その他裁判所関係

裁判所の報道対応の基礎

目次
第1部 裁判所の報道対応の基礎
第2部 関連記事その他

第1部 裁判所の報道対応の基礎
・ 以下の記載は,最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)16頁ないし24頁の記載を貼り付けたものです。

第1 報道機関についての基礎知識(原文の3-1)
1 新聞
(1) 全国紙,ブロック紙,県紙
    日本全域を配布エリアとする新聞を全国紙といい,朝日,毎日,読売,日経,産経の5紙がこれに当たる。これだけで新聞の総発行部数の5割以上を占めている。ブロック紙は,配布エリアが数県にわたる広いエリアにまたがっている新聞で,北海道新聞中日新聞,西日本新聞がこれに当たる。県紙は,一つの県を主たる配布エリアとする新聞である。
(2) 本社,支局
    全国紙の場合,東京本社,大阪本社,名古屋本社等の本社があり,東京本社を中心に連携をとりながら,各本社ごとに新聞を発行している。本社には,政治部,社会部等の部署が置かれ,取材や紙面の編集活動が行われている。また,おおむね各都道府県の県庁所在地には支局が置かれ,支局に属する記者は,主に各都道府県内の事件等を取材している。
(3) 記者クラブ詰め記者と遊軍記者
    記者は,記者クラブ詰め記者と遊軍記者に分けられる。前者は,取材対象となる省庁や企業等に置かれた記者クラブを拠点に取材活動をしている記者であり,後者は,記者クラブに属さず,平素は自分の得意分野を中心に企画ものの取材等を行い,大事件が発生した場合などには社会部長やデスク等の下でチームを組んで取材に当たる記者である。
2 テレビ
(1) キー局,ネット局,独立局
    キー局は,東京や大阪などに本社を置き,契約を結んだネット局を通じ,制作した番組等を全国的な放送網に乗せることができる放送局で,東京では日本テレビ,TBS,フジテレビ,テレビ朝日,テレビ東京があり,日本テレビがNNN,TBSがJNN,フジテレビがFNN,テレビ朝日がANN,テレビ東京はTXNというネットワークを持っている。
    ネット局は,おおむね県単位で放送を行っており,基本的に独立した局である。独自に地方ニュース等の番組を制作することもあるが,全国的なニュース映像等やドラマなどの番組をキー局から受けて放送する。
    NHKは,キー局であるが,ネット局があるわけではなく,NHK自体が独自の全国的な放送網を持っている。独立局は,県単位で放送を行っているが,特にネットワークに入っておらず,独自の放送を行っている局である。
(2) 制作会社
    テレビの番組,特に特集番組やドキュメンタリー,ドラマなどをテレビ局の依頼等を受けて制作している会社である。テレビ局の放送記者とは別の角度で裁判所に取材や撮影の依頼をすることがある。
(3) 放送記者,プロデューサー,ディレクター
    放送記者も基本的に新聞記者と同様であるが,自分で取材したことを自分でカメラに向かって話すことが多く,レポーターを兼任しているような場合もある。また,記者クラブ詰め記者と遊軍記者がいるところも新聞と同様である。このほか,特定のテーマで報道番組が作られる場合などの,番組制作の責任者をプロデューサー,制作の実務担当者をディレクターと呼ぶ。
3 通信社
    新聞社やテレビ局等に内外のニュースや各種の記事,写真等を供給することを主な業務としている報道機関である。裁判所を日常的に取材している通信社は,共同通信社及び時事通信社の二社である。
4 記者クラブ
    日本新聞協会は,「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(2002年(平成14年)1月17日第610回編集委員会,2006年(平成18年)3月9日第656回編集委員会一部改定)の中で,「記者クラブは,公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織』です。・・・・記者クラブは,公権力の行使を監視するとともに,公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務を負っています。・・・・記者クラブ制度には,公的機関などが保有する情報へのアクセスを容易にするという側面もあります。・・・・記者クラブは,『開かれた存在』であるべきです。日本新聞協会には国内の新聞社・通信社・放送局の多くが加わっています。記者クラブは,こうした日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された記者などで構成されます。外国報道機関に対しても開かれており,現に外国報道機関の記者が加入するクラブは増えつつあります。」としている。なお,詳細については,日本新聞協会のホームページに前記見解が掲載されているので,参照されたい。おって,同ホームページ上には,この見解についての解説も掲載され,記者クラブの「目的と役割」,「組織と構成」,「記者会見」,「協定と調整」,「記者室」及び「紛争処理」が説明されており,参考になる。
5 裁判所の記者クラブ
    裁判所を取材する記者らも記者クラブを組織している。一般的に検察庁も併せて取材するが,警察を取材する記者クラブが兼ねていたり,県庁等地方公共団体を取材する記者クラブが兼ねていたりする場合もある。裁判所の広報との関係では,常時裁判所関係の取材を行っている記者たちの団体という意味で最も重要な相手方であり,実際上も記者クラブが主体となって裁判所に対して便宜供与を要請したり,裁判所側も記者クラブを相手にして各種申入れや調整を行ったりしており,広報担当者と記者との重要な接点となっている。記者クラブでは,一定期間ごとの持ち回りで幹事社を決め,この幹事社が,期間中,クラブ各社のまとめ役,連絡役を果たすことが多いようである。
6 新聞記者
(1) 社会部記者
    事件,スキャンダル,苦情などを広範囲に取材し,社会面の記事を中心に書いている。裁判所をはじめ司法関係を担当する記者はおおむね社会部に所属している。裁判所の広報担当者が最も頻繁に対応するのが社会部記者である。
(2) 経済部記者
    経済団体,企業,関係官庁等に取材し,経済面の記事を書いている。裁判所へは,経済関係の事件等について,取材に入ることがある。
(3) 論説委員
    主に時事的な話題をテーマとして取り上げ,社説欄等で新聞社としての見解,意見等を主張する。裁判所関係の論説は司法担当の論説委員が書くが,知識経験豊かな司法担当記者OBが多いようである。論説委員が直接裁判所に取材することもある。
7 その他の報道機関の記者
(1) 通信社の記者は新聞記者とほぼ同じである。
(2) 放送局では,報道ニュースは主に報道局の放送記者が取材する。裁判所についても新聞の社会部記者と同様に取材する。また,解説委員といい,ニュース解説等を担当する人たちがいるが,新聞の論説委員と同様に直接裁判所に取材することもある。そのほか,ドキュメンタリーなどの番組を担当するプロデューサーやディレクターが裁判所に関連取材をしてくることがある。
(3) 雑誌記者も,取り上げるテーマによっては裁判所に取材してくることがある。


第2 「責任者対応の原則」と「窓口一本化の原則」(原文の3-2)
1 責任者対応の原則
(1) 報道機関から取材の申込みがあった場合,報道機関に対する対応は,最終責任者である所長がこれに当たるのが原則である。なぜなら,報道機関に対する発言は,外部,世間一般に対し裁判所の公的見解を述べることだからである。
(2) 所長が報道機関と対応するについて,これを補佐して広報事務を担当するのは,事務局長,次長,総務課長,総務課職員である。
    実際には,総務課の職員が取材申込みを受ける窓口となり,総務課一事務局長一所長のラインで情報を上げて対応を検討することになる。取材内容に応じて,事実を確認し,必要があれば上級庁に相談の上,どのように対応するかを決め,所長が記者に回答するという手順である。
    具体的な対応においては,所長の指示の下に,事務局長,総務課長等が所長に代わって回答する場合が多い。例えば,裁判に関する報道対応においては,定型的に処理できるものも多く,このようなものについては,あらかじめ所長の委任を受け,事務局長又は総務課長限りの判断で対応して処理しても差し支えないといえよう。
2 窓口一本化の原則
    報道機関に対する対応は,責任者である所長一事務局長一総務課というラインで対応するのを原則とすることから,取材の申込みを受ける窓口も広報事務を担当する総務課に一本化することが必要である。窓口が幾つにも分かれていると,各窓口での対応がまちまちとなり,同一の事柄につき微妙に異なる回答を行ってしまい,その結果誤解や混乱を招く危険があるからである。


第3 報道対応の種類(原文の3-3)
    裁判所での報道対応は,おおむね,報道発表(情報提供),取材対応の二つに分けられる。
1 報道発表(情報提供)(以下「報道発表等」という。)
    国民に広く知ってもらう価値のある情報を裁判所が積極的に報道機関に提供することである。一般民間企業や行政省庁では,新製品や新たな施策を報道してもらうために頻繁に報道発表等をしているようであるが,裁判所の広報では,報道発表等を行う場面は余り多くはない。人事の報道発表や所長等就任記者会見等がこれに当たる(4-1~6を参照)。
2 取材対応
    報道機関からの取材の申込みに対応することである。裁判所はいわゆる政策官庁ではないため,受け身の「取材対応」が圧倒的に多くなる。これは,裁判に関するものにおいても,司法行政に関するものにおいても余り変わりはない(5-1~8を参照)。
    取材対応の一つとして,報道機関に便宜を供与することがある。特に,裁判所の本体業務である裁判の報道に当たっては,法廷内の記者席申請への対応,庁舎内・法廷内の写真撮影申請への対応,判決要旨・判決書写しの交付等がその内容となる(6-1~7を参照)。


第4 記者との接し方(原文の3-4)
    ふだん接することの多い記者との接し方において,次の点に留意する必要がある。
1 雑談がコメントとなる危険
    日頃から記者と顔を合わせていると,取材の申込み以外にも事件に関することなどについて,様々な質問を受けることがある。しかし,これに不用意に応答すると思わぬ結果を招くので注意を要する。時に不正確な雑談が裁判所の担当者のコメントとして記事になってしまうことがある上,誤報に結び付くこともある。
    事務局は,具体的事件について聞かれても,答えられる立場にない。このような場合,記者は往々にして一般論として尋ねてくることもあるが,具体的事件についての手掛かりを得ようという意図で尋ねていることが多く,一般論として説明しても,その事件についての説明と受け取られかねないことに注意が必要である。したがって,一般論としても説明は差し控えるべきである。さらに,個人的見解を聞かれることもあるが,明確に「個人的見解を述べる立場にない。」と断る必要がある。
2 法律知識の提供が必要な場合
    記者は,裁判の手続や法律用語など一般的法律知識についての理解が必ずしも十分とはいえないことが多い。そのため,これらについて質問をしてくることがある。この質問に対して適切な対応を怠ると,理解が不十分なまま記事になる可能性が高く,誤報に結び付くことがある。この場合には,責任者である所長に相談して,一般に公刊されている法律書で分かりやすいものを紹介する,場合によっては事件を担当していない所長等から記者に説明する,ということが必要になることもある。紹介する法律書は,外部に向けて刊行されているものであれば,裁判所の発行したものでも構わない。
3 「オフレコ」は原則用いない
    「オフレコ」とは,「オフザレコード(掲載禁止)」の略であり,発言を記録せず,公表もしないという意味であるが,記者との相当強い信頼関係があることが前提であり,報道対応としては原則用いるべきではない。
4 個別対応の原則
    記者は同じ会社内であっても独自に問題意識を持って取材活動をしている。記者からの取材については,個別に対応することを原則とし,同じ社であっても,他の記者に対して取材内容等を軽々に伝えてはならない。


第5 上級庁への情報提供等の際の留意事項(原文の3-5)
    報道対応は,飽くまでも当該庁が責任をもって行うべきものであるが,上級庁に情報提供等が必要と思われるものも少なくない。そのようなときには,次のことに留意されたい。
1 情報提供等の必要性
    記者からの取材事項等に応じて,遠慮なく上級庁に連絡や相談をすることを心掛けてもらいたい。情報提供等の必要性の有無等については,案件の重要性,複雑さや他庁への影響の可能性など様々な事情を考盧して判断することになる。
情報提供等の必要性について判断をしかねるような場合には,情報提供等の必要性も含めて上級庁に相談されたい。
2 緊急の際の第一報
    一般の国民の注目を集める事件や事故が発生するなどして,緊急の報道対応を要する場合や,裁判所が関係する事件や事故について報道がなされる可能性がある場合等には,まず「第一報」を入れておくことが重要である。まずは電話での一報ということだけで構わない。また,詳しい事情が正確に判明していない段階での断片情報でも差し支えない。第一報を受けると,上級庁は緊急事態への対応態勢をとることができる。第一報の意義はここにある。後でさほどの事態ではなかったと分かれば,その態勢を解除し,良しとすべきである。もちろん,第一報が無意味であったことになるものではない(5-5参照)。また,報道がされるような事件等については,上級庁含めて迅速に情報が共有されることが組織として望ましいことからも,迅速な第一報が重要である。
3 情報提供等の際の注意
    一般的に報道対応の情報提供等に当たっては,次の点を押さえておく必要がある。なお,事実関係の把握や対応方針の決定に時間を要するような場合には,作業が終わり次第,逐次連絡するようにする。
(1) まず,どのような取材を受けているのか,報道機関からの取材申込内容を正確に伝える。取材申込みを聴取したメモ等を活用する。
(2) 次に,その裁判所が把握した事実関係を正確に伝える。何が,いつ,どこで,なぜ発生したのか,今どうなっているのか,加えて,それはどのような意味を持っているのか,同種のことは従来あったのか,これからどのように対処する予定であるかなどを伝える。また,確認中の事実関係がある場合には,その点を明確に伝えることも必要である。
(3) さらに,その裁判所で考えている報道機関への対応案を伝える。上級庁としても正確な情報のやり取りなしには情報提供等に対して的確に応じることはできない。下級裁として上級庁に言いにくい事柄や時には何らかの失敗があったとしても,情報伝達する必要がある。
4 結果の報告
    報道対応の結果いかんによっては,他庁や上級庁に取材がされることもある。また,事前に検討した報道対応案と実際の対応結果とを分析することは,上級庁にとっても有益でもある。したがって,事案によっては,上級庁に対し,適宜対応結果について報告してもらいたい。


第2部 関連記事その他
1 ろこねっとHP(「日本全国の地域新聞を網羅した日本唯一の日本地域紙図書館が運営する地方紙情報サイト」とのことです。)の「記者クラブ」に,在京,大阪,神戸,京都,東海,北海道,東北,関東及び北信越/その他関西,山陰/山陽/中国,四国,九州/沖縄にある記者クラブの名前,住所及び電話番号が載っています。
2 送法は,公共放送事業者であるNHKの事業運営の財源を,NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととし,上記の者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定を置いています(最高裁平成30年7月17日判決。なお,先例として,最高裁大法廷平成29年12月6日判決参照)。
3 最高裁平成20年6月12日判決は,放送番組を放送した放送事業者及び同番組の制作,取材に関与した業者が取材を受けた者の期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わないとされた事例です。
4 東弁リブラ2022年11月号「ジャーナリズムと弁護士の接点」が載っています。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 司法記者クラブ及び法曹記者クラブと最高裁判所との懇談会(令和元年12月18日開催分)
・ 司法記者クラブ(令和2年5月7日付)
・ 国税庁記者クラブ(日刊紙)常駐記者一覧表(令和元年6月現在)
→ 記者の氏名は黒塗りです。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

裁判所の報道発表等

目次
第1部 裁判所の報道発表等
第1 報道発表等における一般的な留意事項(原文の4-1)
第2 資料提供(資料等の投げ込み)(原文の4-2)
第3 記者へのレクチャー(原文の4-3)
第4 所長等就任記者会見(原文の4-4)
第5 記者会見実施上の一般的な留意事項(原文の4-5)
第6 懲戒処分の公表(原文の4-6)
第2部 関連記事その他

第1部 裁判所の報道発表等
・ 以下の記載は,最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)25頁ないし33頁の記載を貼り付けたものです。

第1 報道発表等における一般的な留意事項(原文の4-1)

    報道発表等は,おおむね,記者への資料の投げ込み,記者へのレクチャー,記者会見の方法で行われる。報道発表等を行うに当たっては,次のとおり,相手方(報道機関)があることを常に意識することが必要である。
1 報道発表等の内容
    具体的にどのような内容の報道発表等を行うか,明確に整理した上で対応する必要がある。裁判所が報道してもらいたいと考えても,報道機関にとっては報道に値するものと思われない場合もある。また,報道機関は,必ずしも裁判所の業務内容等をこと細かく知っているものでもない。裁判所として国民への説明責任をどのような形で果たすべきか,報道機関がどのようなことに関心を持っているのかなどをふだんから意識しておく必要がある。
2 報道発表等の時期・タイミング
    報道機関(記者)は,日々様々な取材活動等を行っている。報道発表等を行う際には,このことも意識する必要がある。著名事件の裁判が行われている中で報道発表等を行う,記者が記事原稿を社に送るまでの時間がほとんどない時刻に報道発表等を行うなどということは可能な限り避けるべきである。このような時期・タイミングで報道発表等を行うと,記者は時間に追われて記事をまとめることになるが,その結果,十分に報道発表等の内容が理解されないままに記事(誤報)になるおそれがあるからである。
3 報道発表等の準備
    報道発表等の内容によっては,記者に交付する簡潔な説明資料を準備する,更に問われた場合の補足説明事項等を用意する,ということが必要である。
報道発表等は,各社への情報伝達に漏れがないようにする必要がある。そのため,記者クラブの幹事社を通じて行うのが一般的であろう。
4 他庁等への影響等
    ある庁の報道発表等が他庁,関係機関等に影響を及ぼすことがある。報道発表等を行うに当たっては,他庁等にどのような影響,波及が生じるかについても考える必要がある。その上で必要に応じて,上級庁を含め,他庁等に情報提供等することも必要となろう。

第2 資料提供(資料等の投げ込み)(原文の4-2)
    資料等を報道機関に投げ込む方法での報道発表である。報道発表内容を簡潔に記載したペーパー(プレスリリースペーパー)を投げ込むことが多い。例えば,次のようなものがある。
① 人事の報道発表・・・人事異動についての情報提供である。報道の解禁日時を設定して発表することもある(「シバリ付きの報道発表」ともいう。)。
② 死亡の報道発表・・・例えば,元所長が亡くなった場合についての情報提供である。
③ 懲戒処分の公表・・・懲戒処分を行った場合の情報提供である。懲戒処分の公表指針については,各庁に通知され,裁判所ウェブサイトでも公表されている(4-6参照)。
④ 庁舎建て替え,庁舎移転,新庁舎完成等の報道発表・・・報道を通じて広く利用者や一般の国民に知らせる必要がある場合の情報提供である。新庁舎が完成した場合等には,投げ込みだけでなく,新庁舎のお披露目を兼ねた見学会を開くこともある。
⑤ その他,広報活動のPR等を含む司法行政情報一般についての報道発表・・・記者へのレクチャーや記者会見を行うまでの必要はないが,報道機関に知らせ,何らかの形で取り上げてもらうことを意図する場合の情報提供である。
    また,記者クラブの求めに応じて,一般的定型的な裁判関係情報の提供を行う場合にも,この投げ込みの方式が用いられることがある(6-4参照)。

第3 記者へのレクチャー(原文の4-3)
    資料等の投げ込みだけでは十分な説明ができないと思われるような場合等に,記者を集めて説明等する方法での報道発表である(一般に「記者レク」という。)。通常は資料等を投げ込むだけで対応できる場合がほとんどであると思われるが,特に次のように,記者を集め,直接説明等した方がより良いと思われる場合に用いられる。短時間に多くの報道機関に簡潔かつ的確に説明する場合には,この記者レクの方法は優れているといえよう。記者レクでは,記者の事案に対する理解の状況等が確認できるというメリットもある。
    また,記者クラブから「記者レク」を求められることもあるが,その状況等に応じて可能な範囲で対応するというスタンスで差し支えない。
① 緊急を要する場合・・・例えば,裁判所内で事故等が発生した場合等である。
② 補足説明を加えないと誤解が生じるおそれがある場合・・・事案が複雑,あるいは記者に前提情報が足りないと思われるような場合等である。
③ 検察庁,弁護士会,捜査機関,地方公共団体等の外部機関に何らかの影響が生じるような場合・・・結果や影響の重要性等から,十分な説明を行うことが求められるような場合等である。例えば,裁判所が告発を行う場合,裁判所が中心となって法曹三者で取決めなどを行った場合等が考えられる。
④ 資料の投げ込みだけでは,その後の取材対応が必須になると思われる場合・・・投げ込みで報道発表した後に多くの記者から取材が入ることが予想される場合等である。
⑤ その他,裁判所の説明責任を明確に果たす必要がある場合・・・事案の重要性,影響の大きさなどを勘案して判断することになる。
    なお,裁判手続等について,記者を集めて勉強会のような説明会を開くことがある。このような記者を集めての勉強会,説明会等を行う場合を含めて,「記者レク」と総称することもある。特に,記者に馴染みのない家庭裁判所の手続等を「記者レク」の場で説明等することは有用であると思われる。

第4 所長等就任記者会見(原文の4-4)
    長官や所長が新たに就任した際に,報道機関が「人物欄」等に取り上げることがある。これは,国民一般に裁判所を身近に感じてもらう良い機会でもある。就任記者会見の要請があった場合には,特段の事情のない限り応じるようにすべきである。その準備等において,特に留意すべきと思われる事項等については,次のとおりである。
1 人事の報道発表後,記者クラブの幹事社等と事前に連絡調整をして,できるだけ各社の記者が出席しやすい日時に会見を設定する。場合によっては,所長等がまだ着任しないうちに調整しなければならないこともあることから,所長等ともよく連絡し合う必要がある。
2 所長等の参考にするため,これまでの就任記事を準備したり,直近の話題事項等,予想される質問事項を用意する。必要に応じて,記者クラブの幹事社等から質問事項を出してもらう。
3 会見のカメラ取材の在り方について,取材要領を作成する。カメラ撮影と録音の要領は,従来の例を参考に検討することになるが,最初の1ないし2間就任の感想や抱負等に関する応答の間に限る扱いもある。
4 所長の略歴等についての簡潔な資料を用意して,会見開始までに記者に配布する。

第5 記者会見実施上の一般的な留意事項(原文の4-5)
    所長等の就任記者会見(4-4参照)を除き,裁判所においては,一般に記者会見を行うことは多くない。報道機関への情報提供は,資料等の投げ込み,記者レクでほとんどまかなうことができるからである。それだけに記者会見を行うに際しては,その必要性を含め,十分な検討,準備等が必要である。その準備等において,特に留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。また,会見は,裁判所の公式見解等を示す場であることから,所長が行うのが原則であり,必要に応じて,局長,次長等が陪席し,司会進行は,総務課長等が行うのが通常であろう(裁判所内では,裁判所主催で記者会見を行うことが一般的である。)。
    なお,会見の在り方等によっては,大きく報道されることがあり得るので,会見実施に当たっては,上級庁に事前に情報提供等されたい。
1 記者会見の心得
    一般的に記者会見の心得といわれているものを参考に挙げる。これは,広報担当者の日常の報道対応の心得にも通じる。
(1) 明確な表現をとる。どちらとも取れるような不明確な表現をとらない。表現が不適切なことから誤報を招くことがある。
(2) 感情的な対応は避ける。感情を害するような質問をされても,これに呼応して感情的な応答をしない。
(3) 責任があることが明らかになった場合には,率直に陳謝するべきである。ただし,責任がない場合や一部しか責任がない場合には,責任回避と受け取られないように注意する必要はあるが,その点を明確に伝えるべきでもある。なお,事実関係の調査中で,裁判所側に責任があるか否かが明らかでない段階で,「事実であるならば」といった仮定を前提として,陳謝するようなことは,慎むべきである。
(4) 関係者の人権,プライバシーを念頭に置く。特に会見の中で関係者のプライバシーに不用意に触れたりすることのないように注意する。
(5) オフレコは難しい。オフレコは発言を記録せず,公表もしないことである。記者との合意によって成立するが,相当の信頼関係がないと困難である。内容によっては,オフレコにしてほしいと言うこと自体が報道の自由に対する圧力ではないかと受け取られることもある。
(6) 記者会見を行う時期・タイミングを計る。責任者が会見を避けているという印象を与えてはならない。また,記者側の締切時間にも配慮が必要である。
2 記者会見の準備
(1) 多数の記者が参加することやカメラ機材の搬入もあることから,記者会見場所は,裁判事務その他の事務に影響を与えず,会見者と記者との間の距離やカメラ取材スペースが確保できる会議室等の場所に設定する必要がある。
(2) カメラ取材の在り方について,取材要領を作成し,事前に会見参加記者等に周知するようにする。
(3) 会見の趣旨に見合った基本説明を用意し,会見参加記者にそのペーパーを配布することも検討する。
(4) その他,一般的に会見では,記者から,①全体的な事実経過(時系列),②問題点(原因や背景)についての分析,③過去の同種事例,④裁判所としての対応(改善策や関係者の処分等),⑤所長コメントを求められることが多いので,これらを中心に事案に応じた必要な準備を行う。

