70頁ないし76頁には,「第1節 検察官の種類等」として以下の記載があります(文中の「庁法」は検察庁法のことであり,「章程」は検察庁事務章程のことです。)。
1 検察官には,検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事の五種類がある(庁法第3条)。 これらは, いずれも官名であり,検察官というのは, この五つの官名の総称である。また,訴訟法上は,官名の総称たる 「検察官」 も官名であるとされている (注1)。
「官」 とは,素朴な職務の分類, 内容を表示し,一つの地位として身分的性格を有するものであり,官に任命することは,原則として, その任官者に割り当てる職務と責任を明らかにしてはいない。 したがって,官にある者に対し,その職務内容を明らかにし,その職務を執行することを命ずる 「補職」が必要である (注2)。
検察官のうち検事総長と次長検事とは,各1名しかあり得ず,その意味において,官と職とが合体しているいわゆる一官一職の官職であるから,任官行為さえあれば,改めて補職行為を要しない。言い換えれば,任官により執行すべき朧務も決まってしまうのである。 これに対して,検事長,検事及び副検事は,それぞれ複数存在するから,任官行為のほかに補職行為を要することになる。
一方,検察官には級名があり ,総事総長,次長検事及び各検事長は一級とし,検事は一級又は二級とし,副検事は二級とされる(庁法第15条)。
これは,庁法制定当時施行されていた「官吏任用叙級令(昭和21年勅令第190号)」による叙級制度の名残りであり, 実質的には,庁法第19条,第9条第1項とあいまって, 検事総長,次長検事,検事長,検事正となるためには, 一定の経験年数ないし経歴をするとしているところに意味がある。
(注1) 「検察官といふ用語は検察庁法第3条第4条に規定する通り検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事等刑事について公訴を行ひ裁判所に法の正当な適用を請求し且つ裁判の執行を監督する等所謂検察事務を行う官吏の総称であるから之を官名と認めることが出来る。従って公判調書に検察官の官氏名を記載するには『検察官何某』と記載すれば足るものと解すべく(昭和23年12月24日最高裁判所判決,判例集2巻14号1908頁及同月21日同裁判所判決は判例集2巻14号1843頁参照) , しかし,実務上,起訴状等には○○検察庁「検察官検事」□□□□と記戦し,刑訴法上の権限があることを表示するとともに, 庁法上の地位の区別も明示している。
(注2) 現在の国家公務員制度においては,職階制の採用に伴って, 「官」は原則としてなくなったが,検察官については, その職務と責任の特殊性から,官と職の制度を存統させている(国家公務員法附則第13,昭和27年人事院規則6-3職階制の適用除外第1条)。
2 任免及び補職
検事総長, 次長検事及び検事長の任免は, 内閣が行い, 天皇がこれを認証する (庁法第15条第1項)。認証とは,任免そのものを行うことではなく , 内閣の行う任免が真正なものであることを確認し,かつ,公に表明することである。 このように,任免について天皇の認証を要するものとされている公務員のことを,ふつう認証官と呼んでいるが,別に認証官という官名があるわけではない。
検事及び副検事の任免権者については,庁法に規定がないから, 国家公務員法上の一般原則に従い,法務大臣である (国家公務員法第55条。なお,検事及び副検事については, 同条の任命権の委任はなされていない。)。
検事長,検事,副検事の補職権者は法務大臣とされる(庁法第16条第1項)。
副検事は,区検察庁の検察官の職にしか補せられない(同条第2項)。
すなわち, 副検事は,原則として, 区検察庁の検察官としての職務しか執行することができない。庁法第18条で定めるように, 副検事の任命資格は,検事のそれよりも緩やかなものとされており, そのことと対応して,原則として,比較的軽微な事件のみを取り扱う区検察庁の検察官の職務を行うべきものとされているからである。 しかし副検事も, 庁法第12条に基づき検察庁の長から区検察庁以外の検察庁の検察官としての職務の取扱いを命ぜられた場合には, 区検察庁以外の検察庁の検察官としての職務を執行することが許される (注1,2,3)。
以上の補職行為があって,検察官の属する庁(庁法第5条)が定まる。高等検察庁又は地方検察庁の支部に勤務すべき検事は, その支部の属する当該高等検察庁又は地方検察庁の検事の中から, 法務大臣が命ずるものとされている (庁法第17条)。
(注1) 副検事の地方検察庁検察官事務取扱について
