に掲げる事項その他の事項
(ア) 被害者等に対する慰謝の措置の有無及び内容並びに当該措置の計画及び準備の有無及び内容
(イ) 刑事施設における矯正処遇又は少年院における矯正教育への取組の状況
(ウ) 反則行為又は紀律に違反する行為の有無及び内容その他の刑事施設又は少年院における生活態度
(エ) 釈放後の生活の計画の有無及び内容その他の健全な生活を確保するための行動の有無及び内容
ウ 規則第28条本文における再び犯罪をするおそれがないかどうかの判断 次に掲げる事項その他の事項
(ア) 性格,年齢,経歴及び心身の状況
(イ) 申出に係る刑を言い渡される理由となった犯罪の罪質,動機,態様,結果及び社会に与えた影響
(ウ) 刑事施設における矯正処遇の経過及び効果又は少年院における矯正教育の経過及び成績の推移
(エ) 釈放後の生活環境
(オ) 保護観察において予定される処遇の内容及び効果
(カ) 悔悟の情及び改善更生の意欲の程度
エ 規則第28条本文における保護観察に付することが改善更生のために相当であるかどうかの判断 次に掲げる事項その他の事項
(ア) 刑事施設又は少年院において予定される処遇の内容及び効果
(イ) アからウまでに定める事項
オ 社会の感情が仮釈放を是認するかどうかの判断 次に掲げる事項その他の事項
(ア) 被害者等の感情
(イ) (ア)に掲げるもののほか,収容期間及び仮釈放を許すかどうかに関する関係人及び地域社会の住民の感情
(ウ) 裁判官又は検察官から表明されている意見
(エ) アからエまでに定める事項

3 社会内処遇規則28条に定める基準に該当するかどうかを判断するに当たっての留意事項
    犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について(平成20年5月9日付の法務省矯正局長及び保護局長の依命通達)15頁ないし19頁によれば,社会内処遇規則28条に定める基準に該当するかどうかを判断するに当たっての留意事項は以下のとおりです。
(1) 規則第28条に定める基準に該当するかどうかを判断するに当たっては,次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 規則第28条は,悔悟の情及び改善更生の意欲があると認められること,再び犯罪をするおそれがないと認められること,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められること並びに社会の感情が仮釈放を是認すると認められることの4つの要件を掲げており,仮釈放を許すにはこれらのいずれもが満たされることが必要であるとされていること。
イ アの4つの要件のうち,悔悟の情及び改善更生の意欲があると認められることは,仮釈放を許すことの中心的な要件であり, これが認められるかどうかが,他の要件に先立って,判断されるべきであること。
ウ 悔悟の情及び改善更生の意欲があると認められる審理対象者について,再び犯罪をするおそれがないと認められるかどうかが判断されるべきであること。この場合において,悔悟の情及び改善更生の意欲があると認められることは,通常,再び犯罪をするおそれがないことを推認させることになるが,審理対象者の性格,年齢,経歴,心身の状況その他の事情を考慮したときに,なおこれが認められるかどうかが判断されるべきであること。
エ 保護観察に付することが改善更生のために相当であることは,仮釈放を許すことの包括的な要件であると考えられ,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがないと認められる審理対象者について, これが認められるかどうかが判断されるべきであること。 この場合において,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがないと認められることは,通常,保護観察に付することが改善更生のために相当であることを推認させることになるが,総合的かつ最終的に実質的相当性を判断する観点から,なおこれが認められるかどうかが判断されるべきであること。
オ 社会の感情が仮釈放を是認するかどうかは,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められる審理対象者について判断されるべきであること。 この場合において,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められることは,通常,社会の感情が仮釈放を是認することを推認させるが,なおも仮釈放を許すことが刑罰制度の原理及び機能を害しないかどうかを最終的に改めて確認する観点から,なおこれが認められるかどうかが判断されるべきであること。
(2)  (1)のイにより悔悟の情及び改善更生の意欲があるかどうかを判断するに当たっては,次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 悔悟の情があると認められるためには,審理対象者が審理に係る刑を言い渡される理由となった犯罪による被害の実情及び当該犯罪に至った自己の問題性を正しく認識していることを前提とし,その上で悔いる気持ちが認められることが必要であること。
イ アの悔いる気持ちが特に強く認められるときは,その旨の評価をすること。
ウ アに掲げる事項を考慮するに当たっては,面接における審理対象者による悔悟を表す発言及び申告票又は6の(3)のエの書面(以下「申告票等」 という。 )に記載された悔悟を表す文言のみならず,審理に係る刑を言い渡される理由となった犯罪による被害の実情についての認識, 当該犯罪に至った自己の問題性についての認識及び当該犯罪を悔いる気持ちの表れと認められる言動その他の事項を考慮し, 当該悔悟を表す発言又は文言が真しな気持ちに基づくものであるかどうかを証明することとなる客観的事実を把握すべきであること。
エ 改善更生の意欲があると認められるためには,審理対象者が審理に係る刑を言い渡される理由となった犯罪による被害者等に対してどのように償うべきかを正しく認識し,かつ,償いをする気持ちがあることを前提とし,その上で再び犯罪をしないためにどのような生活を送るべきかを正しく認識し,かつ,過去の生活を改め健全な生活を送る気持ちが認められることが必要であること。
オ エの償いをする気持ち又は過去の生活を改め健全な生活を送る気持ちが特に強く認められるときは,その旨の評価をすること。
カ エに掲げる事項を考慮するに当たっては,次に掲げる事項その他の事項を考慮し,客観的事実を把握すべきであること。
(ア) 被害者等に対する慰謝の措置の有無及び内容並びに当該措置の計画及び準備の有無及び内容
(イ) 刑事施設における矯正処遇又は少年院における矯正教育への取組の状況
(ウ) 反則行為又は紀律に違反する行為の有無及び内容その他の刑事施設又は少年院における生活態度
(エ) 釈放後の生活の計画の有無及び内容その他の健全な生活を確保するための行動の有無及び内容
(3) (1)のウにより再び犯罪をするおそれがないかどうかを判断するに当たっては,次に掲げる事項に留意するものとする。
ア  「再び犯罪をするおそれ」には,仮釈放中の再犯のおそれ及び仮釈放期間経過後の再犯のおそれが含まれるところ,前者の意味での再犯のおそれについては,何らかの犯罪をするおそれが合理的に想定し得ない程度に至っていなければならないのに対し,後者の意味での再犯のおそれについては,再犯のおそれが相当程度現実的でなければ, この意味での再犯のおそれはないと認められるものであると考えられること。
イ 悔悟の情及び改善更生の意欲が特に強く認められたときは,再び犯罪をするおそれがないことを示すものとして,一定の評価をすること。
ウ 次に掲げる事項その他の事項を考慮すべきであること。
(ア) 性格,年齢,経歴及び心身の状況
(イ) 審理に係る刑を言い渡される理由となった犯罪の罪質,動機,態様,結果及び社会に与えた影響
(ウ) 刑事施設における矯正処遇の経過及び効果又は少年院における矯正教育の経過及び成績の推移
(エ) 釈放後の生活環境
(オ) 保護観察において予定される処遇の内容及び効果
(カ) 悔悟の情及び改善更生の意欲の程度
(4) (1)のエにより保護観察に付することが改善更生のために相当であるかどうかの判断に当たっては,次に掲げる事項その他の事項を考慮するものとする。
ア 刑事施設又は少年院において予定される処遇の内容及び効果
イ (2)のウ及び力並びに(3)のウに掲げる事項
(5) (1)のオにより社会の感情が仮釈放を是認するかどうかを判断するに当たっては,次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 被害者等や地域社会の住民の具体的な感情は,重要な考慮要素となるものの, 「社会の感情」 とは,それらの感情そのものではなく,刑罰制度の原理・機能という観点から見た抽象的・観念的なものであることに留意して判断を行うこと。
イ 次に掲げる事項その他の事項を考慮すべきであること。
(ア) 被害者等の感情
(イ) (ア)に掲げるもののほか,収容期間及び仮釈放を許すかどうかに関する関係人及び地域社会の住民の感情
(ウ) 裁判官又は検察官から表明されている意見
(エ)  (2)のウ及び力, (3)のウ並びに(4)のアに掲げる事項

仮釈放

目次
1 総論
2 仮釈放の手続
3 仮釈放に効くかも知れないこと
4 定期刑の仮釈放許可人員の刑の執行率
5 無期刑の仮釈放
6 再審請求中の仮釈放及び刑の執行停止
7 関係する法令及び訓令・通達
8 関連記事その他
    
1 総論
(1) 仮釈放等とは,地方更生保護委員会の決定(更生保護法16条)によって,収容期間が満了する前に被収容者を一定の条件を付して仮に釈放することをいい,以下の4種類があります(社会内処遇規則9条参照)。
① 懲役又は禁錮に受刑者に対する仮釈放(刑法28条)
→ かつては「仮出獄」といわれていました。
② 拘留受刑者又は労役場留置者に対する仮出場(刑法30条)
③ 少年院収容者の仮退院(少年院法12条2項)
④ 婦人補導院収容者の仮退院(売春防止法25条1項)
(2) ①刑の時効期間の満了,及び②仮釈放の残刑期間の満了は,どちらも刑罰執行権を消滅させる点で共通しています。
(3) 仮釈放の対象は懲役受刑者及び禁錮受刑者であるのに対し,仮出場の対象は拘留受刑者及び労役場留置者です。
(4) 無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める日弁連意見書(2010年12月17日付)16頁に書いてあるとおり,仮釈放を許さない処分は決定をもってなされるわけではない(更生保護法39条1項)ため,審査請求をすることはできません(更生保護法92条参照)。
(5) 仮釈放を許された者は,仮釈放の期間中,3号保護観察に付されます(更生保護法40条及び48条3号)。

2 仮釈放の手続
(1) 仮釈放の手続は以下のとおりであり,詳細については,平成20年6月1日施行の,犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(平成20年4月23日法務省令第28号)(略称は「社会内処遇規則」です。)で定められています。
① 法定期間経過の通告
   刑事施設の長又は少年院の長は,懲役又は禁錮の刑の執行のため収容している者について,(a)刑法28条所定の期間(有期の懲役刑又は禁固刑の場合は刑期の3分の1であり,無期刑の場合は10年),又は(b)少年法58条1項所定の期間(無期刑の場合は7年であり,有期刑の場合は3年であり,不定期刑の場合は刑の短期の3分の1)が経過したときは,その旨を地方更生保護委員会に通告しなければなりません(更生保護法33条)。
② 審理の開始
   地方更生保護委員会は,(a)刑事施設の長若しくは少年院の長からの申出又は(b)自らの判断に基づいて審理を開始します(更生保護法34条,35条)。
③ 仮釈放の審理
   地方更生保護委員会の委員が直接,受刑者である審理対象者と面接をするほか(更生保護法37条1項),必要に応じて被害者やその遺族,検察官等にも意見を聞くなどします(更生保護法37条及び38条)。
④ 仮釈放の決定
   地方更生保護委員会は,3人の委員をもって構成する合議体の決定(更生保護法23条1項1号)をもって,仮釈放を許す処分をします(更生保護法39条)。
(2)ア 仮釈放を許す処分は,懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について,①悔悟の情及び改善更生の意欲があり,②再び犯罪をするおそれがなく,かつ,③保護観察に付することが改善更生のために相当であると認められるほか,④社会の感情がこれを是認すると認められるときになされます(社会内処遇規則28条)。
イ 刑事施設の長は,社会内処遇規則28条に定める基準に該当すると認める場合,地方更生保護委員会に対し,仮釈放を許すべき旨の申出(更生保護法34条1項)をするものとされています(社会内処遇規則12条1項)。
(3) 地方更生保護委員会は,仮釈放を許すか否かに関する審理を行うに当たり,被害者等から,審理対象者の仮釈放に関する意見及び被害に関する心情(=意見等)を述べたい旨の申出があったときは,当該意見等を聴取するものとされています(意見等聴取制度)(更生保護法38条)。
(4) 法務省HPの「第1回更生保護の犯罪被害者等施策の在り方を考える検討会(令和元年5月16日)」「配布資料2 更生保護の被害者等施策の概要」に,①被害者等通知制度,②意見等聴取制度及び③心情等伝達制度に関する詳しい説明が書いてあります。