第6 懲戒処分の公表(原文の4-6)
    裁判所の懲戒処分の公表指針については,平成15年12月22日付けで人事局長が発出した通知(「懲戒処分の公表指針」)及び平成16年3月4日付けで裁判所職員倫理審査会が定めた指針(「国家公務員倫理法又は同法に基づく命令に違反した場合の懲戒処分の公表指針」)がありj裁判所ウェブサイトでも公開されている。これらの指針は,それぞれ人事院が発出した「懲戒処分の公表指針について」及び国家公務員倫理審査会が発出した「国家公務員倫理法又は同法に基づく命令に違反した場合の懲戒処分の公表指針について」と基本的に同じ内容である。現在,これに基づいて,懲戒処分が公表されている。
    当然のことながら,国家公務員の不祥事については,国民から厳しい目で見られている。これに伴って,報道機関の関心も高く,懲戒処分の公表時における対応も厳しいものになってきている。裁判所としては,懲戒処分を行った場合には,この公表指針に基づいて公表していくとともに,報道機関からの取材に対しても適時適切に対応する必要がある。具体的には,懲戒処分を行った後,記者クラブに対して,懲戒処分を行った旨(事案の概要,処分量定,処分年月日等)及びこれに対する所長のコメントを記載したペーパーを投げ込みの方法で交付した上,総務課長等が必要に応じて記者に個別に補足説明を行う,というのが一般的な対応例であり,必ずしも記者レクを行わなければならないものではない。また,事案にもよるが,懲戒処分の公表のためだけに記者会見を行うことは,原則ないといってよいであろう。
    なお,報道機関等から懲戒処分に関する文書の開示を求められた場合は,司法行政文書の開示申出によって対応するのが相当である。

【参考1】裁判所の公表指針(平成15年12月22日人事局長通知)

懲戒処分の公表指針について

    この度,各庁が懲戒処分の公表を行うに当たっての参考に供することを目的として,下記のとおり懲戒処分の公表指針を作成しました。各庁においては,本指針を踏まえて,懲戒処分の適正な公表に努めてください。

1 基本方針
    各庁においては,裁判所に対する国民の信頼を確保し,職員の服務規律に対する一層の自覚を促すため,懲戒処分を行った場合には,事案の性質や内容,社会的影響,被処分者の職責や関係者のプライバシー保護の必要性等を総合的に考慮し,原則として,以下に定めるところにより,適時適切に公表するものとする。
2 公表対象
    次のいずれかに該当する懲戒処分は,公表する。(1)職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分(2)職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち,免職又は停職である懲戒処分
3 公表内容
    事案の概要,処分量定及び処分年月日並びに所属,役職段階等の被処分者の属性に関する情報を,個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表する。
4 公表の例外
    被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等2及び3によることが適当でないと認められる場合は,2及び3にかかわらず,公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えない。
5 公表時期
    懲戒処分が行われた後,速やかに公表する。ただし,軽微な事案については,一定期間ごとに一括して公表することも差し支えない。6公表方法公表は,被処分者の所属庁において行うことを原則とし,記者クラブ等への資料提供その他,各庁の実情に応じた適宜の方法による。

【参考2】人事院の公表指針(平成15年11月10日人事院事務総長通知)

懲戒処分の公表指針について

    人事院では,この度,各府省等が懲戒処分の公表を行うに当たっての参考に供することを目的として,下記のとおり懲戒処分の公表指針を作成しました。各府省等におかれては,本指針を踏まえて,懲戒処分の適正な公表に努められるようお願いいたします。
    本指針は懲戒処分の公表に係る原則的な取扱いを示したものであり,個別の事案に関し,当該事案の社会的影響,被処分者の職責等を勘案して公表対象,公表内容等について別途の取扱いをすべき場合があることに御留意ください。

1 公表対象
    次のいずれかに該当する懲戒処分は,公表するものとする。
(1) 職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分
(2) 職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち,免職又は停職である懲戒処分
2 公表内容
    事案の概要処分量定及び処分年月日並びに所属,役職段階等の被処分者の属性に関する情報を,個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するものとする。
3 公表の例外
    被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等1及び2によることが適当でないと認められる場合は,1及び2にかかわらず,公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないものとする。
4 公表時期
    懲戒処分を行った後,速やかに公表するものとする。ただし,軽微な事案については,一定期間ごとに一括して公表することも差し支えないものとする。
5 公表方法
    記者クラブ等への資料の提供その他適宜の方法によるものとする。


第2部 関連記事その他
1 弁護士ドットコムタイムズに以下の記事が載っています。
・ 「初」や「異例」なら記者会見を開きやすい 現役記者に聞く記者会見の開き方やコツ Vol.1(2021年5月12日付)
・ 難解な資料や関係ない主張が目立つ 弁護士会見の困りごと 現役記者に聞く記者会見の開き方やコツ Vol.2(2021年5月14日付)
・ 会見せず特定のマスコミに情報提供は「危険な賭け」 現役記者に聞く記者会見の開き方やコツ Vol.3(2021年5月18日付)
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

裁判所の取材対応

目次
第1部 裁判所の取材対応
第1 取材対応において念頭に置くべきこと(原文の5-1)
第2 取材対応における一般的な留意事項(原文の5-2)
第3 取材事項について総務課で即答できない場合の対処(原文の5-3)
第4 休日等における取材対応(原文の5-4)
第5 緊急時における取材対応(原文の5-5)
第6 裁判官等の裁判所職員に対する取材への対応(原文の5-6)
第7 支部等に対する取材への対応(原文の5-7)
第8 検察審査会に対する取材への対応(原文の5-8)
第2部 関連記事その他

第1部 裁判所の取材対応
・ 以下の記載は,最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)34頁ないし48頁の記載を貼り付けたものです。

第1 取材対応において念頭に置くべきこと(原文の5-1)
    裁判所には,司法機関として,維持し,あるいは守らなければならない原理,原則がある。その中でも特に取材対応において常に念頭に置かなければならない主なものを以下に掲げる。
一方で,裁判所の説明責任も念頭におく必要があり,この点を考慮することなく,漫然と回答を控える対応とならないよう注意が必要である。

1 裁判所の独立,裁判運営の適正
    裁判所の主な職責は,様々な法的紛争を,法律の定めた手続に従って,適正かつ迅速に処理することである。こうした裁判事務は,裁判所にとってのいわば本体的業務であり,事務局の行う司法行政事務は,この裁判事務が円滑適正に行われることを側面からサポートするためにある。
    ところで,裁判事務は,司法行政事務と異なり,受訴裁判所を中心とする裁判部が,その権限に基づき独立に判断・処理することを原則としている。したがって,広報担当者においては,裁判部の行うこのような権限行使にいささかでも支障となるおそれのある言動は厳に慎む必要がある。例えば,ある判決について,広報担当者が,その当否に触れたと受け取られるコメントをすることは,その者の意図のいかんを問わず,事務局による裁判への干渉(すなわち裁判の独立の侵害)と誤解されかねない。また,そうしたコメントが原因となって訴訟が紛糾すれば,その後の訴訟の適正な運営の障害ともなる。
    広報事務は,前述したとおり,司法行政事務の一種であり,裁判事務をサポートすべきものである。広報担当者による不用意な言動が裁判事務の支障となるというようなことは,本末転倒であり,決してあってはならない。

2 裁判所の中立性,公平性の確保
    裁判所は,その職務の性質上,中立性,公平性を厳に維持しなければならない。実際に中立性,公平性を維持するとともに,この点で国民に疑念を抱かれることも避けねばならない。裁判所は,取材対応を含め,広報活動全般にわたって,裁半ll所の中立性,公平性と矛盾しないかどうかという観点から配慮しなくてはならないのである。
    例えば,事件の担当裁判官や裁判所書記官等が特定の事件について,法廷外,判決外で説明したり,論議したりすることは,手続の公正や判決の信頼性を傷つけ,ひいては裁判の中立性,公平性に疑念を抱かせることになる。司法行政部門であっても同様であり,裁判所にとって良かれと思ったとしても,このようなことは絶対にしてはならない(法廷内の裁判官の発言内容や判決内容についてコメントを出すなど。そもそも司法行政部門が裁判の内容等について発言することは,それだけで中立性,公平性に疑念を抱かせるおそれがある。)。
    そのほか,次のような例がある。
(1) 裁判所内で事故やトラブルが発生したような場合に,裁判所が当事者的立場に立たされることが起こり得る。裁判所は,今後,その事故等の関係者を裁判しなければならなくなる可能性があることを前提に,取材対応に当たっても,裁判所の中立性,公平性について誤解を与えないような配盧が必要である。
(2) 事件当事者が裁判所内で一方的にデモンストレーション的な活動をし,これを報道させて宣伝効果を高めようと意図するような場合がある。このような場合に,裁判所が一方当事者の宣伝活動に協力するようなことをすると,裁判所の中立性,公平性を損なう。報道機関から取材の申込みがあった場合(原告の訴状提出場面や要請行動場面の庁舎内でのカメラ撮影を含む取材申込みなど)には,このような視点からその当否について検討しなければならず,報道機関に対して裁判所の立場をよく説明し,理解を求めなければならないこともあろう。

3 関係者のプライバシーの保護等
    裁判所の扱う情報には,捜査の秘密に属する事項や企業秘密,少年事件における少年法61条に係る事項,閲覧等制限の申立や秘匿決定のなされた事項等,本来公開してはならない情報がある。
    また,裁判においては,当事者はもちろんのこと,証人や鑑定人,刑事被告事件の被害者,あるいは代理人,弁護人,検察官等様々な人々が関与するところ,裁判所の取材対応によって,こうした人々のプライバシーが害されることがあってはならない。取材対応のなかで,こうした人々の氏名や住所,事件との関係を明らかにしてよいかどうかについては,細心の注意をもって検討することを要し,事項によっては,裁判事務への影響も考えなければならないので,裁判部の意見を聴く必要がある。
    その他期日情報等の裁判関係情報を提供する場合にも,裁判部と連携しつつ,提供する情報に秘匿事項等の公開してはならない情報が含まれていないことを確認する必要がある。

第2 取材対応における一般的な留意事項(原文の5-2)
    前述のとおり(5-1参照),個別具体的な事件について,報道機関から総務課に取材があった場合に,当該事件情報について,総務課が裁判部に照会すること自体が裁判の独立に触れるおそれがあり得る,ということに注意する必要がある。また,総務課が裁判事項について報道機関に回答する際には,回答が裁判体の判断であるかのように誤解されないように注意する必要もある。その他,一般的な留意事項は,次のとおりである。
1 心構え
(1) 誠実な対応
    記者の取材事項をよく聴き,当方の伝えたいことを確実に伝えることが必要である。形式的な対応ではうまくいかない。
    誠実な対応とは,結局,相手の問題意識等を理解した上で,裁判所側として可能な限りの対応を行うこと,といえる。当然,言えないことについては「言えない」と毅然と対応すべきである。また,知ったかぶりなど,その場限りのいい加減な対応は慎む。裁判部における当事者対応と基本的に同じであるといえよう。
(2) 取材拒否は禁物
    記者から取材申込みがあった場合,仮に「回答できない。」,「ノーコメント」の対応になるとしても,取材自体は原則として受けるべきである。取材拒否は禁物である。
    例えば,記者から会議に参加中の所長に取材申入れがあった場合には,「所長は会議中で取材を受けられない。」などと対応するのではなく,会議の場にメモを差し入れ,所長の指示を得た上で対応すべきである。
(3) 記事への介入は禁物
    記事につき記者に圧力をかけていると受け取られるような対応をしてはいけない。また,記事は記者が書くものであり,取材を受けた裁判所の思いどおりの論調になるとは限らない。裁判所のコメント部分が言ったとおり正確に書かれなくてはならないのは当然であるが,裁判所側が記事内容等を指定したり,記事が出ないように止めたりすることはできない。このようなことを要求していると受け取られないよう,言動には注意しなければならない。信頼関係ができている記者から,記事の正確性を確実にするため,記事原稿のチェックを頼まれることもあるが,それを取材を受ける条件として要求することは,差し控えるべきである。
(4) 記者に正しく理解してもらえる努力を
    取材対応の結果,誤報等がされては何の意味もない。記者が正しく理解するよう,分かりやすい説明等が求められる。このような対応を的確に行うためには,記者とのコミュニケーションをよく取り,その認識内容や問題関心等をよく理解することが必要である。
(5) 広報感覚を磨く
    取材対応は,一見定型的に思えても,一件一件違っているといえる。急いで上級庁とも相談して対応すべき事案もあれば,数日かけて検討して対応できる事案もある。前例に従えばよいというものでもない。事案の特性を見極める感覚を磨く必要がある。

2 取材申込みを受ける際の留意事項
(1) 取材申込み
    記者からの取材申込みは様々な形でされる。広報の窓口である総務課に電話で聞いてくる場合が最も多い。そのほか,総務課長を訪ねてくる場合,直接所長に面談を求めてくる場合などがある。訟廷や裁判部に聞いてくる場合もあり得る。
    いずれの場合も,一番最初に取材申込みを受ける際の対応が肝心である。ここで記者の取材の趣旨等を的確に把握できないと,十分な対応が検討できず,行き違いによるトラブルや,ひいては誤報等を招いてしまう原因にもなる。
    なお,総務課以外に取材申込みがあった場合には,「報道機関からの取材は,総務課が窓口として担当することになっていますので,総務課にお願いします。」と言って,総務課を案内するのが相当である(3-2参照)。
(2) 聴取事項記者から電話等で取材の申込みがあったときは,次の点を確認して,その場でメモを取るようにする。
        ① 会社名(所属),記者の氏名,連絡先
        ② 取材内容取材目的ないし取材動機や背景事情
        ③ どのような取材希望か取材希望日時ないし回答期限
        ④ 報道予定(掲載日,放送日,番組名等)
    ②及び③については,次のとおりである。
ア 取材内容(②)
    記者が何を取材しているのかよく聴く。取材申込みの窓口担当が,取材内容をよく理解しないまま形式的に記者の言うことを聴き取っても的確な取材対応はできない。また,中には,誤った法律知識を前提に,事実関係や統計数値を尋ねてくる記者もいないわけではない。前提が誤っていないかなど,注意して取材内容を聴取しなければならない。
イ 取材目的ないし取材動機や背景事情(②)
    これを知ることは的確な応答のために大切であるが,不用意に記者に質問すると,取材に不当に干渉していると受け取られるおそれがある。要は,取材の趣旨等をよく了解して対応したいので,どういう趣旨の取材なのか,よく分かるように教えてもらえないか,という姿勢で尋ねてみることである。
ウ どのような取材希望か(③)
    記者が,所長との面談を求めているのか,所長のコメントを求めているのか,単なる事実関係等の照会・問合せ,資料提供の依頼なのかなどを聴取することが必要である。
エ 取材希望日時ないし回答期限(③)
    必ず取材希望日時ないし回答期限を聴取する。この際,記者の希望日時までに,事実の確認や資料等を整える時間の余裕がないと思われる場合などには,回答期限をあいまいにせず,裁判所側で回答できそうな期限を明確に伝えることが必要であり,一旦回答期限を約束した以上は,それを守るよう努力すべきである。
    なお,回答期限を定めた場合には,当該時刻に記者から回答を求める電話等をもらうようにしておけば,行き違いなどがなくなる(回答期限を設定できなかったとき,あるいは回答期限に電話をもらったが回答が準備できていなかったときなどは,「準備でき次第,裁判所から連絡します。」と対応する必要がある。)。
3 回答の際の留意事項
(1) 必ず発表するコメント等を紙に書いて用意した上で記者に伝える。記憶して話すというのは不正確になるので絶対にしない。
(2) 原則,口頭で,記者に正確に書き取ってもらえるように紙を見ながら文章を読み上げて伝える。漢字で同音異義語がある場合や固有名詞の場合,どの漢字か口頭で説明する気配りも必要である。
(3) コメントや質問事項を回答した後,別に質問を受けることもある。あらかじめ所長から質問に答えてよいと指示を受けている回答の範囲を超えて質問された場合には,その場で答えることなく,答えられるかどうかも含めて引き取り,改めて所長の指示を受けて対応する。
(4) 対応後は,速やかに,対応の際の状況を所長に報告する必要がある。コメントや回答の趣旨等が誤解されているおそれが見て取れる場合には,これに直ちに対処する必要があるからである。
    なお,取材への対応は,記者と面接して行うことが望ましい。記者の表情や態度を見ることによって,思わぬ誤解や行き違いを防止することができるとともに,対面して丁寧に対応することによって,記者との間により深い信頼関係を築くことができるからである。もとより,取材内容が定型的な事実の確認にすぎないとき,来庁を求めることが記者の負担になるときなどには,電話対応で済ませる場合も多いであろう。また,既に記者との間に十分な信頼関係があるという場合にも,あえて面接を求めるまでのことはないと思われる。しかし,例えば,必ずしも十分な信頼関係が築かれていないような記者に対応するときや,対応に神経を要するような重要,微妙な案件については,電話対応で済ませるのではなく,面接により対応するのを原則とすべきである。

第3 取材事項について総務課で即答できない場合の対処(原文の5-3)
    法廷内での出来事等,取材を受けた時点で総務課ではその事実関係が分からず,即答できないという場合には,次のとおり対処する必要があろう。
    なお,即答できないことがあったとしても,それ自体を負い目に感じることはない。記者が強く即答を求めてきた場合には,事実関係をきちんと把握しなければ回答できないことを明確に記者に伝えるようにする。
1 裁判部との連携
    総務課では取材の対象となる事件等に関する事実関係は分からないから,当然,裁判部から情報提供をしてもらう必要がある。的確な取材対応のためには,裁判部から広報担当者への迅速かつ正確な情報提供が不可欠となる。そのためにも,平素から総務課と裁判部との連携を密にしておくことが大切である。
2 正確な事実関係把握
    例えば,法廷内で事故やトラブルがあったという場合,法廷に入っていた記者は,直ちに事実の確認や所長のコメント等を求めて,総務課に取材してくる。この場合,総務課は,まず,裁判部に事実関係について尋ねることから始めなければならない。記者から回答を急がされても,記者が持ち込んだ情報を前提にしてコメントを出すような対応は絶対にしてはならない。記者が正確に法廷内の事実や訴訟手続内での位置付けを認識しているとは限らないからである。裁判部から,正確な事実関係について適切に情報収集を行い,これを基に所長以下の広報担当で対応案を検討し,必要があれば上級庁に情報提供等するなどして対応することになる。
    なお,以上のことは,裁判所内で事故等が生じたときにも同様である。記者と対応した際にこちらの事実関係の把握があやふやでは事態を紛糾させるだけである。事実関係の正確な把握は,あらゆる場面の報道対応の基本中の基本である。

第4 休日等における取材対応(原文の5-4)
    休日や所長不在時に取材があった場合の取材対応について,特に留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。
1 即時対応の必要
    休日・夜間でも,責任者である所長の不在時でも,報道機関から取材が入ることはある。報道機関は休みなく取材活動を続けて新聞やニュース番組を提供しており,可能な限り,取材を受ける側もこれに対応しなくてはならない。さもないと,こちらの話を聞かずに記事を書いてしまい,誤報や一方的な記事となってしまうおそれがあるからである。特に,休日・夜間,とりわけ深夜の取材は,それだけ報道機関としてのニュース価値が高く,取材の必要性が高いとみてよいと思われる。
    報道機関からの取材には,原則として,いつでも,直ちに対応する必要がある(直ちに回答する,という意味ではない。)。
2 休日・夜間の連絡態勢の確立
    そこで,休日や夜間に取材があった場合にも,広報事務を担当する総務課職員から総務課長,事務局長,所長と連絡し,責任者である所長が対応できるように平素から連絡態勢を準備しておく必要がある。そのためには,休日・夜間の当直が記者対応をしないように,当直に取材があった場合のルール作りをしておかなければならない。
    休日・夜間の取材についても,上級庁に相談の必要があるときには,直ちに連絡することが重要になる。そのための連絡態勢も平素から考慮しておくべきである。
3 責任者不在時の態勢
    責任者である所長が不在の場合,まず,所長の出先に連絡できるときには連絡をとることになる。連絡不能の場合には,事務局長,次いで総務課長が,上級庁と相談しながら,所長に代わって対応することになる。
    事案にもよるが,所長が不在であるからといって,締切時間に追われている記者をいたずらに待たせることは相当でない。

第5 緊急時における取材対応(原文の5-5)
    突発的な事故やトラブルが起こった場合をはじめ,緊急時における取材対応は難しいものである。緊急時の取材対応について,特に留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。
1 事実関係の迅速かつ正確な把握
    まず,速やかに事実関係を調査することが必要である。迅速かつ正確な事実把握が取材対応の出発点である。緊急時には情報が錯綜したり,混乱していることもあるから,確かな情報と不確かな情報とをより分けながら,事実関係を把握する。
2 取材内容等の正確な聴取
    報道機関から取材申込みがあった場合,相手方記者の特定,取材内容,回答期限等の必要事項を正確に聴き取ることが必要である。また,可能な範囲で取材目的,取材動機,背景事情等も教えてもらうようにする。
3 緊急の対応を要するかどうかの判別
    事実関係の第一報が入ったり,記者からの取材を受けた時点で,その事案が緊急の取材対応を必要とするものかどうか,今後の広がりはどの程度か,の見極めをしなければならない。物事の先を読むというセンスが必要である。
4 所長への的確な情報集中
    責任者である所長が的確な判断を行えるように,事実関係の第一報を所長に報告するとともに,記者からの取材についても報告することが必要である。緊急の対応を要すると判断した場合には,所長がほかの執務中であっても,迅速に報告しなければならない。その際,緊急の対応が必要と考える旨進言する。
    その後,事実関係の調査が進めば,その都度,判明した事実を所長に報告する。新たな取材等があった場合も報告する。総務課一事務局長一所長に情報を集中させなければならない。
5 窓口の一本化
    緊急の取材対応の場合も,対応は総務課一事務局長一所長のラインで行う。緊急の際には,情報の錯綜や混乱が起こりやすく,取材に対応する窓口は,絶対にこのラインに一本化しなければならない。総務課においても,当該情報の取扱いを総務課長,課長補佐等,特定の職員に集中させる必要がある。
6 上級庁への情報提供等
    緊急の取材対応について上級庁に情報提供等する場合には,まず,第一報し,さらに詳細が判明し次第,又は取材があり次第,順次連絡を入れるという形で行うのが適切である。
7 報道対応案の作成
    記者からの質問が予想される事項を念頭に置きながら,報道対応案を作成する。具体的には,事実関係,問題点についての裁判所の見方,裁判所の対応などについて,検討していくことになる。
8 所長による対応
    記者の取材に対し,事実関係を説明するなり,裁判所のコメントを出すなりの対応は,原則として,責任者である所長が行う。又は所長の指示を受けた事務局長,総務課長等が行う。
また,実際に対応を行うに当たっては,報道機関の締切時間に配盧しなければならない。緊急の場合にこそ,この配慮は重要である。かつ,緊急の場合には,誤りが起こりやすく,また,訂正の時間もないことから,ふだん以上に正確な説明等に留意する必要がある。
9 平素の心掛け
    緊急の場合の対応は,その場で急にうまくやろうと思っても難しいものがある。平素から緊急時のための準備を行っておくこと,通常時の取材対応を適切に行うこと,また,平素から記者たちとの間に信頼関係を醸成すること,といったことが緊急時に適切な対応をするために大切になってくる。

