法務省関係

検察庁の種類,位置,名称

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)53頁及び54頁には,「第2節 検察庁の種類,位置,名称」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察庁は,最高検察庁, 高等検察庁,地方検察庁,区検察庁の四種とされている (庁法第1条第2項)。
   最高検察庁は最高裁判所に対応し,高等検察庁はそれぞれの高等裁判所に対応し,地方検察庁はそれぞれの地方裁判所に対応し,区検察庁はそれぞれの簡易裁判所に対応して置かれる (庁法第2条第1項)。地方検察庁はまた, それぞれの家庭裁判所に対応するものとされる (庁法第2条第2項)。
   最高検察庁,高等検察庁,地方検察庁及び区検察庁は, それぞれ最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所及び簡易裁判所の数だけ置かれ,一つの区検察庁は,一つの対応する簡易裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり, その簡易裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。一つの地方検察庁は,一つの対応する地方裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,その地方裁判所並びにこれと所在地及び管轄区域を同じくして設置されている家庭裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。一つの高等検察庁は,一つの対応する高等裁判所の管轄区域に応じて管轄区域が定まり,その高等裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まる。また最高検察庁は,最高裁判所が憲法上一つしか存在しないので,一つであり,全国を管轄区域とし,最高裁判所の裁判管轄に応じて所属検察官の訴訟行為上の職務範囲が定まるのである。
   
2 最高検察庁以外の検察庁は,対応する裁判所がいずれも複数存在することに伴って複数存在することとなるから, それぞれ名称をつけて識別する必要がある。 また,最高検察庁を含めて,全ての検察庁の位置を定め,広く国民に知らせておくことは,検察庁における事務が国民の権利・義務と密接な関係があることから必要である。
   庁法第2条第3項は, これらの事項を定めることを政令に委任している。 この委任に基づいて制定されているのが,昭和22年政令第35号「最高検察庁の位置並びに最高検察庁以外の検察庁の名称及び位置を定める政令」である。この政令では,最高検察庁の位置を東京都と定めるほか,各高等検察庁,地方検察庁, 区検察庁の名称,位置及び対応裁判所を別
表として規定している。
   これによれば,高等検察庁は,東京高等検察庁をはじめとして,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌,高松の8庁であり,地方検察庁は,東京地方検察庁をはじめとして,各都道府県庁所在地に一庁ずつ及び函館,旭川,釧路の3庁合計50庁であり,区検察庁の数は,東京区検察庁をはじめとして合計438庁となっている。

検察庁の意義

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)49頁ないし53頁には,「第1節 検察庁の意義」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察庁は,検察官の行う事務を統括するところである (庁法第1条第1項)。
   一般の行政機関の場合には,前章第3節において述べたとおり,一つの官庁を中心に, これを補助する多数の職員が集まって,一つの役所ないし官署を形成しているのに対し,検察庁では,庁法第4条及び第6条の検察事務に関する限り,一人一人の検察官が独任制官庁であり,しかも,検察庁には複数の検察官がいる場合が多いのであるから,多数の官庁が一つの役所の内に存在する形となっている。ここに「官庁」 とは,例えば,内閣,各省大臣,各省の外局たる庁の長官のように,国家のため意思決定をし,かつ, これを外部に表示する国家機関のことをいう。
   そこで検察庁の場合は,複数の官庁(検察官)が,それぞれ複数の補助者(検察事務官等)を指揮して国家意思を決定表示しているところの役所ないし官署であるといえる。 しかし,検察官が独任制官庁であるからといって,それぞれの検察官が全体としての統一を欠いたまま事務を行うことは,検察権が行政権の一作用であるという本質からして,許されない。そのため,検察官の権限行使について,相互の間の矛盾衝突を防ぎ,全体が有機的な一つの組織体として運営されることが必要である。
   すなわち,検察事務を総合的にすべ(統)つつ,しめくくる(括) ことが行われなければならないのであって,その統括をするところが必要である。
   庁法は,その統括するところを検察庁と定めているが, 「検察庁」という官署が統括するということはありえないから,統括する主体は,庁法第7条ないし第10条に定める各検察庁の長である検察官(章程第1条)である。

2 統括事務(ひいては,その手段としての指揮監督の事務も)は,検察行政事務である。 この統括事務及び検察事務の運営上当然これに随伴し検察事務遂行のため必要な間接的補助的な行政事務である総務・文書・会計等の事務などの検察行政事務は,例えば,庁法第7条第1項が「検事総長は,最高検察庁の長として,庁務を準理し,且つ,全ての検察庁の職員を指揮監督する。」 と規定するように,各検察庁の長の事務である。各検察庁の長以外の検察庁聯員(検察官・検察事務官等)の検察行政事務についての権限は,一般行政機関と同様に,長である検察官の権限を分掌したものにすぎない。
   庁法第1条第1項の「検察官の行う事務」は,検察事務と検察行政事務との両者を含む。前者は庁法第4条及び第6条に定める事務であり,後者は庁法第7条から第10条までに定める事務とその他の行政事務である。庁法は,検察事務のみを表現するのに「第4条及び第6条に規定する検察官の事務」 (庁法第14条) という文言を用いており,検察事務及び検察行政事務の双方を含む場合は「検察官の事務」 (庁法第12条及び附則第36条)の文言を用いている。 「検察官の事務」 と 「検察官の行う事務」は同義に解される(注1,2)。

(注1) 検察事務の種類
   検察事務は,検察官が自ら行う本来の事務とそれに付随する事務(検務事務) とに分けられる。それを種類別にみてみると,
(1)捜査,公判の本来の検察事務は,個々の検察官が独立して, 自ら決定,管理及び実施までしていて, この部門については,個々の検察官を中心とし,検事正,次席検事,部長のルートが,その上司として指揮監督機関となっており,部下の検察事務官は検察官の個々的な補佐官ないし執行官として(庁法第27条第3項後段),事実上の事務の手助けにあたっている。
(2)検察事務のうち,本来の検察事務に比較し付随的で類型化され集合処理し得る事務があり,事件,証拠品,令状,執行,徴収,犯歴,記録,統計等に種類別にまとめられている。これは総務部若しくは検務部門の業務として,ある程度の組織体系をもって動いており,検務事務と呼ばれる。
   検務事務は,その組織の長である検察官(例えば,総務部長,検務主任)の権限を根源とし,検察事務官をもって組成する下部組織の検務監理官,統括検務宮,検務専門官,検祭事務官によって補助されるものであるから,検務事務の実施にあたる第一線職員に対する指揮監督は,一般の行政事務におけると同質である。ただ,検務事務の組織の頂点にある検察官に対する上司の指揮監督は,検察事務におけるそれによることとなる。
(注2)事務章程において,検察庁の事務の細目として,取り上げられている事務
(1)事務監査
   検事総長,検事長及び検事正は, 自庁及び管内下級検察庁の事務監査を行い, 又はその指定する職員にこれを行わせなければならない(章程第24条第1項)。
   事務監査の対象となる事務は,検察事務であると検察行政事務であるとを問わず, また,検察官が自ら行う事務であると検察事務官によって行われる事務であるとを問わず,いやしくも検察庁において行われる事務の全般にわたる。 もっとも,個々の事務監査にあたって,その対象を限定して監査を行うことが差支えないことはいうまでもない。また,監査の目的は,独り不正ないし不当な事務処理の指摘及びその是正にとどまらず,事務処理の適正,能率化のための方途の検討,指導にもわたる。
   事務監査は, どの検察庁についても,少なくとも1年に1回の自庁監査又は上級庁による監査のいずれか一つが行われるように配慮しなくてはならないものとされている(同条第2項)。
(2)請訓,報告等
   法務大臣に対して請訓若しくは報告をするとき,又は重要な事項に関して上申するときには,上司においてもそれらに関して了知して時宜に応じて適切な指揮監督あるいは意見具申を行う必要があるから,別段の例規がある場合を除いて,全て上司を経由すべきものとされている(章程第26条第1項)。 もっとも,緊急の事項については,例外的に,直接法務大臣に請訓,報告又は上申を行い,速やかに上司にその旨を報告すれば足りるものとされている(同条第2項)。
(3)中央官庁等と往復文書
   検察庁と中央官庁,在外公館又は外国官庁との問における往復文書は,別段の例規のあるものを除き,法務大臣を経由しなければならない(章程第27条)。
   法務大臣の所管下にある検察庁と中央官庁等との間の交渉について法務大臣が了知していないために生ずる不都合を防ごうというのが主たる趣旨であるが, さらに,在外公館については, その所管大臣である外務大臣を経由して交渉するのが適当と考えられるし,外国官庁との交渉については,国際慣行上外務大臣を経由して行うのが妥当であることも考慮されている。 この趣旨からするときは, 中央官庁,在外公館又は外国官庁から直接検察庁に対して照会があった鳩合には,おおむね,法務大臣を経由して照会されたい旨を申し添えて,一応返戻するのが妥当であろう。
(4)宿直
   地方検察庁においては,法務大臣が指定する庁及び支部を除き,検察官又は検察事務官が事件の捜査処理等のための宿直勤務をしなければならない(章程第28条第1項)。また,検察庁においては,法務大臣が指定する庁又は支部を除き,検察事務官が庁舎,設備等の保全及び文書の収受等のための宿直勤務をしなければならない(伺粂第2項)。前者が事件当直,後者が行政当直と呼ばれるものである。検察庁の長は,やむを得ない場合には,検察事務官以外の繊員に行政当直をさせることができる。ただし,区検察庁については,検事正がこの措置を採る(同条第3項)。宿直勤務に関する事項は,検察庁の長(ただし,区検察庁については検事正)が定めることとされている(同条第4項)。
   
3 以上要するに,庁法第1条第1項は, 「検察庁は,検察事務及び検察行政事務がその長によって統括されるところである。」 ということを定めたものである。
   その事務のうち検察事務については,検察官がその固有の権限に基づいて行うのであり, ただ,検察権の本質上,権限を行使するに当たって上司の指揮監督を受けるのである。 これに反し,検察行政事務については,その庁の長の権限に由来するのであって,その命の下に行われるのが当然であり,統括という表現が適当であるかどうか疑問の余地なしとしないが,検察庁において最も重要な,かつ, 中心的な事務は個々の検察官による検察事務であるから,検察事務と検察行政事務とを一括して,統括するという表現を用いたものと考えられる。
   なお,検察庁が国家行政組織法上いかなる種類の行政機関であるかについて,従来議論のあったところであるが,昭和58年法律第77号「国家行政組織法の一部を改正する法律」によって同法第8条の3 (「特別の機関」の設置)が追加されたので,検察庁は,法務省設置法第4条第7号,第14条等により, 「検察に関すること」を処理するために設置された「特別の機関」であるということができる。

検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)27頁ないし35頁には,「第3節 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 検察権は,前節で述べたように, 司法権の独立に準じて,他の力に左右されることなく,公正に行使されなければならない。また,検察権は,その内容,すなわち,捜査,公訴の提起,遂行等の個々の行為が,国家刑罰権の実現という目的を持ち,最初の行為から次の行為へと発展していく段階的な発展的過程を形成するものであるから,迅速・的確に行使されなければならない。
   したがって,検察権行使の権限は,検察事務を遂行するために必要な範囲の, それを委ねるにふさわしい資格のある者に与えられ,かつ,その者が独立して行使する必要がある(例えば,法廷での訴訟行為が,上司の了解がない限り有効に行使できないものとしたら,公訴の遂行は事実上不可能である。)。そのため,検察権は,個々の検察官に属し,検察事務については,個々の検察官が自ら国家意思を決定表示する権限を有するとされる。庁法第4条は, 「検察官は, ・・・事務を行う。」,庁法第6条は「検察官は,・・・捜査することができる。」と主語を「検察官」として規定し,検察権を行使する主体が検察官であることを示している。これは,個々の検察官がこれら各条に定める事務を取り扱う独立の官庁であるとし,検察官が独任制官庁であることを明らかにするものである(注1)。
   検察官は,後に見るように,検察官同一体の原則によって,その上司の指揮監督に服するのではあるが,飽くまで一人一人が独立の官庁として検察事務に関する権限を行使するのであるから,仮に上司の決裁を受けないで捜査を開始したり,上司が不起訴処分に付するように指揮したのに, これを起訴したりしても, その捜査や起訴が違法,無効となることはない(ただし,上司の指揮監督に反した場合,それが国家公務員法上の懲戒処分の理由(同法第82条)になり得ることは別論である。 )。また,起訴状等に決裁印,庁印がなくても,起訴等の効力は左右されない。
   しかし, その反面,上司の指揮により, 自己の信ずるところと異なる処理をしたとしても,上司の命令によったものであるといって責任を回避することは許されないのである。すなわち,前記のとおり,検察権は他の力に左右されることなく公正に行使されなくてはならないのであるから,その行使機関である検察官は,裁判官における憲法第76条第3項のような明文の規定はないけれども,その良心と,法令に従って事務を処理すべきであり(検察官の独立), 自己の良心を曲げて事務を処理したとするならば,職務に関する責任の意織に欠けているとの非難を甘受しなくてはならない。

2 一般の行政組織は,内閣を最上級官庁とし,その権限を受けて各省大臣という上級官庁があり,その権限を受けて外周, 内部部局,施設等機関,地方支分部局,現業行政機関等の下級級官庁が存在する(国家行政組織法第2条第1項,第3条第2・3項,第5条第1項,第7条,第8条の2,第9条,第20条等参照)。すなわち,一般行政機関においては,内閣,各省大臣を頂点とし, その一人の長が権限の全てを持ち,その権限を例えば,局長,課長,係長というように,次々と分掌していく形をとっているので, あたかもその組織は上下に階層をなす統一的なピラミッド型を構成している。 したがって,一般の行政組織は,本来,権限の主体が一個であるところの単体であり,権限や主体が複数の検察官であるところの検察の組織とは本質的に異なる。

3 しかし,検察権も行政権の一部であるから,検察権の行使についても国の正しい行政意思が統一的に反映される必要があるとともに,検察権の行使が全国的に均斉になされることは, ことが国民の基本的権利義務に関する事柄であるだけに,極めて重要であるといわなければならない。このような要請を満たす上に,最も適切な方策の一つとして認められているのが,検察官同一体の原則である。
   この同一体の原則の法律的根拠としては, (1)庁法第7条第1項中の検事総長による「すべての検察庁の職員」に対する指揮監督権, (2)第8条中の検事長による「その庁並びにその庁の対応する裁判所の管轄区域内に在る地方検察庁及び区検察庁の職員に対する指揮監督権, (3)第9条第2項中の検事正による「その庁及びその庁の対応する裁判所の管轄区域内に在る区検察庁の職員」に対する指揮監督権, (4)第10条第2項中の上席検察官,指定副検事又は一人の検事若しくは副検事こよる「その庁の職員」に対する指挿監督権, (5)第12条の検事総長,検事長又は検事正が「その指揮監督する検察官の事務を, 自ら取り扱い又はその指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができる」権限(事務引取移転権,なお「指揮監督する検察官の事務を自ら取り扱う」 ことを事務引取権,「指揮監督する他の検察官に取り扱わせる」ことを事務移転権という。)に関する各規定を挙げることができる。
   これらの規定から明らかなように,検察官同一体の原則は,それぞれ独立の官庁である全国の検察官が,検事総長を頂点とし,検事総長,検事長及び検事正の指揮監督権(注2,3)によって結合されたビ‘ラミッド型の機能上の機構を形成していること,及び独立の官庁である一人の検察官の事務を検事総長,検事長及び検事正の有する事務引取移転権を媒介として,別個の官庁である他の検察官が取り扱うことができ,しかも,一つの官庁が事務を処理したのと同様の法律効果が与えられることをその内容としている(注4,5,6)。

4 このように,検察官は,検察権行使について上司の指揮監督を受ける地位に置かれているが, これは,個々の検察官が検察権行使の意思決定機関であるという原則を否定するものではない。上司の指揮監督下にあっても,個々の検察権行使の権限と責任は,一人一人の検察官にあることはいうまでもない。
   同じように,検察官の独立性(注7) も上司の指揮監督権を否定するものではない。 この両者は, ともに検察権の本質そのものから導き出されるところのものであり,相互に対立するものではなく,上司の指揮監督権も検察官の独立性と調和するものでなければならない。
   例えば,捜査中の事件の起訴・不起訴についてや第一審事件の判決に対する控訴の要否について,主任検察官の意見と上司の見解とが異なる場合,主任検察官は良心を捨てても上司の指揮に従わねばならないか,飽くまでも良心に従って上司の指揮に服従しないことができるかという問題がある。 もとより,上司の指揮が法令に違背するものであれば, その指揮に従わなくてもよいことは当然であるが,その場合も, それ以外の場合にも,主任検察官は, 自己の信ずるところとそのよって来たるゆえんについて,十分上司に意見を述べ,上司もまた,主任検察官の意見を否とする理由を虚心に説明し,相互の意見調整を図ることによって解決されるべきものである。なぜなら, 主任検察官も上司も,検察権の行使が適正であることを期しているのであるから,意見調整をなし得ないことはないはずだからである。仮に,意見調整をなし得なかったとすれば, それは,上司・主任検察官のいずれか,あるいは両者ともその資格に欠けているものといわねばならないのである(注8)。
   このようにして,検察官は,庁法第4条及び第6条に規定する事務については,上司の指揮監督の下に,独任制官庁として,その固有の権限に基づいてその職務を行うものである。

5 検察官が職務を遂行するための補助機関として,検察庁には検察事務官・検察技官が置かれ(庁法第27,28条),検察官は,検察庁の組織機構に従ってその検察官の分担する事務を補佐・補助する職員を指揮監督する (章程第8条)のである。

(注1)ここにいう官庁とは,行政法用語を正しく使えば「行政官庁」のことで「国家のために意思決定をし,かつ, これを外部に表示し得る国家機関」のことをいい,例えば,国士交通大臣,税務署長といった行政処分の権限を持つ,対外的責任者だけを意味する。国土交通省,税務署といった,行政官庁なども包含する人的・物的設俄の全体(官署) とは区別される。
(注2) 指揮監督権の意義
   一般に指揮監督権については, 「上級機関が下級機関の権限の行使を指揮し,その適法性と合目的性を保陣するためにする作用を監督の権限という。行政機関は, 内閣を最高とし, その下に,上級機関が下級機関の権限の行使を監督することによって,行政の統一を期していると定義されている。また,指揮監督の方法,手段としては,(1)監視権(上級機関が下級機関の権限行使の状況を知るために,報告を徴したり,書類帳簿等を査閲したり, 自ら又は職員を派遺して実地に事務を視察したりする様限),(2)許認可権(一定の事項について下級機関は上級機関の許可又は認可を受けるべきものとする場合の権限),(3)訓令権(訓令とは,上級機関が下級機関の権限行使を指揮するために発する命令をいい,その訓令を発する権限。狭義において指揮権ともいう。訓令は具体的事項について発せられる場合もあり,抽象的,一般的事項について発せられる場合もある。), (4)取消,停止権(下級機関の違法又は不当な行為を取消し,又は停止する権限),(5)代執行権(上級機関が監督権の内容として,下級機関の権限に属する事務を自ら代わって行うことをいう), (6)罷免権(上級機関の命令に服さない下級機関は,職務上の義務違反を理由として罷免される。), (7)権限争議の裁定権(上級機関は,本来,下級機関の所掌事務の総体をその所掌事務とするのであるから,権限争議についての裁定権は,本来その上級機関の権限に属する。)があるとされている。
   しかし,検察事務は,独立官庁たる個々の検察官固有の権限に基づくものであって,検察行政事務のように,庁の長の権限に由来し, その委任を受けもしくはその補助として行うものではないから,検察事務に側する限り,上記の指揮監督権を,そのまま肯定することはできない。
   すなわち,検察事務においては,個々の検察官が主体であって,上司の指揮監督権は部下の事務の統括を内容とするもので補助的なものだとされる。
(注3) 検察事務に関する上司の指揮監督の方法,手段
   その指揮監督の方法,手段として,次のようなものを挙げることができる。
(ア)監視権(進行管理権)
   部下の権限行使や職務遂行状況を観察し,必要があればその状況を報告せしめ,適宜これを点検するなどの方法により,職務進行過程を統制する権限である。事件の捜査もしくは公判の過程において, 中問報告を求めたり記録を検討したり,また,未済事件の状況を調べたりするのは,この権限の発動である。
(イ)審査権
   部下の職務執行が適正妥当であるかどうかを検討する権限である。事前審査権と事後審査権に分けられる。事前審査は,いわゆる決裁の前提として行使されるし,事後審査は主として監査により実行される。
(ウ)承認権
   監督権者は自ら決定を行わないが, 決定を内容とする提案に対して承認もしくは拒否する権限である。検察官が起訴もしくは不起訴の提案をし,監督権者が審査権に基づいて内容を審査し,提案が妥当であれば承認し,妥当でなければ承認を拒否するものである。
(エ)調整権
   同種の権限相互間もしくは異なった上下の権限の間の関連調整を計り,有機的組織体としての活動を行わしめる権限である。例えば,個々の検察官の起訴・不起訴の不均衡を是正したり,求刑の高低を調整して個人差を少なくし,組織としての一体性を保つなどがこの適例である。
(オ)命令権
   一定の基準その他の規範を示してこれに従うことを要求する権限。例えば,執務細則を制定して遵守を要求するとか,一定の犯罪の起訴基準や求刑基準を定めて従わしめるなどの基準制定権と,一定の事件を検察官に割り当てて,捜査処理せしめるとか等である。
   この命令権は,(ア)ないし(エ)の指揮監督のために存在するものである。
(注4)事務引取移転権は,①事件処理に関する意見が検事正と担当検察官とで食い違ったため,検事正が当該事件を引き取って処理したり,他の検察官に処理させたりする場合,②個々の検察官の職務の繁閑,能力等を考慮したりする, いわゆる「事件の割替え」, ③担当検察官が退官したり,転勤したときのいわゆる「事件の引継ぎ」,④公判担当検察官に事故があったときの, いわゆる「臨時立会」,⑤公判関与検察官以外の検察官による上訴の申立て,⑥大事件が発生したとき等に,他の検察庁の検察官の事務を応援させる,いわゆる「事務取扱」 ,⑦検事の不足をカバーするために行われる副検事による地方検察庁検察官の事務取扱などに活用されており,検察運営の上で,事実上大きな潤滑油的な役割を果たしている。
(注5)事務引取移転権の特異性
   個々の検察官に具体的にどのような検察事務を配分するかは,指揮監督権に基づく検察行政事務であり,その具体的配分は,検察庁事務章程により部制等の機構(章程第5条,第7条,「係検事に関する規程」)によってある程度定められ, さらに捜査,公判等の事務においては,個々の事件の配分(配点)によって定まる。また,検察官は,その所属検察庁を異にすることによって,検察事務の管轄を異にする。 しかしながら,事務引取移転権によって検事総長,検事長又は検事正は,①部下検察官に配点されている事件を自ら引き取って処理できるのみならず,②例えば,刑事部の検察官に公判立会事務を取り扱わせるなど,機構を超えた検察事務の配分ができ,③一人の検察官に配点した事件を他の検察官に取り扱わせることができ,④さらに,一つの検察庁の検察官に他の庁の検察官の事務を取り扱わせることもできる。一般行政機関において,組織法令上一つの下級行政機関の事務とされたことを組織法令上分掌権限のない他の下級行政機関に取り扱わせたりするようなことが,上級機関にとって許されないのに比して,検察庁における事務引取移転権の存在は, きわめて特色のあるものといえる。
(注6)検察官同一体の原則という用語は,検察官は,全ての面で相互に協力するものであるという精神的な意味で使われることも多い。
(注7)検察権の独立と検察官の独立
   検察権の独立と検察官の独立とは,権限に着目するか,その権限を行使する機関に着目するかの相違によるもので,前者は,検察権が行政権の一部でありながら他の行政権から独立した性格を持っていることをいい(詳細は第2章第2節参照),後者は,検察官は検察官同一体の原則により上司の指揮監督を受けるので,裁判官のような完全な職務上の独立性(憲法第76条第3項)は認められないが, 「その良心に従ひ独立してその職権を行ひ, この憲法及び法律にのみ拘束される。」(同項) との精神は検察官にも要請されることをいう。究極的には社会正義と真実の追及という検察に課せられた使命達成のための基本的な理念であり,観点の相違ということに帰着する。
(注8)意見調整の努力にもかかわらず,上司と主任検察官の意見が一致しない場合,主任検察官は上司に対して事務引取移転権の発動を求めるのが相当であるとするのが一般である。上司がその事件を自ら処理し, あるいは他の検祭官に処理させることによって上司の指揮監督権と部下検察官の良心との矛盾が解決されるとするのである。次に,事務引取移転権の発動が上司から拒否された場合については,その上司の命令に服しないことが,懲戒事由とならないとする考え, 消極的不服従のみ懲戒事由にならないとする考え,およそ不服従は懲戒事由になるので良心を守るためには主任検察官は辞職すべきであるとの考えがある。
   しかしながら,上司の承認すらも得られない意見を固守し,それを容れられないからといって安易に事務引取移転権の発動を求めたり,官を辞したりすることは, 良心の持ち方として正しいとは思われない。 ここでいう良心とは,かたくなな個人的信念等をいうのではなく,検察官として正しい検察権の行使をする心・態度のことである。 したがって, 良心に忠実であればあるほど,飽くまでも上司との意見の調整に努めて,最も適正なものに到達し,それの実現を図ることが,良心に従うことであると考える。

