地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合


目次

1 訴訟が裁判によらないで完結した場合の取扱い(民事訴訟規則67条2項)
2 録音テープ等による調書代用,及び陳述記載書面(民事訴訟規則68条)
3 民事訴訟規則67条及び68条の条文
4 録音反訳方式と速記に関する国会答弁
5 関連記事その他

1 訴訟が裁判によらないで完結した場合の取扱い(民事訴訟規則67条2項)
(1)   訴訟が裁判によらないで完結した場合,裁判長の許可に基づき,尋問調書の作成が省略されます(民事訴訟規則67条2項本文)。
    例えば,当事者尋問をした直後の和解期日で訴訟上の和解が成立した場合,尋問調書の作成は省略されることが多いです。
(2) 当事者が訴訟の完結を知った日から1週間以内に尋問調書を作成すべき旨の申出をした場合,尋問調書が作成されます(民事訴訟規則67条2項ただし書)。

2 録音テープ等による調書代用,及び陳述記載書面(民事訴訟規則68条)
(1)   裁判長の許可に基づき,録音テープ等による調書代用(民事訴訟規則68条1項)があった場合,録音テープ等が尋問調書の代用となりますから,尋問調書は作成されません。
(2)ア   訴訟が完結するまでに当事者の申出があった場合等には,陳述記載書面が作成されます(民事訴訟規則68条2項)。
    この場合,①事件番号,②証人等を取り調べた期日,③証人等の氏名及び④規則68条2項に基づく書面である旨が記載されます。
イ 陳述記載書面の作成者につき,条文上明確は規定はありませんが,通常は,証人等の尋問に立ち会った書記官が作成することになりますし,立ち会った書記官が転勤等の事情により異動した場合,書面作成時における当該事件の担当書記官が作成することになります。
ウ 新民事訴訟法における書記官事務の研究(1)225頁が参考になります。
(3) 民事訴訟規則76条(口頭弁論における陳述の録音)は,調書の記載の正確性を確保するための補助手段として,録音という方法を利用できることを明らかにしたものです。
    これに対して民事訴訟規則68条(調書の記載に代わる録音テープ等への記録)は,口頭弁論における陳述それ自体の記録化の方法として録音が可能であることを前提として,その結果としての録音テープを訴訟記録として活用することを認めているものです。
    そのため,両者の想定する利用方法は異なります(条解民事訴訟規則167頁及び168頁参照)。

3 民事訴訟規則67条及び68条の条文
(1) 民事訴訟規則67条(口頭弁論調書の実質的記載事項・法第百六十条)① 口頭弁論の調書には、弁論の要領を記載し、特に、次に掲げる事項を明確にしなければならない。一 訴えの取下げ、和解、請求の放棄及び認諾並びに自白二 法第百四十七条の三(審理の計画)第一項の審理の計画が同項の規定により定められ、又は同条第四項の規定により変更されたときは、その定められ、又は変更された内容三 証人、当事者本人及び鑑定人の陳述四 証人、当事者本人及び鑑定人の宣誓の有無並びに証人及び鑑定人に宣誓をさせなかった理由五 検証の結果六 裁判長が記載を命じた事項及び当事者の請求により記載を許した事項七 書面を作成しないでした裁判八 裁判の言渡し② 前項の規定にかかわらず、訴訟が裁判によらないで完結した場合には、裁判長の許可を得て、証人、当事者本人及び鑑定人の陳述並びに検証の結果の記載を省略することができる。ただし、当事者が訴訟の完結を知った日から一週間以内にその記載をすべき旨の申出をしたときは、この限りでない。③ 口頭弁論の調書には、弁論の要領のほか、当事者による攻撃又は防御の方法の提出の予定その他訴訟手続の進行に関する事項を記載することができる。(2) 民事訴訟規則68条(調書の記載に代わる録音テープ等への記録)① 裁判所書記官は、前条(口頭弁論調書の実質的記載事項)第一項の規定にかかわらず、裁判長の許可があったときは、証人、当事者本人又は鑑定人(以下「証人等」という。)の陳述を録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録することができる物を含む。以下「録音テープ等」という。)に記録し、これをもって調書の記載に代えることができる。この場合において、当事者は、裁判長が許可をする際に、意見を述べることができる。② 前項の場合において、訴訟が完結するまでに当事者の申出があったときは、証人等の陳述を記載した書面を作成しなければならない。訴訟が上訴審に係属中である場合において、上訴裁判所が必要があると認めたときも、同様とする。4 録音反訳方式と速記に関する国会答弁

・ 40期の中村慎最高裁判所総務局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しました。)。
①   委員が要約調書と速記調書というものの比較をされました。要約調書というのは書記官が概要を書く調書でございますので、それと比較いたしますと、速記調書の方が、まさに逐語的にとっているのでそういう感想が出たんだと思います。
   逐語調書という中におきましては、録音反訳方式と速記の調書、両方がございます。一般的に、裁判利用者の要望については真摯に耳を傾ける必要があると考えております。
   ただ、録音反訳方式でありましても、反訳業者が提出した反訳書を裁判所書記官が確認して、必要に応じて校正を行った上で書記官の調書として完成させておりまして、正確性を欠くということはございません。また、反訳書をつくる期間につきましても、最短の場合では音声データを業者が受領したときから四十八時間で完成させるというような迅速性についても、十分な手当てをしているところでございます。
② このように、録音反訳方式と速記とについては、いずれも逐語録需要に対応するものであるところ、この両者について、どちらがすぐれているということはないというふうに考えておりまして、利用者からの要望のみによって速記録を作成するということにはならないというふうに考えております。

5 関連記事その他
(1) 第4号書式(証人等目録)の「調書の作成に関する許可等」欄につき,①民事訴訟規則67条2項又は170条1項に基づき証人等の陳述の記載を省略する許可があった場合,「調書省略」欄の□にレ点を付け,②民事訴訟規則68条1項に基づき録音テープ等に記録することによって調書の記載に代える許可があった場合,「調書記載に代わる録音テープ等」の□にレ点を付けます。
(2) 最高裁昭和26年2月22日判決は「別件の証人尋問の終了直後に引き続き開始された本件の口頭弁論において、右証人尋問の調書を書証として提出することは、不可能とはいえない。」と判示しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
・ 録音反訳方式による逐語調書
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達


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