第6 裁判官等の裁判所職員に対する取材への対応(原文の5-6)
1 裁判官の場合
    報道機関が,何らかの報道目的をもって,特定の裁判官を指名せずに,あるいは特定の事件を担当した裁判官,特定の地域の裁判所や特定の部署に勤務した経験のある裁判官,外国に長期留学研修した経験を有する裁判官など特定の裁判官を指名して,取材を申し入れてくることがある。取材の態様も,コメント依頼,質問事項への回答依頼,インタビュー依頼,テレビ,ラジオへの出演依頼,雑誌等の対談企画への出演依頼等,様々である。こうした裁判官に対する取材については,次のことに留意すべきである。
    なお,当然のことながら,裁判官に対する取材への対応場面でも,裁判所の中立性,公平性に留意する必要がある。
(1) 企画内容等の確認
    どのような企画内容であるか,企画の趣旨,目的はどのようなところにあるのかをよく確認する必要がある。特に,特定の裁判官を指名しての取材申入れには注意が必要である。なぜその裁判官である必要があるのか,よく確認する必要がある。
(2) 所長への報告等
    企画内容等の確認ができたら,まずはそれを所長に報告し,指示を受ける。そのような取材を受けることの当否は,裁判官が公的な立場にあること,その言動が裁判と裁判所の信頼に影響を及ぼす可能性があることなどを考慮すると,単に当該裁判官個人の意向のみで決められるべきものではなく,裁判所として慎重に判断することが求められるからである。その上で,所長の指示に従い,必要に応じ当該裁判官に知らせる(場合によって,その意向も聴取する。)という手順を踏むべきである。所長の指示を受けることなく,当該裁判官に取材依頼があったことなどを説明し,話を進めることは不相当である。
(3) 直接裁判官に取材の申入れがあった場合
    記者が直接,裁判官に取材を申し入れることがある。自宅への押し掛け取材,帰宅途上での取材等の場合もある。このような場合に備え,ふだんから裁判官には,記者から取材があった場合には,「取材の申入れは総務課が窓口になっているので,総務課に話をしてもらいたい。」と明確に対応してもらうよう伝えておく必要がある。記者から,「裁判官という立場を離れた○○さん個人への取材です。」と言われても,裁判官である以上,同じ対応をする必要がある。
    なお,裁判官から,記者から取材等の申入れがあった旨の通報がなされた場合には,当該記者に対して,「取材の窓口は総務課になっているので,直接裁判官に取材を試みることは差し控えていただきたい。」と,裁判所の考え方を説明する必要がある。
(4) 取材への対応等
    裁判所の中立性,公平性の観点からの検討を踏まえた上,取材を受けることを相当と判断した場合,例えば,それがインタビュー取材であれば,事前に,インタビュー内容を確認し,どのような回答等をするのが相当であるかなどをよく検討しておく必要がある。なお,最近では,テレビの生放送番組への出演依頼等がなされることもあるが,生放送番組は予期しない出来事が起きることなどもあり,依頼に応じるか否かについては,特に慎重な検討が必要である。
(5) 個別事件を前提とした取材依頼への対応等
    個別事件を前提とした取材依頼に当該担当裁判官が応じることは相当ではない。「裁判官は弁明せず」の法格言(法諺)があるとおり,個別事件に関する裁判所の判断及び理由は,全て判決や決定の理由の中で示されるもので,これら以外の場面で判決等について弁明したり,コメントしたりすることは不適切であるとされている。また,これを疑わせるような可能性のある取材に応じることも同様である。番組に出演すること自体で,裁判所の中立性,公平性に疑いを持たれることもあり得る。いずれにしても,個別事件を前提とした,あるいはそうとられてもやむを得ないような取材には応じることができない,と肝に銘じておく必要がある。


2 一般職の場合
    裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応については,基本的には,裁判官に対する取材への対応と同様の検討等を要する。
    ただし,裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応については,「裁判官は弁明せず」の法格言(法諺)のある裁判官とは異なるが,守秘義務(国公法100条)が課せられていることには十分に留意する必要がある。特に,裁判所書記官,家庭裁判所調査官,執行官等,事件を担当し,裁判官に極めて近いところで仕事をしている職員については,慎重な検討が必要である。
    これまでに取材依頼で応じたことがあるものとしては,次のようなものがある。
    なお,当然のことながら,裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応場面でも,裁判所の中立性,公平性に留意する必要がある。
① 裁判所書記官,家庭裁判所調査官の仕事内容や仕事の魅力,やりがいなどを紹介するもの
② 裁判所事務官,裁判所書記官,家庭裁判所調査官を目指した動機,試験への準備などを紹介するもの
③ その他,地域の行事や個人的な趣味,活動などを紹介するもの(裁判所の職務とは直接関係のないもの)

第7 支部等に対する取材への対応(原文の5-7)
    報道対応は責任者である所長が行うという原則は,支部における取材対応でも同様である。直接支部に取材申込みがあった場合には,庶務課(長)が窓口となり用件等を確認し,これを本庁の広報事務を担当する総務課などに連絡をした上,対応は,本庁で引き取って行うのが通常である。
    しかし,支部所在地の報道機関等が支部に取材に来ており,本庁まで取材に行ってもらうことが難しいような場合には,所長の指示の下に,支部において回答することもあるであろう。支部で対応することとなった場合,支部長が対応するのが相当であるが,支部長が裁判に立ち会っていて記者への対応ができないとき,支部長が取材対象の事件に関与しているようなときなどは,支部長の指示を受けた庶務課長が対応することになろう。
    なお,支部に取材対応を要する大型事件が係属した場合等については,本庁の広報事務を担当する総務課などが支部への応援態勢を組むのが相当である。
    おって,本庁で対応するとしても支部で対応するとしても,本庁と支部との緊密な連絡,連携に留意する必要がある。
    以上の点は,家庭裁判所出張所及び簡易裁判所についても同様である。

第8 検察審査会に対する取材への対応(原文の5-8)
1 原則的対応
    検察審査会は,裁判所から独立した機関であるから,検察審査会に対する取材については,検察審査会事務局が取材対応することになる。裁判所の広報事務を担当する総務課は,当然には検察審査会に関する事務について権限を有していないことに留意する必要がある。
    ただ,総務課に取材申込みがあったり,検察審査会事務局に直ちに引き継ぐことができない事情等がある場合には,総務課が記者と検察審査会との間の取次役をすることは差し支えない。その場合にも対応の主体が検察審査会であることを十分留意し,記者にもその理解を求める必要がある。
    もっとも,取材対応に不慣れな検察審査会事務局から,その経験の豊富な総務課に支援,協力を求めることはあり得ることであり,それに応えて総務課が適切な助言をするなどの支援を行うことは望ましいことである。
2 検察審査会事務局における具体的な取材対応
    報道機関からの取材に当たっては,捜査の秘密,審査会議の非公開,関係者のプライバシー保護等の事情に十分配慮した上で対応する必要がある。一般的に,議決前の段階では,申立ての有無等ごく一部の事項について確認に応じる程度に限られ,議決の要旨の掲示後は,掲示した日等の外形的な事実のほか,同要旨に記載された事項の範囲内で回答することになろう。


第2部 関連記事その他
1 早稲田大学HPに載ってある「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」には「。マスコミとは,喧嘩もしましたが,仲良くもしました。最後は送別会をやってもらいました。やはりマスコミとは喧嘩ばかりでは駄目です。仲良くしておかないとどこで足を引っ張られるか分かりません。皆さんも気を付けてください。」と書いてあります(リンク先のPDF4頁)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

少年事件についての報道対応の留意事項

目次
第1 少年事件についての報道対応の留意事項
第2 関連記事

第1 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)62頁ないし63頁には,「6-7 少年事件についての報道対応の留意事項」として以下の記載があります。

1 少年事件の非公開性
    少年法は,少年事件を非公開手続とし(同法22条2項),少年の情操を保護し(少年審判規則1条),少年の更生及び社会復帰を期するため,秘密の保持に配慮している。報道対応の場面でも少年事件の非公開性には特に配盧しなくてはならない。
    同法61条には,「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」と規定されている。
    この少年事件の特殊性については,折りに触れ記者にも説明し,理解してもらうことが求められる。

2 少年事件の報道対応
    一方,少年事件であっても,裁判所が全く報道対応をしないでいると,かえって不正確な報道を招く危険もある。少年事件の非公開性に十分な配慮をした上で,家庭裁判所の社会に対する説明責任を果たし,家庭裁判所に対する社会の信頼を確保することにも留意しながら報道対応を行う必要がある。捜査段階など,これまでの報道振りから,取材が予想されるような事件が係属している場合には,所長に報告して,あらかじめ今後の報道対応について検討をしておく。具体的な対応は,担当裁判官の意見を踏まえた上,事案ごとに判断することになるが,事件によっては,少年の特定に結び付かず,少年の情操保護,更生を妨げない限度で一定の情報を公表することが相当な場合もあり,その際,事件受理時や審理途中においては,調査や審判等に影響を及ぼさないよう配慮する必要がある。また,被害者等に関する取材についても,二次的被害を与えないように,その心情に十分配慮した対応が必要である。
    なお,少年の身柄に関する事項について報道対応する際には,その情報に基づき取材されることもあるので,観護措置決定の執行終了後に対応したり,関係機関と調整したりするなどの配盧が必要である。決定要旨原案の作成は,担当裁判官に依頼することになるが,記載をどの程度詳細にするかは,審判が非公開とされる趣旨及び少年や関係者のプライバシーに配盧しつつ,家庭裁判所の社会に対する説明責任が果たされているかという観点から判断することとなる。重大事件等においては,ある程度詳細な決定要旨が必要となる場合もあろう。
    おって,記者は少年事件の手続等について知識を持たないこともあるので,正確な報道をしてもらうために,記者に手続の流れなどの一般的知識を提供する等,適宜な措置を講じることも検討されたい。

第2 関連記事その他
1 最高裁判所の広報ハンドブック(少年事件編)(令和2年3月版)を掲載しています。
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

対象裁判が著名事件等である場合の留意事項

目次
第1 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
第2 関連記事

第1 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)59頁ないし61頁には,「6-6 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項」として以下の記載があります。
    全国的に注目を集めている著名事件の初公判や判決言渡しの際には,各報道機関とも大きく取り上げるため,様々な取材の申込み,便宜供与の依頼が予想される。そのような公判や判決言渡しが予定されているときには,広報担当は,あらかじめ報道対応等のやり方を検討し,必要があれば記者クラブと打ち合わせるなどして,当日混乱が生じないように準備する必要がある。
    著名事件等における主な検討項目は,次のとおりである。

1 法廷内記者席
    一般傍聴人も多数来訪することが予想される。記者席を多く取ると一般傍聴席が減って,抽選に列を作った傍聴希望者から苦情が出ることもある。逆に記者席が少ないと,十分に報道できないと記者側から苦情が出る。記者席と一般傍聴席とをいかに調整するかはなかなか難しいが,事前に記者クラブと打ち合わせして調整し,バランスを取る必要がある。
    記者席について,検討,調整する場合には,当然,裁判部と緊密に連絡し合わねばならない。その場合,広報担当者が得ている情報や予想される記者クラブの反応などを裁判部に十分伝えることが必要となる。

2 法廷内カメラ取材
    取材要領を作成の上,代表取材の担当となった社と,集合時間,集合場所等について打合せを行っておく必要がある。また,法廷以外でもカメラ取材が予定されることがあり,それぞれの場所でのカメラ取材に混乱が生じないよう,事前に裁判所からの指示を徹底させる必要がある。広報担当者を適切に配置するなど,混乱回避の手段を講じることも大切である。

3 判決要旨等
    通常,判決要旨・骨子を用意し,記者に配布することになる。事前に記者クラブと部数について打合せをし,裁判部に依頼して部数を用意してもらい,当日混乱なく配布できるように準備する。
    判決要旨・骨子は,原則,判決言渡しの終了後速やかに,広報担当者が記者クラブに配布する。判決言渡しに長時間を要する刑事事件の場合などに,記者クラブから,判決要旨・骨子を主文言渡し後速やかに配布してもらいたい旨の要望が出ることがある。言渡し終了まで待っていたのでは締切時間に間に合わず,かといって判決要旨・骨子なしには正確な報道をす-るのが困難であるという理由からのものである。裁判体と協議の上,具体的事情に応じた対応策を検討する必要がある。判決要旨等を分割して,段階的に交付する,ということもその対応の一つの方法といえよう。

4 臨時記者室
    極めて著名な事件の場合,通常使用している記者室が広くない庁では,記者クラブから,臨時の記者室として使うための会議室等を提供してもらいたい旨の要望が出ることがある。
    臨時に会議室等を提供するかどうかは,庁舎管理権の問題であり,庁舎管理権者である所長等が決めることになるが,そのためには,その事件ではどのくらいの規模の取材等が予想されるのか,既存の記者室で対処できそうなのかどうかといった点について,事前に広報担当から所長等に報告することが求められる。
    なお,臨時記者室を提供する場合,臨時の電話回線やファクシミリ回線の設置要望が出ることもあり,事前によく記者クラブ側と打ち合わせる必要がある。
おって,臨時記者室は報道のために便宜供与するものであり,当事者が報告集会を行うというような使い方ができないのは当然である。

5 中継車,中継テント
    極めて著名な事件の場合には,特に放送関係の記者から,裁判所構内の駐車場等に中継車を置かせてもらいたい,生中継をするためのテントを張らせてもらいたい旨の要望が出ることがある。このような要望についても庁舎管理権の問題であり,所長等が許否を決めることになるが,臨時記者室と同様に,予想される取材の規模等を広報担当から所長等に報告することが求められる。
    中継車や中継テントを許可する場合にも,一般来庁者の邪魔にならず,混乱発生の危険のない場所で,かつ,電波の発信等に不都合のない場所を探した上,各社平等に取材ができるよう,記者クラブと調整する必要がある。

6 事件当事者等の入庁場面のカメラ取材
    事件当事者等の入庁場面のカメラ取材を求められることがある。裁判所構内におけるこのような取材の許否についても庁舎管理権の問題であるが,臨時記者室等と同様広報担当者から必要な情報を所長等に報告することが求められる。これら入庁場面のカメラ取材を許可した場合には,広報担当者が撮影に立ち会い,一般来庁者等が写らないよう注意する。
    なお,撮影を許可する場合は,記者クラブ側が被写体となる事件当事者等の同意を得ることが前提となる。

7 立ちレボ
    テレビ報道で記者が裁判所庁舎等を背景に立ち,裁判所構内で裁判の内容や審理の様子をレポートするものである。放送記者から広報担当に許可申請が出される。これも庁舎管理権の問題である。許可した場合,広報担当者が撮影に立ち会って,一般来庁者等が写らないよう,また,できるだけ執務時間内に終えるよう注意する。

8 宣伝的行為の撮影
    裁判所構内で一方当事者が宣伝的行為に及ぶことが予想された場合,裁判所の中立性,公平性の観点から,裁判所がその撮影のために便宜供与することは適当ではない。構内での宣伝的行為は,関係者の入構時,法廷内及び判決言渡し後(例えば,裁判結果を知らせる垂れ幕など)の各段階で起こることが多く,このようなおそれがある場合には,混乱しないような形で撮影を未然に防止するよう,事前に十分検討しておく必要がある。

9 ふだんと異なる扱いをする場合
    要警備事件では,裁判所構内でのカメラ撮影等についてふだんと異なる制限が必要となる場合もある。このような場合,単に結論を告げるだけでは記者クラブの反発を招くおそれがあるため,その結論を採らざるを得ない理由とともに,裁判所の立場や考え方を丁寧に説明するなど十分に配慮する必要がある。

第2 関連記事
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

法廷内記者席

目次
第1 法廷内記者席
第2 関連記事その他

第1 法廷内記者席
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)58頁には,「6-5 法廷内記者席」として以下の記載があります。

    記者クラブから法廷内に記者席を確保してもらいたいという要望がなされることがある。傍聴希望者が多く,傍聴席が一杯になるような著名な事件の場合,この要望が出されることが多いようである。
    法廷内に記者席を設けるか否かは,裁判長又は開廷をした一人の裁判官の法廷警察権に基づく判断に関わることである。したがって,まず,要望が出たことを裁判部に伝えた上,裁判体の判断を仰ぐことになる。裁判体の了解が得られた場合には,その旨を記者クラブに伝え,出席予定記者を確認する。法廷の規模にもよるが,一般傍聴人の傍聴席を確保する必要があることから,通常は,1社1席というのが原則であろう。裁判当日は,当該傍聴席が記者席であることが分かるように,傍聴席に「記者席」等と書かれたカバーを掛ける等の措置を執ることが相当である。記者は,法廷に出たり入ったりすることがあるので,記者席は,通路側の出入口に近い傍聴席に設けるのが一般的である。要警備事件である場合,傍聴券を交付する事件である場合等においては,事前に,裁判部との間で,開廷中の記者の出入りをどの程度認めるか,記者の交代を認めるかなど,よく調整しておく必要がある。
    要望に基づいて記者席を確保したにもかかわらず,何らかの理由で記者が法廷に来ない,ということもあり,傍聴券を交付した事件ではない場合においては,記者席カバーを外し,一般傍聴席に戻すといった措置を執ることもある。理由がどのようなものであれ,傍聴席確保を申し出た記者には,一般傍聴席を減らして記者席を確保しているのであるから,申し出た以上は,必ず法廷に来るように,今後,このようなことがあれば,記者席の確保はできなくなる旨伝えるなど,注意を促すことも必要となろう。
    記者クラブに所属していない報道機関から記者席の申出がされた場合には,記者クラブ所属記者からの申出の状況等を踏まえて対応を検討する必要がある。
    なお,記者席を確保するために,折りたたみ椅子等を法廷内に持ち込むことは相当でない。飽くまでも既存の設備の範囲内で可能な対応をとるというのが,便宜供与をする際の原則である。

第2 関連記事その他
1 裁判所HPの「大法廷web見学ツアー(傍聴席)」には以下の記載があります。
大法廷の傍聴席は,全部で166席あるんじゃ。さらに,新聞記者の人たちが座る記者席も,傍聴席の両側に42席あるんじゃよ。
最高裁判所の大法廷は,日本で一番大きい法廷じゃから,傍聴席も多いんじゃよ。
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 判決要旨等
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 法廷内写真撮影
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

判決要旨等

目次
第1 判決要旨等
第2 関連記事その他

第1 判決要旨等
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)55頁ないし57頁には,「6-4 判決要旨等」として以下の記載があります。
1 判決要旨等の提供の理由等
    言渡し前に,記者クラブから広報担当に対して,判決言渡しの際,判決要旨・骨子を配布してほしい旨の要望が出されることがある。
    記者は,言渡し後ごく短期間のうちに記事を作成しなくてはならない。記事の予定稿を用意することもあるようであるが,それでも記事をまとめるまでには,非常に慌ただしい作業となる。そのような中で短時間に判決文を読みこなす,あるいは判決理由の朗読を聴いて正確に要点を抽出するということは極めて難しいといえよう。このような状況から,正確な報道のためには,裁判所の方で要旨・骨子を提供するのが有効であるとして,これまでも便宜供与してきたところである。

2 判決要旨等作成のための協力依頼
    判決要旨等の作成は広報事務であるが,実際には,事案や判断の内容に精通している裁判体の協力が不可欠である。判決を正確に報道してもらうためであり,記者クラブから要望があった場合には,広報担当者から速やかに裁判部(裁判官)に依頼することになる。
    裁判部に判決要旨等の原案作成を依頼する際には,次の点にも配盧を願うとよい。
(1) 長文にならないよう配慮
    紙面のスペースには限りがあるため,判決要旨が長文であると,一部がカットされて掲載されることになる。事件にもよるが,新聞に掲載される分量は,長くても3000字程度,骨子は300字程度とされている。これが要旨等の長さの目安になる。
(2) 分かりやすいよう配慮
    例えば,当事者複数の民事事件の場合,記者は主文を見て認容総額を把握できないこともある。判決要旨中に認容総額を盛り込むと誤報が防げる。当事者多数の損害賠償事件などでは,認容総額(連帯して支払が命じられたときは,全体で支払うべき額),判決時の原告数と認容した原告数,認容最高・最低額等が分かるような一覧表を用意するなどの工夫が求められる。また,判決要旨の各項目ごとに見出しなどを付けると判決要旨の全体像が分かりやすい。判決要旨は,報道のためのもので,判例集に載せるものではない。重要な法律論であっても,記者が関心を示さないようなものは省き,判決要旨等は,一般読者を想定した,分かりやすいものを作成すべきであろう。
(3) プライバシー情報への配慮
    判決要旨等の作成に当たっては,秘匿決定のされた事項等,関係者のプライバシーに関する情報に十分配慮することが求められる。
(4) 判決要旨等の部数への配慮
    著名事件では,記者から判決要旨等を複数部数求められることがある。複数の記者が手分けをして記事を書くことがあるためと思われる。可能な範囲で配慮すべきであろう。
(5) 判決要旨を作成できないときの配慮
    言渡し直前の要望で,判決要旨作成の時間的余裕がないような場合には,判決写しの要旨に当たる部分に傍線を引くだけでも,記者にとっては理解の助けになる。

3 判決要旨等の配布
    判決要旨等は,言渡しがなされた後,広報担当者から記者に配布される例が多いようである。この扱いは,総務課が報道機関への窓口であることから適切といえる。
    なお,判決要旨は,速報性が要求される報道機関の利用のために特別に作成したものであるが,刑事訴訟事件においては訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがある。そのような場合には,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に対し,報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当である。
    おって,判決要旨等は,裁判所の広報業務の一環として作成された司法行政文書であることに変わりはなく,司法行政文書の開示の対象になり得るものとして扱う必要があることにも留意すべきである。

4 決定等要旨
    仮処分や少年審判等については,公開手続でない以上,原則として,その決定等の写しを報道機関に便宜供与として交付することはないが,社会的に大きな注目を集める著名事件等である場合には,報道機関から決定要旨の提供が求められ,例外的に,決定等の主文を知らせるだけでなく,決定等要旨を作成し,報道機関に交付することがある。特に著名な少年事件では,社会に対する説明責任を果たし,家庭裁判所に対する社会の信頼を損なわないために,ある程度詳細な決定要旨を作成して,迅速に報道機関に交付する必要がある場合もある。
    なお,決定等については,関係者への裁判結果の告知等がどの時点でなされたのか明確に分かりにくいところがあるなど,公開手続とは異なる場面が多いことから,報道機関に決定等要旨を交付する際には,裁判部等とよく連携をとる必要がある。
    おって,少年事件の被害者等からは,自分たちが結果を知る前に報道されることへの不満が述べられることがある。このような不満への対応の実例として,被害者等(あるいはその代理人弁護士)に審判終了直後に決定要旨を持参又は取りに来てもらったものや,報道機関用より詳しい決定要旨を別途作成して被害者等に渡したものなどがあるので,参考とされたい。


第2 関連記事その他
1 東弁リブラ2022年11月号「ジャーナリズムと弁護士の接点」が載っています。
2 以下の記事も参照してください。
 裁判所の報道対応の基礎
 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
 法廷内写真撮影
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計
 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影

