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裁判官の異動希望と後任ポストの関係―第二カードの記載欄,おおむね3年の異動周期と「空きポスト」(AI作成)

第1 この記事で扱う問いと資料

1 問いと結論の要旨

(1) 扱う問い

裁判官は,毎年,裁判官第二カードによって任地の希望を最高裁判所へ伝えている。
本記事は,異動の希望を出す裁判官が,希望先の裁判所で就くことを想定しているポストにいる裁判官が転勤時期を迎えているかどうかまで考慮して希望を出すべきか,という問いを扱う。
例えば,ある地方裁判所の部総括のポストや,大規模庁の陪席のポストを想定して希望を出す場面である。

(2) 結論の要旨

最高裁判所の公表資料,国会答弁及び情報公開の答申を通覧した限りでは,希望を出す前提として現職者の異動時期を考慮するよう求める定めや説明は見当たらない。
第二カードは,裁判官が異動に際して考慮してほしい事情を自主的に記載する書面と説明されており,どこに何人の裁判官が必要か(補充の必要性)や,誰がいつ異動期を迎えるかは,異動計画を立案する側が扱っている。
本記事では,希望は自分の事情に基づいて書き,現職者の異動時期の見通しは,「転任希望の時期」欄や「任地についての特別の希望」欄の書き方と,内示を受けたときの判断の参考にとどめるのが,資料に即した整理であると考える。
以下,その根拠を,法律上の枠組み,第二カードの記載欄,ポストが空く時期の決まり方の順に示す。

2 調査基準日と資料の性質

(1) 調査基準日

本記事は,令和8年9月13日現在で公表されている資料に基づく。
生成AIを用いて国会会議録,最高裁判所の公表資料,情報公開・個人情報保護審査委員会の答申及び最高裁判所事務総局人事局の研修資料を通読し,引用部分を原文と照合した上で構成した。

(2) 資料の性質

裁判官の異動について,異動の周期や希望の扱いを定めた法令上の基準はない。
平成28年度(最情)答申第12号は,裁判官の異動について「何らかのルールがあることもうかがわれない」と述べており,最高裁判所事務総局人事局長も,平成13年6月20日の衆議院法務委員会で「転勤について画一的な基準というものを設けるのは困難である」と答弁している。
そのため,本記事が依拠するのは,国会答弁や報告書における最高裁判所の運用の説明,答申に記載された最高裁判所事務総長の説明及び審査委員会の判断,並びに人事局の研修資料である。
これらは説明の時点が異なり,特に平成14年の報告書や昭和期の答弁は,その当時の運用の説明として読む必要がある。

第2 異動と希望に関する法律上の枠組み

1 補職と転所の保障

(1) どの裁判所に配置するかは最高裁判所が決める

裁判所法47条は,「下級裁判所の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補する。」と定める。
どの裁判所のどの職に就くかを決めるのは最高裁判所であり,裁判官本人の希望は,この決定に当たって考慮される事情の一つという位置付けになる。

(2) 本人の意思に反する転所はできない

他方で,裁判所法48条は,公の弾劾又は国民審査による場合及び心身の故障の裁判による場合を除いて,裁判官は「その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。」と定める。
最高裁判所事務総局人事局長は,平成15年4月15日の衆議院法務委員会で,「同意なくして異動させるということは全くできない」と答弁している。
平成28年度(最情)答申第12号も,異動に際して承諾書が作成されるのは,裁判官がその意思に反して転所等をされないとする同条によるものと解している。

2 希望の聴取,内示及び承諾

(1) 希望の聴取から発令まで

最高裁判所の「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書」(平成14年7月)は,当時の手順を次のように説明している。
異動計画の原案は,高等裁判所管内の異動は主として各高等裁判所が,全国単位の異動は最高裁判所事務総局人事局が立案し,最高裁判所と各高等裁判所の協議を経て異動計画案が作成される。
異動の内示は,原則として異動の2か月以上前(離島などは3か月以上前)に行われ,承諾があれば最高裁判所裁判官会議の決定を経て発令され,承諾がない場合には異動先の変更又は留任の取扱いがされる。
平成2年12月18日の参議院法務委員会でも,人事局長は,書面で希望を聴取するほか所属の長が本人に直接会って家庭の事情や希望を聴き,内示の後に本人の承諾を得て発令すると説明している。

