愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決(最高裁大法廷平成9年4月2日判決)の事前漏えい疑惑に関する国会答弁

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愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決(最高裁大法廷平成9年4月2日判決)に関しては,その評議内容に関する記事が平成9年2月9日の朝日新聞及び共同通信配信地方紙に掲載されましたところ,この問題に関する平成9年3月25日の参議院予算委員会における国会答弁は以下のとおりです(野間赳は,愛媛県選出の参議院議員(自民党)であり,18期の涌井紀夫裁判官は最高裁判所総務局長でした。)。

○野間赳君 先般三月十一日の当予算委員会におきまして、愛媛県玉ぐし料訴訟の報道に関しましての質問をいたしました。また、三月十八日には我が党の先輩であります板垣先生からもこの件につきましての質問がなされたのであります。
   最高裁からは、漏えい疑惑につきまして厳格な調査をした、漏えいはなかったと繰り返しの答弁がなされてまいりました。念には念を入れて調査をして、調査結果は間違っていなかったと断言をなされておられるのであります。
   その後、私も先日来の新聞記事を幾度となく読んでみました。しかし、どうしても予測、予想で書ける記事ではないように思えてならないのであります。そこで、本日改めて時間をちょうだいいたしましてこの問題につきまして再び質問させていただきますので、よろしくお願いを申し上げます。
まず、最高裁が行った調査につきましてお伺いをいたします。
   先日、私の質問に対しましての答弁、内部の関係者ということになりますと、本件の合議に直接関与しております十五名の裁判官を含めまして、さらにその合議の内容を審議用の資料を通じて間接的にでも知り得る可能性にあります調査官であるとか、またあるいは裁判官の秘書官であるとか書記官、事務官等々、人数にいたしまして合計で五十名弱の者について調査を行ったということでありました。
   調査の中身そのものは無論明らかにできないということでありましたが、厳格に十分念を入れて調査をされたと、こういうことでございましたので、一体どのような方法、手段で調査をなされたものか、お伺いをいたしたいと思います。
   直接に面接でおやりになられたのか、電話であったとか具体的にお願いをいたします。調査はどのような機関で何人ぐらいで行われたのか、まずお伺いをいたします。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 調査の方法でございますが、まずその対象者をどうするかという問題がございまして、私どもの方ではこの事件の合議の内容を直接間接に知る可能性のある者をできるだけ広く調査の対象にいたしまして調査をしたつもりでございます。
   もちろん、事件の合議の内容を直接知っておりますのは十五名の裁判官でございますけれども、実は調査官というのがございまして、これは事件のいろんな法律問題等の調査を担当いたしますので、審議の経過で裁判官の指示に従いましていろいろ調査をしたりいたしますので、その過程で間接的にと申しますか審議の内容に触れる機会がございます。
   それから、裁判官の秘書官というのは裁判官の手元にある資料すべてについて目にする機会がございますので、こういう裁判官の秘書官も調査の対象にいたしました。
   それから、事件の進行手続をいろいろ管理しております書記官というのも、これまたさらに間接的な形ではございますけれども合議の内容等を一部知り得る可能性もございますし、また事件用の書類の作成に関与します事務官等の中にも、そういう間接的な意味で部分的に審議の内容等を知り得る可能性がある者がございます。
   こういった者をできるだけ広く調査の対象に含めまして、総計で言いますと、委員今御指摘ございましたように、五十名弱の者を調査の対象として選んだわけでございます。
   実は、この調査の具体的な方法、内容になってまいりますと、特にこの事件の審理を担当しております裁判官についてどういう調査をどういう方法で行ったかということになってまいりますと、これは事件の合議内容そのものともう非常に密接に関連してまいります。まさに秘密そのものという事項になりますので、なかなかそこまで申し上げることが難しいわけでございますけれども、要するにそういう事件の合議の内容を直接間接に知り得る可能性のある者一人一人につきまして、その合議の秘密というものを外部に漏らした事実がないかどうかということを十分念を入れまして確認しております。
   調査の方法でございますが、例えば書面等によりまして通り一遍の調査をしたというものではございませんで、いろんな調査方法あるいは確認方法を講じまして、いろんな角度から総合的に事実関係を確認いたしまして、内部の者から合議の秘密が漏えいされたという事実は認められないという、そういう結論に達したわけでございます。
○野間赳君 また、先般の板垣先生の質問に対しましては、私どもの方、内部の者、それから報道機関側双方についても十分念を入れて調査をしたというお答えでございました。
