弁護士山中理司

衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案

目次
1 衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案
2 国会同意人事案件の審査手続
3 国会同意人事案の事前漏洩
4 関連記事その他

1 衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案
(令和時代)
令和7年:1月28日2月28日4月10日11月11日
令和6年:2月1日3月7日11月28日
令和5年:1月23日2月14日5月12日10月25日
令和4年:1月20日3月1日10月6日
令和3年:1月21日3月9日12月7日
令和2年:1月28日3月17日10月29日
令和元年:5月15日11月13日
(平成時代)
平成4年平成5年平成6年平成7年
平成8年平成9年平成10年平成11年
平成12年平成13年平成14年平成15年
平成16年平成17年平成18年平成19年
平成20年平成21年平成22年平成23年
平成24年平成25年平成26年平成27年
平成28年平成29年平成30年平成31年
*1 ①令和元年5月15日提示から令和4年10月6日提示までの分及び②平成4年4月1日から平成31年4月30日までの提示分をまとめて掲載しています。
*2 令和時代に関しては,「衆参両院の議院運営委員会に提示した国会同意人事案(令和◯年◯月◯日提示)」といったファイル名で掲載しています。

2 国会同意人事案の審査手続
(1)  吉川さおり参議院議員(全国比例)コラム「国会同意人事とは」には以下の記載があります。
国会同意人事とは、衆参両院の同意が必要な人事案件で、日本銀行総裁や日本放送協会経営委員、公正取引委員会委員長など、約40機関の250人以上が対象となるものです。
流れとしては、内閣が衆参両院の議院運営委員会理事会に人事案を提示後、10日程度を経て議決するのが慣例となっています。ただ、最近は、各会派の賛否の議論が出揃うタイミングや議事日程との関係等により、内示後10日程度より後の議決が多くなっています。
(2) 参議院HPの「国会キーワード76 同意人事案件」には以下の記載があります。
    同意人事案件とは、一定の独立性、中立性が求められる機関の構成員の任命について、各機関の根拠法に基づき、内閣が両議院の事前の同意又は事後の承認を求めるものです。現在、その対象は人事官(3名)や検査官(3名)等36機関253名に上ります。
    その審査手続について、法規上の規定はありませんが、先例上「内閣から同意又は承認を求められたときは、まず議院運営委員会において内閣から説明を聴取し、同委員会の決定があった後、議院の会議において議決するのを例とする」とされているほか、衆参の議運委員長申合せに沿って審査されています。具体的には、①内閣官房副長官が各院の議運理事会に内示(衆参同時)、②各会派で賛否を検討、③議運委員会で関係副大臣等から説明聴取の後、採決、④本会議で採決、⑤両院で同意の後、内閣において任命、の順に行われます。なお、人事官、検査官、公正取引委員会委員長、原子力規制委員会委員長、日本銀行総裁・副総裁については、各院の議運委員会で所信聴取・質疑を行います。


3 国会同意人事案の事前漏洩
(1) 衆議院議員鈴木宗男君提出国会同意人事を巡る政府の対応に関する再質問に対する答弁書(平成20年6月20日付)は,下記1等の質問に対し,下記2の回答をしています。

記1

一 衆参両院の同意が必要で、今国会中の処理が求められており、当初衆参の議院運営委員長らで構成される議院運営委員会両院合同代表者会議に一括して提示される予定だった九機関二十四人分の国会同意人事のうち、日銀政策委員会審議委員と預金保険機構理事長の二件(以下、「二件」という。)が本年五月二十七日付の新聞朝刊で報道されたことを受け、野党側が強く反発し、「二件」の国会同意を得るのが一時困難になった旨報じられたことにつき、前回質問主意書で、「二件」の人事案件が事前に報道機関に報じられたのはなぜか、政府において「二件」の人事案件を報道機関に漏らしたのは誰かと問うたところ、「前回答弁書」では「御指摘の二件の人事案件について、政府案を議院運営委員会両院合同代表者会議に提示する前にその内容が報道された経緯等については承知していない」との答弁がなされているが、「二件」を漏らしたのは町村信孝内閣官房長官ではないのか。

記2

先の答弁書(平成二十年六月六日内閣衆質一六九第四四三号)の一、二、四及び五についてで述べたとおり、御指摘の二件の人事案件について、政府案を議院運営委員会両院合同代表者会議に提示する前にその内容が報道された経緯等については承知していないが、今後かかる事態が生じないよう、政府としては十分情報管理に注意してまいる所存であり、お尋ねに対して適切に答弁しているものと認識している。
(2) ヤフージャパンニュースの「雨宮副総裁の名前が報道された次期日銀総裁人事案の「背景」」(2023年2月8日付)には以下の記載があります。
日経新聞が雨宮副総裁の名を掲載
飯田)6日に日経新聞が「黒田総裁の後任として雨宮副総裁に就任を打診した」と書いて、ハレーションが起きました。
高橋)昔は国会に関係なくリークすることもありました。民主党時代だったでしょうか。そのときから国会同意人事については絶対にリークさせないように動いていた。
飯田)衆参がねじれていたころに、総裁人事がリークされて新聞に載ったら、「リークされた人事は承服できない」と言って……。
高橋)そう言っていたのが懐かしいくらい、とても古いタイプの人事ですね。そのあとの安倍政権では漏れていません。
(3) 黒田東彦日銀総裁(令和5年4月8日任期満了)の後任となる日銀総裁の人事案は令和5年2月14日に衆参両院の議院運営委員会に提示される予定でしたが,同月10日に報道されました(NHK NEWS WEBの「首相が日銀総裁起用意向の植田氏“現状は金融緩和継続が重要”」(2023年2月10日付)参照)。


4 関連記事その他
(1) 最高裁判所裁判官及び高等裁判所長官の人事は,国会同意人事案の対象にはなっていません。
(2) 参議院本会議は,平成20年3月12日,武藤敏郎(元大蔵事務次官及び財務事務次官。日銀副総裁)を日銀総裁とし,伊藤隆敏(東京大学大学院経済学研究科教授)を日銀副総裁とする人事案を否決し,同月19日,田波耕治(元大蔵事務次官)を日銀総裁とする人事案を否決し,同年4月9日,渡辺博史(元財務官)を日銀副総裁とする人事案を否決しました。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 高等裁判所長官を退官した後の政府機関ポストの実例
・ 各府省幹部職員の任免に関する閣議承認の閣議書
・ 最高裁判所長官任命の閣議書
・ 最高裁判所判事任命の閣議書
・ 高等裁判所長官任命の閣議書
・ 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書
・ 内閣法制局長官任命の閣議書

角田ゆみ裁判官(47期)の経歴

生年月日 S39.7.24
出身大学 不明
退官時の年齢 58歳
R4.12.1 依願退官
R2.4.1 ~R4.11.30 東京地家裁立川支部判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 大阪高裁3民判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 さいたま地家裁川越支部判事
H23.4.1 ~ H26.3.31 横浜家地裁判事
H19.4.1 ~ H23.3.31 さいたま家地裁熊谷支部判事
H17.4.12 ~ H19.3.31 東京地裁判事
H16.4.1 ~ H17.4.11 東京地裁判事補
H12.4.1 ~ H16.3.31 名古屋地家裁岡崎支部判事穂
H9.4.1 ~ H12.3.31 佐賀地家裁判事補
H7.4.12 ~ H9.3.31 福岡地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の早期退職
・ 50歳以上の裁判官の依願退官の情報
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

遠藤曜子裁判官(44期)の経歴

生年月日 S40.2.12
出身大学 不明
退官時の年齢 57歳
R4.12.1 依願退官
R3.4.1 ~ R4.11.30 横浜地家裁川崎支部判事
H29.4.1 ~ R3.3.31 東京家地裁立川支部判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 千葉地裁1民判事
H23.4.1 ~ H26.3.31 大阪高裁8民判事(弁護士任官・二弁)

* 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の早期退職
・ 50歳以上の裁判官の依願退官の情報
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部
・ 弁護士任官者研究会の資料
・ 弁護士任官候補者に関する下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申状況
・ 弁護士任官希望者に関する情報収集の実情
・ 弁護士任官に対する賛成論及び反対論
・ 法曹一元

濱谷由紀裁判官(41期)の経歴

生年月日 S37.7.14
出身大学 不明
定年退官発令予定日 R9.7.14
R6.4.1 ~ 大阪家裁家事第1部部総括
R4.11.29 ~ R6.3.31 京都家裁家事部部総括
R2.4.1 ~ R4.11.28 大阪家地裁堺支部判事
H31.4.1 ~ R2.3.31 大阪高裁10民判事(家事抗告集中部)
H29.4.1 ~ H31.3.31 大阪高裁7民判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 奈良地家裁葛城支部判事
H23.4.1 ~ H26.3.31 広島高裁岡山支部判事
H19.4.1 ~ H23.3.31 大津地家裁判事
H16.4.1 ~ H19.3.31 大阪家地裁岸和田支部判事
H13.4.1 ~ H16.3.31 大阪家地裁判事
H11.4.11 ~ H13.3.31 京都地家裁宮津支部判事
H10.4.1 ~ H11.4.10 京都地家裁宮津支部判事補
H7.4.1 ~ H10.3.31 京都家地裁判事補
H3.4.1 ~ H7.3.31 高松地家裁判事補
H1.4.11 ~ H3.3.31 大阪地裁判事補

*1 「浜谷由紀」と表記されることがあります。
*2 以下の記事も参照してください。
・ 部の事務を総括する裁判官の名簿(昭和37年度以降)
・ 高等裁判所の集中部
・ 高等裁判所支部
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部

労働基準法に関するメモ書き

目次
1 労働条件通知書
2 賃金の減額
3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
4 法定4帳簿
5 賃金支払の5原則
6 解雇
7 解約権留保付雇用契約
8 働き方改革
9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
10 関連記事その他

1 労働条件通知書
(1)ア 使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)ところ,厚生労働省HPに「労働条件通知書」が載っています。
イ 労働条件通知書の絶対的記載事項及び相対的記載事項は労働基準法施行規則5条1項で定められています。
(2)ア 平成31年4月1日,労働者の希望があるような場合,FAX,電子メール又はSNSメッセージにより労働条件を通知できるようになりました(労働基準法施行規則5条4項のほか,厚生労働省HPの「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」参照)。
イ 令和6年4月1日,以下の事項が労働条件明示事項に追加されます(厚生労働省HPの「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」参照)。
① 就業場所・業務の変更の範囲
② 更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容
③ 無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件
(3) NTTコムオンライン「給与明細の電子化 労働条件通知書の電子化で業務効率アップ」には以下の記載があります。
    時間や手間をなるべくかけないように工夫し、「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する企業もあります。基本は労働条件通知書で作成し、書類の項目の1つに「そのほか」を設けるのです。「そのほか」の項目には、「社会保険の加入状況」「雇用保険の適用の有無」、そのほかに必要な事項の記載を加えます。さらに、日付や住所、名前などの署名欄スペースも作成して、雇用契約書としての役割も兼ねる書類にします。
(4) 労働政策研究・研修機構HP「福利厚生と労働法上の諸問題」には以下の記載があります。
    労働契約の締結にあたり, 使用者が労働者に対して明示を義務づけられる労働条件については福利厚生を含めない限定的な取扱いがなされている (同法 15 条, 同法施行規則 (労基則) 5 条)
(中略)
    就業規則その他で支給条件等が定められた福利厚生については, 明示事項のどれかに該当すれば (例えば, 研修補助は 「職業訓練に関する事項」,永年勤続表彰金は 「表彰及び制裁に関する事項」) ,これに含めて明示されるべきことになろう。 また,後述のとおり福利厚生 (給付) でも支給基準が明確で賃金として扱われるもののうち, 住宅手当や家族手当等のように毎月 1 回以上一定期日に支払われる手当 (労基法 24 条 2 項本文参照) は賃金に含めて書面で明示すべき取扱いがされている (平成 11・3・31 基発 168 号) 。 しかし, それ以外の福利厚生については明示の必要はなく, 明示された場合でも明示の内容と事実とが異なっていても,労基法 15 条 2 項による労働契約の即時解除はできないと解される (昭和 23・11・27 基収 3514 号) 。


2 賃金の減額
(1) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されます(山梨県民信用組合事件に関する最高裁平成28年2月19日判決。なお,先例として,最高裁昭和48年1月19日判決及び最高裁平成2年11月26日判決等参照)。
イ 弁護士による労働問題総合サイト「労働条件の不利益な変更(賃金が減額の場合など)について」が載っています。
(2) 第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決は,55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例です。


3 労働者の賃金請求権の消滅時効期間の延長
(1) 令和2年4月1日以降に支払期日が到来するすべての労働者の賃金請求権の消滅時効期間は3年となりました(労働基準法附則143条3項)ところ,消滅時効期間延長の対象となる具体的な請求権は以下のとおりです。
・ 金品の返還(労働基準法23条。賃金の請求に限る。)
・ 賃金の支払(労働基準法24条)
・ 非常時払(労働基準法25条)
・ 休業手当(労働基準法26条)
・ 出来高払制の保障給(労働基準法27条)
・ 年次有給休暇中の賃金(労働基準法39条9項)
・ 未成年者の賃金(労働基準法59条)
(2) 退職手当の消滅時効期間は5年であり,災害補償請求権及び年次有給休暇請求権の消滅時効期間は2年のままです。
(3) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)60頁ないし63頁に詳しい説明が載っています。


4 法定4帳簿
(1) 労働基準法令に基づく法定4帳簿は以下のとおりです。
① 労働者名簿(労基法107条)
・ 労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間保存する必要があります。
② 賃金台帳(労基法108条)
・ 労働者の最後の賃金について記入した日から3年間保存する必要があります。
③ 出勤簿等(労基法109条)
・ 労働者の最後の出勤日から3年間保存する必要があります。
④ 年次有給休暇管理簿(労基法施行規則24条の7)
・ 平成31年4月1日以降に法定帳簿となりました。
(2)ア 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入れ,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条・143条1項)。
イ 使用者は,年次有給休暇管理簿を,有給休暇を与えた期間の満了後3年間保存する必要があります(労働基準法施行規則24条の7・72条)。
(3) 社労士・行政書士はまぐち総合法務事務所HP「年次有給休暇管理簿【法定帳簿】」に,年次有給休暇管理簿の書式が載っています。