3 仮釈放に効くかも知れないこと
(1) 「犯罪予備軍のための刑務所マニュアル」ブログに以下の記事があります。
① 仮釈放には何がキクのか⑩・・・仮釈放の嘘と誤解〔仮釈放〕
→ 懲罰を受けるようなことをしない,身元引受人(ガラ受け)を早くから整えておく,反省の態度を日々アピールする,社会復帰の意欲を日々アピールすることが大事とのことです。
② 仮釈放には何がキクのか⑪・・・うっかり受けると仮釈放が遅れるもの〔仮釈放〕
→ 仮釈放の予備面接が近づいた場合,新たな教育は受けない方がいいみたいです。
(2) 私は,リンク先の記載が正しいかどうかの判断材料を持っていませんが,参考になると思います。

4 定期刑の仮釈放許可人員の刑の執行率
(1) 法務省HPに載ってある「平成30年版 犯罪白書」の「第1節 仮釈放と生活環境の調整」によれば,「定期刑の仮釈放許可人員の刑の執行率の区分別構成比の推移等」は以下のとおりです。
・ 昭和62年の場合,執行率70%未満が20.2%,70%以上80%未満が28.8%,80%以上90%未満が33.1%,90%以上が17.9%でした。
・ 平成 9年の場合,執行率70%未満が7.9%,70%以上80%未満が28.1%,80%以上90%未満が35.4%,90%以上が28.6%でした。
・ 平成19年の場合,執行率70%未満が4.9%,70%以上80%未満が27.5%,80%以上90%未満が42.4%,90%以上が285.2でした。
・ 平成29年の場合,執行率70%未満が1.3%,70%以上80%未満が17.9%,80%以上90%未満が45.5%,90%以上が35.3でした。
(2) 「犯罪予備軍のための刑務所マニュアル」ブログの「刑務所には当たり・ハズレがある?②」には,初犯の場合,刑期の70%で仮釈放をもらう人はまずいないのであって,刑期の75%から85%ぐらい勤めた時点で仮釈放をもらえると書いてあります。

5 無期刑の仮釈放
(1) 無期刑とは,刑期が終身にわたるもの,すなわち,受刑者が死亡するまでその刑を科するというものです。
   つまり,仮釈放が許されなければ,死亡するまで刑務所等の刑事施設で刑の執行を受けるものであり,仮釈放が許されたとしても,一生保護観察に付されるものです。
   そのため,結局,無期刑を言い渡された者については,刑の執行の免除(恩赦の一種です。)を受けない限り,生涯にわたり国の監督下に置かれることになります。
(2) 法務省保護局HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に,直近10年分の,無期刑の執行や無期刑受刑者に係る仮釈放審理の状況が書いてあります。
(3) その余の詳細については,「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」を参照してください。


6 再審請求中の仮釈放及び刑の執行停止
(1) 再審請求中の仮釈放
ア 再審請求中に仮釈放が認められた事例としては以下のものがあります。
① 昭和44年11月14日の仮釈放
・ 受刑者は,昭和27年1月21日発生の白鳥事件(警察官射殺事件)について懲役20年の判決を受けていました。
・ 白鳥事件に関する最高裁昭和50年5月20日決定は,「刑訴法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかの判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される。」と判示したものの,再審は認めませんでした。
② 昭和52年6月17日の仮釈放
・ 受刑者は,昭和30年5月11日の晩から翌朝に発生した丸正事件(強盗殺人事件)について無期懲役の判決を受けていました。
③ 平成6年12月21日の仮釈放
・ 受刑者は,昭和38年5月1日の狭山事件(孝行1年生の少女を被害者とする強盗強姦殺人事件)について無期懲役判決を受けていました。
・ 弁護人が被害者親族3人が真犯人であるとして殺人罪で東京地検に告発したものの,正当な弁護活動を逸脱したということで,名誉毀損罪により禁錮6月執行猶予1年の有罪判決を言い渡されました。
イ 無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める日弁連意見書(平成22年12月17日付)5頁及び6頁には,前述した三つのケースはいずれも強力な外部の支援運動が存在し,その結果勝ち取られた例外的なケースであり,かつ,近年のように仮釈放運用が消極化する以前の事例であって,現状では,無実を訴える無期受刑者の仮釈放は極めて困難なものになっていると書いてあります。
(2) 再審請求中の刑の執行停止
ア 昭和37年10月頃発生の江津事件(強盗殺人事件)の場合,無期懲役判決を受けた受刑者は,昭和62年2月3日,高齢と病気のため生命の危機にあるということで刑の執行停止の措置が取られ,病院に入院するために釈放されました。
イ この事例では,昭和53年5月,当時の北尻得五郎会長が,後房市 氏が在監している広島刑務所呉支所を,さらに同59年3月には当時の甲斐緯副会長が同じく広島刑務所を訪ね,また,それぞれ中国地方更生保護委員会をも訪問しました(日弁連HPの「江津事件・後房市氏釈放にあたって」(昭和62年2月3日付)参照)。

7 関係する法令及び訓令・通達
(1) 関係する法令
① 更生保護法
② 更生保護法施行令
③ 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(略称は「社会内処遇規則」です。)
(2) 関係する訓令・通達
① 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務規程(平成20年4月23日付の法務大臣訓令)
② 犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務の運用について(平成20年5月9日付の法務省矯正局長及び保護局長の依命通達)
③ 処遇上の参考事項の通知等について(平成26年1月8日付の法務省刑事局長の通達)
→ 「処遇上の参考事項調査票」及び「処遇上の参考事項通知書」が含まれています。
④ 平成26年1月8日付け法務省刑総第13号通達「処遇上の参考事項の通知等について」の一部改正について(平成28年5月25日付の法務省刑事局長の通達)


8 関連記事その他
(1) 日弁連HPの「パンフレット「受刑者の皆さんへ」第5版ができました」に,受刑者の皆さんへ(平成28年3月・第5版)が載っています。
(2)ア 法務省HPに「矯正施設における不服申立ての状況について」が載っています。
イ 法務省HPの「刑事施設で適用される主な訓令・通達(令和4年4月1日現在)」に以下の訓令通達が載っています。
・ 被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令(平成18年法務省矯医訓第3293号大臣訓令)
・ 被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令の運用について(平成19年5月30日付け法務省矯医第3344号矯正局長依命通達)
(3) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対して強制執行をすることはできません(最高裁令和4年8月16日決定)。
(4) 日本年金機構HP「矯正施設に収容されている方の国民年金保険料の免除等申請手続き」には以下の記載があります。
矯正施設に収容されている方が、所得が少ないなどの理由により国民年金保険料を納めることが著しく困難な場合は、住民登録をしている市区役所または町村役場等に免除等の申請書を提出することによって、国民年金保険料納付の免除が認められる場合がありますが、通常、国民年金保険料納付の免除等が認められるためには、住民登録をしていること、所得が国民年金法施行規則に定める所得の基準額を超えないこと(所得審査)が必要です。
(5) 以下の記事も参照して下さい。
・ マル特無期事件
→ 刑務所の医療問題についても記載しています。
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ 保護観察制度
・ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
・ 戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦
・ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
・ 恩赦に関する記事の一覧


マル特無期事件

目次
1 最高検マル特無期通達
2 「マル特無期事件」の指定対象
3 マル特無期事件に指定された場合,少なくとも50年ぐらい服役させられるかもしれないこと
4 仮釈放を認めない終身刑に対する批判
5 直近5年間の死刑確定人員及び無期懲役確定人員の推移
6 終身刑の導入に関する日弁連の意見書
7 刑務所の医療問題
8 関連記事その他

1 最高検マル特無期通達
(1) 「マル特無期事件」に指定された受刑者の場合,終身又はそれに近い期間,服役させられることとなる点で,事実上の終身刑となっています特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(平成10年6月18日付の最高検察庁の次長検事依命通達)」(「最高検マル特無期通達」などといいます。)参照)
(2)ア 最高検マル特無期通達には以下の記載があります。
    同じ無期懲役刑の判決を受けた者でも個々の事件ごとにその犯情には大きな違いがあり,比較的早期に仮出獄が許されてしかるべき者がいる反面,終身又はそれに近い期間の服役が相当と認められる者もいると考えられ,犯情に即した適正な刑の執行が行われるべきである。そして,そのためには,検察官としても,無期懲役受刑者の中でも,特に犯情等が悪質な者については,従来の慣行等にとらわれることなく,相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきであるので,これらの者に対する刑の執行指揮をより適切に行い,また,仮出獄審査に関する刑務所長・地方更生保護委員会からの意見の照会(以下,「求意見」という。)に対する意見は,より適切で,説得力のあるものとする必要がある。
イ 「仮出獄」という用語は現在,「仮釈放」です。
(3) 最高検マル特無期通達の存在は平成14年1月8日付の朝日新聞の報道によって判明しました(無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める日弁連意見書(2010年12月17日付)8頁)。
(4) 最高検マル特無期通達を補充する通達を以下のとおり掲載しています。
① 最高検察庁におけるマル特無期事件被告人及び受刑者の選定等に関する事務処理要領の制定について(平成10年9月4日付の次長検事依命通達)
② マル特無期事件関係事務の処理について(平成10年9月16日付の最高検察庁総務部長の依命通達)
③ 最高検マル特無期通達の一部改正について(平成18年5月24日付の次長検事依命通達)

