検察権と管轄

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   七訂版 検察庁法(平成31年3月の法務総合研究所の文書)35頁ないし48頁には,「第4節 検察権と管轄」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。

1 裁判権行使の権限は各裁判所に分配され,裁判所は管轄区域内において,その管轄に属する事項(管轄事項)について裁判権を行使する権限を持つ。この権限の分配のことを管轄といい,管轄事項による管轄の定め方として事物管轄, 土地管轄及び審級管轄がある (注1)。
   検察権の行使は, この裁判所の管轄との関係で制約を受ける。すなわち庁法第5条は,「検察官は, いずれかの検察庁に属し,他の法令に特別の定めのある場合を除いて, その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において, その裁判所の管轄に屈する事項について前条に規定する職務を行う」 と規定しているとおり,他の法令に特別の定めがある場合(例えば,逃亡犯罪人引渡法第32条)を除いて,所属検察庁が対応している裁判所の管轄区域と管轄事項に関する制限に従うこととされている。例えば,東京地方裁判所に対して公訴を提起することができるのは,東京地方検察庁の検察官に限られ,東京簡易裁判所に対して公訴を提起することができるのは東京区検察庁の検察官に限られる(注2)。

(注1)(1) 審級管轄とは,事件の第一審をどの裁判所が受け持ち, これに対する上訴をどの裁判所が受け特つかの定めをいう.すなわち,刑事事件の第一審は,地方裁判所及び簡易裁判所が管轄し,これらの裁判所の判決に対する控訴や, これらの裁判所の決定に対する抗告は, 高等裁判所が管轄する(裁判所法第16条第1号,2号)。高等裁判所が第二審
としてした判決や,高等裁判所が例外的に第一審としてした判決に対する上告は,最高裁判所が管轄するなどである。
(2) 事物管轄とは,事件の軽重や性質による第一審の管轄の分配をいう。
   第一審を受け持つ裁判所が,それぞれどのような種類の事件を審理・裁判するかの定めのことである事物管幅の定めを表にすると, 次のようになる。

簡易裁判所① 罰金以下の刑に当たる罪の事件
② 選択刑として罰金が定められている罪の事件
③ 常習賭博罪,賭博開場等図利罪,横領罪,盗品譲受け等罪の事件
裁判所法第33条第1項第2号
地方裁判所④ ①及び⑤に当たるもの以外の全ての事件裁判所法第24条第2号
高等裁判所⑤ 内乱罪の事件裁判所法第16条第4号

   なお,独占禁止法違反事件件のうち犯則事件に該当する罪については,土地管轄を有する地方裁判所に加えて, 当骸地方裁判所を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所及び東京地方裁判所も併わせて管轄を有し(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第84条の4),法定刑が罰金のみである法人のみが起訴される場合であっても,地方裁判所が第一審裁判所である(同法第84条の3)。
   ところで,例えば,過失致死罪には罰金刑しかない(刑法210条)ので,簡易裁判所だけが事物管轄を持ち,常習累犯窃盗罪は,3年以上の懲役と定められている (盗犯等ノ防止及処分二関スル法律3条)ので,地方裁判所だけが事物管轄を持つ。 このように一つの裁判所だけが管轄を持つことを専属管轄という。
(3) 土地管轄とは,事件の土地的関係による第一審の管轄の分配である。
   各裁判所は, それぞれ管轄区域を持っており,その管轄区域内に犯罪地又は被告人の住所・居所・現在地がある事件について土地管轄を有する(刑訴法2条1項)。例えば,札幌市に住居を有する新が東京都千代出区内で窃盗を働いたとすれば, この事件の土地管轄は,札幌地方裁判所,札幌簡易栽判所,東京地方裁判所及び東京簡易裁判所の4つの裁判所にある。また,仮にこの者が逮捕され,代用刑事施設としての八王子警察署留置施設に勾留された場合において,公訴提起の時点でもなお同所に勾留されていたとすれば,その者の「現在地」である同留置施股を管鞘区域内にもつ八王子簡易裁判所もまた士地管轄を持つ。したがって,この5つの裁判所のいずれにこの事件を起訴しても適法である。
(注2) 区検察庁検察官が地方裁判所に提起した公訴の効力について
