第1 自分で書いたことと自分が権利者であること
プログラムを自分で書いたとしても,そのすべてが著作物になるとは限らず,著作物であっても個人が著作権を持つとは限らない。
会社への譲渡,役員と会社との取引又は退職後の再利用を検討する際は,①保護される表現があるか,②法律上の著作者は誰か,③その後に権利が移転したかを,この順に調べることが有用である。
本記事は,令和8年10月20日までに確認した著作権法と知財高裁平成18年12月26日判決を基に,弁護士・税理士が権利の棚卸しを行う際の判断事項を整理するものである。
税額の計算は,権利の存在と帰属を確認した後の問題として扱う。
第2 アルゴリズムと創作的な表現を分ける
著作権法10条1項9号はプログラムの著作物を例示するが,同条3項は,保護がプログラム言語,規約及び解法に及ばないと定める。
同じ計算式や機能を使うことと,具体的なコードの創作的な表現を利用することは別である。
新しい機能であること,制作に時間や費用をかけたこと,又はコードが長いことだけで著作物性が決まるわけではない。
具体的には,処理の選択・組合せ,記述方法及び構成にどの程度の選択の幅があり,どこに作成者の個性が表れているかを示す。
一方,数式や仕様の制約から表現がほぼ決まる部分や,ありふれた記述方法しかない部分については,その制約も資料で確認する。
短いプログラムをすべて保護の対象外としたり,公知の数式を使うプログラムをすべて保護の対象外としたりする一律の基準にはしない。
法令の確認先は,e-Gov法令検索「著作権法」である。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048?occasion_date=20260624
第3 知財高裁平成18年12月26日判決の読み方
知財高裁平成18年12月26日判決(平成18年(ネ)第10003号)は,複数のプログラムの著作物性と権利帰属等が争われた事件である。
判決43頁は,プログラムの表現と解法等を分け,表現の選択の幅と作成者の個性を検討する基準を示す。
政府の「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver.3.0のQ25脚注4も,この判決をプログラムの著作物性に関する説明で参照している。
判決44~47頁は,本件プログラム15,5,12及び13について著作物性を認める一方,47~50頁は,本件プログラム11について,数式からの表現の選択の幅等を検討して著作物性を否定している。
公知の数式を用いるというだけで4つのプログラムの保護を否定したものではなく,プログラムごとに結論を分けた判断である。
本件プログラム11については,従前同じプログラムが存在しなかったという事情だけでは創作性を基礎付けないとされた。
さらに判決58~60頁,80頁及び83~84頁等では職務著作と権利帰属が問題となり,個人の権利を前提とする請求は認められなかった。
したがって,請求棄却という結論から,すべてのプログラムの著作物性が否定されたと読み替えない。
データベースの判例要旨と本文の各プログラムの判断が一致するかを確認する必要がある。
判決原文は全91頁であり,上記の論点について参照する頁を特定して読むことができる。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-33985.pdf#page=43
政府Q&Aの参照箇所は本文117~118頁・脚注4(PDF実頁137~138頁)である。
この判決は,ソフトウェア解析の一般的な許可,AI学習の適法性又は所得区分を判断したものではない。
https://security-portal.cyber.go.jp/guidance/pdf/law_handbook/law_handbook_3.pdf#page=137
第4 プログラムの職務著作と制作時点の契約
現行著作権法15条2項は,法人等の発意に基づき,その業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物について,作成時の契約・勤務規則等に別段の定めがない限り,法人等を著作者とする。
同条1項のプログラム以外の著作物と異なり,2項は法人等の著作名義で公表することを要件としていない。
ソースコードに個人名があることや,公表されていない社内用ツールであることだけで,個人の権利と決めない。
調べる資料は,開発の指示・提案,担当業務,作成時の契約・就業規則,業務としての位置付け,制作履歴及び会社との関係である。
個人の端末を使ったことや,勤務時間外にも作業したことだけで結論を出さず,条文の要件ごとに事実を対応させる。
外注又は共同制作でも,契約に「納品」「買取り」とあるだけで,誰が著作者でどの権利が移ったかを省略しない。
平成18年判決には,作成時期による法改正前後の区別が含まれる。
同事件の古いプログラムについての公表名義等の議論を,現在の15条2項が適用されるすべてのプログラムへ移さない。
長期運用するソフトウェアでは,最初の版と後の追加部分の制作時点・制作主体も分けて確認する。
第5 会社へ譲渡する前の三つの分岐
第一は,対象のコードに著作物性が認められない場合である。
そのコードについて著作権が存在することを前提に,個人から会社へその権利を譲渡したと扱うことはできない。
ただし,支払金があればすべて非課税になるという意味ではなく,開発業務,ノウハウ又は別の財産の対価など,支払の実質を別に確かめる。
第二は,著作物性はあるが,職務著作により会社が最初から著作者となる場合である。
この場合,個人が自分の著作権を会社へ譲渡したという取引の前提を再検討する。
契約書の名称や代金の名目だけでは,個人の保有する権利の存在を補うことはできない。
第三は,個人が著作者であり,過去の譲渡等を経ても対象の権利を保有している場合である。
譲渡契約では対象の版・モジュール,権利の範囲,既存の利用許諾,第三者のコードの有無及び対価を対応させる。
著作権法61条2項の27条・28条の権利の留保推定と,59条の著作者人格権の一身専属性も確認する。
「自己の著作に係る著作権」の長期譲渡所得の扱いは,譲渡所得に該当する権利の譲渡があることを前提とする。
権利の存在・帰属が未整理のまま保有期間,時価又は税額の計算だけを先に確定しない。
国税庁の計算説明は,次のタックスアンサーNo.3152で確認できる。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3152.htm
第6 弁護士と税理士が共有する権利確認票
権利確認票では,プログラムの名称だけでなく,版・対象ファイル・制作時点,創作的な表現とその根拠,著作者,権利移転の経路,第三者の権利,譲渡対象及び未確認事項を一つの対象表にまとめる方法が考えられる。
ソース管理の履歴,仕様書,開発指示,契約・規則,納品資料及び過去の譲渡・許諾契約を,表の各欄と結び付ける。
ファイルのハッシュ値は対象版の同一性を確認する補助であり,それだけで著作者や権利帰属を証明するものではない。
弁護士が権利の存在・帰属・移転対象を整理し,税理士が同じ対象と取引時点を用いて所得区分,評価及び申告を検討すれば,契約と税務の前提のずれを減らしやすい。
権利帰属に争いがある場合は,確定した事実と仮定を分け,その仮定が変わると取引又は計算がどう変わるかを記録する。
この確認票は本記事の実務上の提案であり,上記判決が様式を指定したものではない。
第7 関連記事と確認範囲
個人が保有する著作権を会社へ譲渡する場合の所得区分,低額譲渡及び計算例は,次の記事で扱う。
「自己の著作権を会社へ低額譲渡したときの所得税―長期譲渡所得・時価課税・契約実務(AI作成)」
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/01/chosakuken-teigaku-joto-choki-joto-shotoku/
平成18年判決については,判例秘書の事件情報・判決本文と裁判所の原文の上記各頁を照合した。
原審原文及び上告・確定状況まで確認したものではなく,91頁全体のすべての争点を紹介するものでもない。
プログラムの著作物性と権利帰属を分ける判断手順として参照する必要がある。