法務省出向中の裁判官に不祥事があった場合の取扱い


目次
1 法務省出向中の裁判官は法務大臣による懲戒処分の対象となること等
2 法務省出向中の裁判官が懲戒免職又は停職処分となった場合の取扱い
3 法務省出向中の裁判官が刑事罰を受けた場合の取扱い
4 法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体の法的不利益
5 共済年金の職域加算額,及び年金払い退職給付等
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1 法務省出向中の裁判官は法務大臣による懲戒処分の対象となること等
(1) 裁判官が法務省等の行政機関に出向している場合,依願退官した上で外務省に出向している人を除き,検事の身分を有しています(「現職裁判官の分布表」参照)。
   そして,法務省出向中の裁判官について,国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行(例えば,女性のスカート内の盗撮)があったような場合,法務大臣による懲戒処分の対象となります(国家公務員法82条1項)
(2) 懲戒処分の場合,検察官適格審査会の議決(検察庁法23条)は不要です(検察庁法25条ただし書)。
(3)ア 検察官の場合,60%以下の給料しか受け取れなくなる起訴休職制度(国家公務員法79条2号,一般職給与法23条4号)がありません(検察庁法25条本文のほか,大阪地裁平成25年9月4日判決(判例秘書に掲載)参照)。
   そのため,懲戒処分としての免職,停職又は減給の処分(国家公務員法82条1項)を受けない限り,不祥事を起こした検察官は引き続き従前と同額の給料を支給されることとなります。
イ 公務員が刑事事件につき起訴された場合に休職処分を行うか否かは,任命権者の裁量に任されています(最高裁昭和63年6月16日判決)。
(4) 処分説明書の様式は,処分説明書の様式および記載事項等について(人事院HPの昭和35年4月1日付の人事院事務総長通知)に載っています。

2 法務省出向中の裁判官が懲戒免職又は停職処分となった場合の取扱い
(1) 懲戒免職となった場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア)   裁判官は,退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法12条1項1号)し,懲戒免職の日から3年間は弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条3号)。
   また,懲戒免職の日から3年を経過した後であっても,登録請求を受けた単位弁護士会としては,資格審査会の議決に基づき,日弁連に対する登録の請求の進達を拒絶することができますし(弁護士法12条1項2号),日弁連は,資格審査会の議決に基づき,登録を拒絶することができます(弁護士法15条1項)。
(イ) 在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為をしたことを疑うに足りる相当な理由があると思料される場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条2項2号)。
イ 年金
   平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2) 停職処分を受けた後に辞職した場合
ア 退職手当及び弁護士資格
(ア) 裁判官は,退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)。
   ただし,停職期間の月数の2分の1に相当する月数を退職手当の算定の基礎となる在職期間から除算されます(国家公務員退職手当法7条4項)。
(イ) 弁護士登録との関係では,法令上は特段の制限がありません。
   ただし,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 年金
   平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されますし,職域加算額は,停職期間に相当する部分の25%が削られるだけです(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されますし,終身退職年金は,停職期間に相当する部分の50%が削られるだけです(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。

3 法務省出向中の裁判官が刑事罰を受けた場合の取扱い
(1) 禁錮以上の刑に処せられた場合
ア(ア) 執行猶予が付いたとしても,①検事としての身分を自動的に失います(国家公務員法76条・38条2号。規定の合憲性につき最高裁平成19年12月13日判決参照)し,②退職手当を支払ってもらえません(国家公務員退職手当法13条及び14条。規定の合憲性につき最高裁平成12年12月19日判決参照)し,③裁判官の任命資格を失います(裁判所法46条1号)。
   また,執行猶予期間が満了して刑の言渡しが効力を失う(刑法27条)までの間,弁護士となる資格を有しません(弁護士法7条1号)。
(イ) 執行猶予が付けられずに実刑判決を受けた場合,刑の執行が終わり,罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した時点で,懲役又は禁錮の刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項前段)から,その時点で弁護士となる資格を再び取得することとなります。
(ウ) 在職期間中の刑事事件に関して起訴された場合,退職手当の支払を差し止められることがあります(国家公務員退職手当法13条1項2号)。
イ 平成27年9月30日までに発生した退職共済年金については,基本額は全額支給されるものの,職域加算額は半分しか支給されません(平成24年改正前の国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令11条の10第1項参照)。
   また,平成27年10月1日以降に発生した公務員厚生年金は全額支給されます。これに対して,同日以降に発生した年金払い退職給付については,有期退職年金は全額支給されるものの,終身退職年金は支給されません(国家公務員共済組合法97条1項・同法施行令21条の2第1項)。
(2)   罰金刑に処せられた場合
ア   ①検事としての身分を自動的に失うわけではありません(ただし,盗撮の飯島暁裁判官のように辞職するのが通常と思われます。)し,②懲戒免職にならない限り退職手当を支払ってもらえます(国家公務員退職手当法12条1項参照)し,③裁判官の任命資格を失いません(裁判所法46条参照)。
   また,弁護士となる資格を有します(弁護士法7条参照)ところ,医師法4条3号のような,罰金刑に処せられた者に関する条文が弁護士法にあるわけではないものの,単位弁護士会の登録審査(「弁護士登録制度」参照)が非常に慎重なものになると思われます。
イ 退職共済年金,公務員厚生年金及び年金払い退職給付については,特段の不利益はありません。
(3) 罰金刑の位置づけ
ア 罰金刑は前科となりますが,罰金以上の刑に処せられないで5年を経過した場合,罰金刑の言渡しは効力を失います(刑法34条の2第1項後段)から,市区町村の犯罪人名簿から記載が削除されます(前科記録の抹消)。
イ   検察庁の前科調書(犯歴事務規程13条2項)から前科の記載が削除されるのは,有罪の裁判を受けた者が死亡したときだけです(犯歴事務規程18条)。

4 法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体の法的不利益
   法務省出向中の裁判官が逮捕されたことそれ自体は,裁判官又は弁護士の資格に何らかの法的影響を及ぼすものではありません。

5 共済年金の職域加算額,及び年金払い退職給付等
(1)ア 国家公務員の場合,平成27年9月30日までに勤務した分については,共済年金に職域加算がありました。
平成27年10月1日以降に勤務した分については,年金払い退職給付が発生しており,有期退職年金(10年又は20年支給ですが,一時金も選択できます。)及び終身退職年金の半分ずつとなります。
イ 退職共済年金の基本額は老齢厚生年金に対応し(年金の2階部分),退職共済年金の職域加算額は企業年金等に対応していました(年金の3階部分)。
   また,老齢厚生年金の受給権は懲戒免職等による影響を受けませんから,そのこととの均衡を図るため,退職共済年金の基本額の受給権は懲戒免職等による影響を受けないのだと思います。
(2) 平成24年の国家公務員共済組合法等の改正により,平成27年10月1日,厚生年金及び共済年金が統合されたり,共済年金の職域加算が廃止されたりしました(被用者年金制度の一元化)。
   そして,共済年金の基本額は公務員厚生年金に,共済年金の職域加算額は年金払い退職給付に引き継がれました。
(3) 共済年金の職域加算額は,共済年金の基本額の10%から20%ぐらいでした。
(4) 国家公務員の年金払い退職給付の創設については,財務省広報誌「ファイナンス」2013年1月号が参考になります。
   これによれば,標準報酬月額36万円で40年加入の場合,年金払い退職給付のモデル年金月額は約1.8万円とされています。

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