2 「マル特無期事件」の指定対象
(1) 「マル特無期事件」の指定対象は不開示情報であるものの,例えば,死刑が求刑されたのに,無期懲役の判決が下された被告人がこれに当たると思います。
(2) 来栖宥子★午後のアダージォブログ「「マル特無期事件」仮釈放許可率=検察官が「反対」の場合は38%だった」(2009年10月19日付)に以下の記載があります(引用元は毎日新聞の記事みたいです。)。
① 検察が「死刑に準ずる」と判断した無期懲役事件を「マル特無期事件」と指定し、仮釈放に際して特別に慎重な審理を求める運用をしていることが分かった。死刑の求刑に対し無期懲役が確定した場合などで、指定事件の対象者は08年までの10年強で380人に上る。
② (山中注:最高検マル特無期)通達の背景には、オウム真理教の一連の事件で、林郁夫受刑者(山中注:平成7年3月20日発生の地下鉄サリン事件の散布役)について検察が「自首により事件の真相究明がなされた」と異例の減軽理由を挙げて無期懲役を求刑し、1審判決(98年5月)で無期刑が確定した経緯がある。凶悪事件の服役囚が仮釈放を許可される事態に備えたとみられる。
(3) 平成20年の年末時点における,無期刑で刑務所にいる人の数は1771人です(法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」の掲載資料参照)から,380人÷1771人=21.4%ぐらいの人がマル特無期事件に指定されているのかも知れません。
(4) 「無期懲役に関する質問主意書」(平成30年7月19日付)に対する「参議院議員糸数慶子君提出無期懲役に関する質問に対する答弁書」(平成30年7月27日付)には以下の記載があります。
    御指摘の「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について」(平成十年六月十八日付け最高検検第八百八十七号次長検事依命通達)については、「「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について」の一部改正について」(平成十八年五月二十四日付け最高検検第千六百二十四号次長検事依命通達)により一部改正がなされたほか、これらに関するものとして、「最高検察庁におけるマル特無期事件被告人及び受刑者の選定等に関する事務処理要領の制定について」(平成十年九月四日付け最高検検第千三百二十八号次長検事依命通達)及び「マル特無期事件関係事務の処理について」(平成十年九月十六日付け最高検検第千三百七十八号最高検察庁総務部長事務連絡)が発出されており、これらの通達はいずれも現在有効である。
    これらの通達等の一部については、公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとの理由から公表を差し控えている。
3 マル特無期事件に指定された場合,少なくとも50年ぐらい服役させられるかもしれないこと
(1)ア ①有期の懲役又は禁錮の上限は30年である(刑法14条)点で,終身に近い服役というのはこれよりも大幅に長い期間の服役を意味すると思われること,②法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている資料では,在所期間が「50年以上」という区切りがあること,及び③20歳代で服役を開始して50年が経過すれば70歳代となるところ,日本人の平均寿命は80歳代であることからすれば,最高検察庁がいうところの終身に近い服役というのは,50年ぐらいの服役ということかもしれません。
イ 受刑者が70歳以上であることは任意的刑の執行停止事由となっています(刑事訴訟法482条2号)。
(2) 「無期懲役に関する質問主意書」(平成30年7月19日付)に対する「参議院議員糸数慶子君提出無期懲役に関する質問に対する答弁書」(平成30年7月27日付)には以下の記載があります。
「無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について」(平成二十一年三月六日付け法務省保観第百三十四号法務省保護局長通達)は、無期刑受刑者については、重大な犯罪をしたことにより終身にわたって刑事施設に収容され得ることに鑑み、無期刑受刑者に係る仮釈放審理の運用の透明性を更に向上させるとともに、慎重かつ適正な審理を確保するために発出したものである。
 具体的には、同通達において、地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)は、当該仮釈放審理における更生保護法(平成十九年法律第八十八号。以下「法」という。)第三十七条第一項に規定する面接については、その構成員である複数の委員をして審理対象者との面接を行わせるものとした。また、同通達において、地方委員会は、当該仮釈放審理においては、犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(平成二十年法務省令第二十八号。以下「規則」という。)第二十二条において準用する規則第十条第一項の規定に基づき、原則として、検察官の意見を求めるものとした。さらに、地方委員会は、当該仮釈放審理においては、無期の懲役又は禁錮に当たる全ての犯罪の被害者等(法第三十八条第一項に規定する被害者等及びこれに準ずる者をいう。)について、原則として、それぞれ、面接等調査を行うものとした。加えて、地方委員会は、無期刑受刑者について、刑の執行が開始された日から三十年が経過したときは、その経過した日から起算して一年以内に、法第三十五条第一項の規定に基づき、必要があると認めて仮釈放審理を開始するものとした。
 また、無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について、法務省ホームページにおいて公表している。

4 仮釈放を認めない終身刑に対する批判
(1)ア 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
① 仮出獄の制度は、受刑者に将来の希望を与えてその改悛を促すこと等にその趣旨がある。旧刑法第五十三条にも同様の規定が設けられていたところ、在監期間が長期に及ぶ場合の弊害等を考慮し、仮出獄が可能となるまでの期間に修正が加えられて刑法第二十八条が成立したものと承知している。
② 仮釈放を認めない終身刑(以下「終身刑」という。)については、死刑を緩慢に執行するようなものであり、長期間の服役により受刑者の人格が完全に破壊されてしまうなど、死刑よりも残虐であるとの意見もあり、そのような終身刑を創設することについては、慎重な検討が必要であると考えている。
イ 刑法(明治13年7月17日太政官布告第36合)(いわゆる「旧刑法」です。)53条は以下のとおりです。
① 重罪軽罪ノ刑ニ処セラレタル者獄則ヲ謹守シ悛改ノ状アル時ハ其刑期四分ノ三ヲ経過スルノ後行政ノ処分ヲ以テ仮ニ出獄ヲ許スコトヲ得
② 無期徒刑ノ囚ハ十五年ヲ経過スルノ後亦同シ
③ 流刑ノ囚ハ第二十一条ニ照シ幽閉ヲ免スルノ外仮出獄ノ例ヲ用ヒス
(2)ア 仮釈放を認めない終身刑については以下の批判があります。
① 死刑を緩慢に執行するようなものであり、長期間の服役により受刑者の人格が完全に破壊されてしまうなど、死刑よりも残虐であるともいえる。
② 一生閉じ込められていることに変わりがないのであるから懲罰事由に当たることをしても何の効果もなく,刑務所内の秩序を維持することも難しくなる。
③ 隔離されて死を待つだけの存在である終身刑受刑者の処遇は死刑確定者並みということになるところ,これと向き合う刑務官の労力は処遇期間が長期化する点で死刑確定者以上の労力が必要となる。
④ 懲罰が意味を持つ仮釈放の可能性のある受刑者と懲罰が意味を持たない終身刑受刑者を一緒に処遇できない。
イ マル特無期事件に指定された場合,仮釈放を認めない終身刑に対する批判と同様のものが当てはまるところがあります。
   しかし,刑法改正により仮釈放を認めない終身刑を導入された場合において,当該刑に処せられた場合,恩赦による減刑を得た上で,仮釈放をしてもらえない限り刑務所を出られなくなるところ,昭和35年以降,無期懲役からの減刑がありませんし,平成9年以降,減刑自体がありません(「恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放」参照)ことからすれば,仮釈放を認めない終身刑が恩赦により減刑されることは事実上あり得ないと思います。
   これに対してマル特無期事件に指定されたに過ぎない場合,仮釈放さえしてもらえれば刑務所を出られますし,マル特無期事件の根拠は検察庁内部の通達に過ぎず,法務大臣の一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づき,法務省限りでその運用を変えられますし,そもそも仮釈放の許可権者は地方更生保護委員会であることからすれば,将来にわたって終身に近い服役を要するとは限りません。
    実際,平成20年から平成29年までの数値として,検察官意見が反対ではない場合の許可率が70.2%である(57件中40件で許可)とはいえ,検察官意見が反対である場合の許可率は12.4%です(169件中21件で許可)から,検察官意見が絶対であるとまではいえません(法務省HPの「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について」に掲載されている資料表2-9)。
   そのため,仮釈放を認めない終身刑と,マル特無期事件は質的に異なります。
(3)ア 刑法改正により仮釈放を認めない終身刑が導入された場合,死刑判決を免れる人が出る他,マル特無期事件に該当する人を中心として,現行法であれば無期懲役にとどまった人の相当数が,仮釈放を認めない終身刑を言い渡されるという意味では重罰化につながると思います。
   そして,絶対に仮釈放されない点で無期刑受刑者よりもより処遇が困難となる終身刑受刑者を,死ぬまで税金で処遇する必要が発生することとなります。
イ ちなみに,名古屋高裁平成29年10月5日判決は,刑務所長が収容中の受刑者とその友人らとの間の面会申出を不許可としたこと及び信書の発受を禁止したことについて,受刑者及び面会申出者の慰謝料請求を認めました。
   つまり,刑務所は,受刑者の処遇を誤った場合,国家賠償責任を負うということです。
(4) Wikipediaに「終身刑」が載っています。



5 直近5年間の死刑確定人員及び無期懲役確定人員の推移
(1) 法務省の検察統計年報2018年版の表63によれば,死刑及び無期懲役の確定人員の推移は以下のとおりです。
① 直近5年間の死刑確定人員の推移(合計20人)
平成26年:7人,平成27年:2人,平成28年:7人
平成29年:2人,平成30年:2人
② 直近5年間の無期懲役確定人員の推移(合計113人)
平成26年:28人,平成27年:27人,平成28年:15人
平成29年:18人,平成30年:25人
(2) マル特無期事件の指定率が20%であるとした場合,仮に刑法改正により終身刑が導入されれば,改正前であれば無期懲役止まりだった人の20%が終身刑になるかもしれません。


6 終身刑の導入に関する日弁連の意見書
(1) 「量刑制度を考える超党派の会の刑法等の一部を改正する法律案(終身刑導入関係)」に対する日弁連意見書(2008年11月18日付)(意見書全文は18頁あります。)には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
①   この厳罰化傾向は,法定刑や処断刑の長期化にとどまらず,矯正や保護の分野にまで浸透しつつある。たとえば,矯正の段階で行われている検察庁秘密通達のいわゆるマル特無期刑や,保護の分野における地方更生保護委員会による仮釈放判断の厳格化にも法務検察の影響が強く,仮釈放を難しくしており,無期刑受刑者の仮釈放に至っては絶望的でさえある。
    刑事施設の長が,法務省令で定める基準に該当すると認めて,地方更生保護委員会に仮釈放を許す旨の申出(更生保護法第34条第1項)をしても無期刑受刑者の仮釈放棄却率は20%であり,その他の刑の受刑者の仮釈放棄却率の4%に比し,著しく狭き門になっている。
    無期刑受刑者に関しては,矯正の現場が保護の分野の地方更生保護委員会の仮釈放許可の判断に困惑しているとさえ思われる。
② これまで秘密裏に実施されてきたマル特無期刑者の問題,地方更生保護委員会のあり方,恩赦や仮釈放の運用のあり方,仮釈放許可基準の不明確さといった不透明かつ閉鎖的な制度等が是正されないままで,そこに終身刑を創設すれば,終身刑化している無期刑と終身刑との間のすみ分けを困難にし,現実にも刑適用における混乱を避けることができない。
    とりわけ,死刑を存置したままの終身刑の創設は,世界にも先進国ではアメリカの一部にしか類がなく,死刑という絶望の刑罰に,終身刑というもう一つの絶望を付け加えるものであり,にわかに
これを是認することができない。
③ 死刑と併存する形での終身刑の創設は,従来なら無期刑判決を受けた者の相当数を終身刑判決に格上げする役割を担うだけであって,死刑判決を大きく減らすことはないものと考えるものである。
④ 終身刑が創設されれば,終身刑受刑者には,仮釈放という希望が絶たれており,単に社会から隔離されているだけで,日々生きていく上での支えもない状態になる。一生閉じ込められていることに変わりがないのであるから懲罰事由に当たることをしても何の効果もなく,刑務所内の秩序を維持することも難しくなる。
    また,そもそも,終身刑受刑者には,死刑確定者と同様の処遇をすることになるのか,それとも改善更生と社会復帰に向けた処遇をするのか。前者だとすれば,隔離されて死を待つだけの存在となり,終身刑受刑者の処遇は死刑確定者並みということになり,これと向き合う刑務官の労力は処遇期間が長期化する点で死刑確定者以上の労力が必要となる。後者だとすれば,仮釈放の希望が全くない終身刑受刑者に改善更生や社会復帰に向けた処遇が何故必要かという問題が生じる。
    さらに,仮にこのような処遇をするとして,終身刑受刑者を一般の受刑者と一緒に処遇するのかという問題もある。懲罰が意味を持つ仮釈放の可能性のある受刑者と懲罰が意味を持たない終身刑受刑者を一緒に処遇できないという意見もある。加えて,終身刑受刑者にかかる費用も税金から支出されるのであるから無視できないとする意見もある。
    この意味では,終身刑の創設は,終身刑受刑者にとっても,刑務所や刑務官にとっても不都合だらけの制度であると言わなければならない。
⑤ 終身刑については,死刑廃止国にあっても,極めて稀な制度であり,ヨーロッパでも死刑に代わるものとしてオランダにあるだけであり,死刑を存置しながら,無期刑とは別に,仮釈放の可能性のない終身刑を導入しているのは,アメリカの連邦と35の州並びに中国に例を見るだけである。
(2) 死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(2016年10月7日の日弁連人権擁護大会(福井市)で採択されたもの)には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
① 当連合会は、2008年11月18日付け「『量刑制度を考える超党派の会の刑法等の一部を改正する法律案(終身刑導入関係)』に対する意見書」において、「無期刑受刑者を含めた仮釈放のあり方を見直し無期刑の事実上の終身刑化をなくし、かつ死刑の存廃について検討することなしに、刑罰として新たに終身刑を創設すること(量刑議連の「刑法等の一部を改正する法律案」)には反対する。」との意見表明を行っている。
    その理由は、死刑制度を存置したまま、仮釈放の可能性のある終身刑の上に仮釈放の可能性のない終身刑を付け加えれば、有期刑の最高刑が30年に長期化されていることと併せ、刑罰制度全体の厳罰化を招く危険性があると考えるためである。
    しかし、死刑が廃止された場合の最高刑については、当連合会はこれまでに意見をまとめたことはない。
② 死刑に代わる最高刑として、刑の言渡し時には「仮釈放の可能性がない終身刑制度」を導入するという選択肢、つまり、言渡し時には生涯拘禁されることを内容とする終身刑の制度を死刑に代わる最高刑として導入することを検討する必要がある。
    ただし、仮に刑の言渡しの時点では仮釈放の可能性が認められない終身刑制度を導入したとしても、「人は変わり得る」のであるから、受刑者が変化し真に更生した場合には、社会に戻る道が何らかの形で残されていなければならない。
    本人が努力しても、釈放の可能性が全くない刑罰に希望はなく、非人道的な刑罰であると言わざるを得ない。
③ 仮釈放の可能性のない終身刑を導入するとしても、将来の減刑の可能性を制度的に残し、例えば、25年以内に本人の更生の進展を審査して仮釈放のある無期刑への減刑の可能性を認めるかどうかについて、受刑者の申立てに基づいて再審査を行うなどの制度を確保しなければならないのである。
    そして、このような再審査は、行政機関による恩赦措置としても可能であるが、フランス、イタリアやスペインの行刑裁判官が担っているような役割を裁判所が担い、裁判所が刑の変更の可否を検討する制度設計が望ましい。
④ このような刑罰制度の改革と同時に、後記する無期刑の仮釈放制度の改革を確実に実現し、受刑30年を経過しても、多くの無期受刑者について仮釈放の審査の機会すら保障されないという異常な現状を、同時に改革しなければならない。