5 賃金支払の5原則
(1) 賃金支払の5原則は,①通貨で,②直接労働者に,③全額を,④毎月1回以上,⑤一定の期日を定めて支払わなければならないことをいいます(労働基準法24条)。
(2) 使用者は,労働者の同意を得た場合,労働者の預貯金口座に賃金を振り込むことができます(労働基準法施行規則7条の2第1項1号)。
(3) 労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同項が適用され,使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず,その賃金債権の譲受人は,自ら使用者に対してその支払を求めることは許されません(最高裁令和5年2月20日決定。なお,先例として,最高裁昭和43年3月12日判決参照)。


6 解雇
(1) 総論
ア 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
イ 退職に関する時効(解雇の事由を含む。)は就業規則の絶対的記載事項です(労働基準法89条3号)。
ウ 労働基準法20条所定の予告手当として30日分以上の平均賃金の支払がされないなど即時解雇としては効力を生じない場合であっても,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後同条所定の30日の期間を経過したときなどには,解雇の効力を生じます(最高裁昭和35年3月11日判決参照)。
(2) 普通解雇
ア 最高裁判例
・ 就業規則所定の懲戒事由があることを理由に普通解雇をする場合,普通解雇の要件を備えていれば足り,懲戒解雇の要件を満たす必要はありません(最高裁昭和52年1月31日判決)。
 最高裁平成22年5月25日判決は,統括事業部長を兼務する取締役の地位にある従業員に対して会社がした普通解雇が,当該従業員に対する不法行為を構成するとはいえないとされた事例です。
イ 下級裁判所の裁判例
・ 東京地裁平成9年9月11日決定(判例体系に掲載)は,「使用者の行う普通解雇は、民法に規定する雇用契約の解約権の行使にほかならず、解雇理由には制限はない(但し、解雇権濫用の法理に服することはいうまでもない。)から、就業規則等に使用者が労働者に対して解雇理由を明示する旨を定めている場合を除き、解雇理由を明示しなかったとしても解雇の効力には何らの影響を及ぼさず、また、解雇当時に存在した事由であれば、使用者が当時認識していなかったとしても、使用者は、右事由を解雇理由として主張することができると解すべきである。」と判示しています。
・ 東京高裁平成22年1月21日判決(判例秘書に掲載)は,「普通解雇については,事後的に解雇事由を追加することができるものと解するのが相当である。被控訴人の援用する最高裁平成8年(オ)第752号同年9月26日第一小法廷判決・裁判集民事180号473頁は,懲戒解雇の事案に係るものであって,本件に適切でない。」と判示しています。
・ 東京高裁令和5年4月5日判決(判例タイムズ1516号)は,有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇が有効と判断された事例です。
(3) 懲戒解雇
・ 最高裁平成6年12月20日判決は,私立学校の校内において教職員が組合活動として行ったビラの配布行為が無許可のビラ配布等を禁止する就業規則に違反しないとされた事例です。
・ 使用者が労働者に対して行う懲戒は,労働者の企業秩序違反行為を理由として,一種の秩序罰を課するものであるから,具体的な懲戒の適否は,その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものです。
そのため,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかですから,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできません(最高裁平成8年9月26日判決)。
・ 従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなどといった事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効です(最高裁平成18年10月6日判決参照)。


7 解約権留保付雇用契約
(1)ア 試用契約における解約権の留保は,大学卒業者の新規採用にあたり,採否決定の当初においては,その者の資質,性格,能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い,適切な判定資料
を十分に蒐集することができないため,後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され,今日における雇用の実情にかんがみるときは,このような留保約款を設けることも,合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが,他方,雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき,留保解約権の行使は,右のような解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されます(最高裁昭和54年7月20日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。
イ 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また,知ることが期待できないような事実であつて,これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ,社会通念上相当として是認することができるものに限られます(最高裁昭和54年7月20日判決)。
(2) 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段異なるところはなく,試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,当該雇用契約は解約権留保付雇用契約です(最高裁平成2年6月5日判決)。

8 働き方改革
(1)ア 厚生労働省HPに「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」(平成30年9月7日付の厚生労働省労働基準局長の通知)が載っています。
イ 厚生労働省HPに「労働基準法に関するQ&A」「「働き方」が変わります!!2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行されます」が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「「新しい時代の働き方に関する研究会」の報告書を公表します」(令和5年10月20日付)新しい時代の働き方に関する研究会の報告書及び参考資料が載っています。
(2) 働き方改革の中身としては,年次有給休暇の時季指定時間外労働の上限規制及び同一労働同一賃金があります(厚生労働省の働き方改革特設サイト参照)。
(3) 働き方・休み方改善ポータルサイト「病気療養のための休暇」が載っています。
(4) 働き方改革研究所HP「労基法改正に向けて、今知っておきたい「フレックスタイム制」の基礎知識」が載っています。


9 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要
・ 最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要を以下のとおり掲載しています。
①   「労働事件の一般的問題」結果概要
→ 時間外手当(実労働時間),時間外手当(審理運営),時間外手当(固定残業代),定年後の再雇用拒否,セクハラ・パワハラ,労働契約法18条,降格,就業規則の不利益変更,普通解雇及び懲戒解雇に関する裁判官の議論が載っています。
②   「労働事件を巡る実務上の諸問題」結果概要
→ 休職,使用者がとるべき対応,業務起因性,労働時間の認定方法,時間外手当,定年後の再雇用拒否,労働契約法20条,労働審判(セクハラ・パワハラ等の審理運営),労働審判(テレビ会議システム等)及び労働審判(適正な手続選択)に関する裁判官の議論が載っています。


10 関連記事その他
(1) 東京地裁の場合,11民,19民及び36民が労働専門部となっています(東京地裁HPの「労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い」参照)。
(2)ア 経営ハッカーHP「労働基準監督官が実施する「臨検(りんけん)」では、具体的に何が調査されるのか 」及び「労働基準監督官とは,どのような権力を持っている人物なのか」が載っています。
イ 労働基準監督署対策相談室HPが参考になります。
ウ ろーきしょ!ブログに労働基準監督官に関する様々な説明が載っています。
(3)ア 二弁フロンティア2023年7月号「裁判官から見た労働関係訴訟の主張立証のポイント」(講演者は36期の渡邉弘裁判官)が載っています。
イ 大阪府HPに「労働相談ポイント解説」が載っています。
(4)ア 東弁リブラ2012年11月号の「東京地裁書記官に訊く─ 労働部 編 ─ 」には以下の記載があります。
    労働債権の場合の義務履行地というのは,普通は会社から給料をもらうという発想から,営業所の所在地が義務履行地とされますが,退職金については,すでに会社を辞めているのだから,労働者の住所地が義務履行地になるという考え方になります。
イ 影山法律事務所HPの「賃金債権の義務履行地はどこか」には以下の記載があります。
    賃金債権も金銭債権の一種ですから、その義務履行地は債権者、すなわち労働者の現在の住所であることになりそうです。そうであれば、労働者の現在の住所を管轄する裁判所に提訴できる、ことになります。実際、賃金債権の一種である退職金債権について、この理を認めた裁判例があります(東高決S60.3.20東高民時報36巻3号40頁)。
ところが、古い裁判例には、この理を否定し、「給料債権」の義務履行地は使用者の営業所であるとしたものがあります(東高決S38.1.24下民集14巻1号58頁)。
(5) 最高裁平成9年3月27日判決は,一部の組合員の定年及び退職金支給基準率を不利益に変更する労働協約の規範的効力が認められた事例です。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 労働審判手続における当事者に対する住所・氏名等の秘匿制度に関する事務処理上の留意点について(令和4年12月22日付の最高裁行政局第二課長の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 年次有給休暇に関するメモ書き
・ 有期労働契約に関するメモ書き
・ 同一労働同一賃金
・ 高年齢者雇用安定法に関するメモ書き
・ 個人事業主の税金,労働保険及び社会保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き
(労災保険関係)
・ 労働保険に関するメモ書き
・ 労災隠し
・ 損益相殺
・ 反社会的勢力排除条項に関するメモ書き
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 労災保険の特別加入制度
・ 労災保険に関する審査請求及び再審査請求
・ 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について

瀬戸茂峰裁判官(50期)の経歴

生年月日 S43.7.20
出身大学 不明
定年退官発令予定日 R15.7.20
R5.4.1 ~ 大阪高裁1民判事
R2.4.1 ~ R5.3.31 大津地家裁判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 東京地家裁立川支部判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 大阪地裁14民判事(執行部)
H23.4.1 ~ H26.3.31 松山地家裁判事
H20.4.12 ~ H23.3.31 大阪地裁22民判事
H20.4.1 ~ H20.4.11 大阪地裁判事補
H18.4.1 ~ H20.3.31 新潟地家裁佐渡支部判事補
H15.3.31 ~ H18.3.31 大阪地家裁判事
H12.4.1 ~ H15.3.30 名古屋法務局訟務部付
H12.3.25 ~ H12.3.31 名古屋地裁判事補
H10.4.12 ~ H12.3.24 仙台地裁判事補

* 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所の専門部及び集中部
・ 地方裁判所支部及び家庭裁判所支部
・ 判事補の外部経験の概要
・ 行政機関等への出向裁判官
・ 判検交流に関する内閣等の答弁

自動車運送事業の運行管理者等に関するメモ書き

目次
第1 総論
第2 運行管理者試験及び運行管理者指導講習
第3 運行管理者(旅客)
1 運行管理者の選任及び解任
2 運行管理者の選任要件
3 運行管理者の必要人数
4 タクシーの運行管理者の業務
第4 運行管理者(貨物)
1 運行管理者の選任及び解任
2 運行管理者の選任要件
3 運行管理者の必要人数
4 トラックの運行管理者の業務
第5 点呼
1 旅客自動車運送事業の場合
2 貨物自動車運送事業の場合
第6 IT点呼及び遠隔点呼
1 IT点呼
2 遠隔点呼
第7 運行管理者の補助者
第7の2 運行管理制度の強化
第8 運行管理者制度の根拠となる法令及び通達
第9 安全運転管理者制度
第10 タクシーの配車に関するメモ書き
第11 関連記事その他

第1 総論
1 運行管理者とは,道路運送法及び貨物自動車運送事業法に基づき,事業者に代わって事業用自動車の運行の安全を確保するための業務を行なう者をいいます(道路運送法23条及び貨物自動車運送事業法18条)。
2 運行管理者は,①自動車運送の安全運行の確保及び交通事故の防止を図ったり,②事業者と運転者のパイプ役となったり,③絶えず運行管理業務の改善を図ったりします(運行管理者ハンドブック2016・2頁及び3頁参照)。
3 一つの営業所において複数の運行管理者を選任する場合,統括運行管理者を選任する必要があります。

第2 運行管理者試験及び運行管理者指導講習
1 運行管理者試験
(1) 公益財団法人運行管理者試験センターが実施している運行管理者試験(毎年2回実施)には貨物と旅客の2種類がありますところ,出題分野は以下のとおりです。
① 貨物自動運送事業法関係(貨物試験の場合)又は道路運送法関係(旅客試験の場合)
② 道路運送事業法関係
③ 道路交通法関係
④ 労働基準法関係
⑤ その他運行管理者の業務に関し,必要な実務上の知識及び能力
(2) 資格のキャリカレHP「運行管理者試験の合格率や難易度、勉強方法を詳しく解説」が載っています。
2 運行管理者指導講習
・ 自動車事故対策機構(NASVA)では,国土交通大臣の認定を受けて基礎講習,一般講習及び特別講習を開催しておりますところ,運送事業者において選任されている運行管理者は,定期的に一般公衆又は基礎講習を受講することが法令により義務付けられています(自動車事故対策機構HP「運行管理者指導講習の概要」参照)。

第3 運行管理者(旅客)
1 運行管理者の選任及び解任
(1) 一般旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため,営業所ごとに,運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから,運行管理者を選任しなければなりません(道路運送法23条1項,旅客自動車運送事業運輸規則47条の9)。
(2) 運行管理者を選任又は解任した場合,届出事由が発生した日から15日以内に管轄する運輸支局に届け出る必要があります(道路交通法23条3項参照)。
2 運行管理者の選任要件
(1) 運行管理者の選任要件は以下のとおりです(道路運送法23条の2第1項参照)。
① 運行管理者試験に合格した者
② 5年以上の実務経験があり,かつ,その間に一般講習を5回以上修了している者(うち1回は基礎講習を修了していること。)
(2) 平成28年12月1日以降に一般貸切旅客自動車運送事業者(例えば,貸切バスの会社)の運行管理者をするためには運行管理者試験に合格している必要があります(旅客自動車運送事業運輸規則48条の5で定められていないため。)。
3 運行管理者の必要人数
(1) 営業所にある乗合バスが39台以下の場合,又は営業所にあるタクシーが39台以下の場合,運行管理者は1人だけでいいです。
(2) 貸切バスの場合,平成29年12月1日以降については運行管理者は2名以上が必要となります。
4 タクシーの運行管理者の業務
(1) 旅客の運送管理者の職務は道路運送法23条の5及び旅客自動車運送事業運輸規則48条に記載されていますところ,タクシーの運行管理者の業務としては以下のものがあります(タクシー転職応援ナビ「タクシーの運行管理者の仕事内容とは?運行管理者になるための適性や資格取得について解説します」参照)。
① 乗務するドライバーの点呼
② ドライバーの健康状態の把握
③ 勤務シフトの管理
④ 電話対応及び配車手配
⑤ 営業の管理
⑥ 事故対応・クレーム対応
⑦ 接客や安全運転についての指導
⑧ 忘れ物の管理
⑨ 車両の整備、メーターの検査
⑩ 休憩室などの整備、保守管理
(2) 近畿運輸局HP「運行管理者の仕事(バス編)」及び「運行管理者の仕事(タクシー編)」が載っています。

