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調停委員(AIリライト)

民事調停・家事調停を担当する調停委員について,調停委員会の仕組み,任命資格と任期,人数・年齢・職業の統計,国籍要件をめぐる国会答弁と最高裁判例,電話・ウェブ会議や調停に代わる決定・審判までを,法令・国会会議録・裁判所の統計等の一次資料で整理します。あわせて,最高裁判所の通達・手引や弁護士会誌の解説記事など,参照先の資料へのリンクをまとめています(本記事の内容は令和8年7月時点。統計は特記がない限り令和6年4月1日現在)。

第1 調停委員と調停委員会の仕組み

1 調停委員会の構成と手続の指揮

調停は,原則として調停委員会が行います(民事調停法5条,家事事件手続法247条)。調停委員会は,裁判官1名と調停委員2名以上で組織され(民事調停法6条,家事事件手続法248条1項),実務では男女各1名の調停委員が加わる3名構成が一般的です。
調停委員会を組織する裁判官は,民事調停では「調停主任」と呼ばれ(民事調停法6条。弁護士から任命される民事調停官が務めることもあります),家事調停では単に「裁判官」と呼ばれます(家事事件手続法248条)。

手続を指揮するのは,この裁判官(調停主任)です。民事調停では,民事調停法22条が非訟事件手続法第2編を準用し,同法45条(裁判長の手続指揮権)により調停主任が期日の手続を指揮します。家事調停では,家事事件手続法259条が,調停委員会を組織する裁判官が手続を指揮すると定めています。

もっとも実際の期日は,男女各1名の調停委員(民間から選ばれた人です)が当事者双方から交互に事情を聴いて進め,裁判官は調停の成立や不成立が見込まれる段階などに関与するのが通例です。1人の裁判官が同じ時間帯に複数の調停事件を担当していることが背景にあります。

2 民事調停委員・家事調停委員の任命資格と任期

民事調停委員及び家事調停委員は,民事調停委員及び家事調停委員規則(昭和49年7月13日最高裁判所規則第5号)に基づいて最高裁判所が任命します。
任命資格は,弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者,又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い年齢40年以上70年未満の者です(規則1条)。ただし,特に必要がある場合には,年齢の要件を満たさない者を任命することもできます(同条ただし書)。

任期は2年です(規則3条)。この規則は昭和49年10月1日から施行され,それまでの調停委員規則(昭和26年最高裁判所規則第11号)に代わりました。

3 調停委員の人数・年齢・職業

調停委員の全体像は,最高裁判所が毎年公表する裁判所データブックで確認できます。令和6年4月1日現在,民事調停委員は7,658人,家事調停委員は11,322人,合計18,980人です(うち2,881人は民事・家事の両方に併任)。このほか,弁護士から任命され裁判官と同等の権限で調停を主宰する調停官が,民事調停官59人・家事調停官61人の合計120人います(令和5年12月1日現在)。

任命時の年齢は60歳代が最も多く,民事・家事とも約6割を占めます。40歳未満はごくわずかで,規則1条の年齢要件(原則40歳以上70歳未満)の運用がうかがえます。

調停委員の任命時年齢別員数(令和6年4月1日現在)
区分民事調停委員(人)民事(%)家事調停委員(人)家事(%)
70歳以上4385.78017.1
60歳代4,40857.66,61458.4
50歳代1,98625.92,64723.4
40歳代81110.61,23910.9
40歳未満150.2210.2
7,658100.011,322100.0

職業別にみると,民事調停委員は公認会計士・税理士・不動産鑑定士・土地家屋調査士等の士業が最も多く(37.8%),弁護士(18.5%)を加えると士業だけで半数を超えます。一方,家事調停委員は無職が最も多く(31.4%),紛争類型の違いが構成にも表れています。本記事では,民事調停が専門的な資格者の関与を,家事調停が幅広い社会経験を持つ人材の関与を,それぞれ想定していると整理できます。

調停委員の職業別員数(令和6年4月1日現在)
職業民事調停委員(人)民事(%)家事調停委員(人)家事(%)
弁護士1,41918.51,63214.4
公認会計士・税理士・不動産鑑定士・土地家屋調査士等2,89737.82,47421.9
医師1642.1410.4
大学教授等911.22031.8
公務員1622.13182.8
会社・団体の役員・理事5867.79358.3
会社員・団体の職員4525.97136.3
農林水産業620.8880.8
商業・製造業700.9910.8
宗教家881.11831.6
その他3604.71,0949.7
無職1,30717.13,55031.4
7,658100.011,322100.0

第2 家事調停委員の選任・研修と苦情への対応

1 選任と質の確保に関する家庭局長答弁

家事調停委員の選任・研修について,手嶋あさみ最高裁判所家庭局長は,令和2年4月16日の参議院法務委員会で説明しています。要旨は次のとおりです。

  • ① 家事調停委員は,家事紛争の解決に有用な専門的知識経験や社会生活上の豊富な知識経験を有し,人格識見の高い者の中から最高裁判所が任命する。
  • ② 候補者の選考では,公正であること,豊富な社会常識と広い視野,柔軟な思考力と的確な判断力,人間関係を調整できる素養に特に留意する。
  • ③ 研修は,新任者に対する心構えや基礎知識の研修に加え,一定の経験を積んだ後の事例研究など,経験に応じて段階的に行う。
  • ④ 質の確保のため,専門職団体や地方公共団体への周知などのリクルート活動により多様な人材を確保している。

