メインコンテンツへスキップ
       

判事補の採用に関する国会答弁―採用基準・任官者数・欠員(AIリライト)

第1 判事補採用に関する資料の読み方

本記事は,判事補の採用基準,任官者数及び欠員について,平成26年以降の主要な国会答弁を日付別に整理するものである。
国会会議録の発言箇所へ直接リンクし,最高裁判所の説明,財務省の説明及び議員の問題提起を区別している。

判事補の「任官者数」は新たに任官した人数であり,「現在員」は特定の日に在職する人数,「欠員」はその日の定員と現在員との差である。
例えば,令和8年4月23日の参議院法務委員会答弁では,78期の83人が同月に任官したと説明されている一方,欠員182人は令和7年12月1日現在の数字として示されている。
両者を同じ時点の人数として扱うことはできない。

裁判所法43条は,判事補を司法修習生の修習を終えた者の中から任命すると定めている。
これは任命資格の規定であり,修習を終えた者全員の採用を定めたものではない。

任命の手続については,裁判所法40条1項により,最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命する。
以下の「できる限り多数採用する」という答弁も,裁判官にふさわしい資質・能力を備えることを前提とした採用方針として読むことになる。

第2 最高裁判所が説明した採用方針・基準と採用難

1 平成26年3月27日答弁

(1) 適格者の採用と男女の取扱い

安浪亮介最高裁人事局長は,裁判官にふさわしい適格者があれば,できる限り多数採用したいと説明した。
また,当時,法科大学院に現職裁判官を教員として派遣しており,その裁判官に接して裁判官の仕事に魅力を感じる学生もいると述べた(発言48)。
この答弁は,教員派遣による採用増加の効果を数量的に示したものではない。

同日の質疑では,66期の採用者96人のうち女性は38人であることが示された。
その割合は約39.6%であるが,安浪亮介最高裁人事局長は,男女別の採用基準を設けておらず,裁判官としての資質・能力に基づいて選考すると説明した(発言64発言65)。
女性の任官が多かった理由については,実務修習や裁判官教員との接触を通じ,職務にやりがいを感じて希望した結果ではないかとの見方を示している。

(2) 弁護士数と裁判官増員・合議率

中村愼最高裁総務局長は,平成12年から平成25年までに弁護士数がおおむね2倍になった一方,民事訴訟事件数はそれほど大きく変わっていないとして,弁護士数に比例して裁判官を増員する関係にはないと説明した。
他方で,事件の複雑化・困難化等も考慮しながら,必要な人的体制を整備するとの説明であり,裁判官の増員自体を不要とする趣旨ではない(発言59)。

民事訴訟事件の合議率については,平成25年度の状況を4.1%とし,当時の目標である10%の達成に向けて取り組むと説明した。
4.1%と10%はこの答弁当時の実績と目標であり,現在の合議率を示す数字ではない(発言86)。

2 平成29年12月5日答弁

中村愼最高裁総務局長は,平成30年度の概算要求で判事50人の増員を求めていると説明した。
判事は,判事補からの任官や弁護士任官等によって採用するため,判事補の新規採用とは事情が異なるとしている(発言18)。

判事補の採用については,ふさわしい資質・能力を備えていても,必ずしも裁判官への任官を希望してもらえず,採用人数が伸び悩むことがあると説明した。
これは最高裁が述べた採用状況の認識であり,適格者の人数や任官を希望しない理由の内訳を示した調査結果ではない。

3 平成30年3月30日答弁

堀田眞哉最高裁人事局長は,新任判事補の採用数が伸び悩む事情として,①司法修習終了者数の減少,②弁護士として活躍する分野の拡大と大規模法律事務所等との競合,③大都市志向や共働きの一般化に伴う転勤への不安を挙げた。
裁判官を全国に配置する必要があることと,司法修習生の進路選択との関係を説明した答弁である(発言57発言81)。

司法修習生の質の低下が採用減少の原因であるとは考えていないとも答弁した。
比較の難しさに触れつつ,二回試験の不合格者が近年大きく増加していないことを参考に挙げている(発言59発言61)。

同日の「200人程度」の採用という数字は,平成31年1月までに約100人が判事へ任官し,新規採用がなければ判事補の欠員が約230人となるとの見込みを前提としている。
その欠員を約33人とするためには,概算で約200人の採用が必要になると答弁したものであり,恒常的な年間採用目標ではない(発言75)。

4 平成30年5月9日答弁

堀田眞哉最高裁人事局長は,下級裁判所指名諮問委員会において,事件処理能力,部等を適切に運営する能力及び裁判官の職務に必要な一般的資質・能力を審査すると説明した。
修習中の成績だけでなく,指導担当者の意見等の人柄に関する情報も総合的に検討され,採用基準も同様と考えられると述べている(発言15)。

この答弁から確認できるのは,成績のみで採否を決めるという説明ではなく,複数の情報を総合して審査するという説明である。
具体的な配点や,一定の試験順位で必ず採用されるという基準までは示されていない。

5 令和4年3月4日答弁

小野寺真也最高裁総務局長は,各年12月1日現在の判事補の現在員と充員割合を説明した。
あわせて,当時の数年間の採用数が65人から82人で推移した背景として,修習終了者数の減少や法律事務所との競合等を挙げている(発言72)。