(2) 予定された任地に異動できない場合

平成15年4月15日の答弁で,人事局長は,家族の関係等で「こちらが予定していた任地に異動できないというケースが起こっておりますが、それがゆえに何か特別の不利益が生ずる、そういったことはない」と述べている。
これは最高裁判所側の説明であり,個々の異動の経緯を外部から検証できる資料ではないが,内示の段階で承諾しない選択肢が制度上残されていることを示すものである。

第3 第二カードに書くこと

1 作成者,基準日及び意見の記入

(1) 毎年8月1日現在の在職者が作成する

裁判官に関する人事事務の資料の作成等について」(平成16年5月31日付け最高裁判所事務総局人事局長通達)によれば,毎年8月1日現在で在職する裁判官(高等裁判所長官を除く。)は,裁判官第二カードを1部作成し,所属庁の長等に提出する。
平成27年度(最情)答申第8号に記載された最高裁判所事務総長の説明によれば,第二カードには,他に転任する場合の任地希望,転任希望の時期,任地及び担当事務についての特別の希望等を記載し,所属する裁判所の長等を経由して人事局長に提出する。
第一カード・第三カードとの違いは,裁判官第一・第二・第三カードの違いで整理している。

(2) 所長・長官が希望に対する意見を書く

同通達は,地方裁判所長・家庭裁判所長及び高等裁判所長官が,提出された第二カードに「当該裁判官の任地及び担当事務の希望に対する意見」を記入して上げる仕組みを定めている。
昭和52年3月15日の衆議院法務委員会で,人事局長は,この所長・長官の意見は「大体九割方が、現任地相当あるいは本人の希望相当」であると答弁している。
所長・長官が書くのも本人の希望に対する意見であり,通達上,希望先ポストの現職者の事情を書くことは予定されていない。

2 任地希望に関する欄

(1) 希望地は地域単位で書くことができる

最高裁判所事務総局人事局任用課長の研修資料「裁判所職員制度の概要―参考資料―」(令和2年度新任判事補研修)には,平成30年8月1日現在の第二カード入力フォームの画面が掲載されている。
任地に関する欄は,「任地について」(入力要領は「来年度の任地の希望を選択する。」),「他に転任する場合の任地希望について」(同「次期異動についての任地希望を選択する。」),及び第一希望から第三希望までの「希望地」である。
希望地の入力要領は,「任地の記載については、概括的なものでも差支えないが、その場合でも地域的概念を用いて記入する。」とし,例として「東京及びその近郊、北海道、大阪高裁管内」を挙げている。
つまり,第二カードの基本の欄は,特定の部や特定のポストではなく,任地(都市又は地域)を単位として希望を聴く作りになっている。

(2) 転任希望の時期を書く欄がある

同じ画面には「転任希望の時期」欄があり,入力要領は「現任地での勤務を希望する者も記載する。」としている。
異動の時期についての本人の希望は,この欄で伝えることができる。

(3) 特別の希望は理由とともに書く

「任地についての特別の希望」欄の入力要領は,「次期異動における任地希望の理由、次期異動又は将来における任地についての特別の希望等を記入する」とし,300字以内で書くこと,300字を超える特段の事情があるときは「詳細は別途提出」などと記入して所長(所長代行)・長官に別途提出することを定めている。
「任地について」欄の入力要領も,将来の任地の希望は「任地についての特別の希望」欄に記入するとしている。
特定の裁判所の特定の職務を希望する事情や,特定の時期を希望する理由があれば,この欄が受け皿になる。