2 調停委員への苦情の伝え方

当事者が調停委員に不満を抱いた場合,その内容は裁判所の職員に伝えることができます。前記の家庭局長答弁も,裁判所職員に調停委員への不満の申出があったときは,速やかに裁判所内で情報を共有した上で,必要な指導など適切な対応をとっていると説明しています。

二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た離婚や面会交流等の調停実務」も,当事者から寄せられる苦情として,話を十分に聴いてくれなかった,説教された,強引に決め付けられた,説得しやすい側にばかり強く働きかける,一方の話ばかり長く聴いた,といった類型を挙げ,こうした不満は上申書でも書記官への口頭でも伝えてよいとしています。実務的な伝え方は,上大岡法律事務所の解説も参考になります。

第3 調停委員の国籍要件をめぐる議論

1 「当然の法理」に関する人事局長答弁

調停委員は非常勤の裁判所職員であり,公務員に当たります。最高裁判所は,その就任には日本国籍を必要とするという立場をとっています。堀田眞哉最高裁判所人事局長は,令和2年4月7日の参議院法務委員会で,その理由を次のように説明しました。

  • ① 公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるには日本国籍を必要とするのが,公務員全般に関する「当然の法理」である。
  • ② 調停委員会の決議は過半数の意見によること,成立した調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有すること,呼出し・命令・措置に過料等の制裁があること,事実の調査や証拠調べの権限を有することなどからすると,調停委員はこの類型の公務員に該当する。
  • ③ そのため,日本国籍を有しない者を調停委員に任命することは難しい。ただし,弁護士,医師,大学教授,農林水産業,商業,製造業,宗教家など,多様な分野の人材を任命している。

この立場に対しては,後記のとおり弁護士会等から異論が示されています。

2 外国人の公務就任権に関する最高裁判例

国籍要件の議論でしばしば参照されるのが,地方公務員の管理職選考に関する最高裁判所大法廷平成17年1月26日判決(民集59巻1号128頁)です。同判決は,国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治のあり方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条,15条1項参照)に照らし,原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきである,と判示しました。

この判決は地方公務員の管理職選考に関するものですが,公権力の行使に携わる公務員の国籍という論点で,調停委員の議論にも援用されています。

3 外国籍者の任命を求める弁護士会等の動き

弁護士会等は,外国籍を理由に調停委員への任命を拒む運用に異論を示しています。関東弁護士会連合会の理事長声明(平成30年10月3日付)は,過去に外国籍のまま14年余りにわたり民事調停委員を務めた例があること(大阪弁護士会所属の張有忠弁護士が,1974(昭和49)年から1988(昭和63)年まで務め,大阪地方裁判所長から表彰も受けたこと)を挙げ,外国籍の調停委員が職務を行うことに支障はないと主張しています。東北弁護士会連合会も「日本国籍を有しない者の調停委員任命を求める決議」(平成23年7月8日付)を採択しています。

また,この問題に関して最高裁判所が作成・取得した文書が,令和4年6月に情報公開により開示されており,当ブログに掲載しています。

4 人種差別撤廃委員会の総括所見

国連の人種差別撤廃委員会も,日本の政府報告に対する総括所見で,この問題に繰り返し言及しています。

  • ① 2010年4月6日付の総括所見は,資質がありながら日本国籍を持たない者が調停委員として調停処理に参加できないことに懸念を表明し,締約国(日本)に立場の見直しを勧告しました。
  • ② 2014年9月26日付の総括所見も,家庭裁判所の調停委員として活動する能力を有する日本国籍でない者を排除する立場と実務に懸念を示しました。
  • ③ 2018年8月30日付の総括所見は,公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる国家公務員として勤務できないことなどへの懸念を示しました。

第4 電話会議・ウェブ会議による調停

平成25年1月1日から,遠方の当事者等が裁判所に出頭しなくても,電話会議(音声の送受信により同時に通話する方法)によって調停手続を行えるようになりました。根拠は,民事調停では民事調停法22条・非訟事件手続法47条・非訟事件手続規則42条,家事調停では家事事件手続法258条1項・54条1項です(いずれも証拠調べを除きます)。電話でつないで調停を行う運用は,千葉の弁護士による解説も参考になります。

その後,ウェブ会議(映像と音声を用いる方法)による運用も広がっており,家事調停手続については令和3年4月から試行が始まっています(後記の事務連絡を掲載しています)。

第5 調停に代わる決定・調停に代わる審判

調停が成立する見込みがない場合でも,裁判所が職権で解決案を示して事件を終わらせる制度があります。民事調停では「調停に代わる決定」(民事調停法17条。いわゆる17条決定),家事調停では「調停に代わる審判」(家事事件手続法284条1項)です。いずれも,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情をみて,必要な決定・審判をするものです。

