第1 実務修習の位置付けと本記事の範囲
1 司法修習における位置付け
司法修習は,導入修習,分野別実務修習,選択型実務修習及び集合修習の各段階を経て,最後に司法修習生考試(いわゆる二回試験)に合格することにより終了する。
この4段階のうち,司法研修所で行われる導入修習及び集合修習を除いた,全国の実務修習地で行われる分野別実務修習と選択型実務修習を合わせて,一般に「実務修習」と呼ぶ。
司法修習全体の採用要件,約1年間の流れ及び修習給付金等の処遇については,「司法修習とは―採用要件,1年間の流れ,修習内容,給付金及び二回試験」に整理しているので,本記事では実務修習そのものの位置付けと内容に絞って説明する。
司法研修所で行われる集合修習の科目・クラス担任制及び後期修習からの呼称の変遷は,「集合修習とは-司法研修所における科目・クラス担任制,起案による指導及び後期修習からの変遷」で扱っている。
実務修習地における選択型実務修習の制度全体は,「選択型実務修習とは―ホームグラウンド,個別・全国・自己開拓プログラムの案内」で扱っている。
本記事は,これら2本の記事が既に扱っている選択型実務修習及び集合修習そのものの詳細を繰り返さず,実務修習という括り方をしたときに見えてくる共通の構造と,分野別実務修習という,現時点でこのブログにまとまった説明記事がなかった課程を中心に扱う。
分野別実務修習に先立って司法研修所で行われる導入修習の目的,期間及び新設の経緯は,「導入修習とは―司法研修所における実施内容,第68期からの新設経緯及びカリキュラムの実例」に整理している。
2 司法修習生に関する規則が定める「実務修習」
司法修習の内容及び方法の細目は,裁判所法67条3項の委任に基づき,最高裁判所規則である司法修習生に関する規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第15号)に定められている。
同規則5条1項は,修習期間中,少なくとも10箇月は実務修習に充てるべき旨を定めている。
これは,最高裁判所規則そのものが「実務修習」という語を用いて,司法研修所で行う導入修習及び集合修習とは別に,一定の期間を実務修習地における修習に充てることを求めていることを意味する。
現在の運用では,この規則上の「実務修習」に当たる期間が,分野別実務修習(4分野・約8か月)と選択型実務修習(約2か月)という2つの課程に分けて実施されている。
すなわち,「分野別実務修習」及び「選択型実務修習」は,制度の呼び名としては別の課程として説明されることが多いが,司法修習生に関する規則が定める「少なくとも10箇月の実務修習」という一つの枠の中に置かれているという関係にある。
この関係は,最高裁判所の「令和7年度司法修習生採用選考申込手続の手引き」が「分野別実務修習及び選択型実務修習の期間は指定された実務修習地の裁判所、検察庁及び弁護士会(以下「配属庁会」という。)で修習することになります。」と説明し,分野別実務修習と選択型実務修習をともに実務修習地における修習として一括りにしていることとも整合する。
3 本記事の役割と基準日
本記事は,実務修習という括り方の法的な位置付けを整理した上で,分野別実務修習の共通構造,選択型実務修習との関係及び実務修習地について,目的に応じた関連記事へ案内するハブである。
分野別実務修習の各分野(民事裁判・刑事裁判・検察・弁護)における具体的な指導内容,特定の実務修習地における実例,並びに修習専念義務及び修習給付金といった修習生の身分・処遇に関する事項は,いずれも当ブログの既存記事で個別に扱っているため,本記事では概要の整理と参照にとどめる。
基準日は令和8年8月29日である。
公開されている通知,ガイドライン及び期別資料には作成時点の古いものが含まれるため,各期固有の日程,提出書式及び金額については,採用される期に配布された最新の資料を優先して確認する必要がある。
第2 実務修習の法的根拠
1 裁判所法
司法修習生の採用及び修習に関する基本的事項は,裁判所法に定められている。
同法66条は,司法試験に合格した者(在学中受験資格による合格者については,法科大学院修了後の者に限る。)の中から,最高裁判所が司法修習生に「これを命ずる」と定めている。
同法67条1項は「司法修習生は、少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは、司法修習生の修習を終える。」と定め,同条2項は「司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。」と定めている。
同条3項は,前2項に定めるもののほか,修習及び試験に関する事項を最高裁判所が定めるとしており,実務修習と選択型実務修習及び集合修習という現在の課程区分は,この委任規定に基づいて最高裁判所規則以下のレベルで具体化されたものである。