目次
第1 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
第2 関連記事

第1 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)50頁には,「6-3 庁舎内(敷地内)写真撮影」として以下の記載があります。
    法廷内カメラ取材のほかにも,裁判所構内における様々なカメラ取材の申込みを受けることがある。具体的な取材申込みごとに,庁舎管理権者であり,広報の責任者である所長がその許否を決めることになる。その際には,裁判所の執務に支障を生じないかどうか,一般来庁者のプライバシーを害さないかどうか,裁判所の中立性,公平性に反しないかどうか,さらに,取材した映像の使用目的,これまでのその庁の取材慣行などを考慮することになろう。また,状況に応じて,上級庁に相談することが必要な場合もあろう。
    なお,庁舎内(敷地内)写真撮影の対応場面例としては,次のようなものがある。

1 著名事件の裁判期日におけるカメラ取材
    著名事件の判決や公判の場合,法廷内カメラ取材以外にもカメラ取材が申し込まれる。事件当事者の登庁場面等は,撮影される側の承諾を条件にして,門から庁舎に入るまでの場面につき許可する例がある。また,庁によっては,玄関先に一定のスペースがあり,一般来庁者等への影響がないと見込まれる場合などには,放送記者の立ちレポを許可する例もある(立ちレポ=立ちレポートの略。テレビ報道で記者が裁判所庁舎等を背景に立ち,裁判の内容や審理の様子を報告するもの。大事件の判決があったときなど,広報担当に立ちレポの許可申請が出てくる。玄関先や裁判所のプレート前辺りで許可される例がある。記者によるレポートのみを認めるのが通常で,スタジオ等との掛け合いや,その場でパネル等を使用してのレポートは認めていないのが大半であろう。)。
    これに対し,例えば,裁判所構内で事件関係者や一般来庁者に対するインタビュー取材をすることや,一方当事者等が裁判所構内で報告集会のような活動を行うのをカメラ取材することは許可していないのが通常である(そもそも構内で一方当事者等による集会等を行わせること自体が,裁判所の中立性,公平性に反するもので不適当である。)。

2 裁判期日以外のカメラの取材
    事件関係者,事件とは関係のない各種団体や個人が,裁判所に対して何らかの要望や申入れのため,あるいは抗議のために来庁することがあり,このような場面のカメラ取材が申請されることもある。この場合,裁判のための報道ではないことから,便宜供与の必要性は低く,また,撮影される人たちの宣伝にもなることから,その許否については慎重に検討する必要がある。
    同様に,原告が訴えを提起する場面のカメラ取材を求められることもある。一方当事者の行為であること,被告はこの訴え提起について知り得る立場にない状況にあることを考えると,裁判所の中立性,公平性の観点からは,このカメラ取材を認めることは相当でないというべきであろう。

3 事故現場等のカメラ取材
    裁判所構内で事故やトラブル等が発生したような場合,その現場のカメラ取材を求められることがあるが,現場では突発的な出来事等に対処する必要があり,さらに捜査への影響や関係者のプライバシーへの配慮といった観点から,カメラ撮影を許可することは多くないものと思われる。

4 テレビ報道番組等のためのカメラ取材
    一口にテレビ番組と言っても報道特集番組から教養番組,娯楽番組まで様々であり,また,申し込まれる撮影対象も裁判所建物の外観から執務室内までいろいろであるから,個々の取材ごとに検討しなくてはならない。

5 空き法廷のカメラ取材
    報道機関等から資料映像等として,空き法廷のカメラ取材を求められることがあるが,このような場合,取材目的等を考慮した上,許否を検討することになる。
    なお,撮影を許可する場合でも,裁判所の事務に支障のない時間帯に行うほか,使用目的以外に使用しないこと及び職員が立ち会う等の条件を付する必要がある。教育目的で人物の入らない状態を撮影するなど一定の場合には,撮影の許否等について,上級庁に相談する必要はないであろう。

(注) カメラ取材については,庁舎内におけるもののほか,執行官の執行現場等においても求められることがある。民事執行法上,執行官の取り扱う事務は非公開であることから,一般的に,執行場所で執行行為中の場面のカメラ取材には応じるべきではないであろうが,個別の取材依頼ごとに,前記の観点等も踏まえ,執行裁判所ともよく調整して対応する必要がある。

第2 関連記事
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

法廷内写真撮影

目次
第1 法廷内写真撮影
第2 法廷内カメラ取材の標準的な運用基準
第3 関連記事

第1 法廷内写真撮影
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)50頁には,「6-2 法廷内写真撮影」として以下の記載があります。
    法廷内カメラ取材については,平成3年1月1日から,「法廷内カメラ取材の標準的な運用基準」を基に,各庁において運用要領が作成され,これに従って実施されており,全国的に運用が定着しているといえよう。
    ところで,法廷内カメラ撮影を許可するかどうかは,裁判長又は開廷をした一人の裁判官の法廷警察権の行使の範ちゅうに属するものであり,事件の性質・内容,その他諸般の事情を考慮して許可等の判断がされる(民事訴訟規則77条,刑事訴訟規則215条)。したがって,法廷内カメラ取材の申請がなされたとしても,裁判の適正な運営に支障を生じるなど特別の事情がある場合には,極めて例外的に裁判所等の判断により不許可とすることがある。
    なお,具体的に,特定の事案において不許可とすべきか,運用要領と異なった扱いをすべきかなどを検討するに当たっては,他庁の実情も参考にすべく,上級庁に相談することも一つの方法であろう。
    おって,法廷内カメラ取材の当日のカメラマン等への対応において,広報担当者として留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。
1 法廷に誘導する前に,カメラマンに対して,改めてカメラ取材の際の注意点について説明することが必要である。腕章の着用,撮影時間,撮影場所,撮影方法,撮影対象,撮影中止の合図があれば中止すること,中止の合図の前後を問わず当事者や傍聴人が法廷の秩序を乱す行為に出たところは撮影できないことなどを確認する。
2 撮影中止の合図に従わないカメラマンを規制するような場合でも,カメラを手でふさく守などの実力行使はしない。そのこと自体が二次的トラブルの種となる危険があるからである。
3 違反撮影をされてしまったような場合には,撮影後カメラマンを法廷外へ誘導してから,その写真を使用しないよう申し入れ,さらに記者に対しても同様の申し入れをして,違反撮影の写真が報道されないようにする。
4 当日の進行については,あらかじめ裁判部との間で緊密な打合せを行い,保釈された被告人が在廷しているなど,当日予定外の動きがあった場合には,裁判部の担当者からも直ちに連絡を受けられる態勢を確保しておく。

第2 法廷内カメラ取材の標準的な運用基準
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)51頁及び52頁に掲載されている,「法廷内カメラ取材の標準的な運用基準(平成3年1月1日)」は以下のとおりです。
1 法廷内カメラ取材の許可
法廷内カメラ取材は,裁判所又は裁判長が,事件の性質・内容,その他諸般の事情を考慮して,許可するものとする。

2 代表取材
撮影は,新聞・通信・放送各社間で話し合い,代表取材する。

3 撮影機材
撮影機材は,1人で操作できる携帯用小型スチールカメラ1台,予備用スチールカメラ1台及びビデオカメラ1台とし,照明機材・録音機材・中継機材は使用しない。

4 撮影要員
(1) 入廷できる撮影要員は,スチールカメラにつき1人,ビデオカメラにつき1人とする。
(2) チールカメラにつき1人,ビデオカメラにつき1人の撮影補助要員の入廷を認める。
5 撮影時期・時間
    撮影は,裁判官の入廷開始時からとし,裁判官全員の着席後開廷宣告前の間の2分以内とする。
6 被告人の在廷
    撮影は,刑事事件においては,被告人の在廷しない状態で行う。
7 撮影位置
    撮影位置は,傍聴席後部の裁判長(裁判官)が指定する区域内とする。同区域内においては,撮影位置を移動することができる。
8 撮影対象
    撮影対象は,入廷中の裁判官並びに裁判官席及び当事者席とし(傍聴席が付随的に入ることは可),次に掲げる撮影は許されない。
(1) 特定の人物(裁判官を除く。)の拡張・拡大写真を撮影すること。
(2) 傍聴席にいる特定の者を個別的に撮影すること。
(3) 当事者・傍聴人が宣伝的行為や法廷の秩序を乱す行為に出た場合,これを撮影対象とすること。
9 撮影中止
    撮影要員は,裁判長(裁判官)又はその命を受けた裁判所職員の中止の指示があったときは,直ちに撮影を中止し,退廷しなければならない。
10 条件違反の取材が行われた場合の措置
    取材条件又は裁判長(裁判官)の命じた事項に違反する取材が行われたときは,裁判長(裁判官)の権限に基づく処置,一定期間の取材停止その他必要な措置を執ることがある。
11 付記
    法廷内カメラ取材の許否は.各裁判体の決定に係る事柄であり,法廷内カメラ取材(又はビデオカメラによる取材)を原則的に認めない裁判体,あるいはこの運用基準を制限的に運用する裁判体もあり得る。

第3 関連記事
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領

上告審に関するメモ書き

目次
1 持ち回り審議事件及び審議事件
2 持ち回り審議の問題点
3 最高裁判所調査官の,審議への出席
3の2 「法令の解釈に関する重要な事項」
4 上告等をした場合に出てくる定型文の決定
5 「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガ
6 不受理決定の効力
7 経験則違反で原判決を破棄した最高裁判決
8 上告理由に関する判例
9 上告理由書等に対する最高裁判事経験者のコメント
10 関連記事その他

1 持ち回り審議事件及び審議事件
(1)ア 持ち回り審議とは,小法廷の裁判官全員が集まって合議するまでもなく,書類の持ち回りと押印による決済のみで決定処理出来ると考えられる,比較的簡単な事件について行われる審議方法をいい,法定の上告理由や上告受理申立て理由を充たしていないと判断される,いわゆる門前払いのケースの他,実体判断であっても,判例・学説等に照らして明らかに採用することができないと考えられるケースにおいて用いられます(最高裁回想録42頁)。
イ 持ち回り審議事件は,最高裁に係属する事件のおよそ95%を占めていて,残りの約5%が,重要案件として,評議室における審議の対象となる事件(審議事件)となります(最高裁回想録42頁)。
(2)ア 持ち回り審議事件と審議事件との振り分けは,まずは担当の最高裁判所調査官が行うものの,調査官報告書において当初「持ち回り相当」とされていても,主任裁判官(裁判長)の検討の結果,あるいは,持ち回りの過程でいずれかの裁判官から「審議相当」との意見が出された場合,改めて「審議事件」として,調査官が報告書を作り直すことになります(最高裁回想録45頁及び46頁)。
イ 「ジェンダー平等と司法~法曹界における202030を考える~対談 元最高裁判事に聞く~最高裁の男女共同参画」には以下の記載があります(自由と正義2021年7月号26頁)。
櫻井 私は8年4か月(山中注:最高裁判所判事を)経験しましたけれど、持ち回りを審議事件に変えたのは、年に1件あるかないかという感じで、性差別に関係する問題は、セクハラの事件だけでした。
(3) 愛知県弁護士会HPの「『女性法曹に聞く法曹の魅力』~綿引万里子名古屋高等裁判所長官・赤根智子国際刑事裁判所裁判官・鬼丸かおる元最高裁判所裁判官~」には,鬼丸かおる 元最高裁判所判事の発言として以下の記載があります。
  私の具体的な1日は、だいたい9時30分にはスタートします。朝登庁すると、いわゆる持ち回り事件の記録が机にどんと積んであって、効率よくこなせるような順に並んでおり、1日だいたい平均13~20件くらいの事件を処理します。多くはそのまま持ち回りで処理(棄却・不受理・却下)することになります。
 記録の回る順番は主任、つまり裁判長になる人が最初に見て、あとは部屋の順に見るようになっています。持ち回りになる事件のほかに期日審議になる事件がありますが、調査官が先に主任裁判官と相談して期日審議事件として小法廷の裁判官全員に一斉に通知して資料を配付します。
 持ち回り事件でも、1人の裁判官でも反対の結論の可能性を考えれば、期日審議に回すことができます。ただ、審議は頻繁にあるわけではなく、週に1回もないくらいの割合ですが、1回の審議で2、3件の期日審議をすることも少なくありません。

2 持ち回り審議の問題点
(1)ア 平成18年5月1日の会社法施行以前については,書面決議に関する会社法370条に相当する条文がありませんでしたから,持ち回りの方式でなされた株式会社の取締役会決議は違法無効でした(最高裁昭和44年11月27日判決参照)。
 そして,「合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。」と定める裁判所法75条1項本文は,最高裁判所の裁判についても適用されるはずですが,最高裁判所の持ち回り審議方式は適法であることになっています。
イ 最高裁判所の小法廷の評議室は,裁判官棟各階の裁判官室の並びにあり、各小法廷毎に同じ構造のものが用意されていて,ここでは,毎週の審議日に,小法廷の全裁判官が集まって重要案件の「審議」やその他の会議を行います(最高裁回想録39頁)から,最高裁判所の「評議」は口頭でなされることを前提としていると思います。
(2) 「最高裁の持ち廻り合議と例文判決について」(5期の武藤春光弁護士(元広島高裁長官))には以下の記載があります(自由と正義1997年1月号83頁)。
 合議の要件は、各構成員が一同に会すること、口頭で意見を述べること、意見の交換による相互説得の機会があること、ということになる。持ち廻り合議は、意見を記載した書面を構成員の間に持って廻るだけであるから、合議の要件のすべてを欠いており、合議の名に値しない。


3 最高裁判所調査官の,審議への出席
・ 「最高裁判所調査官制度の内容-オーラル・ヒストリーを手がかりに」には,刑事の上告事件に関して,「審議への出席」として以下の記載があります(法学セミナー2017年5月号62頁)。
 調査官は、自分が報告書を提出した事件の「審議」には全部出る。審議は、小法廷の裁判官が全員集まって正式に合議をすることである。判例になりそうな事案、弁論を開く必要のある事案、破棄される可能性のある事案については審議が行われる。調査官報告に「是非ともご審議あいなりたい」と書いてあれば審議になる。しかし、調査官が「審議不要、持ち回りでやってほしい」というつもりで「×」印にしたものが引っかかることも、たまにはあった。
 審議は、ラウンドテーブルを囲む審議室で行う。担当調査官は、裁判官の囲むテーブルとは別に調査官用の机と椅子があってそこにつく。あくまでも調査官はオブザーバーであり、審議では説明は最初から主任裁判官がする。調査官の意見や細かい事実関係を裁判長から聞かれることはあるが、調査官は聞かれたことに答えるだけである。裁判長が説明をするための資料などについては、調査官報告書と1審・2審の判決、上告趣意書は必ず配布される。また、審議の時間あるいは回数は事件による。まとめて何件かをやる場合もあるし、簡単に済む事件もあるし、何回も続行する事件もある。
 大法廷回付の判断に調杳官室の関与はない。大法廷回付の判断は、裁判官の判断である。大法廷回付相当かどうかは、小法廷ごとの審議の席で決める。調査官が「これは大法廷に回した方がいいのではないか」という意見を言うこともある。


3の2 「法令の解釈に関する重要な事項」
(1) 「最高裁判所における民事上告審の手続について」には以下の記載があります(判例タイムズ1399号69頁及び70頁)。
    「法令の解釈に関する重要な事項」とは,最高裁判所として法令解釈を示す必要があるような事項をいう。①最高裁判所の判断により法令解釈の統一を図る必要がある法律問題を含むと認められる場合(一般的重要性)を含むことは明らかであるが,これに加えて,②原判決の法令の解釈に誤りがあり,そのために原判決の結論に看過し難い誤りがあると認められる場合(個別的重要性)も含まれるか否かについては争いがあるが,現時点では,②も含まれると解して実務は運用されているように思われる。
    重要事項を含むか否か,すなわち最高裁判所が当該事件を受理するか否かは,①当該法律問題についての最高裁判所の判例の有無及び下級審裁判例の累積状況,②当該法律問題についての議論の成熟性ないし学説の分布状況,③当該法律問題が個別事件を超えた一般的な意義を有するものか否か,④法令解釈の誤りが原判決の結論に影響を与えるか否か(傍論部分や複数の独立した理由中の一つの理由など,当該法律問題が原判決の結論を導く上で不可欠とはいえない部分のみに関わるものであるか否か),⑤法令解釈の誤りが原判決の結論に影響を与える場合,それがどの程度のものか(看過し難い程度のものか,請求のごく一部ないし僅少な金額に影響するにすぎない程度のものか),⑥当該事件が上告審として判断を示すのにふさわしい内容の事案であるか否か等を考慮して判断されているものと考えられる。したがって,法令違反に名を借りて単に原判決の事実認定を非難する場合や,法律の解釈に関する事項を主張していても独自の見解を述べるにとどまる場合には,重要事項を含むものとは認められず,受理はされないことになろう。
(2) 許可抗告事件の実情-令和5年度-には以下の記載があります(判例時報2614号6頁)。
    法令の解釈自体は既に明確になっている場合に、個別事件における事実認定や要件ないし法理への単純な当てはめの判断は、通常は、法令解釈に関する重要な事項とはいえない。
    また、最高裁判所の判例により示された法令解釈の基準の具体的適用に関わる事項は、当該実務を担当する下級裁における事例集積にこそ意味がある場合が多い。このような場合、下級裁での事例集積、要件の類型化に関する実務的検討が十分にされていない段階で、個別事案に関する要件該当性の争いを法律審である最高裁判所に求めることは、相当ではないことが多い。

4 上告等をした場合に出てくる定型文の決定
(1) 上告及び上告受理申立てをした場合,以下のような定型文の決定が出ることがほとんどです(弁護士 阿部泰隆HP「☆『最高裁不受理事件の諸相Ⅱ』(信山社、2011年)」参照。1と2を①と②に変えています。)。
① 上告について
 民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認若しくは単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
② 上告受理申立てについて
 本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
(2) 上告棄却決定又は不受理決定に関する調書決定は,「最高裁判所が決定をする場合において、相当と認めるときは、決定書の作成に代えて、決定の内容を調書に記載させることができる。」と定める民事訴訟規則50条の2に基づくものです。

5 「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガ
(1) ツンデレブログに「最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか」と題するマンガが載っています。
① 最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか   (平成26年5月28日付)
② 続最高裁はなぜ上告を滅多に受理しないのか(平成26年6月6日付)
(2) 言語の著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいいます(最高裁平成13年6月28日判決)ところ,リンク先のマンガにつき,著作権との関係で大丈夫かどうかはよく分かりません。


6 不受理決定の効力
(1) 「最高裁判所に対する民事上訴制度の運用」には以下の記載があります(判例タイムズ1520号9頁)。
  不受理決定は,上告受理の申立ての理由中に法令の解釈に関する重要な事項が含まれているとは認められないという判断であり,その判断は,前記のように総合的なものであるから,最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではなく,何ら判例としての意義,効力を有するものではない。例えば,貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務を認めた最三小判平成17年7月19日(民集59巻6号1783頁)の前に,貸金業者の取引履歴の不開示について不法行為の成立を否定した原判決に対する上告受理申立てが不受理とされたことがあり,この不受理決定について,最高裁は貸金業者について一般的な取引履歴の開示義務を認めなかったとの理解があったが,不受理決定は最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではないのであるから,そのような理解ができないことは明らかである(詳しくは,上記最三小判平成17 年7 月19 日の判例解説〔福田剛久・法曹時報58 巻11号274 頁〕参照)。
(2) 東弁リブラ2022年1月・2月合併号「元最高裁判所判事 木澤克之」には以下の記載があります。
  あくまで一般論として申し上げると,上告不受理ということは,最高裁は,中身に入らないということです。つまり,最高裁が,中身に入る必要がない,中身に入らない方がよい,という意思表示であり,高裁判決に対して最高裁はいかなる判断もしていません。
  これは何を意味するかというと,高裁判決の「結論」を是として,その「結論」を確定させるだけです。つまり,必ずしも,最高裁が高裁判決の「理由」を「是」としているとは限りません。実際,中には,高裁判決の理由よりも地裁判決の理由の方が妥当だと思う案件もありますが,いずれにせよ,高裁判決の「結論」が是であるならば,最高裁は内容に踏み込みません。結論が「是」であるならば,早く判決を確定させて,なるべく早く権利救済をする必要があるという思いもあります。

7 経験則違反で原判決を破棄した最高裁判決
(1)ア 最高裁平成16年2月26日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
  現時点においては公証人の署名押印がある遺言公正証書原本について,当該原本を利用して作成された謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等の内容に食違いがあることなどを理由として,上記謄本作成の時点において公証人の署名押印がなかったとした原審の認定判断には,上記謄本の作成方法についての公証人及び書記の証言等は,その細部に食違いがあるものの主要な部分で一致していること,原本の各葉上部欄外には公証人の印による契印がされているのに公証人の署名欄に署名押印がされていないとするのは不自然であること,公証人が原本作成と同じ日に作成して遺言者に交付した正本及び謄本には公証人の署名押印がされていることなど判示の事情の下では,特段の事情の存しない限り,経験則違反又は採証法則違反の違法がある。
イ 上告受理申立代理人は7人いましたが,そのうちの1人は,平成14年6月11日に最高裁判所判事に就任した滝井繁男弁護士でした。
(2)ア 原審の認定に経験則又は採証法則に反する違法があるとして破棄差戻しの判断をした最高裁判例としては以下のものがあります。
(医療訴訟関係)
 最高裁昭和60年12月13日判決
 最高裁平成 9年 2月25日判決

・ 最高裁平成11年 3月23日判決
 最高裁平成18年 1月27日判決
 最高裁平成18年11月14日判決

・ 最高裁平成19年 4月 3日判決
(その他の訴訟関係)

・ 最高裁平成16年 2月26日判決(前述したものです。)
 最高裁平成22年 7月16日判決
 最高裁令和 3年 5月17日判決
イ 最高裁平成19年 4月 3日判決の原審である仙台高裁平成18年6月15日判決(本人訴訟の患者側勝訴。裁判長は25期の大橋弘裁判官)につき,君の瞳に恋してる眼科ブログ「大橋弘裁判長トンデモ訴訟指揮事件」には,「遺族側が提出した証拠は、戸籍謄本、死亡診断書、遺族自筆の書面2通が全てであり、その書面2通にしても、素人の目に映った事実経過と、病院をなじる文言程度のもので、およそ医学的に筋道を立てて何かを主張したという書面ではありませんでした。」と書いてあります。
(3)ア  名古屋大学学術機関リポジトリに載ってある「民事訴訟における事実認定の違法」(筆者は27期の加藤新太郎裁判官)には以下の記載があります(リンク先の14頁)。
    裁判官は、論理法則・経験則に従わなければならない。したがって、論理法則・経験則に反する事実認定、合理的理由に基づかない事実認定は、違法と評価される。
    経験則違背ないし採証法則違背があるとする最高裁判決は、少なくない。
    最高裁は、平成民事訴訟法下において、経験則の認定や適用の誤りは法令違反であり、「法令の解釈に関する重要な事項」に該当する場合があるとの判断を示している。
イ きっかわ法律事務所HPに載ってある「事実認定と裁判官の心証形成」(筆者は21期の中田昭孝裁判官)17頁には「第9 元最高裁判事の感想」として「*経験則違反を理由とする上告受理事件は多いが、最高裁では、著しい経験則違反の事案でないと取り上げられない。」と書いてあります。
ウ 最高裁令和2年11月27日判決は,公認会計士協会から上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定を受けた公認会計士らにつき,その実施した監査手続が当該監査において識別すべきリスクに個別に対応したものであったか否か等の点を十分に検討することなく当該決定の前提となる監査の基準不適合の事実はないとして当該決定の開示の差止めを認めた原審の判断に違法があるとされた事例です。
(4) 「大阪高等裁判所第7民事部における上告事件の処理の実情」には以下の記載があります(判例タイムズ1409号45頁)。
    最高裁判所の民事・行政事件の破棄判決については,毎年,当時在籍していた最高裁判所調査官が判例時報に破棄判決等の実情紹介をしており(平成25年度については,伊藤正晴=上村考由「最高裁民事破棄判決等の実情(上)-平成25年度-」判時2224号3頁,同「最高裁民事破棄判決等の実情(下)-平成25年度-」判時2225号3頁),民集及び裁判集に登載されない破棄判決(経験則違反ないし採証法則違反,釈明権の不行使,審理不尽等を理由に破棄した判決は,民集ないし裁判集に登載されないことがほとんどである。)については,判決理由の全文が掲載されており,執務の参考になる(事実認定ないし訴訟指揮の在り方を学ぶ上でも参考にな る。)。
(5) 月刊大阪弁護士会2020年1月号の「元最高裁判所判事・元弁護士 鬼丸かおるさん」に以下の記載があります。
  (山中注:上告受理申立理由として)経験則違反という主張も非常に多いのですが、残念ながら今まで経験則違反を正面から最高裁判所が認めたことは1回もありません。