*1 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF6頁)。
   検察官はたとえ新任検事であったとしても、一応独任官庁ということになっておりますので、それなりの裁量権を行使しつつ、自分の責任と判断において実施をするということになっております。しかし,これも一定の裁量の枠内のことであって、枠を超えると行政機関としてチェックを受けるのは同じであって、過大視すべきではないと思っています。
*2 以下の記事も参照して下さい。
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 検察官同一体の原則

検察事務官

目次
第1 検察事務官に関する「七訂版 検察庁法」の記載
1 (見出しなし。)
2 検察事務官の職務
3 検察官事務取扱検察事務官
第2 検察事務官向けの法務総合研究所の研修教材
第3 関連記事その他


第1 検察事務官に関する「七訂版 検察庁法」の記載 
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)84頁ないし90頁には,「第3節 検察事務官」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。なお,別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 検察庁には検察事務官が置かれる(庁法第27条第1項)。検察事務官の制度は,庁法の制定によって創設されたものである。庁法施行前,すなわち,裁判所構成法の時代において同法が定めていた検事の補助機関は,検事局に補職された裁判所書記(検事局書記)であった(裁判所構成法第8,85条)。検事局書記は,検察行政事務に関しては検事局の長等の命令に服して検察行政上の文書の往復,諸表の作成等の職務に従い,検察事務に関しては検事の命令に服して検事の聴取書・訊問調書の作成(旧刑事訴訟法第56,136,139条)等の聯務に従い,それらの事務の補助を任務としていたが,原則として,捜査の権限はなかった。捜査に関しては, 旧刑事訴訟法第251条,大正12年勅令第528号「司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等二関スル件」第2条により,検事正が特に指名した地方裁判所検事局及び区裁判所検事局の書記が司法警察官の職務を, 同じく指名にかかる雇員が司法警察吏の職務を行うことができるにすぎなかった。検事局に検事直属の捜査権限を持つ職員を置く制度は, 昭和21年12月11日勅令第600号「検察補佐官の設置に関する件」によって,検察補佐官が設けられたのに始まる。
   庁法を制定し,現行検察制度を樹立するに際して,従来の実績に鑑みても,検察官の補助機関として,従前の検事局書記の機能を営むものと検察補佐官の機能を営むものを必要とされたのは,当然である。そこで,両者を別個の機関として設けることも考えられたが,両者の権限をそれぞれ拡大して,従来の検事局書記と検察補佐官の両者の行う事務をあわせ行う機関を創設することは,その地位の向上をもたらすものであり,率務能率の向上にも資するものと考えられて,検察事務官の制度が誕生したものである。こうして,庁法施行の際「現に書記長若しくは裁判所書記の職に在って検事局に属する者又は検察補佐官の職に在る者は,別に辞令を発せられないときは,現に受ける号俸を以て検察事務官に任ぜられ」(庁法附則第41条)たのである。


2 検察事務官の職務
(1) 検察事務官は,上官の命を受けて検察庁の事務を掌る(庁法第27条第3項前段)。
   「上官」とは,検察官たる上司のほか検察事務官又は検察技官たる上司をも含む。
   「命を受けて」とは,その者の行う職務に関する権限が, その者の固有の権限ではなく, その者に対して職務執行上の命令をすることができる上司の権限に由来しており,その上司の補助機関たる地位において職務を行うものであることを意味している。したがって,検察事務官は,上司の個々の命令に服従すべきことはもちろんであるが,そのような個々の命令を待つまでもなく,一般的に上司の補助機関として,与えられた事務を処理すべき職責を有するのである。
   「検察庁の事務」とは,庁法第27条第3項後段において検察事務官の捜査に関する職務を別に規定しているから,捜査は含まないし, また,検察事務官の職務からは検察官が自ら行うべき検察事務(例えば,公判立会など)が除かれることは事柄の性質上当然であるから, これらを除いたところの検察事務及び検察行政事務である。すなわち,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の事務である。
   これを要するに,検察事務官は, まず,職務命令をなし得る上司の補助機関として,検察官の行う事務の円滑な処理のために必要とされる各般の総務,文書,会計事務等(検察行政事務),公判立会検察官の補助事務等(本来の検察事務)並びに事件の受理・処理等の記帳・整理,裁判の執行,罰金等の徴収,記録の保存,犯歴票の作成・保管,証拠品の受理・保管・処分,恩赦等事務(検務事務)を処理するものということができる。
(2) 検察事務官は,検察官を補佐し,又はその指揮を受けて,捜査を行う(庁法第27条第3項後段)。
   検察事務官は検察官の行う捜査について,個々の指揮を待つまでもなく一般的に検察官を補佐するとともに,検察官の指揮によって自ら捜査を行うのである(刑訴法第191条第2項,第195条参照)。このことは,検察事務官が検察庁のいずれの部局・課に所属しているかによって変わることはない(章程第10条第9項参照,ただし,個々の検察官の指揮は,その事務の分担に応じ,その分担する事務を補佐・補助する検察事務官以下の職員を指揮する(章程第8条)ものとされており,組織上のルートを無視した指揮はできない。)。
   したがって,検察事務官が捜査を行うには,全て検察官の指揮を受けてしなければならないのであって,独立して事件を取り扱うことはできない(注1)。そのため,検察事務官には, 司法瞥察職員に対する指示・指揮の権限(刑訴法第193条),逮捕状謂求の権限(刑訴法第199条) ,勾留請求の権限(刑訴法第204,205,211,216条) ,証人尋問請求の権限(刑訴法第226,227条) ,告訴・告発を受理する権限(刑訴法第241条) ,事件の送致を受ける権限(刑訴法第246条)等は認められておらず, この点司法警察員よりもやや弱いが, 司法巡査よりはやや強く,例えば,差押,捜索,及び検証等の令状請求の権限(刑訴法第218条),押収物に関する処分の権限(刑訴法第222条第1項ただし書) ,鑑定留置及び鑑定処分許可の請求の権限(刑訴法第224,225条)等を有している。
   検察事務官の職務の執行は,直接国民の権利義務に影響を及ぼすことが多い。したがって,検察事務官が庁外で職務を執行する場合には,検察事務官の証票を携帯し,関係者の請求があったときは, これを示してその官氏名を明らかにしなければならないものとされる(章程第25条第1項)。この証票の様式は,平成10年6月8日法務省訓令第3号「検察事務官証票規程」によって定められている(同条第2項)。


3 検察官事務取扱検察事務官
   「法務大臣は, 当分の間,検察官が足りないため,必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができる」(庁法附則第36条)。いうまでもなく,区検察庁においても,検察官の事務は,本来の検察官が取り扱うことが原則であるが,事務量の累増に見合う検察官の増員が困難な実情に鑑みて,比較的軽微な事件のみを取り扱うものとされている区検察庁に限り,暫定的(注2)に検察事務官が検察官の事務を取り扱うことができるものとされているのである。
   「検察官の事務」には,検察事務と検察行政事務とを含む。したがって,区検察庁の検察事務官がその庁の検察官事務取扱を命ぜられたときは,捜査,公訴の提起,維持その他庁法第4条及び第6条に規定された事務を検察官と同一の権限をもって処理し得るのみならず(注3,4,5,6) , その区検察庁に検察官が配置されていない場合における庁務の掌理,職員の監督その他の行政事務をも取り扱うことができるのである。
   検察官事務取扱検察事務官は, 「その庁」,すなわち,所属区検察庁の検察官の事務のみを取り扱い得るのであるから,庁法第12条の事務引取移転権をもってしても,地方検察庁以上の検察庁の検察官の事務を取り扱わせることはできないし,所属区検察庁以外の区検察庁の検察官の事務を取り扱わせることもできない。
   もっとも,検察官は,捜査に関して事物管轄の制限を受けないから,検察官事務取扱検察事務官が,区検察庁で, 区検察庁検察官事務取扱検察事務官の資格において,いわゆる地方事件について弁解録取書を作成したり,告訴を受理したりすることは許される。例えば,殺人などいわゆる地方事件であっても,区検察庁で逮捕並びに勾留の手続を行うことができ, その場合には,その手続の一環として区検察庁の検察官事務取扱検察事務官が弁解録取書を作成できる。しかし,地方検察庁で受理した事件については,区検察庁の職員がその資格において地方検察庁の事務を取り扱うことができないのは, もちろんである。


(注1) 検察事務官による被疑者等の取調べと調書の作成について
   判例「地方検察庁の検察事務官は,検察官の指揮下において捜査する限り,たとい補助者であっても,地方裁判所の合議事件につき,被疑者その他の者を取調べ,その聴取書を作成する権限を有するものと解するを相当とする。」(最判昭和28年3月13日最高刑集7巻3号529頁)
(注2) 庁法第36条の「検察官の事務」の範囲と「当分の間」について
   判例「所謂検察官の事務に関し,検察庁法及び刑訴法その他関係法令において,刑訴法第247条所定の公訴の提起手続を除外すべき何等の規定がないから, これを包含するものと解すべく,従って,所謂検察庁法第36条に定められた,検察官の事務についても同様に解するを相当とし, また同法条に所謂, 「当分の間」というのは同法その他関係法令によって, これが改廃変更せられるまでの間の趣旨と解すべきであるから,所論のように,単に検察庁法施行後既に3年を経過したとの事由によって,失効したものと解するは妥当ではない。」(束京高判昭和25年8月14日最高裁刑事判例要旨集5巻6号407頁)
(注3) 検察官事務取扱検察事務官の権限について
   判例「改正前の検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができたのであって,本件の起訴は右の法律により検察官の事務を取り扱うことのできた区検察庁の検祭事務宮によってなされたものと認められるから刑訴247条等に違反する無効のものではない。」(最決昭和28年7月14日最高刑集7巻7号1529頁)
(注4) 検察官事務取扱検察事務官作成の供述調書の表示について
   判例「…所論は,第一審判決が証拠として採用した検察官作成の供述調書について違法がありとし, これを理由として憲法第31条違反及び東京高等裁判所判例違反を主張する。しかし検察庁法第36条により検察官の事務取扱を命ぜられた検察事務官は,検察官としての権能を有するものであるから,検察官事務取扱検察事務官の作成した供述調書は,結局検察官作成の供述調書にほかならない。従って本件において第一審判決が,所論指摘のように証拠の挙示において,単に『検察官作成の……供述調書』と表示したことは不正確たるを免れないが, このことをもって直ちに違法ということはできない。結局所論違憲の主張は前提を欠くことに帰し採用のかぎりでない。」(最判昭和31年6月19日最高刑集10巻6号853頁)
(注5) 検察官事務取扱検察事務官の告訴の受理について
   判例「検察庁法第36条によれば,法務総裁は当分の間検察官が足りないため必要と認めるときは,区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができると規定しているので,大津区検察庁検察事務官○○○○(以下「甲」とする。)が大津区検察庁検察事務官の地位において大津区検察庁検察官の事務を取り扱った場合ならば, それは大津区検察官の資格において行動したのであるから甲の告訴受理は検察官による告訴の受理となる。従って本件供述調書による告訴の受理は適法と言わねばならない。しかるに同供述調書をみるに冒頭に大津地方検察庁において左の通り陳述したと記載し末尾に大津地方検察庁検察事務官甲と署名捺印されているのである。これによれば本件については甲は大津地方検察庁の検察事務官として検察庁法第27条第2項の本来の検察事務官の職務を行なったものといわねばならない。すなわち検事の補助者として捜査をしたにすぎないこととなるのである。従って本件供述調書は検察官事務取扱甲の作成せるものでなく,検察事務官甲が作成したものとみるべきである。」(大阪高判昭和26年2月5日高裁刑集4巻2号100頁)
(注6) 検察官事務取扱検察事務官が簡易裁判所に公訴を提起し,同裁判所の公判に立会することについて
   判例「法務大臣によって区検察庁の検察官の事務を取り扱うことができるものとされた検察事務官は,区検察庁の検察官の事務に関する限りに於ては, これに対応する簡易栽判所に公訴を提起することができるし,同裁判所の公判廷に出席することもできるといわなければならない。本件で横須賀区検察庁検察官事務取扱検察事務官○○○○が横須賀簡易裁判所に公訴を提起し,その公判廷に出席しているのは,右検察庁法第36条に由来する正当な手続であり,所論のように同法第32条及び検察庁事務章程に基くものではなく,従って右手続が検察庁内部の規則に基いて刑事訴訟法及び刑事訴訟規則を無視した違法のものであるとはいえないこと明らかであるし,原審判決書に検察官の官氏名を記載するに代えて検察官事務取扱検察事務官○○○○と記載してあることも違法なものではない。」(東京高判昭和31年7月7日東京高等裁判所判決時報7巻7号279頁)


第2 検察事務官向けの法務総合研究所の研修教材
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・ 刑事手続概要
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・ 文書事務解説
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・ 立会事務

第3 関連記事その他

1 検察事務官の職場としては,①捜査・公判部門,②検務部門及び③事務局部門があります(法務省HPの「検察事務官の幅広い職場と仕事」参照)。
2 外部HPに「検察庁法36条の問題点について-副検事制に関連して-」が載っています。
3 東北大学HPの「裁判官の学びと職務」(令和5年11月22日に東北大学法科大学院で行われた、法科大学院学生を対象とした47期の井上泰士の講演原稿に大幅に加筆したもの)には以下の記載があります。
検察事務官に至っては、明確に検察官の部下ですから、これまた軍隊風に言いますと曹長以下の下士官みたいなものです(副検事は准士官、特任検事は旧海軍の特務士官でしょうか。この比喩がすぐに分かる人は相当な近現代史マニアと思いますが。)。
4 以下の記事も参照してください。
・ 法務総合研究所
・ 法務省の定員に関する訓令及び通達
・ 副検事制度が創設された経緯

検察権の独立(行政権,立法権との関係)

   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)20頁ないし27頁には,「第2節 検察権の独立(行政権,立法権との関係)」として以下の記載があります(別の場所の脚注に言及している部分は削りました。)。

1 検察権は,国家刑罰権の実現等の国家目的を追求して行使されるもので, その本質は行政権の一作用であり, 司法権と明白に区別される。しかし,検察権の行使は,公益の代表者として個々の事件について法の正当な適用実現を目的とするものであって, 司法権と密接な関係を持ち, 司法作用に重大な影馨を及ぼすものである。
   このことは,例えば,起訴・不起訴が外部からの影響-特に政治的な圧力-によって左右される場合を考えれば明瞭である。不告不理の原則の下においては,裁判所は,起訴されない事件を審判するわけにはいかないし,起訴された事件は必ず審判しなければならないのであるから,司法権の行使は検察権の行使にかかっている。この場合,司法権が確固として独立していても,検察権の行使が公正を欠くならば, 司法権の行使も不公正なものとならざるをえない。司法権独立の主眼は, 司法権の行使を政治的影響から自由にするところにあるといってよい。したがって,検察権が政治的影響のままに行使されるならば,それはまさしく政治的司法を現出し, 司法権の独立は名のみになるといっても過言ではない。検察権と司法権は, まさに車の両輪であり, そのいずれの公正を欠いても刑事司法の健全な運営は期しがたい。
   このように,検察権は行政権の一作用でありながら, 司法権と密接な関係を持つのであり,刑事司法の公正を期するためには,検察権についても司法権独立の精神を能う限り推及されなければならない。したがって,検察権は,法の拘束・支配の下において,それを行使する者の良心に従って,独立して行使されることが要請される。
   この検察権の独立を担保するものとしては,庁法上①法務大臣の検察事務に対する指揮監督権の制限(庁法第14条) ,②検察官の独任官庁制(庁法第1,4,5条),③検察官の身分保障(庁法第22条ないし第25条)の制度がある。

2 しかし,既に見たように,検察権は,行政権の一部をなすものであり,行政権は,内閣に属し(憲法第65条),内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負う (憲法第66条第3項, 内閣法第1条第2項)。そして,内閣を組織する各大臣は,主任の大臣として,行政事務を分担管理する (内閣法第3条第1項,国家行政組織法第5条第1項)のであり,法務大臣は,法務省の長(法務省設置法第2条第2項) として, 「検察に関すること」 (同法第4条第7号)を含む法務省の所管事務を分担管理し, これについて責任を負う。 これが組織法における原則(責任政治の原則)である。 したがって,行政権の一部である検察権の行使についても,内閣は国会に対して連帯して責任を負うものであり,検察権も,内閣法,国家行政組織法,法務省設置法等の諸規定に基づいて,法務大臣の指揮監督の下に行使されるのが原則である。
   なお, ここに「指揮」 とは,おおむね事前において,職務上の命令をすることを意味し, 「監督」とは,おおむね事後において,職務執行が適法か否か,相当か否かを査察し,必要があるときは是正の措置を命ずることを意味する。
   この責任政治の原則からする要請と,検察権独立の要請は,相互に対立して排斥するのではなく,調和することが必要である。検察権の独立は, 司法権の独立のように他からの一切の影響を排除しようとするものとは異なり,他からの不当な影響を排除しようというものである。それは,正しい統一的な国家意思が, 司法に反映するように検察権が行使されなければならないための要請であり, もとより検察の独善を容認するものではないからである。

3 法務大臣の指揮監督権の制限(庁法第14条)
   これは責任政治の原則と調和させつつ,法務大臣の指揮監督権の行使に一定の制限を加えて,検察権の独立を図ろうとした制度である。
   すなわち,法務大臣は,検察全般に対する指揮監督権を持つが,議院内閣制の下においては,その指揮監督が,例えば,政党の利害等によって左右されるなどして,検察の公正な運用が失われ, あるいは失われるおそれがあるので,法務大臣の指揮監督権の行使が制限されなければならない。そこで,庁法第14条は, 「法務大臣は,第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し,検察官を一般に指揮監督できる。ただし,個々の事件の取調べ又は処分については,検事総長のみを指揮することができる」 と規定し,検察事務に関する指揮監督権の行使を制限している。検察事務以外の事務についての指揮監督は組織法上の原則によるわけであって,総務,会計,人事等に関する事務や,犯罪の防止その他刑事政策上の諸施策に関する事務についての法務大臣の指揮監督権の行使は制約を受けない。
   すなわち,捜査,公訴の提起・遂行などの検察事務に関しては,法務大臣は,検察官を「一般」に指揮監督することができるが,検察官の行う 「個々の事件の取調べ又は処分」については検事総長のみを指揮することができるにとどまる。 「一般に」 とは, 「一般的に」 ということで,「具体的に」 と相対する概念であり,例えば,検察事務処理についての一般的方針や基準を訓示したり,法令の行政解釈を示したり,個々の具体的事件について報告を求めたりすることである。 「取調べ」 というのは,被疑者,参考人の取調べだけを指すのではなく,捜査の方法,順序等も含み, 「処分」 というのは,起訴,不起訴の処分のほか,公判の遂行及び刑の執行はもちろんのこと,刑罰権の実現のために検察官が行う捜査以外の一切の検察事務の処理とその方法,順序を含むものである。
   すなわち,法務大臣は,個々具体的事件に関する検察事務については,捜査の着手から刑の執行に至るまで,直接個々の検察官を指揮することは許されず,検事総長のみを指揮することができる。言い換えれば,法務大臣は,具体的事件に関しては,検事総長が持っている部下検察官に対する指揮監督権を媒介としてのみ,個々の検察官の行う検察事務に干渉することができるのである。
   ところで, これを形式論理的に見ると, たとえ検事総長を通じてにせよ,具体的事件について法務大臣に指揮権を認める以上は, それが検事総長を通じてのみ行われようが,直接,個々の検察官に対して行われようが,個々の検察官が検事総長の指揮監督に服しているからには,結局は同じことだともいうことができる。 しかし,実際の運用を考えてみると,検事総長は,法律的には法務大臣の指揮監督に服するものであるが,全国の検察官を指揮監督し検察権を代表する者として,不当な法務大臣の指揮に対しては, それが不当であることを説得して法務大臣の翻意を求める等の事実上の措置がとられることが期待され, これによって法務大臣の不当な指揮が防止されるのである。このように庁法第14条は,法務大臣と検事総長の識見により,運用の実際において妥当な結果が導かれることを期待しているのである。

4 以上のように法務大臣が具体的事件について検事総長を指揮し得る権限を,俗に「指揮権」 と呼んでいる。この指揮権の発動については,昭和29年4月の造船疑獄事件に関して行われたそれが有名であり, また,一般にはそれが唯一の例であるかのようにいわれているが,必ずしもそうではない。まず,特に重要な事件については,捜査の着手又は起訴・不起訴の処分について,法務大臣の指揮を受けるべきことが一般的に定められ(処分請訓規程,破壊活動防止法違反事件請訓規程), これに当たる場合には, 具体的事件について,検事総長から法務大臣に対して請訓が行われ,これに応えて法務大臣が指揮することとなっている。また,検事総長は,将来政治問題化することが予想されるような事件については,国会における検察権の代表である法務大臣に対して,積極的に報告を行うこともあると考えるが,そのような際,特に法務大臣の指揮を仰ぐこともあると考えられる。いずれにせよ,法務大臣は,検事総長の請訓により,請訓どおりの指揮を行うのが例であると思われるが, 明らかに諭訓を否決する指揮が行われたのが,造船疑獄事件のそれである (同事件では,検事総長から法務大臣に対し, 自民党幹事長佐藤栄作氏に対する逮捕請求許可の請訓があった。)。法務大臣が,検事総長の理を尽くした請訓にもかかわらず不当な指揮を維持するならば,それは,検察全体の代表者としての検事総長が,政党内閣の代表者としての法務大臣と正面から対立することとなり,いずれの判断が正当であるかが広く国民の批判にさらされ,結局は,健全な国民の声によって,検察権の適正な行使が担保されることとなることも,庁法第14条の期待しているところと解される。

5 以上は, 内閣と検察の関係について見たのであるが,検察権の独立のためには,立法権ないし国会からの抑制も制限されなければならない。
   すなわち,国会の衆参両議院は, それぞれ国政に関する調査権を持ち,その調査のため証人の出頭,証言及び記録の提出を求めることができる(憲法第62条)のであって,検察権も行政権の一部として,検察行政事務はもとより,検察事務についても,国政調査権の対象となり得るものといわなければならない。 しかし,既に述べたように,検察権が司法権と密接不可分な関係にあるところから,検察権の行使について国政調査を行うことにより,ひいては, 司法権自体の行使に重大な影響を及ぼす場合があり得る。そのような場合には, 司法権の独立を脅かすという意味において,検察権の行使に関する調査が許されないことになるというべきである(注)。例えば,現に裁判所に係属中で,事実関係につき当事者間に争いのある事件について,裁判上の立証がまだなされていない段階であるのに,検察官を証人として喚問し,捜査の内容,将来裁判所に提出すべき証拠の内容等を証言させるようなことがあれば,国政調査という名前の下に実質的に裁判が行われ,検察官の公訴維持は困難となり,裁判所には予断を与え, 「司法権の独立」が脅かされることになるから,許されないといわねばならないし,証人として喚問された検察官は出頭をも拒むことができると考える。
(注) いわゆる日商岩井不正事件について,国政調査権は, 「検察権との併行調査は,原則として許されるが, 司法権の独立ないし刑事司法の公正に触れる危険性があると認められる場合には制限される」 (東京地判昭和55年7月24日判時982号2頁) との判断が示されている。

6 検察に対する国政調査権の行使が制限される場合には,議院における証言及び書類の提出を,職務上の秘密に関するものとして拒むことが許されることが多いと思われる。
   すなわち,各議院等は, 「証人が公務員である場合又は公務員であった場合……その者が知り得た事実について,本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは, 当該公務所又は監督庁の承認がなければ,証言又は書類の提出を求めることができない」 (議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律第5条第1項)ものとされ,その公務所又はその監督庁が承認を拒んだ場合,議院等において承認拒否の理由を受諾できないものと認めれば「その証言又は書類の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができ」 (同条第3項前段) ,要求後10日以内にその声明があれば,証言又は書類の提出をする必要がない(同項後段)。ここでいう 「職務上の秘密」は, 「職務上知り得た秘密」 よりも狭い概念で,職務上知り得た他人の秘密を含まず,職務自体の秘密をいうものと解されている。しかし秘密という概念は, ある事項を秘匿しておく利益と, これを公にする利益とを比較して,前者の方が大きい場合にだけ秘匿することが認められる相対的なものであるから,それぞれの調査の目的等により,秘密の範囲が動いてくることとなる。 したがって,検察における職務上の秘密の範囲や事項を一律にいうことは困難であるが,一般的には,現在及び将来における捜査や公訴の維持に支障をきたすような事項がこれに当たることになろう。

