第1 契約の名前よりも紹介と役務の実態を確認する
弁護士が事業者や他士業と協力する場合,紹介料,報酬分配及び非弁護士による法律事務の取扱いを別々に確認する必要がある。
広告費,会費,業務委託料又は給与という名称だけで結論は決まらない。定額にすれば必ず問題がなくなるわけでもない。
深澤諭史「本当に怖い非弁提携」(『NIBEN Frontier』2021年10月号)は,事務所全体の支配に至らない紹介料や報酬分配にも注意を促している。
同記事は筆者個人の見解であり,第二東京弁護士会の公式な適法性判断ではない。本記事は,その問題提起を,令和8年10月4日に確認した現行条文に照らして契約確認の手順に整理するものである。
第2 弁護士法と職務基本規程の確認を分ける
1 弁護士法72条と27条
弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,法律事件に関する法律事務の取扱い又は周旋を業とすることを原則として禁止する。ただし,法律に別段の定めがある場合は例外となる。
最高裁大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁)は,法律事務の取扱いと周旋のいずれにも,報酬を得る目的と業として行うことが必要であると判断した。
これは72条の解釈であり,紹介料や報酬分配に関する弁護士側の職務基本規程まで満たすと判断した判決ではない。
同法27条は,72条から74条までに違反する者から弁護士が事件の周旋を受け,又はこれらの者に自己の名義を利用させることを禁じる。
弁護士自身が紹介料を払っていない場合でも,相手がこれらの規定に違反する者であれば,27条の問題が残る。個々の紹介で金銭を払わないことから,相手方の活動全体について報酬目的がないとも即断できない。
現行77条は,27条違反と72条違反について,2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金を定めている。
2 職務基本規程11条から13条まで
弁護士職務基本規程11条は,違反する者に加え,違反すると疑うに足りる相当な理由のある者についても,依頼者紹介を受けること,利用すること及び名義を利用させることを禁じる。
提供記事には旧11条の表現があるが,現在の判断には現行条文を用いる必要がある。
12条は,職務に関する報酬を弁護士等でない者と分配することを原則として禁じ,法令・会則に別段の定めがある場合その他正当な理由がある場合を例外とする。
13条1項は依頼者紹介を受けたことへの対価の支払を,2項は依頼者紹介をしたことへの対価の受領を禁じる。
相手が非弁業者かどうかだけでなく,紹介そのものへの支払か,職務報酬の分配かを独立に検討する必要がある。
第3 紹介料と広告費・会費を区別する
1 弁護士が支払う場合と受け取る場合
紹介元への支払については,紹介件数,受任,着手金入金又は回収を契機に支払が発生するか,金額が事件の報酬に連動するか,実際に提供された広告その他の役務に対応するかを確認する。
紹介の対価と実際の役務への対価が混在する契約では,費目を分けるだけでなく,役務内容,算定根拠及び実施記録を照合する。
弁護士が自分の依頼者を事業者へ紹介し,事業者から金銭を受け取る場合も検討を要する。
提供記事は,不動産会社への顧客紹介で金銭を受領する場合を13条2項の問題として取り上げる。ただし,紹介先で依頼される業務の範囲についての同記事の解説は,文献を踏まえた筆者の解釈である。
この指摘を踏まえ,法律事件の紹介ではないとの理由だけで紹介謝礼を受領せず,紹介の対象,対価の理由,依頼者の選択への影響を具体的に検討することが実務上有用である。
2 固定料金でも紹介の対価性を確認する
広告契約やネットワーク会費に,特定の弁護士へ依頼者をつなぐ仕組みが含まれているかを確認する。
広告掲載の範囲,問い合わせの受付主体,弁護士の選定方法,紹介件数による料金改定,紹介がない場合の返金条件等を照合すると,支払が何の対価かを具体的に検討しやすい。
これは適法性を機械的に決める基準ではなく,紹介対価を見落とさないための確認方法である。
広告の規律については,弁護士の業務広告と懲戒も参照されたい。
日弁連の業務広告に関する指針は,アフィリエイト等の広告配信方針や報酬発生条件の保存を求めている。保存対象として挙げられていること自体が,個々の契約の適法性を保証するものではない。
第4 事務職員への歩合と他士業との連携を確認する
1 給与という名目でも算定方法を確認する
