第1 算定要素を分けることが,制度設計の出発点になる
ポイント制退職金は,勤続や役割等に対応するポイントを積み立て,退職時に単価や退職事由に応じた係数を使って金額へ換算する設計である。
例えば,「勤続に対応する累積ポイント+役割に対応する累積ポイント」に換算単価と退職事由別係数を掛ける方式が考えられる。
これは設計方式の一例であり,法令がこの算式を指定しているわけではない。
最終の基本給に勤続別支給率を掛ける方式と比べ,ポイント制では,勤続の蓄積と各年度の役割を分けて表示しやすい。
一方,年度別の記録を正確に管理し,異動,休職,評価訂正及び制度変更を台帳へ反映する負担が生じる。
本記事は,算式の選び方,曖昧になりやすい境界及び管理方法を説明する。
法令・資料の確認基準日は令和8年10月14日である。
第2 勤続ポイントと役割ポイントに,何を反映させるか
1 勤続ポイントは,加算の傾斜と対象期間を決める
勤続ポイントの年ごとの加算を一定にする方式は,計算を説明しやすい。
一定の勤続区分ごとに加算率を高くする方式は,長期勤続を重く評価する設計となるが,区分をまたぐ時点で将来の積立額に差が生じる。
加算率の目的を明らかにし,短期離職,中途採用及び長期勤続のモデルで結果を比較するとよい。
勤続年数の起算日,年度又は月単位の加算,中途入退社の端数,休職期間,再雇用及び他制度からの引継ぎを定める。
勤続区分の到達で過去の全期間を新しい率で再計算する方式と,到達後だけ新しい率で加算する方式は,別の算式である。
累積表と加算表を併記する場合は,両者が同じ結果になることを検算する。
2 役割ポイントは,毎年の履歴と退職時の資格を区別する
各年度の役割・資格に応じたポイントを積む方式は,その時期に担った役割を退職金へ反映する設計である。
退職時の最終等級だけで全期間を計算する方式とは異なり,過去の昇格・降格・異動の履歴が必要となる。
役割と資格等級が別の制度なら,どちらをポイントの基準にするかを明示する。
期中に役割が変わった場合は,年度基準日の等級で固定する方式,月割りする方式等を比較し,採用する方法を定める。
役職手当がなくなることだけから,資格等級や過去に付与済みのポイントも当然に下がるとは扱わない。
評価を訂正した場合には,対象年度の加算とその後の累積残高へ反映する手順を設ける。
第3 上限,単価及び退職事由別係数を設計する
1 上限は,加算停止か累積上限かを明記する
一定の勤続年数又は年齢で加算を止める方法は,長期在籍時の積立額を予測しやすくする設計である。
ただし,加算停止と,累積総点の上限,又は受給額の上限は異なる。
勤続ポイントと役割ポイントに別の上限があるなら,それぞれの判定日と対象を説明する。
上限到達後の昇格,定年延長,再雇用及び役割変更をどう扱うかも決める。
単に「頭打ち」と書くより,いつから何の加算を停止し,既存残高をどう維持するかを明記した方が計算できる。
数値を決める前に,対象者ごとの累積額と会社の支払負担を複数の在籍・役割モデルで試算する。
2 単価と係数は,全累積額へ及ぶ効果を確認する
換算単価を変えると,退職時にその単価を全累積点へ掛ける設計では,過去の積立て分にも金額の変動が及ぶ。
単価を固定する方式と,各年度の単価を記録する方式では,管理と金額保障の意味が異なる。
将来の改定権限を記載すれば自由に減額できると考えず,既存従業員への影響を確認する。
退職事由別係数を全ポイントへ掛ける方式は,同じ勤続・役割履歴でも退職理由によって金額を変える設計となる。
勤続が短い場合の不支給又は低い係数から,次の区分の係数へ移る境界では,一日の違いで金額が大きく変わることもある。
境界日,月・年の端数,最低支給条件及び区分到達前後のモデルを点検し,その差を制度の目的から説明できるかを検討する。
第4 休職と雇用終了事由を,算定要素へ接続する
1 在籍・勤続と,二種類の加算を分ける
本則で休職期間を勤続へ算入していても,退職金のすべてのポイントが当然に加算されるとは限らない。
勤続ポイントは在籍・継続雇用に,役割ポイントは実際の就業又は資格の保持に対応させる等の設計が考えられるが,採用する基準を明示する必要がある。
加算停止と既存ポイントの減算は区別し,休職開始月・復職月,部分勤務及び再休職を台帳で計算できるようにする。
会社都合の休職や,法が保護する休業を私傷病休職と同じ欄にまとめて除算しない。
休業の性質ごとに適用法と契約を確認し,必要な特則を置く。
休職中の役職解任,資格変更及び実働期間の評価は別の措置として扱う。
2 「会社都合」「自己都合」だけで全事由を処理しない
退職事由別係数を置く場合は,本人の申出,定年,普通解雇,整理解雇,退職勧奨,合意退職,死亡及び休職満了等を,どの区分へ結び付けるかを確認する。