ただし,当事者が告知・送達を受けてから2週間以内に異議を申し立てれば,決定又は審判は効力を失います(民事調停法18条,家事事件手続法286条)。この異議申立ての機会が制度上重要な意味を持つのは,当事者の意思にかかわらず終局的に権利義務を確定させる裁判を非公開・非対審で行うことが憲法32条・82条に反するとした最高裁判所大法廷昭和35年7月6日決定(民集14巻9号1657頁)の趣旨に沿うものと理解できます。調停に代わる審判の内容は,葛葉法律事務所の解説も参考になります。

第6 調停の申立てが適している場合

訴訟と調停のいずれによるか選択できる場面で,調停の申立てが適していると考えられる場合について,クロスレファレンス民事実務講義(第3版)32頁及び33頁は,次の8つの類型を挙げています。

  • ① 相手方が親族や友人など親密な関係にある場合(訴訟提起自体が態度を硬化させ,話し合いを困難にすることがある)。
  • ② 証拠が十分でない場合(訴訟では有利な判決を得にくく,相手方の良識に期待する場合)。
  • ③ 判決では実現しない事柄を求めている場合(損害賠償請求としか構成できないが,再発防止の仕組みづくり等を求めているような場合)。
  • ④ いまだ判例・学説が熟していない新しい法律的権利が問題となる場合(訴訟物として構成しにくい場合)。
  • ⑤ 相手方が信用のある会社・団体などである場合(社会的信用を重んじた良識ある対応が期待できる場合)。
  • ⑥ 早期に解決する見込みのある場合(証拠調べをしなくても早期解決が見込め,訴訟より短期間で済む場合)。
  • ⑦ 非公開手続を活用したい場合(相手方の感情に配慮でき,主張書面や書証の非開示も可能)。
  • ⑧ 相手方の主張・証拠の開示機能を活用したい場合(相手方の応答から主張や手持ち証拠の一端がうかがえる)。

もっとも,調停が不成立となってから訴訟を提起するより最初から訴訟による方が早い事案もあり,選択は事案によります。

第7 調停委員制度の沿革

現在の調停委員制度は,昭和49年の抜本的な改革によって形づくられました。矢口洪一 元最高裁判所長官の回顧録「最高裁判所とともに」63頁は,昭和46年度に最高裁へ臨時調停制度審議会を設けるための予算が認められ,同年6月に審議会が発足し,その答申を受けて,昭和49年10月から,それまで事件ごとに指定されるにすぎなかった調停委員を裁判所の非常勤職員とし,日当に代えて非常勤職員手当を支給する改革が実現した,と記しています。

この改革は,前記の民事調停委員及び家事調停委員規則(昭和49年10月1日施行)として制度化され,現在の任命・任期の仕組みにつながっています。

第8 掲載資料・関連記事

1 任免・再任に関する最高裁の通達等

調停委員の任免に関する最高裁判所の通達等を掲載しています。

2 調停委員の手引・専門委員の資料

調停委員の実務に関する最高裁判所の手引等を掲載しています。

なお専門委員は,調停委員とは別の制度で,非常勤の裁判所職員(民事訴訟法92条の5第3項,非訟事件手続法33条5項)であり,特別職の国家公務員として,建築関係訴訟,医事関係訴訟,知的財産権関係訴訟等に関与します。

3 弁護士会誌等の解説記事

調停委員や調停実務について,弁護士会誌等の解説記事を紹介します。

4 関連する当ブログの記事

第9 出典・参考資料

1 法令

  • 民事調停法(5条・6条・17条・18条・22条),家事事件手続法(54条・247条・248条・258条・259条・284条・286条),非訟事件手続法(33条・45条・47条),民事訴訟法(92条の5)――e-Gov法令検索
  • 民事調停委員及び家事調停委員規則(昭和49年7月13日最高裁判所規則第5号),民事調停規則(昭和26年最高裁判所規則第8号)――裁判所ウェブサイト掲載の規則原文

2 裁判例

  • 最高裁判所大法廷平成17年1月26日判決(平成10(行ツ)93号,民集59巻1号128頁)――裁判所ウェブサイト
  • 最高裁判所大法廷昭和35年7月6日決定(昭和26(ク)109号,民集14巻9号1657頁)――裁判所ウェブサイト

3 国会答弁・公文書

  • 手嶋あさみ最高裁判所家庭局長答弁(令和2年4月16日参議院法務委員会)――国会会議録検索システム
  • 堀田眞哉最高裁判所人事局長答弁(令和2年4月7日参議院法務委員会)――国会会議録検索システム
  • 人種差別撤廃委員会の総括所見(2010年4月6日付,2014年9月26日付,2018年8月30日付)――外務省ウェブサイト

4 統計

  • 裁判所データブック2024(調停官の数・調停委員の数・年齢別員数・職業別員数。令和6年4月1日現在等)――最高裁判所

5 文献

  • 京野哲也編「クロスレファレンス民事実務講義」(第3版,ぎょうせい,令和3年)32頁~33頁
  • 矢口洪一「最高裁判所とともに」(有斐閣)63頁
  • 東弁リブラ2018年7月号・2020年6月号,二弁フロンティア2021年12月号・2022年12月号