修習給付金

修習給付金に関する大阪地裁令和4年12月22日判決に対する控訴理由書

目次
第1部 控訴理由書
第2部 関連記事その他

第1部 控訴理由書
・ 修習給付金についての所得税更正処分取消請求事件に関する大阪地裁令和4年12月22日判決(正本認証込で53頁あります。なお,担当裁判官は51期の徳地淳54期の新宮智之及び新60期の太田章子)に対する控訴理由書(令和5年2月14日付)の本文は以下のとおりです。
・ 控訴審で提出した甲123ないし甲142を掲載しています。

第1 本件給付金が所得税法上の学資金に該当することの補充主張
1 基本給付金が学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえないことの補充主張
(1) 「学資」と「学費」とでは,登録商標における「商品及び役務の区分」が全く異なること
ア 「学資」という文言を含む登録商標40例のうち,39例は「第36類」(金融,保険及び不動産の取引)であり,残り1例は「第16類」(紙,紙製品及び事務用品)である(甲119)。
    これに対して「学費」という文言を含む登録商標5例のうち,2例だけが「第36類」であり,残り3例は「第35類」(広告,事業の管理又は運営,事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供),「第41類」(教育,訓練,娯楽,スポーツ及び文化活動)又は「第42類」(科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発)である(甲120)。
    つまり,「学資」という文言を含む登録商標と「学費」という文言を含む登録商標とでは,商標法施行令2条及び別表が定める「商品及び役務の区分」が全く異なるといえる。
(2) 「学資」と「学費」とでは,現実の使用場面が全く異なること
ア 「学資」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて学資保険に関するものである(甲123の1)。
    これに対して,「学費」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて教育資金に関するものであって(甲123の2),両者の間に共通する検索結果は全く存在しない。
イ グーグル検索において1頁に表示する件数を50件に増やした上で(甲124参照),「”学資”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上が学資保険に関するものであり,残りは学資ローン(生活費等にも使えるローン)等である(125の1)。
    これに対して,「”学費”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上は入学金,授業料その他の学納金に関するものであって(甲125の2),両者の間に共通する検索結果は全く存在しない。
ウ そのため,「学資」と「学費」とでは,現実の使用場面が全く異なるといえる。
(3) 原判決のように大辞泉及び広辞苑だけに基づいて学資金の意義を判断することが不当であること
ア 乙6が解説するところの「生存保険の一種。子供の教育資金の準備を目的とする。教育保険。」という意味での学資保険は,教育費の確保を目的として昭和47年9月1日に創設された当時の郵便局の学資保険(甲142の2)だけを意味するものにすぎない。
    つまり,貯蓄重視型と保障重視型の2種類が存在するなど多種多様な現在の学資保険(甲119及び甲128参照)はおろか,平成6年1月1日に創設された郵便局の育英年金付学資保険(甲126・160頁及び161頁,並びに甲142の3)まで説明したものですらない。
イ 学資保険は創設当時から生死混合保険としての養老保険(甲126・131頁,甲127及び甲142の2)の一種であって生存保険ではないから,乙6の解説は創設当時の学資保険の正しい解説ですらない。
ウ そのため,原判決30頁及び31頁のように,四半世紀以上前の資料である大辞泉の記事(乙8),及び平成6年1月1日より前の郵便局の学資保険に関する不正確な解説に準拠した広辞苑の記事(乙6及び乙9)に基づいて学資金の意義を判断することが不当であることは明らかである。
(4) 原判決のように学生等の生活費を「学資」という言葉で表現することは一般的ではないと判断することが不当であること
ア 確かに,昭和47年9月1日の創設当時,郵便局の学資保険における「学資」は教育費を意味していたようである(甲142の2)。
    しかし,創設時から半世紀以上が経過した現在のかんぽ生命の学資保険の場合,満期保険金のことを「学資金」と説明している(甲140)ところ,その「学資金」には,①「大学入学時」の学資金準備コース及び②「小・中・高+大学入学時」の学資金準備コースの場合,「ひとり暮らしをする場合の初期費用」(例えば,アパート・マンションの敷金・礼金,及び家財道具の購入費用)が含まれている(甲141の1及び甲141の2)し,③「大学入学時+在学中」の学資金準備コースの場合,「学生生活の諸費用」(例えば,教材費,クラブ・サークル活動費及び交通費・交際費)並びに「仕送りをする場合の費用」(例えば,アパート・マンションの家賃,水道光熱費及び食費)が含まれている(甲141の3)。
    それゆえ,かんぽ生命の学資保険における「学資金」は,学生等の生活費を含むことは明らかである。
    そして,かんぽ生命の学資保険も含めて,使い道の制限がない学資保険の満期保険金(甲119)に対しては所得税又は贈与税が課税される(甲68)ことからも分かるとおり,学資保険の場合,非課税所得としての学資金とは全く異なる意味で「学資」という文言が使用されている。
イ 予算決算及び会計令57条7号は「外国で研究又は調査に従事する者に支給する学資金その他の給与」という文言を使用している。
    それゆえ,法令用語としての学資金は,生活費にも使用されることが明らかな給与に含まれる場合すらあるといえる。
ウ そのため,原判決36頁及び37頁のように,特段の根拠もなく学生等の生活費を「学資」という言葉で表現することは一般的ではないと判断することが不当であることは明らかである。
(5) したがって,原判決38頁の判示と異なり,基本給付金が学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえない。
2 基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないことの補充主張
(1) 給付型奨学金(原判決がいうところの「学資支給金」のこと。以下同じ。)の額は,独立行政法人日本学生支援機構の学生生活調査などをもとに学生の支出の水準を総合的に勘案し,学業に専念するために学生生活費を賄えるように設定されたものであって(原告準備書面(2)11頁),修学をする上で追加的に必要となる費用だけを賄うものではない。
    そして,給付型奨学金の位置づけは「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」であるというのが行政府の有権的解釈であって,国税庁がこれに反する見解を主張することなど許されないといえる(原告準備書面(2)12頁ないし14頁)。
    また,国税庁において給付型奨学金が学資金ではないという主張をしているわけですらない以上,給付型奨学金は学資金に該当するというのが国税庁の見解であるといえる。
    さらに,原判決29頁及び30頁が言及する国税庁のQ&A(乙10)は,文部科学省との協議を経ずに作成されたこともあって(甲111及び甲113参照),給付型奨学金が学資金であることと矛盾している点でも失当であるといえる。
    そのため,原判決36頁の判示と異なり,「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」は学資金に該当するというのが,国税庁も是認するところの学資金に関する正しい解釈であるといえる。
(2) 原判決38頁は,「給付対象者が教育・指導を受ける対価(学資・学費の中核的な部分)の負担を負うかどうかという点は、「学資」や「学費」の一般的な意味内容に照らし、所得税法上の学資金該当性に係る重要な考慮要素となるというべきである」と判示している。
    しかし,経済的な理由により,就学が困難な小・中・義務教育学校の児童・生徒の保護者に対し,学校生活にかかる費用の一部を援助する制度である就学援助制度(甲129)に基づく就学援助費の場合,給付対象者が教育・指導を受ける対価(学資・学費の中核的な部分)の負担を負うことはおよそありえない(憲法26条2項後段)点でその支援の対象に入学金や授業料は一切含まれていない(甲129)にもかかわらず,文部科学省は特段の理由もなく就学援助費は学資金であると判断している(甲130の1)。
    そして,小学校・中学校就学援助費(学校教育法19条参照)は非課税所得であることが分かる文書が国税庁に存在しない(甲131)ことからしても,原判決38頁の判示は失当であるといえる。
(3) 勤労学生には「職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程を履修させるもの」の学生も含まれる(甲132)ことからしても,司法修習生の身分は学生に類似するところがあるといえる。
3 基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないことの補充主張
    国税庁において給付型奨学金が非課税であるかどうかを判断した際,給付型奨学金の支給対象に所得制限があるかどうかは一切考慮されていない(甲31の3及び甲31の4,並びに甲133及び甲134参照)。
    また,給付型奨学金に関する内閣法制局説明資料においても,所得制限があるから非課税所得扱いとする許容性があるなどとは説明されていない(原告準備書面(2)17頁参照)。
    さらに,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであるが,これにより課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨を含むものである(最高裁平成23年9月30日判決(裁判所HPに掲載))。
    そのため,給付型奨学金が学資金に該当するかどうかを判断する際に所得制限の有無は考慮されていないことをも考慮すれば,合理的理由により所得制限のない基本給付金(原告準備書面(2)17頁及び18頁)が学資金に該当するかどうかを判断する際にだけ所得制限の有無を考慮することは,課税関係における法的安定を害するという意味でも許されないといえる。
4 基本給付金及び給付型奨学金は,給付の目的及び趣旨が類似していること
    原判決36頁は,①給付型奨学金は「学資として支給する資金」であることが文言上明確にされていること,及び②給付型奨学金の支給対象が「経済的理由により極めて修学に困難がある」と認定された者に限られていることを主たる理由として,基本給付金とはその給付の趣旨を明らかに異にしていると判示している。
    しかし,前述したとおり学生等の生活費は「学資」に含まれる点で「学資」という文言の有無が決定的意味を持つとはいえないし,所得制限の有無は基本給付金が学資金に該当するかどうかとは関係のない話である。
    そのため,原告準備書面(2)5頁及び6頁の主張をも考慮すれば,学資金に該当するかどうかという観点でいえば,基本給付金及び給付型奨学金は,給付の目的及び趣旨が類似しているといえる。
5 小括
    よって,原審での主張立証をも考慮すれば,本件給付金は所得税法上の学資金に該当するといえる。