3 平成13年当時の書式の選択肢

(1) 「固執しない」か「希望任地以外は不可」か

最高裁判所は,裁判官の人事評価の在り方に関する研究会の第1回(平成13年9月7日)の資料として,当時の「裁判官第二カード」の書式を公表している。
画像は不鮮明であるが,任地希望欄は,「他の任地を希望する。」と「現任地でよい。」の選択,「他に転任する場合の任地希望について(現任地でよい場合でも記入すること。)」の欄,「次の任地を希望する。ただし,」に続けて「固執しない。」と「希望任地以外は不可。」のいずれかを選ぶ欄,第一から第三までの希望地,及び「最高裁判所に一任する。」の選択肢から成っていると読める。
この書式の下では,希望の強さ(固執しないか,希望任地以外は不可とするか)を本人が示すことができた。

ジャーナリストの岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社,2020年)102頁も,取材に基づき,第二カードの「次期異動における任地」への希望欄には「最高裁判所に一任する」,「任地を希望するが固執しない」及び「希望任地以外は不可」の3つの選択肢があり,多くの裁判官が前の2つのいずれかを選んだ上で,異動の「時期に関しても一任する」を選択すると記述している。
同書の記述は取材に基づく説明であり,最高裁判所が公表した様式そのものではない。

(2) 現行の入力フォームとの関係

令和2年度の研修資料に掲載された入力フォームでは,「任地について」と「他に転任する場合の任地希望について」は選択式の欄になっているが,画面上で選択肢は表示されておらず,平成13年当時の選択肢がそのまま引き継がれているかは確認できない。
なお,令和3年度(最情)答申第42号は,第二カードの入力フォームの画面ショット等について,サイバー攻撃の糸口となるおそれがあるとして一部不開示を妥当としており,現行の選択肢の文言を公表資料で確認することには限界がある。

第4 ポストが空く時期はどのように決まっているか

1 異動の周期

(1) 現在の説明は「おおむね三年に一度」

人事局長は,令和8年4月23日の参議院法務委員会で,全国各地の裁判所に裁判官を配置することが必要不可欠であり,「一般的におおむね三年に一度の頻度で異動しているのが実情でございます。」と答弁した。
同じ答弁は,面談等を通じて把握する本人の希望,健康状態,家族の状況等に配慮し,「個別の事情を考慮して異動時期をずらすなどの調整も行っているところでございます。」とも述べている。
令和6年12月12日の衆議院法務委員会でも,人事局長は「裁判官は、おおむね三年に一度異動しているという実情にございます。」と答弁している。

(2) 職によって在任期間の目安が異なる

平成14年7月の研究会報告書は,判事補時代から判事になりたての時期までは,新任の期間(2年半)を除き3年単位で異動し,その後は4,5年間隔の異動が増え,特に地方裁判所・家庭裁判所の部総括については,裁判長が頻繁に交代するのを避けるため「5年の在任を原則としている」と説明していた。
平成13年2月19日に最高裁判所が司法制度改革審議会へ提出した資料の別紙「わが国の裁判官制度の現状と問題点」も,若手の判事・判事補の異動サイクルが概ね3年であるのに対し,部総括クラスの異動サイクルは4,5年とやや長めにしていると説明している。
これらは平成13年・14年当時の説明であり,現在の部総括の在任期間の目安を示す最新の公表資料は,本記事の調査の範囲では確認できなかった。

2 異動期に当たる者の把握

(1) 昭和42年の答弁にみる異動者名簿

昭和42年5月30日の参議院法務委員会で,人事局長は,定期異動の前に全国の高裁長官と高裁事務局長が最高裁判所に集まって意見を交換すると説明した上で,「この異動者は、もう三年ぐらい前から、だれが異動するということは、ほぼ確定とまで申しては語弊があるかもしれませんけれども、大体そのリストはできているわけでございまして」と答弁している。
同答弁によれば,異動期に当たった者の名簿を作成し,高裁長官と事務当局が個別に折衝した上で,裁判官会議に諮っていた。