8 上告理由に関する判例
(1) 第一審判決を取り消し,事件を第一審に差し戻す旨の控訴審判決があつた場合においては,控訴人は,取消の理由となつた右判決の判断の違法をいうときに限り,右判決に対して上告の利益を有します(最高裁昭和45年1月22日判決)。
(2)ア いわゆる上告理由としての理由不備とは,主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいうものですから, 抗弁をいれながらこれに対する再抗弁を摘示せずその判断を遺脱した原判決の違法は,上告理由としての理由不備に当たりません(最高裁平成11年6月29日判決)。
    そのため,「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」は再審理由である(民訴法338条1項9号))ものの,民訴法312条2項6号の上告理由には該当しません(基本法コンメンタール(民事訴訟法3)88頁参照)。
イ 「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱」とは,請求原因,抗弁,再抗弁等の主要事実(要件事実)についての判断が漏れている場合をいい,当事者が主張した法律解釈や証拠評価について原判決が逐一取り上げて判断を示していなくとも,このような判断遺脱に当たるものではないと解されています(「最高裁判所における民事上告審の手続について」判例タイムズ1399号(2014年6月号)56頁注65)。
ウ 判断の遺脱を理由とする破棄判決の実例としては,最高裁平成19年2月20日判決(判例時報2019号14頁)及び最高裁平成26年11月4日判決(判例時報2258号12頁)があります。
(3) 上告裁判所は,判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印していることを理由として原判決を破棄する場合には,必ずしも口頭弁論を経ることを要しません(最高裁平成19年1月16日判決)。
(4) 当事者の主張が法律構成において欠けるところがある場合においても,その主張事実を合理的に解釈するならば,正当な主張として構成することができ,当事者の提出した資料のうちにもこれを裏付けうるものがあるときは,当事者にその主張の趣旨を明らかにさせたうえ,これに対する当事者双方の主張立証を尽くさせるべきであり,これをすることなく,請求を排斥することは,釈明権の行使について違法があり,ひいては審理不尽の違法があります(最高裁昭和44年6月24日判決)。
(5) 上告棄却決定において,当事者の死亡に伴う訴訟終了宣言をした事例として,最高裁令和2年12月11日決定(判例秘書に掲載)があります。
(5) 54期の村田一広裁判官が執筆した「最高裁判所における口頭弁論の実情等について」(民事訴訟雑誌68巻(2022年3月20日付)68頁には,44番の注釈として以下の記載があります
 最高裁判所においては、従前、上告人等の上告理由に曖昧・不明確な部分があったとしても、あえて期日外釈明を実施すること等をしないで判断を示すことが少なくなかったと解される(論旨については、その趣旨を善解した上、「この趣旨をいうものとして理由がある」と言及している例も多い。)。

9 上告理由書等に対する最高裁判事経験者のコメント
(1) 古賀克重法律事務所ブログ「最高裁裁判官から見た弁護活動のポイントとは、大橋正春元最高裁判事講演会」には以下の記載があります。
 少なくとも現在提出されている書面は長すぎるという認識では最高裁裁判官は一致している。弁護士側としては、最高裁の裁判官は記録を読んでいないのでは・・という不安があるんだと思う。しかし調査官は全記録を読む。裁判官も原判決は読んで一定の印象を持ちながら、上告理由書ないし上告申立書を読む。
(2) 月刊大阪弁護士会2020年1月号の「元最高裁判所判事・元弁護士 鬼丸かおるさん」に以下の記載があります。
 刑事事件と同様に考えて(山中注:最高裁判所は)民事事件でも事実を見てくれるだろうと思って、理由不備、理由齟齬ということをおっしゃる方がものすごく多いのですが、民事事件では改めて事実は見ることはしません。理由不備、理由齟齬というのは、判決の中で整理された当事者の主張のところ、それから判決の理由のところを比べてみて、その判決書の主文が判決中の理由からは導かれない不備や齟齬があるというだけであって、当事者の言っていることと比べることはありません。


10 関連記事その他
(1) 今井功弁護士(平成16年12月から平成21年12月までの間,最高裁判所判事)は,自由と正義2013年6月号13頁において以下のとおり書いています。
  民事事件は,各小法廷で年間1,000件を超えているから,各事件につき,判決書を作成して署名押印し,いちいち法廷を開いて言渡しをすることは,大変な無駄である。旧法時代は,弁論が開かれない上告棄却判決の多くは,傍聴人のいない法廷で,言渡しがされており,当時多くの裁判官から何とかならないかといわれていたものである。
(2) 最高裁判所の裁判書で用いられる具体的な表示の方法が記載されている文書として「裁判書の表示ハンドブック」が存在しますものの,当該文書は司法行政文書開示手続の対象ではありません(平成30年度(最情)答申第50号(平成30年11月16日答申))。
(3)ア 上告審は法律審ですから,上告審において独立当事者参加の申出をすることはできません(最高裁昭和44年7月15日判決)。
イ 補助参加人が上告を提起した後に被参加人のした上告は,二重上告として不適法です(最高裁平成元年3月7日判決)。
(4) 「違憲審査-その焦点の定め方」(2017年5月2日付)(筆者は24期の千葉勝美)62頁には以下の記載があります。
    一般法理は、それ自体で一人歩きをし、下級裁判所や行政庁、個人や社会経済団体等がこれを踏まえた対応を積み上げることになるが、その後になって新しい紛争の出現により一般法理を修正・改変することがあると、射程の長い一般法理を掲げる処理は、結果的に法的安定性を欠くことになり、当該法理の寿命を逆に短くするということにもなって、このような事態は「判例」というものに対する信頼性を損なうことにもなりかねない。
(5) 50期の武藤貴明裁判官は,判例タイムズ1399号(2014年6月発行)に「最高裁判所における民事上告審の手続について」を寄稿しています。
(6) 簡裁民事通常訴訟事件の控訴審判決に対して上告する場合,上告裁判所である「高等裁判所」宛の「上告状」を地方裁判所に提出する必要があります(民事訴訟法314条1項)ところ,高等裁判所に対する上告は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときもすることができます(民事訴訟法312条3項)。
    そのため,「上告状兼上告受理申立書」という表題の書面を地方裁判所に提出した場合,形式的にいえば,適法な上告の提起とそもそも不適法な上告受理の申立てがなされたことになります(判例タイムズ1409号40頁参照)。
(7)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 調書決定事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 最高裁判所民事事件記録等閲覧等事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 人事訴訟事件における書記官事務処理要領(平成27年4月1日付)
・ 平成24年12月21日付の上告受理申立理由書
→ 仙台弁護士会出身の平成17年度日弁連副会長の必要経費に関する,東京高裁平成24年9月19日判決に対するものであり,最高裁平成26年1月17日決定により上告不受理となったものの,上告受理申立理由書の書き方自体は非常に参考になりますし,「結語」部分(PDF31頁)については法令の条文を置き換えることで,そのまま使い回しができると思います。
→ 国税庁HPの「最高裁不受理事件の意義とその影響」において,「弁護士会費懇親会事件」として紹介されています。
・ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)
・ 事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて(平成25年7月26日付の最高裁判所大法廷首席書記官の指示)
・ 民事上訴事件記録の送付について(平成30年6月29日付けの最高裁判所訟廷首席書記官補佐の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

・ 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 2000円の印紙を貼付するだけで上告受理申立てをする方法
・ 上告不受理決定等と一緒に送られてくる予納郵券に関する受領書
・ 控訴審に関するメモ書き
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説

即時抗告,執行抗告,再抗告,特別抗告及び許可抗告の提出期限

目次
1 民事訴訟法に基づく即時抗告の場合
2 破産法に基づく即時抗告の場合
3 家事事件手続法に基づく即時抗告の場合
4 民事執行法に基づく執行抗告の場合
5 再抗告の場合
6 特別抗告及び許可抗告の場合
7 再度の考案
8 手続の追完は制限されていること
9 破産手続において,公告がされる裁判と公告がされない裁判の例
10 破産手続開始決定及び免責許可決定に対する即時抗告期間
11 関連記事その他

1 民事訴訟法に基づく即時抗告の場合
(1) 民事訴訟法に基づく即時抗告は,裁判の告知を受けた日から1週間以内に行う必要があります(民事訴訟法332条)。
(2) 抗告理由書は抗告の提起後2週間以内に提出する必要があります(民事訴訟規則207条)。

2 破産法に基づく即時抗告の場合
(1)ア 破産法に基づく即時抗告は,裁判の公告がされるかどうかによって以下のとおり変わります。
① 免責許可決定のように裁判の公告がされる場合(破産法252条3項前段・10条3項本文参照),公告が効力を生じた日から起算して2週間以内に行う必要があります(破産法9条後段)。
② 免責不許可決定のように裁判の公告がされない場合(破産法252条4項参照),裁判の告知を受けた日から1週間以内に行う必要があります(破産法13条・民事訴訟法332条)。
イ 公告が効力を生じる日は,官報への掲載(破産法10条1項)があった日の翌日です(破産法10条2項)。
ウ 破産法により裁判の公告がされたときは、一切の関係人に対して当該裁判の告知があったものとみなされます(破産法10条4項)。
(2) 抗告理由書は抗告の提起後2週間以内に提出する必要があります(破産規則12条・民事訴訟規則207条)。


3 家事事件手続法に基づく即時抗告の場合
(1)ア 家事審判に対する即時抗告は,裁判の告知を受けた日から2週間以内に行う必要があります(家事事件手続法86条1項)。
イ 家事審判以外の裁判に対する即時抗告(例えば,謄写不許可処分に対する即時抗告(家事事件手続法47条8項))は,裁判の告知を受けた日から1週間以内に行う必要があります(家事事件手続法101条1項)。
ウ 各相続人への審判の告知の日が異なる場合における遺産の分割の審判に対する即時抗告期間は,相続人ごとに各自が審判の告知を受けた日から進行します(最高裁平成15年11月13日決定)。
(2) 家事審判に対する即時抗告の場合,抗告理由書は抗告の提起後2週間以内に提出する必要がありますし(家事事件手続規則55条),高裁が審理を終結する日を定めた場合,その日を過ぎてから資料を提出しても高裁の決定の判断資料としてもらうことはできません(家事事件手続法93条1項・71条)。

4 民事執行法に基づく執行抗告の場合

(1) 民事執行法に基づく執行抗告は,裁判の告知を受けた日から1週間以内に行う必要があります(民事執行法10条2項)。
(2) 執行抗告理由書は抗告の提起後1週間以内に提出する必要があります(民事執行法10条3項)。
(3) 原裁判の執行停止を得るためには,執行抗告に伴う執行停止の決定を得る必要があります(民事執行法10条6項)。

5 再抗告の場合

(1) 再抗告は,簡易裁判所の裁判について,抗告審として地方裁判所がした裁判に対し,さらに高等裁判所へ抗告する場合に限り許されます。
(2) 民事訴訟法330条に基づく再抗告の申立て期間については,再抗告の対象となる決定の内容が即時抗告又は通常抗告のいずれの抗告によるべき性質のものであるかにより,即時抗告期間内に申し立てなければならないか否かが定まります(最高裁平成16年9月17日決定)。
    そのため,①通常抗告に関する再抗告は,取消しの利益がある限り,②即時抗告に関する再抗告は,裁判の告知を受けた日の翌日から1週間以内に行う必要があります。(弁護士雨のち晴れブログ「民事訴訟・刑事訴訟・家事審判と不服申立-期間、宛先、提出先」参照)

6 特別抗告及び許可抗告の場合

(1)ア 特別抗告及び許可抗告は裁判の告知を受けた日から5日以内に行う必要があります(民事訴訟法336条及び337条)。
イ 平成30年12月19日発効の,京都弁護士会の懲戒処分(戒告)には「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2019年4月号70頁)。
被懲戒者は、懲戒請求者から受任した子の監護者指定審判申立事件、上記申立事件に係る仮処分申立事件及び婚姻費用分担請求事件の各即時抗告申立事件について、2015年7月10日に高等裁判所においていずれも棄却決定を受け、同日に各決定書を受領したが、特別抗告及び許可抗告の申立期間が経過した同月24日頃まで上記申立期間を14日間と誤認していたため、懲戒請求者に対し申立期間を正確に説明することができなかった。
(2) 特別抗告の理由書は特別抗告提起通知書の送達を受けた日から14日以内に提出する必要があり(民事訴訟規則210条1項),許可抗告の理由書は抗告許可申立て通知書の送達を受けた日から14日以内に提出する必要があります(民事訴訟規則210条2項)。
(3) 特別抗告及び許可抗告には確定遮断効がないものの,抗告裁判所としての最高裁判所及び原裁判をした高等裁判所は,抗告について決定があるまでの間,執行停止の裁判をすることができます(民事訴訟法336条3項及び337条7条6項・334条2項)。

7 再度の考案

(1) 原裁判をした裁判所又は裁判長は,抗告を理由があると認める場合,その裁判を更正しなければなりません(民事訴訟法333条及び家事事件手続法90条)。
(2) 同時廃止事案における免責許可決定に対する即時抗告について,即時抗告後に明らかとなった事情を踏まえて再度の考案を行い,免責許可決定を取り消して免責不許可決定をした事例として,千葉地裁八日市場支部平成29年4月20日決定(判例秘書に掲載)があります。

8 手続の追完は制限されていること

・ 期間を遵守することができなかったことについて,当事者本人にその責に帰することができない事由があっても,同人に代って当該手続をする権限のある代理人に右の事由がない場合,懈怠した手続の追完をすることはできないと思います(旧特許法25条に関する最高裁昭和33年9月30日判決参照)。

9 破産手続において,公告がされる裁判と公告がされない裁判の例
(1)ア 即時抗告の対象となる,公告がされる裁判の例としては,(a)破産手続開始決定(破産法33条1項),(b)破産手続廃止決定(破産法216条4項,217条6項,破産法218条5項・217条6項)及び(c)免責許可決定(破産法252条3項・10条3項本文参照)があります。
イ 破産法252条3項は,免責許可決定の主文を記載した書面を破産債権者に送達しなければならないと定めています。
    しかし,実務上は,破産法10条3項に基づき,免責許可決定の主文の公告をもって,破産債権者に対する送達に代えられています。
(2) 即時抗告の対象となる,公告がされない裁判の例としては,(a)自由財産拡張の申立てを却下する決定(破産法34条6項),(b)居住地を離れる申立てを却下する決定(破産法37条2項),(c)郵便物等の管理に関する決定(破産法81条4項),(d)破産管財人の報酬決定(破産法87条2項),(e)破産財団に属する財産の引渡しに関する決定(破産法156条3項)及び(f)否認の申立てについての裁判(破産法171条4項)があります。

10 破産手続開始決定及び免責許可決定に対する即時抗告期間
(1) 破産手続開始決定の送達を受けた破産者の同決定に対する即時抗告期間は,破産法9条後段の趣旨,及び多数の利害関係人について集団的処理が要請される破産法上の手続においては不服申立期間も画一的に定まる方が望ましいこと等に照らし,上記決定の公告のあった日から起算して2週間です(最高裁平成13年3月23日決定(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁平成12年7月26日決定(判例秘書に掲載))。
(2) 免責許可決定が公告された場合における即時抗告期間は,破産法上公告が必要的とされている決定についての即時抗告期間と同様に,公告のあった日より起算して2週間であり,このことは,免責許可決定の送達を受けた破産債権者についても,異なるところはありません(最高裁平成12年7月26日決定(判例秘書に掲載))。
(3) 破産法13条・民事訴訟法331条本文・285条ただし書に基づき,破産手続開始決定又は免責許可決定の送達を受けた破産債権者は,これらの決定の公告前に即時抗告をすることができます(最高裁平成13年3月23日決定(判例秘書に掲載))。


11 関連記事その他
(1) 38期の小池一利裁判官は,判例タイムズ1274号(2008年10月1日付)に「民事抗告審の実務と考察」を寄稿しています。
(2)ア 大阪地裁HPの「民事訴訟等手続に必要な郵便切手一覧表」に載ってある予納郵便切手内訳基準表(令和5年10月1日~)【大阪地方裁判所本庁・堺支部・岸和田支部】には,訴状,控訴状,抗告状,上告状,特別抗告状及び労働審判手続における予納郵券の組み合わせが載っています。
イ 控訴理由書の提出期限である50日(民事訴訟規則182条)を経過した場合,控訴を却下されることはないのに対し,上告理由書の提出期限である50日(民事訴訟規則194条)を経過した場合,それだけで上告を却下されることがあります(弁護士雨のち晴れブログ「民事訴訟・刑事訴訟・家事審判と不服申立-期間、宛先、提出先」)。
(3)ア ①補助参加人の上告申立期間は,被参加人の上告申立期間に限られますし,②被参加人が上告申立をした場合,補助参加人が被参加人のために上告理由書を提出することのできる期間は,被参加人の上告理由書提出期間に限られます(最高裁昭和25年9月8日判決)。
イ 決定・命令の告知前になされた抗告の申立ては不適法であって,その却下前に抗告をした者に不利益な決定・命令が告知されても,瑕疵は治癒されません(最高裁昭和32年9月26日決定)。
(4) 上告理由書提出期間内に上告理由書を提出しなかった場合に原裁判所が決定をもって上告を却下するという取扱いは憲法32条に違反しません(最高裁昭和32年10月10日決定)。
(5)ア 訴訟法において特に定める抗告を除き,高等裁判所の裁判に対して抗告をすることはできません(裁判所法16条2号及び7条2号参照)から,民事訴訟法330条及び非訟事件手続法74条に基づく再抗告は,地方裁判所が抗告審としてした決定だけとなる(民事訴訟における再抗告に関する最高裁昭和42年3月29日決定(判例秘書掲載)参照)ものの,特別抗告及び許可抗告はできます(非訟事件の場合につき非訟事件手続法75条及び77条参照)。
イ 例えば,民訴費用法9条1項に基づく還付決定の場合,地裁又は簡裁の還付決定であれば即時抗告できる(民訴費用法9条9項・非訟事件手続法66条)のに対し,高裁の還付決定であれば特別抗告及び許可抗告だけができることとなります。
(6) 裁判所書記官による訴訟費用額確定処分に対する異議申立ては1週間以内にする必要があります(民事訴訟法71条4項)。
(7) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 最高裁の既済事件一覧表(民事)
・ 最高裁判所調査官
 最高裁判所判例解説
・ 文書提出命令に関する最高裁判例
 最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧

ジュリスト「最高裁時の判例」に掲載された最高裁判例の判示事項又は裁判要旨(2021年分)