判例「原則として検察官は, その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について公訴権を行使する(第5条)。そして「副検事は, 区検察庁の検察官の職のみにこれを補するものとする」(第16条第2頃)と定められているから,副検事はその属する区検察庁の対応する簡易裁判所(第2条)の管轄区域内において,その裁判所の管轄に属する事項について公訴榧を行使することになるわけである。
しかしながら,かかる裁判所との対応関係は,原則として通常の場合に関するものであって, 同法又は他の法令に特別の定ある場合には固より種々の例外を生ずることが,すでに予め想定されているのである(第5条参照)。そこで, 同法第12条は,かかる例外の場合として,「検事総長,検事長又は検事正は,その指揮監督する検察官の事務を, 自ら取扱い,又はその指揮監督する他の検察官に取り扱わせることができる」旨を規定している。思うにこれは,検察官同一体の原則の下に,機に臨み変に応ずる幅と融通性を与えたものである。
所論の検察庁事務章程第13条(現行の検察庁事務章程(昭34.4.1施行法務省訓令第1号では削除されている)は,さらにこの趣旨を具体化する意味において, 「地方検察庁の検察官に差支えがあるときは,検事正は,その庁の検察官の事務を, 随時その庁の所在地の区検察官に取扱わせることができる」 と定めたものである。それ故,検事正は地方検察庁の検察官の事務を,随時当該地方検索庁の所在地の区検察庁の検察官(副検事たると検事たるの区別を問うことなく)に取り扱うことができるものと解すべきを相当とし,何等疑義を挟む余地はないと言うべきである。副検事は,区検察庁の検察官の職のみに補せられるのであるが(第16条第2項),前記第12条の場合においては例外として地方検察庁の検察官の事務をも取り扱うことを得るものと言わなければならない。」(最判昭和24年4月7日最高刑集3巻4号474頁)
(注2) 副検事が地方検察庁支部の検察官事務取扱としてなした地方裁判所に対する公訴提起の効力について
判例「検察庁法第16条第2項には副検事は区検察庁の検察官のみに補する旨規定されてあるのに本件が横浜地方検察庁横須賀支部事務取扱副検事○○○○により原審たる横浜地方裁判所横須賀支部に起訴されたこと所論のとおりである。然し,元来検事正はその指揮監督する検察官の事務を他の検察官に取扱わせることができるものなることは検察庁法第12条,第13条により明らかであり, 而して検察庁事務章程第13条(旧章程)に地方検察庁の検察官に差支えがあるときは検事正はその庁の検察官の事務を随時その庁所在地の区検察庁の検察官に取扱わせることができる旨定めているのは,検察庁法第32条に基き同法第12条所定の前記職務移転権限行使の一般的方法を規定したものであって,一種の委任命令に属し,決して同法の法意を踰越するものではなく,従って,右副検事による本件起訴は所論の如き違法のものではない。諭旨は理由がない。」(東京高判昭和28年1月27日東高判時報3巻1号17頁,その他最判昭和29年11月16日最高裁判所裁判集100号511頁)
(注3)副検事が地方検察庁支部の公判立会をすることについて
判例「検察庁事務章程13条(旧章程)によれば,地方検察庁の検察官に差支えがあるときは,検事正はその庁の検察官の事務を随時その庁の所在地の区検察庁の検察官に取扱わせることができるのであるから, 区検察庁の検察官たる副検事と雖も,上司の命令があるときは適法に地方検察庁の検察官の事務を取扱うことができるものと解す。」(東京高判昭和31年4月14日高裁刑集9巻3号305頁)
3 資格要件
検事総長,次長検事,検事長及び検事正に任命されるには, 一級の検事であることを要し (庁法第15条,第9条), 一級の検察官の任命及び叙級は,庁法第19条所定の資格を有する者について行う。
二級の検事に任命されるためには,庁法第18条第1項,第3項所定の資格を有しなければならない。同条項の資格要件は,
(一) 司法修習生の修習を終えた者
(二) 裁判官の職にあった者
(三) 3年以上政令で定める大学(学校教育法による大学で大学院の附置されているもの及び大学令による大学(庁法施行令第1条))において法律学の教授又は准教授の職にあった者
(四) 3年以上副検事の職にあって, 政令で定める考試(検察官特別考試)を経た者
(検察官特別考試については,検察官特別考試令(昭和25年政令第349号)に定められている。)
とされている。
副検事に任命されるためには,庁法第18条第2項の定める資格を有しなければならない。同条項の資格要件は,
(一) 二級の検事の任命資格を有する者