7  国政調査権と検察の職務上の秘密とが正面から対立したものとしては,造船疑獄事件にからんで衆議院決算委員会が検察官等を証人として喚問し,捜査の経過,不起訴となった財界,政界人の氏名,被疑事実の一部及び資料,起訴された事実について証拠の一部等の証言を求め, 同検察官等が職務上の秘密であるとして一部の証言を拒否し, 同委員会は拒否事項について法務大臣の承認を求め,法務大臣はその一部について承認をし,大部分については承認を拒否してその理由を疎明したが, 同委員会は内閣声明を要求し, 内閣は法務大臣の承認拒否を支持して声明した事例がある。その内閣声明は,次のとおりである。
「衆議院決算委員会から, さきに法務大臣の疎明した検事総長佐藤藤佐及び東京地方検察庁検事正馬場義統の証言及び書類の提出の承認を拒否した理由につき,これを受諾することができないとして内閣声明の要求があった。
   よって, 内閣は,右要求につき慎重に検討審識した結果,法務大臣がその承認を拒否した証言及び書類の提出を現段階において行うことは,機密の保持を本旨とする検察運営に重大なる障碍をきたすのみならず, いわゆる造船疑獄事件として起訴せられ,近く公判において事実審理の開始せられんとする商法違反(特別背任)被告事件,政治資金規正法違反被告事件,贈収賄被告事件の公訴の維持に著しい支障を生ぜしめ,他面裁判所に予断を与え裁判の公平を阻害する虞なしとせず,かくては犯罪を防あつして国家の治安,社会の秩序を維持し,公共の福祉を擁護せんとする検察の目的を達成することが困難となるのみならず,他面裁判の公平を確保して,司法権の公正なる運用を期することができなくなる虞があるのであるから,右証言等の承認をすることは国家の重大な利益に悪影響を及ぼすものと認める。
右声明する。
昭和29年12月3日             内閣 」
   この声明は, 司法権の独立の侵害と重大な職務上の秘密との両面を証言拒否の理由としており,検察権と国政調査権との関係を明らかにしたものと考える。

*1 衆議院HPに,衆議院議員山田長司君提出国会の国政調査権と検察権との関係に関する質問に対する答弁書(昭和40年3月30日付)が載っています。
*2 「検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権」も参照してください。

法務省作成の検事期別名簿

目次
1 法務省作成の検事期別名簿
2 生年月日が開示されている,法務省の幹部職員
3 検事期別名簿の不開示部分の詳細
4 法務省作成の副検事名簿(令和5年5月31日追加
5 検察官調査表(令和6年11月4日追加
6 検察総合情報管理システム
7 捜査関係事項照会に関する世界2019年6月号等の記載
8 4月1日付の法務省人事異動に関する文書
9 関連記事その他

1 法務省作成の検事期別名簿
(1) 法務省作成の検事期別名簿を以下のとおり掲載しています。
(令和時代)
令和 2年1月 9日令和2年7月17日
令和 3年4月 9日
令和 4年4月11日令和5年1月10日
令和 5年4月10日令和6年4月15日
令和 7年4月17日
(平成時代)
平成27年1月23日平成27年4月15日
平成28年9月 5日
平成29年4月17日平成29年9月11日平成30年1月22日
平成30年4月11日平成30年7月25日
平成31年4月17日
(2) 検察官の修習期は不開示情報のために黒塗りとなっています(平成28年度(行情)答申第365号)から,私の方で手書きで記載しています。


2 生年月日が開示されている,法務省の幹部職員
(1) 生年月日が開示されているのは,法務省の以下の幹部職員に限られています(「法務省における幹部公務員の略歴の公表について(平成19年6月15日付の法務省大臣官房人事課長の依命通知)」参照)。
① 内部部局
政令職以上
② 施設等機関
法務総合研究所長,矯正研修所長
③ 地方支分部局
法務局長,矯正管区長,地方更生保護委員会委員長,地方入国管理局長
④ 特別の機関
・ 最高検察庁
検事総長
次長検事
部長
その他の検事(併任検事を含む。)
事務局長
・ 高等検察庁
検事長
次席検事
部長(ただし,東京,大阪に限る。)
事務局長
・ 地方検察庁
検事正
次席検事(ただし,東京,横浜,さいたま,千葉,大阪,京都,神戸,名古屋及び福岡に限る。)
支部長(ただし,立川,川崎,沼津,堺,姫路,岡崎及び小倉に限る。)
(2)ア 最高検察庁のその他の検事を除き,生年月日が開示されている幹部検察官の人事については,決裁者が法務大臣となっています(法務省行政文書取扱規則(リンク先のPDF31頁及び32頁)参照)。
イ 内部部局の政令職というのは,国家公務員法34条1項6号及び幹部職員の任用等に関する政令2条で定めるところの,本府省の課長又は室長以上の職員のことと思います。


3 検事期別名簿の不開示部分の詳細
・ 平成28年度(行情)答申第365号(平成28年9月29日答申)(リンク先の7頁ないし9頁)には以下の記載があります(項目部分を太字表記にしています。)。
(2)検討
ア 本件不開示部分について
   当審査会において本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,「法務・検察幹部名簿」と「検事期別名簿」で構成されており,「法務・検察幹部名簿」については,表題等のほか,幹部職員の「官職」,「氏名」,「期」,「生年月日」,「現職発令日」が表形式で記載されており,このうち修習期が記載されている「期」の各欄と「生年月日」欄のうち,本府省課長相当職以下の官職の者の「生年月日」欄が不開示とされていると認められ,「検事期別名簿」については,表題等のほか,検事の「検察官番号」,「氏名(漢字)」,「氏名(カナ)」,「生年月日」,「現職発令日」,「現職」,「備考」が表形式で記載されており,このうち「検察官番号」欄,本府省課長相当職以下の官職の者の「生年月日」欄,「備考」欄の各欄が不開示とされている。
   異議申立人は,①「法務・検察幹部名簿」の「修習期」,②「法務・検察幹部名簿」及び「検事期別名簿」の「本府省課長相当職にある者の生年月日」並びに③「検事期別名簿」の「備考欄中の裁判所から出向している検事であることを示す記載部分」(本件不開示部分)の開示を求めている。
イ 法5条1号本文前段該当性について
   「法務・検察幹部名簿」と「検事期別名簿」は,その氏名欄には,当該幹部等の氏名が記載され,その他の欄には,当該幹部等の官職等が具体的に記載されていることからすると,当該文書に記載された情報は,当該幹部等の個人に関する情報であって,当該幹部等に係る法5条1号本文前段の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
ウ 法5条1号ただし書該当性について
(ア)修習期
   異議申立人は,検事の任官年月日は官報に公告されているので,任官年月が分かれば修習期が分かると主張するところ,これは司法修習を修了した年に検事に任官するという前提に立つものと解されるが,例えば弁護士からの任官者等,司法修習の修了から検事への任官までの期間が空いている者については,この前提が成り立たないといえる。
   また,直接,各検事の修習期を公にした事実がない以上,慣行として公にされている情報には該当しないとの諮問庁の説明は首肯でき,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは認められないことから,法5条1号ただし書イには該当しない。
   そして,標記の不開示部分に記載された情報は,当該幹部等の具体的な職務遂行の内容に直接結び付く情報とはいえず,法5条1号ただし書ハに該当せず,同号ただし書ロに該当する事情も認められない。
   さらに,標記の不開示部分に記載された情報は,原処分において,特定の個人を識別することができる記述である氏名が既に開示されていることから,法6条2項の適用の余地はない。
(イ)本府省課長相当職にある者の生年月日
   総務省通知では,本府省課長相当職以上の者の生年月日を含む略歴を公表することとしている。
   同通知では,本府省課長相当職の者については,人事異動の状況等により,求めに応じて略歴書を提出する形で対応することも差し支えないとしているが,たとえ求めがなく,略歴書を提出していないとしても,これは,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められ,標記の不開示部分は法5条1号ただし書イに該当し,開示すべきである。
(ウ)備考欄中の裁判所から出向している検事であることを示す記載部分について
    当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,裁判官が裁判所から法務省・検察庁に検事として出向する人事異動については,官報に掲載されているとのことであるから,これは,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報と認められ,標記の不開示部分は法5条1号ただし書イに該当し,開示すべきである。


4 法務省作成の副検事名簿
・ 法務省作成の副検事名簿を以下のとおり掲載しています。
平成31年4月15日令和2年7月1日令和3年4月1日
令和4年4月1日令和5年4月1日令和6年4月1日
令和7年4月1日


5 検察官調査表
・ 検察官調査表に関する以下の文書を掲載しています。
① 検察庁に勤務する検察官に係る検察官調査表の作成等について(平成21年9月28日付の法務事務次官の依命通達)
→ 令和4年9月29日最終改正のものです。
② 検察庁に勤務する検察官に係る検察官調査表の作成に当たっての留意事項について(平成21年9月28日付の法務省大臣官房人事課長の通知)
→ 令和4年10月4日最終改正のものです。
③ 検察庁以外の国の機関に勤務する検察官に係る検察官調査表の作成等について(平成21年9月28日付の法務事務次官の依命通達)
→ 令和4年9月29日最終改正のものです。

④ 検察庁以外の国の機関に勤務する検察官に係る検察官調査表の作成に当たっての留意事項について(平成21年9月28日付の法務省人事課長の通知)
→ 令和4年9月29日最終改正のものです。


6 検察総合情報管理システム
(1) 平成28年度(行情)答申第239号(平成28年7月28日答申)には,「検察総合情報管理システムについて」として以下の記載があります。
    検察庁においては,検察官が犯罪の捜査,起訴・不起訴の決定,公判の維持遂行,裁判の執行の指揮等を行っており,これらの活動を行うため不可欠な事務として,事件の受理・処理,令状の請求・執行,懲役刑等の執行,罰金等の徴収,前科の把握・調査,記録の管理等(検務事務)を行っているところ,これらの事務で取り扱う情報には,個人情報や犯罪の捜査等に関する極めて高度な秘匿性を有する情報が含まれることに鑑み,高度な要保護性を充足するとともに,安全性・信頼性の確保等に対応した高度なセキュリティを有するシステムとして検察総合情報管理システムが開発された。
    また,運用面においても,同システムの情報及び同システムをあらゆる脅威から守り,必要な情報セキュリティを確保し,もって,同システムの円滑な運用を図るため,本件対象文書である検察総合情報管理システム運用管理要領に基づき,運用がなされているところである。
(2) 検察運営に関する報告について(令和2年7月10日付の法務省刑事局長依命通達)及び検察運営に関する報告について(令和2年7月10日付の最高検察庁総務部長通知)を掲載しています。


7 捜査関係事項照会に関する世界2019年6月号等の記載
(1) 「丸裸にされる私生活 企業の個人情報と検察・警察」(世界2019年6月号106頁ないし114頁)によれば,検察庁内部のサーバーに保管されている「捜査上有効なデータ等へのアクセス方法等一覧表」と題するリスト(作成者は,平成23年7月に最高検察庁に設置された法科学専門委員会)は,企業が展開しているポイントカードなど,顧客の個人情報を,どこにどう問い合わせれば捜査機関が入手できるかを一覧にしたものであって,共同通信が入手した時点での一覧表に並ぶ企業は少なくとも約290社,記載されたデータの種類は約360に上るそうです。
  リストに記載されている企業としては,主要な航空,鉄道,バスなどの交通各社,電気,ガスなどのライフライン企業のほか,ポイントカード発行会社,クレジットカード,消費者金融,携帯電話,コンビニ,スーパー,家電量販店,ドラッグストア,パチンコ店,遊園地,アパレル,居酒屋,劇団,映画館,ガソリンスタント,カラオケ店,インターネットカフェ,ゲーム会社などがあるそうであり,入手できると記載されている情報は各社によってばらばらですが,氏名や住所,生年月日といった会員情報以外に,利用履歴,店舗利用時の防犯カメラ映像,カード申込み時にコピーした運転免許証などの顔写真もあるそうであり,リストに載っていた企業の多くが,捜査関係事項照会(刑訴法197条)によって顧客の個人情報を提供すると明記されているそうです。
(2) 日本図書館協会HPの「捜査機関から「照会」があったとき」には以下の記載があります。
  民間ポイントカード会社が捜査機関からの「照会」に応じていたことが問題となったとき、2019年1月23日の衆議院法務委員会において、国立国会図書館総務部長は次のように明確に答弁しています。
 「国立国会図書館では、令状なしの利用履歴の提供に応じたことはございません。今後も同様でございます。これは、利用した資料名等の利用履歴は、利用者の思想信条を推知し得るものであり、その取扱いには特に配慮を要するものであります。国立国会図書館は、個人情報保護及び国会職員としての守秘義務等の観点から、裁判官が発付する令状がなければ情報の提供はいたしておりません。」(『衆議院会議録』第197回国会法務委員会第10号
(中略)
  捜査機関から照会を受けるデータとしては、貸出記録、登録の事実と内容や登録年月日、最終貸出年月日などのほか、複写申込書、インターネット端末利用申込書、レファレンス記録、防犯カメラの画像などがあります。また、図書館システムへのアクセスログやインターネット端末から特定urlにアクセスした利用者のログ、図書館のイベントの参加者名簿、登録ボランティア団体の構成員の名簿などに及ぶこともあります。


8 4月1日付の法務省人事異動に関する文書
・ 4月1日付の法務省人事異動に関する文書を以下の通り掲載しています。
令和7年4月1日付

9 関連記事その他
(1) 法務総合研究所が作成した,法科大学院派遣検察官一覧を以下のとおり掲載しています。
令和元年度令和2年度令和3年度令和4年度
令和5年度令和6年度
(2) 法務省HPの「育児と仕事の両立」には「検事の現場では,捜査や公判の応援で他の検察庁に検事が派遣されるなどの理由で人が入れ替わることがよくあり」と書いてあります。
(3)ア 以下の資料を掲載しています。
(検察官の俸給関係)
・ 検察官の初任給調整手当に関する準則(昭和46年4月1日付の法務大臣訓令)
・ 検察官の初任給及び昇給に関する準則(平成18年3月15日法務大臣訓令・平成19年11月12日最終改正)
・ 検察官の期末手当及び勤勉手当の支給に関する準則(平成9年12月16日付の法務大臣訓令・平成21年5月29日最終改正)
・ 検察官の管理職員特別勤務手当に関する準則(平成18年3月15日付の法務大臣訓令・平成19年3月6日最終改正)
(その他)
・ 検察庁職員の人事に関する上申手続等に関する訓令(昭和59年9月19日付の法務大臣訓令)
・ 検察庁に勤務する検察官に係る検察官調査表の作成等について(平成21年9月28日付の法務事務次官の依命通達)
・ 法務省職員の訓告等に関する訓令(平成16年4月9日付の法務大臣訓令)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
・ 東京高検検事長の勤務延長問題
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 検事の研修日程
 法務総合研究所
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 各府省幹部職員の任免に関する閣議承認の閣議書
 現行60期以降の,検事任官者に関する法務省のプレスリリース

黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題

目次
0 不祥事発覚から略式命令までの経緯の骨子
1 黒川弘務東京高検検事長の引責辞任
2 森まさこ法務大臣の記者会見における説明
3 東京高検のルールブックの記載
4 黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準
5 検察の在り方検討会議,及び黒川弘務の略歴
6 賭博罪に関する刑法の条文
7 賭博罪に関する裁判例
8 公営賭博及びパチンコの合法性に関する国会答弁(令和2年5月27日追加)
9 取材源の秘匿
10 黒川弘務東京高検検事長の退職手当
11 東京地検特捜部の取材対応のあり方に関する内閣答弁書
12 三井環事件(平成14年4月22日逮捕)関する国会答弁及び政府見解
13 外務省機密費流用事件,及びこれに関する東京地裁平成14年3月29日判決

0 不祥事発覚から略式命令までの経緯の骨子
(1) 黒川弘務 東京高検検事長は,令和2年5月20日,緊急事態宣言下で賭け麻雀をしていたことが週刊文春によって報道されたため,同月21日に訓告処分を受け,同月22日の閣議で辞職を承認されました。
(2) 黒川弘務 元東京高検検事長は,令和2年7月10日,単純賭博罪について起訴猶予となったものの,同年12月8日付の東京第六検察審査会において「起訴相当」議決が出ました。
(3) 東京地検特捜部は,令和3年3月18日,黒川弘務 元東京高検検事長について東京簡易裁判所に略式請求をした結果,同月25日,罰金20万円の略式命令が出ました。


1 黒川弘務東京高検検事長の引責辞任
(1)ア 黒川弘務東京高検検事長は,令和2年1月31日付の閣議決定により,国家公務員法81条の3第1項に基づき同年8月7日まで勤務を延長することとなりましたところ,その理由は下記のとおりです。

   東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するためには,同高等検察庁検事長黒川弘務の検察官としての豊富な経験・知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であり,同人には,当分の間,引き続き同検事長の職務を遂行させる必要がある。
イ 詳細については,「東京高検検事長の勤務延長問題」を参照してください。

(2) 黒川弘務東京高検検事長は,産経新聞の記者2人及び朝日新聞の元検察担当記者と,緊急事態宣言下の令和2年5月1日から翌日及び同月13日,産経新聞の記者の自宅マンションにおいて賭け麻雀をしていたことが同月20日の週刊文春電子版「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”「接待賭けマージャン」」に報じられるなどした結果,同月21日に辞表を提出し,同月22日の閣議で辞職を承認されました。
(3) 令和2年5月22日発表の法務省の調査結果には以下の記載があります。
   黒川検事長が、記者A、記者B及び記者Cとともに、約3年前から、月1、2回程度、前記各事実同様のレート(山中注:いわゆる点ピン(1000点を100円換算とするもの)と呼ばれるレート)で金銭を賭けたマージャンを行っていたことや、記者が帰宅するハイヤーに同乗したことが認められるが、その具体的な日付を特定しての事実の認定には至らなかった。

2 森まさこ法務大臣の記者会見における説明
(1)ア 森まさこ法務大臣は,令和2年5月22日の記者会見において以下の説明をしています。
① 黒川検事長は,令和2年5月,自ら検察官でありながら,そして,自ら東京高検検事長として,東京高検管内の検察官を含め検察庁職員を指揮監督する立場にありながら,東京都内において,記者らとともに,金銭を賭けた麻雀を行ったものでございます。そして,その行為が行われた時期が,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために,政府による緊急事態宣言が行われ,広く国民の皆様に外出自粛が呼び掛けられた時期であり,かつ,私の下で,法務省新型コロナウイルス感染症対策基本的対処方針を定め,ゴールデンウィークに入る直前に,私から,法務・検察職員において,これらを踏まえた活動をとるように強く指示をしていた時期でございます。
 そのような中での黒川検事長の今回の行動は,甚だ不適切であり,強い遺憾の意を覚えるものでございます。一報を聞いた時は,耳を疑いました。国民の皆様に憤りや御不安を与えたこと,検察や行政に対する信頼を損ねたことに対して,法務大臣として,お詫びを申し上げるものでございます。
② これ(山中注:黒川検事長に対する訓告処分)については,法務省内,任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが,最終的には任命権者である内閣において,決定がなされたということでございます。
 その際,賭け麻雀における過去の処分の例ですとか,刑法の賭博罪と人事院の規則の賭博についての定義の考え方ですとか,刑法の方は刑事処分が関連してまいりますので,人事院規則の方とは全く同じではないという説明も受けました。その中で刑法の賭博罪についても,立件される程度があるという説明もございました。様々なことを総合考慮した上で,内閣で決定したものを,私が検事総長にこういった処分が相当であるのではないかということを申し上げ,監督者である検事総長から訓告処分にするという知らせを受けたところでございます。
イ 検事長に対する訓告処分は検事総長が行うことになっています(法務省職員の訓告等に関する訓令(平成16年4月9日付の法務大臣訓令)参照)。
(2) 法務省の調査は5月21日に実施されただけと思いますが,菅義偉官房長官は,令和2年5月22日の記者会見において,黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題について再調査は不要という認識を示しました(gooニュースの「黒川氏の再調査は不要 菅官房長官、退職金「規定に基づき支給」」参照)。


3 東京高検のルールブックの記載
   品位と誇りを胸に(三訂版)(平成25年9月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)には以下の記載があります(ただし,最新版は,品位と誇りを胸に(五訂版)(平成31年3月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)です。)。

(1) 末尾5頁(PDF11頁)の記載(服務規律に関する記載です。)
 信用失墜行為の代表的なものは,収賄などの汚職ですが,職務との関連で整理すると次のとおりです。信用失墜行為については,刑事罰の対象となる事案が多く,そのほとんどは刑事罰に加え免職などの懲戒処分を受けることになります。
① 職務に直接関連するもの
   業務上横領,職権濫用,運転業務中の交通違反・事故,カラ出張などの不正経理等
② 職務に関連するもの
   職務遂行中の暴言,飲食物等の供応の受領,収賄,セクハラ等
③ 職務と関連しないもの
   勤務時間外の交通違反・事故,麻雀等の常習賭博,わいせつ行為等の犯罪行為等

(2) 12頁(PDF18頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
※ 以下の者については,「利害関係者に当たらない。」とされていますが,職務の公正さを疑われるような接触は厳に慎むべきであるとされています。
・ 被害者等の参考人
・ 告訴人,告発人又はその代理人
・ 人事訴訟の相手方等,検察官が公益の代表者として行動する場合の関係者及びその代理人
・ 裁判所職員
・ 警察その他の捜査機関や国税局の職員
・ マスコミ関係者

(3) 13頁(PDF19頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
エ 利害関係者から,無償で役務の提供を受けてはならない。
※ 「無償で役務の提供を受ける」とは,ハイヤーによる送迎の提供を受けることなどがこれに該当します。
(中略)
カ 利害関係者から,供応接待(酒食等のもてなし)を受けてはならない。
※ 「酒食等のもてなし」とは,酒食のほか,「ゴルフ,観劇などによるもてなし」も含まれます。
キ 利害関係者と一緒に遊技又はゴルフをしてはならない。
※ 「遊技」としては,麻雀,パチンコ,ポーカーなどが該当します。
   また,自分の費用を負担する場合でも,利害関係者と一緒にこれらの遊戯をすることはできません。

(4) 14頁(PDF120頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
 相手が利害関係者ではない場合でも,次の行為をすることは禁止されています。
◎ 供応接待を繰り返し受けるなど,社会通念上相当と認められる程度を超えるような行為
◎ つけ回し(飲食物の料金などを,その場に居合わせない者に支払わせる行為)
(中略)
 違反行為を組織的に助長したり,真相の解明を妨害する行為を防止するため,次の行為をすることは禁止されています。
(中略)
◎ 部下に,国家公務員倫理法等に違反する行為を行った疑いがある場合に,管理職の立場にある職員がこれを黙認すること。
(5) 15頁(PDF21頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
   検察庁は社会の非違をただすべき責務を担う役所であり,そこに所属する私たち職員に対する国民の目は,一般の国家公務員に対するそれよりも当然に厳しいものとなることに思いを致せば,たとえ形式的には規制に抵触しないとされる行為であっても,国民に不審を抱かせるおそれのある行為は厳に慎まなければなりません。常に「瓜田に履を納れず」「李下に冠を正さず」の心構えを持って自らの行動を律することが大切です。
(6) 25頁(PDF31頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
   社会の正義と安全を守る役割を担う検察庁職員が上記のような非違行為事案を発生させれば,検察に対する国民の信頼と期待を大きく損なうばかりでなく,検察業務ひいては公務全体の円滑な運営に支障を来すことは言うまでもありません。
   最も大切なのは,検察庁職員は他の公務員以上に高い倫理観を持たなければならないということであり,非違行為事案が発生すれば,個人の資質を断罪されるだけにとどまらず,検察庁全体が社会から厳しく糾弾され,著しく国民の信頼を損なうことになることを常に念頭に置き,自らを厳しく律していく必要があります。
(7) 33頁及び34頁(PDF37頁及び38頁)の記載(懲戒処分に関する記載です。)
   最近,公務員の不祥事等に対する国民の目は厳しさを増してきており,懲戒処分についてもマスコミに取り上げられるケースが増えてきています。懲戒処分が組織や家族にどのような被害を与えるか考えてみましょう。
ア 組織
   懲戒処分が公表された場合,あの組織は規律が緩んでいる,他にも同じようなことをしている職員がいるのではないかなどの疑念を生じさせるなど,その組織は国民からの信頼を失います。法秩序の維持を使命とする我々検察庁職員の場合は,より厳しい批判を受けることになるでしょう。
   組織に対する信頼が一旦失われると,それを回復するには,多数の人の長年の努力を必要とします。
イ 家族
   懲戒処分は,家族にも被害を与えることになります。配偶者や子供は,職員の経済上の損失の影響を受けるだけではなく,精神的に重大な被害を受けることもあります。


4 黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準
(1) 品位と誇りを胸に(三訂版)(平成25年9月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)末尾29頁ないし32頁(PDF35頁ないし38頁)によれば,黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準は以下のとおりです。
① 賭博は減給又は戒告であり,常習賭博は停職です。
② 利害関係者又は利害関係者の負担により,無償で役務の提供を受けることは,免職,停職,減給又は戒告です。
③ 利害関係者から供応接待(飲食物の提供に限る。)を受けることは,減給又は戒告です。
④ 利害関係者から遊技の接待を受けることは,減給又は戒告です。
⑤ 利害関係者に該当しない事業者等から社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けることは,減給又は戒告です。
(2)ア 黒川弘務東京高検検事長が受けた訓告は監督上の措置の一種です。
イ 監督上の措置とは,職員の一定の義務違反ないし非違行為について,懲戒処分を科するまでには至らないと認められる場合で,服務の厳正を保持し,又は当該職員の職務の履行に関して改善向上を図るため必要があると認められるときに,指揮監督権限を有する上級の職員が行う措置をいいます(法務省職員の訓告等に関する訓令(平成16年4月9日付の法務大臣訓令)参照)。
ウ 法務省職員の訓告等に関する訓令の運用について(平成16年4月9日付の法務省大臣官房人事課長の依命通達)を掲載しています。