第4 運行管理者(貨物)
1 運行管理者の選任及び解任
(1) 一般旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運行の安全の確保に関する業務を行わせるため,営業所ごとに,運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから,運行管理者を選任しなければなりません(貨物自動車運送事業法18条1項,貨物自動車運送事業輸送安全規則18条)。
(2) 運行管理者を選任又は解任した場合,届出事由が発生した日から7日以内に管轄する運輸支局に届け出る必要があります(貨物自動車運送事業法18条2項参照)。
2 運行管理者の選任要件
・ 運行管理者の選任要件は以下のとおりです(貨物自動車運送事業法19条1項参照)。
① 運行管理者試験に合格した者
② 5年以上の実務経験があり,かつ,その間に一般講習を5回以上修了している者(うち1回は基礎講習を修了していること。)
3 運行管理者の必要人数
・ トラックが29両までの場合,運行管理者は1人だけでです。
4 トラックの運行管理者の業務
・ 貨物の運送管理者の職務は貨物自動車運送事業法22条及び貨物自動車運送事業輸送安全規則20条に記載されていますところ,例えば,以下の業務があります(運送業支援センターHP「トラック運送会社の運行管理者の日常の業務」参照)。
① 乗務員台帳及び乗務員証等の作成
② 運転者の指導監督
③ 事業用自動車の運転者の乗務割の作成
④ 点呼
⑤ 乗務記録(運転日報)の管理
⑥ 事故の記録
⑦ 安全運行の指示
⑧ 休憩・睡眠施設の保守管理


第5 点呼
1 旅客自動車運送事業の場合
(1) 旅客自動車運送事業運輸規則24条(点呼等)1項及び2項は以下のとおりです(1項は乗務前点呼であり,2項は乗務後点呼です。)。
① 旅客自動車運送事業者は、乗務しようとする運転者に対して対面(運行上やむを得ない場合は電話その他の方法。次項において同じ。)により点呼を行い、次の各号に掲げる事項について報告を求め、及び確認を行い、並びに事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な指示を与えなければならない。ただし、輸送の安全及び旅客の利便の確保に関する取組が優良であると認められる営業所において、旅客自動車運送事業者が点呼を行う場合にあつては、当該旅客自動車運送事業者は、対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定めた機器による点呼を行うことができる。
一 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第四十七条の二第一項及び第二項の規定による点検の実施又はその確認
二 酒気帯びの有無
三 疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができないおそれの有無
② 旅客自動車運送事業者は、事業用自動車の乗務を終了した運転者に対して対面により点呼を行い、当該乗務に係る事業用自動車、道路及び運行の状況について報告を求め、並びに酒気帯びの有無について確認を行わなければならない。この場合において、当該運転者が他の運転者と交替した場合にあつては、当該運転者が交替した運転者に対して行つた第五十条第一項第八号の規定による通告についても報告を求めなければならない。ただし、輸送の安全及び旅客の利便の確保に関する取組が優良であると認められる営業所において、旅客自動車運送事業者が点呼を行う場合にあつては、当該旅客自動車運送事業者は、対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定めた機器による点呼を行うことができる。
(2) 旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用についてには以下の記載があります(リンク先の13頁及び14頁)。
① 「運行上やむを得ない場合」とは、遠隔地で乗務が開始又は終了するため、乗務前点呼又は乗務後点呼が乗務員が所属する営業所において対面で実施できない場合等をいい、車庫と当該車庫を所管する営業所が離れている場合、早朝・深夜等において点呼執行者が営業所に出勤していない場合等は「運行上やむを得ない場合」には該当しない。
(中略)

また、点呼は営業所において行うことが原則であるが、営業所と車庫が離れている場合等、必要に応じて運行管理者等を車庫へ派遣して点呼を行う等、対面点呼を確実に実施するよう指導すること。
② 「その他の方法」とは、 携帯電話、業務無線等により運転者と直接対話できるものでなければならず、電子メール、FAX等一方的な連絡方法は該当しない。
また、電話その他の方法による点呼を運転中に行ってはならない。
2 貨物自動車運送事業の場合
(1) 貨物自動車運送事業輸送安全規則7条(点呼等)1項及び2項は以下のとおりです(1項は乗務前点呼であり,2項は乗務後点呼です。)。
① 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の乗務を開始しようとする運転者に対し、対面(運行上やむを得ない場合は電話その他の方法。次項において同じ。)により点呼を行い、次に掲げる事項について報告を求め、及び確認を行い、並びに事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な指示をしなければならない。ただし、輸送の安全の確保に関する取組が優良であると認められる営業所において、貨物自動車運送事業者が点呼を行う場合にあっては、当該貨物自動車運送事業者は、対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定めた機器による点呼を行うことができる。
一 酒気帯びの有無
二 疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができないおそれの有無
三 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第四十七条の二第一項及び第二項の規定による点検の実施又はその確認
② 貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の乗務を終了した運転者に対し、対面により点呼を行い、当該乗務に係る事業用自動車、道路及び運行の状況並びに他の運転者と交替した場合にあっては第十七条第四号の規定による通告について報告を求め、及び酒気帯びの有無について確認を行わなければならない。ただし、輸送の安全の確保に関する取組が優良であると認められる営業所において、貨物自動車運送事業者が点呼を行う場合にあっては、当該貨物自動車運送事業者は、対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定めた機器による点呼を行うことができる。
(2) 貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用についてには以下の定めがあります(リンク先の6頁)。
「運行上やむを得ない場合」とは、遠隔地で乗務が開始又は終了するため、乗務前点呼又は乗務後点呼を当該運転者が所属する営業所において対面で実施できない場合等をいい、車庫と営業所が離れている場合及び早朝・深夜等において点呼執行者が営業所に出勤していない場合等は「運行上やむを得ない場合」には該当しない。
なお、当該運転者が所属する営業所以外の当該事業者の営業所で乗務を開始又は終了する場合には、より一層の安全を確保する観点から、当該営業所において当該運転者の酒気帯びの有無、疾病、疲労、睡眠不足等の状況を可能な限り対面
で確認するよう指導すること。
また、点呼は営業所において行うことが原則であるが、営業所と車庫が離れている場合等、必要に応じて運行管理者又は補助者(以下「運行管理者等」という。を車庫へ派遣して点呼を行う等、対面点呼を確実に実施するよう指導すること。

第6 IT点呼及び遠隔点呼
1 IT点呼
(1) 総論
ア IT点呼は,旅客自動車運送事業運輸規則24条1項ただし書及び2項ただし書,並びに貨物自動車運送事業輸送安全規則7条1項ただし書及び2項ただし書に基づいて認められています。
イ inDXsの「IT点呼とは」には以下の記載があります。
    IT点呼とは、自動車運送事業者が安全・適切な運行を行うため義務付けられる「点呼」を、IT機器を通して行うことです。通常、点呼は運行管理者と運転者がその場に居合わせ、対面で行わなければなりません(対面点呼)。これに対し、IT点呼はパソコン・ネットワークシステム・アルコール検知器等の機器を通し、疑似的に対面点呼を行うことを指します。現在は、安全性優良事業所(Gマークを取得した営業所)など一定の条件を満たした営業所で、国土交通省より了承されたIT機器を使った点呼が認められています。
(2) バス事業者及びタクシー事業者
ア 平成30年3月30日,バス事業及びタクシー事業について,一定の要件を満たす優良な営業所の営業所-車庫間でIT機器を用いた点呼が可能になりました(国土交通省 HPの「IT機器を用いた点呼の適用範囲を拡大!!~バス・タクシー事業でもIT点呼が実施可能となります~」参照)。
(3) トラック事業者
ア シンク出版HPの「トラックIT点呼、車庫間でも可能に」には以下の記載があります。
    優良なトラック運送事業者に対しては、2007年(平成19年)より「IT点呼」が導入されていますが、このたび国土交通省は関連通達を改正し、平成30年3月30日からGマークを取得した事業者(営業所)では、車庫間におけるIT点呼も認められることになりました。
    これまでと同様、対面点呼を前提とする原則に基づいていますので、片方の車庫では運行管理者か補助者の立ち会いが必要です。
 全日本トラック協会HP「安全性優良事業所(Gマーク事業所)都道府県別一覧表」が載っています。
2 遠隔点呼
(1) 遠隔点呼は,自動車運送事業者(バス,ハイヤー・タクシー,トラック)が,要件を満たす機器及びシステムを用いて,遠隔拠点間で行う点呼をいいます(国土交通省HPの「対面点呼に代わる遠隔点呼が実施できるようになります 令和4年4月1日から申請スタート」参照)。
(2) 遠隔点呼は,IT点呼と異なり,①Gマーク,優良性及び貨物・旅客の業種を問いませんし,②24時間実施OKですし,③グループ企業間の点呼もOKですし,④遠隔点呼は運行管理者が行う点呼のカウントになります(TELCOMの「すべての事業者に、遠隔点呼を」参照)。
(3) テレニシHP「IT点呼キーパー|遠隔点呼とIT点呼の違いをカンタンまとめ」には以下の記載があります。
    遠隔点呼制度が開始されましたが、IT点呼制度を利用している事業者は、「遠隔点呼要綱」ではなく現行のIT点呼制度および旅客IT点呼制度の規定に準じて使用できます。遠隔点呼制度とIT点呼制度は、異なる制度だと理解したほうがいいでしょう。
    弊社テレニシでは、IT点呼・対面点呼・電話点呼・スマホ点呼を1つに統合し、運行管理者の労務改善に役立つ「IT点呼キーパー」をご用意しています。また2022年6月からは遠隔点呼要件にも対応する予定です。

第7 運行管理者の補助者
1 運行管理者の業務を補助させるため,基礎講習を修了した者,又は運行管理者資格者証の交付を受けている者のうちから補助者を選任することができます。
2 平成19年4月1日以降の運行管理者の補助者は,平成19年3月31日以前の運行管理者の代務者に相当するものですが,代務者の場合,基礎講習を修了していなくても,運送会社から信頼されている人であれば誰でもなることができました(トラックの社HPの「試験を受けなくても運行管理者の資格を手に入れる方法があるって本当?」参照)。
3(1) 旅客自動車運送事業に関する運行管理者の補助者につき,旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用についてには以下の定めがあります。
① 補助者を選任し、点呼の一部を行わせる場合であっても、当該営業所において選任されている運行管理者が行う点呼は、点呼を行うべき総回数の少なくとも3分の1以上でなければならない(リンク先の15頁)。
② 補助者は、運行管理者の履行補助を行う者であって、代理業務を行える者ではない。ただし、第24条の点呼に関する業務については、その一部を補助者が行うことができるものとする(リンク先の33頁)。
③ 補助者が行う補助業務は、運行管理者の指導及び監督のもと行われるものであり、補助者が行うその業務において、以下に該当するおそれがあることが確認された場合には、直ちに運行管理者に報告を行い、運行の可否の決定等について指示を仰ぎその結果に基づき各運転者に対し指示を行わなければならない。
イ.運転者が酒気を帯びている
ロ.疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができない
ハ.無免許運転
ニ.最高速度違反行為(リンク先の33頁)
(2) 貨物自動車運送事業に関する運行管理者の補助者につき,貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用についてには以下の定めがあります。
① 第18条第3項の規定により補助者を選任し、点呼の一部を行わせる場合であっても、当該営業所において選任されている運行管理者が行う点呼は、点呼を行うべき総回数の少なくとも3分の1以上でなければならない(リンク先の12頁)。
② 補助者は、運行管理者の履行補助を行う者であって、代理業務を行える者ではない。ただし、第7条の点呼に関する業務については、その一部を補助者が行うことができるものとする(リンク先の21頁)。
③ 補助者が行う補助業務は、運行管理者の指導及び監督のもと行われるものであり、補助者が行うその業務において、以下に該当するおそれがあることが確認された場合には、直ちに運行管理者に報告を行い、運行の可否の決定等について指示を仰ぎ、その結果に基づき各運転者に対し指示を行わなければならない。
イ.運転者が酒気を帯びている
ロ.疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができない
ハ.無免許運転、大型自動車等無資格運転
ニ.過積載運行
ホ.最高速度違反行為(リンク先の21頁)


第7の2 運行管理制度の強化
1 国土交通省HPの「運行管理制度が強化されます!」には「「運行管理制度の強化」の概要」として以下の記載があります。
 平成26年5月1日より、旅客自動車運送事業者は、トラブル発生時に乗務員に対して輸送の安全のために適切な措置を講ずることが法令上明確化されました。
 また、当該措置を適正かつ確実に行えるよう
[1]旅客自動車運送事業者は、車両運行中、電話等を用いて乗務員に対し必要な指示等を行える連絡体制を構築しなければなりません。(平成26年5月1日施行)
[2]乗合バス、貸切バス事業者は、[1]に加えて、車両運行中少なくとも一人の運行管理者は、事業用自動車の運転業務に従事せずに、乗務員に対し必要な指示等を行える体制を整備しなければなりません。(平成27年5月1日施行)

2 旅客自動車運送事業運輸規則21条の2(運行に関する状況の把握のための体制の整備)は,「旅客自動車運送事業者は、第二十条、前条第七項その他の輸送の安全に関する規定に基づく措置を適切に講ずることができるよう、事業用自動車の運行に関する状況を適切に把握するための体制を整備しなければならない。」と定めています。

第8 運行管理者制度の根拠となる法令及び通達
1 一般旅客自動車運送事業(乗合,貸切及び乗用)の運行管理者の根拠となる法令及び通達は以下のとおりです。
① 道路運送法
② 旅客自動車運送事業運輸規則
③ 旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について(平成14年1月30日制定。令和3年2月25日最終改正)
2 一般旅客自動車運送事業(乗合,貸切及び乗用)の運行管理者の根拠となる法令及び通達は以下のとおりです。
① 貨物自動車運送事業法
② 貨物自動車運送事業輸送安全規則
③ 貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について(平成15年3月10日制定。令和3年1月26日最終改正)