目次
第1 ジュリスト「最高裁時の判例」に掲載された最高裁判例の判示事項又は裁判要旨(2021年分)
第2 関連記事その他

第1 ジュリスト「最高裁時の判例」に掲載された最高裁判例の判示事項又は裁判要旨(2021年分)
2021年12月号
1 最高裁令和3年3月2日判決の判示事項
・ 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認が同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとされた事例
2 最高裁令和3年3月25日判決の裁判要旨
・ 民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが上記部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできない。
3 最高裁令和2年1月31日判決の裁判要旨
・ 上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原審の公判審理に関与していない裁判官が原判決に関与した違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等本件事情の下では,必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。
2021年11月号
1 最高裁令和2年2月25日判決の判示事項
① 経過観察を受けている被爆者が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められる場合
② 経過観察自体が,経過観察の対象とされている疾病を治療するために必要不可欠な行為であり,かつ,積極的治療行為の一環と評価できる特別の事情があるといえるか否かについての判断の方法
③ 慢性甲状腺炎について経過観察を受けている被爆者が原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえないとされた事例
2 最高裁令和2年7月2日判決の裁判要旨
・ 法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし,その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合において,当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとはいえない。
3 最高裁令和2年12月22日判決の判示事項
① 有価証券届出書の財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載等がある場合に当該有価証券の募集に係る発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者等が金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責を受けるための要件
② 株式の上場に当たり提出された有価証券届出書のうち当該上場の最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表に虚偽記載があった場合において当該株式の発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者の金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責が否定された事例
4 最高裁令和3年1月26日判決の裁判要旨
・ 債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,会社法676条各号に掲げる事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合を除き,社債には同法1条の規定は適用されない。
5 最高裁令和3年1月29日判決の判示事項
・ 自動車を運転する予定の者に対し,ひそかに睡眠導入剤を摂取させ運転を仕向けて交通事故を引き起こさせ,事故の相手方に傷害を負わせたという殺人未遂被告事件について,事故の相手方に対する殺意を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
2021年10月号
1 最高裁令和2年3月24日決定の裁判要旨
・ 検察官,検察事務官又は司法警察職員から鑑定の嘱託を受けた者が当該鑑定に関して作成し若しくは受領した文書若しくは準文書又はその写しは,民訴法220条4号ホに定める刑事事件に係る訴訟に関する書類又は刑事事件において押収されている文書に該当する。
2 最高裁令和2年10月9日判決の判示事項
・ 少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文を雑誌及び書籍において公表した行為がプライバシーの侵害として不法行為法上違法とはいえないとされた事例
3 最高裁令和2年12月15日判決の裁判要旨
・ 同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合において,借主が弁済を充当すべき債務を指定することなく全債務を完済するのに足りない額の弁済をしたときは,当該弁済は,特段の事情のない限り,上記各元本債務の承認(平成29年法律第44号による改正前の民法147条3号)として消滅時効を中断する効力を有する。
4 最高裁令和2年1月27日決定の裁判要旨
① 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)2条3項にいう「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい,実在しない児童の姿態を描写したものは含まない。
② 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成26年法律第79号による改正前のもの)7条5項の児童ポルノ製造罪が成立するためには,同条4項に掲げる行為の目的で,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した物を製造すれば足り,当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しない。
2021年9月号
1 最高裁令和3年5月17日判決の判示事項
① 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
② 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち労働者に該当しない者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
③ 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件か
④ 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,中皮腫にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例
⑤ 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例
2 最高裁令和3年5月17日判決の判示事項
・ 原告らの採る立証手法により特定の建材メーカーの製造販売した石綿含有建材が特定の建設作業従事者の作業する建設現場に相当回数にわたり到達していたとの事実が立証され得ることを一律に否定した原審の判断に経験則又は採証法則に反する違法があるとされた事例
3 最高裁令和3年2月1日決定の判示事項
① 電磁的記録を保管した記録媒体がサイバー犯罪に関する条約の締約国に所在し同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことの許否
② 警察官が日本国外に所在する蓋然性がある記録媒体にリモートアクセスをして電磁的記録を複写するなどして収集した証拠について証拠能力が肯定された事例
③ リモートアクセスによる電磁的記録の複写の処分を許可した捜索差押許可状の執行に当たり個々の電磁的記録につき内容を確認せずに複写することが許されるとされた事例
④ インターネット上の動画の投稿サイト及び配信サイトを管理・運営していた被告人両名に上記各サイト上におけるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪及び公然わいせつ罪の各共同正犯が成立するとされた事例
2021年8月号
1 最高裁令和2年8月6日決定の裁判要旨
・ 家庭裁判所は,財産の分与に関する処分の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができる。
2 最高裁令和2年9月11日判決の裁判要旨
・  請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
3 最高裁令和2年9月16日決定の判示事項
① 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為の意義
② 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に当たるか否かの判断方法
③ 医師でない彫り師によるタトゥー施術行為が,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に当たらないとされた事例
2021年7月号
1 最高裁令和2年7月9日判決の裁判要旨
① 交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において,不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして相当と認められるときは,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となる。
② 交通事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては,事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しない。
③ 交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において,同人が事故当時4歳の幼児で,高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し,同逸失利益の現実化が将来の長期間にわたるなど判示の事情の下では,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となる。
2 最高裁令和2年9月18日判決の裁判要旨
・ 不動産競売手続において建物の区分所有等に関する法律66条で準用される同法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより,上記配当要求における配当要求債権について,差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには,民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り,債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく売却代金の配当又は弁済金の交付が実施されるに至ったことを要しない。
3 最高裁平成30年12月11日判決の判示事項
・ 指示を受けてマンションの空室に赴き詐欺の被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
4 最高裁平成30年12月14日判決の判示事項
・ 詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして自宅で受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
2021年6月号
1 最高裁令和2年6月30日判決の裁判要旨
・ ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定のうち,地方税法37条の2及び314条の7を改正する平成31年法律第2号の規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は,上記規定による改正後の地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である。
2 最高裁令和2年9月3日判決の裁判要旨
・ 事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに,同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には,後行の選挙がいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り,先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。
3 最高裁令和2年9月7日判決の判示事項
・ 特許権の通常実施権者が,特許権者を被告として,特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えにつき,確認の利益を欠くとされた事例
4 最高裁令和2年9月8日判決の裁判要旨
・ 請負人である破産者の支払の停止の前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権の取得が,破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり,上記違約金債権を自働債権とする相殺が許されるとされた事例
2021年5月号
1 最高裁令和2年6月26日判決の裁判要旨
・ 被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき,納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知は,これに係る地方税の徴収権について,地方税法(平成29年法律第45号による改正前のもの)18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しない。
2 最高裁令和元年9月27日判決の判示事項
・ 詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて送付先のマンションに設置された宅配ボックスから取り出して受領するなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
2021年4月号
1 最高裁平成31年2月19日判決の裁判要旨
・  夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。
2 最高裁令和2年3月26日判決の裁判要旨
・ 公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認は,国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。
3 最高裁令和2年4月7日判決の裁判要旨
・ 強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。
4 最高裁令和2年4月16日決定の裁判要旨
・ 裁判所は,ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停において,子を返還する旨の調停が成立した後に,事情の変更により同調停における子を返還する旨の定めを維持することを不当と認めるに至った場合は,同法117条1項の規定を類推適用して,当事者の申立てにより,上記定めを変更することができる。
5 最高裁令和2年7月14日判決の裁判要旨
・ 国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が,その職務を行うについて,共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき,国又は公共団体がこれを賠償した場合においては,当該公務員らは,国又は公共団体に対し,連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。
2021年3月号
1 最高裁令和2年7月21日判決の判示事項
① 著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要するか
② インターネット上の情報ネットワークにおいてされた他人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により,上記画像が,著作者名の表示の付された部分が切除された形で上記投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合に,上記閲覧者が当該表示された画像をクリックすれば,上記著作者名の表示がある元の画像を見ることができるとしても,上記投稿をした者が著作者名を表示したことにはならないとされた事例
③ 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づく発信者情報の開示請求をする者が,インターネット上の情報ネットワークにおいてされた同人の著作物である写真の画像の掲載を含む投稿により,上記写真に係る氏名表示権を侵害された場合に,上記投稿をした者が,同項の「侵害情報の発信者」に該当し,かつ,同項1号の「侵害情報の流通によって」上記開示請求をする者の権利を侵害したものといえるとされた事例
2 最高裁令和2年9月30日決定の裁判要旨
① 他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,刑法207条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れない。
② 他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合に,刑法207条の適用により後行者に対して当該傷害についての責任を問い得るのは,後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られる。
2021年2月号
1 最高裁令和2年3月6日判決の判示事項
・ 中間省略登記の方法による不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に,当該登記の中間者との関係において,当該司法書士に正当に期待されていた役割の内容等について十分に審理することなく,直ちに注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
2 最高裁令和2年3月19日判決の裁判要旨
・ 固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合において,各筆の宅地の評点数は,画地計算法の適用により算出された当該画地の単位地積当たりの評点数に,各筆の宅地の地積を乗ずることによって算出される。
3 最高裁令和2年3月24日判決の裁判要旨
・ 家屋の評価の誤りに基づきある年度の固定資産税及び都市計画税の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間は,当該年度の固定資産税等に係る賦課決定がされ所有者に納税通知書が交付された時から進行する。
4 最高裁令和2年7月30日判決の判示事項
・ ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項1号にいう「住居等の付近において見張り」をする行為の意義
2021年1月号
1 最高裁令和2年2月28日判決の裁判要旨
・ 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,使用者の事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる。
2 最高裁令和2年3月30日判決の裁判要旨
・ 歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払につき,時間外労働等に伴い発生する残業手当等の額がそのまま歩合給の減額につながり,歩合給が0円となることもあるなど判示の事情の下では,これにより労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえない。
3 最高裁令和2年2月25日決定の裁判要旨
・ 高等裁判所がした控訴取下げを無効と認め訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対しては,これに不服のある者は,3日以内にその高等裁判所に異議の申立てをすることができる。


第2 関連記事その他
1 最高裁判所調査官の解説は以下の順番で発行されます。
① ジュリスト(月刊誌)の「時の最高裁判例」
② 法曹時報(月刊誌)の「最高裁判所判例仮設」
③ 最高裁判所判例解説(単行本)
2 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所判例解説
・ 最高裁判所調査官
・ 歴代の最高裁判所首席調査官
・ 歴代の最高裁判所民事上席調査官
・ 歴代の最高裁判所刑事上席調査官
・ 歴代の最高裁判所行政上席調査官
・ 最高裁判所調査官室が購入した書籍のタイトル
・ 最高裁判所の職員配置図(平成25年度以降)

裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁

目次
1 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
2 関連記事その他

1 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
・ 18期の涌井紀夫最高裁判所総務局長は,平成9年3月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 法律上といいますか、裁判所法の定めでは、各裁判所に速記官を置くという規定があるだけでございまして、これは、速記官というものを配置しまして逐語的な供述調書をつくる、そういう体制をとる必要がある庁につきましては裁判所速記官を置くという、そういう規定でございます。
    実は、今回考えております構想といいますのは、今いる速記官八百名余りを一気にその仕事をかえてしまうという案ではございませんで、従前のシステムではなかなかこたえていけないような新しいといいますか、逐語調書の需要にもっと的確かつ機動的にこたえていくような、そういうシステムをつくるために、当分の間はこの速記官制度と併用する形で録音反訳方式を採用していこうということでございます。
    したがいまして、今の、各裁判所に速記官を置くという法律自体とは矛盾しないといいますか、そういうところでございますので、法改正の問題は生じないということで、こういう方針を決めさせていただいたわけでございます。
② 今回の制度見直しを考えました一番大きな理由は、今後の裁判所に提起されてまいります事件の動向というものを見ますと、非常に内容の難しい事件が数の上でもふえてくるだろうと。そうしますと、やはり証人の供述等も、要領を筆記するだけじゃなくて、その言葉どおりに逐語的に調書にとっていく、そういう逐語調書の需要というものがどんどん大きくなってくるだろう。
    ところが御承知のように、現在の裁判所の速記といいますのは、速記官が特殊な速記タイプという機械を用いまして速記をとるというシステムでございまして、これ実は職業病の問題がございまして、速記官一人の立ち会い時間というのがなかなか延ばせない状況になっています。そういう意味で、非常に容量自体が伸びないシステムになっております。こういうシステムでは、今後のそういう裁判上の逐語調書の需要に的確にこたえていくことが難しいんじゃないかということから、こういう制度改正を検討したわけでございます。
    実はそれ以外にも、現行の機械による速記につきましては、速記用のタイプ、これは裁判所だけでしか使われていない機械でございますので、年間に六十台程度の需要しかない機械でございます。これは民間のメーカーでつくっていただいておりますけれども、果たしてこの製造体制というようなものをいつまで維持していただけるかということも非常に難しゅうございます。
    さらに、速記官というのは、高校を卒業いたしました方で適性検査等を合格された方、二年間研修所の設備で非常にハードなトレーニングをやりまして技術を身につけてもらうわけですが、最近の進学事情といいますか、そういうこともございまして、こういう技術を身につけようというお気持ちを持っておられて、またこういう技術を身につけていただける適性を備えた方という、そういう速記官の後継者というものがなかなか得られなくなってきております。
    そういうふうな状況があります一方で、片や民間の方では、速記というのは今や手書き速記からむしろ録音反訳、録音機でとりましたテープをワープロ等を用いまして文字に反訳しているという、そういう業態が通常の形になってきております。そういったところを見まして、今後の裁判所における逐語調書の作成体制ということを考えました場合、やはり裁判所でもこういう新しい方法をとっていかないと国民の裁判所に対する期待にこたえていけないのではないか、こういうところが最大の制度改革の動機になっておるわけでございます。
③ 問題点、人材確保の点とタイプの製造確保の点、二点ございましたわけですが、確かに人材確保の点では、受験者は、このところ、不況の影響もあるのかもしれませんがかなりの数でございまして、九百名を超えるような受験者が来ております。ただ、実はこれ、速記官の場合はある程度、ある程度といいますか、かなりの学力がありませんとその速記の仕事は覚えられないということと、それとやはり適性といいまして、その速記の機械を動かしていけるだけの運動神経といいますか、それから、あと病気にならないような体質といいますか、そういう検査に合格しないといけないわけでございまして、実はそういう試験に通っていただける方というのが非常に少ないということでございます。
    それと、実は合格いたしました方でも、大体今、委員御指摘のように毎年五十名近くの合格者を出すんですけれども、それでは、次の年の三月になって、いよいよ研修所に入って訓練に入ってもらおうという段階になりますと、そのうち大体三割程度の方はもうやめさせてもらいたいということをおっしゃるんです。そういう方は、例えばその後、大学の受験をして大学に進学するようになったのでそっちに行きたいとか、あるいはほかに就職先を見つけたりとかということで脱落をしていくわけでございます。
    さらに、そういう形で三十名程度の方が研修を始められるんですが、二年間の研修についていけないで脱落していくという人がやはり毎年二割ぐらいおります。そういう人たちの処遇をどうするかということも非常に難しい問題になっておりまして、そういうふうなところから、後継者で問題のない方というのを確保していくことがなかなか難しい状況になっておるわけでございます。
    それから、あとタイプの問題ですが、実はこれはこの製造メーカー自体がもともとタイプの製造メーカーでございましたので、委員御指摘のように、かつては裁判所の方から和文タイプの注文をしてそれを納めていただくというふうな取引もあったわけでございますが、この会社自体、つい一、二年前ですが、和文タイプの製造自体をもう打ち切ってしまいまして、和文タイプの供給ももうできなくなっております。実は、このタイプの製造というのは、この会社が全部できるわけではございませんで、百数十の部品でできておりますのが、これ皆下請会社から製造されてまいります部品を使っておるわけですが、これまでにもいろんな部品が下請の方でつくれなくなっております。活字がっくれなくなったり、あるいはタイプ用のインクのリボンがつくれなくなったり、そのたびにその代替策をどうするかで大変非常に苦しい思いをしてきたわけでございまして、そういうことから裁判所に対しても製造打ち切りの申し入れが現にあったこともございます。
    ですから、ここしばらくどうだと言われますと、恐らく数年とかいう単位であれば無理を言って製造を続けていただくことは可能かと思いますが、裁判所速記官というのは、速記官に任官しますのが二十歳でございますので、定年までの仕事を考えますと、四十年くらいこのタイプを使って仕事をしていくという、そういう仕事でございます。果たしてその四十年先あるいはそれより先、それよりもっと短く二十年先を見た場合に、安定的にこのタイプの製造を確保できるかといいますと、我々の見方としては、やはりこれは非常に不安定な状況で、そういう不安定な状況に依拠したままこの制度を維持していくということは非常に問題じゃないかという、こういう問題意識を持っておるわけでございます。
④ 委員御指摘のように、これは制度改革といいましても、かなり大きな影響を持つ制度改革であるということは我々も全く同じ認識でおりまして、実はこの作業を非常に時間をかけてやってきたつもりでございます。
    現実にこの作業にかかりましたのは、平成五年六月に最高裁の中に、これは速記官自身をメンバーに含めましたプロジェクトチームをつくりまして作業を開始しましたので、足かけ五年間の作業になっております。しかも、この間、組合との間ではその当初から何度も何度も繰り返し意見交換をし協議をする。それから、弁護士会との間でも二年近く、いろんな裁判所の速記をめぐります客観的な状況に関する資料も提供し、お互いに意見を聞くという形の意見交換の機会を定期的に、非常に密度濃く繰り返してきております。
    そういうふうな弁護士会との意見交換を踏まえまして、昨年の六月から全国の裁判所で相当大がかりな録音反訳の検証実験をやってみたわけでございます。規模で言いますと二千二百件ぐらいの証拠調べについてこれをやっております。現実にこの証拠調べにお立ち会いになった弁護士さんは数百名おられるわけですが、そういう弁護士さん方には個々に、この録音反訳方式でできた調書のできばえはどうだったかということを一々お尋ねしております。そうしますと、弁護士さんの回答としては、九割を超える方が、従前の速記録と遜色のない、裁判をやっていくに何の不安もない調書ができておりますというお答えをいただいております。
    日弁連の方も、確かに、今の時点で養成をすぐやめてしまうということには不安があるということではございましたけれども、この録音反訳方式を採用するということについては、きちんとした体制が組め、手続的にも問題のないような措置がとられるのであれば積極的に考えていくべきだという、こういう御意見をいただいたわけでございます。
    したがいまして、我々の方としては、委員御指摘のような重大な問題であるということは十分踏まえまして、時間をかけて、また関係者との間でも十分オープンな議論をやった結果、こういう方針を出させていただいたというふうに考えておるわけでございます。
⑤ 「はやとくん」という愛称で呼ばれておりますシステムの内容等を私どもも関心を持って見ておるところでございます。
    ただ、実はこのシステムといいますのは、先ほど説明いたしました速記タイプによる速記技術というものを前提にしているシステムでございます。要するに、速記官が使います速記タイプにコンピューターを接続しまして、その符号を自動的に文字に変換していこうという、こういうシステムなわけでございます。
    したがいまして、実はこのシステムを採用します前提としては、やはり今の機械、速記タイプの機械の製造が確保されるということが前提になりますし、また今の速記で速記をするという技術の習得というものも当然の前提になってくるわけでございます。
    そうしますと、実は先ほど言いましたが、一つは職業病の問題がございまして、この機械を使ったからといって立ち会い時間を延ばせるというものではないわけでございます。それと、一度速記原本に打ちましたものを改めて反訳する場合に比べますと確かに幾分反訳効率は上がるようでございますけれども、実は今の速記といいますのは、証人等の発言が非常に早口になっておりますので、速記だけではもうほとんどとり切れない。かなりの部分を録音機に頼って、そこで補充して記録をとっておるという状況でございますので、その機械を使いましても後で録音テープ等を用いた補充作業がどうしても必要になってまいります。そういう補充作業を入れて考えますと、反訳の効率というのもそんなに著しく、例えば二倍になるとかというようなものではございませんで、例えば従前十時間かかっておりましたものが八時間程度になるかという程度のものでございます。
    そういうところからいたしますと、この「はやとくん」というそのシステム自体、今までの制度が抱えておりました問題点を抜本的に解決するものにはなかなかなり得ないんじゃないかというのが私どもの判断であるわけでございます。

2 関連記事その他
(1) 平成9年2月26日開催の最高裁判所裁判官会議において「これからの逐語録作成方法と速記官制度について」と題して以下の決定がなされました。
    録音反訳検証実験報告書[提言編]に基づき,次のとおり方針を決定する。
    速記官制度を取り巻く客観状況を踏まえ,今後増大すると予測される逐語録需要に的確かつ機動的にこたえるために,可及的速やかに録音反訳方式の導入を開始する。
    逐語録作成の代替方法がある一方で,速記官制度の基盤が将来的に極めて不安定な状況の中で特殊技能習得のための厳しい訓練を伴う速記官の養成を続けることは適当でないこと等にかんがみ,速記官の新規の養成は平成10年4月以降停止することとし,当分の間は現に在職している速記官による速記と録音反訳方式を併用する形で,緩やかに録音反訳方式への移行を図る。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所速記官
・ 録音反訳方式による逐語調書
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続

裁判所速記官

目次
1 裁判所速記官の役割
2 平成2年時点で裁判所速記官の養成は困難となっていたこと
3 裁判所速記官制度に関する平成7年当時の検討状況
4 平成10年4月以降,裁判所速記官の新規養成が停止していること
5 速記録の優れた特性
6 関連記事その他

1 裁判所速記官の役割
(1) 裁判所速記官は,法廷に立ち会い,訴訟当事者や証人などが裁判官の前で供述するのを速記する事務などを行っており(裁判所法60条の2),速記に際しては,速記タイプライターを使用して証人の供述などを速記符号として記録し,法廷が終わった後で,速記符号を反訳して速記録を作成するという方法をとっています(裁判所HPの「裁判所速記官」参照)。
(2) Wikipediaの「裁判所速記官」には以下の記載があります。
    裁判所速記官を志す者は、17歳から20歳を対象とする裁判所速記官研修生採用試験に合格して裁判所事務官に採用され、裁判所書記官研修所で2年間の研修を受けて裁判所速記官補に任命後,各裁判所での実務経験と試験により裁判所速記官に昇任した。
(3) 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成27年4月7日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    裁判所速記官が作成する速記録というのは、証人の証言等をそのまま文字にする、いわゆる逐語調書でございます。速記官は、速記タイプを用いて、法廷で発せられた証言等をそのまま記録するということになりますから、誤字脱字及び反訳の誤りは別として、裁判官といえどもその内容の変更を命じることができないということは実務に定着しているところでございまして、これはまさに逐語調書という性質からきているものというふうに理解しているところでございます。


2 平成2年時点で裁判所速記官の養成は困難となっていたこと
・ 12期の金谷利廣最高裁判所総務局長は,平成2年3月29日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 速記官につきましては、相当数の欠員のあることは御指摘のとおりでございます。
    これがなぜ欠員が生ずるかという理由でございますが、裁判所の速記は速タイプをたたいて行う速記でございます。非常に技術性の強いものでございます。そんなところからなかなか適性のある人、適格な人が得がたい。
    一言で申し上げればそういうことでございます。

② それにつきまして、またいろんな理由があるのだろうと思いますが、最近の技術革新の時代でこういう逐語調書をとる方法というのが、今後速タイプをたたく速記というようなことからほかの方法に移っていくのではないかといったような不安が受験希望しようかどうかと考えられる方にあるいはあるのではないか、そういったこともございますし、またせっかく速記官の研修所に入る試験に受かられても途中辞退されるという方もあります。研修所に入って鍛えているうちにやはり適性がないということで脱落される方もあります。
    私どもの方としては毎年四十人程度の速記官の養成ということを目標にして、それを上回る合格者を出しもしておるわけですが、途中辞退だとか脱落とかいった形で結局速記官として巣立っていくのが二十数名といった形になっているのが現状でございます。


3 裁判所速記官制度に関する平成7年当時の検討状況
(1) 「速記問題について 小池総務局第三課長に聞く」(平成7年当時の文書)には以下の記載があります。
    平成七年一月上旬には、「裁判所速記官を取り巻く諸問題について」と「裁判所速記官の大量退職に対する対応策について」という二冊の小雑誌を速記官をはじめとする職員に公表しました。この二冊の小雑誌のうち、前者は、速記を取り巻く裁判所内外の客観的状況について取りまとめたものです。後者は、速記官の大量退職に対する対応策について、考えられる対応策を並列的に列挙し、それぞれの長所、短所を羅列したもので、今後検討すべき課題として提示しているものです。この二冊の小雑誌は、すべての速記官に配布され、主任書記官にも配布されました。希望する書記官にも閲覧できるようになっています。
    また、平成七年一月中旬に最高裁で開催された速記管理官研究会、その後に書く高裁で開かれた速記官研究会で、この二冊の小雑誌についての説明、意見聴取を行ってきました。
(中略)
    「裁判所速記官を取り巻く諸問題について」では、速記タイプを安定的に確保していくことが難しい状況にあること、速記官の人材確保が困難な状況にあることなどが指摘されていますが、このような状況の中で、裁判所として、将来にわたって増大する逐語調書の要請に対し永続的かつ安定的にどのように対応していくかが大きな課題となっているわけです。今後、ある時点で速記官制度を維持することができなくなれば、速記録に代表する逐語調書をだれがどのようにして作成するのかという問題に直面せざるを得ませんし、このような事態は、書記官事務に大きな影響を及ぼすことが明らかです。
(2) Wikipediaの「裁判所速記官」には,「発足当初は2300人を予定していた採用人数も、1964年以降は935名から増員することがないまま[4]、最高裁判所は1993年に速記官制度の見直しを始める。」と書いてあります。


4 平成10年4月以降,裁判所速記官の新規養成が停止していること
(1) 平成9年2月26日開催の最高裁判所裁判官会議において「これからの逐語録作成方法と速記官制度について」と題して以下の決定がなされました。
    録音反訳検証実験報告書[提言編]に基づき,次のとおり方針を決定する。
    速記官制度を取り巻く客観状況を踏まえ,今後増大すると予測される逐語録需要に的確かつ機動的にこたえるために,可及的速やかに録音反訳方式の導入を開始する。
    逐語録作成の代替方法がある一方で,速記官制度の基盤が将来的に極めて不安定な状況の中で特殊技能習得のための厳しい訓練を伴う速記官の養成を続けることは適当でないこと等にかんがみ,速記官の新規の養成は平成10年4月以降停止することとし,当分の間は現に在職している速記官による速記と録音反訳方式を併用する形で,緩やかに録音反訳方式への移行を図る。
(2) 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成27年4月7日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 平成九年当時、速記タイプの確保に不安が生じたこと、人材確保が困難であること、速記官の職業病の問題もあること、将来的にふえていくと見込まれる逐語的調書に対する需要の増大に機動的に対応していくことが困難であると考えられたことから、速記官の養成を停止するという判断を行ったものでございます。
② 平成九年当時は、バブル崩壊による事件が非常に急増している状況でございました。平成二十一、二年をピークに、事件数が、今、民事事件については少し下がっている現状でございまして、全体の事件数自体は下がっているところなのでございますが、いわゆる速記官の廃止に伴って導入した録音反訳方式、これによる時間数というのが、記録に残っている範囲で申し上げますと、平成二十一年度には四万三千時間といったところでございますが、平成二十五年度には五万二千時間ということで、時間数というのはふえているところでございます。
③ 音声認識システムの認識率が録音反訳でそのまま使えるようになることについて期待を持ったというのは事実でございます。その期待に達していないというところでございます。
(3) 「裁判所速記官の養成再開とこれに必要な予算の復活を求める意見書」(令和2年2月3日付の千葉県弁護士会の文書)には以下の記載があります。
最高裁判所は、1970年代から速記自動反訳システム、とりわけ音声認識システムによる供述記録作成方式の開発をすすめ、2009年に裁判員裁判制度が導入された際には、音声認識システムの中の検索機能を各地方裁判所に設置したが、このシステムは正確性などで優れた点があるとしても、利便性や迅速性に劣る。すなわち、このシステムでは、音声や証言時の表情、態度などが確認できる利点があり、後日の検討、分析には有用である一方、一覧性に劣り、検索の手間がかかるなど、使い勝手が悪く不便であることから、実際にこれを活用する例はほとんどない。


5 速記録の優れた特性
(1) 栃木県弁護士会HPの「裁判所速記官制度に関する意見書」(平成20年9月24日付)には,速記録の優れた特性に関して以下の記載があります。
    録取者である速記官が法廷に立会していることから、
・言語化されない表現でも録取可能である。

