裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁

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目次
1 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
2 関連記事その他

1 裁判所速記官の新規養成停止を決定した際の国会答弁
・ 18期の涌井紀夫最高裁判所総務局長は,平成9年3月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 法律上といいますか、裁判所法の定めでは、各裁判所に速記官を置くという規定があるだけでございまして、これは、速記官というものを配置しまして逐語的な供述調書をつくる、そういう体制をとる必要がある庁につきましては裁判所速記官を置くという、そういう規定でございます。
    実は、今回考えております構想といいますのは、今いる速記官八百名余りを一気にその仕事をかえてしまうという案ではございませんで、従前のシステムではなかなかこたえていけないような新しいといいますか、逐語調書の需要にもっと的確かつ機動的にこたえていくような、そういうシステムをつくるために、当分の間はこの速記官制度と併用する形で録音反訳方式を採用していこうということでございます。
    したがいまして、今の、各裁判所に速記官を置くという法律自体とは矛盾しないといいますか、そういうところでございますので、法改正の問題は生じないということで、こういう方針を決めさせていただいたわけでございます。
② 今回の制度見直しを考えました一番大きな理由は、今後の裁判所に提起されてまいります事件の動向というものを見ますと、非常に内容の難しい事件が数の上でもふえてくるだろうと。そうしますと、やはり証人の供述等も、要領を筆記するだけじゃなくて、その言葉どおりに逐語的に調書にとっていく、そういう逐語調書の需要というものがどんどん大きくなってくるだろう。
    ところが御承知のように、現在の裁判所の速記といいますのは、速記官が特殊な速記タイプという機械を用いまして速記をとるというシステムでございまして、これ実は職業病の問題がございまして、速記官一人の立ち会い時間というのがなかなか延ばせない状況になっています。そういう意味で、非常に容量自体が伸びないシステムになっております。こういうシステムでは、今後のそういう裁判上の逐語調書の需要に的確にこたえていくことが難しいんじゃないかということから、こういう制度改正を検討したわけでございます。
    実はそれ以外にも、現行の機械による速記につきましては、速記用のタイプ、これは裁判所だけでしか使われていない機械でございますので、年間に六十台程度の需要しかない機械でございます。これは民間のメーカーでつくっていただいておりますけれども、果たしてこの製造体制というようなものをいつまで維持していただけるかということも非常に難しゅうございます。
    さらに、速記官というのは、高校を卒業いたしました方で適性検査等を合格された方、二年間研修所の設備で非常にハードなトレーニングをやりまして技術を身につけてもらうわけですが、最近の進学事情といいますか、そういうこともございまして、こういう技術を身につけようというお気持ちを持っておられて、またこういう技術を身につけていただける適性を備えた方という、そういう速記官の後継者というものがなかなか得られなくなってきております。
    そういうふうな状況があります一方で、片や民間の方では、速記というのは今や手書き速記からむしろ録音反訳、録音機でとりましたテープをワープロ等を用いまして文字に反訳しているという、そういう業態が通常の形になってきております。そういったところを見まして、今後の裁判所における逐語調書の作成体制ということを考えました場合、やはり裁判所でもこういう新しい方法をとっていかないと国民の裁判所に対する期待にこたえていけないのではないか、こういうところが最大の制度改革の動機になっておるわけでございます。
③ 問題点、人材確保の点とタイプの製造確保の点、二点ございましたわけですが、確かに人材確保の点では、受験者は、このところ、不況の影響もあるのかもしれませんがかなりの数でございまして、九百名を超えるような受験者が来ております。ただ、実はこれ、速記官の場合はある程度、ある程度といいますか、かなりの学力がありませんとその速記の仕事は覚えられないということと、それとやはり適性といいまして、その速記の機械を動かしていけるだけの運動神経といいますか、それから、あと病気にならないような体質といいますか、そういう検査に合格しないといけないわけでございまして、実はそういう試験に通っていただける方というのが非常に少ないということでございます。
    それと、実は合格いたしました方でも、大体今、委員御指摘のように毎年五十名近くの合格者を出すんですけれども、それでは、次の年の三月になって、いよいよ研修所に入って訓練に入ってもらおうという段階になりますと、そのうち大体三割程度の方はもうやめさせてもらいたいということをおっしゃるんです。そういう方は、例えばその後、大学の受験をして大学に進学するようになったのでそっちに行きたいとか、あるいはほかに就職先を見つけたりとかということで脱落をしていくわけでございます。
    さらに、そういう形で三十名程度の方が研修を始められるんですが、二年間の研修についていけないで脱落していくという人がやはり毎年二割ぐらいおります。そういう人たちの処遇をどうするかということも非常に難しい問題になっておりまして、そういうふうなところから、後継者で問題のない方というのを確保していくことがなかなか難しい状況になっておるわけでございます。
    それから、あとタイプの問題ですが、実はこれはこの製造メーカー自体がもともとタイプの製造メーカーでございましたので、委員御指摘のように、かつては裁判所の方から和文タイプの注文をしてそれを納めていただくというふうな取引もあったわけでございますが、この会社自体、つい一、二年前ですが、和文タイプの製造自体をもう打ち切ってしまいまして、和文タイプの供給ももうできなくなっております。実は、このタイプの製造というのは、この会社が全部できるわけではございませんで、百数十の部品でできておりますのが、これ皆下請会社から製造されてまいります部品を使っておるわけですが、これまでにもいろんな部品が下請の方でつくれなくなっております。活字がっくれなくなったり、あるいはタイプ用のインクのリボンがつくれなくなったり、そのたびにその代替策をどうするかで大変非常に苦しい思いをしてきたわけでございまして、そういうことから裁判所に対しても製造打ち切りの申し入れが現にあったこともございます。