7 刑務所の医療問題
(1) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律62条(診療等)1項は以下のとおりです。
    刑事施設の長は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、速やかに、刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療(栄養補給の処置を含む。以下同じ。)を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする。ただし、第一号に該当する場合において、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限る。
一 負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき。
二 飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがあるとき。
(2)ア 監獄人権センターHPに「被収容者のための不服申立マニュアル Ver.3」が載っています。
イ 監獄人権センターHP「刑務所の医療問題について」には以下の記載があります。
    個々の医療措置については医師の専門的な判断がからむので、「~薬を出せ」とか「~手術をせよ」と具体的な医療措置を要求する権利は、被収容者に認られていませんし、認めさせることは困難です。しかし、少なくとも「医師による診療を行え」と要求する権利は上記の刑事被収容者処遇法62条1項によって被収容者にも認められていると言ってよいでしょう。この点を主張して「医師が診察する」ことまでは強い態度で交渉してよいし、施設側もいつまでも拒み続けることはできないと思われます。
(3) 法務省HPに「行刑改革会議報告 刑務所医療をめぐる問題点と医療の改革」には「第1 刑務所医療の現状」として以下の記載があります。
◯受刑者の観点から
・ 願い出ても診察を受けられない
・ 短時間、立会い刑務官付きの診療
・ 服役中~出所後の医療の断絶
◯医務課職員(刑務官)の観点から
・ 回診職員の不足
・ 膨大な事務量
・ スキルにばらつき
・ 医療従事者としての倫理意識に欠ける
◯医師の観点から
・ 医局の命令により派遣
・ 矯正医療に関心のない者が多い
・ キャリアが断絶
・ 常勤でも週3日
(4) 法務省HPの「矯正医官」には「矯正医療は対象者が収容者であるという特色がある以外は、基本的に一般社会の医療とは異なるものではありません。傷病を有する患者に接し、診断の下に医療措置を講じます。」と書いてあります。
(5)ア 最高裁令和3年6月15日判決は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以下「被収容者」という。)の健康等を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。
    そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。
    そうすると,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではないというべきである。
イ 最高裁令和3年6月15日判決の裁判官宇賀克也の補足意見には以下の記載があります。
    刑事施設における診療に関する情報であっても,インフォームド・コンセントの重要性は異ならない。法務省矯正局矯正医療管理官編・矯正医療においても,矯正医療に求められている内容は,基本的に一般社会の医療と異なるところはないとしている(このことは,監獄法の時代も同じであり,監獄における医療の意義は,第1には,人道的立場において,在監者の身体的・精神的健康を毀損することのないようにすることにあり,病院移送も,専ら病者の治療という趣旨からなされるものであり,検察官等の処分をまって初めて病院移送の措置をとり得ると解すべきではないとされていた。小野清一郎=朝倉京一・改訂監獄法)。
(6)  最高裁令和5年10月26日判決は,刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報の全部を開示しない旨の決定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとされた事例です。
(7) 仙台高裁令和4年8月31日判決(判例時報2569頁)は,刑務作業中の受刑者が正常に印刷されていない紙を取り除こうとして印刷機内に手を差し入れていた時,他の受刑者が印刷機を作動させたため傷害を負った事故につき,刑務所職員らに安全指導義務違反があるとして国家賠償責任が認められた事例です。


8 関連記事その他
(1) ヤフーニュースの「新幹線殺傷事件で無期懲役「出所後また殺す」と宣言の男は何年で仮釈放になる?」には以下の記載があります。
    検察庁では、死刑求刑に対して無期懲役となった事案や、反省の情が乏しく、再犯のおそれが極めて高く、遺族の処罰感情が特に厳しいような事案の場合には、刑務所や地方更生保護委員会に対して仮釈放の審理を慎重に行うように求めるとともに、逆に刑務所や委員会から意見を求められた際には断固反対し、事実上の終身刑となるような運用を図っている。
(2) 最高裁平成20年4月15日判決は, 弁護士会の設置する人権擁護委員会が受刑者から人権救済の申立てを受け,同委員会所属の弁護士が調査の一環として他の受刑者との接見を申し入れた場合において,これを許さなかった刑務所長の措置に国家賠償法1条1項にいう違法がないとされた事例です。
(3)ア 犯罪加害者,更生,被害者専門サイトHP「どこの刑務所へ行くかは「テスト」「調査」で決まる?」が載っています。
イ NPO法人監獄人権センターHP「マル特無期通達の廃止を求める要請書」(2021年6月17日付)が載っています。
(4) 最高裁令和5年9月27日決定は,当事者双方が口頭弁論期日に連続して出頭しなかった場合において,大阪拘置所収容中の死刑確定者による訴えの取下げがあったものとみなされないとした原審の判断に民訴法263条後段の解釈適用を誤った違法があるとされた事例です。
(5) 岐阜地裁令和6年5月29日判決(裁判長は53期の松田敦子)は, 刑務所長が受刑者に対して行った,反則行為の調査のための身体検査並びに物品制限及びカメラ室処遇について,合理的な裁量の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして国家賠償法1条1項上の違法があると認定し,原告の請求の一部を認めた事例です。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 仮釈放
・ 仮釈放に関する公式の許可基準
・ 死刑執行に反対する日弁連の会長声明等
・ 死刑囚及び無期刑の受刑者に対する恩赦による減刑
→ 死刑が確定した後,個別恩赦により無期懲役に減刑した事例は昭和50年6月17日が最後であり(GHQ占領下の事件に関するものです。),無期懲役が確定した後,個別恩赦により減刑した事例(仮釈放中の人は除く。)は昭和35年以降は存在しません。
・ 恩赦の件数及び無期刑受刑者の仮釈放
→ 日弁連HPの「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」(平成22年12月17日付)にも言及しています。
・ 恩赦に関する記事の一覧

法務省の定員に関する訓令及び通達

目次
1 「法務省定員細則の一部を改正する訓令」(法務大臣訓令)
2 「本省内部部局の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
3 「法務局及び地方法務局の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
4 「刑務所,少年刑務所及び拘置所の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
5 法務省が作成した,施設別収容定員・現員(刑事施設,少年院及び少年鑑別所)
6 「保護観察所の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
7 「検察庁の職員の配置定員」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
8 法務省訓令及び法務大臣訓令
9 関連記事その他

1 「法務省定員細則の一部を改正する訓令」(法務大臣訓令)
(1) 以下のとおり掲載しています。
・ 令和 7年4月1日時点のもの
・ 令和 6年4月1日時点のもの
・ 令和 5年4月1日時点のもの
・ 令和 4年4月1日時点のもの
・ 令和 3年4月1日時点のもの
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
・ 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの
(2) 法務省定員規則(平成13年法務省令第16号)2条に基づく訓令です。

2 「本省内部部局の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
(1) 以下のとおり掲載しています。
・ 令和 7年4月1日時点のもの
・ 令和 6年4月1日時点のもの
・ 令和 5年4月1日時点のもの
・ 令和 4年4月1日時点のもの
・ 令和 3年4月1日時点のもの
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの
(2) 令和7年4月1日現在,本省の指定職は12人であり,そのうちの8人は検事です。また,法務省本省には95人の検事がいます。

3 「法務局及び地方法務局の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
(1) 以下のとおり掲載しています。
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
・ 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの
(2) 高松法務局長を除く7つの法務局長ポストは指定職となっています。

4 「刑務所,少年刑務所及び拘置所の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
(1) 以下のとおり掲載しています。
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの
(2) 国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負いません(最高裁平成28年4月21日判決)。
(3) 法務省HPに,全国の刑務所,少年院及び少年鑑別所を取りまとめた「刑事施設一覧」(平成25年1月15日現在)が載っています。


5 法務省が作成した,施設別収容定員・現員(刑事施設,少年院及び少年鑑別所)
(1) 以下のとおり掲載しています。
・ 令和 元年12月末現在速報値
・ 平成30年12月末現在速報値
・ 平成29年12月末現在速報値
・    
平成28年12月末現在速報値
(2) 平成28年12月末現在,刑事施設の収容率は62.6%,少年院の収容率は43.6%,少年鑑別所の収容率は18.1%です。

6 「保護観察所の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
・ 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの

7 「検察庁の職員の配置定員について」(法務省大臣官房人事課長の依命通達)
(1) 
以下のとおり掲載しています。
・ 令和 7年4月1日時点のもの
・ 令和 6年4月1日時点のもの
・ 令和 5年4月1日時点のもの
・ 令和 4年4月1日時点のもの
・ 令和 3年4月1日時点のもの
・ 令和 2年4月1日時点のもの
・ 平成31年4月1日時点のもの
・ 平成30年4月1日時点のもの
・ 平成29年4月1日時点のもの
 平成28年4月1日時点のもの 
(2)   平成28年度につき,例えば,東京地検の場合,検事の定員が595人であり,副検事の定員が183人であり,合計778人ですし,大阪地検の場合,検事の定員が188人であり,副検事の定員が42人であり,合計230人です。
(3) 以下の記事も参照してください。
① 検察事務官
② 副検事制度が創設された経緯