・録音状態とは関わりなく、不明瞭な供述でもその場で確認できたり、口元を見て聞き分けられたりする。
・事前・事後の確認作業によって専門用語・固有名詞・法律用語でも正確に録取できる。
・同時発言でも対応できる。
・多数関係者がいるときでも発言者の特定が容易である。
・記録に残す意味のないやりとりは始めから記録化しないなどの対応が可能であり、全逐語録とは違い、繰り返し・言い直しなどは適切に省かれ、読みやすい記録が作成される。
・尋問途中でも、必要があるときは、前の供述を訳読して供述内容を確認することができる。
・音声をその場で記録した調書であるので、裁判官の訂正命令に服することもないとされ、(裁判官の記憶の誤りによる誤謬を排することができ)内容の正確性が保たれる。
・録取者である速記官には公務員としての守秘義務がある。裁判は公開が原則であるとはいえ、訴訟であることの性質上、関係者が一般に知られたくない情報が多くあり、反訳外部委託方式により速記録の方が秘密保持性において優れている。
(2) 「裁判所速記官の養成再開とこれに必要な予算の復活を求める意見書」(令和2年2月3日付の千葉県弁護士会の文書)には以下の記載があります。
速記官の作成する速記録は、裁判所速記官があらかじめ記録を読み込んで法廷に臨み、聞き取りにくい時にはその場で直ちに聞き返すこともできる。書記官作成の要領調書と比べて、臨場感や迫真性に優れ、反対尋問に対する応答のニュアンスがよく伝わるなどと評価されている。
これに対し、録音反訳方式による供述記録は、逐語録ではあるが、昨年から今年にかけて行われた裁判所速記官制度を守る会の全国弁護士アンケートでも、調書の正確性、客観性、迅速性について多くの問題点が指摘されている。法廷に立ち会わない民間業者が反訳したものを書記官が校正することから、正確性、客観性に欠けるのである。また、書記官の校正の負担も大きく、時間がかかることから迅速性の要請にも応えきれていない。さらに、民間業者の反訳によることから、プライバシーの保護も懸念されている。最高裁は、反訳業者とは契約書を取り交わしているとしているが、裁判所速記官が公務員としてきびしい守秘義務を負っていることなどと比べても、秘密保持の点で両者の優劣は明らかである。


6 関連記事その他
(1)ア 静岡県弁護士会の「速記官要請再開に関する決議」(平成13年5月31日付)には以下の記載があります。
上記「ステンチュラ」は,速記官有志約100名が自費をもって購入したと聞く。キータッチは,各速記官の好みに合わせて調節可能だという。従来の速記タイプはキータッチの調節ができず,タッチが重いうえ,反訳に時間がかかるため,速記官の健康問題等から,1速記官の法廷立ち合い時間が,1週間2時間程度に限定された経緯がある。
イ 千葉県弁護士会の「裁判所速記官の養成再開とこれに必要な予算の復活を求める意見書」(令和2年2月3日付)には「速記官が長年要求してきた電子速記タイプライターの官支給が、2018年にようやく実現した。」と書いてあります。
(2) Wikipediaの「裁判所速記官」には「裁判所速記官を志す者は、17歳から20歳を対象とする裁判所速記官研修生採用試験に合格して裁判所事務官に採用され、裁判所書記官研修所で2年間の研修を受けて裁判所速記官補に任命後,各裁判所での実務経験と試験により裁判所速記官に昇任した。」と書いてあります。
(3)ア アスピックHPに「文字起こしアプリおすすめ14選!個人・企業向け、無料版まで」が載っています。
イ Bewith「音声認識の勢力図が変わる!?GoogleとMicrosoftの音声認識APIの比較」には,「GCP」と「Azure」の音声認識APIが比較されています。
(4) 労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には,使用者は,当該労働者に対し,その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しません(最高裁令和6年4月26日判決)。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 速記職給料表定員(昭和43年度以降)
→ 秀吟事務局の開示文書であり,令和6年度までの数字が載っています。
・ 平成17年度速記者養成所学生募集中止について(衆議院事務局)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
・ 録音反訳方式による逐語調書
 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続

控訴審に関するメモ書き

目次
第1 民事・刑事の共通事項
1 下級審裁判官が既存の最高裁判例に反する裁判をなす場合
2 下級審判決の位置づけ
第2 民事事件関係
1 控訴提起に際しての委任状
2 控訴期間を経過した場合の例外的な救済手段
3 控訴の利益
3の2 控訴提起に伴う弁済の提供
3の3 必要的共同訴訟において一部の当事者から控訴があった場合の取扱い
3の4 共同訴訟的補助参加と控訴
4 控訴理由書
5 控訴審における請求の追加・変更
5の2 控訴審における反訴
6 控訴審口頭弁論における,原審口頭弁論の結果陳述
7 民訴法260条2項(仮執行の原状回復及び損害賠償)の申立て
8 その他仮執行宣言関係
9 不利益変更禁止の原則
10 控訴権の濫用,及び代理人弁護士に対する懲戒事例
11 控訴審に関する体験談等
12 控訴審の判決書の点検事項
13 その他民事事件関係のメモ書き
第3 刑事事件関係
1 量刑不当を理由とする控訴趣意書の記載
2 刑訴法382条の事実誤認
3 刑事控訴審が原判決を破棄する場合,実務上は原則として自判していること
4 控訴審の未決算入基準
5 裁判員制度の趣旨と控訴審の役割
6 その他刑事事件関係のメモ書き
第4 合議に関する資料
第5 関連記事その他


第1 民事・刑事の共通事項
1 下級審裁判官が既存の最高裁判例に反する裁判をなす場合
(1) 「刑事実務と下級審判例」(著者は11期の小林充裁判官)が載ってある判例タイムズ588号の12頁及び13頁には以下の記載があります。
 次に、特殊な場合として下級審裁判官が既存の最高裁判例(または大審院判例-裁判所法施行令5条参照)に反する裁判をなす場合につき若干考察しておく。
 まず、それがまったく容認され得ないものでないことはいうまでもない。最高裁判所の拘束力の根拠は、当該事件に関する国の裁判所としてのあるべき法解釈の推測資料として、最高裁が同種事件についてなした法解釈が重要な意味をもつということにあった。すなわち、そこで重要なのは、最高裁判例それ自体ではなく、国家機関としてのあるべき法解釈ということにあるといわなければならない。ところで、法解釈は社会情勢の変化等に対応して不断に生成発展すべき性質をも有するものであり、最高裁判例も、常にあるべき法解釈を示すとは限らない。このことは、刑訴法410条2項において最高裁自体によって既存の最高裁判例が変更されることが予定されていることから明らかであろう。そして、下級審裁判官としては、あるべき法解釈が既存の最高裁判例と異なると信ずるときには、既存の最高裁判例と異なる裁判をなすことが容認されるといい得るのである。
 ただ、あるべき法解釈というのが、既に述べたように、当該裁判官が個人的に正当であると信ずる法解釈ではなく、国の裁判所全体としてのあるべき法解釈、換言すれば、当該事件が最高裁判所に係属した場合に最高裁が下すであろう法解釈を意味するものであるとすれば、下級裁判所裁判官が右のように信じ得るのは、当該事件が最高裁に係属した場合に最高裁が従前の判例を変更し自己の採った法解釈を是認することが見込まれる場合ということにほかならない。そして、最高裁判例の変更が見込まれるということの判断がしかく容易にされるものではないことは明らかである。その意味では、下級審裁判官が最高裁の判例に従わないことは例外的にのみ許容されるといってよいであろう。下級審裁判官としてただ単に最高裁判例に納得できないということが直ちにこの判断と結びつくものではないことはもとより、最高裁判例に従わない所以を十分の説得力をもって論証できると考えるときも、そのことから直ちに右判例の変更が見込まれるということはできないであろう。下級審裁判官として、最高裁判例の変更が見込まれるかどうかの判断に当たっては、当該判例につき、最近に至るまで何回も同趣旨の判例が反復して出されているか古い時期に一度しか出ていないものであるか、大法廷の判例であるか小法廷の判例であるか、少数意見の有無およびその数の多少、同種の問題につき他の判例と調和を欠くものでないか、それが出された後これに反する下級審判決が現われているか等を、慎重に勘案すべきであろう。
(2) 35期の元裁判官である弁護士森脇淳一HP「裁判官の身分保障について(3)」(平成31年2月21日付)には,「刑事実務と下級審判例」(著者は11期の小林充裁判官)は,裁判官国家機関説(一審の裁判官たるものは,高裁や最高裁がするであろう判断と異なる判断をしてはならないとする説)を裁判官全体に浸透させるのに大いに力があったという趣旨のことが書いてあります。

2 下級審判決の位置づけ
(1) 訴訟の心得25頁には以下の記載があります。
     実務家は,高裁判決や地裁判決を見つけると,それで大きな手がかりを掴んだと思ってホッとしてしまうが,裁判官は,下級審判決にはほとんどそれに倣うという意識がない。その判示内容が説得的な理由になっていれば,それと同じ意見となることはあるが,説得的でない,あるいはケースが違うとみれば,全く従わない。比喩的に言うなれば,実務家は,最高裁,高裁,地裁の判決の信頼度を,たとえばそれぞれ100%,90%,80%というような感じで受け止めていると思われる。しかし,実際は,100%,30%,10%かも知れない。
     アーバンコーポレーションの一連の事件も,10件ほどに分かれてそれぞれ判決に至ったが,地裁,高裁の判決は全くばらばらであり,相互に全く影響されなかったように感じる。
(2) ウエストロージャパンHPの「第216回 株価下落の算定要因における「経営難」に陥った企業行動に関する評価の相違~アーバンコーポレイション最高裁判決の一分析~」では,アーバンコーポレーションに関する最高裁平成24年12月21日判決の解説が載っています。


第2 民事事件関係
1 控訴提起に際しての委任状
(1) 原審の訴訟代理人が控訴の特別委任まで受けていた場合,第一審判決後の委任状を添付することなく,控訴することができます(最高裁昭和23年12月24日判決参照)。
(2) 東弁リブラ2015年5月号の「東京高裁書記官に訊く-民事部・刑事部編-」には,「地裁段階での代理人が高裁で委任状を提出することが必要であるか否かという点については,厳密に言えば不要であるが,代理権を明確にするため,実務では提出を求めている。」と書いてあります(リンク先のPDF4頁)。

2 控訴期間を経過した場合の例外的な救済手段
(1) 当事者の帰責事由なく控訴期間を経過したとしても,その事由が消滅した後1週間以内であれば,民事訴訟法97条1項に基づき控訴の追完ができます(最高裁昭和36年5月26日判決 及び最高裁平成4年4月28日判決参照)。
(2) 控訴の追完期間を経過したとしても,判決書の送達が無効である場合,再審事由を知った日から30日以内であれば,民事訴訟法338条1項3号に基づき再審請求ができます(最高裁平成4年9月10日判決及び最高裁平成19年3月20日決定)。


3 控訴の利益
・ 事件が一人の裁判官により審理された後,判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合において,全部勝訴した原告が控訴をすることができます(最高裁令和5年3月24日判決)。

3の2 控訴提起に伴う弁済の提供
・  交通事故によって被った損害の賠償を求める訴訟の控訴審係属中に,加害者が被害者に対し,第一審判決によって支払を命じられた損害賠償金の全額を任意に弁済のため提供した場合には,その提供額が損害賠償債務の全額に満たないことが控訴審における審理判断の結果判明したときであっても,原則として,その弁済の提供はその範囲において有効であり,被害者においてその受領を拒絶したことを理由にされた弁済のための供託もまた有効です(最高裁平成6年7月18日判決)。


3の3 必要的共同訴訟において一部の当事者から控訴があった場合の取扱い
・ 高裁民事部ベーシックQA(令和4年3月の大阪高裁民事部ベーシックQA作成プロジェクトの文書)16頁及び17頁には以下の記載があります。
     必要的共同訴訟において,誰が上訴人となり,誰が被上訴人となるかですが,判例では,共同訴訟人の一部の者が上訴した場合には,共同訴訟人の全員が上訴人となる旨を判示した(最三小判昭和38・3・12民集17-2-310,建物につき所有権移転請求権保全の仮登記にもとづき所有権移転の本登記を経由した原告から, 同建物につき共同して競落したことを原因として所有権移転登記を経由した被告らに対し,共有名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する訴訟は必要的共同訴訟であると解すべきであるので,一人の被告のした控訴の提起の効果によって,他方の被告は,控訴人たる地位を取得する) もの,逆に,共同訴訟人の一部の者が上訴した場合には,他の共同訴訟人は被上訴人となる旨を判示した(最三小判平成11・11・9民集53-8-1421,土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいるため,隣接する土地の所有者と訴えを提起することに同調しない者とを被告にして境界確定の訴えを提起した場合の判決に対し,隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている者のみを相手方として上訴した場合には,共有者のうちの被告となっている者は被上訴人としての地位に立つ) もの, また,上訴をしなかった共同訴訟人は,上訴人にも被上訴人にもならない旨を判示した(最大判平成9・4・2民集51-4-1673,複数の住民の提起した住民訴訟はいわゆる類似必要的共同訴訟と解するのが相当であるが,住民訴訟については, 自ら上訴をしなかった共同訴訟人をその意に反して上訴人の地位に就かせる効力まで生ずると解するのは相当でない)ものがあります。
     このように同じ必要的共同訴訟といっても紛争態様に応じて取り扱いが異なることから,誰を上訴人とし誰を被上訴人とするか担当裁判官とよく相談する必要があります。

3の4 共同訴訟的補助参加と控訴
・ 高裁民事部ベーシックQA(令和4年3月の大阪高裁民事部ベーシックQA作成プロジェクトの文書)19頁には以下の記載があります。
 共同訴訟的補助参加(例えば,破産管財人の訴訟に参加する破産者,遺言執行者の訴訟に参加する相続人,債権者の代位訴訟(民法423条)に参加する債務者)の場合には,補助参加人の訴訟行為は,それが被参加人の利益になるものである限り,被参加人の訴訟行為と抵触するものであっても,その効力が認められます。よって,補助参加人のした上訴について被参加人のみが上訴を取り下げても,取下げの効力は生じませんし(大判昭13.12.28民集17-2878,最判昭40.6.24民集19-4-1001),さらに,上訴期間自体も,必要的共同訴訟人の場合と同様に,被参加人と独立に計算される(福岡高判昭49.3. 12判夕309-289)等,上記の通常の補助参加の場合とは異なる取り扱いとなりますので,注意が必要です。


4 控訴理由書
(1) 庶民の弁護士伊藤良徳HP「控訴理由書を書く基本姿勢」には以下の記載があります。
     証拠弁論(提出済みの書証に基づき、それを評価して、どのような事実が認定されるかを論証する)的な主張(原判決の法解釈について誤りを指摘せず、さらにいえば控訴審で新たに有力な証拠も提出しないで原審の証拠だけで「証拠弁論」にとどめた場合)で関心を持ってくれるケースがどれだけあるかはちょっと疑問に思いますが、原判決の論理構造を把握した上でどこを突けば結論が変わるかを考えそこを前に出すべきという指摘は、肝に銘じておきたいところです。
(2) 訴訟の技能―会社訴訟・知財訴訟の現場から 139頁には,「控訴審の合議」に関して以下の記載があります。
     控訴審は、いわゆる続審とは言いますが、ほとんどがやはり控訴理由書に基づいた事後審的な運営をしていると思います。検討の手順から言いますと、主任裁判官が、まず事件受理と同時に原審記録を読んで、口頭弁論期日の1週間ほど前に合議メモを書き上げて、粗ごなしの合議をして、そして第1回期日に臨んで、場合によっては、ただちに終結するというのが通常のパターンだと思います。合議メモには、通常、第1回期日に行う予定の事柄とともに、控訴棄却とか続行相当などの結論も示されます。
(3) 広島高裁HPに「高等裁判所が第二審としてした判決に不服がある場合の手続について(Q&A)」が載っています。
(4) 控訴審でも訴訟救助を利用できますところ,訴訟救助の判断は控訴理由書の提出後にされるみたいです(庶民の弁護士伊藤良徳のサイトの「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」参照)。

5 控訴審における請求の追加・変更
(1) 大阪弁護士会作成の「令和2年度司法事務協議会 協議結果要旨」57頁及び58頁には,大阪高裁が提出した,「控訴審における請求の追加・変更について」という協議事項に関して以下の記載があります。
     控訴人が控訴審において請求の追加・変更(新たな請求原因事実を主張する場合であって請求の趣旨に変更がない場合も含む。)をする場合には,そのことが一見して分かるように,「訴え変更申立書」などの表題を付した独立の書面を提出するか,「控訴理由書(兼訴え変更申立書)」などの表題を付して,本文中でも独立の項目を設けるなどの配慮をされたい。
     また,被控訴人が控訴審において,請求の追加・変更をする場合(訴訟物を変更するのみで請求の趣旨自体は変更しないときを含む。)にも同様のことが起こりうるが,特にこのときには附帯控訴の手続を要することに留意されたい。
(提出理由)
     控訴理由書や準備書面における主張の中に,請求の追加・変更に当たる記載が混在している例がある。裁判所としては,実体の審理をする上での検討だけでなく,送達や附帯控訴の要否など訴訟手続上の検討もする必要があるので,訴えの変更を含むことが明確になるよう配慮されたい。
(コメント)

     問題と提出理由は記載のとおりである。控訴審においては控訴人による請求の追加・変更は,請求の追加・変更の申立書を送達するということが必要になる。また,被控訴人が請求の追加・変更をする場合には附帯控訴が必要となって,附帯控訴状を送達するということになる。特に訴訟物の追加・変更がされても請求の趣旨自体には変更がない場合,控訴理由書や控訴答弁書等の中で請求の追加・変更が一見したのでは分からず,他の記載と区別がつかない形で記載されていることが間々あるので,ぜひ注意していただきたい。
(2) 控訴審において訴えの変更により新訴が係属した場合,新訴については,控訴裁判所は,事実上第一審としての裁判をすべきであり,たとえ新訴に対する結論が旧訴に対する第一審判決の主文の文言と合致する場合であっても,控訴棄却の裁判をすべきではありません(最高裁昭和31年12月20日判決)。
(3) 相手方の陳述した事実に基づいて訴を変更する場合でも,これがため著しく訴訟手続を遅滞させる場合,訴えの変更は許されません(最高裁昭和42年10月12日判決)。
(4)ア 訴え却下判決に対する控訴審における訴えの追加的変更の申立てについて、原則として許されません(知財高裁平成31年2月19日判決及び知財高裁平成31年3月4日判決のほか,イノベンティアHPの「確認の訴えの却下判決に対する控訴審における訴えの追加的変更申立てを許さなかった知的財産高等裁判所判決について」参照)。
イ 高裁民事部ベーシックQA(令和4年3月の大阪高裁民事部ベーシックQA作成プロジェクトの文書)8頁には「控訴審で訴え変更した場合の手数料」として以下の記載があります。
① 第1審が請求について判断した場合
     「変更後の請求につき2の項(控訴手数料)により算出して得た額」から「変更前の請求に係る (控訴)手数料の額」を控除した額です(5の項の括弧内)。
② 第1審が請求について判断していない場合
     そもそも, この場合に訴えの変更が許されるかどうか疑問が生じますが,仮に訴えの変更が許された場合は,「変更後の請求につき1の項(訴え提起手数料)により算出して得た額」から「変更前の請求に係る(訴え提起)手数料の額」を控除した額とするのが相当です(5の項の括弧外)。


5の2 控訴審における反訴
(1) 高裁民事部ベーシックQA(令和4年3月の大阪高裁民事部ベーシックQA作成プロジェクトの文書)23頁には以下の記載があります(1及び2を①及び②に変えています。)。
① 控訴審においても反訴を提起することはできます。反訴の要件は第1審における反訴と同様ですが,控訴審における反訴の要件には,それに加えて,相手方の同意を要する旨の特別の定めがあります(民訴法300条1項)。
    ただし,相手方が異議を述べないで反訴の本案について弁論をしたときは,反訴の提起に同意したものとみなされます(民訴法300条2項) し,判例(最判昭38・2・21民集17-1-198)によれば,相手方から第1審の審判を受ける利益を実質上奪うおそれのない場合は,相手方の同意を要しないことになります。
    従って,反訴の提起があったときは,反訴状送達前に,同意の要否,進行の見込みについて担当裁判官とよく相談する必要があります。なお,人事訴訟に関する反訴については,相手方の同意は不要とされています(人訴法18条)。
② 控訴審における反訴につき相手方が同意しなかった(異議を述べた) ときは,管轄権を有する第1審裁判所に移送するという判例(東京高判昭46・6・8判時637-42)と,不適法として却下するという判例(大阪高判昭56・9・24判タ455-109) とがあります。
③ 控訴審における反訴提起の手数料については,次のとおりです。
(1) 第1審が本訴請求について判断した場合
民費法別表第1の6の項本文の括弧内により,「2の項(控訴提起手数料)により算出して得た額」 となります。
ただし,本訴(現に控訴審に係属している請求に限ります。) とその目的を同じくする反訴については,本訴の控訴提起手数料額を控除した額が反訴提起手数料となります。
(2) 第1審が本訴請求について判断していない場合
民費法別表第1の6の項本文の括弧内に該当しないので, 「1の項(訴え提起手数料)により算出して得た額」 とするのが相当です。
なお,手数料額の控除については,第1審における反訴の場合と同じです。
(2) 民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年4月6日法律第40号)の施行に伴って廃止された民事訴訟用印紙法(明治23年8月16日法律第65号)に関する最高裁昭和41年4月22日判決は,「 控訴審において提出する反訴状には、民事訴訟用印紙法第四条にあたるときのほかは、同法第五条の規定により、第一審において提出する場合に貼用すべき印紙額の一倍半の印紙を貼用すべきである。」と判示していました。

6 控訴審口頭弁論における,原審口頭弁論の結果陳述
(1)ア 控訴審口頭弁論において,原審口頭弁論の結果を陳述するに際し,「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論したときは,第一審の口頭弁論で主張した事項であって,第一審判決の事実摘示に記載されていない事実は,控訴審口頭弁論では陳述されなかったことになります(最高裁昭和41年11月10日判決)。
イ 「民事判決書の新しい様式について」(東京高地裁民事判決書改善委員会、大阪高地裁民事判決書改善委員会の共同提言)には,「第五 控訴審における対応」として以下の記載があります(判例タイムズ715号(平成2年2月25日付)6頁)ところ,最高裁昭和41年11月10日判決との整合性はよく分かりません。
     この様式による判決について控訴があったときも、原判決の「事案の概要」と「争点に対する判断」の記載を通じてみれば、主文を導き出すのに必要不可欠な事実関係は漏れなく記載されており、その余の事実主張も主要なものは概括的に記載されているであろうから、「原判決記載のとおり」という形で原審の口頭弁論の結果を陳述させ、その範囲で控訴審の審理を進めることが可能であり、通常はそれで支障を生じないであろう。事実主張が概括的にのみ記載されている場合であっても、その主張を構成する要件事実が原審で具体的に主張されているときは、この方式による弁鎗の更新によって、控訴審においても原審どおりの具体的主張がされたものとしてよいであろう。
(2) 当事者の一方が口頭弁論期日に欠席したときは,出頭した方の当事者に双方にかかる第一審口頭弁論の結果を陳述させることができます(最高裁昭和42年5月23日判決。なお,先例として,最高裁昭和29年10月29日判決最高裁昭和33年7月22日判決参照)。