(二) 司法試験(第二次試験)に合格した者で,検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経たもの
(三) 3年以上政令で定める二級官吏その他の公務員の職にあった者で,検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経たもの
「政令で定める二級官吏その他の公務員は次のとおり (庁法施行令第2条第1項)。
(1) 一般職の職貝の給与に関する法律(以下「給与法」 という)別表第四公安職俸給表(二)の職務の級二級以上又は給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の検察事務官(公安職俸給表(二)の職務の級二級の検察事務官については, 庁法第36条の規定に基づき区検察庁の検察官の事務を取り扱う者に限る。)
(2) 給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上,同法別表第四公安職俸給表(一)の職務の級四級以上又は同表公安職俸給表(二)の職務の級三級以上の法務事務官又は法務教官
(3) 地方更生保議委貝会の委員
(4) 給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の入国審査官
(5) 給与法別表第四公安職俸給表(一)の職務の級四級以上の入国警備官
(6) 裁判所調査官
(7) 裁判所職員臨時措置法において準用する給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上の栽判所事務官,裁判所書記官,裁判所書記官補,家庭裁判所調査官,家庭裁判所調査官補,司法研修所教官又は裁判所職員総合研修所教官
(8) 学校教育法による大学で大学院の附置されていないものにおける法律学の教授たる文部科学教官
(9) 警部以上の警察官
(10) 司法蕃察員として職務を行う国家公務員であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上,同法別表第四公安職俸給表(一)の職務の四級以上若しくは同表公安職俸給表(二)の職務の級三級以上又はこれらに準ずる職務の級にあるもの
(11) 警務官たる三等陸尉, 三等海尉又は三等空尉以上の自衛官
(12) 沖縄法令の規定による一級検察補佐職, 一級法務職,一級法制職, 一級裁判所書記職又は三級以上の警察職
(13) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の規定に違反する事件の審査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある内閣府事務官であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上のもの
(14) 国税通則法第11章の規定に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある財務事務官であって,給与法別表第三税務職俸給表の職務の級三級以上のもの
(15) 金融商品取引法第9章の規定(他の法律において準用する場合を含む。)に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある内閣府事務官,又は財務事務官であって,給与法別表第一行政職俸給表(一)の職務の級三級以上のもの
(16) 関税法第11章の規定(他の法律において準用する場合を含む。)に基づく犯則事件の調査に関する事務を処理する職(検察官の職務と密接な関連を有するものとして法務省令で定めるものに限る。)にある財務事務官であって,給与法別表第一行政職俸給法(一)の職務の級三級以上のもの
(副検事の選考については,検察官・公証人特別任用等審査会令(平成15年政令第477号)に定められている。)とされている。
4 検察官の任命については,以上のとおり,厳重な資格が定められている上,全体を通じて,任命の欠格事由がある。すなわち,他の法律によって官職に就くことができない者(国家公務員法第38条)はむろんのこと,さらに,禁鋼以上の刑に処せられた者(ただし,刑法第34条の2第1項,恩赦法第9,10条参照)又は弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者(ただし,裁判官弾劾裁判法第38条参照)も,検察官に任命することができない(庁法第20条)。
一般に,国家公務員について,欠格事由が生じた場合には,その者は,当然に失職する(国家公務員法第76条)。検察官については,明文はないが,任官後,欠格事由が発生すれば,当然官を失うものと解すべきである。