8 法務省訓令及び法務大臣訓令
(1)  法務省の場合,法務省訓令は官報掲載を必要とするのに対し,法務大臣訓令は官報掲載を必要としません(法務省行政文書取扱規則別表第二(第17条関係)1項の「省令,告示及び官報掲載を必要とする訓令に付す記号は,法務省令,法務省告示及び法務省訓令とする。」(リンク先のPDF75頁)参照)。
(2) 法務省訓令の例としては以下のものがあります。
(保護局関係)
・ 地方更生保護委員会委員及び保護観察官の証票に関する訓令(平成20年5月30日法務省訓令第2号)
・ 保護司の証票及び記章に関する訓令(平成20年5月30日法務省訓令第3号)
(出入国在留管理庁関係)
・ 上陸審判規程(平成12年4月10日法務省訓令第2号)
・ 意見の聴取を行わせる入国審査官及び意見の聴取を行わせる難民調査官を指定する訓令(平成31年4月1日法務省訓令第3号)
(検察庁関係)
・ 被疑者補償規程(昭和32年4月12日法務省訓令第1号)
・ 検察庁事務章程(昭和60年4月6日法務省訓令第1号)
(3) 法務大臣訓令の例としては,法務省刑事局HPに掲載されている,事件事務規程,執行事務規程,証拠品事務規程,徴収事務規程,記録事務規程及び犯歴事務規程があります。


9 関連記事その他
(1) 最高検察庁の位置並びに最高検察庁以外の検察庁の名称及び位置を定める政令(昭和22年政令第35号)において,検察庁の名称及び位置が定められています。
(2) 最高裁平成3年7月9日判決は,「監獄法施行規則120条及び124条の各規定は,未決勾留により拘禁された者と14歳未満の者との接見を許さないとする限度において、監獄法50条の委任の範囲を超え,無効である。」と判示しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所職員の予算定員の推移
 最高裁判所の概算要求書(説明資料)
・ 最高裁判所の国会答弁資料
・ 最高裁及び法務省から国会への情報提供文書
・ 裁判所をめぐる諸情勢について
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 級別定数の改定に関する文書
 下級裁判所の裁判官の定員配置
・ 通達の法的性質に関する最高裁判決等のメモ書き

令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料

目次
第1 令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料
第2 関連記事その他

第1 令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料
司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号)に関する御説明資料(法務省民事局)の本文は以下のとおりです。

1 趣旨
   近時の司法書士制度及び土地家屋調査士制度を取り巻く状況の変化を踏まえ,司法書士及び士地家屋調査士について,それぞれ,その専門職者としての使命を明らかにする規定を設けるとともに,懲戒権者を法務局又は地方法務局の長から法務大臣に改める等の懲戒手続に関する規定の見直しを行うほか,社員が一人の司法書士法人及び士地家屋調査士法人の設立を可能とする等の措置を講ずるため,司法書士法(昭和25年法律第197号)及び土地家屋調査士法(昭和25年法律第228号)について,一部改正を行う。

2 司法書士及び土地家屋調査士に関する概況
(1) 司法書士は,不動産登記のうちの権利に関する登記や商業登記,供託等についての法務局に対する申請の代理等のほか,裁判所に提出する書類の作成の代理等を行うことを主たる業務とするものであり(司法書士法第3条第1項),資格試験等を実施することにより,そのために必要な法律知識を備えていることを担保している。
   他方,土地家屋調査士は,不動産登記のうちの表示に関する登記の申請の代理等を行うことを主たる業務とするものであり(土地家屋調査士法第3条第1項) ,資格試験等を実施することにより,そのために必要な測量等の知識や法律知識を備えていることを担保している。
(2) 司法書士については,近時,簡裁訴訟代理等関係業務や成年後見・財産管理業務等への関与が増加している。
   また,土地家屋調査士については,表示に関する登記や筆界,測量に関する専門性を活用して法務局に備え付ける地図(不動産登記法(平成16年法律第123号)第14条第1項)の作成や国士調査法(昭和26年法律第180号)に基づく地籍調査等の分野においてもその活躍の場を広げている。
   加えて,司法書士及び土地家屋調査士ともに,少子高齢化の進展や大規模自然災害の発生等を背景として問題となっている空家問題・所有者不明土地問題への対策について,不動産に関する専門的知識を有する者として参画しているほか, 自然災害における復興支援にも参画するなど,近年その専門性を発揮することが求められる場面は大きく拡大している。
【参照条文】
○不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(地図等)
第十四条 登記所には,地図及び建物所在図を備え付けるものとする。
2~6 (略)

