弁護士任官に対する賛成論及び反対論

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・ 臨時司法制度調査会意見書(昭和39年8月28日付)(略称は「臨司意見書」です。)において,「法曹一元の制度の長所と短所」のうち,弁護士任官に対する賛成論及び反対論として妥当するものは以下のとおりです(出典は昭和39年8月発行の法曹時報別冊33頁ないし38頁です。)。
   
1 裁判官任用制度の民主化からの側面
(賛成論)
① 現在の司法部が魅力に欠けている原因は,現在の裁判官の任用制度が国民的基盤の上に立っていない点にある。
   この弊を是正するためには,国民とより直接のつながりをもつ弁護士を(国民的基盤の上に直接立つような構成をもつ推薦機関の推薦によって)裁判官に選任する制度が有効である。
② 民主主義下においては,国民が司法を自分らのものと意識するようになることが必要であるが,弁護士はその職務自体から民衆の味方となっているものであるから,これから裁判官を選ぶことにすれば,国民との間に血の通った裁判が行われるようになる。
③ 司法に国民の意志を反映させ,民主主義の目的を達成するためには,その方策として,国民に近い弁護士から裁判官を選ぶことにするのが,賢明にして現実的な手段である。
④ 若い時から裁判所に閉じこもっているキャリアの裁判官より世間一般と接触している弁護士の方が民主的である。
⑤ キャリアの裁判官と異なり,弁護士は,社会からきびしい批判を受けることによって,社会的評価がおのずから定まっているので,弁護士の中から裁判官を選考すれば誤りがなく,裁判に対する国民の信頼を増大させることができる。
(反対論)
① 司法の民主化がはたして何を意味するかが明らかでない。また,弁護士が裁判官になれば民主的であるとする考え方の根拠が不明である。
   現在の弁護士が現在の裁判官より民主的であるという保障はどこにもない。
② 弁護士から裁判官を採用すれば,裁判に対する国民の信頼の問題が氷解するとは考えられない。
   要は,裁判官その人の教養と人格いかんにある。
③ 弁護士に対して社会一般が信頼を寄せているとは思えない。また,一般国民は,弁護士に親近感をもっていない。
   したがって,弁護士から裁判官を採用することが直ちに民意を反映することにはならず,国民はそのようには考えていない。
④ 司法の民主化のための手段としては,むしろ裁判官の公選,陪審,参審の制度を考慮すべきであり,決して法曹一元の制度の採用に限定されるものではない。しかも,制度を論ずる場合には,能率,安定性等個々の面からの利害得失を総合的に考える必要がある。
   したがって,司法の民主化が望ましいとすることから,直ちに法曹一元の制度を採用すべきであるとすることは,論理の飛躍である。
   