修習給付金及び修習専念資金の根拠も裁判所法に置かれている。
同法67条の2第1項は「司法修習生には、その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、修習給付金を支給する。」と定め,同条2項は,修習給付金の種類を基本給付金,住居給付金及び移転給付金の3種としている。
同法67条の3第1項は「最高裁判所は、司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習専念資金…を貸与するものとする。」と定めている。
これらの給付金及び貸与金は,分野別実務修習及び選択型実務修習を含む修習期間中を通じて支給又は貸与されるものであり,実務修習中だけの制度ではない。
給付金及び専念資金の具体的な金額,届出期限及び税務上の取扱いは,「司法修習とは」の第6節及び当ブログの各給付金記事に整理している。
2 最高裁判所規則
裁判所法67条3項の委任を受けて,修習の内容及び方法の細目を定めるのが,司法修習生に関する規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第15号)である。
前記のとおり,同規則5条1項は,修習期間中,少なくとも10箇月を実務修習に充てるべき旨を定めている。
同規則2条は,司法修習生が,最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,他の職業に就き,又は財産上の利益を目的とする業務を行うことができないと定めており,これが修習専念義務及び兼業許可制の根拠となっている。
同規則は,このほか,司法修習生指導連絡委員会(同規則9条,11条),罷免・修習停止・戒告の事由(同規則17条,18条,19条2項)についても定めている。
司法修習生に関する規則及び司法研修所規則(昭和22年12月1日最高裁判所規則第11号)は,いずれも最高裁判所規則であるためe-Gov法令検索には収録されておらず,正式な規則番号及び改正履歴は国立国会図書館の日本法令索引で確認できる。
司法研修所そのものの法的根拠,組織及び裁判官研修との関係は,「司法研修所とは―最高裁判所の附属機関としての役割,組織,司法修習及び裁判官研修」で整理している。
第3 「分野別実務修習」という呼称の由来
「分野別実務修習」及び「選択型実務修習」という現在の呼称は,裁判所法及び前記の最高裁判所規則そのものには登場しない運用上の名称である。
司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日)の司法修習に関する記述を確認すると,「実務修習を中核として位置付けつつ」という表現はあるが,「分野別実務修習」,「選択型実務修習」及び「導入修習」という語はいずれも用いられていない。
第二東京弁護士会司法修習委員会は,同会の機関誌において,新試験による司法修習(60期,平成18年=2006年採用から開始)の分野別実務修習について,「これは期間の点を除き、従来の実務修習と異ならない。」と説明している。
同解説は,選択型実務修習について,集合修習の実施期間外に「分野別実務修習の成果の深化と補完を図り」という目的から新たに設けられた課程であるとも説明している。
これらの記述を踏まえると,「分野別実務修習」という呼称は,法科大学院制度の発足に伴う新試験の開始に際して選択型実務修習という課程が新設されたことに伴い,従来から存在していた無限定の「実務修習」(民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野を回る課程)を,新設の選択型実務修習と区別して呼ぶために用いられるようになったものと解される。
もっとも,「分野別実務修習」という語が具体的にどの官報告示又は通知で最初に用いられたかという初出の時点及び文書までは,公開資料からは確認できなかった。
旧制度における前期修習・後期修習の沿革,及び導入修習が第68期から新設された経緯の詳細は,「集合修習とは」第7節に整理している。
第4 分野別実務修習の共通構造
1 4分野の期間と実務修習地
最高裁判所の「司法修習の概要」は,分野別実務修習について,「全国各地の地方裁判所、地方検察庁、弁護士会という実務の第一線において、経験豊富な実務家の個別的指導の下で、実際の事件の取扱いを体験的に学ぶ修習(個別修習)が中心となります。」と説明し,「民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の4分野について、それぞれ2か月ずつ実施されます。」としている。
同ページは,司法修習全体の流れについて「司法修習では、まず、司法研修所における導入修習を行い、その後、各実務修習地において約8か月の分野別実務修習を行います。」とも説明している。