第2 本件利息相当額が所得税法上の学資金に該当することの補充主張
1(1) ①兼業等により収入を得ることを禁止していることに対する「代償措置」を講ずべき必要性,②司法修習生が貸与を受けやすくして修習専念義務の担保をより十全なものとする必要性,及び③法曹に優秀な人材を確保する政策的な必要性の観点から,平成16年の裁判所法改正により創設された修習資金は,返還の期限までの間は無利息とされたし(甲135別紙2・3頁),無利息とする取扱いは修習専念資金にも引き継がれた(裁判所法67条の3第1項)。
    そして,本件利息相当額が雑所得となった場合,これらの政策的配慮を著しく害することとなる。
(2) 平成16年の裁判所法改正当時,修習資金の利息相当額が雑所得になるなどとは全く考えられていなかった(甲135参照)。
2 修習専念資金の貸与制度は,自衛隊法による学資金貸与制度及び矯正医官修学資金貸与制度と類似の貸与制度であり(甲135・4頁),日本学生支援機構による学資金貸与制度と類似の貸与制度である(甲135・7頁)。
    そのため,類似の貸与制度における利息相当額が学資金として非課税となっていることとのバランスを考慮すべきである。
3 担税力は,学資金に該当するかどうか以前の話として非課税所得となるかどうかの話である(最高裁平成24年1月13日判決(甲55)参照)ところ,本件利息相当額は1万1286円(原判決2頁)だけであるから担税力はないといえる。
4 よって,原審での主張立証をも考慮すれば,本件利息相当額は所得税法上の学資金に該当するといえる。

第3 本件費用を雑所得の金額の計算上必要経費に算入できることの補充主張
1 国税庁の公式見解によれば,雑所得には,①公的年金等に係る雑所得,②業務に係る雑所得(副業に係る収入のうち営利を目的とした継続的なもの),及び③その他雑所得の3種類がある(甲136及び甲137)ところ,業務に係る雑所得及びその他雑所得のいずれについても必要経費が存在するものとされている(甲136)のであって,必要経費の存在を観念し得ない雑所得は存在しない。
2 例えば,利子所得とはならない所得税の還付加算金等の利子収入は基本給付金以上に必要経費は発生しないと思われるにもかかわらず,「その他雑所得」に該当する結果(甲137),必要経費が発生することが前提とされている。
    また,司法修習生の基本給付金を除き、「雑所得を生ずべき業務」に該当しないことを理由として必要経費が一切認められない雑所得の具体例が書いてある文書は国税庁に存在しない(甲138)。
    そのため,司法修習は「所得を生ずべき業務」に該当しないことを主たる理由として,基本給付金についておおよそ必要経費は存在しないと判示した原判決42頁及び43頁は失当であるといえる。
3 よって,原審での主張立証をも考慮すれば,本件費用を雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるといえる。

第4 本件費用を必要経費と認めないことは憲法14条1項に違反することの補充主張
1 農業次世代人材投資資金(準備型)は,副業に係る収入のうち営利を目的とした継続的なものではない点で「業務に係る雑所得」ではないから,基本給付金と同様に「その他雑所得」に該当するといえる。
    また,原判決45頁の判示と異なり,所得税基本通達35-1からすれば,「その他雑所得」について「所得を生ずべき業務」という概念など存在しない(甲137)。
2 よって,原審での主張立証をも考慮すれば,本件費用を必要経費と認めないことは憲法14条1項に違反するといえる。

第5 控訴人について課税される所得金額は108万円であること(控訴審における追加主張)
1(1) 集合修習の後に選択型実務修習が実施されるA班の場合,①導入修習参加のための引越し,②分野別実務修習参加のための引越し,③集合修習開始のための引越し及び④選択型実務修習参加のための引越しがあるため,合計4回,移転給付金を支給される(甲139の1の「導入」,「分野別」,「集合A班」及び「選択型A班」参照)。
(2) 控訴人は,選択型実務修習開始に伴う埼玉県和光市から◯◯県◯◯市への引越し(甲139の1の「選択型A班」及び原判決49頁*1⑤及び⑥参照)により雑所得に係る必要経費として移転給付金相当額である10万8000円以上のお金を平成30年10月上旬に支出した。
    しかし,控訴人は,この部分に関する移転給付金の支給申請を忘れたため,雑所得に係る収入金額となる移転給付金10万8000円を受領していない(原判決48頁参照)結果,費用弁償として支払われる点で経費となることが明らかな10万8000円に対応する収入(原判決44頁参照)を得ていない。
    そのため,業務に係る雑所得は10万8000円のマイナスとなっている。
2 雑所得の金額は,「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」の合計額であるとされている(甲136参照)し,所得税法35条2項2号の文言からしてもそのように解するのが自然であるといえる。
    そのため,仮に基本給付金が学資金ではなく,必要経費すら存在しない「その他雑所得」に該当するとしても,「業務に係る雑所得」が10万8000円のマイナスである以上,控訴人について課税される所得金額は118万8000円から10万8000円を控除した108万円であるといえる。

文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)からの抜粋でありますところ,これによれば,法令の解釈を示す司法行政文書は「通達」ですから,修習給付金案内が法令の解釈を示す司法行政文書ということはできないと思います。


第2部 関連記事その他
1 大阪高裁令和5年7月26日判決(担当裁判官は40期の冨田一彦40期の上田卓哉及び45期の桑原直子)は,修習給付金給付金は必要経費のない雑所得であると判示して,大阪地裁令和4年12月22日判決(担当裁判官は51期の徳地淳54期の新宮智之及び新60期の太田章子)に対する控訴を棄却しました(令和5年12月5日現在,上告受理申立て中です。)。
2 最高裁平成16年3月16日判決は,「学資保険は,郵政省を事業主体とし,子を被保険者,親を契約者とする養老保険の一種」と説明しています。
3 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
→ 5月11日付の訴状に対する国の反論が書いてある準備書面が,令和3年9月17日付の被告第1準備書面となります。
・ 修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決
・ 判事補の外部経験の概要
・ 行政機関等への出向裁判官
・ 判検交流に関する内閣等の答弁
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に対する衆議院法務委員会の附帯決議


司法修習生に対する修習資金及び修習専念資金の貸与・返済状況等に関するデータの提供について(日弁連事務総長に対する,令和2年11月16日付の最高裁総務局長回答)の別紙です。


修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決

目次
1 国税不服審判所の裁決の判断内容
2 本件裁決に基づき,新65期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
(1) 71期以降の法曹関係者の全員について追加の所得税等が発生すること
(2) 修習専念資金の貸与を受けていた71期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
(3) 修習資金の貸与を受けていた新65期ないし70期の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
3 令和3年3月時点の国税不服審判所長等
(1) 本件裁決時の本部所長等
(2) 本件裁決に関する合議体
4 関連記事その他

