第1 この記事の対象と結論
1 対象とする判決と基準日
同性同士の婚姻を認めない民法及び戸籍法の規定(以下「本件諸規定」という。)の憲法適合性を争い,国に損害賠償を求めた訴訟について,裁判所HPの裁判例検索に判決全文が掲載されている高等裁判所の判決は,令和8年10月16日現在,東京高裁2件,福岡高裁,名古屋高裁及び大阪高裁の各1件の合計5件である。
本記事は,この5件の判決全文を読み比べ,各判決が憲法13条,14条1項及び24条をどのように判断したか,国家賠償請求をどの理由で退けたかを整理する。
令和8年3月25日に最高裁判所で大法廷へ回付されたと報じられた6件の訴訟には,札幌高裁の事件も含まれるが,同高裁の判決は裁判所HPに全文が掲載されていないため,本記事の比較表には含めていない。
2 結論の要点
5件のうち4件は,本件諸規定が憲法14条1項及び24条2項に違反すると判断し,そのうち福岡高裁判決は憲法13条違反も認めた。
他方,東京高裁令和7年11月28日判決は,本件諸規定が憲法24条1項・2項及び14条1項のいずれにも違反しないと判断した。
国家賠償請求は5件とも退けられており,違憲とした判決も,国会議員の立法不作為が国家賠償法上違法である,又は国会議員に故意・過失があるとまでは認めていない。
違憲判断と損害賠償請求の結論が一致しないのは,違憲審査と国家賠償法上の違法・過失の判断とで基準が異なるためである。
第2 争点と各条項の意味
1 争われた規定と請求の形
各訴訟の原告は,同性の相手との婚姻を望んで婚姻届を提出し,不受理とされた者等である。
原告らは,国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置をとらないこと(立法不作為)が違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料を請求した。
そのため,裁判所は,①本件諸規定が憲法に違反するか,②違反するとしても,立法不作為が国家賠償法上違法と評価されるかの2段階で判断している。
2 憲法13条・14条1項・24条の関係
憲法24条1項は婚姻が「両性の合意のみに基いて成立」すると定め,同条2項は婚姻及び家族に関する法律が「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して」制定されるべきことを定めている。
違憲とした4判決は,いずれも憲法14条1項と24条2項の違反を認めており,同条1項の「両性」の文言が同性間の婚姻まで保障しているかという問題とは別に,立法裁量の限界と平等原則の観点から違憲性を判断している。
憲法13条(幸福追求権)を根拠に婚姻の法的保護を求める主張については,5件のうち福岡高裁判決だけが違反を認め,大阪高裁判決は直ちに違反するとはいえないとした。
第3 高裁判決5件の一覧
| 判決 | 憲法の判断 | 国家賠償請求 |
|---|---|---|
| 東京高裁令和6年10月30日判決(令和5年(ネ)第292号) | 14条1項・24条2項に違反 | 棄却(違反が国会にとって明白であったとはいえない) |
| 福岡高裁令和6年12月13日判決(令和5年(ネ)第584号) | 13条・14条1項・24条2項に違反 | 棄却(国会議員の故意又は過失を認め難い) |
| 名古屋高裁令和7年3月7日判決(令和5年(ネ)第570号) | 14条1項・24条2項に違反 | 棄却(原判決の結論を維持) |
| 大阪高裁令和7年3月25日判決(令和4年(ネ)第1675号) | 14条1項・24条2項に違反(13条は直ちに違反とはいえない) | 棄却(立法不作為は違法とはいえない) |
| 東京高裁令和7年11月28日判決(令和6年(ネ)第1861号) | 24条1項・2項,14条1項のいずれにも違反しない | 棄却 |
いずれの判決も控訴を棄却しており,第一審で敗訴した原告らの損害賠償請求は認められていない。
「違憲判決」と報じられる判決も,主文は控訴棄却であり,違憲の判断は理由中の判断である。
第4 違憲とした4判決の判断
1 東京高裁令和6年10月30日判決
東京高裁令和6年10月30日判決(令和5年(ネ)第292号)は,「現行の法令において、同性間の人的結合関係について配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定が設けられていないことが、憲法14条1項、24条2項に違反することは、前記のとおりである。」と述べた(判決書57頁)。
もっとも,同判決は,憲法24条1項が男女間の婚姻を憲法13条・14条に立脚した制度に改めることを明文で要請する一方,同性間の人的結合関係について同様の規定を設けるべきことまでは明文で要請していないとも述べている(同頁)。
国家賠償請求については,本件諸規定が憲法14条1項・24条2項に違反することが国会にとって明白となっていたとはいえないとして,口頭弁論終結時(令和6年4月26日)までの立法不作為を違法とはしなかった(判決書58頁)。
2 福岡高裁令和6年12月13日判決
福岡高裁令和6年12月13日判決(令和5年(ネ)第584号)は,5件の中で唯一,憲法13条違反を正面から認めた。
同判決は,本件諸規定が同性のカップルを婚姻制度の対象外としていることは「同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない。」とした(判決書12頁)。