各期の確定した開始日・終了日は,最高裁判所の一般的な「約8か月」という説明とは幅があり得るため,直近の期の実日程は「司法修習とは」第3節及び各期の日程記事で確認する必要がある。
分野別実務修習が行われる裁判所,検察庁及び弁護士会は,指定された実務修習地(配属庁会)に置かれたものに限られる。
実務修習地の選び方及び基礎データは第6節で案内する。
2 分野ごとに異なる指導ガイドラインの発出主体
分野別実務修習は,4分野をひとまとまりの課程として説明されることが多いが,各庁における具体的な指導方法を定めるガイドラインは,分野ごとに全く異なる主体から発出されている点に注意を要する。
司法研修所民事裁判教官室及び刑事裁判教官室は,それぞれ「分野別実務修習における指導のガイドライン」第1民事裁判(平成23年5月,平成26年8月改訂)及び第2刑事裁判(平成25年11月,平成28年8月改訂)を作成している。
これに対し,検察分野の指導方法は,法務省刑事局総務課長が地方検察庁次席検事宛てに発した事務連絡(平成26年3月24日)によって示され,弁護分野の指導方法は,日本弁護士連合会会長が発した「弁護実務修習ガイドラインの送付について」(平成26年3月6日)によって示されている。
すなわち,裁判所側の2分野は司法研修所の各教官室,検察分野は法務省,弁護分野は日本弁護士連合会という,三者三様の実施主体がそれぞれ自らの分野の指導方法を定めているのであって,分野別実務修習という一つの課程を貫く単一のガイドラインが存在するわけではない。
もっとも,各ガイドラインは,いずれも司法研修所長が発した「司法修習生指導要綱(甲)」の指導理念を踏まえたものとして位置付けられている。
例えば,検察分野の事務連絡は,指導目標について「司法修習生指導要綱(甲)第1章第2」及び「同第2章第1・4(2)ア」を引用しながら説明しており,分野横断的な上位の指導方針が「司法修習生指導要綱(甲)」として存在していることがうかがわれる。
同要綱の内容及び集合修習における科目別の指導目標は,「集合修習とは」第5節で扱っている。
各分野の指導内容の詳細,及び各ガイドラインが示す起案・実地経験の目安は,次の表のとおりである。
| 分野 | 指導ガイドラインの発出主体・時期 | 起案・実地経験の目安 |
|---|---|---|
| 民事裁判 | 司法研修所民事裁判教官室(平成23年5月,平成26年8月改訂) | 事実認定についての起案少なくとも2件を含め,全体で少なくとも4件の起案 |
| 刑事裁判 | 司法研修所刑事裁判教官室(平成25年11月,平成28年8月改訂) | 事実認定についての起案少なくとも2件を含め,全体で少なくとも4件の起案 |
| 検察 | 法務省刑事局総務課長(平成26年3月24日付け事務連絡) | 捜査実務修習について少なくとも3件,公判実務修習について少なくとも1件の具体的事件 |
| 弁護 | 日本弁護士連合会会長(平成26年3月6日付け) | 事実調査・証拠収集,法的分析等に関する意見交換,裁判所提出書類の起案等の各項目につきそれぞれ少なくとも1件(刑事弁護は起訴前・起訴後各1件以上) |
この表からは,起案又は具体的事件の経験件数として「少なくとも4件前後」という水準が各分野でおおむね共通して求められていることが分かる。
もっとも,各ガイドラインは,いずれも件数を機械的な必達目標としてではなく,修習生の能力・意欲や各庁の実情に応じて調整すべきものとして位置付けている。
3 クール制と全国統一の合同修習
分野別実務修習は,実務上「クール」と呼ばれる4期間に区分され,各修習生が民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の4分野を順に一クールずつ回る方式で実施されている。
第78期司法修習生の司法修習に関する事務便覧(令和7年3月,司法研修所事務局)によれば,各クールの終了時期に合わせて,民事裁判及び刑事裁判では地方裁判所ごとに「問研起案」,検察では司法研修所検察教官室が日程等を連絡する「検察一斉起案」が実施される。
これらは,各庁における個別指導とは別に,同一の記録・起案要領を用いて全国統一的に実施される合同修習であり,民事裁判修習の記事で紹介した,各クールに一度実施される全国統一的な即日起案方式の問題研究も,この仕組みの一部である。
4 実務修習結果の報告と二回試験との関係
第78期事務便覧によれば,各修習クールの終了に際し,配属庁会は,指導担当者が閲覧・検印した実務修習結果簿の返還を受けるとともに,実務修習結果報告書を司法研修所に提出する。
この報告は,クール終了後おおむね1か月以内(第1クール及び第2クールについては1か月半以内)に行うものとされている。
選択型実務修習についても,これとは別に,選択型実務修習結果レポート及び結果報告書が司法研修所へ送付される仕組みが設けられている。