提供記事は,事務職員に個別事件の売上げ等に応じた歩合を支払う場合,12条の報酬分配が問題になり得ると指摘している。
事件報酬の一定割合を渡す仕組みと,通常の給与・賞与の評価を同一視せず,支払の目的,対象業務,算式及び事件報酬との対応を確認する必要がある。
同記事には事務所全体の業績等を踏まえた賞与設計の提案もあるが,賞与という名称や事務所全体の売上げを使うことだけで適法となるわけではない。
また,給与設計と別に,法律判断,受任可否,処理方針及び依頼者への説明を誰が担うかを確認する。事務職員と勤務弁護士の指導監督も参照されたい。
2 他士業との共同作業と紹介料を区別する
他士業が関与すること自体は,違法な提携を意味しない。他方,資格を持つ相手であっても,その資格で取り扱える業務範囲と,実際に担当する作業を照合する必要がある。
役務を担うことなく依頼者を紹介するだけの者への支払を,共同受任の報酬と呼んでも,紹介対価の問題は解消しない。
提供記事は,適法な担当業務,合意された分配基準,担当業務に見合う割合,非弁行為等の疑いがないことという四つの観点を,筆者の私見として提案している。
これらは有用な確認観点であるが,四条件を満たせば当然に12条ただし書の正当な理由が認められるという公式基準ではない。
依頼者の同意や関係者間の合意も,禁止された紹介対価,報酬分配又は業務範囲外の法律事務を当然に許容するものではない。
『解説 弁護士職務基本規程』第4版37頁~38頁は,他士業との協働ではそれぞれが個別に報酬を請求することを原則とし,個別案件を分担するワンストップ・サービスで合理的な分配基準に基づく場合等を説明する。
他方,個別案件の協働と,事務所全体の収支を共同する経営は区別する。
家賃等の経費を分担することは報酬分配とは別であるが,経費という名目でも収入の一定割合を拠出するなど,実質が報酬分配であれば12条の問題となる。
契約では,担当する適法な役務,報酬又は経費の算定基準,実際の支払の根拠を確認する。
名称や相手の資格だけで正当な理由を判断せず,紹介のみの対価になっていないか,業務範囲外の法律事務を行わせていないかも別に確認する必要がある。
詳しくは,非弁護士との提携の禁止を参照されたい。
第5 契約前と運用開始後の確認手順
1 契約前に業務と金銭の流れを書き出す
①相手方の資格・登録,事業内容,実際の受付・紹介方法を確認する。
②顧客の流入から事情聴取,弁護士選定,受任判断,契約,事件処理,入出金まで,誰が何をするかを書き出す。
③相互紹介,広告,事務代行,賃貸借等の契約を合わせ,支払先,算式,発生条件及び実際の役務を照合する。
④11条,12条及び13条を別々に検討し,疑問が残る仕組みは契約・運用開始前に所属弁護士会の倫理相談等で確認する。
これらは公開資料を踏まえた実務上の提案であり,法律がこの書式の作成を一律に義務付けるという意味ではない。
2 契約どおりに運用されているかを確認する
紹介履歴,役務の実施記録,請求書及び支払記録を突き合わせ,契約書上の業務と実際の業務のずれを確認する。
疑問が生じた場合には,契約書,広告,連絡履歴及び会計資料を確保し,既存依頼者の期限,連絡手段,事件記録及び預り金を把握した上で対応を検討する。
事務所全体の支配と関係解消の問題は,非弁提携業者による弁護士の取込みから撤収までで整理している。
第6 出典と関連する規律
他士業との協働と報酬分配の解説は,日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程』第4版(令和8年)36頁~39頁による。
同書の見解は日弁連の公式見解と同一視しない。
①深澤諭史「本当に怖い非弁提携」『NIBEN Frontier』2021年10月号,第1節から第8節まで。
②同「本当に怖い非弁提携」2017年10月号,20頁から30頁まで。後半は架空の教材事例であり,実際の個別事件の認定資料ではない。
③弁護士法27条,72条から74条まで及び77条。
④弁護士職務基本規程11条から13条まで及び19条。
⑤最高裁大法廷昭和46年7月14日判決の全文。
⑥日弁連業務広告に関する指針(令和8年2月19日改正),広告の保存及び記録に関する部分。
規律の全体像と関連裁判例は,非弁護士との提携の禁止も参照されたい。
事務職員の給与・賞与や他士業との報酬分配を定める契約では,個別の役務,算定方法及び実際の業務運営によって評価が異なる。
一般的な契約例や名称だけから,12条ただし書の正当な理由が認められるとは判断できない。
具体的な設計では,所属弁護士会の会則・規程と照合し,必要に応じて倫理相談を利用することが重要となる。