1 国税不服審判所の裁決の判断内容
・ 国税不服審判所令和3年3月24日裁決(令和3年4月9日送達)(以下「本件裁決」といいます。)の「4 当審判所の判断」(リンク先の11頁(PDF12頁)以下)は下記のとおりであって,結論として,修習給付金は必要経費のない雑所得であり,かつ,修習専念資金の利息相当額も雑所得であると判断しました(見出しを太字にしています。)
・ 争点は以下の三つでした。
① 本件給付金は,所得税法上の学資金に該当し,非課税所得となるか否か。
② 本件費用は,雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。
③ 本件利息相当額は,所得税法上の学資金に該当し,非課税所得となるか否か。

(1) 認定事実
    請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 司法修習生の給費制及び貸与制に係る制度改正等の経緯について
    司法修習生の給費制は、昭和22年に導入され、司法修習生には、その修習期間中、国庫から一定額の給与(扶養手当、調整手当、住居手当、通勤手当、期末手当及び勤勉手当を含む。)が支給され、当該給与は、給与所得として所得税の課税対象とされていた。
    しかし、司法制度改革による財政資金の活用等の理由から、給費制は平成23年10月末に廃止され、同年11月から、申請による給費制相当額の貸与制(修習資金、月額230,000円。以下「旧貸与制」という。) となった。
    旧貸与制は、その後の改正(平成29年法律第23号による裁判所法の一部改正、平成29年11月1日施行)により、同日以後、給費制(修習給付金)及び貸与制(修習専念資金)の併存制度に改められ、司法修習生には、その修習のため通常必要な一定の期間(1年間) 、一律の修習給付金(うち基本給付金の額は月額135,000円。司法修習生の修習給付金の給付に関する規則第2条第1項)を給付することに加え、なお必要な場合には、申請による無利息での修習専念資金(月額100,000円。司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則第3条第1項)の貸付けを行うこととされた。
ロ 基本給付金及び修習専念資金の額の決定経緯等について
    平成29年11月の裁判所法の改正に際し、同法を所管する法務省大臣官房司法法制部が同年1月に作成した説明資料( 「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」と題する資料)には、基本給付金及び修習専念資金の額の決定経緯について、要旨以下のとおり記載されている。
(イ) 基本給付金の額
    基本給付金の額は、生活実費及び学習費等に関する司法修習生の生活実態等を考慮して決定されたものであり、これに関する日本弁護士連合会が第68期の司法修習生を対象に実施した「修習実態アンケート」の結果によれば、以下のとおり、修習期間中に生活実費及び学資金として、月額おおむね135,000円程度の支出がされている。
A 生活実費(合計約94,000円)
・食費(約40,000円)
・交通費(約9,000円)
・情報通信費(約9,000円)
・水道光熱費(約10,000円)
・就職活動費(約11,000円)
・諸雑費(医療費・衣服費等)(約15,000円)
B 学資金(合計約40,000円)
・学習費(約10,000円)
・書籍代(約8,000円)
・OA機器購入費(約12,000円)
・勉強会参加費(約10,000円)
(ロ) 修習専念資金の額
    修習専念資金の額は、司法修習生の修習実態等に鑑みて、司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用として、おおむね100,000円程度が想定されており、これに関する上記(イ)の「修習実態アンケート」の結果及び平成27年度の「家計調査」(総務省統計局)等によれば、その内訳(合計102,000円)は、以下のとおりである。
・社会保険料(約16,000円)
・所得税・住民税等(約5,000円)
・勉強会参加費を除く交際費(約17,000円)
・奨学金返済費用(約6,000円)
・教養娯楽費(旅行費・月謝類等。ただし、書籍費を除く。) (約15,000円)
・理美容・嗜好品等(約14,000円)
・自動車等関係費(約7,000円)
・仕送り金(約3,000円)
・家具家電・衣服購入費等(約19,000円)
(2) 争点1 (本件給付金は、所得税法上の学資金に該当し、非課税所得となるか否か。)
イ 検討
    所得税法第9条第1項第15号にいう「学資」については、所得税法上の定義規定はないことから、その意味は社会通念に従って解すべきところ、「学資」とは、一般に、学問の修業に要する費用を意味すると解される。
    したがって、他から給付された金品が所得税法上の学資金に該当するか否かは、給付当事者の意思解釈として、当該金品が学問の修業に要する費用として給付されたものか否かを問題にすべきである。
    この点、基本給付金は、「司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用」として最高裁判所から支給されるものであるところ(裁判所法第67条の2第3項) 、上記(1)のロの(イ)からすれば、その金額の算定要素は、主として、生活実費(合計約94,000円) と学資金(合計約40,000円)から成り、当該学資金の算定要素には、学習費や書籍代等が含まれていると認められることから、基本給付金の一部は、学問の修業に要する費用の趣旨が含まれているとも考えられる。
    しかしながら、基本給付金は、旧貸与制と異なり、司法修習生の地位に基づいて、個々の司法修習生の申請によることなく、また、その給付を受ける個々の司法修習生が実際に上記のような給付を学問の修業のために必要としているか否かにかかわらず、一方的、かつ、一律に、定額(月額135,000円)が給付されるものである。しかも、司法研修所が司法修習生(第71期)に対して配付した「修習給付金案内」の記載内容からすれば、基本給付金の給付者である国は、司法修習生に対し、基本給付金は、雑所得として申告の必要があること、つまり、非課税の学資として給付するものではないことを明示してこれを給付していることが認められ、そうである以上、司法修習生も、そのことを理解した上でこれを受領しているというべきである。
    以上のような事情の下では、基本給付金の給付当事者の意思解釈として、基本給付金を学問の修業に要する費用として給付したものと解することは困難であり、基本給付金は、修習専念義務を負う司法修習生という地位に起因する特別な給付として、国から給付されるものとみるよりほかはない。
    したがって、基本給付金は、所得税法上の学資金には当たらず、その他、これを非課税とする規定も見当たらないことから、本件給付金は、非課税所得とはならない。
    なお、本件給付金は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得となる(所得税法第35条《雑所得》) 。
ロ 請求人の主張について
(イ) 所得税法上の学資金該当性について
    請求人は、給付型奨学金について国税庁が所得税法上の学資金に該当する旨の解釈を示しているとみられることや、甲南大学法科大学院がA種特待生に対して支給している月額15万円の給付金について所得税法上の学資金に該当すると思われることから、所得税法上の学資金には、学術又は技芸の習得に専念する目的で使用される生活費も含むものであるとし、基本給付金も、その支給目的が、司法修習生が学術又は技芸の習得である司法修習に専念するのに必要な生活費を賄えるようにすることであるから、上記給付型奨学金や給付金と同様に、所得税法上の学資金に該当する旨主張する。また、請求人は、東京都認証保育所の保育料助成金が所得税法上の学資金に該当するという取扱いを受けていること、及び、貸金業の規制等に関する法律施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令附則第20条第2項第2号イの「学資としての資金」には、学校教育法上の「学生」に限らず人材育成のための教育訓練を受けている者に対するものや児童又は幼児の保育料という学術又は技芸の習得とは関係のないものも含まれると解されていることとの均衡からすると、本件給付金も、所得税法上の学資金に該当すると主張する。
    しかしながら、所得税法上の学資金該当性の判断要素は、上記イのとおりであって、そもそも、司法修習及びその給付金の制度は、司法修習の制度趣旨や制度設計等を踏まえ、上記(1)の経緯を経て、裁判所法等で個別に規定された制度であって、他の制度に係る課税上の取扱いをもって、直ちに基本給付金の課税上の取扱いが決定づけられるものではない。しかも、請求人が指摘する給付型奨学金は、「学資として支給する資金」と条文に明記されている上、経済的理由により修学に困難があるものを対象とし(独立行政法人日本学生支援機構法第17条の2第1項) 、かつ、学業成績等によって返還を求められることもあるものである(同法第17条の3) 。また、甲南大学法科大学院の給付金は、経済的事情により学修の継続が困難な場合に支給されるもので、その支給目的も学習奨励のためとされ、入学試験の成績が支給要件となっていると認められる(請求人提出資料) 。そして、東京都認証保育所の保育料助成金は、そもそもが飽くまで保育料の助成である。このように、請求人が指摘する上記各支給金は、いずれも、無償である司法修習制度の下で、司法修習生の地位があれば当然に国から給付される基本給付金とは、その趣旨、目的や対象等を異にする別の制度である。また、貸金業の規制等に関する法律は、そもそも、裁判所法とはその趣旨及び目的を大きく異にする法律であるし、「学資としての資金」との文言が明記された他の法律の当該文言の解釈によって、裁判所法に規定された基本給付金の課税上の取扱いに係る上記イの解釈が左右されるものではない。
    したがって、このような他の制度等の課税上の取扱いや解釈が、本件給付金が所得税法上の学資金に該当しないとの上記イの判断に影響を及ぼすものではないから、請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 憲法第14条第1項違反について
    請求人は、職業訓練受講給付金は、本件給付金と同様、職業訓練期間中の生活を支援するための給付であるところ、職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律第10条により、非課税所得とされているにもかかわらず、本件給付金を雑所得として課税対象とするのは、不合理な差別であって、憲法第14条第1項に違反し、許されないと主張する。
    しかしながら、職業訓練受講給付金は、雇用保険を受給できない求職者が、ハローワークの支援指示により職業訓練を受講する場合の職業訓練期間中の生活を支援するために給付されるものであるところ(請求人提出資料) 、その給付がされるには、本人の収入が月8万円以下であること等本人や配偶者等の収入及び資産が一定額以下であることなどの要件を満たす必要がある(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律施行規則第11条《職業訓練受講手当》第1項)など、職業訓練中の受給者の最低生活を保障することを主たる目的とするものと認められ、司法修習生に一律、定額が支給される基本給付金とは、その趣旨や目的、対象等を異にする別の制度である上、基本給付金と異なり、非課税とする旨の立法上の措置がされているものである(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律第10条。なお、立法上の措置がされていないことの違憲判断は当審判所の審理の限りではない。) 。
    したがって、このような他の異なる制度の課税上の取扱いと本件給付金の課税上の取扱いが異なることは、何ら不合理なものではないから、請求人の主張には理由がない。