法務省司法法制部「第2回 法曹の質に関する検証結果について」103頁によれば,司法修習生考試は司法修習生考試委員会が実施し,修習の成績と二回試験の結果によって合否が決定される。
分野別実務修習及び選択型実務修習における前記の各報告が,この「修習の成績」を構成する資料の一部となっていることは,報告の趣旨から見て自然であるが,各報告が最終的な合否判定において具体的にどのように配分・評価されるかを明示した公開資料は確認できなかった。
二回試験当日の流れ及び不合格となった場合の一般的な取扱いは,「二回試験当日の流れ」及び「二回試験不合格時の一般的な取扱い」に整理している。
第5 選択型実務修習との関係
選択型実務修習は,分野別実務修習の4分野を一通り修習した後,実務修習地において,自らの進路,興味及び関心に応じて修習内容を選択・設計する課程である。
最高裁判所の「司法修習の概要」は,その目的を,分野別実務修習の成果の深化・補完,及び分野別実務修習では体験できない領域における実務修習と説明している。
第2節及び第1節第2項で述べたとおり,選択型実務修習は,分野別実務修習と合わせて,司法修習生に関する規則が定める「少なくとも10箇月の実務修習」を構成する一方の課程であり,分野別実務修習とは制度導入の経緯及び指導方法の双方において区別されるべき別個の課程でもある。
分野別実務修習の終了後,選択型実務修習は集合修習と合わせて実施されるが,どちらを先に行うかは実務修習地ごとに異なる。
第79期についてみると,東京,立川,横浜,さいたま,千葉,大阪,京都,神戸,奈良,大津及び和歌山の各実務修習地は集合修習を先に行い,それ以外の実務修習地は選択型実務修習を先に行う。
選択型実務修習のホームグラウンド修習,個別修習プログラム,全国プログラム及び自己開拓プログラムという制度の全体像,運用ガイドラインの原文,並びに応募・欠席等の手続は,「選択型実務修習とは―ホームグラウンド,個別・全国・自己開拓プログラムの案内」に整理しているので,そちらを参照されたい。
第6 目的別の関連記事案内
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実務修習を含む司法修習生の身分,修習給付金及び二回試験に関する事項は,次の記事に整理している。
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| 事務便覧に基づく年間事務 | 司法修習に関する事務便覧(令和7年3月)とは―第78期の日程・届出・給付金 |
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| 秘密保持義務違反の事例 | 司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例 |
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| 二回試験当日の流れ | 二回試験当日の流れ-第78期応試心得に基づく試験時間・持ち物・昼食・禁止事項 |
| 二回試験不合格時の取扱い | 二回試験不合格時の一般的な取扱い-期別の沿革,罷免の根拠条文及び再受験 |
第7 出典・参考資料
1 法令
①裁判所法(昭和22年法律第59号)66条,67条(1項から3項まで),67条の2,67条の3(e-Gov法令検索)
2 最高裁判所規則
①司法修習生に関する規則(昭和23年8月18日最高裁判所規則第15号)2条,5条1項(国立国会図書館日本法令索引で書誌事項確認)
②司法研修所規則(昭和22年12月1日最高裁判所規則第11号)(国立国会図書館日本法令索引で書誌事項確認)
3 最高裁判所の制度説明
①最高裁判所「司法修習の概要」(令和8年8月29日確認)
②最高裁判所「令和7年度司法修習生採用選考申込手続の手引き」
4 司法研修所発行資料(山中弁護士ブログ掲載版)
①司法研修所民事裁判教官室ほか作成「分野別実務修習における指導のガイドライン」第1民事裁判(平成23年5月,平成26年8月改訂)38頁~40頁
②同「分野別実務修習における指導のガイドライン」第2刑事裁判(平成25年11月,平成28年8月改訂)同40頁~44頁
③法務省刑事局総務課長事務連絡「同」第3検察(平成26年3月24日)同44頁~46頁
④日本弁護士連合会会長「同」第4弁護(平成26年3月6日)同46頁~48頁
⑤司法研修所事務局「第78期司法修習生の司法修習に関する事務便覧」(令和7年3月)5頁~6頁,8頁~9頁
⑥法務省司法法制部「第2回 法曹の質に関する検証結果について」(2025年3月)103頁(PDF111頁)
5 制度沿革資料
①司法制度改革審議会「司法制度改革審議会意見書」(平成13年6月12日)第Ⅲ章
②第二東京弁護士会司法修習委員会「司法修習はこう変わった」『NIBEN Frontier』2017年11月号