第9 安全運転管理者制度
1(1) 安全運転管理者制度は,自動車5台以上又は乗車定員11人以上の自家用バスを使用している事業所等において,事業主や安全運転管理者の責任を明確にし,道路交通法令の遵守や交通事故の防止を図るため,道路交通法74条の3第1項及び第4項で定められた制度です。
(2) 安全運転管理者制度は昭和40年6月1日の道路交通法改正により制度化されたものです。
2 安全運転管理者の業務内容は以下のとおりです(道路交通法74条の3第2項及び第3項,並びに道路交通法施行規則9条の10)(徳島県警察HPの「安全運転管理者制度」参照)。
① 運転者の状況把握
② 運行計画の作成
③ 交代要員の配置
④ 異常気象時等の安全確保の措置
⑤ 安全運転の指示(運転者に対する点呼等)
⑥ 運転前後の酒気帯び確認
⑦ 酒気帯び確認の記録・保存
⑧ 運転日誌の記録
⑨ 運転者に対する指導
3 SmartDrive HPの「アルコール検知器の使用義務化の延期、警察庁の方針が明らかに」には「2022年7月15日に公表した警察庁パブリックコメントの意見募集要領の中で白ナンバー車両の酒気帯び有無の確認において「2022年10月1日から予定されていたアルコール検知器の使用義務化を当面延期する」方針が明らかになりました。」と書いてあります。


第10 タクシーの配車に関するメモ書き
1 WEB CARTOPの「最近のタクシー車内で「無線の声」を聞かなくなった理由とは」(2017年11月23日付)には以下の記載があります。
10数年前より無線のデジタル化が進むと、タクシー無線も取り巻く状況が大きく変わってきた。まずデジタル化とともに各車両にGPSアンテナが装着され、各タクシー会社などの無線センターでは、リアルタイムで稼動しているタクシーの状態をオペレーター個々に配置された液晶モニターでウォッチができるようになった。
2 Mobile Create HP「タクシー配車システム 新視令」には以下の記載があります。
タクシー配車システム「新視令」が業務効率アップを完全サポート
「新視令」は業務用IP無線システム「ボイスパケットトランシーバー」を利用したタクシー配車システムです。 タクシーメーター、ナビゲーションと連動しタクシーを効率的に配車します。 車両の情報を配車センターで集中管理し、集められたデータはリアルタイムに解析可能。 コンピューターが配車に最適な車両を自動で検出。一回あたりの配車時間を短縮できて、効率が大幅アップ。
従来のタクシー無線に替わる画期的な車載モバイルネットワークです。
3 タクシー配車システムにはオンプレミス型とクラウド型があります(JVCKENWOODの「CABmee 新クラウド型タクシー配車システム」参照)。
4 タクシーアプリの「GO」とは,日本交通が運営している「JapanTaxi」とDeNAが運営している「MOV」を統合して生まれたタクシー配車アプリでありますところ,GOは,Mobility Technologiesによって2020年9月にリリースされました(P-CHAN TAXIの「タクシーアプリGOの使い方やクーポン情報、迎車料金や支払い方法を徹底解説!」参照)。

第11 関連記事その他
1 近畿運輸局の場合,自動車交通部旅客第一課がバスを担当し,自動車交通部旅客第二課がタクシーを担当しています。
2(1) 国土交通省HPに「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(平成26年4月18日改訂)が載っています。
(2) 北陸信越運輸局HPに「道路運送法等関係法令の基礎知識について~ 地域に根ざした輸送サービスの提供のために ~」が載っています。
(3) 兵庫県トラック協会HP「トラック運送事業の運行・車両・労務管理の手引き-法令実践ガイド-」(令和元年9月の全国貨物自動車運送適正化事業実施機関)が載っています。
3(1) トラサポHPに「日本一詳しく!貨物自動車運送事業の監査と巡回指導、行政処分について行政書士が完全解説3〜行政処分編(2)〜」が載っています。
(2) 名鉄四日市タクシーHP「働き方(乗務員の1日の流れ)」が載っています。
(3) 大和自動車交通株式会社HP「タクシー業界を支える「配車」「運行管理」の仕事内容とは?」が載っています。
4 平成26年12月1日,車両総重量7トン以上又は最大積載量4トン以上の事業用トラック(=緑ナンバーのトラック)についても,運行記録計(タコグラフ)の装着が義務づけられました(全日本トラック協会HPの「運行記録計(タコグラフ)の装着義務付け対象拡大について」参照)。
5 一般旅客自動車運送事業の譲渡及び譲受は,国土交通大臣の認可を受けなければ,その効力を生じない(道路運送法36条1項)ところ,近畿運輸局HPの「法人タクシー関係」譲渡譲受申請書の様式が載っています。
6 以下の記事も参照してください。
・ 自動車運送事業
・ 自動車運転代行業
・ 貨物軽自動車運送事業(軽貨物運送業)
・ タクシー業界に対する規制

不動産登記に関するメモ書き

目次
第1
 不動産登記のコンピューター化
1 総論
2 「昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記」という記載
3 「平成17年法務省令第18号附則第3条第2項の規定により移記」という記載
第2 不動産登記に関する判例
1 登記をしなければ対抗できない第三者に関する判例
2 中間省略登記に関する判例
3 登記の効力に関する判例
4 その他の判例
第3 不動産登記簿等の保存期間
第4 関連記事その他

第1 不動産登記のコンピューター化
1 総論
(1) 不動産登記コンピューター化の指定は,平成17年3月6日以前は不動産登記法151条ノ2第1項に基づいて行われ,同月7日以後は不動産登記法附則3条1項に基づいて行われました。
(2) 不動産登記オンライン指定日一覧HP「不動産登記コンピュータ化指定日一覧」によれば,昭和63年10月6日に東京法務局板橋出張所で開始し,平成20年3月24日に不動産登記のコンピューター化が終了したとのことです。
2 「昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記」という記載
(1) 不動産の登記事項証明書に「昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記」と書いてある場合,不動産登記規則の施行日の前日である平成17年3月6日までに紙の登記簿が閉鎖されてコンピューターの登記簿になったことを意味します。
(2) 不動産登記法施行細則等の一部を改正する省令(昭和63年8月25日法務省令第37号)附則2条(不動産の登記簿の改製)は以下のとおりです。
① 指定登記所は、第一条による改正後の不動産登記法施行細則(以下「新細則」という。)第七十二条の規定によりその登記事務を電子情報処理組織によつて取り扱うべき不動産について、その登記簿を不動産登記法第百五十一条ノ二第一項の登記簿に改製しなければならない。ただし、電子情報処理組織による取扱いに適合しないものは、この限りでない。
② 前項の規定による登記簿の改製は、登記用紙にされている登記を登記記録に移してするものとする。この場合においては、土地登記簿の表題部にされている地番、地目及び地積に係る登記を除き、現に効力を有しない登記を省略することができる。
③ 前項の場合においては、登記官は、登記記録の表題部及び事項欄に移した登記の末尾に同項の規定により移した旨、その年月日及び新細則第八十六条の識別番号を記録しなければならない。
④ 登記官は、第二項の規定により登記を移したときは、登記用紙の表題部にその旨及びその年月日を記載して、その登記用紙を閉鎖しなければならない。この場合においては、当該登記簿の目録にこれに編綴した登記用紙の全部を閉鎖した旨及びその年月日を記載して、押印しなければならない。
3 「平成17年法務省令第18号附則第3条第2項の規定により移記」という記載
(1) 不動産の登記事項証明書に「平成17年法務省令第18号附則第3条第2項の規定により移記」と書いてある場合,不動産登記規則の施行日である平成17年3月7日以降に紙の登記簿が閉鎖されてコンピューターの登記簿になったことを意味します。
(2) 不動産登記規則(平成17年2月18日法務省令第37号)附則3条(登記簿の改製)は以下のとおりです。
① 登記所は、その事務について法附則第三条第一項の規定による指定(同条第三項の規定により指定を受けたものとみなされるものを除く。)を受けたときは、当該事務に係る旧登記簿(同条第四項の規定によりなおその効力を有することとされる改正前の不動産登記法(明治三十二年法律第二十四号。以下「旧法」という。)第十四条に規定する登記簿をいう。以下同じ。)を法第二条第九号に規定する登記簿に改製しなければならない。ただし、法附則第三条第一項に規定する電子情報処理組織による取扱いに適合しない登記簿については、この限りでない。
② 前項の規定による登記簿の改製は、登記用紙にされている登記を登記記録に移記してするものとする。この場合には、土地登記簿の表題部の登記用紙にされている地番、地目及び地積に係る登記を除き、現に効力を有しない登記を移記することを要しない。
③ 登記官は、前項の規定により登記を移記するときは、登記記録の表題部又は権利部の相当区に移記した登記の末尾に同項の規定により移記した旨を記録しなければならない。
④ 登記官は、第二項の規定により登記を移記したときは、登記用紙の表題部にその旨及びその年月日を記載し、当該登記用紙を閉鎖しなければならない。この場合には、旧登記簿の目録に当該旧登記簿につづり込んだ登記用紙の全部を閉鎖した旨及びその年月日を記載し、これに登記官印を押印しなければならない。


第2 不動産登記に関する判例
1 登記をしなければ対抗できない第三者に関する判例
・  不動産が甲乙丙と順次譲渡された場合,現在の登記名義人たる甲が丙から直接転移登記手続を求められるにあたって,甲は民法第177条にいう第三者として,丙に対しその物権取得を否認できる関係にはありません(最高裁昭和39年2月13日判決)。
・ 甲が乙から山林を買い受けて23年余の間これを占有している事実を知っている丙が,甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ,甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて,右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等といった事情がある場合には,丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たりません(最高裁昭和43年8月2日判決)。
・  甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たります(最高裁平成18年1月17日判決)。
2 中間省略登記に関する判例等
・ 不動産の所有権が甲乙丙と順次移転したのに,登記名義は依然として甲にある場合には,丙が甲に対し直接自己に移転登記を請求することは,甲および乙の同意がないかぎり,許されません(最高裁昭和40年9月21日判決)。
・  不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは許されません(最高裁平成22年12月16日判決)。
・ 最高裁令和2年3月6日判決は, 中間省略登記の方法による不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に,当該登記の中間者との関係において,当該司法書士に正当に期待されていた役割の内容等について十分に審理することなく,直ちに注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
・ L&P司法書士法人HP「新しい中間省略登記の実務~直接移転取引~」が載っています。
3 登記の効力に関する判例
・  未登記建物の譲受人は譲渡人に対し移転登記の請求をなすことを妨げません(最高裁昭和31年6月5日判決)。
・  夫婦間の合意で,夫の買い入れた土地の登記簿上の所有名義人を妻としただけでは,右の土地を妻の特有財産と解すべきではありません(最高裁昭和34年7月14日判決)。
4 その他の判例
・  売買を原因として所有権移転登記手続の履行を命じる判決をなす場合,売買の日附は,必ずしも主文に表示する必要なく,理由中に明示されておれば足ります(最高裁昭和32年9月17日判決)。
・ 不動産の二重売買の場合において,売主の一方の買主に対する債務は,特段の事情のないかぎり,他の買主に対する所有権移転登記が完了した時に履行不能になります(最高裁昭和35年4月21日判決)。
・ 登記官吏は,当該申請書および附属書類について登記申請が形式上の要件を具備するかどうかの形式的審査をすることができるにとどまり,その登記事項が真実であるかどうかにつき実質的審査をする権限を有するものではありません(最高裁昭和35年4月21日判決)。
・  建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は,たとえ,所有者との合意により名義人となつた場合でも,建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負いません(最高裁昭和47年12月7日判決)。
・  仲裁判断に基づいて登記申請をするには執行判決を要します(最高裁昭和54年1月25日判決)。
・ 最高裁平成15年6月13日判決は,地目変更等のためと偽って不動産の所有者から交付を受けた登記済証,白紙委任状,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき不実の所有権移転登記がされた場合において不動産の所有者が善意無過失の第三者に対して当該不動産の所有権が移転していないことを対抗することができないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
・ 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者は,登録免許税法31条2項所定の請求の手続によらなくても,国税通則法56条に基づき,過誤納金の還付を請求することができます(最高裁平成17年4月14日判決)。
・ 最高裁平成20年12月11日判決は,遺産分割調停調書に,相続人が遺産取得の代償としてその所有する建物を他の相続人に譲渡する旨の条項がある場合において,上記調書を添付してされた上記建物の所有権移転登記申請につき,登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に却下した処分が違法とされた事例です。


第3 不動産登記簿等の保存期間
1 不動産登記簿等の保存期間は以下のとおりです(平成20年7月22日以降の受付分につき不動産登記規則28条9号及び10号)。
① 不動産表示登記に関する申請情報
・ 平成20年7月21日までの受付分は5年
→ 平成15年7月21日までの受付分は廃棄済みの可能性が高いです。
・ 平成20年7月22日以降の受付分は30年
→ 少なくとも令和20年7月22日までは廃棄されないこととなります。
② 不動産権利登記に関する申請情報
・ 平成20年7月21日までの受付分は10年
→ 平成10年7月21日までの受付分は廃棄済みの可能性が高いです。
・ 平成20年7月22日以降の受付分は30年
→ 少なくとも令和20年7月22日までは廃棄されないこととなります。
2(1) たいよう合同事務所HP(行政書士 土地家屋調査士 司法書士)「不動産登記簿の付属書類の閲覧申請書を作ってみました。」が載っています。
(2) 長野相続遺言相談室HP「登記申請書・添付書類の閲覧~ポラロイド・デジカメ」が載っています。