特に,休職満了は本人の退職申出と同じ出来事ではなく,解雇に当たらないという一事から自己都合係数へ当然に分類しない。
雇用保険の離職理由の区分をそのまま退職金係数に使う設計かどうかも明示する。
例外の決定権者,適用条件,説明及び同種事案の記録を設け,担当者が退職理由を金額に合わせて選ばないようにする。
懲戒による不支給・減額を設ける場合も,通常の自己都合係数とは目的と要件を分ける。
不支給・減額条項を書けばすべての事案で有効になるわけではなく,個別の法的検討が必要である。
第5 ポイント台帳とモデル計算を,規程と同時に作る
1 本人と会社が増減を追える台帳
台帳には,対象期間,勤続区分,役割・資格,加算点,停止又は調整の理由,年度末残高及び根拠となる辞令・評価を対応させる。
本人への通知は,退職時の合計だけでなく,年次等の増減が分かる方法を検討する。
訂正時には元の記録を残し,訂正者,日付,理由及び関連する累積残高の変更を記録する。
規程表,説明資料,モデル計算及び給与・人事システムの設定は,同じ版として管理する。
モデルの在級年数,年齢の区切り,加算式及び合計が一致するかを検算し,モデルをそのまま各人の請求額と扱わない。
複数の職種について,昇格が遅い場合,途中降格,休職,中途退職及び上限到達後の在籍を試すと,設計の偏りを把握しやすい。
2 仮定例で,停止と残高の違いを示す
説明用の仮定として,前年末の勤続ポイント40,役割ポイント60,年ごとの加算が勤続4・役割9の制度を考える。
1年間休職し,規程によって勤続分だけ加算し役割分を停止する場合,年末残高は44+60=104ポイントである。
双方を加算するなら113ポイントとなり,差は9ポイントである。
この例は会社固有の表を示すものではなく,どちらの設計が法的に有効かを決める例でもない。
仮に単価を6000円,退職事由別係数を0.8とすると,104ポイントの場合は49万9200円となる。
役割の加算を停止しても前年までの60ポイントは維持されるという前提であり,過去のポイントまで失う計算とは異なる。
金額は規程で決めた単価・係数・適用条件によって変わるため,説明用の値を実務へ転用しない。
第6 導入・改定と移行措置を別に検討する
新しく制度を設ける場合と,既存の退職金をポイント制へ切り替える場合は,出発点が異なる。
切替えでは,過去の期間の換算,基準日時点の既存制度による額,新制度での見込額,減少する層及び経過措置を検討する。
旧制度の過去分を固定して将来分を新制度にする方法,最低保障,段階的な移行等は選択肢となるが,特定の方式を法律が一律に義務付けるわけではない。
労働契約法8~10条に基づき,個別合意と就業規則による変更の合理性を分けて判断する。
山梨県民信用組合事件の最高裁平成28年2月19日判決は,退職金の不利益変更への同意について,不利益の内容・程度,経緯及び説明等から自由意思を認める合理的理由の客観的存在を検討すべきとした。
制度説明会へ出席したことや書面に署名したことだけで,不利益な変更への有効な同意が常に成立すると扱わない。
第7 会社の算定期間と,退職所得控除の期間を分ける
会社の退職金額を算定する勤続期間と,税務上の退職所得控除に用いる勤続年数は,目的と根拠が異なる。
所得税基本通達30-6・30-7は,会社が計算期間を換算していても実際の継続期間によること,長期欠勤・休職の期間を含めることを説明する。
他の勤務先で働くための休職等には別の扱いがあるため,会社のポイント加算月数を税務へそのまま転記しない。
人事は休職・資格・加算履歴と退職事由を,経理・給与担当者は支払日,過去の退職手当等及び税務用の勤続期間を整理する。
合計金額だけを引き継がず,期間・所得区分・源泉徴収の根拠を対応させることが有用である。
第8 法令・行政例と設計提案の区別
労働基準法89条3号の2は,退職手当を定める場合の対象労働者,決定・計算・支払方法及び支払時期を就業規則の事項とする。
厚生労働省のモデル就業規則54・55条(75~76頁)は,基本給と勤続年数による算定例と,企業の実情に応じた決定を説明する。
モデルの係数や休職除算は,自社へ当然に適用される法律上の基準ではない。
勤続・役割の二つの累積,段階的加算,上限,事由別係数,年次台帳及び移行試算は,制度を説明し計算可能にするための設計提案である。
その組合せ全体を裁判所が有効と判断した制度例として提示するものではない。
山梨県民信用組合事件は,平成25年(受)第2595号,裁判所公開PDFの主文と理由4(1)(実頁7~10)を確認したものであり,同事件の判例秘書本文は今回照合していない。
具体的なポイントの権利性,停止・減額,変更及び支払請求は,実際の契約・規程と適用時点による。