(2) この答弁の読み方

この答弁は昭和42年当時の手順の説明であり,現在も同じ名簿や会議があることまでは示していない。
もっとも,異動の周期がおおむね定まっている以上,現職者がいつ異動期を迎えるかは,異動計画を立案する側が相当前から把握できる情報であることを示す資料として読むことができる。

3 交代を前提とする異動の沿革と異動条件

(1) 昭和27年・28年頃の申し合わせ

昭和51年3月2日の衆議院法務委員会で,人事局長は,大都会に入った裁判官が異動を希望しないため,大都会を希望しながら行けない状況が生じたと説明した。
その上で,昭和27,8年頃に,全国の裁判官や所長,長官等の意見を聴いて,申し合わせ的なものとして,「現在大都会におる人は、仲間のために道をあけようではないか。」,「大都会に入られた方も、一定年限が来れば次の方と交代するという意味において転勤をしようではないか」ということになったと答弁し,これが大体3年ごとに行われる判事補の原則的な異動であると説明している。
判事補の3年ごとの異動が,希望の多い大都会の席を一定年限で他の裁判官に譲るという申し合わせから出発したことを示す答弁である。

(2) 大規模庁に入るときの約束と異動条件

平成14年7月の研究会報告書は,勤務地の希望が首都圏等に偏っていることから,希望者の多い大規模庁に転入する判事10年目くらいまでの者については,機会均等を図るため,「何年後には最高裁の指定する庁に転出する」という約束(あくまで紳士協定的なもの)を書面でする扱いとなっていると説明していた。
平成28年度(最情)答申第12号に記載された最高裁判所事務総長の説明によれば,実務上,異動が予定される裁判官から免官,転官及び転所等を承諾する書面が提出され,必要に応じて「一定期間後に一定の条件の裁判所に異動する等の異動に関する条件」が併記されることがある。
同答申は,この異動条件は法令等に基づくものではなく,異動対象となる裁判官ごとに固有の事情に応じて定められる個別的なものと判断している。
詳しくは,裁判官の転出に関する約束で整理している。

(3) 判事補の外部経験の資料にみる「最高裁指定庁」

令和2年度新任判事補研修の資料は,判事補の外部経験から復帰した後の異動方針について,前任地から地域的異動を伴わずに外部経験をする場合は「当該地の異動条件により異動」するとしている。
その上で,「勤務地別の異動条件(当面,外部経験の実施が予定されている地のうち,異動条件の付されているもの)」として,東京,横浜,さいたま,千葉,大阪,京都,神戸,名古屋,広島及び福岡を挙げ,「いずれも「最高裁指定庁」」としている。
これは判事補の外部経験の文脈での記載であり,同資料は「最高裁指定庁」の意味を定義していないが,これらの地での勤務に異動条件が付されていることを示しており,前記の研究会報告書のいう「最高裁の指定する庁に転出する」約束と対応するものと考えられる。
このように,現職者がいつ,どこへ異動するかは,その裁判官が現在のポストに就いたときの異動条件によって左右されることがある。

4 補充の必要性と空きポスト

(1) 異動案の考慮要素

平成14年7月の研究会報告書は,「異動案は,各裁判所でどのような経験等を持つ裁判官が何人必要かという補充の必要性,任地・担当事務についての各裁判官の希望,本人・家族の健康状態,家庭事情等を考慮し,適材適所・公平を旨として立案される。」と説明していた。
「補充の必要性」が最初に挙げられているとおり,希望先のポストが空くかどうか,空いたポストにどのような経験の裁判官が必要かは,異動案を立案する側が判断する事項である。

(2) 空きポストによる制約

同報告書は,判事補に大・中・小の規模の異なる裁判所を回らせる配慮について,「空きポストその他の関係から,例外なしに実行できているというわけではない。」とも述べている。
平成17年10月11日の衆議院法務委員会で,人事局長は,地方の裁判所で部総括を務める裁判官が必要になれば「それにふさわしいキャリアを持った方に異動をお願いする」ことを考えなければならないとし,「それぞれの欠員が生じたところにだれを充てるかというのは、全体を見て、できるだけバランスのとれたような形で考えていきたい」と答弁している。
ポストの空き具合や欠員の状況が異動の組み方を左右することは,これらの最高裁判所の説明にも表れている。