第4 関連記事その他
1(1) 法務省HPに「不動産登記事務取扱手続準則」が載っています。
(2) 商業登記事務取扱手続準則を掲載しています。
2(1) 「昭和38年法務省令第18号附則第2条第3項の規定により移記」という記載がある場合,昔の長屋が増改築等により表示登記がされた際に区分建物として登記簿が改製されたことを意味します(hiro’s pageの「法律施行前の区分建物の登記事項」参照)。
(2) 佐伯司法書士事務所HPの「事前通知制度」には「不動産の権利に関する登記申請をするにおいて、登記名義人が登記識別情報を提供できない(登記済証を提出できない)場合、その代替となる手続き方法の1つが事前通知制度です。」と書いてあります。
3 令和6年4月1日に相続登記が義務化され,令和8年4月までに所有不動産記録証明制度が開始する予定です(家族信託の相談窓口HP「法定相続情報証明制度と所有不動産記録証明制度」参照)。
4(1) 大阪市内の不動産登記については大阪法務局本局,北出張所及び天王寺出張所が担当しているのに対し,大阪市内の法人の商業登記については大阪法務局本局だけが担当しています。
    そのため,例えば,大阪市内の法人のペーパーの閉鎖登記簿を取得したい場合,大阪法務局本局に発行してもらう必要があります。
(2) 令和5年1月10日,大阪法務局本局が「〒540-8544 大阪市中央区大手前三丁目1番41号 大手前合同庁舎(3階・4階・5階)」に移転しました。
5 大阪市HP「建築相談・建築計画概要書の閲覧及び写しの交付について」が載っています。
6(1) 法務省又は大阪法務局の情報公開文書として以下の資料を掲載しています。
・ 不動産登記記録例の改正について(平成28年6月8日付の法務省民事局長通達)
・ 大阪法務局の,法14条1項地図の作成状況
・ 大阪法務局管内の法務局統廃合図
・ 調査担当者による注意書き事例集(不動産登記編)(平成23年12月の文書)
・ 登記事務担当者の執務指針(不動産登記編)(平成23年12月の文書)
(2) 法務省HPに以下の資料が載っています。
・ 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(令和5年3月28日付の法務省民事局長通達)(登記簿の附属書類の閲覧関係)
・ 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続人申告登記関係 (令和6年3月15日付の法務省民事局長の通達)
(3) デジタル庁HPに載ってある「二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン」(平成25年6月25日各府省CIO連絡会議決定)には以下の記載があります。
重点分野について実務者会議で検討する情報以外の情報に関しては、新規にインターネットを通じて公開するためのコストが小さいデータや、利用者のニーズ(要望)の強いデータは、公開できない(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条の不開示情報に該当する等)ものを除き、オープンデータ化していくこととする。
7 以下の記事も参照してください。
・ 司法書士資格の変遷
・ 司法書士の業務に関する司法書士法の定めの変遷
・ 弁護士以外の士業の懲戒制度
・ 令和元年の司法書士法及び土地家屋調査士法改正に関する法務省民事局の御説明資料

宗教法人の解散命令

目次
第1 総論
第2 宗教法人法81条1項所定の解散事由
第3 宗教法人「オウム真理教」に対する解散命令及び破産宣告
1 最高裁平成8年1月30日決定の判示内容
2 オウム真理教に対する解散命令
3 オウム真理教の始まりから破産宣告に至るまでの経緯
第3の2 宗教法人「明覚寺」に対する解散命令
第4 宗教法人の解散命令の効果
第5 宗教法人法81条と同趣旨とされた旧商法58条
1 最高裁平成8年1月30日決定の判示内容
2 旧商法58条の条文
3 会社法824条の条文
4 その他
第5の2 宗教法人に対する報告徴収・質問権
1 宗教法人法78条の2の条文
2 報告徴収・質問権を行使する際の一般的な基準
第6 霊感商法
第7 全国霊感商法対策弁護士連絡会
第8 オウム真理教に対する破防法に基づく解散指定処分の請求,及び団体規制法に基づく観察処分
1 オウム真理教に対する破防法に基づく解散指定処分の請求
2 オウム真理教に対する団体規制法に基づく観察処分
第9 宗教法人法の条文
1条(この法律の目的)
43条(解散の事由)
85条(解釈規定)
第10 関連記事その他

第1 総論
1 宗教法人の解散命令は宗教法人法81条1項に基づく制度です。
2 法令違反等を理由に解散を命じられた宗教法人の事例はオウム真理教及び明覚寺だけですから,その意味での宗教法人の解散命令は2件ということになります(ヤフーニュースの「かつて解散になった宗教法人「法の華」「明覚寺」 ――その背景と統一教会との共通点」参照)。
3 宗教上の行為の自由はもとより最大限に尊重すべきものですが,絶対無制限のものではありません(最高裁平成8年1月30日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和38年5月15日判決)。

第2 宗教法人法81条1項所定の解散事由
1 宗教法人の解散命令について定める宗教法人法81条1項は以下のとおりです。
    裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。
三 当該宗教法人が第二条第一号に掲げる宗教団体である場合には、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたつてその施設を備えないこと。
四 一年以上にわたつて代表役員及びその代務者を欠いていること。
五 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証に関する認証書を交付した日から一年を経過している場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていることが判明したこと。
2 最高裁平成8年1月30日決定によって支持された東京高裁平成7年12月19日決定は下記の判示をしていますし,明覚寺に対する解散命令を出した和歌山地裁平成14年1月24日決定(判例体系に掲載)も同趣旨の判示をしています。
    同法(山中注:宗教法人法)八一条一項一号及び二号前段所定の宗教法人に対する解散命令制度が設けられた理由及びその目的に照らすと、右規定にいう「宗教法人について」の「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」(一号)、「二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」(二号前段)とは、宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって、社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえるうえ、刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって、しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為、又は宗教法人法二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為をいうものと解するのが相当である。
3(1) 最高裁平成9年7月11日判決は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和六三年(オ)第一七四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。
    もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては・加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。
    そうしてみると、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。
(2) 民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分(以下「懲罰的損害賠償部分」といいます。)が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合,その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても,これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできません(最高裁令和3年5月25日判決)。
4 民法709条の不法行為を構成する行為は,宗教法人法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たります(最高裁令和7年3月3日判決)。


第3 宗教法人「オウム真理教」に対する解散命令及び破産宣告
1 最高裁平成8年1月30日決定の判示内容
・ 大量殺人を目的として計画的,組織的にサリンを生成した宗教法人について,宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた解散命令は,専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし,宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく,右宗教法人の行為に対処するには,その法人格を失わせることが必要かつ適切であり,他方,解散命令によって宗教団体やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても,その支障は解散命令に伴う間接的で事実上のものにとどまるなどといった事情の下においては,必要でやむを得ない法的規制であり,憲法20条1項に違反しません(オウム真理教に対する解散命令事件に関する最高裁平成8年1月30日決定)。
2 オウム真理教に対する解散命令
・ 平成8年版の犯罪白書の「1 宗教法人解散命令」には以下の記載があります。
    検察官(東京地方検察庁検事正)及び東京都知事は,平成7年6月30日,それぞれ東京地方裁判所に対し,教団に対する宗教法人の解散命令を申し立てた。申立の理由は,教団によるサリンの生成企図という殺人予備行為が,同法81条1項1号(法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと)及び2号前段(同法2条に規定する宗教団体の,目的を著しく逸脱した行為をしたこと)所定の解散命令事由に該当するとするものである。
    東京地方裁判所は,平成7年10月30日,申立人両名の申立を理由があるものと認め,教団を解散する旨の決定を下した。これに対する教団の東京高等裁判所への抗告が棄却された(7年12月19日)ことにより,同決定は確定し,続く最高裁判所への特別抗告も棄却された(8年1月30日)。これまで,休眠状態の宗教法人に対して,同法81条1項2号後段及び4号を理由として解散を命じた事例はあるが,法令違反・目的逸脱行為を理由に解散を命じたのは,本決定が初めてである。解散命令により,清算人が裁判所によって選任され,教団は清算手続に入った。
3 オウム真理教の始まりから破産宣告に至るまでの経緯
(1) 東京地裁令和2年9月29日判決(判例秘書に掲載)は,オウム真理教の破産宣告に至るまでの経緯について以下のとおり判示しています。
ア 昭和59年2月頃,E(山中注:麻原彰晃こと松本智津夫)を教祖・創始者として,「オウム神仙の会」が活動を開始し,昭和62年7月頃,「オウム真理教」にその名称を変更し,Eの説くオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的として活動を続けた。「オウム真理教」は,平成元年8月25日,東京都知事から宗教法人法に基づく規則の認証を受けて,同月29日,宗教法人「オウム真理教」(代表役員「E」)の設立の登記がされた(以上につき,乙B2の1・2)。
イ オウム真理教の構成員らは,平成6年6月27日,長野県松本市内でサリンを散布し,8名を殺害するとともに,143名にサリン中毒症の傷害を負わせる事件(以下「松本サリン事件」という。)を敢行し,平成7年3月20日,東京都内を走行中の地下鉄電車5本内でサリンを散布し,12名を殺害するとともに,3000名を超える者にサリン中毒症の傷害を負わせる事件(以下「地下鉄サリン事件」といい,松本サリン事件と併せて「両サリン事件」という。)を敢行した(乙B2の1~3,3の1)。オウム真理教の構成員らは,両サリン事件を含め,多数の殺人等の犯罪行為を敢行した(乙3の2)。
ウ 宗教法人「オウム真理教」については,平成7年12月19日,宗教法人法に基づく解散命令が確定し,その清算手続中の平成8年3月28日,破産宣告がされた(乙B4の1)。
(2) オウム真理教に対する解散命令は,東京高裁平成7年12月19日決定がオウム真理教に告知された時点で確定したものとして取り扱われています。


第3の2 宗教法人「明覚寺」に対する解散命令
1 戸渡速志 文化庁文化部宗務課長は,平成13年6月20日の宗教法人審議会(第141回)において以下の答弁をしています。
 宗教法人「明覚寺」の解散命令請求の状況についてでございます。
 この宗教法人「明覚寺」と申しますのは、和歌山県に主たる事務所を持っておりました、単立の宗教法人でございますが、この明覚寺系列の名古屋別院であります満願寺というところを中心といたしまして、全国にわたって霊視商法詐欺事件を行ったということで、これまでに代表役員らを含む11人が詐欺罪で起訴されて、既に8名に有罪判決が出されて確定していると。ただ、現代表役員、それから前代表役員ら中心人物3名は、現在控訴をしておりまして、名古屋高裁で審理中という状況の事案でございます。
 民事の関係につきましては、既に平成11年4月の時点で、明覚寺側は和解金約11億円を支払いまして、被害者等とはすべて和解が成立しているということで、民事上の争いはない状況になってございます。
 この法人につきましては、現代表役員の西川らは、まだ控訴をして争っているわけではございますけれども、平成11年7月の地裁段階の判決におきまして、多数の明覚寺所属の僧侶らによって、組織的・計画的かつ継続的に実行された大規模な詐欺事案と認定されていること、さらに、同判決の中で、宗教法人が宗教活動の名のもとに組織を挙げて行った大規模な詐欺事案として全国的に強い関心を呼び、宗教活動や宗教法人のあり方などを改めて問い直す契機となるなど、社会に与えた影響も大きいといった指摘もなされているということを踏まえまして、文化庁では解散命令を請求する事由に該当するということから、平成11年12月16日に解散命令の請求、申立てを和歌山地方裁判所に行ったわけでございます。
 その後、先方からの意見書の提出等ございまして、現在もまだ和歌山地方裁判所でこの審理が継続しているという状況にあるわけでございますけれども、文化庁といたしましては、既にこの解散命令請求事由に該当するということについては審理を尽くしているので、できるだけ早急に決定をお願いしたいということで、裁判所のほうにお願いをしているところでございますし、この6月中には、最終的な主張をまとめた書面でございます第二準備書面というもの、及びそれに関連する証拠書類等を提出いたしまして、早期の結審と解散命令の決定というものを裁判所に求めていくという方向で進めてまいりたいと思っているところでございます。
2 宗教法人「明覚寺」に対する解散命令の経過は以下のとおりです(平成13年10月18日の宗教法人審議会(第142回)及び平成14年6月18日の宗教法人審議会(第143回)における鬼澤佳弘 文化庁文化部宗務課長の答弁,及び平成15年3月3日の宗教法人審議会(第144回)における秋葉正嗣 文化庁文化部宗務課長の答弁参照)。
平成11年12月16日,文化庁が和歌山地裁に明覚寺の解散命令を請求した。
平成13年9月28日,明覚寺が任意解散の認証申請をした。
平成14年1月24日,和歌山地裁が解散命令を出した。
平成14年1月31日,明覚寺が大阪高裁に対して即時抗告をした。
平成14年9月27日,大阪高裁が即時抗告を棄却した。
平成14年10月4日,明覚寺が最高裁判所にに対して特別抗告をした。
(日付不明)最高裁が特別抗告を棄却した。
3 和歌山地裁平成14年1月24日決定は判例秘書に載っているものの,大阪高裁平成14年9月27日決定は判例秘書に載っていません。


第4 宗教法人の解散命令の効果
1 最高裁平成8年1月30日決定は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに調えることが妨げられるわけでもない。
すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止
したり制限したりする法的効果を一切伴わないのである。
    もっとも、宗教法人の解
散命令が確定したときはその清算手続が行われ(法四九条二項、五一条)、その結果、宗教法人に帰属する財産で礼拝施設その他の宗教上の行為の用に供していたものも処分されることになるから(法五〇条参照)、これらの財産を用いて信者らが行っていた宗教上の行為を継続するのに何らかの支障を生ずることがあり得る。
のように、宗教法人に関する法的規制が、信者の宗教上の行為を法的に制約する効果を伴わないとしても、これに何らかの支障を生じさせることがあるとするならば、憲法の保障する精神的自由の一つとしての信教の自由の重要性に思いを致し、憲法がそのような規制を許容するものであるかどうかを慎重に吟味しなければならない。
2 文化庁HPの「解説 宗教法人制度の概要と宗務行政の現状」には,「団体で宗教活動を行う際に法人格を取得するかどうかも自由です。当然,法人格を持たない団体(任意団体)のままでも,宗教活動を行うことができます。」と書いてあります。