(3) 争点2 (本件費用は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。)
イ 検討
    所得税法第37条第1項は、その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、雑所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他雑所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、かかる規定に照らせば、雑所得の金額の計算上、ある費用が必要経費に算入されるためには、客観的にみて、当該費用が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要であることを要すると解される。
    これを本件についてみると、司法修習生が司法修習に専念する上で種々の費用が必要となるのは請求人の主張のとおりであるところ、かかる費用を負担して従事する司法修習自体は、無償のものとして国によって実施されるものである。そして、上記(2)のイからすれば、その無償の司法修習に従事する上で種々の費用が必要となることから、司法修習生という地位に起因する特別な給付として基本給付金が給付されるという関係にあると解されるのであって、司法修習生が基本給付金を得るために司法修習に従事するという関係にあるわけではなく、そうである以上、司法修習が基本給付金という所得を生ずべき業務であると解することはできないし、また、司法修習生が基本給付金を得るために種々の費用を支出する関係にあるわけでもない。
    したがって、本件費用は、いずれも本件給付金を得るために直接要した費用ではないのは明らかであって、客観的にみて、所得を生ずべき業務と直接関係する支出とも、当該業務の遂行上必要な支出ともいえない。
    以上からすると、本件費用は、請求人の雑所得の金額の計算上、必要経費に算入できない。
ロ 請求人の主張について
(イ) 本件費用の必要経費該当性について
    請求人は、司法修習生が修習課程で用意されているカリキュラムへ出席することは修習専念義務の中核をなすものであり、司法修習生考試は司法修習生が修習を終了するために必ず受験しなければならないものであるから、本件交通費は、本件給付金を得るために直接要した費用であり、また、司法修習生は、高い見識と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努める義務があるため、法律に関する書籍代、衣服購入費等、交際費及び名刺代は、雑所得である本件給付金を生ずべき業務について生じた費用であると主張する。
    確かに、司法修習生が修習に専念し、高い見識と円満な常識を養うように努めるなどする上で、種々の費用が必要となることは、請求人が主張するとおりであるが、上記イのとおり、無償の司法修習に従事する上での費用が必要となることから基本給付金が給付されるのであって、司法修習生が基本給付金を得るために司法修習に従事するという関係にあるわけでも、司法修習生が基本給付金を得るために交通費その他の費用を支出する関係にあるわけでもないことからすると、請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 農業次世代人材投資資金(準備型)の課税上の取扱いとの比較について
    請求人は、農業次世代人材投資資金(準備型)が、研修の対価として支給されるものではないにもかかわらず、交通費や授業料など研修に要した費用を必要経費に算入できるとされていることとの均衡からしても、基本給付金が修習の対価でないことをもって、基本給付金に係る必要経費が存在しないとはいえない旨主張する。
    しかしながら、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、農業次世代人材投資資金(準備型)は、次世代を担う農業者となることを志向する者の就農前の研修を後押しするための資金で、都道府県が認める道府県の農業大学校等の研修機関等で研修を受ける就農希望者に対して交付されるものであると認められ、国が直接主宰する無償の司法修習に伴って支給される基本給付金とは、その趣旨や目的、対象等を異にする別の制度であることからすると、農業次世代人材投資資金(準備型)に係る課税上の取扱いが上記イの判断に影響を及ぼすものではなく、請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 憲法第14条第1項違反について
    請求人は、農業次世代人材投資資金(準備型)については、その研修に要した費用を必要経費に算入できるとされているにもかかわらず、本件給付金について、必要経費の控除を一切認めないのは、必要経費の実額控除が認められている他の雑所得者等との関係において不合理な差別であって、憲法第14条第1項に違反し、許されないと主張する。
    しかしながら、農業次世代人材投資資金(準備型)は、上記(ロ)のとおり、国が直接主宰する無償の司法修習に伴う基本給付金とは異なるものであって、課税上の取扱いに差異があっても何ら不合理ではないから、請求人の主張には理由がない。
(4) 争点3 (本件利息相当額は、所得税法上の学資金に該当し、非課税所得となるか否か。)について
イ 検討
(イ) 経済的な利益について修習専念資金の貸与を受けた司法修習生は、通常の金銭消費貸借取引であれば利息の負担が生ずるところ、裁判所法第67条の3の規定により、無利息で資金の貸与を受けている。そして、無利息で資金を貸与された者は、通常であれば支払う必要のある利息相当額の支払を免れ、実質的に同額の利益を得たことになるから、請求人には、修習専念資金の貸与により、所得税法上、利息相当額の経済的利益が生ずることになる。
    これは、国が金銭の貸付けを行う場合、本来的には利息を徴することが原則とされている(国の債権の管理等に関する法律第10条) ことに照らし、当該無利息貸付けに係る法令の規定がなければ支払うことになるであろう利息相当額が、所得税法上の経済的な利益として観念されることによるものである。
    したがって、本件利息相当額は、所得税法第36条第1項に規定する「経済的な利益」に該当する。
(ロ) 所得税法上の学資金該当性について
    本件利息相当額が所得税法上の学資金に該当するかについては、経済的な利益自体は、そもそも、所得税法第9条第1項第15号に規定する「給付される金品」には当たり得ないから、その発生原因である修習専念資金が所得税法上の学資金に該当するか否かにより決すべきである。
    そして、その判断は、上記(2)のイと同様、給付当事者の意思解釈として、修習専念資金が学問の修業に要する費用として給付されたものか否かを問題にすべきである。
    ところで、現行の司法修習生に対する給付制度は、上記(1)のイのとおり、旧貸与制と異なり、裁判所法第67条の2による給費の制度(修習給付金の支給)と、同第67条の3による無利息貸付けの制度(修習専念資金の貸与) とが併存している。
    そして、修習専念資金は、「司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であって、修習給付金の支給を受けてもなお必要なもの」(裁判所法第67条の3第1項括弧書) として、申請により国から貸与されるものであるところ、上記(2)及び(3)のとおり、現行の裁判所法は、司法修習生が司法修習に専念する上で種々の費用が必要となることから、それに必要な費用相当額については、司法修習生という地位に伴う特別な給付として、修習給付金を給付することとしたものと解される。実際に、その金額の算定方法をみても、上記(1)のイのとおり、旧貸与制の下での修習資金は、司法修習生がその修習に専念することを確保するための金額として、月額230,000円とされていたところ(平成29年法律第23号による改正前の同法第67条の2第1項) 、上記(1)のロからすれば、現行の裁判所法においては、このうち、いわゆる学資金的な要素といえる学習費、書籍代、OA機器購入費及び勉強会参加費は、既に基本給付金の金額の算定の段階で考慮され、月額135,000円の基本給付金の中に織り込まれているといえる。
    他方、修習専念資金(上記月額残の約100,000円)の算定要素は、上記(1)のロからすれば、社会保険料、所得税・住民税等、勉強会参加費を除く交際費、奨学金返済費用、教養娯楽費、理美容・嗜好品等、自動車等関係費、仕送り金及び家具家電・衣服購入費等などであると認められるのであって、これらは、必ずしも直接司法修習に専念するために必要なものとはいえないものであり、そうすると、修習専念資金は、むしろ、その周辺の純然たる生活費としての性質が強いものといえる。
    以上の事情に加え、上記(1)の事実及び上記(2)で検討したところからすれば、現行の裁判所法は、旧貸与制の下での修習資金(月額230,000円)から、直接司法修習に専念するために必要と考えられる費用(月額135,000円)を基本給付金として切り分けた上で、これを学資とはせず、司法修習生たる地位に伴う特別な給付として給付することとしたことをも併せ考慮すると、逆に、その周辺の純然たる生活費としての性質が強い費用(上記月額残の約100,000円)に限っては、学問の修業に要する費用として貸し付けることとしたと解することは、給付に係る当事者の意思解釈として、困難である。
    以上からすると、修習専念資金は、修習専念義務を負う司法修習生の生活補助のために貸し付けられるものというべきであり、所得税法上の学資金には該当しないから、本件利息相当額も、所得税法上の学資金には該当せず、非課税所得とはならない。
    なお、本件利息相当額も、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得となる。
ロ 請求人の主張について
    請求人は、修習専念資金は、司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用を補填する趣旨を有する金員であるから、基本給付金と同様の性格を有するといえる旨主張する。
    しかしながら、上記イのとおり、修習専念資金は、純然たる生活費としての性質が強く、生活補助のために貸し付けられるものというべきであるから、請求人の主張は採用することができない。
(5) 原処分の適法性
イ 本件通知処分について
    上記(2)及び(4)のとおり、本件給付金及び本件利息相当額は、いずれも所得税法上の学資金に該当せず、雑所得の金額の計算上総収入金額に算入され、また、上記(3)のとおり、本件費用は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入されない。
    これらに基づき、請求人の平成30年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「更正処分」欄の各金額といずれも同額となり、確定申告書に記載された総所得金額及び納付すべき税額が過大であるとは認められない。
    なお、本件通知処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
    したがって、本件通知処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
    上記イのとおり、請求人の平成30年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額である。
    なお、本件更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
    したがって、本件更正処分は適法である。
(6) 結論
    よって、審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり裁決する。