2 弁護士経験からの側面
(賛成論)
① 実社会に直接接触して,生きた社会の実態を知り,豊富な社会的経験を有する弁護士が裁判官となることにより,真相に適した裁判が行われるようになり,裁判の説得力と信頼性を増すことができる。
② 弁護士から裁判官を採用することにより,広い視野を有する裁判官を得ることができる。
③ 弁護士,検察官のような当事者活動を経ることにより,知識経験が豊かになり,人間の見方が錬成されて来る。
④ すぐれた裁判官となるためには,弁護士の経験がキャリアの経験にまさる。つまり弁護士の経験により,人権感覚を身に付けることができる。
   人権感覚とは,具体的なケースに現れた社会の要求に対し切実綿密に反応する感覚である。
⑤ 弁護士の経験は,依頼者に対する責任に裏付けられているから,キャリアの裁判官の経験と質的に異なるものがある。
(反対論)
① 弁護士のみが社会常識に富むとすることは独断であり,弁護士の経験のみが裁判官に必要な経験とは言えない。
   要は,その人個人の素質,生活態度,そしゃく能力のいかんによる。
② 弁護士の経験といえども,社会との直接の接触による直接的な経験ではなく,間接的なものにすぎない。
③ 弁護士の経験には,ともすれば裁判官に要請される廉潔,公正ということと矛盾する面がある。
④ 在野の苦労を経て社会の荒波をくぐってきたものでなければ裁判官となる資格がないとすることは,合理的な理由を欠く。
⑤ 社会的事象に対する知識,当事者の立場に立って物を考える能力は,弁護士を経験したからすぐれ,キャリアであるから劣るというものではない。
⑥ 当事者経験を強調することにも疑問がある。当事者経験があることによって訴訟指揮が適切に行なわれ,事実認定が的確に行われるためには,裁判所の訴訟活動と当事者の訴訟活動との間に大きな距離がないこと,対立がないことが前提であるが,現状では,弁護士の活動は,当事者の利益擁護に傾きすぎている。
⑦ 裁判官が弁護士の中から選ばれるという制度には弊害も伴い,このような制度がわが国の国民感情に適合するかどうか疑わしい。
⑧ 裁判官となるためには当事者としての経験が必要であるとしながら,法曹一元論のあるものが裁判官の給源を実務弁護士以外に拡大しようとしていることは,矛盾である。
⑨ 弁護士は,裁判官と異なり,必ずしも各種の事件を取り扱うとは限らないから,その当事者経験は,限られた分野のものにとどまる。
⑩ 裁判官と弁護士との間には,その職務の性質において,質的な相違があり,裁判官の職務は,双方の主張を聞いていずれが正しいかを判断するものであるのに対し,弁護士の職務は一方の当事者の利益のみを考えるものであるから,後者の経験をもって前者のそれに代えることはできない。
   両者には,それぞれ異なった性格,訓練が要求される。
⑪ 弁護士出身の裁判官には個性が強すぎるという批判があり,各事件を通じての安定性のある判断という要請が満たされないこととなる虞れがある。
   
3 その他からの側面
(賛成論)
① 法曹一元の制度が実現されれば,在野法曹が司法の運営に責任をもつということが制度的に明確になるので,そのことが訴訟指揮等の面にも現われ,円滑な能率的な司法の運営を期待しうるようになる。
② 司法の円滑な運営のためには,在朝在野の法曹の対立感の一掃,裁判所に対する法曹全体の協力体制が必要であるが,そのためには,法曹一元の制度を確立する必要がある。
③ 裁判官自身の努力のみによってその地位を向上させることは容易ではなく,そのためには,法曹全体がこれをもり立てて行かなければならない。
   そのような基盤を作るためにも,法曹一元の制度が有用である。
④ 法曹一元の制度が実現されれば,その制度の下における裁判官の給与は現在とは著しく異なるものとなるであろうから,現行制度の下において難問とされている裁判官の給与の問題が一挙に解決されうる。
(反対論)

① 英米における法曹一元の制度は,それぞれに特有な歴史的及び社会的背景の下に自然にできあがったものであって,一挙に法律で作ったものもでもなければ,また,作りうるものでもない。
② 英米の判例法主義の下に成立した制度は,わが国のような成文法主義の国で直ちにこれに追随することはできない。
③ 法曹中の長老が裁判をすることによる効果をあげるためには,法曹全体,ことに弁護士全体の中に一体感及び国民の信頼感が存在することが必要であるが,わが国の場合には,そのような社会的背景が欠けている。
   また,法曹一元の制度を採用するということは,司法の根幹に関する革命的な改革であるから,一般国民がこれを支持する熱意がないのに実行できるはずがない。

④ 裁判官の給与の問題を解決するために法曹一元の制度を考えるのは,本末を転倒した議論である。
   
*1 首相官邸HPに「法曹一元制度の長所と短所(臨時司法制度調査階意見書より)」が載っています。
*2 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)56頁には以下の記載があります。
   臨司では司法試験改革や裁判所の適正配置問題など、今日法曹界で論議されている司法制度の問題点があらかた取り上げられた。ただ、結果的に日の目を見たものはごく一部だったところから、「裁判所がいいところだけをつまみ食いした」などとの批判もあったが、毎回ほとんど全委員の出席を得て会議の議論は終始真剣そのものだったと思う。

*3 以下の記事も参照してください。

・ 法曹一元
・ 平成11年11月までの弁護士任官の状況
・ 平成13年2月当時の,弁護士任官に対する最高裁判所の考え方
・ 弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)
・ 弁護士任官者研究会の資料

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