7 民訴法260条2項(仮執行の原状回復及び損害賠償)の申立て
(1) 条文
ア 民訴法260条2項は,「本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。」と定めています。
イ 現在の民訴法260条2項は,旧民訴法198条2項に相当する条文です。
(2) 「仮執行の宣言に基づき被告が給付したもの」の意義
・ 被告が,仮執行宣言付判決に対して上訴を提起したのちに,同判決によつて履行を命じられた債務につきその弁済としてした給付は,それが全くの任意弁済であると認められる特別の事情のないかぎり,民訴法260条2項の「仮執行の宣言に基づき被告が給付したもの」に当たります(最高裁昭和47年6月15日判決参照)。
(3) 「仮執行により被告が受けた損害」の意義
・ 仮執行により被告が受けた損害とは,仮執行と相当因果関係にある財産上及び精神上のすべての被告の損害をいいます(最高裁昭和52年3月15日判決参照)。
(4) 受付の手続及び手数料
 第一審判決に対する控訴事件の係属中になされた民訴法260条2項の申立てにつき,その手数料は民事訴訟費用等に関する法律別表第一・6項(反訴の提起)に準じて納付することとなっていますし,その受付の手続は控訴事件に準じて行われることになっています(民事訴訟法第198条第2項による申立事件の手数料および立件の可否について(昭和47年1月12日付の最高裁判所民事局長等の通知)(旧民訴法198条2項は現在,民訴法260条2項です。)参照)。
イ 民訴法260条2項の申立てをする場合,申立てをする審級に応じた手数料を納付する必要があります(「三訂版 事例からみる訴額算定の手引」26頁)。
(5) 原状回復等の主張方法
ア 仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償については,別訴で請求できる(最高裁昭和29年3月9日判決)ほか,民訴法260条2項の申立てによって請求することもできます。
イ 民訴法260条2項の申立ては上告審ですることもできる(最高裁昭和34年2月20日判決参照)ものの,上告審で民訴法260条2項の申立てをするためには控訴審の段階でしておく必要があります(最高裁昭和55年1月24日判決)。
ウ  仮執行宣言付の第一審判決に対して控訴があったときは,その執行によって弁済を受けた事実を考慮することなく,請求の当否が判断されます(最高裁昭和36年2月9日判決)。
エ 東京地裁令和3年8月30日判決は,「債務の存在を争いつつ行った弁済の受領の催告について,債務の本旨に従った弁済の提供と認められた事例」です。
オ 札幌高裁令和4年3月8日判決(判例時報2563号)は,仮執行の原状回復及び損害賠償についての民事訴訟法260条2項の規定は、訴訟に先立つ仮処分に基づく金員支払には類推適用されないとした事例です。
(6) 民訴法260条2項の申立ての実例
ア 広島高裁松江支部平成25年10月23日判決(判例秘書に掲載)の事件番号は平成23年(ネ)第36号,平成25年(ネ)第52号となっていますから,控訴審で勝訴の見込みが出た後に民訴法260条2項の申立てをしたと思われますところ,判決文によれば,控訴の趣旨等は以下のとおりとなっています。
 1 控訴の趣旨
   主文1項(1),(2)同旨
 2 民訴法260条2項の規定による裁判を求める申立て
   被控訴人は,控訴人に対し,1750万8875円及び内1630万9167円に対する平成25年3月16日から返還済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 最高裁令和3年5月25日判決の事件名は「執行判決請求、民訴法260条2項の申立て事件」となっていて,最高裁令和3年6月29日判決の事件名は「報酬等請求本訴,不当利得返還請求反訴,民訴法260条2項の申立て事件」となっていて,前者については,民訴法260条2項の申立て事件に関する主文が載っています。
     また,両者の最高裁判決につき,(オ)の事件番号と(受)の事件番号はそれぞれ一つずつとなっています。
ウ 控訴審において民訴法260条2項の申立てをする場合,「民訴法260条2項の申立書」という表題の書面に,申立ての趣旨及び申立ての理由を書けばいいと思います。
エ ぎょうせいオンラインショップHP「仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立書」が載っています。


8 その他仮執行宣言関係
(1) 債務者について更生手続開始決定がされた場合の取扱い
・ 最高裁平成25年4月26日決定の裁判要旨は以下のとおりです。
① 仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い,金銭を供託する方法により担保を立てさせて強制執行の停止がされた後に,債務者につき更生手続開始の決定がされた場合,その被担保債権である損害賠償請求権は,更生担保権ではなく,更生債権に当たる。
② 仮執行宣言付判決に対する上訴に伴う強制執行の停止に当たって金銭を供託する方法により担保が立てられた場合,被供託者は,債務者につき更生計画認可の決定がされても,会社更生法203条2項にいう「更生会社と共に債務を負担する者に対して有する権利」として,供託金の還付請求権を行使することができる。
(2) 期間の猶予を認めた仮執行宣言
・ 横田基地夜間飛行差止等請求事件に関する東京高裁平成6年3月30日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
     仮執行のために、例えば郵便局等国民の生活に密接な関係のある国の施設の現金が執行の対象となると、一般国民に迷惑をかけることになるので、このような事態を避けるために国が執行の対象となる現金を準備する期間の猶予を与えるため、仮執行につき執行開始の時期を定めるのが相当である(判決をする裁判所は、仮執行宣言を付するかどうかにつき相当の範囲で裁量の権限を有するのであるから、このような期間の猶予を認めて仮執行宣言を付することももちろん許されると解される。)。


9 不利益変更禁止の原則
(1) 控訴審の口頭弁論は当事者が第一審判決の変更を求める限度においてのみ行われますし(民事訴訟法296条1項),第一審判決の取消し及び変更は不服申立ての限度においてのみ行うことができることをいいます(民事訴訟法304条)。
     そのため,相手方の控訴も附帯控訴もない場合,控訴人の不利に原判決が変更されることはないところ,このことを不利益変更禁止の原則といいます。
(2) 訴訟上の和解が成立したことによって訴訟が終了したことを宣言する終局判決である第1審判決に対し,被告のみが控訴し原告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において,控訴審が,当該和解が無効であり,かつ,請求の一部に理由があるが第1審に差し戻すことなく自判をしようとするときには,控訴の全部を棄却するほかありません(最高裁平成27年11月30日判決)。

10 控訴権の濫用,及び代理人弁護士に対する懲戒事例
(1) 民事訴訟法303条は以下のとおりです。
① 控訴裁判所は、前条第一項の規定により控訴を棄却する場合において、控訴人が訴訟の完結を遅延させることのみを目的として控訴を提起したものと認めるときは、控訴人に対し、控訴の提起の手数料として納付すべき金額の十倍以下の金銭の納付を命ずることができる。
② 前項の規定による裁判は、判決の主文に掲げなければならない。
③ 第一項の規定による裁判は、本案判決を変更する判決の言渡しにより、その効力を失う。
④ 上告裁判所は、上告を棄却する場合においても、第一項の規定による裁判を変更することができる。
⑤ 第百八十九条の規定は、第一項の規定による裁判について準用する。
(2) 過払金返還請求事件において,控訴人が被控訴人において請求していない民法704条所定の利息請求をあたかも請求しているものとしてこれに反論をしているのにすぎず,しかも,これを唯一の控訴理由としていた事案につき,控訴権の濫用があったとして,大阪地裁平成23年1月14日判決(判例秘書に掲載。裁判長は34期の田中俊次)は,民法303条1項に基づき3万円を国庫に納付することを命じました。
(3) 令和2年11月2日発効の第二東京弁護士会の戒告では,以下の行為が弁護士職務基本規程5条等に違反するということで懲戒処分の対象となりました。
     被懲戒者は、Aの弁護士が2016年11月21日にウェブサイト運営者Bの代理人として、Cに対して提起したウェブサイトの利用代金を請求する訴訟の第一審判決において、Bによる請求が詐欺的取引に基づくものであることが示されていたのだから、Bの請求が違法行為ではないことを確認する義務を負い、その請求が詐欺的取引ではないかとの懸念を払拭するような調査結果を得ていなかったのに、Bの代理人として、上記訴訟の控訴審を追行し、また、控訴棄却判決に対して上告してBの違法行為を助長した。


11 控訴審に関する体験談等
(1) WebLOG弁護士中村真「和解に思うこと」には以下の記載があります。
それぞれの性格にもよりますが、
ひどい人だと、
「判決書きたくねえんだ俺は」という態度を
余り隠そうとしない裁判官もいたりして、
そういう場合は、
「原告100万請求で被告は全額否認やから50万な」的な
ダイナミックな和解案が出てくることも少なくありません。

(2) 訴訟の心得80頁には以下の記載があります。
ア 筆者は弁護士になり立ての頃,ある控訴審の事件を受けて,いくつかの主張をする準備書面を書いた。A,さもなくば予備的にB,といった感じである。そうしたら高裁の裁判官が,「Aの部分は陳述,Bの部分は陳述しません。」とおっしゃった。なり立ての筆者は,主位的な主張を陳述させて予備的な主張を陳述させないということは,主位的な主張で勝たせてくれるということかな,と思案して,そのままそれに従った。判決を見たら,敗訴しており,しかもその中で,「Aの主張は認められない。控訴人はBという予備的主張をしないから,控訴棄却」とのたもうた。筆者は心の底からびっくりした。「裁判官が一方的に陳述させないと言い放ったのではないか!」と。
イ  土地所有権確認請求訴訟の第一審で請求を認容された甲が,控訴審において,右土地の時効取得の主張を予備的に追加し,その後これを撤回した場合に,右主張が維持されていれば請求が認容されることも十分に考えられ,誤解ないし不注意に基づいて右の撤回をしたとみられるなどといった事情があるときは,右の撤回について甲の真意を釈明することなく請求を棄却することは,釈明権不行使の違法を免れません(最高裁平成7年10月24日判決)。


12 控訴審の判決書の点検事項
・ 初めて控訴審の事務を担当するあなたへ-控訴審書記官はどのように事件に関わるべきか-(平成19年4月の大阪高裁Qmac民事小委員会の文書)11頁及び12頁には,「第5 判決書の点検」として以下の記載があります。
ここまで述べてきたところは,詰まるところ,当事者の訴えに対する応答である「判決」の充実を目指しているものであることは言うまでもない。だから,幾ら充実した審理を行っても判決で大きな誤りを犯せば,国民の信頼は得られない。書記官の判決点検は,適正で迅速な裁判を求める国民の要請にこたえるために大切な事務である。
◯ 最も大切なのは,①弁論終結時の構成と判決の署名が一致しているかどうか②主文とよって書きが一致しているかどうかの確認だろう。さらに③請求に関する判断がすべてなされているか④不利益変更はないか。この4つはまず最初に点検しよう。続いて⑤事件番号,事件名,言渡し日,弁論終結日の確認⑥当事者,請求,主文等の記録に基づく形式的事項の確認,⑦段落,項立ての確認,⑧表現や呼称(控訴人と被控訴人が逆になっていないか。控訴人ら,控訴人○○など複数の場合の呼称など)の確認をする。
◯ 形式的事項の確認は,誤ると非常に大きな過誤となる(弁論終結時の裁判官の構成や請求と主文の確認など)事項も含まれていることから,特に慎重に行う。また,誤字,脱字のレベルであっても,内容に影響しないなら問題ないとする意見もあろうが,判決を受け取った当事者から見ると,判決の信用性が低下することにもなりかねないので,できる限りなくしていこう。
◯ また形式面にとどまらず,内容面まで点検を行うように心がけよう。
(1) 判決の論理の点検
① 論理の一貫性を備えているか。
判決の理由は,判決の結論の至る過程(論理)を説明し,説得するものであるから,論理の一貫性を備えている必要がある。
② わかりやすく,説得力を備えているかどうか。
③ 判決の記載内容は↑必要かつ十分か。
(2) 条文の確認
言うまでもないことではあるが,適用した条文は直接当たって確認する。条文を確認することによって,その法規の他の要件を落としていないか,判決の表現が条文に合致しているかなども明らかになる。
(3) 引用されている判例の確認
引用されている判例が正確かどうかを確認する。
◯ 点検漏れを防止するには,判決点検表(別紙⑨)が役に立つだろう。

初めて控訴審の事務を担当するあなたへ-控訴審書記官はどのように事件に関わるべきか-(平成19年4月の大阪高裁Qmac民事小委員会の文書)に含まれる文書です。

13 その他民事事件関係のメモ書き
・ 請求について判断しなかった判決(訴え却下,訴訟終了宣言等)に対する控訴提起の手数料は通常の控訴提起手数料額の2分の1の額となります(民事訴訟費用等に関する法律3条,別表第一の4項)(東弁リブラ2015年5月号の「東京高裁書記官に訊く─ 民事部・刑事部 編 ─」参照)。
・ 控訴審において訴の一部取下が適法になされ,かつ,控訴を棄却する場合には,当該取下部分につき主文で原判決の一部取消を言い渡さなくても違法ではありませんし,訴訟費用負担及び仮執行宣言の担保判定は裁判所の自由裁量になります(最高裁昭和37年6月8日判決)。
・ 本案判決に対して控訴がされた後に,不服申立ての対象とされなかった部分につき訴えの利益が損なわれた場合には,控訴審は,同部分につき職権で第1審判決を取り消して訴えを却下すべきです(最高裁平成15年11月11日判決)。
・ 原審の口頭弁論の終結に至るまでに離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において,上訴審が,原審の判断のうち財産分与の申立てに係る部分について違法があることを理由に原判決を破棄し,又は取り消して当該事件を原審に差し戻すとの判断に至ったときには,離婚請求を認容した原審の判断に違法がない場合であっても,財産分与の申立てに係る部分のみならず,離婚請求に係る部分をも破棄し,又は取り消して,共に原審に差し戻すこととなります(最高裁平成16年6月3日判決)。
・ 東京のビジネス弁護士赤塚洋信公式サイト「控訴の手続き(民事訴訟)」には「例えば平成29年度の司法統計によれば、控訴審たる高裁で口頭弁論が行われた事件数1万2538件のうち、1回結審で終わった事件は9830件(約78%)にのぼります。」と書いてあります。
・ いったん終結した弁論を再開すると否とは当該裁判所の専権事項に属し,当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができません(最高裁昭和56年9月24日判決。なお,先例として,最高裁昭和23年4月17日判決,最高裁昭和23年11月25日判決,最高裁昭和38年8月30日判決,最高裁昭和45年5月21日判決)。


第3 刑事事件関係
1 量刑不当を理由とする控訴趣意書の記載
・ 大阪弁護士会作成の「令和2年度司法事務協議会 協議結果要旨」4頁には,大阪高裁が提出した,「2 量刑不当を理由とする控訴趣意書の記載について」という協議事項に関して以下の記載があります。
     量刑不当を理由とする控訴趣意書を作成する際には,その主張の前提となる量刑事情とこれに対する評価をできるだけ具体的に記載されたい。特に,原判決が(量刑の理由で)指摘している量刑事情やその評価を取り上げる場合には,原判決の量刑事情に係る事実認定やその評価内容にどのような問題があるのかについて意識して主張を展開されたい。
(提出理由)
     近時,量刑不当を理由とする控訴趣意書には,原審弁護人が,弁論の中で主張していた量刑事情をそのまま羅列的に記載したものや,原判決が,量刑理由中で明示的に被告人に有利に考慮している事情を繰り返すに止まるようなものが散見される。控訴審という訴訟構造を踏まえて,これに見合った主張内容となるよう改善を求めたい。


2 刑訴法382条の事実誤認
(1) 最高裁平成24年2月13日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう。
② 控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある。
③ 覚せい剤を密輸入した事件について覚せい剤を輸入する認識がなかった旨の弁解が排斥できないなどとして,被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,その弁解が客観的事実関係に一応沿うもので第1審判決のような評価も可能であることなどに照らすと,第1審判決が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず(判文参照),刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,同法411条1号により破棄を免れない。
(2)ア 最高裁平成30年12月14日判決は,検察官上告に基づき,詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして自宅で受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例です。
イ 最高裁令和3年1月29日判決は,検察官上告に基づき,自動車を運転する予定の者に対し,ひそかに睡眠導入剤を摂取させ運転を仕向けて交通事故を引き起こさせ,事故の相手方に傷害を負わせたという殺人未遂被告事件について,事故の相手方に対する殺意を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例です。
ウ 最高裁令和4年5月20日判決は,検察官上告に基づき,外国公務員等に対して金銭を供与したという不正競争防止法違反の罪について,共謀の成立を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例です。


3 刑事控訴審が原判決を破棄する場合,実務上は原則として自判していること
(1) 刑事控訴審としての高裁が原判決を破棄する場合,事件を原裁判所に差し戻し,又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送することが原則であって,手元の記録から直ちに判決をすることができる場合に限り,例外的に自判することになっています(刑事訴訟法400条)。
     しかし,平成18年に終局した事件について言えば,高裁が被告人側の上告に基づいて原判決を破棄した2195件のうち,2163件が自判であり,32件が差戻し又は移送であり,このうち「事実の誤認」を理由とするものについていえば,377件のうち,367件が自判であり,10件が差戻し又は移送です(裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第2回)(平成19年7月13日公表)311頁参照)。
(2) 令和3年7月30日に裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第9回)が公表されましたところ,前述した第2回報告書と同趣旨のデータは確認できません。

4 控訴審の未決算入基準
・ 情状弁護ハンドブック96頁には以下の記載があります。
   現在の実務では,控訴審において原判決が維持された場合には,控訴申立から控訴審判決前日までの日数から60日を引いて計算されるのが一般的です。
    もっとも,未決勾留日数は裁判所の裁量により算入されますのですので,原判決後の情状を考慮しつつも原判決を破棄するまでの事情はないが.相応の情状として認められる場合に未決勾留日数を若干多めに算入して調整することもあります(前掲.原田「量刑判断の実際」236頁)。
    原判決が破棄された場合には,一審判決から控訴審判決前日までの全日数が未決勾留日数として算入されます。したがって,控訴審判決において原判決が破棄されると,実質的に破棄判決からさらに刑が軽減されるという非常に大きな効果をもたらします。

5 裁判員制度の趣旨と控訴審の役割
・ 最高裁平成27年2月3日判決の裁判官千葉勝美の補足意見は,「裁判員制度の趣旨と控訴審の役割」について以下の説示を行っています。
    本件は,第1審の裁判員裁判で死刑が宣告されたが,控訴審でそれが破棄され無期懲役とされた事件であり,これについては,裁判員裁判は刑事裁判に国民の良識を反映させるという趣旨で導入されたはずであるのに,それが控訴審の職業裁判官の判断のみによって変更されるのであれば裁判員裁判導入の意味がないのではないかとの批判もあり得るところである。
    裁判員制度は,刑事裁判に国民が参加し,その良識を反映させることにより,裁判に対する国民の理解と信頼を深めることを目的とした制度である(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)第1条参照)。そして,死刑事件を裁判員制度の対象とすることに関しては,反対する意見も存するところであるが,死刑という究極の刑罰に対する国民の意見・感覚は多様であり,その適用が問題となる重大事件について国民の参加を得て判断することにより,国民の理解を深め,刑事司法の民主的基盤をより強固なものとすることができるのであって,国民の司法参加の意味・価値が発揮される場面でもある。
    ところで,裁判員法の制定に当たり,上訴制度については,事実認定についても量刑についても,従来の制度に全く変更は加えられておらず,裁判員が加わった裁判であっても職業裁判官のみで構成される控訴審の審査を受け,破棄されることがあるというのが,我が国が採用した刑事裁判における国民参加の形態である。すなわち,立法者は,裁判員が参加した裁判であっても,それを常に正当で誤りがないものとすることはせず,事実誤認や量刑不当があれば,職業裁判官のみで構成される上訴審においてこれを破棄することを認めるという制度を選択したのである。その点については,米国の陪審制度の多くは事実認定についての上訴を認めないという形での国民参加の形態を持っているが,これとは異なるものである。
    もっとも,国民参加の趣旨に鑑みると,控訴審は,第1審の認定,判断の当否を審査する事後審としての役割をより徹底させ,破棄事由の審査基準は,事実誤認であれば論理則,経験則違反といったものに限定されるというべきであり,量刑不当については,国民の良識を反映させた裁判員裁判が職業裁判官の専門家としての感覚とは異なるとの理由から安易に変更されてはならないというべきである。
    そうすると,裁判員制度は,このような形で,国民の視点や感覚と法曹の専門性とが交流をすることによって,相互の理解を深め,それぞれが刺激し合って,それぞれの長所が生かされるような刑事裁判を目指すものであり(最高裁平成22年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・刑集65巻8号1285頁参照),私は,このような国民の司法参加を積み重ねることによって,長期的な視点から見て国民の良識を反映した実りある刑事裁判が実現されていくと信じるものである。

6 その他刑事事件関係のメモ書き
(1) 裁判所が自首減軽する必要がないと思ったときは,たとえ自首の事実があっても,特にこれを判決に示す必要はありません(最高裁昭和23年2月18日判決)。
(2) 「刑事施設にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を刑事施設の長又はその代理者に差し出したときは、上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなす。」と定める刑事訴訟法366条1項は,在監者が控訴趣意書を差し出す場合には準用されません(最高裁昭和29年9月11日決定)。
(3) 第一審裁判所から控訴審裁判所への記録の送付が4年1月を費やしたとしても,本件記録が他事件の記録の一部になつており,被告人側から審理促進を求める積極的な申し出もなく,被告人の防禦権の行使に特に障害を生じたものとも認められない等の事情のある本件においては,いまだ憲法37条1項に定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態に立ち至ったものとはいえません(最高裁昭和50年8月6日判決)。
(4)  死刑判決の言渡しを受けた被告人が,その判決に不服があるのに,死刑判決の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ,その影響下において,苦痛から逃れることを目的として控訴を取り下げたなどといった事実関係の下においては,被告人の控訴取下げは,自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものであって,無効です(最高裁平成7年6月28日決定)。
(5) 被告人の記名のみがあり署名押印がいずれもない控訴申立書による控訴申
立ては,同申立書を封入した郵便の封筒に被告人の署名があったとしても,無効です(最高裁令和元年12月10日決定)。
(6) 第1審判決について,被告人の犯人性を認定した点に事実誤認はないと判断した上で,量刑不当を理由としてこれを破棄し,事件を第1審裁判所に差し戻した控訴審判決は,第1審判決を破棄すべき理由となった量刑不当の点のみならず,刑の量定の前提として被告人の犯人性を認定した同判決に事実誤認はないとした点においても,その事件について下級審の裁判所を拘束します(最高裁令和5年10月11日決定)。
(7) 以下の資料を掲載しています。
・ 平成24年度検察庁職員による職務上の過誤調べ→検察月報675号(平成25年6月)からの抜粋
・ 検察官のための過誤防止上の留意点その1ないしその9→平成24年10月から平成25年10月までの検察月報からの抜粋


第4 合議に関する資料
・ 平成28年度司法研究(民事)「地方裁判所における民事訴訟の合議の在り方に関する研究」報告書概要(案)
・ 平成28年度民事事件担当裁判官協議会事前アンケート結果(1/22/2

第5 関連記事その他
 東弁リブラ2015年 5月号「東京高裁書記官に訊く-民事部・刑事部編-」が載っています。
2 近弁連HPに「民事控訴審の審理に関する意見書」(平成30年8月3日付)が載っています。
3(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 破棄等判決・決定等写しの原審送付について定めた平成27年6月22日付の大阪高裁長官書簡
・ 上訴審の判決及び決定の管内への情報提供について(平成27年6月22日付の大阪高裁民事部主任書記官申合せ)
・ 裁判官別事件担任表について定めた平成8年8月12日付の大阪高裁長官書簡
・ 大阪高裁民事部の主任決議集(令和3年3月15日改訂)
・ 訴訟救助事件及び迅速処理のための国庫立替における書記官事務処理要領(平成30年3月16日付の大阪高裁民事部の文書)
・ 高等裁判所における上告提起事件及び上告受理申立て事件の処理について
→ 上告審から見た書記官事務の留意事項(令和3年分)に含まれている資料です。
・ 補助参加事件の対策について(平成30年3月16日付の大阪高裁民事部主任書記官申合せ)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 高裁の部総括判事の位置付け
・ 上告審に関するメモ書き
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情
・ 新様式判決