第5 宗教法人法81条と同趣旨とされた旧商法58条
1 最高裁平成8年1月30日決定の判示内容
・ 最高裁平成8年1月30日決定は以下の判示をしています。
    法八一条(山中注:宗教法人法81条)に規定する宗教法人の解散命令の制度も、法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(同条一項一号)や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為(同項二号前段)があった場合、あるいは、宗教法人ないし宗教団体としての実体を欠くに至ったような場合(同項二号後段、三号から五号まで)には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切あるいは不必要となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにしたものであり、会社の解散命令(商法五八条)(山中注:現在の会社法824条)と同趣旨のものであると解される。
2 旧商法58条の条文
① 裁判所ハ左ノ場合ニ於テ公益ヲ維持スル為会社ノ存立ヲ許スベカラザルモノト認ムルトキハ法務総裁又ハ株主、債権者其ノ他ノ利害関係人ノ請求ニ依リ会社ノ解散ヲ命ズルコトヲ得
 一 会社ノ設立ガ不法ノ目的ヲ以テ為サレタルトキ
 二 会社ガ正当ノ事由ナクシテ其ノ成立後一年内ニ開業ヲ為サズ又ハ一年以上営業ヲ休止シタルトキ
 三 会社ノ業務ヲ執行スル社員又ハ取締役ガ法務総裁ヨリ書面ニ依ル警告ヲ受ケタルニ拘ラズ法令若ハ定款ニ定ムル会社ノ権限ヲ踰越シ若ハ濫用スル行為又ハ刑罰法令ニ違反スル行為ヲ継続又ハ反覆シタルトキ
② 前項ノ請求アリタル場合ニ於テハ裁判所ハ解散ノ命令前ト雖モ法務総裁若ハ株主、債権者其ノ他ノ利害関係人ノ請求ニ依リ又ハ職権ヲ以テ管理人ノ選任其ノ他会社財産ノ保全ニ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
3 会社法824条の条文
① 裁判所は、次に掲げる場合において、公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより、会社の解散を命ずることができる。
一 会社の設立が不法な目的に基づいてされたとき。
二 会社が正当な理由がないのにその成立の日から一年以内にその事業を開始せず、又は引き続き一年以上その事業を休止したとき。
三 業務執行取締役、執行役又は業務を執行する社員が、法令若しくは定款で定める会社の権限を逸脱し若しくは濫用する行為又は刑罰法令に触れる行為をした場合において、法務大臣から書面による警告を受けたにもかかわらず、なお継続的に又は反覆して当該行為をしたとき。
② 株主、社員、債権者その他の利害関係人が前項の申立てをしたときは、裁判所は、会社の申立てにより、同項の申立てをした者に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができる。
③ 会社は、前項の規定による申立てをするには、第一項の申立てが悪意によるものであることを疎明しなければならない。
④ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第七十五条第五項及び第七項並びに第七十六条から第八十条までの規定は、第二項の規定により第一項の申立てについて立てるべき担保について準用する。
4 その他
(1) 新基本法コンメンタール会社法3(575条~979条)361頁には以下の記載があります。
    以上の事由(山中注:会社法824条1項各号の事由)があり、かつ裁判所がその裁量により公益を確保するため会社の存立を許すことができないと判断した場合に初めて解散命令に至る。ただし、法人格を剥奪する以外の方法により公益が確保できる場合、例えば、業務執行取締役等の解任、損害賠償、刑罰、営業停止、免許の取消し等の代替措置で足りる場合には解散命令は発し得ない。
(2) 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律261条1項各号が定める解散命令事由は,会社法824条1項各号と同趣旨のものになっています(消費者庁HPの「法人の解散命令等に関する規定」参照)。
ウ 消費者庁HPに「会社法上の会社解散命令について」が載っています。


第5の2 宗教法人に対する報告徴収・質問権
1 宗教法人法78条の2(報告及び質問)の条文
① 所轄庁は、宗教法人について次の各号の一に該当する疑いがあると認めるときは、この法律を施行するため必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができる。この場合において、当該職員が質問するために当該宗教法人の施設に立ち入るときは、当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者の同意を得なければならない。
一 当該宗教法人が行う公益事業以外の事業について第六条第二項の規定に違反する事実があること。
二 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証をした場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていること。
三 当該宗教法人について第八十一条第一項第一号から第四号までの一に該当する事由があること。
② 前項の規定により報告を求め、又は当該職員に質問させようとする場合においては、所轄庁は、当該所轄庁が文部科学大臣であるときはあらかじめ宗教法人審議会に諮問してその意見を聞き、当該所轄庁が都道府県知事であるときはあらかじめ文部科学大臣を通じて宗教法人審議会の意見を聞かなければならない。
③ 前項の場合においては、文部科学大臣は、報告を求め、又は当該職員に質問させる事項及び理由を宗教法人審議会に示して、その意見を聞かなければならない。
④ 所轄庁は、第一項の規定により報告を求め、又は当該職員に質問させる場合には、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。
⑤ 第一項の規定により質問する当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に提示しなければならない。
⑥ 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
2 報告徴収・質問権を行使する際の一般的な基準
・ 宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収・質問権の行使について(令和4年11月8日付の宗教法人制度の運用等に関する調査研究協力者会議の報告書)には,「第2 報告徴収・質問権を行使する際の一般的な基準 」として以下の記載があります。
〇 所轄庁である文部科学大臣としては、個別の宗教法人について解散命令請求を検討するに当たっては、報告徴収・質問権を行使して把握した事実関係等を踏まえ、その個別事案に応じて、行為の組織性、悪質性、継続性等が認められるか否かを判断していくこととなる。
    報告徴収・質問権を行使するに当たって、所轄庁が宗教法人法に定める解散命令事由に該当するような事態についての「疑い」があると判断するためには、行為の組織性、悪質性、継続性等を把握する上で、その端緒となる事実がなければならない。その判断は、以下のとおり行うことが妥当である。
1 「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」に該当する疑いがある場合(法第81条第1項第1号関係)
〇 「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」に該当する「疑い」があるか否かの判断については、以下(1)及び(2)により行うことが妥当である。
(1)「疑い」を判断する根拠
    「疑い」とは様々な水準のものが想定されるが、風評等によらず、客観的な資料、根拠に基づいて判断することが相当である。
    したがって、風評や一方当事者の言い分のみで判断するのではなく
・ 公的機関において当該法人に属する者による法令違反や当該法人の法的責任を認める判断があること
・ 公的機関に対し、当該法人に属する者による法令違反に関する情報が寄せられており、それらに具体的な資料か根拠があると認められるものが含まれていること
・ それらと同様に疑いを認めるだけの客観的な資料、根拠があること のいずれかに該当する場合に「疑い」を判断することが妥当である。
(2)「著しく公共の福祉を害する」という要件との関連性
「著しく公共の福祉を害する」という要件に該当する「疑い」も必要であることから、偶発性の法令違反や、一回性の法令違反により直ちに「疑い」があるとすることは相当ではない。
    そのため、
・ 当該法人に属する者による同様の行為が相当数繰り返されている
・ 当該法人に属する者の行為による被害が重大である
    など、法令違反による広範な被害や重大な影響が生じている「疑い」があると認められることが必要である。
2 「第2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」に該当する「疑い」がある場合(法第81条第1項第2号前段)
〇 「第2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」に該当する「疑い」があるか否かの判断については、宗教法人法第78条の2第4項の規定の趣旨に特に留意して、以下(1)及び(2)により行うことが妥当である。
(1)「疑い」を判断する根拠
    この疑いについても、客観的な資料によることとし、一方当事者からの申告のみによるのではなく、客観的な資料、根拠により「疑い」があると判断することが妥当である。
(2)「著しく逸脱した行為」という要件との関連性
「著しく逸脱した行為」という規定になっていることから、目的の範囲を超えた行為があったとしても、その行為により直ちに要件に該当するわけではなく、その程度が問題となる。
    そのため、「著しく逸脱」したものか否かの判断は、
・ 目的の範囲を超えた行為による結果、影響の内容及び程度
・ 目的の範囲を超えた行為を行った動機・理由
・ 同様の目的の範囲外の行為の反復性、継続性の程度 などを総合的に判断することとなる。
    したがって、このような観点で、「著しく逸脱」したものである「疑い」があると認められることが必要である。

第6 霊感商法
1 霊感商法とは,「先祖のたたりで不幸になる」「これを購入すれば不幸から免れる」などと,人の不幸や不安につけ込み,高額な壺や数珠,印鑑などを買わせるほか,高額な祈とう料やお布施名目の金品を要求することをいいます(群馬県HPの「霊感商法・関連商法」参照)。
2 Wikipediaの「霊感商法」には以下の記載があります。
    「この商品を買えば幸運を招く」と謳って商品を売る商法はかねてから「開運商法」などと呼ばれていたが、1980年代に世界基督教統一神霊協会(統一教会/統一協会)の信者らによるこの種の商法が問題となった際に、日本共産党機関誌である『しんぶん赤旗』が「霊感商法」という言葉で報じ、以後この呼称が広く使われるようになった。
3(1) 令和元年6月15日施行の改正消費者契約法4条3項6号は,「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。」があった場合を契約取消事由としています。
(2) 消費者庁HPに「消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)」が載っています。
4(1) 消費者庁の霊感商法等の悪質商法への対策検討会は,令和4年8月29日に第1回会議を開催しました。
(2) 第3回 霊感商法等の悪質商法への対策検討会(2022年9月15日)「【資料1】第2回検討会における主な指摘事項」には以下の記載があります。
     2018 年改正で入った霊感商法の取消権がこれまで使われた裁判例が見当たらない。霊感商法対策として効果的な法律になっていないということを改善する立法事実かと思う。このためには、狭過ぎる要件を広げ、様々な専門家の方が提起していた無知や脆弱性を殊更に利用するような場合という要件をここに持ち込んでいくことを検討すべき。
5(1) 文化庁HPの「解説 宗教法人制度の概要と宗務行政の現状」には以下の記載があります。
    認証(山中注:宗教団体が宗教法人となるために必要となる所轄庁の認証)のほかに所轄庁に与えられている権限として,認証後1年以内の認証の取消し(宗教法人法第80条),公益事業以外の事業の停止命令(同法第79条),裁判所への解散命令の請求(同法第81条),報告徴収・質問権(同法第78条の2)等があります。これらの権限には厳格な要件があり,宗教法人審議会に諮問をしてその意見を聞く必要があるなど,慎重さが求められています。
     なお,所轄庁の権限は,これらの法定事項に限られています。信教の自由や政教分離といった憲法上の要請があるため,所轄庁には,宗教法人の業務や財務に関する包括的な監督権限はありませんし,宗教上の事項については,いかなる形においても調停や干渉をすることはできません。
(2) 宗教法人に対する報告徴収・質問権は,平成7年の宗教法人法改正により創設されたものです。
6 参議院議員小西洋之君提出消費者契約法の霊感商法等による消費者契約の取消権の解釈(旧統一教会による被害への適用)に関する質問に対する答弁書(令和4年10月14日付)には以下の記載があります。
① お尋ねについては、御指摘の「旧統一教会を巡る献金事案」及び「旧統一教会に限らない宗教活動の献金等」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、一般論として、宗教団体に対する寄附や献金は贈与等の契約に当たり得るものと考えられ、消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第一項に規定する「消費者」と同条第二項に規定する「事業者」との間で贈与等の契約が締結される場合には同条第三項に規定する「消費者契約」に該当するものと考えられる。
② 御指摘の「旧統一教会を巡る献金事案」の具体的な範囲及び勧誘行為の内容が必ずしも明らかではないため、消費者契約法第四条の規定が適用されるか否かの解釈を示すことは困難であるが、宗教団体に対する寄附や献金に関するトラブルへの対応方法については、令和四年九月三十日に「「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議」において策定された「お悩みの解決のヒントとなるQ&A」を法務省のホームページに掲載すること等により周知を図っている。
    引き続き、消費生活相談への対応や消費者教育の取組強化による被害の未然防止・救済等に必要な対策を講じてまいりたい。
③ 御指摘の「宗教活動に伴う献金等に関して、不法行為責任を認めた判例・裁判例」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、宗教団体に対する寄附や献金に関するトラブルへの対応方法については、令和四年九月三十日に「「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議」において策定された「お悩みの解決のヒントとなるQ&A」を法務省のホームページに掲載すること等により周知を図っている。 


第7 全国霊感商法対策弁護士連絡会
1 全国霊感商法対策弁護士連絡会(略称は「全国弁連」)は,かつての世界基督教統一神霊協会(略称は「統一協会」又は「統一教会」),現在の世界平和統一家庭連合(略称は「家庭連合」)による「霊感商法被害の根絶」と「被害者の救済」を目的として昭和62年5月,全国の約300名の弁護士が賛同して結成された会です。
2 全国霊感商法対策弁護士連絡会が発表した,「安倍晋三 元首相 銃撃事件に対する声明」(令和4年7月12日付)には以下の記載があります。
    山上被疑者が、安倍晋三元首相を死に至らしめた今般の卑劣極まりない行為は、いかなる理由があろうとも決して許されないことです。当会は、安倍元首相のご冥福を心からお祈り申し上げます。
(中略)
    安倍元首相が、統一協会やそのダミー組織のひとつである天宙平和連合(UPF)などのイベントにメッセージを発信することを繰り返し、特に昨年9月12日の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」(UPFのWEB集会)でビデオメッセージを主催者に送り、その中で文鮮明教祖(2012年死去)の後継の教祖韓鶴子氏に「敬意を表します」と述べたことは、統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でしたし、当会としても厳重な抗議をしてきたところです。
3 刑裁サイ太のゴ3ネタブログ「統一教会に関する判例をたくさん調べてみた」(2022年8月26日付)が載っています。


第8 オウム真理教に対する破防法に基づく解散指定処分の請求,及び団体規制法に基づく観察処分
1 オウム真理教に対する破防法に基づく解散指定処分の請求
(1) 公安審査委員会は,公安調査庁長官が行った,破壊活動防止法11条に基づくオウム真理教に対する解散の指定を求める旨の処分請求(平成8年7月11日付)を平成9年1月31日付で棄却しましたところ,当該決定は平成9年2月4日付の官報特別号外に掲載されています(破壊活動防止法24条3項)。
(2) 日弁連HPに載ってある「オウム真理教に対する破防法棄却決定の検討報告書」(平成11年12月付の日弁連の文書)には「決定が本件請求を棄却したことは、当然であり正当である。本決定に至るまでには相当な圧力が公安審査委員会にあったであろうことは想像に難くないだけに、当然の結論とは言え、圧力に屈することなく棄却決定をなしたことは評価すべきである。」と書いてあります。
(3) Wikipediaに「オウム真理教破壊活動防止法問題」が載っています。
2 オウム真理教に対する団体規制法に基づく観察処分
・ 法務省HPの「公安審査委員会」には以下の記載があります。
     公安調査庁長官から,オウム真理教に対して,無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律第5条の観察処分を求める旨の請求がなされ,平成12年1月28日,当委員会は「被請求団体を,3年間,公安調査庁長官の観察に付する。」旨の決定を行い,同決定については,平成15年1月23日,平成18年1月23日,平成21年1月23日,平成24年1月23日,平成27年1月23日,平成30年1月22日及び令和3年1月6日に,それぞれ3年間,処分の期間を更新する旨の決定を行いました。