3 改正事項の概要
(1) 司法書士法の一部改正
ア 使命を明らかにする規定の新設(新第1条及び第46条第1項関係)
   司法書士法は第1条に目的規定を置き,「この法律は,司法書士の制度を定め,その業務の適正を図ることにより,登記,供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し,もって国民の権利の保護に寄与することを目的とする。」としている。この目的規定は昭和53年の司法書士法の一部改正により新設されたものであり,司法書士の業務範囲に関する規定が整備され,登記又は供託に関する手続についての申請代理や裁判所等に提出する書類の作成代理が業務内容であることが明示されたことを踏まえ,「登記,供託及び訴訟等に関する手続」の円滑な実施に資すること等を目的とすることとしたものである。
   平成14年の司法書士法の一部改正においては,簡裁訴訟代理権が付与された。
   上記2記載のとおり,司法書士制度を取り巻く状況の大きな変化に伴い,司法書士が実際に取り扱っている業務の内容は拡大し,社会における役割が増大していることに鑑みると,司法書士法の定めるところによりその業務とする法律事務の専門家として,より広い分野において,国民の権利の擁護等に資する活動を行う使命を負っていることを司法書士法の冒頭で宣明することが適切であると考えられる。
   また,このことにより,司法書士にその職責(司法書士法第2条)をよく自覚させることができ,資質の更なる向上を図ることにもつながると考えられる。
   そこで,司法書士は,司法書士法の定めるところによりその業務とする登記,供託,訴訟その他の法律事務の専門家として,国民の権利の擁護を図り, 自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする旨の規定を新設することとした。
   なお,士業法の中には目的規定と使命規定とを併存させるものはないことから, これと整合を図り,今般の使命規定の新設に伴い,目的規定を削除することとした。
(注)使命規定を有する他の職業専門資格士法
公認会計士法(昭和23年法律第103号),弁護士法(昭和24年法律第205号),税理士法(昭和26年法律第237号),弁理士法
【参照条文】
○公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)
(公認会計士の使命)
第一条 公認会計士は,監査及び会計の専門家として,独立した立場において,財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより,会社等の公正な事業活動,投資者及び債権者の保護等を図り,もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。
○弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
(弁護士の使命)
第一条 弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。
2 (略)
○税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)
(税理士の使命)
第一条 税理士は,税務に関する専門家として,独立した公正な立場において,申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
○弁理士法(平成十二年法律第四十九号)
(弁理士の使命)
第一条 弁理士は,知的財産(知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する知的財産をいう。以下この条において同じ。)に関する専門家として,知的財産権(同条第二項に規定する知的財産権をいう。)の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し,もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。
イ 懲戒に関する規定の整備
(ア) 懲戒権者を法務大臣とすること(新第47条,第48条第1項,第49条第1項~第3項,第50条第1項・第2項,第51条,第60条,第70条,第71条の2関係)
   司法書士法は,司法書士及び司法書士法人(以下「司法書士等」という。)に対する懲戒を,事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長(以下「管轄法務局長」という。)の権限としている(同法第47条,第48条) 。一般に,懲戒権者は任命権者がなるのが通例であるが(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第84条第1項等),司法書士等の業務の中心が登記等の法務局における事務であることから, 司法書士法の制定当初である昭和25年から,司法書士等の懲戒事由の存否を最もよく知り得る管轄法務局長に懲戒権限を持たせたものとされている(注1) 。
   もっとも,近年は,簡裁訴訟代理等関係業務や成年後見・財産管理業務(注2)など,裁判所が所管しているために必ずしも管轄法務局長において懲戒事由の存否を把握することが容易であるとはいえないものが多くなっている。また,複数の法務局又は地方法務局にまたがって事務所を設置する大規模な司法書士法人の増加(注3)や,オンラインによる登記申請の増加等も背景とした活動の広域化により,管轄区域外の法務局又は地方法務局への申請を行う機会も増加していることから,管轄法務局長が懲戒事由をよく知り得るとはいえない状況が生まれている。
   他方で,司法書士等に対する懲戒処分については,法務大臣が量定の大枠の基準を定めているものの(司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令(平成19年5月17日付け法務省民二訓第1081号)),近年司法書士等の活動領域が拡大していることに伴って,ある行為が懲戒事由に該当するかどうかの法的判断や量定にも困難を伴う例も増えてきている。
   そこで,司法書士等に対する懲戒権者を管轄法務局長からその上級行政庁と位置付けられる法務大臣に改める必要があると考えられる。
   加えて,活動範囲が広範な司法書士法人等を前提とすれば,管轄法務局長以外の法務局又は地方法務局の長(以下,単に「法務局長」という。)が法務大臣の一元的な指揮の下で連携・分担を図りながら対応を行うことも可能となるものと考えられる。
   そこで,一部の事実調査事務等については広く全国の法務局長に委ねることも可能とする規定を新設することとしつつ(法務大臣の権限の委任規定を設け,それにより,法務大臣の権限の一部を委譲する。),懲戒権者については管轄法務局長から法務大臣に変更する改正を行うこととした(注4)(注5) 。
   なお,委譲する法務大臣の権限は,具体的には,事実の調査に関する権限等にとどめ,懲戒手続全体の指揮のほか,懲戒処分の要否及びその内容の決定については,法務大臣が行うこととすることを想定している。
   また,懲戒権者を法務大臣に変更することに伴い,従たる事務所の所在地を管轄する法務局長の懲戒権に関する規定(司法書士法第48条第2項)が不要となることから,併せて,この規定を削除することとした。
(注1)現在の司法書士制度の出発点である司法代書人を法的資格として確立した「司法代書人法(大正8年法律第48号) 」においては, 「司法代書人ハ地方裁判所ノ所属トス」(第2条) ,「司法代書人ハ地方裁判所ノ監督ヲ受ク」(第3条第1項)とされていた。
(注2)後見・財産管理等業務の件数
平成23年: 1万4926件
→平成29年: 6万4461件(約4倍の増)
(注3)複数の法務局又は地方法務局にまたがって事務所を設置する司法書士法人の数の推移
平成20年4月1日時点: 95法人
→平成30年4月1日時点: 258法人(約3倍の増)
(注4)公共嘱託登記司法書士協会に対する懲戒権者について
   現行法上,法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに,当該区域内に事務所を有する司法書士又は司法書士法人のみが社員となって,その専門的能力を結合して官公署等からの登記の嘱託(いわゆる「公共嘱託」)の適正かつ迅速な実施に寄与することを目的とする一般社団法人として,公共嘱託登記司法書士協会(以下「協会」という。)に関する規定が定められており,その成立については管轄法務局長への届出を要するとされている(司法書士法第68条及び第68条の2)。そして,協会に対しても懲戒権に関する規定があり,その懲戒権者は管轄法務局長である(同法第70条において準用する第48条)が,この懲戒権は,管轄法務局長による監督上の命令(同法第69条の2第2項)に協会が違反した場合の制裁等のためのものであり,司法書士又は司法書士法人に対する懲戒とはその意味を異にする。
   また,協会の業務や財産の状況の検査等の日常的な監督権の行使については, 引き続き管轄法務局長とするのが合理的であり,今次改正案において司法書士・司法書士法人について懲戒権者を法務大臣とする趣旨も当てはまらない。
   以上により,協会に対する懲戒権限は, 引き続き管轄法務局長の権限とすることとするなど改正の対象外とした。
   なお,今般の改正により,協会に対する懲戒権者が司法書士法人に対する懲戒権者と異なることとなる。このことを明らかにするため,同法第70条において準用する懲戒に関する規定については,「法務大臣」を「第六十九条の二第一項に規定する法務局又は地方法務局の長」と読み替える旨の規定を置くこととした。
(注5)懲戒を地方支分機関の長ではなく,所管大臣の権限としている他の職業専門資格士法)
公認会計士法(権限委任規定あり),税理士法,社会保険労務士法(昭和43年法律第89号。権限委任規定あり。),弁理士法
【参照条文】
○国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
(懲戒権者)
第八十四条 懲戒処分は,任命権者が,これを行う。
2 人事院は,この法律に規定された調査を経て職員を懲戒手続に付することができる。
      ※他の参照条文は別紙の1のとおり。
(イ) 懲戒に係る除斥期間の新設(新第50条の2関係)
   司法書士法には,懲戒について,弁護士法のような除斥期間(同法第63条)に関する規定がない。そのため,業務を行ってから相当程度の期間を経過した後に懲戒の求めがされた際,当時の資料等の廃棄や記憶の忘失等により,司法書士等において十分な防御をすることができなくならないように,司法書士等は業務に関する資料等の保存に相当な費用を負担し続けなければならず,過大な負担となっているとの指摘がされている。
   そこで,司法書士等に対する懲戒について,除斥期間を新設することとした。
   なお,除斥期間の具体的な年数については,例えば弁護士については,3年の除斥期間が設けられているところである。これに対し, 司法書士の業務は,紛争性のない権利変動についての登記の申請の代理など,一般に懲戒の事由の発覚に時間がかかるものも少なくない。加えて,司法書士がその業務において作成する資料のうちには,法令の規定に基づき7年間保存する必要があるものも存在する(犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第6条第2項参照)。これらを踏まえると,今般,司法書士法において新たに除斥期間を設けるに当たっては,その年数を7年とすることが相当である。
【参照条文】
○弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
(除斥期間)
第六十三条 懲戒の事由があったときから三年を経過したときは,懲戒の手続を開始することができない。
○犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)
(確認記録の作成義務等)
第六条 特定事業者は,取引時確認を行った場合には,直ちに,主務省令で定める方法により, 当該取引時確認に係る事項, 当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録(以下「確認記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定事業者は,確認記録を,特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から,七年間保存しなければならない。
(ウ) 戒告における聴聞手続の必要的実施(新第49条第3項関係)
   司法書士法は,懲戒の内容として,司法書士については戒告,2年以内の業務の停止及び業務の禁止を,司法書士法人については戒告,2年以内の業務の全部又は一部の停止及び解散を定めている(同法第47条,第48条)。このうち,戒告以外の懲戒処分については聴聞が必要的なものであるが,戒告については聴聞の機会の付与は必要的なものではない(同法第49条第3項・第4項,行政手続法(平成5年法律第88号)第13条第1項第1号ロ) 。
   もっとも,戒告であっても,その処分内容が国民に開示され,司法書士等の経歴として記録されることなどからすれば,司法書士等に対して与える事実上の不利益が大きく,その手続保障を図る必要があるとの指摘がされている。
   そこで,司法書士等に対する戒告についても,聴聞手続を必要的なものとする改正を行うこととした(注) 。
(注)戒告について,法律上,聴聞手続を必要的としている他の職業専門資格士法
公認会計士法,海事代理士法(昭和26年法律第32号),社会保険労務士法,弁理士法
【参照条文】
○行政手続法(平成五年法律第八十八号)
(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条 行政庁は,不利益処分をしようとする場合には,次の各号の区分に従い, この章の定めるところにより, 当該不利益処分の名あて人となるべき者について, 当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか,名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分,名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二 前号イから二までのいずれにも該当しないとき弁明の機会の付与
      ※他の参照条文については別紙の2のとおり。
(エ) 清算結了後の司法書士法人に対する懲戒規定の新設(新第48条第2項)
   司法書士法は,戒告以外の懲戒処分について,司法書士登録の取消しを制限する規定を設けているが,清算結了の登記をした司法書士法人に対して懲戒処分をすることができる旨の規定を設けていない。
   もっとも,現行の司法書士法においては,清算を結了した司法書士法人については,法人格が消滅し,処分の名宛て人が消滅するため,これに対しては,もはや懲戒処分をすることができないものと解される。そのため, このことを利用して,懲戒手続に付された司法書士法人が,清算を結了させて法人格を消滅させることによって,懲戒処分を免れようとする事態が生じ得る。
   そこで,このような脱法的な行為を防止し,懲戒処分の実効性を確保するため,懲戒手続に付された司法書士法人については,清算結了の登記をした場合であっても, なお存続しているものとみなして懲戒することができる旨の規定を新設することとした(注) 。
(注)清算結了後の職業専門資格法人に対する懲戒に関する規定を設けている他の職業専門資格士法
公認会計士法,弁護士法,行政書士法(昭和26年法律第4号),税理士法,社会保険労務士法
【参照条文】
○弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
(登録換等の請求の制限)
第六十二条(略)
2~4 (略)
5 懲戒の手続に付された弁護士法人は,清算が結了した後においても,この章の規定の適用については,懲戒の手続が結了するまで,なお存続するものとみなす。
      ※他の参照条文については別紙の3のとおり。
ウ   一人司法書士法人の許容(新第22条第2項第2号,第32条第1項,第44条第1項第7号・第2項,第44条の2,第46条第3項関係)
   司法書士法は,社員が一人の司法書士法人の設立等を許容しておらず,社員が2人以上でなければ設立することができず, また,社員が一人になり,そのなった日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかった場合においても,その6月を経過した時に解散することとされている(司法書士法第22条第2項第2号,第32条第1項,第44条第2項)。これらの規定は,司法書士の利用者の多様なニーズに対応するため業務の質を向上させるとともに,司法書士による継続的かつ安定的な業務提供や賠償責任能力の強化等の観点から,平成14年の司法書士法の一部改正により司法書士の事務所の法人化が認められた際に設けられたものである。
   もっとも,上記改正当時において,一人司法書士法人を認める必要性に乏しく,弁護士法とは異なり,司法書士法には一人司法書士法人の設立等を許容する旨の規定が置かれなかった。
   しかし,近年では,例えば,親と子の2人が社員となって司法書士法人を設立していたケースにおいて,その親が死亡したものの,新たな社員を探すことができず,司法書士法人を清算しなければならなくなる事態が生ずるなど,一人法人を許容しないために法人制度の利便性が損なわれているとの指摘がされている(注1) 。また,法人化により経営・収支状況等の透明性が確保されれば,国や公共団体が行う競争入札に参加しやすくなるとの利点もあり, このような点をとらえて一人司法書士法人を設立したいとのニーズがあるとの指摘もされている(注2) 。
   そこで,社員が一人であっても司法書士法人を設立・維持することができるように規定を改めることとした(注3) 。
   具体的には,司法書士法人の設立や定款の定めは司法書士が「共同して」行う必要があると規定する部分を削除するほか,社員が一人になったことを解散事由とする規定を改めて「社員の欠亡」を解散事由とすることとした(弁護士法第30条の23第7号参照) 。
   加えて,依頼者保護等の観点から,社員の死亡により社員の欠亡に至った場合には, 当該社員の相続人の同意を得て,新たに社員を加入させて司法書士法人を継続することができる旨の規定も併せて設けることとした(弁護士法第30条の24参照) 。
(注1)平成25年度から平成29年度までの間に解散した司法書士法人のうち,社員が一人になった後に解散した司法書士法人の割合は50%
(注2)法人化により,個人と法人の財産が明確に分離されることなどにより経営・収支状況等の透明性が確保され,受託業務の履行の確実性を客観的に示すことが可能となるなど受託事業者としての信頼性が高まることにより,競争入札に参加しやすくなる。
(注3)一人法人を許容している他の職業専門資格士法
弁護士法,社会保険労務士法(なお,社会保険労務士法については,平成26年の同法改正により一人法人を許容している。)
【参照条文】
○弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
(解散)
第三十条の二十三 弁護士法人は,次に掲げる理由によって解散する。
一~六(略)
七 社員の欠亡
(弁護士法人の継続)
第三十条の二十四 清算人は,社員の死亡により前条第一項第七号に該当するに至った場合に限り, 当該社員の相続人(第三十条の三十第二項において準用する会社法第六百七十五条において準用する同法第六百八条第五項の規定により社員の権利を行使する者が定められている場合にはその者)の同意を得て,新たに社員を加入させて弁護士法人を継続することができる。
      ※他の参照条文については別紙の4のとおり。
エ 権限委任規定の新設(新第71条の2関係)
   前記イ(ア)に記載のとおり,懲戒権者を法務大臣と変更することに伴い,一部の事実調査に係る権限については全国の法務局長に委ねることも可能とする規定を新設する必要がある。
   そこで,法務大臣の権限の委任を許容する規定を設けることとした。なお,権限の委任規定は細目的事項に関する省令委任規定の前に置かれる例が多いことから(国際観光旅客税法(平成30年法律第16号)第22条,所有者不明士地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号)第45条),第72条(法務省令への委任)の前に第71条の2として置くこととした。
【参照条文】
○国際観光旅客税法(平成三十年法律第十六号)
(税関長の権限の委任)
第二十二条 税関長は,政令で定めるところにより,その権限の一部を税関の支署その他の税関官署の長に委任することができる。
(財務省令への委任)
第二十三条 この法律に定めるもののほか, この法律の規定による書類の記載事項又は提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は,財務省令で定める。
○所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成三十年法律第四十九号)
(権限の委任)
第四十五条 この法律に規定する国士交通大臣の権限は,国士交通省令で定めるところにより,その一部を地方整備局長又は北海道開発局長に委任することができる。
(省令への委任)
第四十七条 この法律に定めるもののほか, この法律の実施のため必要な事項は,国土交通省令又は法務省令で定める。
(2) 土地家屋調査士法の一部改正
   司法書士法と土地家屋調査士法は,主として登記の代理を業とする専門資格者に関する法律であり,ほぼ同様の構造となっている。そのため,司法書士法及び土地家屋調査士法の構造の同一性を維持するため,業務に関する規定など専門資格固有の内容を除き,両法律を併せて同内容の改正をしてきた経緯があり,例えば,司法書士法及び士地家屋調査士法の一部を改正する法律(昭和60年法律第86号)においては,公共嘱託登記司法書士協会及び公共嘱託登記土地家屋調査士協会の創設に係る改正を,司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(平成14年法律第33号)においては,司法書士法人及び土地家屋調査士法人制度の創設,国民一般からの懲戒申出制度の創設,報酬規定の削除等の改正をしている。今般の改正においても,引き続き司法書士法及び土地家屋調査士法の構造の同一性を維持するため,司法書士法の改正と併せて,土地家屋調査士法についても,同様の改正をすることとする。
ア 使命を明らかにする規定の新設(新第1条,第41条第1項関係)
   土地家屋調査士法も,司法書士法と同様に,第1条に目的規定を置き,「この法律は,土地家屋調査士の制度を定め,その業務の適正を図ることにより,不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し,もって不動産に係る国民の権利の明確化に寄与することを目的とする。」としている。
   この目的規定は,昭和54年の土地家屋調査士法の一部改正により,「この法律は,登記簿における不動産の表示の正確さを確保するため,土地家屋調査士の制度を定め,その業務の適正を図ることを目的とする。」という規定を改めたものである。
   もっとも,平成17年の土地家屋調査士法の一部改正により,筆界特定の手続についての代理業務等や,法務大臣が認定した者に限り,土地の筆界が現地において明らかでないことを原因とする民事に関する紛争に係る民間紛争解決手続において,弁護士との共同受任により代理等をする業務をすることができることとなるなどした。
   上記2記載のとおり,士地家屋調査士制度を取り巻く状況の大きな変化に伴い,士地家屋調査士が実際に取り扱っている業務の内容は拡大している。そこで,不動産の表示に関する登記に加えて土地の筆界を明らかにする業務の専門家として, より広い分野において,国民の権利の明確化に寄与し,国民生活の安定と向上に資する活動を行う使命を負っていることを土地家屋調査士法の冒頭で宣明することが適切であると考えられる。
   また, このことにより,土地家屋調査士にその職責(土地家屋調査士法第2条)をよく自覚させることができ,その資質の更なる向上を図ることにもつながると考えられる。
   そこで,不動産の表示に関する登記に加えて土地の筆界を明らかにする業務の専門家として,国民の権利の明確化に寄与し,国民生活の安定と向上に資することを使命とする旨の規定を設ける必要がある。
【参照条文】
○土地家屋調査士法施行規則(昭和五十四年法務省令第五十三号)
(調査士法人の業務の範囲)
第二十九条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は,次の各号に掲げるものとする。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により,鑑定人その他これらに類する地位に就き,土地の筆界に関する鑑定を行う業務又はこれらの業務を行う者を補助する業務
二 土地の筆界の資料及び境界標を管理する業務
三~五(略)
イ 懲戒に関する規定の整備
(ア) 懲戒権者を法務大臣とすること(新第42条,第43条第1項,第44条第1項~第3項,第45条第1項・第2項,第46条,第55条,第65条,第66条の2条関係)
土地家屋調査士法は,土地家屋調査士及び土地家屋調査士法人(以下「土地家屋調査士等」という。)に対する懲戒を,司法書士法と同様に,管轄法務局長の権限としている(同法第42条,第43条) 。土地家屋調査士の制度は,昭和25年の士地家屋調査士法の制定により設けられたものであるが,その当初から,懲戒を,管轄法務局の権限としていた。
   その趣旨は,司法書士法と同様に,土地家屋調査士の業務の中心が登記等の法務局における事務であることから,土地家屋調査士等の懲戒事由の存否を最もよく知り得る管轄法務局長に懲戒権限を持たせたものとされている。
   もっとも,土地家屋調査士についても,近年はその活動領域が拡大し,管轄法務局長において懲戒事由の存否を把握することが容易であるとはいえない状況が生まれている。
   そこで,土地家屋調査士についても, 司法書士法と同様に,懲戒権者を管轄法務局長からその上級行政庁と位置付けられる法務大臣に改めることとした(注) 。
   また,一部の事実調査事務等については広く全国の法務局長に委ねることも可能とする規定を新設することとすること(法務大臣の権限の委任規定を設け,それにより,法務大臣の権限の一部を委譲する。) も,司法書士法と同様である。
   なお,懲戒権者を法務大臣に変更することに伴い,従たる事務所の所在地を管轄する法務局長の懲戒権に関する規定(士地家屋調査士法第43条第2項)が不要となることから,併せて, この規定を削除することとした。また,改正後の第43条第2項を準用しないことについては,司法書士法と同じ整理によるものである。
(注)公共嘱託登記土地家屋調査士協会に対する懲戒権者についても,司法書士法と同様, 引き続き管轄法務局長とする。また,土地家屋調査士法人に対する懲戒権者と異なることを明らかにするために, 「法務大臣」を「第六十四条の二第一項に規定する法務局又は地方法務局の長」と読み替える旨の規定を置くこととした。
(イ) 懲戒に係る除斥期間の新設(新第45条の2関係)
   土地家屋調査士法にも,司法書士法と同様に,弁護士法のような,懲戒に係る除斥期間の規定(同法第63条)はない。そこで,土地家屋調査士等に対する懲戒についても,司法書士法と同様に,除斥期間を新設することとした。
(ウ) 戒告における聴聞手続の必要的実施(新第44条第3項関係)
   土地家屋調査士法は,司法書士法と同様に,懲戒の内容として,士地家屋調査士については戒告, 2年以内の業務の停止及び業務の禁止を,士地家屋調査士法人については戒告, 2年以内の業務の全部又は一部の停止及び解散を定めているが(同法第42条,第43条),戒告については聴聞の機会の付与は必要的なものではない(同法第44条第3項・第4項,行政手続法第13条第1項第1号ロ) 。
   もっとも,戒告であっても,その処分内容が国民に開示され,司法書士等の経歴として記録されることなどからすれば,土地家屋調査士等に対して与える事実上の不利益が大きく,その手続保障を図る必要があるとの指摘がされている。
   そこで,土地家屋調査士等に対する戒告についても,司法書士等と同様に,聴聞手続を必要的なものとする改正を行うこととした。
(エ) 清算結了後の土地家屋調査士法人に対する懲戒規定の新設(新第43条第2項)
   土地家屋調査士法は, 司法書士法と同様に,戒告以外の懲戒処分について,土地家屋調査士登録の取消しを制限する規定を設けているが,清算結了の登記をした土地家屋調査士法人に対して懲戒処分をすることができる旨の規定を設けていない。
   そこで,司法書士法と同様に,脱法的な行為の防止の観点から,懲戒手続に付された土地家屋調査士法人については,清算結了の登記をした場合であっても,なお存続しているものとみなして懲戒することができる旨の規定を新設することとした。
ウ ー人土地家屋調査士法人の許容(新第26条,第31条第1項,第39条第1項第7号・第2項,第39条の2,第41条第3項関係)
   土地家屋調査士法は,司法書士法と同様に,平成14年の土地家屋調査士法改正により,士地家屋調査士法人の設立が認められたが,司法書士法人と同様に,一人土地家屋調査士法人の設立等を許容する旨の規定は置かれなかった(土地家屋調査士法第26条,第31条第1項,第39条第2項) 。
   しかし,土地家屋調査士法人においても, 司法書士法人と同様に,一人法人を許容しないために法人制度の利便性が損なわれているとの指摘がされている。また,法人化により経営・収支状況等の透明性が確保されれば,国や公共団体が行う競争入札に参加しやすくなるとの利点もあり, このような点をとらえて一人土地家屋調査士法人を設立したいとのニーズがあるとの指摘もされている。
   そこで,社員が一人であっても土地家屋調査士法人を設立・維持することができるように規定を改めることとした。
   具体的には,土地家屋調査士法人の設立や定款の定めは土地家屋調査士が「共同して」行う必要があると規定する部分を削除するほか,社員が一人になったことを解散事由とする規定を改めて「社員の欠亡」を解散事由とすることとした(弁護士法第30条の23第7号参照) 。
   加えて,社員の死亡により社員の欠亡に至った場合には, 当該社員の相続人の同意を得て,新たに社員を加入させて士地家屋調査士法人を継続することができる旨の規定も併せて設けることとした(弁護士法第30条の24参照) 。
エ 権限委任規定の新設(新66条の2関係)
   司法書士法と同様に,前記イ(ア)に記載のとおり,懲戒権者を法務大臣と変更することに伴い,一部の事実調査に係る権限については全国の法務局長に委ねることも可能とする規定を新設する必要があることから,法務大臣の権限の委任を許容する規定を設けることとした。なお,権限の委任規定は細目的事項に関する省令委任規定の前に置かれる例が多いことから,第67条(法務省令への委任)の前に第66条の2として置くこととした。