(3) 希望は全国で集計されていない

平成27年度(最情)答申第8号に記載された最高裁判所事務総長の説明によれば,人事局及び各高等裁判所は各第二カードの記載内容を参考に異動計画案の原案を立案・検討するが,各カード又はその写しを個別に確認すれば足り,記載内容を集計した文書は作成していない。
令和8年度(最情)答申第5号も,令和7年4月の人事異動に際して全国の裁判官の希望勤務地を取りまとめた文書は作成・取得されていないとの判断を妥当としている。
希望勤務地の集計文書が存在しないことについては,裁判官の希望勤務地を取りまとめた文書は存在しないことも参照されたい。

第5 現職者の異動時期を考慮して希望を出すべきか

1 資料から確認できること

(1) 考慮を求める定めや説明は見当たらない

第二カードの欄は,任地(地域単位でもよい),転任希望の時期及び特別の希望から成り,希望先のポストや,そのポストにいる裁判官の異動時期を書く欄は,確認できた入力フォームにも平成13年当時の書式にもない。
平成13年3月21日の衆議院法務委員会で,人事局長は,第二カードは「裁判官が異動に際して考慮してほしいと考える事情を自主的に記載するもの」と答弁している。
平成27年度(最情)答申第8号も,人事異動事務を「任地希望を一つの考慮要素としつつも他の要素を含めて総合的に勘案して個別に検討すべき性質の事務」と述べている。
これらの資料からは,希望を出す裁判官に対し,希望先ポストの現職者の異動時期を考慮した上で希望を出すよう求める定めや説明は見いだせない。

(2) 空きの見通しは立案する側の情報である

誰がいつ異動期を迎えるか,その裁判官の承諾書にどのような異動条件が付いているか,他の裁判官がどこを希望しているかは,いずれも個々の裁判官ごとに異動計画を立案する側が把握する情報である。
異動条件は裁判官ごとの個別的なものとされ,希望勤務地の集計文書も作成されていないから,希望を出す側がこれらを正確に知る公式の手段はない。
したがって,本記事では,現職者の異動時期の予測を希望の前提条件とするのではなく,希望を実現しやすい時期や書き方を考えるための参考情報として位置付けるのが相当と考える。

2 現職者の異動時期だけで希望の成否が決まらない理由

(1) 他の裁判官の希望との比較

平成13年6月20日の衆議院法務委員会で,人事局長は,異動は各裁判官の希望,家庭事情,評価及び各裁判所の配置の都合等を総合的に考慮して決定されるとした上で,「他の裁判官の希望とか家庭の事情等との比較で、だれの希望が優先されるかというふうな問題も生じる」と答弁している。
希望先のポストが翌年空くことが分かっていても,同じポストを希望する裁判官が他にいれば,その比較の中で決まることになる。

(2) ポストの性質による違い

同じ答弁は,裁判長クラスになると「ポストとの関係で、経験年数とか力量といった個別的な要素が考量として大きくなる」と述べている。
部総括のように庁ごとの数が限られるポストでは,現職者の異動時期に加えて,後任に求められる経験年数等が問題となるため,空きが生じることと本人がそのポストに就くこととは別の問題になる。

(3) 異動の時期はずれることがある

令和8年4月23日の答弁は,個別の事情を考慮して異動時期をずらす調整を行っていると述べている。
昭和32年10月15日の参議院法務委員会では,人事局長が,北海道勤務の裁判官を内地へ戻す約束について「若干二ヵ月おくれ、三カ月おくれ、長いのになりますと、半年おくれておる例もございます」と答弁していた。
現職者の在任期間から機械的に異動時期を割り出しても,その時期どおりにポストが空くとは限らない。