(2番以降の記載は国税不服審判所の裁決書とは別の記載です。)
2 本件裁決に基づき,新65期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること

(1) 71期以降の法曹関係者の全員について追加の所得税等が発生すること
    国税不服審判所は,修習給付金は必要経費のない雑所得であるとする司法研修所の公式見解(修習給付金案内の「所得税等の取扱い」のことです。)を追認しました。
    そのため,司法研修所の公式見解と異なる考えに基づき,修習給付金について必要経費を計上していた場合,過少申告していたこととなりますから,修正申告をする必要があります。
(2) 修習専念資金の貸与を受けていた71期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
ア 司法研修所の公式見解では言及されていませんでしたが,修習専念資金は無利息であるため,修習専念資金に係る利息相当額は経済的利益として雑所得の総収入金額に算入されることとなります。
イ 本件裁決に関する審査請求人の場合,平成30年1月から同年12月にかけて修習専念資金の残高が増加していったことを考慮した計算の結果,修習専念資金に係る利息相当額は1万1286円となりました。
ウ 2019年以降,130万円の修習専念資金が残ったままですから,返済を開始しない限り,毎年,130万円✕1.6%=2万800円の経済的利益を受け続けていることとなる結果,司法修習生をしていた年分まで遡って修正申告をする必要があります。
    この場合,これに対して5%以上の所得税及び10%の住民税が発生しますし,国民健康保険に加入している場合,国民健康保険料も高くなります。
エ 平成30年以降の「通常の利率」は,年1.6%です(国税庁HPの「No.2606 金銭を貸し付けたとき」参照)。
(3) 修習資金の貸与を受けていた新65期ないし70期の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
ア 修習資金は修習専念資金と同様,修習専念義務を追う司法修習生の生活補助のために無利息で貸し付けられたものです(平成29年法律第23号による改正前の裁判所法67条の2第1項参照)から,修習資金に係る利息相当額も経済的利益として雑所得の総収入金額に算入されると思います。
イ 23万円の修習資金を13回借りていた場合,その残高は299万円であって,299万円の修習専念資金が残ったままである場合,299万円✕1.6%(平成30年以降の利率)=4万7840円の経済的利益を受け続けていることとなる結果,後述するとおり,平成27年分まで遡って修正申告をする必要があります。
    この場合,これに対して5%以上の所得税及び10%の住民税が発生しますし,国民健康保険に加入している場合,国民健康保険料も高くなります。
ウ 税務署長による増額更正は法定申告期限から5年間可能です(国税通則法70条1項1号)。
    そのため,令和3年4月現在,平成27年分以降の所得税が増額更正の対象となります。
エ 住民税の増額の賦課決定は,所得税について更正があった場合,法定納期限から5年間可能です(地方税法17条の6第3項1号)。

3 令和3年3月時点の国税不服審判所長等
(1) 本件裁決時の本部所長等
ア 国税不服審判所長は42期の東亜由美裁判官であり,大阪国税不服審判所長は43期の川畑正文裁判官でした。
イ 裁判官出身の大阪国税不服審判所国税審判官として59期の梅本聡子裁判官がいました。
(2) 本件裁決に関する合議体(大阪国税不服審判所神戸支所の人です。)
① 担当審判官の一瀬圭子
→ 直前のポストは多分,高知県安芸市にある安芸税務署長です(ほうじん安芸23号8頁)。
② 参加審判官の堀田善之
→ 夕陽ケ丘法律事務所(大阪市天王寺区上本町)に所属している63期の弁護士でしたが(大阪弁護士会HPの「堀田善之(ほったよしゆき)」参照),令和3年5月14日に弁護士登録を取り消しています。
③ 参加審判官の武井幸造
→ 直前のポストは多分,兵庫県西脇市にある西脇税務署総務課長です(税の筬(おさ)2019年夏号2頁参照)。
(3)ア 公認会計士・税理士 大橋誠一事務所HP「【0049】国税不服審判所の4月異動」には以下の記載があります。
    私が在籍していた大阪国税不服審判所は2年ごとに所長(裁判官)と法規審査担当の審判官(裁判官)が揃って異動になりますが、前任の所長の最後の事案の決裁が3月20日頃で、後任の所長の最初の事案の決裁が4月20日頃になっていました。
    前任の所長も後任の所長も離着任の挨拶回りがありますし、特に後任の所長は、現在係属している事案の概要の把握などがありますので、それによって決裁の空白時期が1か月程度生じていました。
イ 令和3年4月1日,45期の西村欣也裁判官が大阪国税不服審判所長に就任しました。