(3) 衆議院議員鈴木宗男君提出外務省職員による賭博に関する質問に対する答弁書(平成18年12月19日付)には以下の記載があります。
① 刑法(明治四十年法律第四十五号)において、「賭博」とは、偶然の事実によって財物の得喪を争うことをいう。
② 一時の娯楽に供する物を賭けた場合を除き、財物を賭けて麻雀又はいわゆるルーレット・ゲームを行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる。
③ 一般論として申し上げれば、一般職の国家公務員が賭博を行うことは、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第九十九条に規定される信用失墜行為に該当する可能性があるものと考えられ、同条の規定は、外務公務員法(昭和二十七年法律第四十一号)第三条及び第四条第一項の規定により、外務省の在外職員にも適用又は準用される。なお、刑法の賭博罪には国外犯処罰規定がなく、日本国外において賭博を行うことが処罰の対象となるか否かについては、行為地の法令に則して判断されるべきものである。
(4)ア 人事院HPの「通報がきっかけとなって発覚した違反事案の例」には,以下の懲戒事案が掲載されています。
① 「厚生労働省の地方機関の長等幹部職員を含む4人の職員が、許認可、補助金交付等の相手方である団体の職員と、多数回にわたり飲食を共にしながら麻雀をしたもの。」につき,減給1月(俸給の月額の10分の1)、戒告(3人)
② 「厚生労働省の地方支分部局の職員2名が、立入検査・監査又は監察の相手方として利害関係者である事業者と共に、平成17年4月から平成19年3月までの間、月に2回から3回程度、麻雀を行ったもの。」につき,戒告(2人)
イ 人事院HPに「公務員倫理 基本事例集」(国家公務員倫理審査会が作成したもの)が載っています。
ウ 「岡口基一裁判官に対する分限裁判」も参照してください。


5 検察の在り方検討会議,及び黒川弘務の略歴
(1)ア 検察の在り方検討会議が平成23年3月31日に発表した「検察の再生に向けて」には以下の記載があります。
   前記のような重大な使命・役割(山中注:被疑者・被告人の権利保障と事案の真相解明に努めることにより,えん罪を防止し,真犯人の適切な処罰を実現するという使命・役割)を担う検察官には,他人の非違を糾す者として,一般の公務員以上に高い倫理性,廉潔性が求められている。それにもかかわらず,検察官には,国家公務員としての服務規律のほかに,職務上の行為の基準を明文化した独自の基本規程は存在していない。これは,そうした明文の規律を及ぼさなくても個々の検察官が自らを厳しく律しているとの信頼があったからであるとも考えられる。しかし,今般の事態は,そのような信頼を根本から裏切るものであって,個々の検察官に自らの使命・役割を再認識させ,日々の職務の指針とすることができるようにするため,検察官が遵守するべき基本規程を明文化することが求められるに至っている。
   そこで,検察においては,検察官が職務の遂行に当たって従うべき基本規程を明文化し,これを公表することにより,改めて,検察官の使命・役割を内外に明確にするべきである。
イ 平成23年9月28日に開催された検察長官会同において検察の理念が策定され,同月30日,公表されました。
(2)ア 黒川弘務は,法務省大臣官房付(特命担当)として,検察の在り方検討会議(平成22年11月10日初会合)の事務局をしたり,平成28年9月から平成31年1月までの間,法務事務次官(法務省の倫理監督官です。)をしたりしました。
イ 倫理監督官は,その属する行政機関等の職員に対しその職務に係る倫理の保持に関し必要な指導及び助言を行うとともに,国家公務員倫理審査会の指示に従い,当該行政機関等の職員の職務に係る倫理の保持のための体制の整備を行います(国家公務員倫理法39条2項)。
ウ 特定複合観光施設区域整備推進会議(平成29年4月6日初会合)は,平成29年7月31日,「観光先進国の実現に向けて」を副題とする取りまとめを作成し,平成30年12月4日,「主な政令事項に係る基本的な考え方」を副題とする取りまとめを作成しましたところ,いずれの時期についても,黒川弘務が法務事務次官をしていました。
エ 「黒川弘務東京高検検事長の略歴(令和2年1月30日時点)」も参照してください。


6 賭博罪に関する刑法の条文
(1) 刑法185条(賭博)
   賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(2) 刑法186条(常習賭博及び賭博場開張等図利)
① 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
② 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
→ 刑法186条2項につき,前段が賭博場開帳図利罪であり,後段が博徒結合図利罪です。

7 賭博罪に関する裁判例
(1) 常習性の認定
ア 最高裁昭和24年1月11日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博常習性の有無は専ら、各被告人個人の習癖の有無によつて決せられることであるから、本件賭博の共犯者中に賭博開帳罪に該當するものがなく、又同罪によつて處斷されたものがなかつたとしても、それによつて被告人兩名に對する常習賭博罪の成立が阻却される理由は少しも存しない。
イ 最高裁昭和24年2月24日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   刑法第一八六條第一項に所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であつて、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない。又かかる習癖のあるものである以上たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである。
ウ 最高裁昭和25年3月10日判決(裁判所HP)の判示(改行を追加。なお,令和2年5月26日の参議院法務委員会における川原隆司法務省刑事局長の答弁で言及されたもの)
   賭博の常習とは犯人に反覆して賭博をする習癖があることをいうのであつて必ずしも賭博の前科のあることを要するものではない、そしてその習癖のあらわれた賭博行為であるか否やは現に行われた賭博の種類、賭金の多寡、賭博の行われた期間、度数、前科の有無等諸般の事情を斟酌して裁判所の判断すべき事項である。
   原審は原判決挙示の証拠と判示賭博行為をした事跡によつて被告人等の常習の点を認定しているのであるが右証拠によれば、本件賭博の種類、態容、賭金の額等が判るのみならず被告人等は昭和二三年五、六月の頃本件賭博を数回に亘つて反覆していることが判るのであるから原審がこれらの事実によつて被告人等の本件賭博行為を常習と判断したことは正当で右判断をもつて常識に反するものということはできない。
エ 最高裁昭和25年10月6日(判例秘書)の判決要旨
① 昭和23年3月29日頃、同年6月1日頃及び同月12日頃の3回に亘り「カブ」外一種の賭博を反覆したという事実によつて、賭博の常習性を認定しても、実験則に反しない。
② 昭和19年9月10日賭博罪により罰金刑に処せられておりながら、さらに昭和23年10月14日麻雀賭博をしたことによつて、賭博の常習性を認定しても実験則に反しない。
オ 最高裁大法廷昭和26年8月1日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博の前科のみによつて賭博の常習性を認定することは必らずしも違法ではなく、また所論の右最終前科と本件賭博との間にたとい四年の歳月を経過していればとて、右前科を賭博常習認定の一資料とすることに何等経験則上の違背も認めることはできない。


(2) 処罰対象となった麻雀のレート
ア 京都地裁平成24年11月5日判決(担当裁判官は57期の宮端謙一)の認定事実
① 判示の「△△」(以下「本件麻雀店」という)は,全国に展開する「□□グループ」に属する麻雀店である。本件麻雀店では,各別に来店するいわゆるフリーの客に,「東南戦」と称する賭麻雀をさせており,1000点を100円として精算する「テンピン」と,1000点を50円として精算する「テンゴ」の2種類のレートを採用していた。
② 本件麻雀店では,上記のとおり,決して低廉とはいえない金銭のやり取りがされる賭麻雀を不特定多数の客にさせ,ゲームごとに相応の代金を徴収し,メンバーが足りない場合には従業員やアルバイト店員に参加させて客に待たせることなく賭麻雀ができるようにし,そのために従業員らに金銭を貸したり,給料支払時に勝ち負けを精算することまでしていたということになる。このような本件麻雀店で行われていた賭博開張図利行為をもって,違法性を欠くということはできない。
③ 弁護人らは,上記のとおりの賭麻雀をもって,低レートであるとか,賭金額が少ない等と主張するが,いずれも独自の主張であって採用することはできない。
   また,現在競馬等の公営賭博が盛んに行われているとして,社会が賭博に対して寛容になり,賭博罪の違法性が弱まっているとも主張する。しかしながら,関係法令の規制下にある公営賭博とそれ以外の賭博とは一線を画しているのであり,公営賭博を巡る状況が賭博罪の違法性に影響を与えているとは認められない。また,パチンコに関する主張についても,それが本件行為の違法性に影響を与えるとはいえず,理由がない。
   そのほか,弁護人らは,種々の事情を挙げて,違法性に関する主張をするが,いずれも理由がなく採用できない。


(3) 賭博罪の必要的判示事項
ア 最高裁昭和26年1月25日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博罪は二人で偶然の事情により勝負を決しこれに財物を賭けることによつて成立するものであり、その相手方が特定の人物であること及びその員数の如きは必ずしも賭博罪成立の要件ではない。されば所論のように被告人等のなした各賭博行為毎にその相手方の員数及びその氏名を明確に判示しなかつたとしても違法はない。
イ 最高裁昭和37年6月26日決定(裁判所HP)の判示
   原判決が、一審判決判示第一の事実について、その認定のように、金銭を賭けて麻雀遊技をした以上、勝敗を決するに至らず、また賭金の授受がなされるに至らなかつたとしても、賭博罪の成立に欠けるところはない旨判示したのは正当である。
ウ 最高裁昭和53年12月5日決定(裁判所HP)の判示
   常習賭博罪の訴因における常習性については、常習性を示す具体的事実を起訴状に記載する必要はなく、単に「常習として」と記載すれば足りるものと解すべきであるから、これと同趣旨に出た原判断は相当である。
エ 最高裁昭和61年10月28日決定(裁判所HP)の判示事項
   多数の賭博遊技機を設置した遊技場の経営者が、不特定多数の遊技客との賭博を反覆継続した事案につき、右遊技場の営業継続期間の全般にわたつて行われた各賭博行為を一個の常習賭博罪と認定する場合には、右遊技場の所在地、営業継続期間、遊技機の種類・台数、賭博の態様を摘示したうえ、「右期間中、常習として、甲ほか不特定多数の賭客を相手とし、多数回にわたり、右遊技機を使用して賭博をした」旨判示した程度であつても、常習賭博罪の罪となるべき事実の具体的摘示として欠けるところはない。
(4) 常習賭博罪の罪数
ア 最高裁昭和26年4月10日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   常習賭博罪における数個の賭博行為は、包括して単純な一罪を構成する。
(5) 賭博させる場所
ア 東京高裁昭和44年11月5日判決(判例秘書)の判示
   賭博開張図利罪は、犯人が利益をえる目的で、自ら主宰者となり、賭博をさせる場所を開設することにより成立し、その場所はとくに賭博をさせる目的で設けられたものであることを必要とせず、その目的とする利益は賭博場開設の対価としての性格を有する限り、寺銭、入場料などその名義のいかんを問わないものであり、また、開張者自身が賭博行為に加わることも必要ではないと解すべきである
(6) 常習賭博罪は不真正身分犯であること
ア 最高裁大法廷昭和26年8月1日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   刑法第一八六条の常習賭博罪が同第一八五条の単純賭博罪に比し、賭博常習者という身分によつて刑を加重していることは所論のとおりである。そして右加重の理由は賭博を反覆する習癖にあるのであつて、即ち常習者賭博は単純賭博に比しその反社会性が顕著で、犯情が重いとされるからである。そして、賭博常習者というのは、賭博を反覆する習癖、即ち犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法第一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。されば刑法第一八六条の規定をもつて憲法第一四条に違反するものであるとの趣旨は到底これを採用することはできない。

8 公営賭博及びパチンコの合法性に関する国会答弁
(1) 平成14年3月28日の参議院経済産業委員会における答弁
ア 河村博法務大臣官房審議官の答弁
① 典型的な例ではございますけれども、競馬法上の競馬でございますとか御指摘の自転車競技法の競輪などの行為につきましては、確かに形式的には刑法の賭博罪なり富くじ罪に該当し得るものではございます。
 しかしながら、例えば競馬法ということで申し上げますと、この競馬法に基づいて行われます勝馬投票券の販売行為などにつきましては、その主催者を日本中央競馬会、都道府県などと定めまして、馬の改良増殖その他畜産の振興という健全な社会的な目的を掲げた上で、所管されております農林水産大臣などの監督の下に所定の制限、罰則を設けて、公正な競馬及び勝馬投票券の販売などを行わせることとしているものでございまして、その限りにおきまして、法令による行為として違法性が阻却されるというふうに考えられております。
② まず、条例でございますが、条例は、具体的な規定を申し上げませんですが、憲法によりましても法律の範囲内で制定することができるとされておりまして、地方自治法上も法令に違反しない限りにおいて条例を制定することができるとされているところでございます。
 ところで、この賭博罪につきましては、刑法によってそれが禁止され、処罰されるということとされておりますので、その成立範囲を競馬法など特別の国の法律により限定することは可能でございますけれども、法律の範囲内でのみ制定できる条例におきましては賭博罪の成立範囲を限定する規定を設けることはできないと考えております。
③ 賭博に対します国民一般の認識につきましては、確かに時代とともに変化し得るものではございますけれども、これまでの法務省での検討と申しますか、まず昭和四十年代等に行われました全面改正での議論におきましても、賭博罪は存置することとされております。
 その後、罰金額を全面的に引き上げましたり、これは平成三年、あるいは平成七年には口語化とともに一部罰則を廃止したり、条文を廃止したりいたしておりますけれども、現段階において、賭博罪を廃止し、又はその成立範囲を一般的に限定すべき特段の必要性は認められないものと考えておりまして、実際、その賭博行為につきましては社会の風俗を害するという見地から刑法上の犯罪とされているわけでございますし、現に相当数の事件が起訴されているところでございます。
イ 黒澤正和警察庁生活安全局長の答弁
① いわゆるのみ行為でございますけれども、公営競技の主催者等正規に勝者投票券などを発売できる者以外の者が公営競技に関して勝者投票等類似行為をさせて財産上の利益を図る行為、これがのみ行為でございまして、このことは、公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに、地方財政の改善を図るという公営競技の目的を損なうものとして、自転車競技法等関係法律で禁止されております。そしてまた、暴力団が恒常的にその資金源にしているという意味におきまして悪質な行為と考えておるところでございます。
 平成十二年中の数字でございますけれども、すべての公営競技に係るのみ行為の検挙件数でございますが、二百二十二件となっております。このうち、暴力団関係者によって行われたものが二百十四件でございまして、全体の九六%を占めております。
 警察といたしましては、暴力団関係者が関与するなど悪質な事犯を中心に、競技主催者などと緊密な連携を図りながら、のみ行為に対しまして積極的な検挙活動を推進してまいりたいと考えておるところでございます。
② お尋ねの件でございますけれども、競技の、失礼しました、遊技の結果に応じて客に賞品を提供する営業であるパチンコ営業は、その営業の態様によりましては客の射幸心をそそることとなりまして、先ほど来出ておりますけれども、善良の風俗と清浄な風俗環境を阻害するおそれがあるかと思います。委員御指摘のとおりでございますが、このため、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律におきまして、パチンコ営業等、客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業を風俗営業として位置付けまして、所要の規制がなされておるわけでございます。
 具体的には、パチンコ営業を営もうとする者はあらかじめ公安委員会の許可を受けなければならず、公安委員会は、当該許可申請者が過去五年以内に賭博罪等を犯し、刑に処せられた者である場合、あるいは暴力的不法行為を行うおそれがあると認められる者など、一定の欠格事由に該当する場合は許可をしてはならないとされております。また、この法律におきましては、著しく客の射幸心をそそるおそれがある遊技機の設置を禁止しているほか、遊技料金、賞品の提供方法及び賞品の価格の最高限度を規制しておるわけでございます。
 この風適法で認められた範囲内で営まれるパチンコ営業者については、賭博罪に当たる行為を行っているとの評価を受けることはないものと考えておるところでございます。
(2) 平成30年6月14日の参議院法務委員会における辻裕教法務省刑事局長の答弁
① 私の方からは刑法上の賭博の定義について申し上げますけれども、刑法上の賭博については、一般に、偶然の勝負に関し財物の得喪を争うことをいうと解されているものと承知しております。
② パチンコにつきまして、個別の事案におきまして、犯罪の成否は個別の事案において収集された証拠に基づいて判断すべきものでありますし、パチンコと一口に申しましてもいろんな形態があるものと思いますので、必ずしも一概にお答えすることは難しい面もございますけれども、いわゆるパチンコ営業につきましては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の範囲内で適法に行われているというものにつきましては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たらないというふうに理解しております。
③ あくまで刑法上の概念について申し上げますけれども、いわゆるtoto、スポーツ振興投票券を販売する行為は、刑法で申しますと賭博ないし富くじに係る行為に該当し得ると考えられますけれども、スポーツ振興投票の実施等に関する法律にのっとって行われるものである限り、刑法第三十五条の法令行為として違法性が阻却され、賭博罪等は成立しないものと承知しております。
(3) 外部HPの「パチンコの特殊景品ってどれぐらいの価値があるの?プロの買取業者に売ってみた。」(2016年5月25日付)では,パチンコの特殊景品としてもらった,金地金1グラム,0.3グラム及び0.1グラムの板材を買取業者に売った際の体験談が載っています。


9 取材源の秘匿
(1)ア 西山事件に関する最高裁昭和53年5月31日決定(裁判所HP)は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
   報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。
   しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。

イ 最高裁平成18年10月3日決定(裁判所HP)は以下の判示をしています。
   民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。
(2)ア 愛媛玉串訴訟に関する最高裁大法廷平成9年4月2日判決(裁判所HP)に関しては,その評議内容に関する記事が平成9年2月9日の朝日新聞及び共同通信配信地方紙に掲載されました。
   そのため,最高裁は,評議の秘密が外部に漏洩したかどうかを確認するため,裁判部の担当記者を複数回呼び出し,直接本人から繰り返し取材経過等について釈明を聴取しました。
イ 「愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決(最高裁大法廷平成9年4月2日判決)の事前漏えい疑惑に関する国会答弁」も参照してください。
(3) 令和2年5月20日の週刊文春の記事によれば,「今週の金曜日に、いつもの面子で黒川氏が賭けマージャンをする」という情報が,4月下旬,産経新聞関係者から週刊文春にもたらされたことから,黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀が実施された産経新聞記者の自宅マンションへの張り込みが実施されたみたいです。
(4) ヤフージャパンニュースの「問われるべきは検察幹部とマスコミの「ズブズブ」関係 取材のあり方にもメスを」(2020年5月25日付)には以下の記載があります。
① 確かに、幹部による情報リークはある。その背景や検察にとってのメリット・デメリット、メディアコントロールの狙いなどは、すでに拙稿「なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか (1)」、「同(2)」、「同(3)」で記したとおりだ。
 ただ、今回の騒動で、さすがに検事総長にもなろうという人物は違うなと思ったのは、黒川弘務氏が産経新聞と朝日新聞という、両極にあるメディアの記者らと賭け麻雀をするほど「ズブズブ」の関係に至っていたという点だ。
② 中には口の堅い者もいるにはいるが、本来であれば庁内で行われる公式の記者対応しかやってはならないはずなのに、「夜討ち朝駆け」に応じたり、記者と飲み食いなどをして関係を深めていく者も出てくるわけだ。

 とはいえ、さすがに黒川氏のように記者の自宅に上がり込むとか、「三密」の回避や外出自粛が呼びかけられていた緊急事態宣言下で記者と賭け麻雀を繰り返すとか、そのハイヤーで帰宅するといった幹部など聞いたことがない。

10 東京地検特捜部の取材対応のあり方に関する内閣答弁書
(1) 衆議院議員鈴木宗男君提出鳩山由紀夫内閣における東京地方検察庁特別捜査部の取材対応のあり方等に関する質問に対する答弁書(平成22年1月26日付)には以下の記載があります。
① 東京地方検察庁における報道機関に対する対応については、平成二十一年四月二十一日、衆議院決算行政監視委員会第四分科会において、大野法務省刑事局長(当時)が、「部長、副部長以外の検察官あるいは検察事務官に対しては接触をしないように報道機関に対してお願いをしている」と答弁したとおりである。
② 検察庁の職員を含む一般職の国家公務員に関しては、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百条において「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」と規定されており、同条の規定に違反した場合には、同法第百九条の規定により、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処されることとされているところであって、御指摘のような罰則を設けることは考えていない。
③ 検察の活動内容は、基本的には、公開の法廷における主張や立証を通じて公にされるべきものであり、検察当局において、起訴した場合に記者会見を行うことがあるのは、検察当局の活動を国民に正しく理解していただくため、あるいは社会に無用の誤解を与えないようにするために、公訴事実の概要等を説明するものに過ぎず、その限りの会見を行う際に、テレビカメラを入れなかったとしても、その対応に問題があるとは考えていない。
(2) 衆議院議員鈴木宗男君提出東京地方検察庁特別捜査部による報道機関への取材拒否等に関する質問に対する答弁書(平成22年2月2日付)には以下の記載があります。
   検察当局においては、従来から、捜査上の秘密の保持について格別の配慮を払ってきたものであり、捜査情報や捜査方針を外部に漏らすことはないものと考えているところ、東京地方検察庁において、御指摘のような「取材」(山中注:ある刑事事件に関し、東京地検としていつ誰に聴取を要請する方針でいるか、また聴取に応じた人物がどの様なことを述べたか、他には、例えば逮捕された容疑者が自身にかけられた容疑についてどの様な供述をしているか、またその供述の結果、何らかの新たな容疑が見つかったか、更には別の人物が容疑者として浮上したか等、ある刑事事件の捜査がどの様に推移しているかに関する情報についての取材)に対応することはなく、お尋ねについてお答えすることは困難である。


11 黒川弘務東京高検検事長の退職手当
(1) 退職手当の計算式は以下のとおりです(内閣官房HPの「国家公務員の退職手当制度の概要」参照)。
退職手当=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額
(2)ア 黒川弘務東京高検検事長の場合,退職手当に関する事情は以下のとおりです。
① 退職時の俸給月額:130万2000円
・ 検察官の俸給等に関する法律2条及び別表が根拠であり,裁判官の報酬等に関する法律2条及び別表に基づくその他の高等裁判所長官(つまり,東京高裁長官以外の高裁長官)と同じ金額です。
② 退職理由別・勤続期間別支給率(調整率を乗じた後のもの):自己都合退職に基づく41.7663(平成30年1月1日以降)
・ 1983年4月に検事となり,2020年5月に依願退官しましたから,勤続年数は37年です。
・ 国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)が根拠です。
③ 調整額:基本額の8.3%(平成30年1月1日以降)
・ 国家公務員退職手当法6条の4第4項5号イ・附則26項が根拠です。
イ 黒川弘務東京高検検事長の退職手当は以下のとおりと思います
   130万2000円✕41.7663✕1.083=5889万3239円
ウ 黒川弘務東京高検検事長が令和2年2月7日限りで定年退官していた場合,退職手当の支給率(調整率を乗じた後のもの)は47.709でしたから,この場合の退職手当は以下のとおりと思います。
   130万2000円✕47.709✕1.083=6727万2838円
(3) 仮に黒川弘務東京高検検事長が常習賭博罪で懲役刑(執行猶予付きを含む。)に処せられた場合,国家公務員退職手当法15条1項1号に基づき,退職手当審査会の諮問(国家公務員退職手当法19条1項)を経た上で,退職手当の全部又は一部の返納を命ずる処分が行われます。
裁判官・検察官の給与月額表(令和2年1月1日現在)