3 希望を書くときに考えられる対応

(1) 「転任希望の時期」欄で時期の希望を示す

希望先のポストが空く時期に合わせて異動したい事情があるなら,現職者の事情を推測して書くよりも,自分が異動を希望する時期を「転任希望の時期」欄に書く方が,入力フォームの欄の構成に沿った伝え方であると考えられる。
入力要領は,現任地での勤務を希望する者も同欄に記載するとしている。

(2) 「任地についての特別の希望」欄に理由を書く

特定の裁判所や職務を希望する理由,将来の任地についての希望は,「任地についての特別の希望」欄に300字以内で書き,足りなければ所長(所長代行)・長官に別途提出することができる。
人事局長は,希望の聴取に加えて所属の長が本人に直接会って事情を聴くと答弁しているから,カードに書き切れない事情は面談で伝えることも考えられる。

(3) 希望の強さと内示への対応

平成13年当時の書式では,希望任地に「固執しない」か「希望任地以外は不可」かを選ぶ欄があった。
希望先のポストが空くかどうか分からない場合には,希望の強さをどう示すかが実際上の選択になると考えられる。
内示を受けた後は,承諾しなければ異動先の変更又は留任の取扱いとなると説明されているから,現職者の異動時期に関する見通しは,内示を承諾するかどうかを考える段階で参考にすることもできる。

第6 関連記事

裁判官の異動に関する制度と資料は,次の記事でも整理している。
裁判官第一・第二・第三カードの違い,記載内容と根拠資料
裁判官の転出に関する約束―転所保障・承諾書・最高裁答申
毎年4月1日付の裁判官人事と最高裁判所裁判官会議
裁判官の転勤の内示時期―4月異動はいつ分かるか
判事補の採用に関する国会答弁―採用基準・任官者数・欠員
最高裁判所事務総局人事局の任用課長及び参事官

第7 出典・参考資料

1 法令

裁判所法47条,48条(e-Gov法令検索)

2 国会会議録

第26回国会参議院法務委員会閉会後第1号(昭和32年10月15日)発言73
第55回国会参議院法務委員会第6号(昭和42年5月30日)発言89
第77回国会衆議院法務委員会第2号(昭和51年3月2日)発言45
第80回国会衆議院法務委員会第3号(昭和52年3月15日)発言71
第120回国会参議院法務委員会第1号(平成2年12月18日)発言66
第151回国会衆議院法務委員会第6号(平成13年3月21日)発言18
第151回国会衆議院法務委員会第20号(平成13年6月20日)発言125
第156回国会衆議院法務委員会第7号(平成15年4月15日)発言125
第163回国会衆議院法務委員会第4号(平成17年10月11日)発言162
第216回国会衆議院法務委員会第3号(令和6年12月12日)発言36
第221回国会参議院法務委員会第7号(令和8年4月23日)発言75

3 最高裁判所の公表資料

①最高裁判所「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況」(裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書,平成14年7月),PDF版2頁~3頁
②最高裁判所「わが国の裁判官制度の現状と問題点」(「裁判官制度の改革について」(平成13年2月19日)の別紙。同日の司法制度改革審議会第48回会議で説明されたもの),PDF7頁~8頁
③最高裁判所「(別添)裁判官第二カード」(裁判官の人事評価の在り方に関する研究会第1回(平成13年9月7日)の資料

4 情報公開・個人情報保護審査委員会の答申

平成27年度(最情)答申第8号(平成28年2月23日),PDF2頁~3頁
平成28年度(最情)答申第12号(平成28年6月3日),PDF2頁~3頁
令和3年度(最情)答申第42号(令和3年12月16日),PDF1頁~3頁
令和8年度(最情)答申第5号(令和8年4月30日),PDF1頁~2頁

5 最高裁判所事務総局の通達・研修資料

①最高裁判所事務総局人事局長「裁判官に関する人事事務の資料の作成等について」(平成16年5月31日付け人任E第623号)第2
②最高裁判所事務総局人事局任用課長「裁判所職員制度の概要―参考資料―」(令和2年度新任判事補研修),資料2頁~3頁及び14頁(PDF5頁~6頁及び17頁)

6 文献

①岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社,2020年)102頁