基準日判事補の現在員充員割合
平成30年12月1日779人81.8%
令和元年12月1日779人約84.0%(下記参照)
令和2年12月1日747人83.3%
令和3年12月1日715人79.7%

同じ発言の充員割合の説明には「平成元年は八四・〇%」という記載がある。
現在員の列挙との対応からは令和元年を指すと考えられる。
令和元年12月1日の充足率が約84%であることは,後の令和6年12月18日答弁でも説明されている。

6 令和6年12月の答弁

12月12日,徳岡治最高裁人事局長は,大規模法律事務所等との競合には,収入以外にも,内定先の仕事の魅力,内定辞退へのためらい,転勤がなく大都市で勤務できること等の事情があり得ると説明した。
任官者数が近年増えていることも挙げ,裁判官の採用全体で見れば,収入額が採用を難しくしているとまでは必ずしもいえないとの認識を示した(発言48)。
この答弁も収入の影響を実証的に否定したものではなく,採用難を収入差だけで説明することに慎重な最高裁の見解である。

12月18日には,徳岡治最高裁人事局長が,ふさわしい資質・能力を備えた人には,年齢や性別等を問わず,できる限り任官してもらいたいと述べた。
また,採用数の伸び悩みについて,修習終了者数,法律事務所との競合及び転勤への不安等を挙げる説明をしている(発言231発言235)。

同日の小野寺真也最高裁総務局長の答弁では,事件動向,充員困難及び附帯決議等を踏まえ,令和4年度・令和5年度に判事補の定員を減らしたと説明している。
他方,採用者数が増えてきたこと等を踏まえ,令和7年度の予算要求では定員を維持するとしており,採用数,欠員及び定員の関係を一方向の因果関係だけで説明してはいない(発言237)。

第3 財務省の平成31年3月22日答弁

神田眞人財務省主計局次長は,平成31年1月の判事補の欠員が157人で,欠員率が約16.5%であると説明した。
比較対象として挙げた行政機関の平成29年度末の数字は,定員29万7030人,欠員1万1671人,欠員率約3.9%である(発言132)。

ただし,将来判事となる人材の確保のため判事補の定員を確保したい一方,修習終了者数の減少や法律事務所との競合によって採用が困難となるという裁判所特有の構造があり,行政機関の欠員率と一概には比較できないとの留保が付されている。
集計時点も異なるので,16.5%と3.9%の差だけから採用の難しさの程度を断定することはできない。

第4 令和3年3月12日の任官者減少に関する質疑

1 階猛議員の問題提起と最高裁の説明

階猛議員は,判事補の定員充足と定員の在り方の検討に関する附帯決議に言及した上で,司法試験合格者が約500人だった時代の平成4年にも約65人が判事補に任官していたのに,直近の任官者数が66人にとどまると指摘した。
これは,司法試験合格者の増加に見合って任官者数が増えていないのではないかという問題提起であり,試験の合格年と修習期が同じことを意味するものではない(発言50)。

これに対し,徳岡治最高裁人事局長は,修習終了者数の減少,法律事務所との競合及び転勤への不安等を説明した。
階議員が検察官の採用は減っていないと指摘したのに対しては,裁判官は民事事件を担当する割合が高く,大規模法律事務所等との競合が生じやすい面があると述べている(発言51~53)。

2 司法修習生の質をめぐるやり取り

階猛議員は,優秀な人材が少なくなったことが判事補の採用難に影響しているのではないかという見方を示した。
これに対し,徳岡治最高裁人事局長は,二回試験の不合格者が近年大きく増加していないこと等から,司法修習生の質が低下している事情は見当たらないと答弁した(発言56~59)。

議員の仮説と最高裁の回答は,異なる見解として示されている。
この質疑から,優秀な人材の減少が採用難の原因だと確定することも,二回試験の不合格者数だけで上位者の質や進路に変化がないと確定することもできない。

3 任官志望者を増やすための取組

徳岡治最高裁人事局長は,指導担当裁判官や司法研修所教官から,仕事のやりがいや魅力,異動希望・負担への配慮を伝えてきたと説明した。
また,令和元年度から選択型実務修習の全国プログラムとして最高裁修習プログラムを新設し,最高裁判事の講話や最高裁調査官の講義等を実施したと述べた(発言61)。

令和2年度には,新型コロナウイルス感染症の影響で全国プログラムが中止となるなどしたため,司法研修所教官がウェブ会議等を用いて進路相談に対応したと説明している。
取組の内容を述べた答弁であり,これらの施策による任官者数の増加分を測定した説明ではない。

第5 令和8年の答弁にみる人数・欠員と対応策

1 73期から78期までの新任判事補任官者数

令和8年4月14日答弁は73期から77期までの人数を示し,同月23日答弁は78期83人の任官を説明している。
下表は,これらの答弁における修習期別の新任判事補任官者数である。