12 三井環事件(平成14年4月22日逮捕)関する国会答弁及び政府見解
(1)ア 森山眞弓法務大臣は,平成14年4月26日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 四月二十二日、大阪地検におきまして、大阪高検公安部長でありました三井環検事(山中注:24期です。)を、暴力団関係者らとの共謀による電磁的公正証書原本不実記録、同供用及び詐欺並びに公務員職権乱用の被疑事実によりまして、共犯者である暴力団関係者ら三名とともに逮捕したわけでございますが、簡単にその概要を御説明申し上げますと、逮捕事実の概要といたしまして、第一に、三井検事が暴力団関係者と不動産取引を行いまして、その過程で暴力団関係者らと共謀の上、不正な手段により不動産登記の登録免許税率の軽減を受け、登録免許税約四十八万円相当の納付を免れようと企て、みずから虚偽の住民登録をし、これを利用して区役所から登録免許税率の軽減を受けるために必要な証明書をだまし取ったというものであり、第二に、三井検事が、暴力団関係者との不動産取引交渉が難航するや、その交渉に利するため、みずからの職権を乱用して、交渉相手である暴力団関係者の前科調書を不正に取得したというものでございます。
 本件につきましては、三井検事が不動産取引に絡んで暴力団関係者から金銭の提供や酒食等の接待などを受けている旨の情報が大阪高検に寄せられましたことから、大阪高検において慎重に内偵を進めたものでございますが、犯罪に問うべき行為があることが明らかになりまして、大阪地検に指示いたしまして捜査を行わせることになったものでございます。
 大阪地検としては、本件が、現職の幹部検察官が暴力団関係者らと共謀し、あるいは検察官の職権を乱用したという事案でありまして、極めて重大かつ悪質である上、暴力団関係者らとの通謀による罪証隠滅のおそれがあるということから、強制捜査が必要であると判断いたしまして、裁判所から令状の発付を受けまして、三井検事及び共犯者である暴力団関係者らの逮捕に踏み切ったものでございます。
 これは、冒頭にも申し上げましたように、他人の刑事責任を追及するべき検察庁の幹部としてあるまじき、まことにとんでもない事件でございまして、本当に遺憾のきわみでございます。
 大阪地検におきまして、本件につきましては今後全容の解明がなされるというふうに考えておりますが、その解明に基づきまして厳正に対処していかなければいけないというふうに思う次第でございます。
② 調査活動費につきましても、その性格上、すべてを御報告申し上げるということができない部分もございますけれども、できる限り明らかにいたしまして、しっかりと説明し、御理解を得るべく努力をしなければいけないというふうに思っております。
イ 森山眞弓法務大臣は,平成14年5月31日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① この際、三井環前大阪高等検察庁公安部長による事件について御報告いたします。
 三井元検事による事件につきましては、大阪地方検察庁におきまして、昨日、収賄及び公務員職権乱用罪により、大阪地方裁判所に公判請求いたしました。現職幹部検事が、暴力団関係者と私的に交際した上、このような不祥事を起こしたことはまことに遺憾であり、国民の皆様に対し、改めて深くおわび申し上げます。
 昨日、私から小泉総理大臣に対しまして、本件事案の概要等について御報告し、法務大臣として責任を痛感していると申し上げました。小泉総理大臣からは、検察に対する国民の信頼が著しく損なわれたことはまことに遺憾であり、法務大臣として、再びこのような事態を招かないように、検察が厳格な綱紀の維持を図り、万全な再発防止策を講ずるよう適切に対処されたい旨厳重に注意されました。私はこれを厳粛に受けとめております。
 そこで、今回の事件を反省し、このような事態の再発を防止するために、検事総長に対しまして、検察庁職員の綱紀の保持を徹底すること、検察官の人事評価のより一層の適正化を図ること、検察組織の再点検を行うことを指示したほか、前科照会の事実を事後的に確実に把握できるよう、関係する例規を改めるなどいたしました。
② 職員の処分について申し上げます。
 三井元検事の犯罪は、収賄及び公務員職権乱用という職務に関する犯罪であり、三井元検事に対する指揮監督が十全でなかったと言わざるを得ず、その監督責任は免れないものと考えます。
 そこで、大塚清明大阪高等検察庁次席検事については、監督責任として三月間俸給の月額百分の十の減給処分とすることとしたほか、原田明夫検事総長及び東條伸一郎大阪高等検察庁検事長については、それぞれの監督責任につき、懲戒処分として、原田検事総長を戒告に、東條検事長を一月間俸給の月額百分の十の減給に処する旨が本日の閣議において決定されました。
③ 本件は、三井元検事という特異な資質の人物が引き起こした犯罪とは考えられますが、検察官は、国民の負託を受けて犯罪を捜査し訴追するという重大な責任を担っているものでありまして、私は、検察に対し、本件を教訓として、高い倫理観を持って職務に励み、国民の期待にこたえることを求めたところであります。
④ 以上、御報告申し上げます。
(2)ア 平成13年1月10日発売の「噂の真相」(平成13年2月号),当時の大阪地検検事正X氏が,高知地検検事正時代に約400万円にも上る調査活動費を指摘に流用していたというスクープ記事が載り,X氏は,①同年3月29日に最高検察庁に告発されましたし(①につき高松高検に移送されました。),②同年5月11日に神戸地検検事正としての行為について最高検察庁に告発されました(②につき大阪高検に移送されました。)から,同年4月23日に高松高検検事長に就任するという内示が,同月28日に就任した森山眞弓法務大臣によって取り消されました。
 法務省は同年10月23日までに福岡高検検事長にする旨の上申をしたものの,内閣から再考を求められました。
 大阪高検は同年11月5日,X氏について「嫌疑なし」で不起訴処分としましたし,高松高検は同月13日,同月9日の事情聴取を経た上でX氏について「嫌疑なし」で不起訴処分としました。
 そのため,同月13日,X氏の福岡高検検事長への就任が内閣で承認され,同月15日,認証式が行われました。
イ X氏に関しては,「告発!検察「裏ガネ作り」」67頁ないし90頁に詳しい事情が書いてあります。
(3)ア 高松検察審査会は,福岡高検検事長に就任したX氏について,平成14年4月12日,不起訴相当の議決をしました(司法の病巣179頁)。
イ 三井環の逮捕は,平成14年4月20日(土),大阪地検,大阪高検及び最高検の幹部で実施された検察首脳会議で決定されました(司法の病巣176頁及び177頁)。
ウ 政府見解によれば,平成14年4月22日の三井環大阪高検公安部長(24期)の逮捕は,検察当局において法と証拠に基づき行われたものであって,検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意したこととは関係がないことになっています(衆議院議員鈴木宗男君提出検察組織における調査活動費の裏金流用に関する質問(平成20年4月4日付)参照
(4)ア 衆議院議員鈴木宗男君提出検察組織における調査活動費の裏金流用に関する再質問に対する答弁書(平成20年4月15日付)には以下の記載があります。
① 調査活動費を含む検察庁の予算の執行については、領収書等の証拠書類を整備し、会計検査院による検査を受けている。
② 御指摘の「決意」(山中注:三井氏が二〇〇二年四月二十二日に逮捕される以前、検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意していたこと)については、検察当局において、把握していなかったものと承知している。
③ 御指摘の「問題点」、「指摘」等の意味が必ずしも明らかではないが、見直しの当時においても、調査活動費は、適正に執行されているものと考えていた。
イ 衆議院議員鈴木宗男君提出検察庁における調査活動費の裏金流用疑惑に対する鳩山由紀夫内閣の見解に関する質問に対する答弁書(平成22年1月29日付)には以下の記載があります。
① 検察庁の調査活動費は、適正に執行されていることから、御指摘のような調査をする必要はないものと考えている。
② 御指摘の者については、検察当局において、法と証拠に基づき逮捕したものであり、御指摘のような「関係」(山中注:三井氏が逮捕されたことと、検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意したこととの関係)はないものと承知している。
③ 平成二十一年度の検察庁における調査活動費の予算額は七千五百十一万八千円であり、平成二十二年度予算において検察庁の調査活動費として七千五百十一万八千円が計上されている。
④ 検察庁における調査活動費が減少したのは、公安情勢が大きく変化したことなどにより、調査活動の方法等の見直しを行い、情報収集の多様化・効率化を進めたことなどによるものである。
ウ 自民党政権であると,民主党政権であるとを問わず,検察庁の調査活動費は適正に執行されていたという説明は一貫しています。

13 外務省機密費流用事件,及びこれに関する東京地裁平成14年3月29日判決
(1)ア 外務省機密費流用事件というのは,平成5年10月10日から平成11年8月16日までの間,松尾克俊 外務省要人外国訪問支援室長が9億8800万円に上る官房機密費を受領し,約7億円(Wikipediaの記載です。)を詐取したという事件であり,松尾克俊は,平成13年3月10日,警視庁捜査二課に逮捕されました。
イ 「連続ドラマ  石つぶて ~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~」は,実際の捜査を担当した警視庁捜査二課の立場から,外務省機密費流用事件をドラマ化したものです。
(2)ア 東京地裁は,平成14年3月29日,外務省機密費流用事件に関して松尾克俊を懲役7年6月の実刑としました(裁判長は29期の井上弘通裁判官でした。)。
 そのため,その翌月,検察庁の調査活動費に関する告発をしようとした三井環大阪高検公安部長が逮捕されたことになります。
イ 東京地裁平成14年3月29日判決(判例秘書)には以下の記載があります。
 本件各犯行による被害結果をみるに,財産的損害の合計が5億600万円余りという莫大な額に及ぶのみならず,現職の外務省幹部職員であった被告人によって,その地位を悪用して敢行された本件は,国民に多大な失望や不信感をもたらし,公務員なかんずく外務省及びその職員に対する信頼を失墜させ,さらには,出張先の外国における関係者らにさえ我が国の公務員の職務遂行に関して疑念を抱かせるなどしており,その影響は重大かつ深刻である。本件の被欺罔者たる内閣官房関係者のみならず,本件の影響で国民の非難の対象となった外務省職員らにおいても,被告人に対する厳しい処罰感情を示しているのは当然のことである。
(3) ダイヤモンド・オンラインの「官房機密費の闇を暴いたある警視庁捜査二課刑事の執念 『石つぶて――警視庁二課刑事の残したもの』」に以下の記載があります。
 裁判はとうに終わり、関係者も刑期を終えたいま、私たちはある程度の事件の概略を知っている。事件は結局、詐欺事件として立件された。デタラメな見積書を上げ、差額を着服するという荒っぽい手口で、松尾が内閣官房から引き出した内閣官房報償費は、11億円5700万円にのぼった。このうちの約9億8700万円を懐に入れていたとみられるが、立件できたのは約5億円分である。着服した金は十数頭もの競走馬の購入や女たちとの遊興などに費やされていた。松尾は3度結婚し、その間に少なくとも8人の女性と関係を持っていたとされる。参考人として聴取するなどした中央省庁の役人は735人にも達した。
(4) 外務省HPに「松尾前要人外国訪問支援室長による公金横領疑惑に関する調査報告書」(平成13年1月25日付)が載っています。
(5) 衆議院議員鈴木宗男君提出外務省の報償費に対する鳩山由紀夫内閣の見解に関する質問に対する答弁書(平成22年2月5日付)には以下の記載があります。
① お尋ねの「報償費を首相官邸に上納するという慣行」の意味するところが明らかではないが、これまでの経緯等を改めて確認したところ、かつて外務省の報償費が総理大臣官邸の外交用務に使われていたことがあったことが外務省において判明した。なお、現在は外務省の報償費が総理大臣官邸の外交用務に使われていることはなく、また、今後においても使われることはない。
② 外務省大臣官房会計課審査室は報償費関連文書を外務省文書管理規則(平成十八年外務省訓令第十六号)に基づき保管している。

14 関連記事
・ 国家公務員法81条の3に基づき,検察官の勤務延長が認められる理由
・ 昭和27年4月発覚の刑事裁判官の収賄事件(弾劾裁判は実施されず,在宅事件として執行猶予付きの判決が下り,元裁判官は執行猶予期間満了直後に弁護士登録をした。)
・ 性犯罪を犯した裁判官の一覧
 報道されずに幕引きされた高松高裁長官(昭和42年4月28日依願退官,昭和46年9月5日勲二等旭日重光章)の,暴力金融業者からの金品受領

令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する法案審査資料

目次
第1 令和2年2月の文書(黒川弘務東京高検検事長の勤務延長後の文書)
1 令和2年2月27日頃の文書
2 令和2年2月17日頃の文書
3 令和2年2月7日頃の文書
4 令和2年2月初旬頃の文書
第2 検察官の勤務延長を認めた解釈変更に関する文書(令和2年1月当時のもの)
第3 令和元年10月31日までの文書
1 令和元年10月31日の文書
2 令和元年10月29日頃の文書
3 令和元年8月22日頃の文書
4 令和元年8月20日頃の文書
5 令和元年5月10日頃の文書
6 令和元年5月7日頃の文書
第4 関連記事その他
1 首相官邸は,黒川弘務の検事総長昇格を求めていたかも知れないこと
2 令和2年の検察庁法改正案の骨子
3 関連記事

* 第1ないし第3は,令和2年4月20日付の,法務大臣の行政文書開示決定通知書(検察庁法の一部改正に関する法律案等の法案審査資料)に基づく開示文書のうち,逐条国家公務員法<全訂版>(23枚),新版検察庁法逐条解説(7枚)及び事実上の重複文書1枚を除く1417枚を掲載したものです。

第1 令和2年2月の文書(黒川弘務東京高検検事長の勤務延長後の文書)
1 令和2年2月27日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法改正案に関する,法務省の逐条説明資料
→ リンク先のPDF23頁には,「検事総長は勤務延長制度を適用することで68歳に達する日の前日まで勤務でき、次長検事及び検事長は管理監督職勤務上限年齢制の特例の趣旨を踏まえた仕組み及び勤務延長制度を適用することで66歳に達する日の前日まで勤務できることとなる。」と書いてあります。 
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 令和2年検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案の新旧対照表
→ 検察庁法附則4条(リンク先のPDF12頁)につき,令和2年2月17日頃の新旧対照表と異なります。
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法等関連)→長官からの御指摘とその対応について
→ 検察庁法附則4条に限り,令和2年2月17日頃の条文案から修正したとのことです。

2 令和2年2月17日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法改正案に関する,法務省の逐条説明資料
・ 令和2年の検察官俸給法改正案に関する,法務省の逐条説明資料(令和2年2月17日頃の文書)
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案の附則に関する,法務省の逐条説明資料
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 以下同じリスト(検察庁法の一部改正による改正部分)
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案の附則改正案の対比表
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
→ 「令和2年の検察庁法改正案22条2項(次長検事及び検事長)又は22条3項(検事正及び上席検察官)に基づく国家公務員法改正案81条の7(定年退職の特例)の読替表」を含んでいます。
・ 令和2年の検察庁法改正案に基づく,国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表
・ 令和2年の検察庁法改正案を前提とした,国家公務員法の読み替え条文(令和2年2月17日頃の文書)
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法等関連)→前回審査時から修正した内容について

3 令和2年2月7日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案の新旧対照表
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
・ 令和2年の検察庁法改正案に基づく,国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法等関連)→前回審査時から修正した内容について

4 令和2年2月初旬頃の文書
・ 令和2年の検察庁法改正案に関する,法務省の逐条解説資料
・ 令和2年の検察官俸給法改正案に関する,法務省の逐条解説資料
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案の附則に関する,法務省の逐条解説資料(令和2年2月初旬頃の文書)
・ 案文修正の経緯及び概要
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案の新旧対照表
・ 以下同じリスト(検察庁法の一部改正による改正部分)
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
・ 国家公務員等の一部を改正する法律案【用例集】
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 国家公務員法と検察庁法の対応関係
・ 令和2年の検察庁法改正案に基づく,国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表


令和2年2月初旬頃の文書です。

第2 検察官の勤務延長を認めた解釈変更に関する文書(令和2年1月当時のもの)
・ 勤務延長制度(国家公務員法第81条の3)の検察官への適用に関する,内閣法制局の応接録(令和2年1月17日~同月21日)は以下のとおりです。





第3 令和元年10月31日までの文書
1 令和元年10月31日の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
→ 木村陽一内閣法制局第二部長は,令和2年3月9日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています。
  検察庁法の一部改正を含みます国家公務員法の一部改正の原案でございますけれども、検察庁法のパートにつきましては、昨年の十月の終わり頃でございますけれども、手元に審査資料が届けられまして、当日か、あるいは十一月にまたがったかもしれませんけれども、遅くとも十一月の頭には了承したものと承知しております。

2 令和元年10月29日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する,法務省の概要説明資料及び逐条説明資料
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案【用例集】(検察庁関係)
・ 以下同じリスト(検察官の俸給等に関する法律の一部改正による改正部分)
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
・ 令和2年の検察庁法改正案に基づく,国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表
・ 国家公務員法と検察庁法の対応関係
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法等関連)→前回審査時から修正した内容について



令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する,法務省の概要説明資料及び逐条説明資料14頁です。

3 令和元年8月22日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表(検察庁法及び検察官俸給法の改正関係)
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案【追加用例集】

4 令和元年8月20日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法等関連)→前回審査時から修正した内容について
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律の附則改正案の対比表(検察庁法及び検察官俸給法の改正関係)
・ 国家公務員法と検察庁法の対応関係
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の附則の説明資料
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案【用例集】(検察庁関係)

5 令和元年5月10日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 検察庁法等の一部を改正する法律案 5月7日の指摘事項について
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 令和2年の国家公務員法等の一部を改正する法律案 読替表(検察庁関係)
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する,法務省の説明資料
・ 国家公務員法の一部を改正する法律(仮称)の附則改正案の対比表
・ 国家公務員法と検察庁法の対応
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案【用例集】

6 令和元年5月7日頃の文書
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の条文
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案の新旧対照表
・ 令和2年の検察庁法及び検察官俸給法の改正案に関する,法務省の説明資料
・ 国家公務員法の一部を改正する法律(仮称)の附則改正案の対比表
・ 国家公務員法と検察庁法の対応
・ 一般職の職員の給与に関する法律と検察官の俸給等に関する法律の対応
・ 国家公務員法等の一部を改正する法律案【用例集】

第4 関連記事その他
1 首相官邸は,黒川弘務の検事総長昇格を求めていたかも知れないこと
・ 稲田検事総長が退官拒絶、後任含みで黒川氏に異例の定年延長(2020年1月31日付)には以下の記載があります。
●検事総長に「退職勧奨」の衝撃
   状況が一変したのは、2019年11月中旬。辻次官が2020年1月上旬発令に向けて、黒川検事長退官の人事案に対する官邸の感触を探ったところ、官邸側は、法務省側の意に反して黒川氏の検事総長昇格を求めていることが分かった。黒川氏を検事総長にするには、稲田氏が退官するしかない。その後、辻次官は何度か官邸の意向を探り、官邸側の「黒川総長」希望が固いことを確認。辻氏は、稲田氏に官邸側の意向を伝えたとみられ、稲田氏は官邸の事実上の退官勧奨を受け入れて退官するか、拒否して続投するか、の二者択一を迫られることになった。
   結局、法務省は、19年12月17日の閣議までにどうするかの結論を得ることはできず、黒川、林両氏の人事を凍結。同日の閣議(山中注:実際には令和元年12月23日の閣議)が承認した1月9日付の法務・検察の人事異動は、上野友慈・大阪高検検事長(司法修習35期)が辞職しその後任に榊原一夫・福岡高検検事長(36期)を、その後任に井上宏・札幌高検検事長(37期)を充てる小規模のものとなった。
   この異動では、法務省事務方ナンバー2の小山太士・法務省刑事局長(40期)が最高検監察指導部長に回り、その後任に川原隆司官房長(41期)、その後任に伊藤栄二・山形地検検事正(43期)が就く、法務省センターラインの人事も併せ行われた(山中注:令和元年12月23日付の閣議書参照)が、辻次官の人事も凍結となった。
   こうした人事が12月17日に内示されると、検察部内に衝撃が走った。検察部内では、「次期総長は林検事長で確定」説が流布していただけに、検察や法務省幹部の間では「どうなっているのか」と疑心暗鬼が広がっていた。
2 令和2年の検察庁法改正案の骨子
(1) 令和2年の検察庁法改正案の骨子は以下のとおりです。
① 定年延長
・ 検事総長以外の検察官の定年を63歳から65歳に引き上げて,検事総長の定年と同じにする(改正案22条1項)。
② 定年退職の特例
・ 定年に達した検察官のうち,当該検察官の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣又は法務大臣の準則で定める事由がある場合,検事総長については68歳まで(改正案22条2項),検事総長以外の検察官については66歳まで(次長検事及び検事長につき改正案22条2項,検事及び副検事につき改正案22条3項),その職を占めたまま在職できることとする(国家公務員法改正案81条の7の読替に基づく措置)。
③ 役職定年
・ 次長検事,検事長,検事正及び上席検察官の役職定年は63歳とし,63歳に達した日の翌日にヒラの検事とする(次長検事及び検事長につき改正案22条4項,検事正につき改正案9条2項,上席検察官につき改正案10条2項・9条2項)。
④ 役職定年の特例
・ 役職定年に達した検事のうち,当該検事をヒラの検事とすることにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣又は法務大臣の準則で定める事由がある場合,次長検事及び検事長については内閣の判断により(改正案22条5項及び6項),検事正及び上席検察官については法務大臣の判断により(改正案9条3項及び4項・10条2項),その職を占めたまま65歳まで在職できることとする。
(2) 検察庁法改正案策定経緯文書(令和2年7月22日付の法務省刑事局の文書)には以下の記載があります。
    国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下「本法律案」という。)(注)は,平均寿命の伸長や少子高齢化の進展を踏まえ,高齢期の職員の知識,技術,経験等を最大限活用するため,一般職の国家公務員の定年年齢を65歳まで段階的に引き上げることを内容とするところ,同じく一般職の国家公務員である検察官についても,これに合わせて定年年齢を65歳まで段階的に引き上げるものである。
    その他,本法律案のうち国家公務員法改正部分において,組織の新陳代謝を確保するとの趣旨から,管理監督職を占める職員について,一定年齢に達した後,管理監督職ではない官職等へ異動させる,管理監督職勤務上限年齢制が導入されることに合わせ,検察庁法においても,次長検事・検事長・検事正・上席検察官を対象とした同制度の趣旨を踏まえた検察官独自の制度(以下「検察官役降り制度」という。)を導入することなどを内容とするものである。
(注)本法律案は,第201回国会(常会)において廃案となっている。


3 関連記事
・ 東京高検検事長の勤務延長問題
・ 国家公務員法81条の3に基づき,検察官の勤務延長が認められる理由
・ 勤務延長制度(国家公務員法81条の3)の検察官への適用に関する法務省及び人事院の文書(文書の作成時期に関する政府答弁を含む。)
・ 検察庁法改正案の成立前後における,検事長の勤務延長の取扱い
・ 黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書

副検事制度が創設された経緯

目次
第1 副検事制度が創設された経緯
第2 明治憲法時代の違警罪即決例及び警察犯処罰令
第3 関連記事その他

第1 副検事制度が創設された経緯
・ 「新検察制度十年の回顧」には,「六 副検事制度の創設」という表題で,以下の記載があります(法曹時報10巻3号84頁ないし86頁)。

    検事の補佐機関として特別任用の検事補又は副検事制度を設けるという構想は戦前からあつたのであるが、裁判所は検事補又は副検事に相当する特別任用の検察官を設けることを強く反対しており、検察部内においても賛否両論があった。反対理由の根拠は検察の運用が全般的に低下するというのであったが、これを克服することができても当時検事局は裁判所に附置され、裁判所とともに司法大臣の管理の下にあったので、検事局だけにこの特別任用の制度を設けることは裁判所との関係から実現困難な状態にあった。
    しかし、戦後司法制度が改正されるに当り、司法法制審議会では検事補制度を設けることを認めており、また憲法の改正により行政執行法、違警罪即決例などが廃止され、逮捕、勾留がすべて裁判官の令状によらなければならぬことになれば、これまで警察署長の権限で処理されていたものをすべて検事が取り扱わねばならぬことになり、また裁判所がこの実情に沿うため簡易裁判所を設けることになれば、簡易裁判所の裁判官に匹敵する数の検事を増員せねばならぬ必要が起り、かかる多数の検事を早急に充足することは到底不可能であったので、ここに特別任用により検事に代える機関を設ける必要が生じ、また別に部内において久しく要望されていた一般事務職員の昇進の途を拓くことについて、副検事制度は職員の将来に大きな希望を与えることができるとも考えられたので副検事制度を実現することにしたのである。
    特別任用の副検事を置くことについては、日本弁護士連合会は、その任用資格が検事の任用資格より低く検察組織の実力を低下し人権尊重の基本的原則に違背する危険があるというので反対し、また総司令部も検察官は公訴の提起及びその維持にあたるには高度の法律的素養が必要であるといって、特別任用資格を認める副検事制度には容易に承認を与えてくれなかつたのであるが、これを必要とする実情を強調してついに実現することになつたのである。
    ところが、愈々副検事制度を実現してみると、副検事は、年々飛躍的に増加する区検察庁の管轄事件(とくに道路交通違反関係事件)の処理、あるいは公判運営に対処して検察の機能を果たし、これを設けた目的を一応達しているばかりでなく、これまで専ら検事の捜査の立会、書類の作成整理、証拠品の処理などの機械的な検察事務に従事し将来に希望を託すことのできなかった一般検察職員に昇進の途を拓き、優秀な検察事務官に跳躍の機を与えた効果は目ざましいものがあった。しかし、その発足当初は、急速に一定の要員を充足しなければならぬ必要があり、副検事の選考は各庁に一任されていたため、採用の一応の基準はあっても、各地によって実情がちがい、検察事務になれた実情にあかるい部内職員だけでなく、部外者の有資格者などを多数採用したため、検察官に必要な識見の足らないものや、年令的に適当でないものなども少くなく、それに訓練不足というような事情もあって、実務の処理に過誤があったり、処理が適正でなかったりすることもあって、副検事制度に対し、内外から一時相当な非難があった。
   その弊害は、その後ことごとく是正されたとはいえないが、運用について検討が加えられた結果、副検事に適当でない者は漸次淘汰され、また素質の改善向上をはかるため、中央、地方において厳格な実務訓練を施し、あらたに採用する者に対しては、学識は勿論、人物考査に意を須い、厳格な選考を行っているので、将来性のある優秀者が増加する傾向にあり、さらに、副検事の実務経験三年以上経た者のうちから、考試を経て検事に昇進するものも毎年二、三名は輩出するという実情であって、副検事制度を設けた目的を達成しつつあるのである。