4 関連記事その他
(1) 本件裁決については,原処分の取消しを求めて令和3年5月11日,大阪地裁に取消訴訟を提起しました。
(2) 課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象は,当該課税処分によって確定された税額の適否であり,課税処分における税務署長の所得の源泉の認定等に誤りがあっても,これにより確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ,当該課税処分は適法です(最高裁平成4年2月18日判決)。
(3)ア 生命保険金を年金で受け取った場合,雑所得として課税することは二重課税に当たるかどうかが争われた長崎年金訴訟の場合,納税者は,国税不服審判所裁決では審査請求を棄却され,長崎地裁平成18年11月7日判決(判例秘書に掲載)で勝訴し,福岡高裁平成19年10月25日判決(判例秘書に掲載)で逆転敗訴し,最高裁平成22年7月6日判決で逆転勝訴しました。
    その結果,国税庁は,過去5年分の所得税については更正の請求を経て減額更正を行うことで返金しました(「最高裁破棄自判の波紋、長崎年金訴訟は二重課税!-実務に影響大、野田財務相発言と国税庁の対応-」参照)。
イ 「長崎年金二重課税事件―間違ごぅとっとは正さんといかんたい!」という書籍 に関するアマゾンの説明文には「毅然と立ち上がった勇気ある納税者とたった一人の税理士が国を動かした。二〇万件、三〇〇億円の衝撃。苦節七年にわたる裁判ドキュメント。」と書いてあります。
(4) 東京大学法科大学院ローレビュー「裁判所法 67 条の 2 第 1 項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて―国税不服審判所裁決令和 3 年 3 月 24 日の検討-」が載っています。
(5)ア 東弁リブラ2009年2月号「租税争訟における弁護士の役割」が載っています。
イ 幻冬舎GOLD ONLINEの「国税不服申し立てで「勝つ」確率を少しでも高くするには?」には以下の記載があります。
     「審査請求」では公開裁決が採用されているので、審査の結果が公表される場合があります。メンツを重んじる税務署員にとって、負けた結果が公表されるのは当然避けたいことですから、万が一「審査請求」で税務署側が負ける可能性があると思えば、「再調査の請求」の時点で認容してくれるかもしれません。
(6)ア 裁決書に関する以下の資料を掲載しています。
・ 裁決書起案の留意事項
→ 31頁には以下の記載があります。
     最高裁は、租税法規の解釈について、ある時は言葉に忠実に、またある時は言葉の本来の意味から離れて、限定解釈したり、逆に拡張解釈したりと、一貫性があるとはいえず、悪く言えばご都合主義的であり(したがって、事前に予測しにくい。) 、任命された最高裁判事の個性やメンタリテイによって多少のブレが認められるものの、概ね、①法規の文理が明確と判断し、その文理に即した解釈の結果が規程の趣旨・目的に合致すると判断した場合には、文理解釈をメインに置き、趣旨・目的をその文理解釈による結論を支えるものとして位置づけ、②文理が不明確と判断した場合や文理解釈の結果が不合理と判断した場合に、趣旨解釈によって法規の意味を明らかにすべきであるという解釈原理を採る傾向があるといえる(納税者に有利・不利を問わない。) 。
 裁決書起案の留意事項(参考資料)
 裁決書の概要
→ 平成29年7月1日以降に審査請求書を収受する事件から,原則として「新たな裁決書方式」により裁決書が作成されています。
イ 国税不服審判所に関する,以下の文書を掲載しています。
・ 事務計画の策定、進行管理の実施及び実績報告等について(平成10年6月17日付の事務運営指針)(令和元年6月21日最終改正)
・ 仮マスキング済裁決書の作成について(平成28年3月24日付の国税不服審判所長の指示)
・ 本部支援事件の処理体制の整備について(平成28年6月23日付の国税不服審判所長の指示)
・ 本部照会必須事件一覧(平成31年2月末現在)
・ 「同席主張説明・審理手続の計画的遂行・口頭意見陳述の実践マニュアル」について(平成30年6月19日付の審判所情報第1号)
・ 「証拠の閲覧・写しの交付マニュアル」について(平成30年6月19日付の審判所情報第2号)
・ 証拠の開示について(平成28年7月7日付の国税不服審判所長の指示)
・ 裁決結果及び裁決要旨の公表手続について(平成23年3月29日付の事務運営指針)(平成29年最終改正)
・ 国税通則法第99条の通知の可能性のある事件の対応について(平成28年6月23日付の国税不服審判所長の通知)
・ 国税不服審判所の重要先例事件一覧表,個別管理重要事件一覧表及び本部協議事件一覧表(令和2年1月末現在)
・ 国税不服審判所の本部照会数一覧及び相互審査照会数一覧(令和2年2月末現在)
・ 国税不服審判所の情報共有事件件数(令和2年1月末現在)
・ 国税不服審判所の審査請求事件の請求,処理及び未済の状況(平成26会計年度から平成30会計年度まで)
・ 国税不服審判所の審査請求事件処理状況表(本支所別延件数)(平成30年度分)
・ 国税不服審判所の審査請求事件処理状況表(税目別延件数)(平成30年度分)
(7) 以下の記事も参照してください。
(公式見解等)
 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
 司法修習生の旅費に関する文書
 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
 司法修習終了翌年の確定申告
(公式見解に反対する見解)
・ 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
→ 修習給付金は学資金(所得税法9条1項15号)に該当する可能性があります。
・ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
 修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等
 修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金
(その他)

・ 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
→ 現行65期までの司法修習生に対する給費は,職務の対価ではなく,修習に専念させるための配慮に過ぎないとのことです。
・ 歴代の国税不服審判所長
 令和元年7月採用の国税審判官の研修資料
 国税庁長官及び東京国税局長の事務引継資料(令和元年7月頃の文書)

修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書

   司法修習生の修習給付金は非課税所得であると主張した更正の請求に対し,とある税務署長から,令和元年12月20日付で,更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知を受けましたから,令和2年2月18日付で,国税不服審判所長に対する審査請求書を提出しました。
   その関係で,審査請求の理由書を以下のとおり貼り付けています(金額の明細を記載している別紙「審査請求人の収支の一覧表」は除いています。)。

第1 事案の概要
   本件は,審査請求人が,大阪地裁配属の第71期司法修習生であることに基づき平成30年中に支給された合計155万7000円の基本給付金(甲22参照)について,司法研修所の公式見解(甲2)に従い,その全額が雑所得の総収入金額に該当することを前提に平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)を平成31年2月21日にした後,
   ①基本給付金は学資金に該当し,非課税所得である点で総収入金額に算入すべきではないこと,及び②仮に基本給付金が学資金に該当せずに非課税所得でなかったとしても,通勤交通費のほか,書籍代,名刺代,学習費及び衣服購入費等は基本給付金に係る雑所得の総収入金額から必要経費として控除すべきところ,本件確定申告に際して雑所得の計算上,通勤交通費しか必要経費として控除していなかった点で雑所得の金額が過大になっていることを主張して,◯◯税務署長に対し,平成31年3月20日に更正の請求をした(甲3)ところ,
   ◯◯税務署長から,令和元年12月20日付で,基本給付金は必要経費のない雑所得であることを主たる理由として,更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨の通知を受けた(甲1)ため,これを不服として審査請求をしたという事案である。

