第1 提訴前に相手・送達先・財産を確認する
記事・データの無断利用が疑われる場合,外国のサーバーを使っていることと,請求相手が外国に所在することは別である。
運営者,契約上のサービス提供法人,取得・配信をした者,モデル開発者,ホスティング事業者,CDN及び日本子会社を区別する。
本記事は,令和8年10月4日に確認した日本法とハーグ送達条約に基づく一般的な手順を示し,特定国での手続を確定するものではない。
確認の順序は,①責任を負う相手方,②請求根拠と対象行為,③裁判管轄と準拠法,④送達,⑤証拠収集,⑥判決後の停止・回収である。
ただし,財産の所在と外国での執行可能性は,判決を得た後に初めて調べるのではなく,提訴前に費用と実効性を検討する。
以下の整理方法は本記事の実務上の提案であり,各国の裁判所の統一的な書式ではない。
第2 誰に何を請求するのか
1 公開表示から法人・住所を確かめる
利用規約,プライバシーポリシー,問い合わせ先,契約書及び公開登記情報を対応させる。
ページに表示された管理者と法的な運営主体が同一か,住所が現在の送達先として使えるかは別に確認する。
日本語での提供,外国IP,ドメイン登録先又は開発に使ったAI製品の本拠地だけで,相手方の国を決めてはならない。
日本子会社があっても,親会社の行為について当然に責任を負い,又は親会社への訴状を受領する権限を有するとは限らない。
国内の適法な送達先又は代理人があるかは,民事訴訟法103条等に沿って確認する。
相手が国内主体であると確認できた場合には,外国サーバーの存在だけを理由に外国送達を選ばない。
2 請求と証拠を分ける
著作権侵害では,自分の権利,保護対象,相手の複製・公衆送信・翻案等と,許諾・権利制限の適用を検討する。
契約違反,一般不法行為及び不正競争も,それぞれ成立要件に対応させる。
ホスティング事業者への削除申告と運営者への損害賠償請求は,同じ相手・同じ根拠で当然に行えるものではない。
第3 日本の管轄と準拠法
1 日本の裁判所で訴えられるか
民事訴訟法3条の3第5号は,日本において事業を行う者に対する訴えについて,日本での業務との関係を要する。
同条8号の不法行為に関する訴えでは,行為地・結果発生地と,外国での行為による国内の結果の通常予見可能性が問題となる。
同条3号による財産所在地の管轄は,金銭支払請求について差押可能な国内財産等を要し,著しく低額の財産は除かれる。
日本から閲覧できることだけで必ず日本の管轄が生じると扱わず,日本向けの事業,問題行為,被害及び国内財産を具体化する。
同法3条の9の特別の事情による却下も,証拠の所在,当事者の負担等に応じて検討する。
利用規約の裁判所指定も,合意の当事者と対象となる紛争の範囲を確認し,規約に同意していない権利者の侵害請求に当然に及ぶとは考えない。
2 日本の裁判所でも適用法は別に決まる
一般不法行為では,法の適用に関する通則法17条の結果発生地法と予見可能性,20条の明らかにより密接な関係,22条の日本法による制限等を確認する。
著作権侵害の損害賠償と差止めについても,請求の性質に応じて準拠法を検討する。
文化審議会の令和6年3月15日資料は,損害賠償について結果発生地法,差止めについて保護国法による整理を示すが,国境をまたぐ全ての配信を解決する確定判例ではない。
営業秘密については,不正競争防止法19条の2・19条の3の国外行為に関する規定を確認する。
国内で事業を行う保有者が国内で管理する営業秘密について,対象行為や専ら国外事業に用いる場合の除外等がある。
これを一般公開記事,限定提供データ又は全ての不正競争に一律に拡張しない。
第4 訴状等の外国送達
1 条約・受領国の条件を確認する
外国送達は,民事訴訟法108条の外国の管轄官庁又は領事への嘱託等と,適用される条約を確認する。
ハーグ送達条約が適用される場合は,締約国一覧と国別情報で両国の適用関係,宣言・留保,中央当局,必要書類,翻訳,部数,費用及び送達証明を確認する。