第2 明治憲法時代の違警罪即決例及び警察犯処罰令
1 平成元年版犯罪白書「犯罪者の処遇」には以下の記載があります。
 違警罪即決例に規定されていた違警罪即決処分は,警察署長及び分署長又はその代理たる官吏が,その管轄地内において犯された違警罪(拘留又は科料に当たる罪)を即決する処分である。この即決処分は,被告人の陳述を聞き,証拠を取り調べ,直ちに刑を言い渡すか,被告人を呼び出すことなく若しくは呼び出しても出頭しないときに,直ちに言渡書を本人又はその住所に送達する方法で行われた。即決処分に対しては,言渡しがあったときは3日以内に,言渡書の送達があったときは5日以内に,正式の裁判を請求することができ,その請求があったときは,区裁判所で正式裁判が行われた。
2 「弁護士の果たした役割」と題する記事(大竹武七郎)には以下の記載があります(昭和49年1月1日発行のジュリスト551号102頁。なお,改行を追加しています。)。
 検事局と警察とは、その機構、人員等の関係から、捜査の実力は警察側にあったといっても過言ではない。ところが、警察官は、捜査に強制力を用いることは、法律上、非常に制限されていた。
 そこで、警察官は、違警罪即決例により、被疑者が一定の住居又は生業なくして諸方を徘徊したこと等を理由として拘留処分に付し、又は行政執行法により、泥酔者もしくは自殺を企つる者その他救護を要すと認むる者として検束し、しかも検束は翌日の日没後に至ることを得ないにもかかわらず、これをむしかえして、長期間にわたって身柄を拘束し、その期間を利用して被疑者を取り調べるということが行われた。
 そこで、この弊害をなくすために、現行憲法時代になってから、違警罪即決例、行政執行法を廃止した。
3 Wikipediaの「警察犯処罰令」軽犯罪法(昭和23年5月1日法律第39号)に相当する法令です。)には以下の記載があります。
比較的軽微な警察犯について略式の処罰方法を定め、これを内務大臣の命令で規定することが許されたが、その結果、警察犯処罰令が制定された。その手続きは違警罪即決例によっている。
 警察犯処罰令上の警察犯は拘留または科料の罪であるから違警罪即決例が適用され、ふつうの刑事事件とはことなって、法律に定められた裁判官でない行政官である警察署長が、略式の手続きで即決できる。
ただし不服ならば正式裁判の申立をすることができる規定である。


第3 関連記事その他

1 検察庁HPの「検察官の種類と職務内容」には「副検事は,区検察庁に配置され,捜査・公判及び裁判の執行の指揮監督などの仕事を行っています。」と書いてあります。
2 首相官邸HPに「副検事の選考方法」及び「特任検事の選考方法」が載っています。
3 副検事になるための法律講座ブログには例えば,以下の記事があります。
・ 検察官記章
・ 検察事務官の副検事志望
・ 偉い副検事
4(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 副検事の選考受験案内(令和2年度)
・ 令和2年度副検事の選考筆記試験実施要領
・ 令和2年度副検事の選考第2次試験(口述試験)実施要領
・ 令和2年度検察官特別考試筆記試験実施要領
・ 令和2年度検察官特別考試口述試験実施要領
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 副検事の選考に関する文書
・ 平成14年5月以降の,検察官の懲戒処分事例
・ 検察権と管轄
・ 検察庁の機構
・ 検察官の種類等
・ 検察官の身分保障
・ 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)
・ 検察事務官
・ 法務省の検事期別名簿
・ 検察官の名称の由来
・ 簡易裁判所判事選考委員会(第2回)議事録(平成19年度以降)
・ 簡易裁判所判事の採用選考に関する国会答弁
・ 法務省の定員に関する訓令及び通達
・ 法務総合研修所

検察官の名称の由来

「新検察制度十年の回顧」には,「検察官の名称」という表題で,以下の記載があります(法曹時報10巻3号88頁及び89頁)。

   旧制度の下では訴訟法上検事という名称はあったが検察官という名称はなかった。検事と検察官は同一の概念ではなく、厳密にいえば区別されねばならぬものであるが、憲法改正草案が提出された際草案(山中注:GHQ草案69条2項参照)に”Public procurators”とされていたのを「検察官」と訳して使われたところから検察官という語が用いられるようになったのである。そこで従来の検事をすべて検察官に当てはめるかどうかということ、ならびに各検察庁の長の名称をどうするかということが問題とされた。
   いうまでもなく旧制度の下では、検事総長、次長検事、検事長はすべて検事がその職に補せられていたのであるが、憲法の改正により、検察庁法に天皇の認証する官を設けるにあたって、これまで職であった検事総長、次長検事、検事長の地位を認証官とする必要から、これらをいづれも検察官ということにし、本来検察官を検事、副検事とすると考えていた構想を改め、検察官に五種類をもうけ、最高検察庁の長を検事総長、高等検察庁の長を検事長ということにしてこれまでの名称を残した。しかし地方検察庁の長として検事正というこれまでの名称ははたして適当かどうかが疑問であった。
   元来検事正という語は主たる検事ということの意味で、旧軍部において大佐相当の官を正と称していた頃、これに相当する検事の官を検事正とし、これを地方検事局の検事の代表者の職名としたものであつて、新検察制度の下における呼称としては相当でないばかりでなく、地方検察庁の検察事務を統括しその庁を代表するものの名称としては一般に理解しにくく、かならずしも適当ではないので、地方裁判所に対応する地方検察庁の長であるという意味で地方検察庁長もしくは地方検察庁長官という名称にする案もあったが、これは検事総長、次長検事、検事長との名称に照らして適当ではなく、結局検事一般の意見を求めたところ、これまでの名称が相当だという意見が強かったのでこれを踏襲することになったのであるが、将来これを変える必要があるのではないかと思われるのである。

*1 検事総長が最高検察庁の長であり,検事長が高等検察庁の長であることは検察庁法7条1項及び8条1項に明記されているものの,検事正が地方検察庁の長であることは検察庁法9条には明記されていないのであって,検察庁事務章程1条に記載されているにとどまります。
*2 制定時の裁判所構成法では,検事総長は勅任官でしたが,大正3年5月1日,勅任検事をもって親補するところの親補職となり,大正10年6月1日,大審院長と同様,親任検事をもって親補するところの親任官となりました(裁判所構成法79条3項)。
   また,戦前の検事総長は大審院の検事局に置かれていました(裁判所構成法56条1項)。
*3 控訴院検事長は,司法大臣の上奏により勅任検事の中から補されており(裁判所構成法79条4項),親補職ではありませんでした。
   また,戦前の検事長は控訴院の検事局に置かれていました(裁判所構成法42条1項)。
*4 検事正は,勅任検事の中から司法大臣によって補されていました(裁判所構成法79条4項)。
   また,戦前の検事正は地方裁判所の検事局に置かれていました(裁判所構成法33条本文前段)。
*5 地方裁判所検事局の検事は検察事務について,特別の許可を受けずに検事正を代理できましたし(裁判所構成法33条但書),控訴院検事局の検事は検察事務について,特別の許可を受けずに検事長を代理できましたし(裁判所構成法42条2項・33条但書),大審院検事局の検事は検察事務について,特別の許可を受けずに検事総長を代理できました(裁判所構成法56条2項・33条但書)。
*6 すべての地裁所長及び地検検事正が勅任官となったのは,昭和2年4月18日公布の勅令第87号(リンク先のコマ番号2)による裁判所職員定員令の改正後です。
*7 明治憲法23条は「日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問処罰ヲ受クルコトナシ」と規定し,大正13年1月1日施行の刑訴法(大正11年5月5日公布の法律第75号)246条,248条及び249条は,検事が犯罪捜査の責任を負い,警察官は検事の補佐として,その指揮を受けて捜査をすることと規定していました。
*8 「刑事訴訟法が軌道に乗るまで-第一審の公判を中心として-」と題する記事(筆者は桂正昭最高検察庁検事)には以下の記載があります(昭和49年1月1日発行のジュリスト551号80頁及び81頁。なお,改行を追加しています。)。
   旧刑事訴訟法(山中注:大正13年1月1日施行の刑訴法(大正11年5月5日公布の法律第75号)のことです。)の下では、検察官が作成した捜査記録は、公訴の提起と同時にすべて裁判所に引き継がれ、裁判所は、これらの記録を仔細に検討したうえで公判にのぞみ、公判廷では詳細な被告人質問を行ない、その弁解するところによって疑問を生ずれば、証人尋問などを行って黒白を決するという方法が取られていた。
   検察官の行なう捜査は、被告人の弁解の余地がないようにすべきものとされていたから、大方の事件にあっては、検察官の公判立会はきわめて楽なものであり、公訴事実の陳述と論告求刑とを行えば足りるものが少なくなく、それも、「公判請求書記載のとおり」「事案明瞭、求刑懲役一年」といった程度のことを発言すれば足りるような場合が多かったのである。
   従って、検察官の努力の大半は捜査に注がれ、公判立会は当番制で検事席に座っておれば足りるといった程度のことが多かった。
*9 日本国憲法の改正案の審議当初,憲法33条及び35条2項の「司法官憲」は検事を含むと日本側は解釈していたものの,GHQは,昭和21年8月,「司法官憲」は裁判官に限ると解釈するようになりました(昭和49年1月1日発行のジュリスト551号37頁参照)。
*10 「検察庁の名称の由来」も参照してください。

検察庁の名称の由来

「新検察制度十年の回顧」には,「検察庁の名称について」という表題で,以下の記載があります(法曹時報10巻3号87頁及び88頁)。

   検察庁法において、検察庁ば検事の行う事務を統括するところと定義し、検察庁には最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁及び区検察庁がある(法第二条)ことを規定しているが、この検察庁という名称は、昭和三年司法省が検事局を裁判所から分離して独立させる法案を立案した際すでにこれを使用し、また昭和十三年第七十三帝国議会において衆議院議員から提出された検察庁法案にもこの名称が使われており、検察庁という名称はとくに目あたらしいものではないので、この度の立法にあたってもこの名称を踏襲したのである。ただ検察庁の定義を定めた第一条の規定は、法制局と法案の審議をした当初これをもうけてなかったのを法制局の示唆によっておくようになったことは、すでに述べたところであるが(検察官同一体の原則の項参照)、右規定において、検察庁は、検察官の行う事務を統括するところというようにとくに仮名で表現し、このところを処あるいは場所としなかったのは、検察官の行う事務を形式的に行う場所、もしくはこれを単に機械的に統一する場所というだけの意味でなく、形而上的な意味すなわち検察官が国の独立機関として独自に行使できる検察事務を検察全体として統括するところであることをあらわすためにしたのであって、いわば検察官同一体の原則の一つの根拠となるのである。
   検察庁の種類の名称は、昭和三年の検察庁法案および第七十三帝国議会の議員提出になる検察庁法案には、その当時の大審院、控訴院、地方検察庁、区検察庁に対して総検察院、検察院、地方検察院、区検察院の名称が使われていたが、司法制度の改正により裁判所は最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所に改められたので、これに対応して最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁、区検察庁としたのである。

*1 「検察官の名称の由来」も参照してください。
*2 昭和43年版犯罪白書の「第二章 刑事関係制度の変遷」には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
   明治二二年二月発布の大日本帝国憲法は,第五章に司法に関する条章を設け,司法権は,天皇の名において,法律により裁判所が行なうことを定めたほか,裁判官の資格・身分保障,裁判の公開,特別裁判所等について規定し,この規定を受けて,翌二三年二月裁判所構成法が公布された。
   同法は,通常裁判所を大審院,控訴院,地方裁判所および区裁判所の四種とし,区裁判所は,違警罪,二月以下の禁錮または百円以下の罰金にかかる軽罪等を管轄し,地方裁判所は,区裁判所の権限および大審院の特別権限に属しない刑事訴訟ならびに区裁判所の判決に対する控訴審につき裁判権を有し,控訴院は,地方裁判所の第一審判決に対する控訴および区裁判所管轄事件の上告等につき,大審院は,控訴院の第二審判決に対する上告および皇室に対する罪等の予審および裁判につき,裁判権を有するものとされた。
   また,判事および検事のほか,予備判事および予備検事の名称を設け,各裁判所に検事局を付置し,大審院検事局に検事総長,控訴院検事局に検事長,地方裁判所検事局に検事正をおくことを定めた。

検察官同一体の原則

目次
1 検察官同一体の原則
2 検察事務及び検察行政事務
3 関連記事その他

1 検察官同一体の原則
・ 「新検察制度十年の回顧」には以下の記載があります(法曹時報10巻2号70頁及び71頁)。

    検察官同一体の原則とは、検察の組織が上命下服の関係において中央集権的に構成され、検事総長、検事長、検事正はそれぞれ自己の掌理する庁務をその指揮監督下にある検察官に委任することができ、またその指揮監督下にある検察官の事務を他の検察官に移管することができることをいうもので、検察官の組織をつらぬく原理として検察制度が確立した当初から縄められ、裁判所構成法においても成文上の根拠があった。これを検察庁法で踏襲したのである。
    普通一般の行政官庁では、国家機関として官庁を代表するものは、その庁の長に限られ、長以下の機関は官庁を代表する権限はなく、すべて代表者の補佐または補助としてその指揮命令により事務に従事するのであるから、その組織は極めて強固な指揮命令関係が徹底しており、ある意味においては、完全な同一体を形成しているものといえるのである。
    しかるに検察庁の組織において、とくに検察官同一体の原則が強調され、これを組織規定にもうける必要があるのは、いうまでもなく検察官は訴訟法の建前では、一人々々が独立官庁として検察固有の事務、たとえば犯罪の捜査、起訴不起訴の決定などについて、独自に権限を行使することができるのであり、これは裁判に準ずる検察事務の性質上当然なことではあるが一般行政官庁の職員の執務権限に較べて極めて強力なものである。したがつてこれに一定の制約を設けなければ、国家事務としての検察事務が個々の検察官によって区々に行われ、時には検察官の恣意による専断が行われないとはいえないので、検察庁全体として互に矛盾なく遂行することができるようにこれを統括し調整せねばならぬことになる。そのため「検察庁」は独立の官庁である個々の検察官の行う事務を統括するところというように定め、検事総長、検事長、検事正はその管轄する庁の事務の一部をその指揮監督の下にある検事に取り扱わさせ、あるいはその指揮監督下にある検事の事務を自ら取り扱い又は他の検事に取り扱わさせることができることを規定したのである。
    故に検察庁という官庁は、検察官が検察事務を行うところというような単なる場所をあらわしたものではなく、それは、検察官が本来独立官庁として独自に行うことの出来る個々の検察事務を、全体的に統括調整するところという意味であって、検察官の執務が形式的に統合されるというだけでなく実質的精神的に統括されることをも意味するのであって、これを規定した検察庁法第一条は、法案を法制局と審議した際当初もうけてなかったのをその示唆によってかような意味でとくにおくようにしたのである。
    ところが検察官が上官を代理してその事務を取り扱う場合は、特別の委任叉は命令がなくても当然これを行うことができるのであるから、その職務の代行について代理順序を定めておく必要があるので、法務大臣があらかじめその代理順序を定めることにしてこれを大臣訓令に譲ることにしたのであるが、検察事務のうちで検察固有のものは個々の検察官がそれぞれ独自でこれを行うことができ、検事長または検事正でなければできないという事務は本来極めて少いので、次席検事を設けて各庁の長を代理させこれに担当させるのが適当と思われたので、大臣の訓令で定める検察事務章程(山中注:検察庁事務章程のこと。)に次席検事の制度を設け、これとともに職務代行の代理順序を規定したのである。すなわち高等検察庁及び地方検察庁に次席検事を置き、その属する検察庁の長を補佐させることとし、最高検察庁において検事総長及び次長検事に事故があるとき又は検事総長、次長検事が欠けたときは、検事総長があらかじめ定めた順序により、その庁の検事が臨時に検事総長を代理し、高等検察庁又は地方検察庁においてその庁の長に事故のあるとき又はこれが欠けたときは、その庁の次席検事が臨時にその庁の長を代理し、次席検事もまた事故のあるとき又は欠けたときは、その庁の長の定めた順序により他の検事がその庁の長を代理することとしたのである。

2 検察事務及び検察行政事務
(1) 検察庁法1条1項は「検察庁は、検察官の行う事務を統括するところとする。」と定めていますところ,新版検察庁法逐条解説21頁には以下の記載があります。
    法第一条第一項を文法的にわかりやすくいえば、「検察庁は、検察官の行う検察事務および検察行政事務がその長によって統括されるところである」ということになる
(2) 個々の検察官の固有の権限としての検察事務について定める検察庁法4条ないし6条は以下のとおりです(検察官の職務権限が検察庁事務章程によって制限されているわけではないことにつき,検察庁事務章程5条4項)。
第四条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
第五条 検察官は、いずれかの検察庁に属し、他の法令に特別の定のある場合を除いて、その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において、その裁判所の管轄に属する事項について前条に規定する職務を行う。
第六条 検察官は、いかなる犯罪についても捜査をすることができる。
② 検察官と他の法令により捜査の職権を有する者との関係は、刑事訴訟法の定めるところによる。
(3) 検察官は,検察事務については,上司の指揮監督の下に,検察事務官,検察技官その他の職員を指揮監督します(検察庁事務章程8条)。
(4) 検事総長,検事長及び検事正は,庁務掌理権及び指揮監督権を他の検察官に委任することができます(検察庁法11条)。
   また,これとは別に,検察庁事務章程2条2項で次席検事の庁務掌理権及び指揮監督権が定められ,3条2項で支部長の庁務掌理権及び指揮監督権が定められています。
(5) 検察庁事務章程6条2項は最高検察庁の部長の事務総括権及び指揮監督権を定め,6条3項は高等検察庁及び地方検察庁の部長の事務総括権及び指揮監督権を定めています。
   6条2項及び3項が「総括」という表現を用いて,次席検事及び支部長の場合のように「掌理」という表現を用いなかったのは,部の所管事務は主として検察事務であり,検察事務は本来,個々の検察官の固有の権限に属するものであるからです(新版検察庁法逐条解説200頁参照)。

3 関連記事その他
(1) 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF5頁)。
    検察の仕事というのも、警察を始めとする多くの関係機関、裁判所、弁護士さん、要は刑事司法を支えている方々との協力を得ながら活動をしなければなりません。ただし、検察官は裁判官ではございませんので、基本的な独立性はありませんし、検察官同一体の原則というのがございまして、内部的な決裁でチェックを受けます。最低でも直属の上司の了解は必要でございますし、重大な事件になりますと高等検察庁、最高検察庁の了解が必要となりますので、相当な時間を要するということになり、他の行政機関の意思決定過程とそれほど変わらないのではないかと思われます。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)
・ 各地の検察庁の執務規程
・ 検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権

検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権

目次
1 検察庁法14条の条文
2 法務大臣の一般的指揮監督権(検察庁法14条本文)
3 法務大臣の具体的指揮監督権(検察庁法14条ただし書)
4 昭和29年4月の,造船疑獄における法務大臣の指揮権発動
5 検察行政事務に関する法務大臣の指揮監督権
6 検察庁法14条に関する立案関係者の説明,及び歴代の司法大臣
7 法務省刑事局に関する法務省組織令条文
8 内閣総理大臣は検察官を直接指揮することはできないこと
9 検察庁と行政委員会の比較
10 昭和12年12月16日,16人の被告人全員に無罪判決が言い渡された帝人事件
11 昭和3年の検察庁法案及び昭和13年の検察庁独立法案
12 関連記事その他

1 検察庁法14条の条文
(1) 法務大臣の指揮権について定める検察庁法14条は以下のとおりです。
   法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。
(2) 検察庁法4条は,検察官の公訴権等について規定し,検察庁法6条は検察官の捜査権について規定しています。

2 法務大臣の一般的指揮監督権(検察庁法14条本文)
(1) 法務大臣は,①検察事務の処理方法に関する一般的基準を指示したり,②犯罪防止のために一般的方針を訓示したり,③法令の行政解釈を示したり,④個々の具体的事件について報告を求めたりすることができます(新版検察庁法逐条解説85頁参照)。
(2) 検察事務に関する法務大臣の訓令として以下のものがあります。
・ 刑事関係報告規程(昭和62年12月18日付の法務大臣訓令)
・ 逃亡犯罪人引渡法に関する書式例(平成12年10月31日付の法務大臣訓令)
・ 取調べ状況の記録等に関する訓令(平成15年11月5日付の法務大臣訓令)
・ 処分請訓規程(平成17年8月15日付の法務大臣訓令)
・ 係検事に関する規程(平成27年3月17日付の法務大臣訓令)


3 法務大臣の具体的指揮監督権(検察庁法14条ただし書)
(1) 14条ただし書の「取調べ」とは,被疑者及び参考人の取り調べだけをいうのではなく,捜査一般,つまり,捜査の方法,順序等をも含めて,検察官の行う捜査事務全般をいいます。
   また,14条ただし書の「処分」とは,起訴・不起訴の処分のほか,公判の遂行及び刑の執行をも含めて,刑罰権の実現のために検察官が行う捜査以外の一切の検察事務をいいます。
   そのため,法務大臣は,個別の事件に関する検察事務については,捜査の着手から刑の執行に至るまで,直接個々の検察官を指揮することは許されず,検事総長のみを指揮することができるにすぎません。
   つまり,法務大臣は,具体的事件に関しては,検事総長が部下検察官に対して有する指揮監督権(検察庁法7条1項)を媒介としてのみ,個々の検察官の行う検察事務に干渉しうるに過ぎません(新版検察庁法逐条解説85頁参照)。
(2)ア いわゆる「指揮権」とは,法務大臣が検事総長に対して具体的事件について指揮しうる権限をいい,「指揮権発動」とは,法務大臣がこの権限を行使することをいいます。
イ 法務大臣は検事総長の上司ですから,法務大臣が具体的事件について検事総長に対して指揮をした場合,重大かつ明白な瑕疵がない限り,国家公務員法98条1項に基づき,検事総長は法務大臣の指揮に従うべきこととなります。
(3) 以下の犯罪について起訴又は不起訴の処分を行う場合,あらかじめ検事長及び検事総長の指揮を受けなければなりませんし,検事総長はあらかじめ法務大臣の指揮を受けなければなりません(処分請訓規程4条1項等)。
① 外患に関する罪
② 国交に関する罪
③ 外国の君主若しくは大統領又は外国の施設に対して犯した罪
④ 日米地位協定の実施に伴う刑事特別法6条及び7条の罪
⑤ 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪
⑥ 特定秘密の保護に関する法律違反の罪
(4)ア 晴耕雨読ブログの「検察庁法の起源」には以下の記載があります。
 検察庁法制定当時の検察内部の意見は「検察庁は内閣の外に立つ独立機関たるべしという意見が圧倒的だった」(出射義夫『検察の面でみた刑事訴訟法の25年』―『ジュリスト』昭49・1・1 )。彼らは、昭和戦前期の「検察権の独立」の観念に強く支配されていたので、戦後憲法のもとで政党内閣が常態化し、政党出身の司法大臣が検察組織に君臨することを病的に警戒していた。
 他方において、在野には戦前の検察ファッショ復活への警戒感が根強く、また何よりGHQ(占領軍最高司令部)が検察の民主的統制に強い関心を持っている以上、統帥権の独立にも似た検察権の独立を表立って維持することは難しいという判断も、司法省内にはあった。
 そうした政治状況の中で、実際に出来上がった「検察庁法」は、政党出身の司法大臣を容認する代わりに、検事総長の任命には国会の関与を排除し、また司法大臣の監督権限を制限する条項(現14条)を設けて、検察への「一般」的指揮権を認める一方、個々の捜査については検事総長を通じてのみ指揮できる、という妥協案に落ち着いたのだ。
イ ジュリスト1974年1月1日号(551号)には「【特集】刑事訴訟法25年の軌跡と展望」が載っています。
(5) Wikipediaの「指揮権(法務大臣)」には以下の記載があります。
   検察権は、犯罪を捜査し処罰を請求する能動的な作用であるから、その監督と責任は政府がにぎるのは当然であって、消極的に人権を保障し、国家権力の行使を阻止する司法権のような独立は認められず、検察権を独立させることは、理論上権力分立に反するだけでなく、なんら政治的責任を負わず民主的監視を受けない強大な官僚陣営を認めることとなって弊害を生ずる。
(6) 高辻正巳法務大臣は,平成元年3月27日の参議院本会議において以下の答弁をしています。
① 最初のお尋ねは、いわゆるリクルート事件についての捜査の現状と今後の方針いかんということでございましたが、東京地方検察庁は厳正公平、不偏不党の立場から引き続き捜査を継続中でありまして、捜査の現状でありますとか、捜査の今後の見通しとかいうような捜査の内容にかかわる事柄につきましては、遺憾ながらお答えすることができません。
 ただ、この際申し上げることができますのは、捜査による事案の解明というものは、その結果の及ぶところが何人であるかによって左右されるものではないということでございます。
② 次のお尋ねにありました指揮権の発動と申しますのは、検察庁法十四条ただし書きの検事総長に対する法務大臣の指揮を指して言われるものと思いますが、この検察庁法十四条の趣旨は、一般に、国の検察事務を分担管理し、その機関の事務を統括する法務大臣の行政責任と、司法権と密接不可分の関係にある検察権の独立性の確保の要請との調和を図る点にあるものと考えられております。
 そういうことからしますと、法務大臣がいわゆる指揮権を発動する場合は、検察権が不偏不党、厳正公平の立場を逸脱し、その他、検察事務を所掌し遂行する法務大臣がその責任を全うし得る限度を超えて運営されるというような特殊例外的な場合に限られるべきものであり、そのような特殊例外的な場合においては、法務大臣はその行政責任を全うするためにその指揮権を行使して正すべきものは正さなければなりませんが、そのような場合でないのに法務大臣がいわゆる指揮権を発動することはなすべきでないと考えております。その意味で、法務大臣は検察庁法第十四条ただし書きの検事総長に対する指揮権をむやみに放棄するわけにはまいりません。
 しかし私は、検察が今後ともよくその職責を果たし、法務大臣が指揮権を発動したりその他これに制肘を加えなければならないような事態が生じることはないものと信じております。
(7) Wikipediaの「稲葉修」(昭和49年12月9日から昭和51年12月24日までの間,法務大臣をしていた人です。)には以下の記載があります。
 在任中にロッキード事件が発覚。法相として新聞のインタビューで「これまで逮捕した連中は相撲に例えれば十両か前頭。これからどんどん好取組が見られる」「捜査は奥の奥まで神棚の中までやる」とコメントを残し、7月27日に検察首脳会議で決定された田中角栄逮捕を許可した。この稲葉の姿勢に対して田中派は猛反発し、それを受けて稲葉も反角栄の立場を固めることになった。