4 附則の概要
(1) 施行期日(附則第1条関係)
   附則第1条は,施行期日について,公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とするものである。
(2) 司法書士法人の継続に関する経過措置(附則第2条関係)
   附則第2条は,施行日前に社員が一人となったために解散したが,施行日までに清算手続が結了していない司法書士法人について,一人法人として継続することを許容することを定めるものである(注) 。
(注)それまで社員が複数いることが存続要件となっていた有限会社について,社員が一人の有限会社を許容する改正をした商法等の一部を改正する法律(平成2年法律第64号)においても, 同様の経過措置が設けられている。
【参照条文】
○商法等の一部を改正する法律(平成二年法律第六十四号)
附則
(有限会社の継続に関する経過措置)
第二十四条 この法律の施行前に改正前の有限会社法第六十九条第一項第五号の規定により解散した有限会社は, この法律の施行後は,新たに社員を加入させることをしないで,会社を継続することができる。ただし,資本の総額が三百万円に満たない有限会社については,この法律の施行後五年を経過した場合は,この限りでない。
○有限会社法(商法等の一部を改正する法律(平成二年法律第六十四号)による改正前のもの)
第六十九条有限会社ハ左ノ事由二因リテ解散ス
ー~四(略)
五 社員ガー人ト為リタルコト
六・七(略)
(3) 清算結了後の司法書士法人の懲戒に関する経過措置(附則第3条関係)
   附則第3条は,清算結了後の司法書士法人の懲戒について規定する新司法書士法第48条第2項の規定の適用に関して,施行日以後に同条第1項の規定による処分の手続に付された司法書士法人について適用することを定めるものである(注) 。
(注)清算結了後の職業専門資格法人に対する懲戒に関する規定を設けた他の職業専門資格者の法律の改正についてみると,平成15年の公認会計士法の一部を改正する法律の附則第27条第3項においても, 同様の経過措置が設けられている。
【参照条文】
○公認会計士法の一部を改正する法律(平成一五年六月六日法律第六七号)
附則
(監査法人に対する処分に関する経過措置)
第二十七条(略)
2 (略)
3 新法第三十四条の二十一第四項の規定は,施行日以後に同条第二項の規定による処分の手続に付された監査法人について適用する。
(注) 「新法第三十四条の二十一第四項の規定」は,現在,公認会計士法第34条の21第5項である。
(4) 司法書士又は司法書士法人の懲戒の事由に関する経過措置(附則第4条関係)
   附則第4条は,司法書士又は司法書士法人に対する新司法書士法第47条又は第48条第1項の規定による処分に関しては,施行日前に生じた事由については, なお従前の例によることを定めるものである。
(5) 司法書士又は司法書士法人の懲戒の手続の除斥期間に関する経過措置(附則第5条関係)
   附則第5条は,施行日前に生じた事実に基づく懲戒処分の手続について,除斥期間に関する規定(新第50条の2)の適用から,施行日前に処分の手続を開始したものを除くことを規定している。
   なお,「処分の手続を開始した」といえる時点としては,税理士法(昭和26年法律第237号)第48条の20第3項の「処分の手続に付された」という文言に関する解釈通達において「税理士法人に対し,違法行為等についての処分に係る聴聞又は弁明の機会の付与について行政手続法第15条第1項又は第30条に規定する通知がなされた場合をいう」とされていることと同様,現行の司法書士法上,聴聞の機会を付与することを要する処分については,行政手続法第15条第1項の通知又は同条第3項の掲示がされた時点,聴聞の機会の付与を要しない戒告については,戒告処分の通知がされた時点と考えられる。
【参照条文】
○税理士法(昭和26年法律第237号)
第四十八条の二十(略)
2 (略)
3 第一項の規定による処分の手続に付された税理士法人は,清算が結了した後においても, この条の規定の適用については, 当該手続が結了するまで,なお存続するものとみなす。
4 (略)
(6) 司法書士又は司法書士法人の懲戒の手続等に関する経過措置(附則第6条関係)
   附則第6条は,第1項において,司法書士又は司法書士法人の懲戒手続に関し,施行日前に旧司法書士法の規定により法務局又は地方法務局の長がした処分,手続その他の行為は,施行日以後は新司法書士法の相当規定により法務大臣がした処分,手続その他の行為とみなすことを規定し,第2項において,司法書士又は司法書士法人の懲戒手続に関し,この法律の施行の際現に旧司法書士法の規定により法務局又は地方法務局の長に対してされている通知その他の行為は,施行日以後は新司法書士法の相当規定により法務大臣に対してされた通知その他の行為とみなすことを規定し,第3項において,司法書士又は司法書士法人の懲戒手続に関し,施行日前に旧司法書士法又はこれに基づく命令の規定により法務局又は地方法務局の長に対して報告その他の手続をしなければならない事項で,施行日前にその手続がされていないものについては,施行日以後は,これを新司法書士法又はこれに基づく命令の相当規定により法務大臣に対してその手続をしなければならないとされた事項についてその手続がされていないものとみなして,当該相当規定を適用することを規定している。
(7) 土地家屋調査士に関する経過措置(附則第7条~第1 1条関係)
   土地家屋調査士に関する経過措置は,司法書士に関する経過措置(第2条から第6条まで)と同趣旨である。
(8) 政令への委任(附則第12条関係)
   附則第12条は,附則第2条から第11条までに規定するもののほか,この法律の施行に関し必要な経過措置は,政令で定めることとするものである。