    ですから、ここしばらくどうだと言われますと、恐らく数年とかいう単位であれば無理を言って製造を続けていただくことは可能かと思いますが、裁判所速記官というのは、速記官に任官しますのが二十歳でございますので、定年までの仕事を考えますと、四十年くらいこのタイプを使って仕事をしていくという、そういう仕事でございます。果たしてその四十年先あるいはそれより先、それよりもっと短く二十年先を見た場合に、安定的にこのタイプの製造を確保できるかといいますと、我々の見方としては、やはりこれは非常に不安定な状況で、そういう不安定な状況に依拠したままこの制度を維持していくということは非常に問題じゃないかという、こういう問題意識を持っておるわけでございます。
④ 委員御指摘のように、これは制度改革といいましても、かなり大きな影響を持つ制度改革であるということは我々も全く同じ認識でおりまして、実はこの作業を非常に時間をかけてやってきたつもりでございます。
    現実にこの作業にかかりましたのは、平成五年六月に最高裁の中に、これは速記官自身をメンバーに含めましたプロジェクトチームをつくりまして作業を開始しましたので、足かけ五年間の作業になっております。しかも、この間、組合との間ではその当初から何度も何度も繰り返し意見交換をし協議をする。それから、弁護士会との間でも二年近く、いろんな裁判所の速記をめぐります客観的な状況に関する資料も提供し、お互いに意見を聞くという形の意見交換の機会を定期的に、非常に密度濃く繰り返してきております。
    そういうふうな弁護士会との意見交換を踏まえまして、昨年の六月から全国の裁判所で相当大がかりな録音反訳の検証実験をやってみたわけでございます。規模で言いますと二千二百件ぐらいの証拠調べについてこれをやっております。現実にこの証拠調べにお立ち会いになった弁護士さんは数百名おられるわけですが、そういう弁護士さん方には個々に、この録音反訳方式でできた調書のできばえはどうだったかということを一々お尋ねしております。そうしますと、弁護士さんの回答としては、九割を超える方が、従前の速記録と遜色のない、裁判をやっていくに何の不安もない調書ができておりますというお答えをいただいております。
    日弁連の方も、確かに、今の時点で養成をすぐやめてしまうということには不安があるということではございましたけれども、この録音反訳方式を採用するということについては、きちんとした体制が組め、手続的にも問題のないような措置がとられるのであれば積極的に考えていくべきだという、こういう御意見をいただいたわけでございます。
    したがいまして、我々の方としては、委員御指摘のような重大な問題であるということは十分踏まえまして、時間をかけて、また関係者との間でも十分オープンな議論をやった結果、こういう方針を出させていただいたというふうに考えておるわけでございます。
⑤ 「はやとくん」という愛称で呼ばれておりますシステムの内容等を私どもも関心を持って見ておるところでございます。
    ただ、実はこのシステムといいますのは、先ほど説明いたしました速記タイプによる速記技術というものを前提にしているシステムでございます。要するに、速記官が使います速記タイプにコンピューターを接続しまして、その符号を自動的に文字に変換していこうという、こういうシステムなわけでございます。
    したがいまして、実はこのシステムを採用します前提としては、やはり今の機械、速記タイプの機械の製造が確保されるということが前提になりますし、また今の速記で速記をするという技術の習得というものも当然の前提になってくるわけでございます。
    そうしますと、実は先ほど言いましたが、一つは職業病の問題がございまして、この機械を使ったからといって立ち会い時間を延ばせるというものではないわけでございます。それと、一度速記原本に打ちましたものを改めて反訳する場合に比べますと確かに幾分反訳効率は上がるようでございますけれども、実は今の速記といいますのは、証人等の発言が非常に早口になっておりますので、速記だけではもうほとんどとり切れない。かなりの部分を録音機に頼って、そこで補充して記録をとっておるという状況でございますので、その機械を使いましても後で録音テープ等を用いた補充作業がどうしても必要になってまいります。そういう補充作業を入れて考えますと、反訳の効率というのもそんなに著しく、例えば二倍になるとかというようなものではございませんで、例えば従前十時間かかっておりましたものが八時間程度になるかという程度のものでございます。
    そういうところからいたしますと、この「はやとくん」というそのシステム自体、今までの制度が抱えておりました問題点を抜本的に解決するものにはなかなかなり得ないんじゃないかというのが私どもの判断であるわけでございます。

2 関連記事その他
(1) 平成9年2月26日開催の最高裁判所裁判官会議において「これからの逐語録作成方法と速記官制度について」と題して以下の決定がなされました。
    録音反訳検証実験報告書[提言編]に基づき,次のとおり方針を決定する。
    速記官制度を取り巻く客観状況を踏まえ,今後増大すると予測される逐語録需要に的確かつ機動的にこたえるために,可及的速やかに録音反訳方式の導入を開始する。
    逐語録作成の代替方法がある一方で,速記官制度の基盤が将来的に極めて不安定な状況の中で特殊技能習得のための厳しい訓練を伴う速記官の養成を続けることは適当でないこと等にかんがみ,速記官の新規の養成は平成10年4月以降停止することとし,当分の間は現に在職している速記官による速記と録音反訳方式を併用する形で,緩やかに録音反訳方式への移行を図る。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所速記官
・ 録音反訳方式による逐語調書
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続

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