第1 共同学位の名称だけで制度を判断しない
外国大学との教育連携では,学位の名称,教育課程,授与者及び学生に対する責任を対応させる必要がある。
文部科学省のジョイント・ディグリー・プログラムの説明によれば,ジョイント・ディグリー(JD)は共同の教育課程を修了した学生に共同で単一の学位を授与する仕組みであり,ダブル・ディグリー(DD)は各大学の課程と学位要件を満たすことを前提に,それぞれの大学が学位を授与する仕組みである。
本記事は,令和8年10月4日に確認した文部科学省の公開資料,日本の法令・判決原文及び外国の公的資料に基づき,協定の点検方法を整理する。
「共同学位」「デュアル・ディグリー」等の呼称から,日本での認可・届出手続や外国での法的取扱いを当然に判断することはできない。
第2 2013年の検討資料と導入後の制度を分ける
文部科学省の2013年参考資料233頁~39頁は,当時の国際共同学位に関する検討を含む。
一方,令和5年8月のガイドライン(改訂第二版)は,国際連携教育課程制度が平成26年度に創設され,その後に見直された経過を説明する。
旧資料の制度改革案を,現在も未導入の制度として紹介してはならない。
設置を検討する場合には,文部科学省の提出書類・留意事項の案内から開設年度に対応する手引を確認する。
外国側の学位授与権と質保証は,別途,当該国の公的資料で確認する必要がある。
第3 大学間協定と学生への説明を対応させる
ガイドライン第三章の印刷頁19頁~21頁は,連携外国大学の資格・教育資源,責任ある意思決定権者による協定,学生の学修継続及び募集前の情報提供を点検事項としている。
協定の締結権限だけでなく,実際に運用を調整する会議と担当者,学籍の管理及び学生への説明まで確認することが有用である。
本記事では,法律相談の準備として,協定,学内規程,募集要項及び学生向け説明を項目ごとに照合する方法を提案する。
費用や単位の扱いについて文書間の不一致があれば,どの説明が学生に届いたかも保存し,改定時の通知方法を検討すべきである。
これは文書の点検方法の提案であり,特定の協定条項の有効性を一律に判断するものではない。
第4 連携終了時にも学生の学修を継続できるよう備える
ガイドラインは,JDの実施が困難になった場合の協議方法,学生への対応を担う主体と手順を協定で明確にし,大学内部にも対応方針を位置付けることを求めている。
終了条項の点検では,大学間の契約終了日と,在籍学生の教育・学籍の取扱いが連動しているかを確認することが有用である。
交渉上は,終了に向けた連絡担当,履修状況の確認方法,学生への説明時期及び代替的な学修経路の検討手順を,実施可能な形で整理することを提案する。
具体的な返金,損害賠償又は外国での学位の効力は,準拠法,契約及び当該国の制度によって別途判断する必要がある。
第5 外国法と準拠法を協定・学生契約ごとに確認する
1 外国大学の名称だけで学位授与権を判断しない
外国側では,法人の設立・認証だけでなく,予定する学位の種類・水準,共同授与,教育実施場所及び提携先を用いる方式が許容されるかを確認する。
日本側の制度に適合していることだけで,外国側の授与権限や卒業後の資格上の取扱いが確定するわけではない。
例えば,英国政府の学位授与資格の確認案内は,英国の各地域で確認方法を分け,イングランドでは授業を実施するカレッジと学位を授与する機関が異なる場合があることを説明している。
イングランドとの連携では,OfSの登録簿等で,実際の授与機関と権限の範囲を確認する必要がある。
この例を英国の他地域又は他国の認証制度にそのまま当てはめることはできない。
協定締結前の実務として,外国側に根拠法令,監督機関の登録・認証,権限の対象と有効期間及び本課程への適用を示す資料を提出してもらい,変更・失効時の通知担当を定める方法を提案する。
医療等の職業資格の取得可能性と,学位そのものの有効性も分けて説明すべきである。
2 大学間協定の準拠法と学生契約を分ける
法の適用に関する通則法7条・11条による日本の国際私法上の検討では,大学間協定と学生の在学・受講契約を別の契約として整理する。
大学間協定で外国法を選択していても,その条項が学生契約に当然に及ぶとは限らず,学位認証・個人情報保護等の公法上の規制も別途確認が必要である。