第2 基本給付金は学資金に該当し,非課税所得である点で総収入金額に算入すべきではないこと
1 学資金としての性質を有すること
(1)ア 修習給付金は,基本給付金,住居給付金及び移転給付金からなるものである(裁判所法67条の2第2項)。
   そして,基本給付金とは,司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用をいい(裁判所法67条の2第3項),月額13万5000円とされている(司法修習生の修習給付金の給付に関する規則2条1項)。
イ ところで,法務省大臣官房司法法制部の説明によれば,基本給付金の月額は,日弁連が第68期司法修習生を対象に実施した修習実態アンケートにおいて,修習期間中における生活実費が月額9.4万円であり,学資金が月額4.0万円であり,合計の支出が月額約13.5万円であったという司法修習生の生活実態等の事情を総合考慮するなどして決定されたとのことである(甲5末尾1頁及び2頁,並びに甲6)。
   また,基本給付金は,司法修習生の通常の支出のうち,社会保険料,所得税・住民税等,勉強会参加費を除く交際費,奨学金返済費用,教養娯楽費(旅行費・月謝類等。ただし,書籍費を除く。),理美容・嗜好品等,自動車等関係費,仕送り金,家具家電・衣服購入費等まで満たすものとは考えられていない(甲5末尾2頁及び3頁参照)。
   そのため,基本給付金は,修習期間中の最低限の生活費及び教育費に充てるという趣旨で国から司法修習生に支給される金員であるといえる。
(2) 学資金(所得税法9条1項15号)とは,一般に,学術又は技芸を習得するための資金として父兄その他の者から受けるもので,かつ,その目的に使用されるものをいうと国税庁は解釈している(甲4)のであって,学術又は技芸を習得するために直接必要な費用だけが学資金であると国税庁が解釈しているわけではない。
   そのため,学術又は技芸の習得に専念する目的で使用される生活費も学資金に含まれるといえる。
(3) 甲南大学法科大学院は,A種特待生(入学試験にきわめて優秀な成績で合格した者)に対し,学費(授業料及び施設設備費)の全額免除だけでなく,月額15万円もの給付金を支給している(甲7の1・3頁)ところ,その趣旨は生活費及び教育費であると思われる。
   また,令和2年度以降に入学した,住民税非課税世帯又はこれに準ずる世帯に属する国立大学の大学生の場合,一定の条件を満たすことで,授業料及び入学金の全額を免除された上で,日本学生支援機構から学資支給金(いわゆる給付型奨学金)を生活費として支給される予定である(甲7の2)。
   そして,これらのように学費の負担を前提としていない大学院生又は大学生に対して生活費等として支給される奨学金は,学資金として非課税所得であると思われる。
(4) 政府は,令和2年1月現在,今後の目標として,修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が,学内奨学金などで月15万円から20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を目指しているところである(甲8)。
   そして,このような学内奨学金は学資金として非課税所得であると思われる。
(5) 法務省大臣官房司法法制部は,司法修習生の「罷免」は「退学」に対応し,「修習の停止」(司法修習生の身分は保有するが,一定期間修習をさせない処分)は「停学」に対応すると説明している(甲5末尾10頁及び11頁)ことからしても,司法修習生の身分は学生に類似するところがあるといえる。
(6) そのため,学費の負担を前提としていない司法修習生に対して最低限の生活費及び教育費として支給される基本給付金は,学資金としての性質を有するといえる。
2 金額規模等を理由に学資金から除外される理由はないこと
(1) 司法研修所がある埼玉県の,平成29年10月1日改定の最低賃金である時給871円(甲9)で1週間当たり40時間(法定労働時間であることにつき労働基準法32条1項)働いた場合,871円×40時間×30日/7日=14万9314円となるから,月額13万5000円の基本給付金は埼玉県の最低賃金を下回る金額である。
   また,基本給付金の13万5000円という金額は,住居費の支出を伴わない第68期司法修習生の平均的な生活費(甲5末尾4頁)等を参考に設定された金額であるから,担税力がないといえる。
(2) 修習資金の貸与を受けなかった新65期ないし第70期司法修習生が家賃を払って一人暮らしをしていた場合,両親等の扶養義務者から生活費及び教育費という趣旨で月額17万円以上の仕送りを受けていた事案がごく普通にあったと思われる。
   そして,それらの仕送りについて,相続税法21条の3第1項2号の「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」を超えるとして贈与税が課税された事例があるとは思えないことからしても,3万5000円の住居給付金をあわせた月額17万円という修習給付金の金額規模は,「扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」(所得税法9条1項15号所定の非課税所得)と比べて特に大きいわけではない。
(3) 平成28年度税制改正において所得税法9条1項15号が改正され,通常の給与に加算して受ける学資金が非課税とされた結果,医学生等に対する修学等資金の債務免除益は,通常の給与に加算して受ける学資金に該当するものとしてすべて非課税となった(甲10参照)。
   ところで,兵庫県養成医師制度を利用して兵庫医科大学に進学した場合,6年間で合計4480万円の貸付けを受けられるし,大学を卒業後,医師として9年間,兵庫県が指定する兵庫県内の医師不足地域等の医療機関で勤務した場合,貸与を受けた修学資金の返還を免除される(甲11参照)。
   そのため,4480万円もの修学資金の返還免除に基づく債務免除益であっても,学資金として非課税所得であると思われる。
(4) したがって,基本給付金は,金額規模等(甲5末尾6頁参照)を理由に学資金から除外される理由はないといえる。
3 職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず,基本給付金が非課税所得でないのは憲法14条1項に違反すること
(1) 職業訓練受講給付金は,雇用保険を受給できない求職者がハローワークの支援指示により公的職業訓練を受講し,訓練期間中に訓練を受けやすくするための給付であり(甲14),租税その他の公課を課されない非課税所得である(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律10条)。
(2) 司法修習は,司法修習生が法曹資格を取得するために国が法律で定めた職業訓練課程であり,高度の専門的実務能力と職業倫理を備えた質の高い法曹を確保するために必須な臨床教育課程として,実際の法律実務活動の中で実施されるものである(東京高裁平成30年5月16日判決(甲12・8頁))。
   また,職業訓練受講給付金(平成21年当時の民主党のマニフェストにおいて,「求職者支援制度」の手当として記載されていたもの)が非課税所得とされた理由は,受給者の最低生活を保障するものであり,公課等を課して給付を減額することは,国の国民に対する最低生活保障の原則に照らして矛盾すると考えられたためであって(甲13),職業訓練の推進という政策的背景が理由とされているわけではない。
   さらに,職業訓練受講給付金及び基本給付金は,職業訓練期間中の生活を支援するという給付目的達成のために必要な最低限の給付である点で共通しているといえる(基本給付金だけでは司法修習生の通常の支出を賄えないことにつき甲5末尾2頁及び3頁参照)。
   そのため,職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず,司法試験に合格しない限り採用されない司法修習生について,司法修習という職業訓練期間中の生活を支援するための給付である基本給付金が非課税所得でないのは憲法14条1項に違反するといえる。
4 基本給付金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではないこと
   所得税法上,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得で,営利を目的とする継続的行為から生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に区分される(最高裁平成29年12月15日判決(甲15))。
   しかし,基本給付金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではない。
5 結論
   したがって,大阪国税局課税部個人課税課審査指導係の見解(甲16)と異なり,基本給付金は学資金に該当し,非課税所得である点で総収入金額に算入すべきではないといえる。

第3 仮に基本給付金が非課税所得でないとしても,必要経費として控除していないものがある点で,本件確定申告で申告した雑所得の金額は過大であること
1 雑所得としての基本給付金について必要経費が認められること
(1) 司法修習生は,その修習期間中,その修習に専念しなければならないという修習専念義務を負っている(裁判所法67条2項)し,高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努める義務を負っている(司法修習生に関する規則4条)。
   そして,成績不良であったり,正当な理由なく欠席したりするなど,品位を辱める行状その他の司法修習生たるに適しない非行に当たる事由がある場合,司法修習生を罷免されたり,修習の停止を命じられたりすることとなる(裁判所法68条2項,司法修習生に関する規則17条及び18条)。
   また,司法修習生の罷免理由は公にされていないし,司法修習生のどのような行為が非違行為に該当するかについても公にされていない(甲17)ことからすれば,司法修習生という立場が安定しているとはいえない。
   そのため,司法修習生の義務を守ることで司法修習生という立場を維持して基本給付金を支給してもらうために必要な経費は当然に存在するといえる。
(2) サラリーマン税金訴訟に関する最高裁大法廷昭和60年3月27日判決(甲18)は,給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であること等を理由として,給与所得者について必要経費の実額控除を認めず,給与所得控除による概算控除しか認めないことは,必要経費の実額控除が認められている事業所得者等との関係において憲法14条1項に違反しないと判示している。
   また,農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)は,生活費を支給する国の他の事業と重複受給できない点で(甲19の1・2頁及び3頁)生活費に充てることが予定されているところ,当該資金を受給した年に発生した交通費や授業料など研修に要した費用の額がある場合,雑所得の金額の計算上,必要経費として収入金額から控除することが認められている(甲19の2)。
   そのため,司法修習生において自ら負担する必要経費が存在するにもかかわらず,基本給付金について必要経費の控除を一切認めないことは,必要経費の実額控除が認められている他の雑所得者等との関係において憲法14条1項に違反するといえる。
(3) したがって,大阪国税局課税部個人課税課審査指導係の見解(甲16)と異なり,雑所得としての基本給付金について必要経費が認められるといえる。