   判例「ところで右起訴状の記載によれば,本件公訴は福岡区検察庁検察官事務取扱検事○○○○が福岡地方裁判所に提起したものであることが明白である。およそ公訴は検察官がこれを行うものではあるが(刑事訴訟法第247条),検察官はいずれかの検察庁に属しその属する検索庁に対応する裁判所の管轄区域内においてその裁判所の管轄に属する事項について刑事につき公訴を行いその他法令によりその権限に属させた事項を行うのであって(検察庁法第5条,第4条),いまこれを本件の場合についてみれば,福岡区検察庁検察官は福岡簡易裁判所に公訴を行うのであって福岡地方裁判所に公訴を提起することはできないのである。換言すれば福岡地方裁判所に公訴提起することのできるのは福岡地方検察庁検察官でなければならないのである。
しかるところ本件公訴は検事○○○○が福岡区検察庁検察官の資格において福岡地方裁判所にこれを提起したものであるから違法というの外なく結局公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに該るから刑事訴訟法第338条第4号によりこれを棄却すべきである」 (福岡地判昭和33年9月13日一審刑集1巻9号1379頁)
   なお,本件においては,公判立会検察官が起訴状訂正の申立をし,「起訴状中福岡区検察庁とあるのを福岡地方検察庁に,又検察官事務取扱検察官検事とあるのを単に検察官検事に」と訂正方を申し立て,「福岡地方検察庁検察官検事が福岡地方裁判所に公訴を提起したものである」旨主張したが,裁判所は「起訴状の記載自体余りに明確に過ぎて誤記と認める余地はなく,且つその事項は本件公訴の有効無効にかかわる実質的に重要な部分に属し,これを右申立の如く訂正を許すときは,その意味内容,法的効果を全部的に変改することとなるから,到底単なる誤記を以ってしては,これが訂正は許されないというべく, 又その申立理由を訴訟条件追完の意味に解するとしても. このような起訴状の重大な暇疵については,法的安全の要請からこれを認めるべきものではない」 として訂正申立を認めない立場に立っていることに注意すべきである。
   ただし,「横浜地方検察庁川崎支部検察官事務取扱検察官副検事○○○○」として横浜地方裁判所川崎支部に公訴提起すべきところ,誤って「検察官事務取扱」の表示を脱落して同支部に公訴提起した場合については,裁判所は,川崎区検察庁の検察官は横浜地方検察庁検事正の訓令により同庁川崎支部検察官の事務を必要に応じて取り扱うことができる権限を有し
ていたと認定した上, 「この程度の暇疵は公訴提起を無効ならしめる程の重大な暇疵とは認められない。」 (東京高判昭和45年7月18日高検速報1816頁) と判示していることも,併せて注意すべきである。
   
2 裁判所の管轄事項については,「裁判所法」第7条(最高裁判所),第16条(高等裁判所),第24条(地方裁判所),第33条(簡易裁判所),「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」第84条の3等により定められている (35頁注1参照)。
   これらは, 固有の法定管轄であるが,管轄の修正(刑訴法第3条ないし第11条)(注)があったときは, それによることになる。
(注) 例えば,同一人が恐喝罪と賭博罪とを犯した場合,恐喝罪の事物管轄は地方裁判所にあり,賭博罪は,その刑が罰金又は科料に限られているから,簡易裁判所に事物管轄がある。しかし,この2つの事件は,「1人が数罪を犯した」 ものとして関連事件とされ(刑訴法第9条第1項第1号),上級の裁判所,つまり地方裁判所が賭博罪を併せて管轄することができる (刑訴法第3条)。また,大阪に住む甲と名古屋に住む乙が一緒になって,東京で殺人罪を犯した場合,犯罪地である東京の地方裁判所に甲, 乙2人について土地管轄があることはいうまでもないが, この場合の甲の事件と乙の事件とは,やはり関連事件とされ(刑訴法第9条第1項第2号), 甲の住居地である大阪の裁判所で乙の事件をも一緒に審理することもできれば, 乙の住居地である名古屋の裁判所で甲の事件をも一緒に審理することもできる(刑訴法第6条)。
   