学生との契約が消費者契約に当たる場合,11条は,準拠法の選択がないときに常居所地法を適用し,常居所地法以外を選択した場合でも,学生が常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき意思を事業者に表示したときの適用を定める。
ただし,同条6項には,外国の事業所所在地へ赴いて契約した場合又はそこで全部の履行を受ける場合等の除外と,常居所での勧誘に関する例外がある。
したがって,「日本に住んでいた学生には常に日本法が適用される」とは説明できず,募集・勧誘場所,契約締結場所,履行場所及び常居所を確認する必要がある。
第6 返金と課程変更を学生の権利に対応させる
1 学納金返還判決の射程を区別する
最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決・平成17年(受)第1158号,第1159号は,私立大学への入学辞退と学納金の返還を扱う。
判決7頁~20頁は,在学契約の性質,入学し得る地位の対価である入学金と教育役務等の対価である授業料等の違い,及び不返還特約と平均的な損害の関係を検討している。
同判決は,一般に3月31日までの解除では大学の平均的な損害は存在しないとしつつ,専願・入学確約を出願資格とする推薦入試等について別の検討を行う。
一律に「3月末までなら全部返金」「入学金はどんな中止でも返金不要」とする判断ではない。
国際連携課程の秋入学,大学側の課程中止又は学位授与不能について,日付や結論をそのまま移すことも適切でない。
現行の消費者契約法8条・9条・10条も確認する。
学生の解除に伴う違約金等は平均的な損害を超える部分が無効となり,大学の債務不履行等による損害賠償責任を全面免除する条項などにも無効となる類型がある。
不返還条項と責任免除条項は分けて審査し,単に募集要項に記載したことだけで有効とは判断しない。
2 大学間の費用精算だけで学生への返金を処理しない
次の表は協定交渉と学生向け説明の点検案であり,返金額を法律が一律に定めるという趣旨ではない。
返金義務,損害賠償義務及び費用の大学間負担は,適用法と契約に基づき別々に判断する。
| 場面 | 学生との関係で確認する事項 | 協定に定める実務 |
|---|---|---|
| 学生の辞退・退学 | 契約相手,意思表示の到達日,費目,受講済み部分,不返還条項 | 受付窓口,計算・説明方法,返金期限 |
| 大学側の中止・授与不能 | 約束した教育・学位,代替課程の内容,未提供部分,関連費用 | 継続教育,学生への支払担当,大学間の求償・費用負担 |
| 授業内容・場所・費用の変更 | 募集時説明,変更の範囲,通知時期,学生の選択肢 | 変更の承認,学生への通知,移行・解除・返金の手順 |
返金窓口を一本化する場合でも,学生の契約相手や法的請求先を消す説明はしない。
大学間の負担割合の協議が終わるまで学生への対応を止めないよう,立替・精算の手順も検討する。
住居費,渡航費,ビザ費用等は授業料と性質が異なるため,負担・補償の根拠を別に点検する。
3 イングランドとの連携では変更条項の公的指針も確認する
英国CMAの高等教育機関向け消費者法ガイダンス(2023年5月)印刷頁53頁~57頁は,広範な課程変更権や不明確な変更理由,名目上の退学権だけを設ける条項などを問題としている。
変更できる理由と範囲の具体化,事前情報,学生が現実に利用できる選択肢を検討する着眼点となる。
ただし,掲載ページは,2025年4月6日以降の不公正な取引慣行に関する法制変更も案内している。
2023年版だけを最新の英国法全体として扱わず,適用地域・取引時点の法令と更新資料を外国法の専門家に確認すべきである。
第7 学生データは目的・相手・移転方向を分けて設計する
1 教育連携と学術研究の例外を同一視しない
学籍,成績,出欠,旅券情報,奨学金情報,健康・障害に関する配慮情報などについて,提供目的,必要な項目,提供先,閲覧権限及び保存期間を一覧にする。
相手大学への提供と,クラウド事業者の処理・別国への再提供も分けて確認する。
個人情報保護法27条・28条には学術研究に関する要件付きの例外があるが,大学が取り扱う情報をすべて無条件に提供できるという制度ではない。
通常の成績認定や留学管理についても,具体的な目的・取扱いが例外の要件を満たすかを確認する。
国立大学法人等には58条の適用特例があるため,公立・国立という名称だけで行政機関向けの提供規制を一律に選択しない。個人情報保護委員会の公的部門Q&Aも参照する。