   朝日新聞、共同通信につきましての調査はどのような調査であったのか、これも具体的にお答えをいただきたいと思います。厳格な調査であれば、記事を書かれた、執筆した記者についても直接調査をなされたのかどうか、そのあたりをお答えいただきたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 報道機関側に対しましては、裁判所担当の記者というのがございますので、その記者を呼びまして直接本人から、これは一度だけではございませんで、繰り返し取材経過等について釈明を聴取するという、そういう措置を講じております。その結果、記者の側からも、本件の報道が裁判所の内部からの秘密の漏えいによるものではないんだという、そういう釈明を受けておるわけでございます。
○野間赳君 ここに「編集週報」の写しがあるわけでありますが、これは共同通信社の社内報であります。加盟社のトップしか見られない資料であるということであります。第二ハ六二号、一九九七年二月十五日に発行されました社会部の一部のものであります。
   これをちょっと読ませていただきます。六行目ぐらいになるわけでありますが、「愛媛玉ぐし料訴訟で社会部は八日夜、近く予想される最高裁大法廷の判決内容を予測する特ダネ記事を出稿した。」、こういうふうに書いております。
   八日の夜といいますと、新聞が出ましたのが二月九日、前の晩ということであります。こういうふうな新聞が出ましたのが二月九日、これは愛媛新聞でありますが、無論、全国共同通信の配信によります十二社また朝日新聞、こういうことで二月九日に出た記事であります。その前日のことがこのように、今私が申し上げましたように書かれておるということであります。
   続きまして、
   玉ぐし料の公費支出は政教分離の原則に反し違憲の判断を示す見通しとなったという内容で、地元の愛媛新聞など十二紙が一面トップで掲載したのをはじめ加盟社の紙面で大きく扱われた。
わが社だけかと思っていたら敵もさるもの全国紙A紙がほぼ同様の内容を九日付朝刊に打ってきた。
   こういうこと。今私が申し上げましたようにA紙、これは全国紙で出たのは朝日新聞だけでありますから朝日新聞と特定ができるものであります。きょうから四十五日前の記事であります。無論、裁判はこれからという段階の今日の状況でございます。
   しかし社会部の記事は「宗教行事そのものへの支出と言え、過去に社会的儀礼として合憲判断が出た神道式地鎮祭とは同じに扱えない」などとする違憲論が「靖国神社が戦没者慰霊の中心的施設で社会的儀礼の性格が強い」との合憲論を上回った審理経過に踏み込んでいる。
   こういうことも書かれております。無論、審理経過、合議という表に出ちゃならぬ問題がこういうふうなことで書かれておるのであります。
また政教分離をめぐる過去の裁判で国や自治体と宗教とのかかわりがどの程度なら許されるかの基準となっている「目的効果基準」の審理経過ここも審理経過が出てきております。非公開のものが出てきておる。
   についても触れ、はるかに詳しい内容の記事となっている。
   ということがこの社内報に示されております。
   また、
   社会部の予測記事通りなら愛媛玉ぐし料訴訟は最高裁として初の違憲判断を示す画期的な判決となる。
   判決は従軍慰安婦、南京虐殺事件などにかかわる太平洋戦争の戦争責任論に通じる意味を持つ。アジアの国々も注目しているのではないか。だから前例のない特ダネ記事などとはしゃぐ気は毛頭ない。
   「抗議電話が多数かかった」などとして案の定最高裁から厳しいおしかりを受けた。
   おとがめを受けた、そういうことがここに書かれておるのであります。大変なことであります。これが二月十五日付の共同通信社の「編集週報」ということであります。
   以上の中で疑問に思うことが数点私はございます。推測、予測の記事と言いながら、特だね記事、また前例のない特だね記事であることをはっきりとここで述べておるわけであります。普通、特だねというのはスクープの記事というのが我々の常識的な理解であるわけでありますが、特別な情報を入手してということでなかろうかと私も思うわけであります。また、前例のない特だね記事と述べておりますように、単なる言われております予測記事でない、ここが異なるものであると私は思います。
   また、審理経過に踏み込んでおるということもここで述べております。審理経過に触れという表現もされております。審理経過は非公開であるべき合議の中身そのものを指すものでございます。それが出たものでありますから、これは私は大変重要なことであると思います。
   そして、最後に私が読みました「案の定最高裁から厳しいおしかりを受けた。」、おとがめを受けたとございます。本当に推測の記事であればこのような言い方をしません。秘密情報を入手した上でのトップニュースでありますから最高裁のおしかりを受けたということでありましょう。この問題を     私は、この社内報から新しくきょう指摘させていただきます。
   これらにつきましてどのように思われますか、お尋ねをするわけでありますが、幾ら最高裁が漏えいの事実はなかったということを言われましても、共同通信側では秘密情報を入手していると等しいのではないか。