3 裁判所の管轄区域は,裁判所が職務行為を行うことができる地域としての意味を持つが, これについては, 「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」により定められている。そして,原則として,検察官はその所属する検察庁に対応する裁判所の管轄区域内においてのみ職務を行うことができる。ただし,刑訴法第12条は,「裁判所は,事実発見のため必要があるときは,管轄区域外で職務を行うことができる。」と規定し,裁判所は,事件処理のため必要がある場合に限り,その限度で管轄区域外においても職務を行うことができる。 この場合, 当該裁判所に対応する検察庁に所属する検察官は, その職務を管轄区域外で行うことができるか否かについての直接の規定はない。しかし,裁判所の行う押収・捜索・検証・証人尋問について,その訴訟の当事者である検察官には立会や尋問の権限があるのであり(刑訴法第113,142,157条),その証人尋問等が当該裁判所の管轄区域外で行われるからといって,当事者である検察官にその管轄区域外での証人尋問等の職務執行を認めないとすることは,刑訴法第12条の「事実発見のため」 という目的をも否定することになりかねなく,その当をえないことは明らかである。 したがって, 当該裁判所が管轄区域外において職務を行うときには,その裁判所に対応する検察庁に所属する検察官は,その有する権限の範囲において,その職務を管轄区域外で行うことができると解する。これに対し, 当該押収・捜索・検証・証人尋問を行う土地を管轄する裁判所に対応する検察庁の検察官は,庁法第12条による事務移転(「事務取扱」が発令される。)を受けない限り, これらの行為に関与することはできない(注)。
(注) 例えば, A地方裁判所に係属する公判事件の証人等間がB地方裁判所の管轄区域内で行われる場合を考えれば, その証人尋問がA地方裁判所自身又はその受命裁判官によってなされるときは,B地方裁判所に対応するB地方検察庁の検察官がA地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から尋問立会方の嘱託を受けたとしても, これに応じて立会して袖肋することはできない。けだし,それは, B地方検察庁の検察官にとって対応裁判所の管轄に属しない事項だからである。これに対して, その証人尋問がA地方裁判所の嘱託によりB地方裁判所によって行われるものであるならば,B地方検察庁の検察官はこれに立会できる。
以上が管轄についての原則である。
   
4 捜査の場合の例外
(1) 捜査に関し庁法第6条第1項は, 「検察官はいかなる犯罪についても捜査することができる。」 と規定し,捜査についての事物管轄の制限を解除している。捜査は,その性質上, これを完結してみなければ,いかなる罪名に当たる犯罪であるか明らかにならないことが多いので,事物管轄の制限を置くことは,いたずらに検察官の捜査を制限することになり, その意味がないからである。
   例えば,窃盗として送致された事件を捜査した結果,常習累犯窃盗と判明したり, あるいは,業務上過失致死として送致されてきた事件を捜査の結果,過失致死にすぎないことが判明した場合である。常習累犯窃盗については,地方裁判所でしか裁判できないし,過失致死については,簡易裁判所でしか裁判できないことになっているから,常習累犯窃盗は地方検察庁の検察官が,過失致死は区検察庁の検察官がそれぞれ起訴することになる。 しかし,窃盗であるか常習累犯窃盗であるか, また業務上過失致死であるか過失致死であるかは,実際に捜査が終わってみなければわからない場合が多い。このため,捜査について,事物管轄の制限が及ぶものとした場合には,結果としては管轄のない事件について職務を行ったことになるなどの不都合が生ずるのである。
   このように,捜査については,事物管轄の制限を受けないので, 区検察庁の検察官も,地方裁判所の事物管轄に属する事件の捜査をすることができる。 しかし,区検察庁の検察官はこれを地方裁判所に対して起訴することはできないから,最終処理の前に管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に移送する必要がある(注1)。
(2) これに対し,犯罪捜査に関する管轄区域の制限は,庁法第6条によって解除されない。 この点について,検察官の犯罪捜査権は,第6条によってはじめて認められたものであるから,その前条である第5条の制限は受けず, したがって,犯罪捜査については全く管轄の制限を受けない,とする考え方がないわけではない。しかし,検察官の犯罪捜査権は第4条にそもそもの根拠があり,第6条はそれを確認するとともに,事物管轄の制限を解いたものであることは,既に述べたとおりである。また,庁法の前身である裁判所構成法も, 「検事局ノ管轄区域ハ其ノ附置セラレタル裁判所ノ管轄区域二同シ」 (第6条第4項)と規定し,検察官の犯罪捜査権について管轄区域の制限を認めていたものであり,庁法制定当時は検察官の捜査権を縮少しようという考え方があったことなどを考えると,庁法が検察官の犯罪捜査権について,管轄区域の制限を全く置かなかったと解することはできない(注2)。