その上で,憲法13条に違反する差別的取扱いが不合理であることは自明であるとして憲法14条1項違反を,個人の尊重を定めた憲法13条に違反する以上は憲法24条2項にも違反することは明らかであるとした(判決書15頁~16頁)。
国家賠償請求については,下級審の判断が区々であり最高裁判所の統一的判断も示されていないことを踏まえ,「国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である」として退けた(判決書17頁)。
3 名古屋高裁令和7年3月7日判決
名古屋高裁令和7年3月7日判決(令和5年(ネ)第570号)は,本件諸規定が同性カップルは法律婚制度を利用することができないという区別をしていることについて,「憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項に違反するに至った」とした(判決書37頁)。
その上で,国家賠償請求を棄却した原判決は結論において相当であるとして,控訴を棄却した(判決書38頁)。
4 大阪高裁令和7年3月25日判決
大阪高裁令和7年3月25日判決(令和4年(ネ)第1675号)は,本件諸規定は「憲法14条1項及び24条2項に違反するが、現時点において国会が同性婚を法制化していないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできない」とした(判決書18頁)。
同判決は,憲法13条については「同性婚を認めていない本件諸規定が直ちに憲法13条に違反するとはいえない」としつつ,婚姻制度の意義や婚姻によって享受できる法的・社会的利益の大きさに言及している(判決書42頁)。
国家賠償請求については,違憲であることが国会にとって明白であるとか,国会が正当な理由なく長期にわたって法制化を怠っていたということはできないとして退けた(判決書54頁)。
第5 合憲とした東京高裁令和7年11月28日判決
東京高裁令和7年11月28日判決(令和6年(ネ)第1861号)は,5件の中で唯一,本件諸規定を合憲と判断した。
同判決は,民法が採用した法律婚制度を「一の夫婦とその間の子」の結合体を社会の基礎的な構成単位として想定した制度と理解し,「本件諸規定は、憲法24条1項、14条1項に違反しない」とした(判決書53頁,63頁)。
また,同性の者同士に係る家族に関する法制度は立法裁量に委ねられたものであり,それが存在しないことが直ちに憲法14条1項に違反するものではないとし(判決書58頁),「本件諸規定は、憲法24条2項に違反するものではない。」と結論付けた(判決書64頁)。
国家賠償請求も退け,控訴を棄却している(判決書70頁)。
第6 国家賠償請求が退けられた理由
立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法とされるのは,法律の規定が憲法上の権利を合理的な理由なく制約するものとして憲法に違反することが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠る場合など,例外的な場合に限られる。
東京高裁令和6年判決及び大阪高裁判決は,この違法の要件について,違憲であることが国会にとって明白であったとはいえないと判断した。
福岡高裁判決は,違法かどうかではなく,下級審の判断が分かれ最高裁判所の統一的判断がないことを理由に,国会議員の故意又は過失の段階で請求を退けた。
したがって,「違憲判決なのに賠償が認められない」ことは矛盾ではなく,違憲審査と国家賠償法上の違法・過失の判断とで問われる事項が異なることの表れである。
第7 最高裁大法廷への回付と今後の見方
1 大法廷への回付
時事通信の令和8年3月25日付報道によれば,最高裁第3小法廷は,同日,同性婚をめぐる6件の訴訟の上告審の審理を大法廷に回付した。
同報道は,高裁段階では5件が違憲,1件が合憲と判断が分かれており,6件とも賠償請求は退けられているとしている。
本記事の基準日である令和8年10月16日の時点で,大法廷の弁論期日が指定されたことを示す公表資料は確認できていない。
2 判決を読むときの注意点
各判決の違憲判断は理由中の判断であり,現時点で本件諸規定の効力を失わせたものではない。
また,違憲とした4判決の間でも,憲法13条の扱い,憲法24条1項の解釈,違憲となった時期の捉え方及び国家賠償請求を退けた理由は一致していない。
最高裁大法廷の判断が示されるまでは,報道の見出しだけでなく,各判決書の該当頁で判断の根拠条文と理由を確認する必要がある。
第8 出典
裁判所「東京高等裁判所令和6年10月30日判決(令和5年(ネ)第292号)」
裁判所「福岡高等裁判所令和6年12月13日判決(令和5年(ネ)第584号)」
裁判所「名古屋高等裁判所令和7年3月7日判決(令和5年(ネ)第570号)」
裁判所「大阪高等裁判所令和7年3月25日判決(令和4年(ネ)第1675号)」
裁判所「東京高等裁判所令和7年11月28日判決(令和6年(ネ)第1861号)」
時事通信「同性婚6訴訟、大法廷に回付 高裁判決割れる、統一判断へ―最高裁」(令和8年3月25日)
関連する最高裁大法廷の裁判の一覧は,最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧にまとめている。