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社内弁護士の転職と利益相反―企業・採用事務所の確認手順と令和3年最高裁決定(AI作成)

第1 転職と事件受任を別々に確認する

企業で訴訟や法律相談を担当していた弁護士が法律事務所へ転職するときは,本人が担当できない事件と,移籍先の他の弁護士が担当できない事件を分けて確認する必要がある。
利益相反の確認は,転職者から以前の勤務先の秘密を聞き出すための手続ではない。
採用候補者,採用事務所及び送り出す企業が,それぞれの立場で必要な情報と確認時期を決めることが重要である。

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定は,弁護士職務基本規程57条違反だけを理由とする訴訟行為の排除を認めなかった。
ただし,採用と受任の組合せを適切と認めた決定ではない。
訴訟行為の効力,職務上の受任制限及び秘密保持をそれぞれ検討する必要がある。

本記事の法令・規程は令和8年10月4日に確認した。
以下の確認手順は,条文と裁判例を踏まえた運用上の提案であり,項目を満たせば必ず受任できるという判定基準ではない。

第2 令和3年最高裁決定の射程

1 57条違反と弁護士法25条1号違反を区別する

最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号)は,日弁連の会規である弁護士職務基本規程57条に違反するにとどまる場合,懲戒の原因となり得ることは別として,違反は訴訟行為の効力に影響しないと判断した。
相手方は,同条違反を理由として裁判所に訴訟行為の排除を求めることができないとしたのである。

これに対し,弁護士法25条1号は,相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件について,弁護士本人の職務を禁止する。
同号違反については,昭和38年10月30日大法廷判決及び平成29年10月5日第一小法廷決定が,裁判所に訴訟行為の排除を求められる場合を認めている。
したがって,社内弁護士の転職があったという事情だけで結論を出さず,実際の訴訟代理人本人に法律上の禁止事由があるのか,他の所属弁護士との関係で57条が問題になるのかを特定する必要がある。

昭和38年判決は,違反を知り,又は知り得たのに異議を述べず,第二審の口頭弁論を終結させた場合には,後から無効を主張できないとも判断した。
弁護士法25条1号に関する疑いがある場合は,事実確認と対応方針の検討を訴訟の進行に合わせて行うことが重要である。

2 情報遮断を適切と認めた決定ではない

原審の知財高裁令和2年8月3日決定(令和2年(ラ)第10004号)は,秘密保持の誓約,電子フォルダのアクセス制限,メール宛先の限定,打合せ場所の指定及び記録の施錠保管などを検討した。
その一方,同じ執務室での口頭の情報伝達や補助職員の共通配置に着目し,情報遮断措置が十分であるとは認めなかった。

最高裁は,57条違反だけでは訴訟行為を排除できないとして,この原審決定を破棄した。
最高裁が情報遮断措置の十分性を認定したと読むことはできない。
補足意見も,採用を見合わせることなく事件を受任した行動が適切であったという判断を含むものではないと明示している。

原審の具体的な検討事項は,情報遮断の実効性を点検する材料となる。
しかし,破棄された原審の結論を現在の訴訟行為排除の基準として用いたり,最高裁が当該受任の適切性を確定したと説明したりすることはできない。

第3 採用する法律事務所の確認手順

1 採用条件を決める前と事件受任前に照合する

採用担当者は,候補者の担当業務と事務所の受任事件・相談事件を,秘密保持に配慮しながら照合する。
最初から訴訟戦略や相談内容の詳細を求めず,まず当事者と関与期間など,確認に必要な情報をどこまで適法に共有できるかを検討する。
企業名や当事者名自体が非公開の相談関係を示す場合もあるため,名称であれば常に開示できると扱ってはならない。

採用条件を確定する前の確認に加え,入所までの間に新たな相談・受任や担当変更があれば再確認する。
入所予定者がいる事務所で新事件を受任するときも,現時点の所属者だけを検索対象として済ませない運用が考えられる。
確認できない事項が受任可否に影響する場合は,秘密情報へのアクセスを広げず,判断に必要な確認が終わるまで受任又は事件への参加を保留する方法を検討する。

2 本人,同僚及び法人の規律を分ける

候補者本人については,弁護士法25条と職務基本規程27条・28条のどの号が問題になるかを確認する。
同規程27条1号・2号には,依頼者等の同意さえあれば受任できるという例外は置かれていない。
顧問関係や他の受任事件との関係についても,同規程28条の該当号と,同意を要する者を確認する必要がある。

共同事務所の他の所属弁護士については,同規程57条本文と,職務の公正を保ち得る事由に関するただし書を検討する。
弁護士法人又は共同法人では,社員等と法人自身に関する63条以下の規律も別に確認する。
本人の直接の禁止事由,同僚への影響及び法人の受任制限を,同じ「利益相反あり」という欄だけで処理しないことが有用である。

3 情報遮断の運用を文書にする

情報遮断を検討するときは,①対象事件と対象者,②電子記録・メール・紙記録の閲覧権限,③補助職員と会議の配置,④口頭の情報交換を防ぐ運用,⑤点検者,⑥事故時の報告先を具体化する。
技術上の権限設定と,所員が実際に守る手順を併せて確認する必要がある。

誓約書やアクセス制限を設けたという事実だけで受任可としない。
57条ただし書への該当性と,必要な説明,実際に秘密を取得・利用していないかを別々に検討し,判断者と判断日を記録する。

第4 送り出す企業と転職する弁護士の確認手順

1 引継ぎと秘密保持を両立させる

企業の法務責任者は,退職予定者が関与した紛争,相談,継続案件及び直近の期限について,社内の引継ぎ担当者を定める。
転職先への説明が必要となる場合は,退職予定者が自ら開示できる範囲と,企業側で開示の可否を検討すべき情報を分ける。
利益相反の確認を理由として,案件一覧や相談内容を無制限に転職先へ渡す運用は避けるべきである。

弁護士法23条は,職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を定め,弁護士でなくなった後も同様としている。
共同事務所における他の弁護士の依頼者の秘密については,職務基本規程56条も退所後の漏えい・利用を禁じている。
退職又は転職をしたことだけで,それまでの秘密を自由に持ち込めるようにはならない。

2 退職日に切り替える権限と保存する記録を決める

企業の法務部門,人事部門及び情報システム部門は,退職日までに,貸与端末,会社メール,クラウド,紙原本及び物理鍵の扱いを確認する。
権限の終了と,引継ぎに必要な記録の保存を別の工程として管理する方法が考えられる。
係争中の案件については,訴訟資料や必要なログを一括削除せず,保存対象と閲覧者を定める。

秘密保持を確認することと,転職先の全面的な申告や競業禁止を義務付けることは同じではない。
退職時の誓約書を用いる場合も,既存契約との関係,対象情報,期間及び本人の職務への影響を個別に検討する必要がある。
本記事の確認手順を,広範な転職制限条項の有効性を裏付けるものとして用いることはできない。

3 退職時の秘密保持誓約書と転職・競業制限

(1) 情報を守る義務と就業を制限する義務を分ける

秘密保持条項は,対象情報の開示・利用を制限するものである。
競業避止条項は,競合企業への就職,特定業務への従事,又は特定顧客との取引など,退職後の行動を制限するものであり,秘密保持とは別に検討する必要がある。
資料・端末の返還,私物端末等に残る複製の削除,知的財産権の帰属及び転職先の申告も,それぞれ義務の内容と必要性を確認する。

退職時の書面が,既存の有効な義務を確認するだけなのか,新しい義務を追加するのかを,雇用契約,就業規則,入社時の誓約書及び後の合意書と照合する。
書面の表題が「秘密保持誓約書」であっても,競合企業への就職禁止や顧客との取引禁止が含まれていれば,その条項を取り出して検討する必要がある。
署名があることだけでは,過度な制限が有効になるわけではない。

(2) 秘密情報の範囲を本人の職務に即して特定する

不正競争防止法2条6項の営業秘密には,秘密管理性,有用性及び非公知性が必要である。
契約上の秘密情報は営業秘密より広く定められることがあるが,範囲を無限定に広げてよいという意味ではない。
通常の経験・技能や公知情報と,保護すべき非公開情報とを区別することが重要である。

東京地裁令和6年2月19日判決(令和4年(ワ)第70057号)は,当該事案の秘密保持条項について,対象が抽象的かつ広範で,従業員の地位や業務内容,秘密として保護する価値と結び付いた限定を欠くとして,公序良俗違反により無効と判断した。
同判決は,秘密保持誓約書一般を無効としたものではない。
秘密保持の目的,情報の種類,本人のアクセス範囲及び退職後の仕事への影響を確認し,保護範囲を説明できる条項にする必要がある。

実務上は,非公開の技術情報,価格条件,案件資料等について,情報の区分と特定方法,禁止する利用・開示,存続期間及び例外を整理する方法が考えられる。
公知となった情報,適法に独自取得・開発した情報,法令上必要な開示及び法律上保護される公益通報をどう扱うかも点検する。
企業が契約上の対象情報を限定しても,弁護士法23条その他の法令上の義務が当然に消滅するわけではない。

(3) 競業制限の必要性と負担を具体化する

経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」は,退職後の競業避止義務について,企業の保護利益,従業員の地位,地域的範囲,期間,禁止行為の範囲及び代償措置などを総合的に検討する裁判例を整理している。
六つの項目は,法律が定める一律の成立要件ではない。
期間を1年以内にしたことや金銭を支払ったことだけで,どのような制限も有効になると扱ってはならない。

企業は,退職者が実際に接した情報と,その情報が競争上の価値を保つ期間を確認し,全面的な就職禁止が必要なのか,特定情報の利用禁止や限定した顧客への勧誘禁止で目的を達成できるのかを検討する。
転職者は,予定する職務,対象業務・顧客・地域・期間,禁止行為の定義,解除又は個別承認の手続及び代償措置を確認する。
社内弁護士であるという肩書だけを理由として,あらゆる企業や法律事務所への移籍を制限することは適切でない。

(4) 最終的な合意の内容と違反の事実を確認する

前記東京地裁判決では,競業避止について,退職後の合意により顧客側から接触があった場合の取引が事前通知で可能となっていたことなどを踏まえて,義務の範囲が検討された。
判決は,代償措置がないことだけで直ちに無効とはいえないとし,業界での就業自体は禁止されていない以上,不特定多数に向けたホームページやSNSの広告は当該義務に違反しないと判断した。
秘密保持条項の無効と,競業避止義務への違反が認められないこととは,結論の根拠が異なる。

紛争時には,①条項の成立・有効性,②追加合意を反映した義務の解釈,③実際の利用・勧誘・取引等の有無,④請求する差止め又は損害賠償の要件を順に確認する。
企業が初期の誓約書だけを示しても,後の修正合意で制限が緩和されていれば,その内容を踏まえる必要がある。
交渉では,残す義務,置き換える義務及び解除する義務を最終書面に明記し,双方が同じ版を保管する方法が有用である。

(5) 署名と退職・賃金の扱いを切り分ける

期間の定めのない雇用では,民法627条1項により,労働者からの解約申入れから2週間で雇用が終了するのが原則である。
新しい誓約書への署名を,当然の退職成立要件として扱うことはできない。
有期雇用や役員としての地位の終了については,同じ規律をそのまま当てはめない。

労働基準法23条・24条に基づく賃金の支払義務と,誓約書への署名又は損害賠償の請求とは,別々に確認する。
違約金や損害賠償額をあらかじめ定める条項については,同法16条の適用も検討する必要がある。
退職金の減額・不支給条項も,賃金と同じ結論を機械的に当てはめず,規程,支給条件,条項の性質及び制限の合理性を確認する。

企業は署名前に条項と追加する義務を説明し,検討時間と書面の控えを確保する運用を検討する。
署名に合意できなくても,既に存在する有効な契約上の義務や法令上の秘密保持義務の有無は別に確認する。
情報保護を退職時の署名だけに依存せず,在職中のアクセス管理,引継ぎ及び返還・削除の確認と組み合わせることが重要である。

(6) 社内弁護士の移籍で用いる確認手順

企業側は,保護する情報と契約上の制限を特定し,返還・削除対象と,訴訟等のため保存する会社側の記録を分ける。
転職者側は,入社時から退職後までの書面を時系列で照合し,予定する職務に影響する条項と,限定・解除を求める事項を整理する。
採用事務所側は,開示してよい範囲の条項情報と必要最小限の職務情報で確認し,前勤務先の相談記録や訴訟戦略を持ち込ませない。