4 昭和29年4月の,造船疑獄における法務大臣の指揮権発動
(1)ア 検事総長の請訓に対し,明らかにこれを否決する法務大臣の指揮が行われたのは,造船疑獄(太平洋戦争後の日本における計画造船における利子軽減のための「外航船建造利子補給法」制定請願をめぐる贈収賄事件)における指揮権発動だけです。
    造船疑獄では,昭和29年4月21日,法務大臣の犬養健が重要法案(防衛庁設置法及び自衛隊法)の審議中であることを理由に,第三者収賄罪の容疑による佐藤栄作自由党幹事長の逮捕状請求を中止させて任意捜査を指示し,同月22日,法務大臣を辞任しました。
    昭和29年6月26日,佐藤栄作は政治資金規正法違反で在宅起訴されたものの,昭和31年12月19日の国連加盟恩赦により免訴となりました。
イ 新版検察庁法逐条解説103頁には,「いわゆる指揮権を発動した犬養法務大臣は、その翌々日の四月二三日職を退いている。」と書いてあるものの,辞任日は4月22日です(昭和29年4月24日の官報第8192号410頁及び411頁参照)。
ウ Wikipediaの造船疑獄には以下の記載があります。
    逮捕者は71人にのぼり、35人が起訴された。疑獄の中心部分に関わったのは23人であり、7人が無罪、12人が執行猶予付の懲役刑、2人が罰金刑を受けた。自由党への金の流れについては佐藤栄作と自由党会計責任者が後に政治資金規正法違反で在宅起訴されたが、国際連合加盟恩赦で免訴となった。
(2) 法務大臣の検事総長に対する指揮権発動に関し内閣に警告するの決議(昭和29年4月23日の参議院本会議の決議)は以下のとおりです。
 検事総長が自由党幹事長である国会議員の逮捕請求許可の請訓をなしたのに対して、法務大臣が「法律的性格と重要法案の審議の現状に鑑み、特別例外的事情にある」との理由に基き指揮権を発動してこれをおさえたことは、検察庁法第十四条の不当な運用と認める。
 議員の逮捕許諾と法案審議の関係は、国会の決すべき問題であつて、政府今回の措置は、国民関心の的である被疑事実に対し、累次の言明に反して検察権の行使を制約し、捜査を困難ならしめ、延いては国民の疑惑を深め政治の信用を失墜せしめることとなる。本院はこれを極めて遺憾とする。
 政府は、過ちを改め速やかに善後の措置をとるべきである。
 右決議する。
(3) 「秋霜烈日―検事総長の回想」35頁には以下の記載があります。
    昭和二十九年四月二十一日、犬養法務大臣による指揮権発動があると、東京拘置所新南舎の調べ室に入っていた検事たちは、次々と階下の畳敷きの休憩室に入り、互いに口をきくわけでもなく、ただぼうぜんとしていた。夜に入って馬場義続検事正が来られ、涙を浮かべて頭を下げられた。検事たちの心の中には、無念の思いがじわじわと広がっていた。
(4)ア 朝日新聞HPに載っている「東京高検検事長の定年延長についての元検察官有志による意見書」には以下の記載があります。
当時特捜部にいた若手検事の間では、この降って湧いたような事件(山中注:昭和51年2月5日から報道されるようになったロッキード事件のこと。)に対して、特捜部として必ず捜査に着手するという積極派や、着手すると言っても贈賄の被疑者は国外在住のロッキード社の幹部が中心だし、証拠もほとんど海外にある、いくら特捜部でも手が届かないのではないかという懐疑派、苦労して捜査しても造船疑獄事件のように指揮権発動でおしまいだという悲観派が入り乱れていた。
イ 外国公務員に対する贈賄行為の規制は,1976年のロッキード事件を契機にアメリカが外国公務員に対する商業目的での贈賄行為を違法とする「海外腐敗行為防止法」を制定したことから始まり,1997年12月にパリにおいて,国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD外国公務員贈賄防止条約)が日本などのOECD加盟国を含む33カ国が署名し,1999年2月に発効するに至りました(リスクデザインHPの「外国公務員への贈賄とリスクについて」参照)。

 検察行政事務に関する法務大臣の指揮監督権
(1)ア 検察権は行政権の一部をなすものであり,行政権は内閣に属し(憲法65条),内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負います(憲法66条3項,内閣法2条2項)。
   そして,内閣を組織する各大臣は,主任の大臣として行政事務を分担管理し(内閣法3条1項,国家行政組織法5条1項),法務大臣は,法務省の長として(法務省設置法2条2項),「検察に関すること。」(法務省設置法4条1項7号)を含む法務省の所管事務を分担管理しています。
   そのため,法務大臣は,検察庁法14条によって指揮監督権の行使を制限されていない検察行政事務,つまり,庶務,会計,人事等に関する事務や,犯罪の防止その他の刑事政策上の諸施策に関する事務については,検察官に対し,十全な指揮監督権を行使することができます(新版検察庁法逐条解説84頁参照)。
イ 例えば,森雅子法務大臣の主導により,法務省は令和2年4月9日,新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い,新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づく緊急事態宣言(令和2年4月7日付)が発令されたことを受けて,同月10日付の検事の人事異動のうち,他省庁に関連する56人を除く675人の人事異動を凍結しました(ヤフーニュースの「森雅子法相“検事の人事凍結”で大混乱 一人ほくそ笑む黒川検事長」参照)。
ウ 本年4月10日付け検察官人事異動の先送りについて(令和2年4月9日付の法務省大臣官房人事課長の事務連絡)を掲載しています。
(2) 検察庁は,国家行政組織法8条の3に基づいて法務省に置かれる「特別の機関」です(法務省設置法14条参照)。
(3) 法務省行政文書取扱規則(平成30年12月17日改正後のもの)を掲載しています。
(4) 検察官俸給法3条1項に基づく準則として以下のものがあります(平成25年5月当時の文書です。)。
・ 検察官の初任給調整手当に関する準則(昭和46年4月1日付の法務大臣訓令)
・ 検察官の期末手当及び勤勉手当の支給に関する準則(平成9年12月16日付の法務大臣訓令)
・ 法科大学院に派遣された検察官の給与の支給に関する準則(平成16年3月11日付の法務大臣訓令)
・ 検察官の初任給及び昇給に関する準則(平成18年3月15日法務大臣訓令)
・ 検察官の管理職員特別勤務手当に関する準則(平成18年3月15日付の法務大臣訓令)
・ 法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律の一部改正に伴う経過措置に関する準則(平成21年5月29日付の法務大臣訓令)

6 検察庁法14条に関する立案関係者の説明,及び歴代の司法大臣
(1) 検察庁法14条に関する立案関係者の説明
   「新検察制度十年の回顧」には以下の記載があります(法曹時報10巻2号69頁)。
   司法大臣は法務行政の最高責任に任ずべきものであるから検察機構を内閣から切り離して別個独立のものにしない限り、司法大臣は法務行政に属する検察事務全般に対し指揮監督権を持ち、犯罪の捜査およびその処理についても当然指揮権があることになる。
   ところが憲法改正草案の構想では政党内閣による政治体制を予想していたから、そうなれば司法大臣の地位はこれまでとは異って政党の出身者がこれを占めることになり、政治勢力が検察に影響を及ぼすことも考えられ検察の独立が政治勢力によって左右される懸念がないとはいえないと考えられた。
   そこで不当な政治力から検察を守るために司法大臣の検察に対する指揮権について適当な規定をおく必要が生じた。しかしながら司法大臣は検察官に対する監督ならびに検察行政の責任者だから、その指揮監督の権限を抑制することができないので、犯罪の捜査、公訴の提起などの検察事務について検察官を一般に指揮監督することはできるが、個々の事件の取調または処分については検事総長のみを指揮することができるということにして個々の事件の取調または処分に対して司法大臣が検察官に直接指揮命令することができないものとして調整したのである。
   こうすれば検事総長は司法大臣の監督の下にあっても全検察官に対して実権を掌握しているのであるから、たとえ司法大臣の不当な指揮があってもたやすくこれに応ずる筈はなく、さればといって認証官である検事総長を罷免するのも容易ではないから、その指揮は適当に是正され、一般の検察官に不当な干渉が及ぶことはなく、したがって正しく検察権を行使することができると考えたからである。検察庁法の制定される以前には、政治体制が異っており、多年検察事務の運用に慣れた検事出身者が検察部内から司法大臣に就任する慣行があったため、内閣の政治力が検察に不当な影響を与えるような考慮は必要でなく、したがってかかる規定をおく必要はなかった。
   この立法をするにあたって、司法大臣の検察に対する指揮権を全然認めないか、検事総長が司法大臣を兼ねる制度を設ければ、政党の不当な政治力が検察に影響を及ぼす懸念はなくなるという考慮はないではなかったが、憲法改正草案は内閣総理大臣に国務大臣の任命、罷免の権限を予想していたので、内閣総理大臣が閣僚中に罷免できないものをおくこと、あるいは法務行政について内閣に責任を負わぬ司法大臣をおくことは、明らかに憲法に抵触することであり、実現できないことだと考えた。しかしながら憲法が実施された後の状況によると、国の警察行政や会計検査について内閣に直接責任を負わない国家公安委員会、会計検査院などがおかれた。これを顧みると、検察の組織を規定するのに他に別の考え方ができたのではないかとも思われるが、当時は責任大臣のない行政組織を定めることは憲法に反するものと考えられていたのである。
(2) 歴代の司法大臣
ア 1925年以降の司法大臣は以下のとおりであって(カッコ内は主な元職です。),「多年検察事務の運用に慣れた検事出身者が検察部内から司法大臣に就任する慣行」ができたのは,1932年の5・15事件(犬養毅首相(立憲政友会総裁)が海軍の青年将校によって首相官邸で暗殺された事件です。)が発生した後に限られます。
30代 江木翼(内閣書記官長)
1925年8月2日~1927年4月20日(加藤高明内閣→第1次若槻内閣)
31代 原嘉道(東京弁護士会会長)
1927年4月20日~1929年7月2日(田中義一内閣)
32代 渡邊千冬(貴族院議員)
1929年7月2日~1931年12月13日(濱口内閣→第2次若槻内閣)
33代 鈴木喜三郎(検事総長)
1931年12月13日~1932年3月25日(犬養内閣)
34代 川村竹治(内務次官,台湾総督)
1932年3月25日~同年5月26日(犬養内閣)
35代 小山松吉(検事総長)
1932年5月26日~1934年7月8日(齊藤内閣)
36代 小原直(司法次官)
1934年7月8日~1936年3月9日(岡田内閣)
37代 林頼三郎(検事総長,大審院長)
1936年3月9日~1937年2月2日(廣田内閣)
38代 塩野季彦(名古屋控訴院検事長,大審院検事局次長)
1937年2月2日~1939年8月30日(林内閣→第1次近衛内閣→平沼内閣)
39代 宮城長五郎(長崎控訴院検事長,名古屋控訴院検事長)
1939年8月30日~1940年1月16日(阿部内閣)
40代 木村尚達(司法省刑事局長,東京控訴院長,検事総長)
1940年1月16日~同年7月22日(米内内閣)
41代 風見章(衆議院議員,内閣書記官長)
1940年7月22日~同年12月21日(第2次近衛内閣)
42代 柳川平助(陸軍次官,台湾軍司令官)
1940年12月21日~1941年7月18日(第2次近衛内閣)
43代 近衛文麿(首相兼任)
1941年7月18日~同月25日(第3次近衛内閣)
44代 岩村通世(検事総長)
1941年7月25日~1944年7月22日(第3次近衛内閣→東條内閣)
45代 松阪広政(検事総長)
1944年7月22日~1945年8月17日(小磯内閣→鈴木貫太郎内閣)
46代 岩田宙造(弁護士,貴族院勅選議員)
1945年8月17日~1946年5月22日(東久邇宮内閣→幣原内閣)
47代 木村篤太郎(帝国弁護士会理事長,検事総長)
1946年5月22日~1947年5月24日(第1次吉田内閣)
イ 戦前の幹部裁判官の出世コースについては,外部HPの「大正・昭和戦前期における幹部裁判官のキャリアパス分析-戦前期司法行政の一断面への接近」が非常に参考になります。
ウ 「司法大臣」は,昭和23年2月15日に「法務総裁」となり,昭和27年8月1日に「法務大臣」となりました。

7 法務省刑事局に関する法務省組織令の条文
(1) 法務省刑事局に関する法務省組織令(平成12年政令第248号)の条文は以下のとおりです。
(刑事局に置く課等)
第二十八条 刑事局に、次の三課並びに刑事法制管理官一人及び国際刑事管理官一人を置く。
総務課
刑事課
公安課
(総務課の所掌事務)
第二十九条 総務課は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 刑事局の所掌事務に関する総合調整に関すること。
二 検察庁の組織及び運営に関すること。
三 犯罪捜査の科学的研究に関すること。
四 情報システムの整備その他の検察事務の能率化に関すること。
五 刑事の裁判の執行指揮その他の検務事務に関すること。
六 司法警察職員の教養訓練に関すること。
七 法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律の規定による検察官の派遣に伴う法科大学院の教育に対する法曹としての実務に係る協力に関すること。
八 前各号に掲げるもののほか、刑事局の所掌事務で他の所掌に属しないものに関すること。
(刑事課の所掌事務)
第三十条 刑事課は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 一般刑事事件の検察に関すること。
二 環境関係事件の検察に関すること。
三 選挙関係事件の検察に関すること。
四 交通関係事件の検察に関すること。
五 財政経済関係事件の検察に関すること。
六 少年に係る刑事事件の検察に関すること。
七 前各号に掲げる事件に係る犯罪の予防に関すること。
(公安課の所掌事務)
第三十一条 公安課は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 公安関係事件の検察に関すること。
二 労働関係事件の検察に関すること。
三 風紀関係事件の検察に関すること。
四 薬物関係事件の検察に関すること。
五 暴力団に係る刑事事件の検察に関すること。
六 外国人に係る刑事事件の検察に関すること。
七 前各号に掲げる事件に係る犯罪の予防に関すること。
(刑事法制管理官の職務)
第三十二条 刑事法制管理官は、刑事法制に関する企画及び立案に関する事務をつかさどる。
(国際刑事管理官の職務)
第三十三条 国際刑事管理官は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 犯罪人の引渡し、国際捜査共助その他の刑事に関する国際間の共助に関すること。
二 前号に掲げるもののほか、刑事に関する国際間の協力に関すること。
三 刑事に関する条約その他の国際約束の実施に関すること。
四 犯罪人の出国に係る事務の関係行政機関との調整に関すること。
(2) 官房,局及び部の設置及び所掌事務の範囲は政令事項です(国家行政組織法7条4項)。

8 内閣総理大臣は検察官を直接指揮することはできないこと
(1) 政府答弁
ア 吉國一郎内閣法制局長官は,昭和51年5月8日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 検察に対する指揮の問題につきましては、よく御承知の検察庁法第十四条の規定がございます。検察庁法第十四条では、検察庁も法務省の機関でございますから、法務大臣は検察官を一般的に指揮監督することができるようになっております。
   しかしながら、個々の捜査、処分につきましては、検事総長のみを指揮することができるということになっております。
   これは検察一体の原則と申しますか、検事総長を頂点といたしまして、その下に次長検事あるいは検事長、検事正というものを配しまして、検察官全体が一体となって司法権の行使と密接な関連を有する検察権の行使をいたす。その場合に、一般的な指揮監督というものは法務大臣はいたしますけれども、個々の処分については、検事総長のみを指揮するということにいたしまして、その検察一体の原則として検事総長の判断によって法務大臣の指揮を受けるか、あるいはその指揮を受けないで、こういうことをすべきではないということで法務大臣に対して意見を申し出て、その指揮を変えてもらうかというようなことができるようにいたしておりまして、検察権の純独立性と申しますか、そういうものを保障しようということになっております。
② 内閣総理大臣との関係は、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて各省大臣を指揮監督する立場がございます。
   これは内閣法第六条でございましたか、その第六条の規定によって、閣議にかけた方針に基づいて法務大臣を指揮監督するわけでございますので、法務大臣の検察庁法第十四条本文の規定による一般的な指揮監督権についてさらに総理が指揮することがあり得ますし、また検察庁法第十四条ただし書きのいわゆる指揮権というものについて、法務大臣を指揮監督することはあり得ると思います。
   しかし、それはあくまで法務大臣の行う指揮監督権あるいは指揮権に対する、いわばその上にさらにそれをどうするかということについての指揮監督権であるというふうに御了解願いたいと思います。
イ 衆議院議員鈴木宗男君提出内閣総理大臣の指揮権発動に関する質問に対する答弁書(平成19年6月8日付)には以下の記載があります。
① 一般に、「指揮権」とは、命令をし、これに従わせる権限をいうものと承知している。
② 検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)第十四条の規定により、個別具体的な事件に関する取調べについて、法務大臣は、検事総長以外の個々の検察官を直接指揮することはできず、検事総長のみを指揮することができる。これに対し、個別具体的な事件に関する取調べについて、内閣総理大臣が検察官を直接指揮することができる旨を定めた法令の規定はなく、内閣総理大臣が検察官を直接指揮することはできないと考えている。
ウ 衆議院議員浅野貴博君提出指揮権発動に係る法務大臣の発言等に関する質問に対する答弁書(平成24年6月15日付)には以下の記載があります。
① 内閣総理大臣が各閣僚から受ける報告の内容の詳細については、答弁を差し控えたいが、御指摘の「指揮権を発動して捜査をすべきとの意向」が、小川敏夫前法務大臣から、野田佳彦内閣総理大臣に報告されたとは承知していない。
② 一般論として申し上げれば、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第六条の規定により、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、法務大臣を指揮監督することができる。
(2) 最高裁判例
・ ロッキード事件に関する最高裁大法廷平成7年2月22日判決は以下のとおり判示しています(改行を追加しています。)。
   内閣総理大臣は、憲法上、行政権を行使する内閣の首長として(六六条)、国務大臣の任免権(六八条)、内閣を代表して行政各部を指揮監督する職務権限(七二条)を有するなど、内閣を統率し、行政各部を統轄調整する地位にあるものである。
   そして、内閣法は、閣議は内閣総理大臣が主宰するものと定め(四条)、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督し(六条)、行政各部の処分又は命令を中止させることができるものとしている(八条)。
   このように、内閣総理大臣が行政各部に対し指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

9 検察庁と行政委員会の比較
(1) 文部科学省HPに掲載されている「行政委員会制度の概要」には以下の記載があります。
3.行政委員会の主な特徴
① 数人の構成員からなる合議制の機関
② 委員の構成について一定の配慮が行われるとともに、委員の身分を保障
③ 権限行使について首長から独立性を有し、自らの判断と責任において事務を執行
④ 規則制定権を有するほか、審判、裁定等を行う権限を有するものもある
(中略)
※参考:国の行政機関
国の行政は、議院内閣制の下、内閣がその責任において行うことを基本としており、行政委員会が設置されているのは
① 個人の人権に対する直接的関与という事務の性質から特別に政治的中立性の確保が強く必要とされるもの(国家公安委員会)
② 所掌事務のうち準立法的又は準司法的権限を有するなど、特に慎重、公平な事務処理を必要とされるもの(人事院、公正取引委員会)
のような行政分野である。
(2)ア 行政委員会と比較した場合,検察庁の特徴は以下のとおりと思います(純粋に個人的意見です。)。
① 独任制の官庁であるとはいえ,検事総長をトップとして中央集権的に構成されています(「検察官同一体の原則」参照)。
② 検察幹部の構成について特段の配慮は行われていないものの,検事の身分は裁判官に準じて保障されています。
③ 検察権の行使について法務大臣から独立性を有し(検察庁法14条ただし書),自らの判断と責任において検察権を行使します。
④ 規則制定権を有していないものの,起訴・不起訴等の処分を行う権限を有します。
イ 検察庁の場合,個人の人権に対する直接的関与という事務の性質から特別に政治的中立性の確保が強く必要とされますし,所掌事務は準司法的権限を有するなど,特に慎重,公平な事務処理を必要とされるものの,行政委員会制度は採用されていません。
(3) 平成22年12月付の「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について(公表版)」を見れば,検察庁内部において,逮捕の判断,起訴の判断,捜査・処理における取調べ・決裁,公判遂行中の対応が具体的にどのようになされているかが非常によく分かります。

10 昭和12年12月16日,16人の被告人全員に無罪判決が言い渡された帝人事件
(1) 帝人事件というのは,昭和9年1月から追及されるようになった,帝国人造絹糸株式会社(略称は「帝人」であり,昭和37年11月以降は「帝人株式会社」です。)の株式をめぐる背任及び贈収賄事件であり,昭和9年7月8日の斎藤内閣(昭和7年の5・15事件の直後に発足した内閣であり,穏健派の海軍大将が起用されました。)の総辞職につながりました。
   昭和12年12月16日,起訴された16人の被告人(台湾銀行頭取,番町会関係者,大蔵次官,大蔵省銀行局長,商工大臣,鉄道大臣,帝人社長等です。)全員に対して東京刑事地裁で無罪判決が言い渡され(昭和12年12月17日の大阪朝日新聞参照),塩野季彦司法大臣(前職は大審院検事局次長です。)の判断により検察が控訴を断念したため,そのまま確定しました。
(2)ア 昭和10年5月1日から昭和22年5月2日までの間,東京地裁は東京民事地裁及び東京刑事地裁に分かれていました(昭和10年4月4日公布の法律第29号による改正後の裁判所構成法2条2項,及び裁判所ノ廃止及設立ニ関する法律(昭和10年4月4日公布の法律第30号)))。
イ 番町会というのは,大正12年頃に設立された,第一次世界大戦前後の財界の世話役だった郷誠之助(帝人事件当時,日本商工会議所会頭をしていました。)を囲む少壮財界人や若手官僚の勉強会でした。
   帝人事件では,番町会が,日銀に担保に入れられていた帝人株式を買い取って大儲けをし,その反面,台湾銀行に損をさせたとされました。
ウ 弁護士百年103頁には,「被告人に革手錠を施したり、夏の暑い日、豚箱(取洲べの順番を待つ小さな箱)に長時間入れたりの拷問取調べをして起訴した」と書いてあります。
(3)ア Wikipediaの斎藤実には以下の記載があります。
   (山中注:斎藤実内閣は)軍部の方針とも大きく対立はせず、1932年(昭和7年)9月15日、日満議定書を締結し満州国を承認、その後国際連盟総会にて日本側の主張が却下されると、1933年(昭和8年)3月27日、国際連盟脱退を日本政府として表明した。しかし一部軍人からは、元来リベラル派である斎藤への反感や、陸軍予算折衝で荒木陸相を出し抜いた高橋蔵相への反発などから、閣僚のスキャンダル暴きが行われた。
   そして1934年(昭和9年)、帝人事件が勃発。鈴木商店倒産に伴い台湾銀行の担保とされた同子会社帝国人造絹糸(帝人)株式22万株をめぐり、財界グループ「番町会」が買い戻しの依頼を受け、その後の帝人増資で株価利益を上げた問題で、帝人社長高木復亨や番町会の永野護、台湾銀行頭取島田茂、黒田大蔵次官など16名が起訴された。斎藤内閣は綱紀上の責任を理由に、同年7月8日総辞職した。
   同事件は、265回にわたる公判の結果、1937年(昭和12年)10月(山中注:昭和12年12月の誤りです。)全員が無罪判決を得るという異例の経過をたどったことから、検察内の平沼騏一郎派、陸軍将校、立憲政友会右派らが倒閣の為に仕組んだ陰謀であったと見られている。
イ 斎藤実(さいとうまこと)は,1914年(大正3年)1月発覚のシーメンス事件(ドイツのシーメンス社による日本海軍高官への贈賄事件)により,同年3月24日の第1次山本内閣の総辞職により海軍大臣を辞職した人であり,内大臣在任中に発生した昭和11年の2・26事件で殺害されました。
(4)ア 平沼騏一郎は,昭和7年の5・15事件の直後,陸軍内部から首相就任を期待する声が強かった人であり,昭和14年1月5日に内閣総理大臣となり,独ソ不可侵条約の締結が発表された直後の昭和14年8月30日に平沼内閣は総辞職しました。
イ Wikipediaの「馬場義続」(検事総長経験者です。)は以下の記載があります(「フレームアップ」は「でっちあげ」という意味です。)。
   田原総一朗は元検事の聞き取りとして、馬場の処世術について触れ、「検察官として、極く平均的な生き方をした人間」として平沼騏一郎がおり、平沼が出世した理由として、政治家のちょっとしたスキャンダルを見つけてきては、それをフレームアップする。狙いをつけている政治家が頼み込んできたら、そこで打ち切って大いに恩に着せる。その平沼流出世術を真似したのが馬場であり、これを当時の自民党の実力者である河野一郎にやり、のち広島高検に転出させられそうになったのを河野の口利きで撤回させたという。なお、検事総長になるほどの人物であれば、誰でもこの類の話に事欠かないとも記している。