   前回に質問をいたしました記事の内容で、あなた自身のお口から、
   これはあたかも合議の内容自体を具体的に報ずるというそういう形の記事になっておりますので、これをお読みになった方の立場からいたしますと、これは裁判所の合議の秘密が内部から漏れてそれが記事になったんじゃないか、そういうふうなお感じをお持ちになるというのは当然であるという面があろうかと思います。
とあなたは御答弁をなされたのであります。
   このような状況からして、漏えいがあったと見るのがもう自然的、常識的であると私は思います。いかがでしょうか。また、予測であればあれほど踏み込んだ記事が書けると思うか、お伺いをいたします。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 御紹介のありました「編集週報」という記事の書かれました根拠等を承知しておりませんので、その記事の内容について御意見等を申し上げる立場にないわけでございますが、委員御指摘になりましたとおり、その記事の構成自体は非常に合議の内容に踏み込んだような記事になっておりまして、これを読みます読者あるいは国民の立場からいたしますと、あたかも合議の秘密が何らかの形で漏えいされたのではないか、そういう疑念を抱かせるような記事になっていることはそのとおりでございます。
   まさに、その点が私ども裁判所の立場からいたしますと、裁判に対する国民の信頼という観点からいたしまして非常に遺憾な記事であるということで、共同通信に対しては厳重に抗議をしたわけでございます。
○野間赳君 また、事務総長によります記者会見をして報道機関側に厳重に注意をしたということでありますが、どのような抗議をどのような形で行ったのか、お伺いをいたします。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 先ほど来申し上げておりますような調査をいたしまして、その結果、裁判所内部の者からその合議の秘密が漏えいされたという、そういう事実は認められなかったと。また他方、報道機関の側からも、この記事といいますのは内部の者からの秘密の漏えいに基づいて掲載した記事ではないんだと、あくまで外部のいろんな関係者の取材でありますとかこれまでの判例、学説等の取材、そういうものに基づいて判決の予測をした記事であるという、こういう釈明があったわけでございます。
   ただ、それにいたしましても、裁判所の立場からいたしますと、この記事というのはあたかもその合議の秘密が漏えいされたかのような記事になっておりまして、国民に対しては、合議の秘密が漏えいされたんじゃないか、あるいはこういう報道自体がこの事件の合議に影響を与えるんじゃないか、こういうふうな疑念を抱かせる内容の記事になっておりまして、裁判の公平に対する国民の信頼を失わせる、おそれがある、そういう非常に遺憾な記事であると、その点につきまして報道機関に抗議をしたわけでございます。
○野間赳君 どのような抗議をなされたのか、具体的にもう一度お尋ねをいたします。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 事務総長が朝日新聞と共同通信の両社の編集の責任者を呼びまして、それで書面をもちまして、今言いましたように、このような報道が合議の秘密が漏えいされたのではないかという疑念、あるいは合議に影響を与えるのではないかという疑念を国民に抱かせ、裁判の公平に対する国民の信頼を失わせるおそれがある非常に遺憾な記事であるということを記載しました書面を交付いたしまして抗議しております。
○野間赳君 お聞きのようなことでありますが、国民の中からも最高裁に対して秘密漏えいの疑惑を指摘する声が私のところにもたくさん参っております。最高裁に対しましても真相究明の要望や抗議があるようにも聞き及んでおりますが、その実情はいかがなことになっておりますのか、お尋ねをいたします。
   最高裁では、信頼回復のため二月十九日に事務総長の記者会見を行ったと言われますが、その後国民からの反応がどのように変わってきたか、お尋ねをいたします。
   また、要望、抗議の件数など把握をなされておりましたらお示しをいただきたいと思います。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 本件の報道がございまして以降、最高裁に全国から電話や書面等でいろんな抗議の意思表示が寄せられております。
 三月二十四日の時点の合計で言いますと、電話等は、余り正確な数字ではございませんが、百数十件ございましたし、書面によるものでは五百件余りのものが出ております。また、三月三日付では大学教授等二十名の方の連名で、真相究明するよう要望するという要望書が提出されましたし、また三月十八日付では、八十名余りの学者等の方の最高裁判決報道の真相究明を求める会という、そういう名前で同じような趣旨の要望書が提出されております。
○野間赳君 大変な数であると思います。議論を通じましても秘密の漏えいの疑惑はぬぐい去ることができないのであります。それどころか、ますます疑惑は深まるように思われます。