前記東京地裁判決は,一般企業の従業員の秘密保持・競業避止に関する判断であり,社内弁護士の移籍や利益相反を直接判断した裁判例ではない。
雇用契約上の制限が解除されても,弁護士法23条・25条及び職務基本規程の検討は残る。
秘密を持ち込まないこと,契約上の就業制限に抵触しないこと及び事件を受任できることを,それぞれ確認する必要がある。

第5 元の社内弁護士が相手方代理人の事務所へ移ったと知った場合

企業は,まず現在の外部代理人と,①元の社内弁護士の具体的な関与,②関与・退職・入所・受任の各時点,③現在の代理人本人の過去相談等,④問題となる秘密とその利用を疑う根拠を整理する。
異動の事実だけから,情報漏えいや懲戒処分の存在を推測してはならない。

そのうえで,弁護士法25条1号に基づく訴訟行為排除の問題,57条の職務上の規律,秘密保持又は契約上の問題を分けて検討する。
57条違反だけを理由とする訴訟行為排除は,令和3年最高裁決定の結論に反する。
他方,それだけで秘密保持等に関する検討が不要になるわけではなく,具体的な事実と各制度の要件に即して対応を選ぶ必要がある。

受任した共同事務所の弁護士が,受任後に57条に該当する事由を知った場合には,58条により,速やかな依頼者への説明と,辞任その他の適切な措置が必要となる。
辞任が検討される場合は,期日,申立期限,新たな代理人及び記録の引継ぎについても,依頼者との間で調整する。

第6 確認票に残す事項

確認票は,次の項目を基本とし,詳細な秘密情報を不必要に集約しない方法で作成することが考えられる。
①確認日,確認担当者及び判断責任者。
②当事者,事件識別情報及び共有してよい情報の範囲。
③本人の関与内容と相談・受任・退職・入所の各時点。
④適用条項と,本人・他の所属弁護士・法人のいずれの問題か。
⑤例外又は同意の検討結果,情報遮断の具体策と実施確認。
⑥依頼者への説明,受任保留・辞任等の判断及び次の確認時期。

職務基本規程59条は,共同事務所の弁護士が受任禁止を防ぐため,依頼者,相手方及び事件名の記録その他の措置を採るよう努めると定める。
上の確認票は,その趣旨を採用・移籍の場面で具体化する運用案であり,法令又は会規が定めた様式ではない。

第7 出典・関連記事

1 確認した公開資料

①最高裁令和3年4月14日第二小法廷決定(令和2年(許)第37号,民集75巻4号1001頁,本文及び補足意見)。
②知財高裁令和2年8月3日決定(令和2年(ラ)第10004号。最高裁により破棄された原審決定として参照)。
③最高裁昭和38年10月30日大法廷判決(昭和35年(オ)第924号,民集17巻9号1266頁)。
④最高裁平成29年10月5日第一小法廷決定(平成29年(許)第6号,民集71巻8号1441頁)。
⑤e-Gov法令検索「弁護士法」(23条・25条)。
⑥日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(公開PDF記載の最終改正は令和3年6月11日。23条,27条・28条,55条~59条及び63条以下)。
⑦BUSINESS LAWYERS「社内弁護士が法律事務所へ転職、利益相反について注意すべき点とは」(令和3年7月26日公開。企業・採用事務所の実務上の問題提起を参照し,裁判例の結論は原文で確認)。
⑧東京地裁令和6年2月19日判決(令和4年(ワ)第70057号。公開判決本文,特に11頁~14頁の秘密保持・競業避止の判断)。
⑨経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(2024年2月改訂。82頁~84頁,参考資料2の誓約書例・注意事項及び参考資料5の競業避止に関する裁判例分析を参照。文例は個別調整を要する参考例である)。
⑩e-Gov法令検索「民法」(90条・627条),「不正競争防止法」(2条6項)及び「労働基準法」(16条・23条・24条)。
公開資料の確認日は令和8年10月4日である。

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