検察官同一体の原則


目次
1 検察官同一体の原則
2 検察事務及び検察行政事務
3 関連記事その他

1 検察官同一体の原則
・ 「新検察制度十年の回顧」には以下の記載があります(法曹時報10巻2号70頁及び71頁)。

    検察官同一体の原則とは、検察の組織が上命下服の関係において中央集権的に構成され、検事総長、検事長、検事正はそれぞれ自己の掌理する庁務をその指揮監督下にある検察官に委任することができ、またその指揮監督下にある検察官の事務を他の検察官に移管することができることをいうもので、検察官の組織をつらぬく原理として検察制度が確立した当初から縄められ、裁判所構成法においても成文上の根拠があった。これを検察庁法で踏襲したのである。
    普通一般の行政官庁では、国家機関として官庁を代表するものは、その庁の長に限られ、長以下の機関は官庁を代表する権限はなく、すべて代表者の補佐または補助としてその指揮命令により事務に従事するのであるから、その組織は極めて強固な指揮命令関係が徹底しており、ある意味においては、完全な同一体を形成しているものといえるのである。
    しかるに検察庁の組織において、とくに検察官同一体の原則が強調され、これを組織規定にもうける必要があるのは、いうまでもなく検察官は訴訟法の建前では、一人々々が独立官庁として検察固有の事務、たとえば犯罪の捜査、起訴不起訴の決定などについて、独自に権限を行使することができるのであり、これは裁判に準ずる検察事務の性質上当然なことではあるが一般行政官庁の職員の執務権限に較べて極めて強力なものである。したがつてこれに一定の制約を設けなければ、国家事務としての検察事務が個々の検察官によって区々に行われ、時には検察官の恣意による専断が行われないとはいえないので、検察庁全体として互に矛盾なく遂行することができるようにこれを統括し調整せねばならぬことになる。そのため「検察庁」は独立の官庁である個々の検察官の行う事務を統括するところというように定め、検事総長、検事長、検事正はその管轄する庁の事務の一部をその指揮監督の下にある検事に取り扱わさせ、あるいはその指揮監督下にある検事の事務を自ら取り扱い又は他の検事に取り扱わさせることができることを規定したのである。
    故に検察庁という官庁は、検察官が検察事務を行うところというような単なる場所をあらわしたものではなく、それは、検察官が本来独立官庁として独自に行うことの出来る個々の検察事務を、全体的に統括調整するところという意味であって、検察官の執務が形式的に統合されるというだけでなく実質的精神的に統括されることをも意味するのであって、これを規定した検察庁法第一条は、法案を法制局と審議した際当初もうけてなかったのをその示唆によってかような意味でとくにおくようにしたのである。
    ところが検察官が上官を代理してその事務を取り扱う場合は、特別の委任叉は命令がなくても当然これを行うことができるのであるから、その職務の代行について代理順序を定めておく必要があるので、法務大臣があらかじめその代理順序を定めることにしてこれを大臣訓令に譲ることにしたのであるが、検察事務のうちで検察固有のものは個々の検察官がそれぞれ独自でこれを行うことができ、検事長または検事正でなければできないという事務は本来極めて少いので、次席検事を設けて各庁の長を代理させこれに担当させるのが適当と思われたので、大臣の訓令で定める検察事務章程(山中注:検察庁事務章程のこと。)に次席検事の制度を設け、これとともに職務代行の代理順序を規定したのである。すなわち高等検察庁及び地方検察庁に次席検事を置き、その属する検察庁の長を補佐させることとし、最高検察庁において検事総長及び次長検事に事故があるとき又は検事総長、次長検事が欠けたときは、検事総長があらかじめ定めた順序により、その庁の検事が臨時に検事総長を代理し、高等検察庁又は地方検察庁においてその庁の長に事故のあるとき又はこれが欠けたときは、その庁の次席検事が臨時にその庁の長を代理し、次席検事もまた事故のあるとき又は欠けたときは、その庁の長の定めた順序により他の検事がその庁の長を代理することとしたのである。

2 検察事務及び検察行政事務
(1) 検察庁法1条1項は「検察庁は、検察官の行う事務を統括するところとする。」と定めていますところ,新版検察庁法逐条解説21頁には以下の記載があります。
    法第一条第一項を文法的にわかりやすくいえば、「検察庁は、検察官の行う検察事務および検察行政事務がその長によって統括されるところである」ということになる
(2) 個々の検察官の固有の権限としての検察事務について定める検察庁法4条ないし6条は以下のとおりです(検察官の職務権限が検察庁事務章程によって制限されているわけではないことにつき,検察庁事務章程5条4項)。
第四条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
第五条 検察官は、いずれかの検察庁に属し、他の法令に特別の定のある場合を除いて、その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において、その裁判所の管轄に属する事項について前条に規定する職務を行う。
第六条 検察官は、いかなる犯罪についても捜査をすることができる。
② 検察官と他の法令により捜査の職権を有する者との関係は、刑事訴訟法の定めるところによる。
(3) 検察官は,検察事務については,上司の指揮監督の下に,検察事務官,検察技官その他の職員を指揮監督します(検察庁事務章程8条)。
(4) 検事総長,検事長及び検事正は,庁務掌理権及び指揮監督権を他の検察官に委任することができます(検察庁法11条)。
   また,これとは別に,検察庁事務章程2条2項で次席検事の庁務掌理権及び指揮監督権が定められ,3条2項で支部長の庁務掌理権及び指揮監督権が定められています。
(5) 検察庁事務章程6条2項は最高検察庁の部長の事務総括権及び指揮監督権を定め,6条3項は高等検察庁及び地方検察庁の部長の事務総括権及び指揮監督権を定めています。
   6条2項及び3項が「総括」という表現を用いて,次席検事及び支部長の場合のように「掌理」という表現を用いなかったのは,部の所管事務は主として検察事務であり,検察事務は本来,個々の検察官の固有の権限に属するものであるからです(新版検察庁法逐条解説200頁参照)。

3 関連記事その他
(1) 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF5頁)。
    検察の仕事というのも、警察を始めとする多くの関係機関、裁判所、弁護士さん、要は刑事司法を支えている方々との協力を得ながら活動をしなければなりません。ただし、検察官は裁判官ではございませんので、基本的な独立性はありませんし、検察官同一体の原則というのがございまして、内部的な決裁でチェックを受けます。最低でも直属の上司の了解は必要でございますし、重大な事件になりますと高等検察庁、最高検察庁の了解が必要となりますので、相当な時間を要するということになり、他の行政機関の意思決定過程とそれほど変わらないのではないかと思われます。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)
・ 検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)
・ 各地の検察庁の執務規程
・ 検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権


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