英語の説明があるという理由だけで,受領国の翻訳要件が不要になるわけではない。
同条約1条は,送達を受ける者の住所が不明の場合には適用されないとする。
メール又は民間郵便で相手に知らせたことと,適法な訴状送達が成立したことを区別する。
10条の郵便等の経路も受領国の反対表明等と関係し,条約文だけで全ての国に同じ方法が使えるとはいえない。
2 送達できない場合
民事訴訟法110条の公示送達は,法定の事情と調査内容を確認して検討する。
住所調査又は外国送達の過程を省き,連絡に応答しないという理由だけで利用できると考えない。
条約15条の欠席時の手続保障にも注意し,6か月が経過すれば無条件に欠席判決を得られるとは扱わない。
国内で公示送達による判決を得られるかと,その判決が相手国で承認・執行されるかは別である。
相手方の防御機会を確保したことを示す調査・送達資料は,外国での手続にも備えて保存する。
送達の成功だけで回収の見込みまで確認済みとはいえない。
第5 国外の証拠を取得する
公開画面,元データ,制作履歴及び自分が保有するアクセス記録を先に保存する。
相手方への照会は,取得元,対象期間,対象ファイル,処理工程及び保持・削除の状況を限定して行う。
学習データ全体の開示を当然に要求できると考えず,何を立証するためにどの記録が必要かを示す。
日本の訴訟では,著作権法114条の3,民事訴訟法220条以下,226条又は234条を検討する。
国外で証拠調べが必要な場合は同法184条と,相手国における嘱託・条約・国内法の手続を確認する。
日本の裁判所が命令を出せるか,相手国で強制できるか,第三者の秘密・個人情報をどの範囲で扱えるかは別に検討する必要がある。
証拠を保有する事業者の国が,被告の国又はサーバーの国と同じとは限らない。
クラウド,配信事業者及びAI提供者ごとに,契約主体,記録の所在,保存期間,開示窓口及び現地手続を確認する。
外国の特定の証拠収集制度が使えるかは,当該国と具体的な要件を調査してから判断する。
第6 停止・回収の実効性を調べる
日本判決を国外で執行するには,執行国の承認・執行制度を確認する。
民事訴訟法118条は外国判決を日本で承認するための規定であり,日本判決の全ての国での執行条件を定めるものではない。
相手国の管轄要件,送達・防御機会,確定性,公序,必要書類・翻訳,期間及び費用を現地制度に沿って検討する。
相手の預金,売掛金,事業収入等の所在,差押対象としての適格性及び名義を調べる。
差止判決の実効性,プラットフォームへの申告,交渉での停止・訂正・許諾及び金銭回収は,目的に応じて組み合わせる。
費用を上回る回収又は停止効果が見込めるかを,証拠と相手方の資力から評価する。
第7 相手国が判明した後の確認票
①相手方の正式名称,現在の住所,責任を問う行為及び根拠。
②訴訟地,管轄の具体的事実,請求別の準拠法及び現地専門家の要否。
③送達条約の適用,受領国の宣言,経路,翻訳,部数,費用及び証明。
④証拠所持者,所在国,必要な記録,保存期限及び取得・強制の手続。
⑤財産の国・名義,日本判決の承認・執行条件,期限及び費用。
⑥交渉・申告・保全・訴訟の順序と,目的に対する実効性。
個別の国別解説を作成するには,少なくとも相手方,送達先,証拠所持者及び執行財産の国の確認が必要である。
本記事ではこれらが確定した特定案件の調査を行っておらず,国別の必要書類や経路を推測で示していない。
実際の相手国を特定した後に,国別一次資料と現地法に基づいてこの確認票を埋める必要がある。
第8 出典と関連記事
出典は,前掲の民事訴訟法,通則法,不正競争防止法,文化審議会資料及びHCCHの条約・締約国情報である。
条約の採用状況と宣言は変更され得るため,実際の送達時にも再確認する。
自サイトの記事・データを他サイトに利用されたときは,権利・証拠・損害と初動対応を扱う。