第9 宗教法人法の条文
1条(この法律の目的)
① この法律は、宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とする。
② 憲法で保障された信教の自由は、すべての国政において尊重されなければならない。従つて、この法律のいかなる規定も、個人、集団又は団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない。
43条(解散の事由)
① 宗教法人は、任意に解散することができる。
② 宗教法人は、前項の場合のほか、次に掲げる事由によつて解散する。
一 規則で定める解散事由の発生
二 合併(合併後存続する宗教法人における当該合併を除く。)
三 破産手続開始の決定
四 第八十条第一項の規定による所轄庁の認証の取消し
五 第八十一条第一項の規定による裁判所の解散命令
六 宗教団体を包括する宗教法人にあつては、その包括する宗教団体の欠亡
③ 宗教法人は、前項第三号に掲げる事由に因つて解散したときは、遅滞なくその旨を所轄庁に届け出なければならない。
85条(解釈規定)
この法律のいかなる規定も、文部科学大臣、都道府県知事及び裁判所に対し、宗教団体における信仰、規律、慣習等宗教上の事項についていかなる形においても調停し、若しくは干渉する権限を与え、又は宗教上の役職員の任免その他の進退を勧告し、誘導し、若しくはこれに干渉する権限を与えるものと解釈してはならない。


第10 関連記事その他
1 霊感商法で問題となった法の華三法行の場合,平成13年3月29日に破産宣告を受けて解散しました。
2 平成8年版の犯罪白書の「1 宗教法人解散命令」には以下の記載があります。
    宗教法人法(昭和26年法律第126号)は,宗教団体が,礼拝の施設その他の財産を所有し,これを維持運用し,その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため,宗教団体に法律上の能力を与えることを目的(1条)として昭和26年に制定された。その特色としては,宗教法人制度が信教の自由と政教分離の原則に密接にかかわるものであり,国による関与が最小限にとどめられるべきとの考えから,所轄庁の権限が民法の法人の主務官庁に比べて限られていることが挙げられる。宗教法人に対しては,法人税,地方税などでの優遇措置がある。 
3(1) 愛知県HPの「宗教法人の解散について」に,宗教法人の任意解散認証について概説されています。
(2) 会社解散・清算手続代行サポートHP「宗教法人の解散」が載っています。
4(1) 最高裁平成8年3月8日判決は,信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生に対する原級留置処分及び退学処分が裁量権の範囲を超える違法なものであるとされた事例です。
(2) 最高裁平成12年2月29日判決は 宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有している患者に対して医師がほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合において右医師の不法行為責任が認められた事例です。
5(1) 消費者庁HPに「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等
に関する法律・逐条解説」(令和5年2月1日付)が載っています。
(2) ジュリスト2023年6月号に「【特集】霊感商法と被害者救済-新法の提起するもの」が載っています。
6 大阪地裁令和6年2月28日判決(担当裁判官は49期の横田典子53期の田辺暁志及び69期の立仙早矢)は,令和4年12月20日付で大阪府議会がした「旧統一教会等の悪質な活動とは一線を画する決議」と題する決議が、行政事件訴訟法3条2項にいう処分に当たらないとされた事例です。
7 最高裁令和6年7月11日判決は,①宗教法人とその信者との間において締結された不起訴の合意が公序良俗に反し無効であるとされた事例であり,②宗教法人の信者らによる献金の勧誘が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
8 以下の記事も参照してください。
・ 国葬儀
・ 故安倍晋三国葬儀

遅延損害金に関するメモ書き

目次
1 総論
2 労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
4 関連記事その他

 総論
(1) 不法行為に基づく損害賠償債務は,損害の発生と同時に,なんらの催告を要することなく,遅滞に陥ります(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和37年9月4日判決)。
(2)  不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は,当該不法行為の時に履行遅滞となります(最高裁昭和58年9月6日判決)。
(3) 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって,一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり,個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではありません(最高裁昭和58年9月6日判決参照)から,同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する事件において,個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はありません(最高裁平成7年7月14日判決(判例秘書に掲載))。

2 
労災保険及び厚生年金保険の場合,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないこと
(1) 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整が行われます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。なお,先例として,最高裁平成22年9月13日判決等参照)。
(2) 最高裁大法廷平成27年3月4日判決の事案では,葬祭料の他,事実審の口頭弁論終結時までの遺族補償年金が損益相殺の対象となりました。
(3) 遺族補償年金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)と判示した最高裁平成16年12月20日判決は,最高裁大法廷平成27年3月4日判決によって変更されました。
(4) 最高裁平成16年12月20日判決は,死亡事案において,厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金が損害賠償債務の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,事故の日から上記年金の支払日までの間に発生した遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかであると判示しているものの,最高裁大法廷平成27年3月4日判決の判断内容からすれば,遺族厚生年金についても,不法行為時から当該年金の支給日までの遅延損害金は発生しないことになると思います。

3 自賠責保険の被害者請求と遅延損害金
(1)ア 自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は,被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって,保有者の保険金請求権の変形ないしそれに準ずる権利ではありませんから,自賠責保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為によって生じた債務」には当たりません。
    そのため,自賠責保険会社の遅延損害金の利率は,令和2年3月31日以前に発生した交通事故の場合,民法419条1項本文・404条に基づき,年5%となります(最高裁昭和57年1月19日判決参照)。
イ 令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,遅延損害金の利率は年3%となります。
(2)ア 自賠責保険会社は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払の請求があった後,当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは,遅滞の責任を負いません(自賠法16条の9第1項)。
    そのため,その限度で,最高裁昭和61年10月9日判決(先例として,最高裁昭和39年5月12日判決)の判断内容は修正されています。
イ 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断されます(最高裁平成30年9月27日判決)。
(3) 実務上,自賠責保険会社に対して遅延損害金を請求する場合,訴訟提起する必要がありますものの,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,遅延損害金を付けなくても,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多いですから,訴訟提起する実益がありません。
    また,自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されます(最高裁平成24年10月11日判決。なお,先例として,最高裁平成18年3月30日判決参照)から,被害者の過失が大きい場合,訴訟提起する実益がありません。
(4) 自賠責保険金が支払時における交通事故の損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されます(最高裁平成16年12月20日判決)。

4 関連記事その他
(1)ア  離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ります(最高裁令和4年1月28日判決)。
イ 令和2年4月1日以降の民法404条(法定利息)2項は「法定利率は、年三パーセントとする。」と定めていますし,「離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る。」と判示した最高裁令和4年1月28日判決の主文1項には「上告人は,被上告人に対し,20万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。」と書いてあります。
    そのため,請求の趣旨に記載する遅延損害金については%表示でいいと思います。
(2)ア 「実務に役立つ交通事故判例-東京地裁民事第27部裁判例から」327頁には,東京地裁交通部の取扱いとして,「自賠責保険の損害賠償額については遅延損害金から充当され,対人賠償責任保険からの支払いは,損害費目との結び付きが明確であれば元本に充当する黙示の合意を認めている。」と書いてあります。
イ 二弁フロンティア2022年4月号「【前編】交通事故訴訟の最新の運用と留意点~東京地裁民事第27部(交通部)インタビュー~」には「民事交通訴訟では、共同不法行為者間の求償債務が問題となることもありますが、この求償債務については、期限の定めのない債務とみて、遅延損害金の起算日を求償金支払催告日の翌日とした判例(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁)がありますので、催告日の翌日の法定利率によって遅延損害金を算定することとなります。」と書いてあります。
(3) 不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできません(最高裁令和4年1月18日判決)。
(4) 損害賠償金に係る遅延損害金は雑所得となるものの,弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は,被害者において支出を余儀なくされる弁護士費用の一部に充てられるものですから,非課税所得となります(国税不服審判所平成22年4月22日裁決)。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 共同不法行為に関するメモ書き
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)

相殺の抗弁に関するメモ書き

目次
第1 総論
第2 相殺の抗弁に関する判例
1 許される事例
2 許されない事例
第3 訴訟上の相殺の抗弁に関する参考答案
第4 関連記事その他

第1 総論
1 訴訟上の相殺の抗弁とは,被告が口頭弁論において自己の債権を相殺に供することで,原告の主張する債権を消滅させ,原告の請求を理由のないものとする抗弁をいいます。
2 相殺の抗弁についての判断は、それが判決理由中の判断であるにもかかわらず,「相殺をもって対抗した額について」既判力が生じます(民訴法114条2項)。
    そして,このことは,相殺の抗弁が排斥された場合であると,認容された場合であるとを問いません。
3(1) 既判力は本来,判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係の存否の判断についてのみ生じ(民訴法114条1項),判決理由中でなされる前提問題たる権利・法律関係の存否の判断については生じないのが原則です。
    なぜなら,当事者間の紛争解決としてはこれで十分であるし,判決理由中の判断については当事者の手続保障を充足しているとは限らないし,また,このように解することは審理の簡易化・弾力化に資するからです。
(2) しかし,相殺の抗弁は訴求債権とその発生原因において無関係な反対債権を対当額で消滅させる効果を抗弁とするものです。
    そして,その判断に既判力が認められない場合、訴求債権の存否の紛争が反対債権の存否の紛争として蒸し返され,判決による紛争解決の実効性が失われることから,蒸し返しを防止して一挙に紛争を解決するため,相殺の抗弁についての判断には既判力が認められます。

第2 相殺の抗弁に関する判例
1 許される事例
① 一部請求訴訟の残部債権による相殺
・  一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起している場合において,当該債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,債権の分割行使をすることが訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存しない限り,許されます(最高裁平成10年6月30日判決)。
② 反訴請求債権による相殺
・ 本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許されます(最高裁平成18年4月14日判決)。
③ 時効消滅した本訴請求債権による相殺
・  本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許されます(最高裁平成27年12月14日判決)。
④ 抵当不動産の賃借人による相殺
・ 抵当不動産の賃借人は,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができます(最高裁平成21年7月3日判決)。
⑤ 請負契約における相殺
・ 最高裁令和2年9月8日判決は, 請負人である破産者の支払の停止の前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権の取得が,破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり,上記違約金債権を自働債権とする相殺が許されるとされた事例です。
・  請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されます(最高裁令和2年9月11日判決)。 
2 許されない事例
 相殺の抗弁後行型
・ 係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張すること(いわゆる相殺の抗弁後行型)は,併合審理されている場合であっても許されません(最高裁平成3年12月17日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年3月15日判決参照)。
② 訴訟上の相殺の再抗弁
・  訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは,許されません(最高裁平成10年4月30日判決)。

第3 訴訟上の相殺の抗弁に関する参考答案
・ 昭和33年度司法試験第2問は「訴訟上の相殺の抗弁」というものでしたが,その参考答案は以下のとおりです。
1 総論
(1)ア 訴訟上の相殺の抗弁とは、被告が口頭弁論において自己の債権を相殺に供することで、原告の主張する債権を消滅させ、原告の請求を理由のないものとする抗弁をいう。

イ 相殺の抗弁についての判断は、それが判決理由中の判断であるにもかかわらず、「相殺をもって対抗した額について」既判力が生じる(114条2項)。
 このことは、相殺の抗弁が排斥された場合であると、認容された場合であるとを問わない。
(2)ア ここで、既判力は本来、判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係の存否の判断についてのみ生じ(114条1項)、判決理由中でなされる前提問題たる権利・法律関係の存否の判断については生じないのが原則である。
 なぜなら、当事者間の紛争解決としてはこれで十分であるし、判決理由中の判断については当事者の手続保障を充足しているとは限らないし、また、このように解することは審理の簡易化・弾力化に資するからである。
イ しかし、相殺の抗弁は訴求債権とその発生原因において無関係な反対債権を対当額で消滅させる効果を抗弁とするものである。
 そして、その判断に既判力が認められない場合、訴求債権の存否の紛争が反対債権の存否の紛争として蒸し返され、判決による紛争解決の実効性が失われることから、蒸し返しを防止して一挙に紛争を解決するため、相殺の抗弁についての判断には既判力が認められる。
2 相殺の抗弁が主張された場合の既判力の範囲について
(1) 相殺の抗弁が主張された場合、いかなる範囲で既判力が生じるであろうか。
 まず、反対債権が存在しないとして相殺の抗弁が排斥された場合、敗訴被告が後に反対債権を主張することを防止するため、反対債権の不存在について既判力が生じる。
(2) では、反対債権が存在するとした上で相殺の抗弁を認容して原告の請求が棄却された場合、いかなる範囲で既判力が生じるか。
 この点、訴求債権及び反対債権が共に存在し、かつ相殺によって消滅したことについて既判力が生じるとする説がある。
 この説は、このように解さないと、①原告による、反対債権が初めから存在していなかったことを理由とする不当利得返還請求、及び②被告による、訴求債権が別の理由で不存在であったことを理由とする不当利得返還請求といった紛争の蒸し返しを防止できないとする。
 しかし、既判力は基準時における権利・法律関係の存否を確定するものであるところ、訴求債権及び反対債権の存在は基準時前の事由であり、既判力による確定の対象となるものではない。
 また、反対債権の不存在についてのみ既判力を認めれば紛争の蒸し返しは防止できる。つまり、①原告の不当利得返還請求は訴求債権の存在を先決問題とするから、前訴の請求棄却判決の既判力で封じられる。また、②被告の不当利得返還請求は反対債権の存在を先決問題とするから、反対債権の不存在についてのみ既判力で確定しておけば封じられる。
 よってこの場合、反対債権の不存在についてのみ既判力が生じると解する。
3 相殺の抗弁の特殊性について
(1)ア 相殺の抗弁についての判断には既判力が認められることから、弁済、免除等の抗弁と比べていくつかの特殊性がある。
 まず、弁済、免除等の抗弁については、訴求債権の存在を仮定した上で抗弁を認めて原告の請求を棄却することが許される。
 なぜなら、かかる抗弁の判断は判決理由中の判断にとどまり、既判力を生じない以上、いかなる理由で勝訴しようと被告の利害に差異はないからである。
イ これに対して相殺の抗弁については、訴求債権の存在を仮定した上で相殺の抗弁を認めて原告の請求を棄却することは許されない。
 なぜなら、相殺の抗弁の判断には前述したとおり既判力が生じ、被告にとっては仮にそれが受け入れられて勝訴したとしても、反対債権の喪失という出捐を伴う点で実質敗訴判決といえるからである。
(2) 次に、被告が弁済、免除等の抗弁により勝訴した場合、申立てどおりの請求棄却判決がなされている以上、上訴の利益は認められない(形式的不服説)。
 これに対して、相殺の抗弁により勝訴した場合、前述したとおり被告にとっては実質敗訴判決であるから、例外的に上訴の利益が認められる。
(3) また、弁済、免除等の抗弁は、前述したことからすれば、前訴で提出することを期待できるから、後訴での主張は既判力により遮断される。
 これに対して相殺の抗弁は、前述したことからすれば、必ずしも前訴で提出することは期待できないから、後訴での主張は既判力により遮断されないと解する(判例に結論同旨・最判昭和40年4月2日)。
(4)ア さらに、相殺の抗弁の判断には既判力が生じるから、他の抗弁とは異なり、①既に別訴で相殺の抗弁として用いている債権を請求する抗弁先行型、及び②既に別訴で請求している債権を相殺の抗弁として用いる抗弁後行型について、二重起訴禁止を定める142条が類推適用されるかが問題となる。
イ(ア) まず抗弁先行型では、相殺の抗弁は予備的抗弁として他の防御方法の後で審理されるという特殊性がある点で審理されるかは不確実であるから、裁判所の判断がなされて114条2項に基づく既判力が生じるかは不確実である。
 よって、142条は類推適用されないと解する。
(イ) これに対して抗弁後行型では、自働債権は前訴では訴訟物である点で審理されることは確実であるから、裁判所の判断がなされてその全額について既判力が生じることは確実である。
 よって、142条が類推適用されると解する(判例同旨・最判平成3年12月17日)。
以上