司法修習期新任判事補任官者数
73期66人
74期73人
75期76人
76期81人
77期90人
78期83人

73期から77期までは増加し,78期は77期より少ない。
したがって,令和3年当時の「任官者の減少が止まらない」という問題提起を,その後も一貫して減少しているという説明に用いることはできない。

本表は,令和8年の答弁で示された修習期別の人数によっている。
75期を75人とする志望者数・採用者数の記事の記載とは異なるが,本表は後の公式答弁の76人に従う。

2 定員・現在員・欠員

判事補の定員等について,令和6年12月18日答弁令和8年4月14日答弁は,次の数字を示している。
充足率は現在員を定員で除した割合であり,表の令和7年の約78.4%は,答弁の人数から算出したものである。

基準日定員現在員欠員充足率
令和元年12月1日927人779人148人約84.0%
令和6年12月1日842人673人169人約79.9%
令和7年12月1日842人660人182人約78.4%

令和8年8月31日時点の裁判所職員定員法1条でも,判事補の定員は842人である。
ただし,法定定員を確認したことから,令和7年12月1日の現在員660人や欠員182人が,その後も変わらないとはいえない。

最高裁は,採用数や行政官庁等での勤務による出入りが一定ではなく,人事運用上ある程度の欠員を抱えておく必要があると説明する一方,判事補には相当数の欠員が生じていると認識している。
欠員を全くなくすことと,相当数の欠員を縮小するため充員に努めることとは区別された説明である(令和8年4月14日発言77)。

3 判事補の退官者数

令和8年4月14日答弁によれば,判事補の退官者数は,令和3年度15人,令和4年度12人,令和5年度14人,令和6年度12人,令和7年度9人である。
最高裁は,令和7年度の数字について一定程度歯止めがかかっているようにも思われると述べ,執務環境の改善や離職防止に取り組むとしている(発言77)。

これは年度別の退官者数であり,個々の退官理由や,執務環境の改善が退官者数に与えた効果まで示すものではない。
個人別の在職・退官情報は,判事補在職中の退官者名簿(令和時代)で参照できる。

4 転勤への配慮と附帯決議

令和8年4月23日答弁では,裁判官は一般的におおむね3年に1度異動する実情にあり,全国各地への配置と地方・都市部勤務の公平を考慮する必要があると説明されている。
他方,本人の希望や家族の状況等に配慮し,個別の事情に応じて異動時期をずらすなどの調整を行っているとも述べている。

この人事運用の説明とは別に,裁判所法48条は,法定の例外を除き,裁判官がその意思に反して転所等をされないことを定めている。
全国配置の必要性についての答弁を,意思に反する転所を無制限に認める規定と読むことはできない。

令和8年4月14日の衆議院法務委員会及び同月23日の参議院法務委員会の附帯決議は,判事補の定員充足と実員見通し,裁判官の全体的な処遇改善に向けた検討,法曹養成制度等の影響の分析,本人の意向や家庭環境に配慮した異動等を求めている。
採決は,衆議院では起立総員参議院では多数であった。

これらは政府及び最高裁に配慮を求める委員会の附帯決議であり,それ自体が個人の採用請求権や希望地への配置請求権を定める法律の条文ではない。
また,法曹の質や任官者数への影響について分析を求めたことは,特定の原因が既に実証されたことを意味しない。

第6 関連記事

採用基準,志望者数及び任命資料については,次の記事を参照できる。
採用基準等に関する人事局長答弁(答弁者は堀田眞哉
判事補志望者数と採用者数の推移
判事補任命時の閣議書
判事補採用願等の書類・採用面接の日程

採用の日程や任官に関連する資料は,次の記事で整理している。
判事補採用内定・辞令交付の日程
裁判官の採用・再任の年月日
最高裁修習
判事補への指名に関する裁判例

定員,報酬及び検事採用との比較に関する資料は,次のとおりである。
裁判所の定員に関する国会答弁
裁判官の報酬に関する国会答弁
検事の採用日程
60期以降の検事採用

第7 出典

1 法令

裁判所法40条1項,43条及び48条(e-Gov法令検索)
裁判所職員定員法1条(e-Gov法令検索)

2 国会会議録・附帯決議

平成26年から平成31年までの会議録は,次のとおりである。
第186回国会参議院法務委員会第6号・平成26年3月27日(発言48,59,64,65,86)
第195回国会衆議院法務委員会第3号・平成29年12月5日(発言18)
第196回国会衆議院法務委員会第5号・平成30年3月30日(発言57,59,61,75,81)
第196回国会衆議院法務委員会第10号・平成30年5月9日(発言15)
第198回国会衆議院法務委員会第5号・平成31年3月22日(発言132)

令和3年以降の会議録及び附帯決議は,次のとおりである。
第204回国会衆議院法務委員会第3号・令和3年3月12日(発言50~61)
第208回国会衆議院法務委員会第4号・令和4年3月4日(発言72)
第216回国会衆議院法務委員会第3号・令和6年12月12日(発言48)
第216回国会衆議院法務委員会第4号・令和6年12月18日(発言229,231,235,237)
第221回国会衆議院法務委員会第3号・令和8年4月14日(発言72,74,77,133,135)
第221回国会参議院法務委員会第7号・令和8年4月23日(発言12,75,133,135)