   しかし,犯罪捜査の性質上,管轄区域外で職務を行うことを全く認めないとすることはできない。そこで,刑訴法第195条は,「捜査のため必要があるときは,管轄区域外で職務を行うことができる」 と規定し,管轄区域外での捜査を認めている。
   「捜査のため必要があるとき」 とは,本来当該検察官が捜査することができる事件がある場合に, その捜査の必要上管轄区域外で捜査活動することを認めた趣旨と解される。すなわち, 当該検察官所属の検察庁において有効に捜査に着手された事件が存在していること,換言すれば,その管轄区域内において着手(認知) された事件が存在していることが必要と考えられる。例えば,東京地方検察庁検事が,大阪に出張中,たまたま,その面前で傷害事件を目撃したという場合には,東京地方検察庁の管轄区域における事件の認知がなく,有効にその事件の捜査に着手していないといえるから,東京地方検察庁にその事件は存在していないことになり, したがって, その事件について,その東京地方検察庁検事が,加害者を取り調べるなどの捜査活動を大阪で行うことは許されない。
(3) ところで,捜査の開始時には土地管轄は明らかでないことが多いし,また,捜査の目的からいっても,土地管轄がなくても捜査を進める必要のある場合がある。 この場合に捜査をすることは土地管轄がない事件について捜査を行うことになるが,捜査の発展的流動的性格を考慮すれば,その捜査は適法・有効であると考えるのが相当である (刑訴法第258条参照)。このような場合は必要な捜査を遂げた上,管轄検察庁の検察官に事件を送致しなければならない(注3,4,5)。
(注1) 現行犯人逮捕手続書の末尾記戦の送致先検察官が地方検察庁検察官であるのに区検察庁検察官においてこれを受理,処理することの適否について
   判例「所論現行犯人逮捕手続書の末尾には,丸の内警察署司法蕃察員が被告人をその関係書類と共に東京地方検察庁検察官に送致した旨記載されているに拘らず,次欄において東京区検察庁検察事務官がこれを受領した旨記載せられ, 更に記録による本件を同検察庁において処理していることは所論のとおりである。 しかしながら本件については東京地方検察庁及び東京区検察庁の各検察官が共にその処理権限を有するので,たとえ司法警察員からの送致先が前者になっていたとて, それに拘らず後者においてこれを受領し,その処理をするのに何等の妨げもないものというべきである。
   而も右逮捕手続書その他一件記録に微するも,東京地方検察庁において本件を受理した形跡は毫も窺われないので,所論移送手続の問題を生ずる余地はないのである」 (東京高判昭和29年10月13日最高裁刑事判例要旨集8巻10号723頁)
(注2) 裁判所構成法上,検事の捜査処分をなしうる地域について「裁判所構成第6条第3項ニ於テ検事局ノ管轄区域ヲ定メタルヲ以テ検事カ捜査処分ヲ行フニ付テモ此区域ニ局限セラレ管轄区域外ニ於テハ之カ処分ヲ為スノ職権ヲ有セサルモノト解スルヲ妥当トスル」 (大判大正5年6月2日大審院判決抄録65巻8688頁)
(注3) 「所論は,東京地方検察庁の検察官が富山県に住所を有する被告人等に対し捜査を開始したのは違法か少くとも捜査権の濫用であるというのであるが,検察官は検察庁法第6条により当該事件の管轄にかかわらず捜査をなし得るのであるから(公訴提起が当該事件の管轄裁判所に対応する検察庁の検察官からその管轄裁判所に対しなされる必要があることはもちろんである。),東京地方検察庁の検察官が本件につき捜査を開始したことは何ら違法ではなく,又捜査権の濫用ということもできない。論旨は理由がない。」 (東京高判昭和39年10月28日高裁速報1262)
(注4) 現行法上,検察官の捜査処分をなし得る地域について
   事例的に説明すると,例えば, (1)東京地方検察庁の甲検察官が,東京から大阪に向かって進行中の列車に乗車中,列車が浜松市付近を走行中に車内で発生した傷害事件を目撃した。甲検察官はその加害者を取り調べて被疑者調書を作成できるか。 (2)伊丹空港から羽田空港に向かって飛行中の航空機内において詐欺の被害にあった被害者が,千葉地方検察庁の乙検察官に被害の申告をしてきた。この場合, 乙検察官はこの被害者を取り調べて供述調書を作成できるか, というような問題が生じる。