5 今後のスケジュール
   本年通常国会への提出を予定

【別紙】
1 懲戒を地方支分機関の長ではなく,所管大臣の権限としている他の職業専門資格士法公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)
(虚偽又は不当の証明についての懲戒)
第三十条 公認会計士が,故意に,虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には,内閣総理大臣は,前条第二号又は第三号に掲げる懲戒の処分をすることができる。
2 公認会計士が,相当の注意を怠り,重大な虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には,内閣総理大臣は,前条第一号又は第二号に掲げる懲戒の処分をすることができる。
3 監査法人が虚偽,錯誤又は脱漏のある財務書類を虚偽,錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合において,当該証明に係る業務を執行した社員である公認会計士に故意又は相当の注意を怠った事実があるときは,当該公認会計士について前二項の規定を準用する。
(一般の懲戒)
第三十一条 公認会計士がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反した場合又は第三十四条の二の規定による指示に従わない場合には,内閣総理大臣は,第二十九条各号に掲げる懲戒の処分をすることができる。
2 公認会計士が,著しく不当と認められる業務の運営を行った場合には,内閣総理大臣は,第二十九条第一号又は第二号に掲げる懲戒の処分をすることができる。
(権限の委任)
第四十九条の四 内閣総理大臣は,この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任する。
2~5 (略)
○税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)
(脱税相談等をした場合の懲戒)
第四十五条 財務大臣は,税理士が,故意に,真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき,又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは,二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。
2 財務大臣は,税理士が,相当の注意を怠り,前項に規定する行為をしたときは,戒告又は二年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。
(一般の懲戒)
第四十六条 財務大臣は,前条の規定に該当する場合を除くほか,税理士が,第三十三条の二第一項若しくは第二項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき,又はこの法律若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは,第四十四条に規定する懲戒処分をすることができる。
○社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)
(不正行為の指示等を行った場合の懲戒)
第二十五条の二 厚生労働大臣は,社会保険労務士が,故意に,真正の事実に反して申請書等の作成,事務代理若しくは紛争解決手続代理業務を行ったとき,又は第十五条の規定に違反する行為をしたときは,一年以内の開業社会保険労務士若しくは開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士の業務の停止又は失格処分の処分をすることができる。
2 厚生労働大臣は,社会保険労務士が,相当の注意を怠り,前項に規定する行為をしたときは,戒告又は一年以内の開業社会保険労務士若しくは開業社会保険労務士の使用人である社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人の社員若しくは使用人である社会保険労務士の業務の停止の処分をすることができる。
(一般の懲戒)
第二十五条の三 厚生労働大臣は,前条の規定に該当する場合を除くほか,社会保険労務士が,第十七条第一項若しくは第二項の規定により添付する書面若しくは同条第一項若しくは第二項の規定による付記に虚偽の記載をしたとき,この法律及びこれに基づく命令若しくは労働社会保険諸法令の規定に違反したとき,又は社会保険労務士たるにふさわしくない重大な非行があったときは,第二十五条に規定する懲戒処分をすることができる。
(権限の委任)
第三十条 この法律に規定する厚生労働大臣の権限は,厚生労働省令で定めるところにより,地方厚生局長及び都道府県労働局長に委任することができる。
2 前項の規定により地方厚生局長に委任された権限は,厚生労働省令で定めるところにより,地方厚生支局長に委任することができる。
○弁理士法(平成十二年法律第四十九号)
(懲戒の種類)
第三十二条 弁理士がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき,又は弁理士たるにふさわしくない重大な非行があったときは,経済産業大臣は,次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の全部又は一部の停止
三 業務の禁止

2 戒告について聴聞手続を必要的としている他の職業専門資格士法
○公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)
(懲戒の種類)
第二十九条 公認会計士に対する懲戒処分は,次の三種とする。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 登録の抹消
(処分の手続)
第三十二条(略)
2 . 3 (略)
4 内閣総理大臣は,第三十条又は第三十一条の規定により第二十九条第一号又は第二号に掲げる懲戒の処分をしようとするときは,行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
5 第三十条又は第三十一条の規定による懲戒の処分は,聴聞を行った後,相当な証拠により第三十条又は第三十一条に規定する場合に該当する事実があると認めたときにおいて,公認会計士・監査審査会の意見を聴いて行う。ただし,懲戒の処分が第四十一条の二の規定による勧告に基づくものである場合は,公認会計士・監査審査会の意見を聴くことを要しないものとする。
○海事代理士法(昭和二十六年法律第三十二号)
(懲戒)
第二十五条 海事代理士が,この法律又はこの法律に基く処分に違反したときは,地方運輸局長は,左に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 一年以内の業務の停止
三 登録のまつ消
2 地方運輸局長は,前項第一号又は第二号に掲げる処分をしようとするときは,行政手続法第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
3 地方運輸局長は,第一項各号に掲げる処分に係る聴聞を行うに当たっては,その期日の七日前までに,行政手続法第十五条第一項の規定による通知をしなければならない。
○社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)
(聴聞の特例)
第二十五条の四 厚生労働大臣は,第二十五条の二又は第二十五条の三の規定による戒告又は業務の停止の懲戒処分をしようとするときは,行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
2 厚生労働大臣は,第二十五条の二又は第二十五条の三の規定による懲戒処分に係る聴聞を行うに当たっては,その期日の一週間前までに,行政手続法第十五条第一項の規定による通知をし,かつ,聴聞の期日及び場所を公示しなければならない。
3 前項の聴聞の期日における審理は,公開により行わなければならない。
○弁理士法(平成十二年法律第四十九号)
(懲戒の種類)
第三十二条 弁理士がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき,又は弁理士たるにふさわしくない重大な非行があったときは,経済産業大臣は,次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の全部又は一部の停止
三 業務の禁止
(懲戒の手続)
第三十三条(略)
2. 3 (略)
4 経済産業大臣は,前条の規定により戒告又は二年以内の業務の停止の処分をしようとするときは,行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十三条第一項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
5 前条の規定による懲戒の処分は,聴聞を行った後,相当な証拠により同条に該当する事実があると認めた場合において,審議会の意見を聴いて行う。
○弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
(行政手続法の適用除外)
第四十三条の十五 弁護士会がこの法律に基づいて行う処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章、第三章及び第四章の二の規定は、適用しない。
(行政手続法の適用除外)
第四十九条の二 日本弁護士連合会がこの法律に基づいて行う処分については、行政手続法第二章、第三章及び第四章の二の規定は、適用しない。
(懲戒委員会の審査手続)
第六十七条(略)
2 審査を受ける弁護士又は審査を受ける弁護士法人の社員は、審査期日に出頭し、かつ、陳述することができる。この場合において、その弁護士又は弁護士法人の社員は、委員長の指揮に従わなければならない。
3  (略)

3 清算結了後の職業専門資格法人に対する懲戒に関する規定を設けている他の職業専門資格士法
○公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)
(虚偽又は不当の証明等についての処分等)
第三十四条の二十一(略)
2~4 (略)
5 第二項及び第三項の規定による処分の手続に付された監査法人は,清算が結了した後においても, この条の規定の適用については,当該手続が結了するまで,なお存続するものとみなす。
6 . 7 (略)
○行政書士法(昭和二十六年法律第四号)
(行政書士法人に対する懲戒)
第十四条の二(略)
2 . 3 (略)
4 第一項又は第二項の規定による処分の手続に付された行政書士法人は,清算が結了した後においても, この条の規定の適用については,当該手続が結了するまで,なお存続するものとみなす。
5 (略)
○税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)
(違法行為等についての処分)
第四十八条の二十(略)
2 (略)
3 第一項の規定による処分の手続に付された税理士法人は,清算が結了した後においても, この条の規定の適用については, 当該手続が結了するまで,なお存続するものとみなす。
4 (略)
○社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)
(違法行為等についての処分)
第二十五条の二十四(略)
2 (略)
3 第一項の規定による処分の手続に付された社会保険労務士法人は,清算が結了した後においても, この条の規定の適用については, 当該手続が結了するまで, なお存続するものとみなす。
4 (略)

4 一人法人を許容している他の職業専門資格士法
○社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)
(設立)
第二十五条の六 社会保険労務士は,この章の定めるところにより,社会保険労務士法人(第二条第一項第一号から第一号の三まで,第二号及び第三号に掲げる業務を行うことを目的として,社会保険労務士が設立した法人をいう。以下同じ。)を設立することができる。
(設立の手続)
第二十五条の十一 社会保険労務士法人を設立するには,その社員になろうとする社会保険労務士が,定款を定めなければならない。
2 . 3 (略)
(解散)
第二十五条の二十二 社会保険労務士法人は,次に掲げる理由によって解散する。
一~六(略)
七 社員の欠亡
2 (略)
(社会保険労務士法人の継続)
第二十五条の二十二の二 清算人は,社員の死亡により前条第一項第七号に該当するに至った場合に限り,当該社員の相続人(第二十五条の二十五第二項において準用する会社法第六百七十五条において準用する同法第六百八条第五項の規定により社員の権利を行使する者が定められている場合にはその者)の同意を得て,新たに社員を加入させて社会保険労務士法人を継続することができる。


第2 関連記事その他
1 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号)は,衆参両院において全会一致で成立しました(衆議院HPの「議案審議経過情報」,及び参議院HPの「議案情報」参照)。
2 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(令和元年6月12日法律第29号)は,公布の日から1年6月以内の政令で定める日である令和2年8月1日から施行されました(法務省HPの「司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律について」参照)。
3 登記はその記載事項につき事実上の推定力を有しますから,登記事項は反証のない限り真実であると推定されます(最高裁昭和46年6月29日判決(判例秘書に掲載))。
4 法務省の情報公開文書として以下の文書を掲載しています。
(法律案審議録に含まれている資料)
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号)の概要
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号) 説明要旨
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号)の準用読替表
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号)の新旧条文対照表
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第46号) 用例集目次
・ 法務省民事局の追加御説明資料(1頁だけです。)
(国会答弁資料)
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(令和元年6月12日法律第29号)の国会答弁資料(平成31年4月11日の参議院法務委員会)1/22/2
・ 司法書士法及び土地家屋調査士法の一部を改正する法律(令和元年6月12日法律第29号)の国会答弁資料(令和元年5月31日の衆議院法務委員会)1/42/43/44/4
4 以下の記事も参照してください。
 司法書士資格の変遷
・ 司法書士の業務に関する司法書士法の定めの変遷
・ 弁護士以外の士業の懲戒制度
法律案審議録からの抜粋です。