第4 関連記事その他
1 みずほ中央法律事務所HP「二重起訴の禁止と相殺の抗弁」が載っています。
2(1) 債務名義たる判決の基礎となる口頭弁論の終結前に相殺適状にあったとしても,右弁論終結後になされた相殺の意思表示により債務が消滅した場合,右債務の消滅は請求異議の原因となりえます(最高裁昭和40年4月2日判決)。
(2) 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されません(最高裁平成10年6月12日判決)。
(3) 抵当不動産の賃借人は,物上代位による賃料債権の差押え前に賃貸人との間でした,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と上記差押え後の期間に対応する賃料債権とを直ちに相殺する旨の合意の効力を抵当権者に対抗できません(最高裁令和5年11月27日判決)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 損益相殺

共同不法行為に関するメモ書き

目次
1 共同不法行為者の責任
2 共同不法行為と過失相殺
3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合
4 共同不法行為者間の求償
5 不真正連帯債務における相対的効力
6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
7 関連記事その他

1 共同不法行為者の責任
(1) 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合,最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては,死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではありません(最高裁平成8年5月31日判決)。
(2) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできません(最高裁平成13年3月13日判決)。

2 共同不法行為と過失相殺
(1) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されません(最高裁平成13年3月13日判決)。
(2) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(いわゆる絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負います(最高裁平成15年7月11日判決)。

3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合

・ 1つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において,乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ,両者の賠償すべき額が異なるときは,甲がした損害の一部てん補は,てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り,乙の賠償すべき額に影響しません(最高裁平成11年1月29日判決(判例秘書に掲載))。

4 共同不法行為者間の求償

(1) 自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されます(最高裁平成15年7月11日判決)。
(2) 共同不法行為者の一人甲と被害者丙との間で成立した訴訟上の和解により,甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに,丙が甲に対し残債務を免除した場合において,他の共同不法行為者乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶときは,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて,これを算定すべきとされます(最高裁平成10年9月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年7月1日判決及び最高裁平成3年10月25日判決参照)。
(3) 一問一答 民法(債権関係)改正119頁には以下の記載があります。
    例えば、旧法下の判例(最判昭和63年7月1日)は、一般的に不真正連帯債務と解されている共同不法行為に基づく損害賠償債務のケースで、弁済などをした連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、自己の負担部分を超えて共同の免責を得ていない限り、求償はできないとするが、一部しか弁済がされていない場合は、他の連帯債務者は、弁済をした連帯債務者からの求償に応じるよりもむしろそれを被害者への賠償にあてることが被害者保護に資するという考え方にも合理性があるから、共同不法行為のケースには新法第442条第1項(改正の内容については、Q66参照)を適用しないという解釈もあり得るものと考えられる。

5 不真正連帯債務における相対的効力
(1) 被用者の不法行為に基づく責任と民法715条に基づく使用者の責任とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあり,その一方の債務について和解等がされても,現実の弁済がされない限り,他方の債務については影響がありません(最高裁昭和45年4月21日判決)。
(2)  不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は,他の債
務者にその効力を及ぼすものではなく,このことは,民訴法114条2項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様です。
    そのため,不真正連帯債務者中の一人と債権者との間で右債務者の反対債権をもってする相殺を認める判決が確定しても,右判決の効力は他の債務者に及ぶものではありません(最高裁昭和53年3月23日判決)。

6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
(1) 令和2年4月施行の民法改正に基づき,連帯債務の絶対的効力事由が削減されました(法務省HPの「連帯債務に関する見直し」参照)。
    その結果,連帯債務と不真正連帯債務の主な違いは,連帯債務では一部の債務者が負担部分に満たない弁済を行った場合であっても他の債務者に負担割合に応じて求償できるのに対し,不真正連帯債務では負担部分を超えた弁済を行った場合のみ求償できるという程度に限られています(新日本法規HPの「交通事故に基づく損害賠償実務と民法、民事執行法、自賠責支払基準改正(法苑191号) 」参照)。
(3)ア 例えば,甲,乙及び丙が300万円の連帯債務を負っており,甲の債務について時効が完成したとしても,相対的効果しかないために(改正民法441条),債権者は,乙及び丙に対しても300万円の請求ができます。
    また,改正民法445条は「連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の連帯債務者に対し、第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。」と規定していますから,乙又は丙が債権者に弁済した場合,時効が完成している甲に対して求償できます。
イ 改正民法445条は,連帯債務において時効援用の効果を相対的効力に変更したことを受けた改正です(一問一答・民法(債権関係)改正125頁)。
    そのため,不真正連帯債務者の一人Aについて時効が完成したときに他の不真正連帯債務者Bが被害者に弁済した場合,不真正連帯債務にも民法445条が準用されると思いますから,BはAに対して求償できると思います。

 関連記事その他
(1) 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件です(最高裁令和3年5月17日判決)。
(2)  使用者の施工にかかる水道管敷設工事の現場において,被用者が,右工事に従事中,作業用鋸の受渡しのことから,他の作業員と言い争ったあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合,これによって右作業員の被った損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたります(最高裁昭和44年11月18日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)

政府保障事業及び無保険車傷害特約

目次
1 政府保障事業
2 無保険車傷害保険
3 関連記事その他

1 政府保障事業
(1) 政府保障事業は,以下のような事故により,自賠責保険又は自賠責共済からの保険金の支払を受けられない被害者を救済するための制度です。
① ひき逃げ事故
② 泥棒運転(盗難車)による事故
③ 自賠責保険,自賠責共済が付保されていない自動車による事故
(2) 平成19年4月1日以降に発生した交通事故については,自賠責と同じ基準で重過失減額が行われています。
(3)ア 政府保障事業を利用した場合,①健康保険や労災保険等の社会保険から給付を受けるべきときは,それらの社会保険から実際には給付を受けていなくともその金額を控除した分しか支払を受けることができませんし,②自賠責保険の被害者請求よりも時間がかかります(弁護士法人心名古屋法律事務所HPの「政府保障事業について」参照)。
イ おとなの自動車保険HPの「ひき逃げされたら、私はどうなるの?」によれば,ひき逃げ事故で平均4カ月程度,無保険事故で7カ月前後の期間がかかるとのことです。
(4) 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除します(最高裁平成17年6月2日判決)。
(5) 令和2年度(行個)答申第49号(令和2年7月14日答申)には以下の記載があります。
ア 政府保障事業とは,交通事故において,ひき逃げされて相手の車が不明の場合や,自賠責保険(共済)をつけていない自動車(無保険車)が加害車両となった場合,負傷したり死亡したりした被害者は,基本的に自賠責保険(共済)では救済されないことから,政府に保障を請求することができる制度のことである。
イ 被害者は受付事務を行う損害保険会社に保障を請求する。被害者が受けた損害を国(国土交通省)が加害者に代わっててん補するが,請求できるのは被害者のみであり,加害者から請求はできない。
ウ 事故状況や損害額については自動車損害賠償保障法77条1項の規定に基づき交通事故の損害額調査に係る業務を保険会社等へ委託しており,保険会社等はさらに損害保険料率算出機構(本件事故当時は自動車保険料率算定会)へ調査委託している。
エ 損害保険料率算出機構にて調査を行った後,調査結果と調査書類が国土交通省に送付され,同省において,支払額の審査,決定を行う。この決定をもって,損害保険会社を通じて請求者にてん補金が支払われる。国はてん補金を被害者に支払った後,加害者に求償することとなる。
オ 実況見分調書等の事件記録は,調査の必要性に応じて損害保険料率算出機構が事故を処理した警察署,検察庁等へ照会し,事件記録の閲覧が可能であるとの回答があったものについては,検察庁等に赴き閲覧謄写することにより入手し,これを処分庁が業務上入手しているものである。本件実況見分調書の写しについては,当時における入手手続に係る規程等は確認できないが,当時の自動車保険料率算定会職員が事件を担当する検察庁において閲覧謄写し,それを処分庁が業務上入手したものであると確認している。 
(6) 以下の資料を掲載しています。
・ 自動車損害賠償保障事業委託業務実施の手引き(平成27年10月)
→ ひき逃げ事故及び無保険事故に対する政府保障事業に関する業務委託(自動車損害賠償保障法施行令22条参照)及び自動車損害賠償保障事業業務委託契約準則のマニュアルです。


2 無保険車傷害特約
(1)ア 無保険車傷害特約に加入していた場合において後遺障害が残ったときは,政府保障事業とは別に保険金を支払ってもらうことができます。
イ 無保険車傷害特約から入通院の治療費,慰謝料及び休業損害を支払ってもらうことはできません。
(2)ア 被保険者及びその家族は,他の車に搭乗中又は歩行中に無保険車との交通事故又はひき逃げ事故にあったときでも無保険車傷害特約の支払対象となります(保険スクエア バン!HP「無保険車傷害保険(特約)とは|補償対象や人身傷害補償保険との違いを解説」参照)
    そのため,以下のいずれかの場合,無保険車傷害特約から保険金を支払ってもらえます(そんぽ協会HPの「問13 無保険車傷害保険は、どのような保険ですか。」参照)。
① 人身傷害保険から保険金の支払いを受けることができない場合
② 自賠責保険と無保険車傷害保険の保険金額の合計額が、人身傷害保険の保険金額より多い場合
イ 人身傷害保険の支払条件を満たしている場合(例えば,歩行中も支払対象になっている場合),ひき逃げ事故についても人身傷害補償保険からの支払があります(三井ダイレクト損保HPの「ひき逃げにあった場合の自動車保険の補償」参照)。
(3) 令和3年版 犯罪白書「3 ひき逃げ事件」には,「全検挙率は,平成16年には25.9%を記録したが,翌年から上昇し続けており,令和2年は70.2%であった。死亡事故に限ると,検挙率は,おおむね90%を超える高水準で推移している。」と書いてあります。
(4) 自家用自動車総合保険契約の記名被保険者の子が,胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じ,その結果,後遺障害が残存した場合には,当該子又はその父母は,当該傷害及び後遺障害によってそれぞれが被った損害について,同契約の無保険車傷害条項が被保険者として定める「記名被保険者の同居の親族」に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして,同条項に基づく保険金の請求をすることができます(最高裁平成18年3月28日判決)。

3 関連記事その他
(1) 損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の無保険車傷害条項に基づき支払われるべき保険金の額は,損害の「元本の」額から,自動車損害賠償責任保険等からの支払額の全額を差し引くことにより算定されます(最高裁平成24年4月27日判決)。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 自賠責保険の支払基準
・ 「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」と題する,国土交通省自動車交通局保障課長の通知(平成14年3月11日付)
・ 昭和48年9月1日付の,日本損害保険協会及び日弁連交通事故相談センターの覚書(交通事故損害賠償に関するもの)
・ 損益相殺
・ 東京地裁民事第27部(交通部)
・ 弁護士費用特約

武智克典裁判官(50期)の経歴

生年月日 S46.1.11
出身大学 京大院
退官時の年齢 32 歳
H15.9.30 依願退官
H15.8.1 ~ H15.9.29 東京地裁判事補
H12.4.1 ~ H15.7.31 法務省民事局付
H12.3.25 ~ H12.3.31 東京地裁判事補
H10.4.12 ~ H12.3.24 大阪地裁判事補

*1 平成15年10月に弁護士登録をしてアンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所し,平成18年1月に同事務所のパートナーとなり,同年11月に片岡総合法律事務所のパートナーとなり,平成23年7月に武智総合法律事務所を開設しました(同事務所HPの「代表弁護士 武智克典」参照)。
*2 以下の記事も参照してください。
・ 判事補時代に退官した元裁判官507人の名簿(昭和時代及び平成時代)
・ 判事補の外部経験の概要
・ 行政機関等への出向裁判官

中村元弥裁判官(41期)の経歴

生年月日 S36.2.11
出身大学 京大
退官時の年齢 36 歳
H9.3.31 依願退官
H7.4.1 ~ H9.3.30 東京地裁判事補
H6.4.1 ~ H7.3.31 日本郵船(研修)
H6.3.25 ~ H6.3.31 東京地裁判事補
H3.4.1 ~ H6.3.24 旭川地家裁判事補
H1.4.11 ~ H3.3.31 大阪地裁判事補

*1 旭川弁護士会HP「中村元弥」が載っています。
*2 twilogに「くまちん(弁護士中村元弥)@1961kumachin」が載っています。
*3 以下の記事も参照してください。
・ 判事補時代に退官した元裁判官507人の名簿(昭和時代及び平成時代)
・ 裁判官の民間企業長期研修等の名簿
・ 判事補の外部経験の概要