2 日本から外国への提供は,委託・共同利用でも外国提供を点検する
個人情報保護委員会の外国にある第三者への提供編は,国内では第三者扱いにならない委託又は共同利用でも,外国への提供では28条の検討が必要であると説明する。
次の順で提供経路を整理する。
①27条1項各号の例外に該当するか,委員会が定める同等水準の国か,又は受領者が相当措置を継続する基準適合体制を整えているか確認する。
②外国提供の本人同意を根拠とする場合は,同意取得前に国の名称,その国の保護制度及び受領者の措置等の情報を提供する。
③基準適合体制を根拠とする場合は,協定で相当措置を確保し,継続的実施の確認,問題発生時の対応及び本人からの情報提供請求の担当を定める。
④同等水準国又は基準適合体制により28条の外国提供同意が不要となる場合にも,27条による同意,委託・共同利用の要件等を別に確認する。
同ガイドラインは,継続的実施を確保できなくなった場合の提供停止も示している。
「協定に個人情報保護条項がある」だけで完了させず,確認記録と停止判断を運用に組み込む必要がある。
3 EU側の役割分担と第三国移転は別の問題である
GDPR原文3条は適用範囲を定める。
学生がEU加盟国の国籍を持つことだけで適用を決めず,EU内の拠点の活動との関係,EU内の本人へのサービス提供等の条件を確認する。英国については英国の制度を別に検討する。
6条の処理根拠と,健康情報等についての9条の追加要件を確認した上で,処理の目的・手段を共同で決定する場合には26条の共同管理者の責任分担を検討する。
他方の指示に従って処理する関係なら28条の処理者契約を検討する。
共同学位を提供するという名称だけで共同管理者に確定するわけではなく,日本法上の共同利用の分類とも自動的に一致しない。
さらに,EUから日本等への第三国移転には44条以下を別に確認し,十分性認定の対象範囲,46条の標準データ保護条項等の適切な保障措置など,実際に利用できる移転根拠を選ぶ。
通常の大学間協定や共同管理者間の取決めが,それだけで第三国移転の要件を満たすものではない。
再移転先と利用するクラウドの所在地も点検し,日本からの提供について得た同意がEU側の義務まで当然に満たすとは扱わない。
4 協定別紙と学生への通知に落とし込む
本記事では,協定のデータ別紙に,データ項目・目的・処理根拠・役割・移転先と根拠・再委託・安全管理・漏えい時の連絡・権利請求窓口・保存期間を対応させる方法を提案する。
終了時も学位証明や成績証明に必要な記録が残るため,一律即時削除ではなく,返還・削除と必要な保存を区別し,学生が卒業後も証明を受けられる担当を決める。
学生向けの説明は大学間の責任分担を写すだけでなく,誰が何の目的でどの国に情報を渡し,どこに問い合わせればよいかを理解できる内容にする。
健康・障害等の情報は,必要性を点検し,成績等と同じ範囲の職員が一括閲覧する設計にしない。
第8 紛争解決と終了条項を実行できる形にする
大学間協定では,準拠法,裁判所又は仲裁,協議の期限,使用言語,通知方法及び緊急時の対応を対応させる。
学生契約の裁判管轄・仲裁条項の有効性と消費者保護は別に検討し,大学間の仲裁合意だけで学生の請求を当然に排除できるとは説明しない。
終了条項には,募集停止日,既存学生の修了までの教育,代替課程と単位・学位の扱い,追加費用・返金,記録の保存と証明発行を具体化する。
連携先の認証失効,渡航不能又はデータ移転停止に対して,誰がいつ協議を開始し,いつ学生へ通知し,どの段階で募集を止めるかを決める方法を提案する。
各措置の担当部署,決定権者,費用及び学生説明を一枚の実施表にすれば,協定を締結した後も点検しやすい。
第9 出典と残る検討範囲
出典は,文部科学省のJD制度説明,設置検討時の案内,令和5年8月ガイドライン(改訂第二版),2013年参考資料2,第5~第7で挙げた日本の法令・最高裁判決原文,英国政府・CMA・OfSの資料,個人情報保護委員会の指針・Q&A及びGDPR原文である。
残る掘り下げテーマは,特定の相手国・大学・課程を前提とする協定審査である。
外国での共同授与権限と職業資格,日本と外国の設置・認証手続,個別の返金額・損害賠償,現行英国法の変更点,十分性認定の受領者への適用範囲,具体的な標準条項の選択・移転評価及び学生契約の管轄・仲裁条項の有効性は確定していない。
相手国,契約,募集資料と実際のデータ経路を確認した上で,必要な外国法専門家と具体的に検討する必要がある。