   最高裁は、何としてもこのような漏えい疑惑を晴らし、国民の司法に対する信頼回復に努めていかなければならないと私は思います。そのためにも、もっと国民に十分納得のできるような再調査をしていただきたい、はっきりさせるべきではないかと考えますが、いかがでございましょうか。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 最高裁といたしましては、先ほど来申し上げておりますような方法で十分念を入れた調査を行いました上で、今回の報道に関しまして裁判所の部内から合議の秘密が漏えいしたという、そういう事実は認められないという結論を得まして、国民の司法に対する信頼を確保するという、そういう見地からこの事実関係を記者会見を開きまして事務総長からも明らかにしております。また、報道機関に対しても厳重に抗議するという措置をとったわけでございます。私ども十分念を入れた慎重な調査を行った結果に基づいてこういう措置をとったつもりでございますので、これ以上何か新たな対応を行うということは考えておりません。
○野間赳君 国民の公平な裁判を受ける権利は憲法が保障する最も重要な権利の一つであります。そして、裁判が公平に行われればこそ、国民は裁判の内容に幾ら不服があろうともそれに服さなければならないのであります。残念ながら、本件では公平の中にも公平であるべき最高裁に秘密漏えいという疑惑が持たれているのでありまして、現状のままではとても公平な裁判とは言えないのではないでしょうか。国民の疑惑は解消されず、一層深まるばかりであります。国民の支持は決して得られるものではないと思います。
   再度お伺いをいたします。
   信頼回復のため、新たに調査をするなり措置をとるなり、国民にわかりやすい対応をされるお考えはないかどうか、最後にお伺いをいたします。
○最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 繰り返しになりますが、私どもの方では十分念を入れて慎重な調査を行いました結果に基づいて、その調査結果を記者会見の席で一般にも明らかにしておりますし、報道機関に対しましても厳重な抗議の措置をとっておりますので、これ以上新たな対応を行うということは考えておりません。
   ただ、最高裁としましても、もとより今回の報道によっていささかも影響されるものではございませんで、今後とも中立公正な裁判に向けて力を尽くしていく所存でありますことは、二月十九日の事務総長の声明にもあるとおりでございます。
○委員長(大河原太一郎君) 速記をとめて。
〔速記中止〕
○委員長(大河原太一郎君) 速記を起こして。
○野間赳君 この問題は、私が今申し上げてきましたように、まだまだ疑惑が晴れないものがあります。国民の信頼の回復のためにも再度厳格な調査を求めるものであります。
   そのことにつきましては委員長に取り計らいを一任させていただきますので、ひとつよろしくお願いを申し上げたいと思います。
○委員長(大河原太一郎君) 野間君のただいまの申し出につきましては、後刻、理事会において協議をいたします。
○野間赳君 そういうことで大きく失墜をいたしました最高裁の権威を回復して国民の司法に対する信頼を再び取り戻すためには、まず最高裁自身が国民の疑惑をはっきりと晴らすことでなかろうかと思います。それによって初めて公平な裁判が実現するということを強く申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

*1 18期の涌井紀夫裁判官は,平成9年3月28日の参議院予算委員会において以下の答弁をしています。
(山中注:愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決の事前漏えい疑惑に関しては,)関係の職員全部について調査をいたしまして、その結果、内部から秘密が漏えいされた事実は認められないという結論になったわけでございます。
   その後、今御指摘のございましたような「編集週報」の記事も見ましたので、この「編集週報」の執筆者である共同通信社の社会部長にも事実を確認いたしましたが、この記事も内部からの秘密の漏えいということを書いた記事ではないという、そういう説明を受けております。
   国民新聞につきましても、そこで指摘されました裁判官につきまして再度事実を確認しておりますけれども、この裁判官を通じて秘密が漏れたという事実は認められませんでしたので、国民新聞に対しましても書面によりまして抗議をしております。
   確認を要する事実が出てきました際にはきちんとこういう対応をしてきておりますので、今後ともさらに確認を要するような事実が出てきました場合にはきちんとした対処をしていきたい、かように考えております。
*2 以下の記事も参照してください。
① 昭和24年7月16日発生の最高裁判所誤判事件に関する最高裁大法廷昭和25年6月24日決定
② 柳本つとむ裁判官に関する情報,及び過去の分限裁判における最高裁判所大法廷決定の判示内容

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