   捜査段階においては,検察官は,いかなる犯罪をも捜査できる (庁法第6条)ので,事物管轄は考える必要がないが,同条によっても管轄区域の制限は解除されていないから,管轄区域の制限に抵触するか,制限に抵触したとしても刑訴法第195条の「捜査のため必要がある」場合に該当し例外的に管轄区域外でも捜査活動ができる場合かどうか検討することが必要である。また, 土地管轄の制限もあるが, これについては,本文で述べたように,捜査の発展的流動的性格を考慮して柔軟に考えて良い場合かどうかを検討しなければならないこともある。
   (1)については,東京地方検察庁の甲検察官の浜松市付近における捜査活動の可否が問題であるから,管絡区域外での捜査活動が例外的に許される 場合かどうかを検肘することになる。刑訴法第195条の「捜査のため必要がある」といえるためには, 当該検察官所属の検察庁にその事件が存在することが必要であるところ,本件の傷害事件は管轄区域外においてはじめて認知されたものであって未だ東京地検の事件として存在していない。 したがって,同条の適用はなく,甲検察官の浜松市付近での取調べは許されない。 (2)について,乙検察官は,その所属する千葉地方検察庁の管轄区域内で捜査を行おうとしているのであるから,管轄区域の制限に抵触しないことは明らかである。本件詐欺事件は,その犯罪地が千葉地方検察庁の管轄区域内ではなく,被疑者の住所・居所・現在地が同区域内にあるかどうか明らかでないから,千葉地方検察庁に対応する千葉地方裁判所に土地管轄があるかどうか疑問となるが,法は,検察庁が対応裁判所の土地管轄に属さない事件を捜査することを予定しているものと解されるので,千葉地方検察庁の検察官が,必要と認めて捜査に着手することができ,被害者の取調べも許される。
   土地管轄についてたとえ対応する裁判所の土地管轄に属しない事件についても捜査できることは,(ア)庁法第5条が「その属する検察庁の対応す裁判所の管轄区域内において」と規定し,「対応する裁判所の土地管轄に属する事項について」とは規定していないこと,(イ)刑訴法第258条は,「検察官は,事件がその所属検察庁の対応する裁判所の管轄に属しないものと思料するときは,書類及び証拠物とともにその事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。」と規定し,検察官が対応裁判所の管轄に属しない事件を捜査することがあることを予定していることなどから明らかである。ただ捜査の結果起訴を相当とするときは,庁法第5条の制限が完全にかぶってくるので,刑訴法第258条により管轄裁判所に対応する検察庁に事件を移送しなければならないのは当然である。
(注5) 国外における捜査について(検察官が外国において外国人を取り調べて作成した供述調書の証拠能力)
   判例「そもそも,検察官面前調書がその証拠能力を認められる理由は,検察官が裁判官に準じた資格で任用され,適正な取調べを行うことが期待される点にある。したがって,検察官がその職務執行行為として人を取り調べ,その供述を録取した場合に, その書面を検察官面前調書として証拠能力を認めることができるのであって,たとえ検察官の身分を有する者であっても, その職務執行行為に関係なく人の供述を聞きこれを録取した場合には, その書面に検察官面前調書としての証拠能力を認めることはできない。そこで,本件においては,検察官の身分を有する○○○○(以下「甲」という。)が米国内において,外国人○○○○(以下「W」という。)の供述を聞きこれを録取した行為は,検察官の職務執行行為としてこれを是認することができるかどうか判定しなければ,W調書(1)(2)の証拠能力を判断することはできない。この点につき按ずるに, 甲検察官の右行為は,被告人に対する国家公務員法違反の嫌疑によりその捜査を行ううえに最も重要な証拠となるWを直接取り調べた際になされたことは, 甲証言により明らかである。 したがって,右行為は任意捜査の範囲に風する。ところで,捜査は,任意捜査であると強制捜査であるとを問わず,刑事訴訟法上の行為であるから,刑事訴訟法の適用がない地域においてはこれを行うことができない。元来刑事訴訟法は原則としてわが国の領土全部に適用されるいわゆる属地主義に立ち,したがって,外国の領土においてほしいままに捜査を行うことはできない建前であるから,弁護人所論のような日米犯罪人引渡条約等による犯罪人引渡し,訴訟共助等の国際的司法共助が必要とされるのであって,弁護人引用の検察庁法,刑事訴訟法の各関係条文は,弁謹人所論のように国内の問題を規定したに過ぎないわけである。 