11 昭和3年の検察庁法案及び昭和13年の検察庁独立法案
(1)ア 昭和3年に司法省刑事局で「検察庁法案」が立案され,昭和13年の第75回帝国議会において衆議院議員から提案された「検察庁独立法案」が審議されました。いずれも,裁判所に付置されていた検事局を検察庁として分離するという法案です。
   検察庁独立法案の審議に際しては,帝人事件が取り上げられ,検察ファッショによる人権蹂躙の防止ということが強調されました(法曹時報10巻1号40頁参照)。
イ 昭和3年の検察庁法案22条は以下のとおりであって,緊急の必要がある場合,司法大臣は個別の検事を指揮できるとされていましたから,検察庁法14条ただし書と比べて司法大臣の権限が強くなっていました。
① 司法大臣ハ公訴ノ実行ニ付検事ヲ指揮ス
② 検事総長以外ノ検事ニ対スル指揮ハ検事総長ヲ経由シテ之ヲ為ス、但シ緊急ノ必要アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
③ 前項但書ノ規定ニ依リ指揮ヲ為シタルトキハ司法大臣ハ検事総長ニ其ノ指揮ヲ為シタル事項ヲ通告ス
(2) 法学協会雑誌92巻11号(昭和50年11月発行)の「刑事訴訟法の制定過程(10)」末尾に以下の記載があります。
   昭和三年の検察庁法案は、内藤前掲『経過』第三分冊五百六頁以下に全文が収録されている。この法案は、裁判所、検事局分離の熱心な提唱者であった原嘉道(弁護士)が昭和二年に田中内閣の司法大臣に就任した際に立案を推進し、昭和三年に司法省案として作成して翌年二月枢密院に諮詢したものである。その主要な内容は、検事局を裁判所から分離して検察庁とし、検事に捜査につき司法警察官吏指揮権と公訴権等を与え、検察官吏を設置するなどして検察庁機構の整備強化をはかり、また司法大臣に公訴実行につき検事総長を経由して(緊急の必要あるときを除く)検事を指揮する権限を与えるものであった。この司法省案は、行政機関たる検察庁を法律で新設することは天皇の官制大権を侵すものではないかとの疑義が出されたために、翌月「御無沙汰ニ依リ返上」となった。
イ 明治憲法10条は「天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル」と定めていました。

12 関連記事その他
(1) Wikipediaの「統帥権」には以下の記載があります。
   統帥権独立の考えが生まれた源流としては、当時の指導者(元勲・藩閥)が、政治家が統帥権をも握ることにより幕府政治が再興される可能性や、政党政治で軍が党利党略に利用される可能性をおそれたこと、元勲・藩閥が政治・軍事両面を掌握して軍令と軍政の統合的運用を可能にしていたことから、後世に統帥権独立をめぐって起きたような問題が顕在化しなかったこと、南北朝時代に楠木正成が軍事に無知な公家によって作戦を退けられて湊川の戦いで戦死し、南朝の衰退につながった逸話が広く知られていたことなどがあげられる。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 検察権の独立(行政権,立法権との関係)
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 冤罪事件における捜査・公判活動の問題点
・ 検察官同一体の原則

検事総長,次長検事及び検事長が認証官となった経緯

目次
1 検事総長,次長検事及び検事長が認証官となった経緯
2 判検事の場合,地方のポストの格が高いこと
3 関連記事その他

1 検事総長,次長検事及び検事長が認証官となった経緯
・ 検事総長,次長検事及び検事長が認証官となった経緯に関して,「新検察制度の十年の回顧」には以下の記載があります(法曹時報10巻2号68頁及び69頁)。

   マックァーサー憲法の草案が提示された際、草案の規定のなかに天皇の認証ということがあった。当時はまだ国内的に認証官の種類や範囲が全然考えられていなかったのであるが、検察庁法を制定するにあたって立法者は検事総長、次長検事、検事長を認証官とすることを考え、これを草案に規定して総司令部の承認を得て認証官としたのである。
   この着想は極めて機敏に行われたため、総司令部との折衝や法制局との協議は極めて順調に進められた。行政機構が漸次整備した後において認証官の設置を希望する官庁が少くなかったにも拘らずその実現を果たし得なかったことを思えば、検察庁法の立案に当った関係者の明敏さには敬意を払わざるを得ないのである。
   検事総長、次長検事、検事長を認証官とする構想は、旧憲法下における天皇の親任官から由来したもので、これまで親任官であった国務大臣は新憲法の下においても当然天皇の認証が行われ、また憲法の改正により最高裁判所が実現すれば三権分立の強化から、内閣総理大臣に匹敵する最高裁判所長官も亦認証官となり、最高裁判所長官が認証官となれば裁判所の従来の伝統から、高等裁判所長官もおそらく認証官に加えられるものと予測し、最高裁判所および高等裁判所に対応する最高検察庁、高等検察庁の長および高等検察庁の長と同等の待遇を受ける最高検察庁次長検事の官が裁判官と権衡を失することのないようにするため検事総長、次長検事、検事長を認証官にしようとしたものであるが、総司令部は当初天皇の認証する官というものにそれ程深い関心を払っていなかったもののようであり、その折衝に対しては、さしたる異論もなく承認を与えてくれたのである。
   しかし検事総長、次長検事、検事長は、従来検事がその職に補せられていたので、新立法に際してもこれと同様に考え「職を認証する」ものとして法制局と折衝したところ、法制局の意見として、憲法の規定は官を認証するのだから検事総長、次長検事、検事長は官名でなければならぬということであったので、それまで検察官を検事と副検事とすることにしていた考えを検討し直し、検事総長、次長検事、検事長を認証官とする関係から、結局検察官の種類をこれにも及ぼすこととして、検察官を検事総長、次長検事、検事長および検事、副検事とすることにしたのである。

2 判検事の場合,地方のポストの格が高いこと
・ 平成22年度3年目フォローアップ研修「事務次官講話」「問題意識、丈夫な頭、健康」と題する講演(平成22年10月4日実施)において,大野恒太郎法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF3頁)。
    (山中注:検事の場合)地方のポストの格が高いというのも大きな特徴です。例えば、高等検察庁の検事長は認証官とされておりますので、次官よりも格上です。また、本省の局長が検察庁に戻ると、地方検察庁の検事正クラスということになります。こうした地方のポストが高いという特徴も裁判官と同様です。

3 関連記事その他
(1) 制定時の裁判所構成法では,検事総長は勅任官でしたが,大正3年5月1日,勅任検事をもって親補するところの親補職となり,大正10年6月1日,大審院長と同様,親任検事をもって親補するところの親任官となりました(裁判所構成法79条3項)。
   また,戦前の検事総長は大審院の検事局に置かれていました(裁判所構成法56条1項)。
(2) 控訴院検事長は,司法大臣の上奏により勅任検事の中から補されており(裁判所構成法79条4項),親補職ではありませんでした。
   また,戦前の検事長は控訴院の検事局に置かれていました(裁判所構成法42条1項)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 親任式及び認証官任命式
・ 法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)
・ 法務省作成の検事期別名簿

・ 動画の6分54秒から7分7秒にかけて,「官記を受け取ったら,本当は頭より上に掲げて降ろさないようにお辞儀をすることになっています。検事総長は恐らく初めての認証式ではないので上に掲げていたから中身が見えるんです。」というナレーションが流れます。

勤務延長制度(国家公務員法81条の3)の検察官への適用に関する法務省及び人事院の文書(文書の作成時期に関する政府答弁を含む。)

目次
1 法務省の文書
2 人事院の文書
3 法務大臣及び内閣答弁書の説明
4 令和2年4月6日の政府答弁(法務省,人事院,内閣法制局及び内閣人事局の答弁)
5 昭和22年の政府文書に関する内閣答弁書の記載
6 関連記事その他

1 法務省の文書
・ 法務省が令和2年1月に作成した「勤務延長制度(国公法第81条の3)の検察官への適用について」は以下のとおりです。

   国家公務員法(以下「国公法』という。)第81条の3に規定される,定年による退職の特例(以下『勤務延長制度」という。)は,特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に,定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認め,公務遂行に支障を生じさせないようにしようという趣旨から設けられている(森園幸男ほか編「逐条国家公務員法(全訂版)」698頁)。
   勤務延長制度は,職員が同法第81条の2第1項により退職する場合に適用されるところ,同項において,職員が定年に達したときは,定年に達した日以後の最初の3月31日又は任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日に退職する旨規定され,同条第2項において,職員の定年年齢が原則としてSO歳である旨規定されている。
   一方,検察官の定年については,検察庁法第22条において,一般の国家公務員とは異なり,検事総長は65歳,その他の検察官は63歳にそれぞれ達した時に退官する旨規定され,さらに,同法第32条の2において,同法第22条の規定は,国公法附則第13条の規定により,検察官の職務と責任の特殊性に基づいて,同法の特例を定めたものとする旨規定されている。
   このように,検察官の退職(退官)に関して国公法の特例となっているのは,定年年齢と退職時期であり(具体的には,同法第81条の2第1項に規定される「法律による『別段の定め』は,検察庁法(22条)により規定される定年年齢と定年による退職時期と解される。前記逐条国家公務員法1233頁も同旨。),検察官の定年による退職は,広く捉えれば,一般法たる国公法が規定する「定年による退職』に包含されるものと解される。そして,前記の勤務延長制度の趣旨は,検察官にも等しく及ぶというべきであり, 検察官についても国公法の定年制度を前提とする勤務延長制度の適用があると解される。
   この点,昭和56年の国公法改正により一般職の国家公務員全体に定年制度が導入される以前から,検察官については定年制度が設けられており,いわば検察官の定年制度そのものが国公法の特例であったところ(国公法の特例を定める検察庁法第32条の2は,国公法施行後の昭和24年に設けられ,その時点で既に検察官の定年に関する検察庁法第22条が国公法の特例とされていたことからも明らかである。),前記国公法改正により一般職の国家公務員全体に定年制度が導入されたことに伴い,その特例としての意味は,定年年齢と退職時期の2点に限られることとなったものであって,その意味でも,前記国公法改正以後は,国公法に規定される定年制度そのもの,そして, これを受けて規定されている勤務延長制度については,検察官にも(一般法である)国公法の規定が適用されると解するのが自然である。
   なお,勤務延長制度は,職員が同法第81条の2第1項により退職する場合を前提としているところ,前記のとおり,検察官の定年による退職に関する特例は,定年年齢と退職時期の2点であり,国家公務員が定年により退職するという規範そのものは,検察官であっても定年退職に関する一般法たる国公法に拠っていると言うべきであって,結局,検察官の定年による退職は,検察庁法第22条により前記2点につき修正された国公法第81条の2第1項に基づくものと解される。
以上

(注1)勤務延長制度に関する国公法第81条の3の検察官への適用にあっては,検察官につき前記2点に関しては本来検察庁法第22条により特例とされていることから,国公法81条のS第1項及び第2項のうち,「その職員に係る定年退職日」とあるものは,「その職員が定年に達した日」と修正されて適用されることとなる。
(注2) 再雰用制度に関する国公法第81条の4についても,勤務延長と同様,同法第81条の2により退職した者を対象としていることから,検察官にも観念的には適用があるものの,このうち,短時間再任用については,検察官は,犯罪の捜査や公訴の提起,刑事裁判への立会といった事務(検察事務)を自己の責任において行うこととされ,その職務内容が,週の一部や一日のうち限られた時間のみ勤務するといった短時間再任用になじまないこと,また, フルタイムの再任用についても, これまで,一般の国家公務員のような再任用職員のための俸給表が定められていないなど,法令上必要な手当てがなされていないことから,現状では適用できない状態にある。


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2 人事院の文書
・ 人事院が令和2年1月に作成した「勤務延長に関する規定(国公法第81条の3)の検察官への適用について」は以下のとおりです。

1.国公法における定年制度の導入以降、検察官の定年退職(退官)については、検察庁法第22条が国公法第81条の2第1項の「法律に別段の定めのある場合」に当たるものとして、勤務延長を含む国公法の定年制度全体が検察庁法により適用除外されていると解釈されてきたところ。
   今般、法務省から示された、検察庁法が検察官の定年退職(退官)に関して国公法の特例を定めているのは定年年齢と退職時期に限られ、勤務延長(国公法第81条の3)の規定は検察官にも適用されるという理解については、そのように検察庁法を解釈する余地もあることから、人事院として特に異論を申し上げない。
2. ただし、「注2」については、「フルタイム再任用と短時間再任用とにかかわらず、再任用は検察官の職務の特殊性に鑑み適用になじまないことから、国公法第81条の4及び第81条の5は適用されないと解される」とすべきである。

3 法務大臣及び内閣答弁書の説明
(1) 法務大臣の説明
・ 森まさこ法務大臣は,令和2年2月21日の法務大臣閣議記者会見において以下の説明をしています。
 国家公務員法に勤務延長制度が導入された昭和56年当時,検察官については,国家公務員法の勤務延長制度は検察庁法により適用除外されていると理解されていたものと認識しています。他方,検察官も一般職の国家公務員ですから,検察庁法に定められている特例以外については,一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。
 したがって,国家公務員法と検察庁法の適用関係は,検察庁法に定められている特例の解釈に関わることであり,その解釈については検察庁法を所管する法務省において整理されるべきものでございます。国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として,検察官についても定年の検討を進める過程で,法務省において国家公務員法と検察庁法との関係を検討したところ,検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は,定年年齢と退職時期の2点であること,特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に,定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認めるという勤務延長制度の趣旨は,検察官にも等しく及ぶというべきであること,この2点から,一般職の国家公務員である検察官の勤務延長については,一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたものでございます。
 その上で,法務省において,勤務延長制度の検察官への適用についての考え方をまとめた文書を作成し,省内で必要な決裁を経た上で,関係省庁に示し,具体的には,内閣法制局との間では,本年1月17日から同月21日にかけて,人事院との間では,本年1月22日から同月24日にかけて,文書を示して協議を行い,異論はない旨の回答を得て,最終的に結論を得たものです。
 なお,法令の解釈は,当該法令の規定の文言,趣旨等に即しつつ,立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮するなどして,論理的に確定されるべきものであり,検討を行った結果,従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には,これを変更することがおよそ許されないというものではないと承知しております。
 この点,社会経済情勢の多様化・複雑化に伴い,犯罪の性質も複雑困難化する状況下において,国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として,検察官についても改めて検討したところ,検察官の勤務延長について,一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈でき,問題はないものと考えます。今後とも,国会審議等を通じて,御理解をいただいてまいりたいと思います。
② 1月24日に政府としての統一見解を経て,解釈変更がなされたと認識しております。

(2) 内閣答弁書の説明
ア 参議院議員浜田聡君提出国家公務員法八十一条の三による検事長の定年延長等、公務員法に関する質問に対する答弁書(令和2年2月28日付)には以下の記載があります。
 一般職の国家公務員の定年制度の導入等を内容とする国家公務員法の一部を改正する法律(昭和五十六年法律第七十七号)が制定された昭和五十六年当時、検察官については、国家公務員法第八十一条の三の規定は適用されないと理解していたものと認識しているが、検察官も一般職の国家公務員であるから、本年一月、一般職の国家公務員に適用される同条の規定が適用されると解釈することとしたものである。
イ 衆議院議員川内博史君提出黒川検事長の勤務延長に関する質問に対する答弁書(令和2年4月3日付)には以下の記載があります(ナンバリングを追加しています。)。
① 憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものであり、政府による法令の解釈は、このような考え方に基づき、それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたものであって、諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮すべきことは当然であるとしても、なお、前記のような考え方を離れて政府が自由に法令の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えており、このようなことを前提に検討を行った結果、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと考えているが、その当否については、個別的、具体的に検討されるべきものである。
 お尋ねの今般の解釈変更(山中注:検察官についても国家公務員法81条の3に基づく勤務延長が認められるとする解釈変更)については、このような考え方に基づいて従前の解釈を変更したものである。
② 前段のお尋ねについては、お尋ねの「内閣法制局の審査を終えていた検察庁法改正案」の意味するところが必ずしも明らかではないが、令和元年十月時点における検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)の改正案に関するものも含め、法務大臣は、本年三月十三日に今国会に提出した国家公務員法等の一部を改正する法律案の閣議請議について決裁を行う以前には必要な報告を受けている。
 後段のお尋ねについては、法律案の立案の過程において作成された文書について、法務省において、法務省行政文書取扱規則(平成二十六年法務省秘法訓第一号大臣訓令)に定められた決裁を経ることを要しない取扱いとしている。
③ お尋ねの検討(山中注:令和元年12月頃に始められた,検察官についても国家公務員法81条の3に基づく勤務延長が認められるとする解釈変更の変更)については、法務大臣の指示により始められたものではない。
 また、お尋ねの担当者による検討が行われていることについては、本年一月十七日以前には把握していた。

4 令和2年4月6日の政府答弁(法務省,人事院,内閣法制局及び内閣人事局の答弁)
・ 令和2年4月6日の衆議院決算行政監視委員会第四分科会における政府答弁は以下のとおりです。
(1) 森まさこ 法務大臣の答弁
① 一月十七日から法制局と協議をするに当たり、その前に、一月十六日又は一月十七日に、事務方から私の方に説明に参りまして、そのときに私が了解したということでございます。
② 法令の解釈あるいはその変更というものについて、必ずしも決まった手続や方式があるわけではないものと承知をしております。
   その上で、検察官の勤務延長に関しては、検察庁法を所管する法務省において必要な検討等を行い、現行の国家公務員法の勤務延長の規定の検察官への適用について、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られたことでございますので、適正な手続を経たものと考えております。
(2) 川原隆司 法務省刑事局長の答弁
① ただいま大臣から答弁がございましたように、一月十六日又は十七日に事務方から関係省庁と協議をする旨の報告を大臣にいたしております。
   何日の何時ころに大臣のところにという記録が正確にはないのでございますが、既に国会にも御提出させていただいております一月十六日付のペーパーを作成後、十七日の協議開始までの間に大臣に御説明をしたということは間違いございませんので、十六日又は十七日というように日付を特定しているところでございます。
② 公文書管理法第四条に基づく規定であります法務省行政文書管理規則第十一条では、行政機関において法令の制定又は改廃について意思決定がなされた場合は、それに至る過程等について文書を作成しなければならないとされているところでございます。
   法務省では、今回、国家公務員法等の一部を改正する法律案につきまして成案が得られましたので、その作成の過程を明らかにするため、文書を適切に管理し、あるいは作成することとなります。そして、その一環といたしまして、解釈変更の経緯につきましても、既に存在する文書を管理するとともに、必要な文書を作成、管理してまいりたいと考えております。
③ 今回の解釈変更につきまして、委員御指摘のような通知は発出しておりません。
(3) 一宮なほみ 人事院総裁の答弁
① 一月二十二日に、法務事務次官から当方の事務総長に対し、検察庁法の解釈が示された文書で、人事院にも意見を伺いたいとのお話がございましたが、その理由等については伺っておらず、このほかにやりとりはございませんでした。
   一月二十四日に、当方の事務総長から法務事務次官に対し、人事院における議論の経過と結論をまとめた文書をお渡ししておりますが、その際、法務省から示された解釈がいつから適用されるかについては伺っておりません。
② 先ほどもお話しいたしましたように、一月二十四日に、私とほかの二人の人事官、事務総局との間で、国家公務員法で定める定年制度の検察官への適用に関する従来の理解、法務省が示した勤務延長等の規定の解釈に関する受けとめ、検察官の再任用に関する考えについて、認識の共有を図り、私の指示で経過と結論を文書化しておりますので、改めて議事録等を作成する必要はないと考えておりますが、今般の法務省とのやりとりにつきましては、一連の経過がわかるよう、関係する国会議事録等も含めて、行政文書ファイルを作成したいと考えております。
(4) 木村陽一 内閣法制局第二部長の答弁
① 法務省からは、法律案の審査の過程で、現行法の解釈として、検察官にも勤務延長制度を適用するということについて意見を求められたわけでございますが、その解釈をいつから適用するかということにつきましては、特段意見を求められておりません。
   本年一月二十一日に法務省に対して御回答した際に、いつから適用するのかということにつきまして、当局として意見は示しておらないということでございます。
② 解釈変更前の検察庁法改正の案文を含みます国家公務員法等の一部を改正する法律案でございますけれども、全体を審査する第三部、第三部長が了承いたしましたのが昨年の十二月の中旬。したがいまして、その後、長官、次長の審査を受けてよい、そういう判断になったということでございます。
③ 従前の解釈に基づきます案文が上がってはおりましたが、長官、次長の審査が終了したという事実はございません。

(5) 堀江宏之 内閣官房内閣人事局人事政策統括官の答弁
① 本年一月二十三日に、中央合同庁舎第八号館の内閣人事局におきまして、私が法務省の官房長から、検察庁法の解釈を改めることにつきまして、「勤務延長制度の検察官への適用について」と題する文書を提示され、相談を受けたものでございます。
   法務省からの説明を受けまして、局内で部下職員と検討を行った上で、同日中に私から法務省の官房長に対し電話で、意見がない旨の回答を行ったところでございます。
② 今後、法律案策定の経緯に関する文書を整理する際、先ほど申し上げた、本年一月二十三日に法務省から相談を受け、意見がない旨回答を行った旨について、公文書管理法等の規定を踏まえまして、必要な経緯を残したいと考えております。
③ 法務省から相談を受けた際、解釈変更について、いつから適用するかについての説明は受けておらず、当方において特段認識していなかったところでございます。


5 昭和22年の政府文書に関する内閣答弁書の記載
(1) 「検察官について公務員法の特例を認める必要ある理由」(昭和二十二年十月十日人補)においては,検察官を「準司法官」と位置付ける見解に基づき「検察官は公務員法では一応「一般職」に含まれて居るけれども、その任免転退等については、一般の行政官吏とは異る特別の措置を定める必要がある」としています。
(2) 参議院議員小西洋之君提出検察官は準司法官であるとした「検察官について公務員法の特例を認める必要ある理由」(昭和二十二年十月十日人補)に関する質問に対する答弁書(令和2年6月30日付)には以下の記載があります。
   勤務延長制度は、特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に、定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認めるという趣旨に基づくものであり、検察官に国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第八十一条の三の勤務延長の規定が適用されるとしても、内閣又は法務大臣が検察官を自由に罷免したり、検察官に対して身分上の不利益処分を行ったりするものではなく、その身分保障を害するものではないため、検察官に当該勤務延長の規定が適用できるとすることにより、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求するなどの検察権を行使する等、司法権の適正円滑な運営を図る上で極めて重大な職責を有する検察官の職務と責任の特殊性や準司法官的な性格に影響を与えることはなく、御指摘は当たらない。

6 関連記事その他
(1) 定年制の運用について(昭和59年7月2日付の人事院事務総長の通知)につき,令和2年3月31日改正後のものには以下の記載があります。
定年退職関係
1 国家公務員法(昭和22年法律第120号。以下「法」という。)第81条の2第1項の「別段の定め」に当たるものとしては、検察庁法(昭和22年法律第61号)第22条の規定がある。
2 法第81条の2第1項の規定により、職員(同条第3項に規定する職員を除く。)は、法第81条の3第1項の規定により引き続いて勤務する場合を除き、定年退職をすることとなる日の満了とともに当然退職する。
(2)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 定年の引上げ等に係る「裁判所における運用の骨子」及び「裁判所における運用の概要」について(令和4年11月17日付の最高裁人事局総務課長の通知)
→ ①裁判所における運用の骨子~定年の引上げ等について~(令和4年11月の最高裁判所事務総局人事局の文書)及び②裁判所における運用の概要~定年の引上げ等について~(令和4年11月の最高裁判所事務総局人事局の文書)が含まれています。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 東京高検検事長の勤務延長問題
・ 国家公務員法81条の3に基づき,検察官の勤務延長が認められる理由
・ 令和2年の検察庁法改正案及び検察官俸給法改正案に関する法案審査資料
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書