しかし,一国が他国に承認を得れば, その他国内において, そこの主権を侵害することなく, 自国の或る種の権能を行使することができることは, 国際法上容認されているものというべく,本件のような捜査権の行使について考えれば, わが検察官が任意捜査として米国内において,人を取り調べるためには,米国の承認を得る必要があるが,その承認を得ればその承認された限度において,わが刑事訴訟法の規定に準拠して人を取り調べその供述を録取することができると解するのが相当である。また, この場合米国の承認は事柄の性質上米国政府又は駐日米国大使が米国を代表してわが駐米大使又はわが政府に対してなされれば, それで十分であると解するのが相当である。そこで,本件においては,甲検察官が米国内において,Wを取り調べるため,米国の承認があったかどうかをみるに,・・・甲証言,第12回公判調書中証人○○○○の供述記載及び在米日本国大使館参事官○○○(以下「乙」 という。)作成の回答書によれば, その後甲検察官の発意に基づき,昭和29年8月下旬法務省は外務省に対しWを取り調べるため東京地方検察庁甲検察官を法務省刑事局○○公安課長とともに渡米させたいので米国政府の同意取り付け方を要請したところ, 当時外務省国際協力局第3諜長の職にあった乙が在日米同大使館担当官に右の趣旨を伝え,米国政府の同意方を要請した結果, 同年9月上旬右担当官から米国政府は右両名が渡米しWを取り綱ぺることに同意する旨の回答があったので, これを法務省に伝達し,右両名は通常の手続にしたがって米国政府の入国査証を受けて渡米したこと,甲検察官は,さきに認定した日時,場所において,Wを取り調べるにあたり,米国側の協力を得たことを認めることができる。
   されば, 甲検察官が, 国際法上適法に任意捜査として,米国内において,Wを取り調べるについて米国の承認があったものと解するに十分である。
   したがって,米国の承認を得てなされた甲検察官の右行為は,国内法上憲法秩序に抵触しない以上,これに検察官の職務執行行為としての効力を認めることができる。そこで,甲検察官の取調べにおいて作成されたW調書(1)(2)は検察官面前訓書として証拠能力を認めることができる。」(東京地判昭和36年5月13日下級刑集3巻5,6号469頁)
   
5 検察庁の職員の相互補助
   検察官,検察事務官はもとより全ての検察庁の職員は, いずれかの検察庁に属して,本来, その庁の事務とされている事務を取り扱うのが原則である。 しかし,検察庁において取り扱う事務の特殊性に鑑み,庁法第31条は「検察庁の職員は,他の検察庁の職員と各自の取り扱うべき事務について互いに必要な補助をする。 」と規定し,他の庁の職員のために事務を補助することができるものとした。 日常,検察庁間に行われている嘱託の制度は, この補助の一形態である。
   他の検察庁の職員を捕助する事務は,他の検察庁の事務ではなくて,補助する職員の属する検察庁の事務である。 したがって,補助しようとする事務が検察事務であれば,庁法第5条(捜査については,第6条)の管轄の制限を受けることになる。例えば,証人尋問がA地方裁判所自ら又はその受命裁判官によってB地方裁判所において行われることになった場合, A地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から,B地方裁判所に対応するB地方検察庁の検察官に対して尋問立会の嘱託があったとしても,B地方検察庁の検察官はこれに応じて立会うことはできない。
なぜならば,この吸託は,B地方検察庁に対応する裁判所(B地方裁判所)の管轄に属しない事項だからである。 しかしながら,証人尋問がA地方裁判所からの嘱託によりB地方裁判所によって行われることになった場合,A地方裁判所に対応するA地方検察庁の検察官から,B地方検察庁の検察官に対して尋問立会の嘱託があったときは,B地方検察庁の検察官はこれに応じて立会うことができる。なぜならば,この嘱託は,B地方検察庁に対応する裁判所(B地方裁判所)の管轄に属する事項だからである。また,嘱託されて捜査するときも, 原則として嘱託を受け た検察庁の管轄区域内でしか捜査をなし得ない。

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