2 本件確定申告で申告した雑所得の金額は過大であること
(1) 通勤交通費は必要経費であること
ア 実務修習に出席するための通勤交通費について
(ア) 司法修習生は,埼玉県和光市の司法研修所で実施される導入修習が終了した後,実務修習地における分野別実務修習及び選択型実務修習,並びに司法研修所における集合修習を履修することとされている。
   そして,分野別実務修習は,民事裁判修習,刑事裁判修習,検察修習及び弁護修習からなるものであり(ただし,司法修習生ごとに順番は異なる。),それぞれ,配属地における裁判所,検察庁及び弁護修習先の法律事務所に赴いた上で実施される臨床教育過程である。
   また,選択型実務修習は,分野別実務修習において弁護修習をした法律事務所を拠点(ホームグラウンド)とした上で,裁判所,検察庁及び弁護士会で提供される個別修習プログラム等を自ら選択して履修することとされている。
(イ) 司法修習は,最高裁判所がその基本的内容を定め,司法修習生が司法修習を修了しないと法曹資格が与えられないものであるから,司法修習生は,修習過程で用意されているカリキュラムに出席し,その教育内容を全て履修することが本来要請されている(東京高裁平成30年5月16日判決(甲12・8頁及び9頁))のであって,当該カリキュラムへの出席は修習専念義務の中核をなすものである。
   そのため,裁判所,検察庁,弁護修習先の法律事務所及び選択型実務修習の実施場所に出席するために必要となる通勤交通費は,雑所得である基本給付金を得るため直接に要した費用であるといえる。
イ 二回試験の試験会場に出席するための通勤交通費について
   二回試験(正式名称は「司法修習生考試」である。)は裁判所法67条1項に基づく試験であって,二回試験に合格しない限り司法修習を終了できないため,司法修習生が必ず受験する必要がある試験である。
   そのため,二回試験の試験会場である新梅田研修センター(甲21・1頁)に出席するための通勤交通費は,雑所得である基本給付金を得るため直接に要した費用であるといえる。
(2) 書籍代,名刺代,交際費及び衣服購入費等は必要経費であること
   審査請求人は,「高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努めなければならない」司法修習生(司法修習生に関する規則4条)であった。
   そのため,法律書を購入し,これを熟読することで法律に関する理論と実務を身に付ける必要があった。
   また,実務法曹及び法科大学院同窓生との勉強会を含む交流,並びに社会人としての司法修習生にふさわしい服装を心がけることを通じて,弁護士にふさわしい品位と能力を備える必要があった。
   そのため,法律書購入に関する書籍代,名刺代,交際費及び衣服購入費等は,雑所得である基本給付金を生ずべき業務について生じた費用であるといえる。
(3) 審査請求人の雑所得の金額
   前述した事情を考慮すれば,別紙「審査請求人の収支の一覧表」(山中注;本ブログ記事では省略)にあるとおり,審査請求人が支給された基本給付金に係る必要経費は38万8394円であるといえる。
   そのため,仮に基本給付金が非課税所得でないとしても,必要経費として控除していないものがある点で,本件確定申告で申告した雑所得の金額148万2940円(甲3)は過大であって,審査請求人の雑所得の金額は116万8606円を上回らないといえる。

第4 修習専念資金の利息相当額は非課税所得であること
1(1) 修習専念資金とは,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であって,修習給付金の支給を受けてもなお必要なものをいう(裁判所法67条の3第1項)。
(2) 審査請求人の場合,司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則3条1項に基づき,毎月10万円を支給されていた(甲23)。
2 修習専念資金は,司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用を補填する趣旨を有する金員である(甲5末尾2頁及び3頁参照)から,修習給付金と同様の性格を有するといえる。
   そのため,修習給付金が無利息であること(裁判所法67条の3第1項)に起因する,通常の利率により計算した利息の額に相当する利益(甲16・4頁)は学資金として非課税所得であるといえる。

第5 審査請求人が司法修習生として得たその余の収入は課税対象とはならないこと
1 審査請求人は,大阪地裁配属の第71期司法修習生として,最高裁判所から移転給付金(1回あたり10万8000円)及び旅費を支給されたことがあるし,大阪地裁及び大阪地検から旅費を支給されたことがある(甲24参照)。
2 移転給付金は,司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合にその移転について支給されるものである(裁判所法67条の2第5項))から,修習を受けるために移転費用の実費相当額が支給されたものといえる。
   そのため,仮に移転給付金が所得税法9条1項4号の非課税所得に該当しなかったとしても,収入と経費が一致するため,結果として移転給付金は課税対象とはならない(甲16・2頁)。
3 旅費は,交通費,日当及び日額旅費として支給されるものである(国家公務員等の旅費に関する法律6条2項ないし6項及び15項)から,修習を受けるために交通費及び諸雑費の実費相当額が支給されたものといえる。
   そのため,仮に旅費が所得税法9条1項4号の非課税所得に該当しなかったとしても,収入と経費が一致するため,結果として旅費は課税対象とはならない(甲16・2頁)。
4 したがって,審査請求人が司法修習生として得たその余の収入は課税対象とはならないといえる。

第6 結論
   以上のとおり,審査請求人が司法修習生として得た収入はすべて非課税所得であり,又は課税対象とはならないといえるから,審査請求の趣旨記載のとおりの裁決を求める。
以  上

*1 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金も参照してください。
*2 審査請求書を提出した後に気づきましたが,「県から奨学金の貸与を受けた医学生が医師免許取得後県内の医療機関に一定期間従事することによりその返還及び利息の支払に係る債務を免除された場合の課税関係について」(平成24年3月9日付の名古屋国税局の文書回答事例)には,事前照会者の以下の見解が名古屋国税局によって是認されています(司法修習生の場合,基本給付金13万5000円及び下宿代に相当する住居給付金3万5000円の合計は17万円となります。)。
   本件奨学金1(山中注:9年間,県内医療機関で勤務すれば返還免除となる奨学金)では、入学金及び授業料とは別に毎月10万円の奨学金を貸与することとしていますが、これは、下宿代や通学費用、食費、教科書や医学書の購入費用など、医学生が修学する上で必要と認められる範囲で貸与するものであり、学資金として相当なものと考えています。
*3 以下の情報公開文書を掲載しています。
① 給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)
② 令和2年4月開始の給付型奨学金は非課税所得であることに関する国税庁の開示文書
→ 文部科学省が開示した,平成30年度の文書と重複しています。

給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)に含まれている文書です。

修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解

目次
第1 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
第2 関連記事その他

第1 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
・ 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解を示すものとして,大阪国税局課税部個人課税課審査指導係が作成した,「R1.9.4司法修習生が受ける修習給付金に係る課税関係について」の本文は以下のとおりです(反対説については,「修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書」を参照してください。)。

【事案概要】
    当時司法修習生(現・弁護士)であった納税者は修習給付金の給付を受けており、これについて7万円程度の必要経費を控除し雑所得として確定申告書を提出した。その後、当該修
習給付金は学資金にあたり非課税である旨の内容を記載した「事情説明書」及び領収書等を添付した更正の請求書を通知弁護士に委任し提出した。また、「事情説明書」において予備
的主張として修習給付金は必要経費を伴う雑所得である旨主張している。更に、税務署からの求めに応じて「事情説明書(2)」(証拠書類の説明)及び「事情説明書(3)」(追加の証拠書類及び説明並びに旅費及び移転給付金は非課税である旨の追加主張)を追加提出している。
    なお、修習給付金について司法研修所事務局総務課・経理課が発行する「修習給付金案内」のp27において、「修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金は、所得税法上の「雑所得」に該当するため、確定申告の対象となります。・・・必要経費として控除することができる経費はありません」と記載がある。
【問題点】
    納税者が主張する司法修習生が支給を受ける給付金が非課税となるか、又は、雑所得の計算上必要経費と認められるものはあるか。
【検討】
   修習給付金は支給目的から①移転給付金②住居給付金③基本給付金に分かれている。

1 修習給付金の非課税該当性について
(1) 移転給付金、旅費及び住居給付金について
ア 移転給付金について
    納税者は、旅費及び移転給付金は国家公務員等の旅費に関する法律(以下、国家公務員等旅費法という。) (同法1条参照)が、司法修習生が二級の職務に相当するとした上で、司法修習生に準用されていることから、司法修習生としての採用は所得税法9①四の就職にあたり、司法修習は同号の職務に当たると言え、所基通9-3に挙げられる運賃や移転料に該当するため非課税である旨主張する。
    これについて所得税法9①四は「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは脂肪による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」と定めている。
    これを本件についてみるに、移転給付金は給与でないことは明らかであるが、納税者の主張する国家公務員等旅費法に関する法律が、司法修習生が二級の職務に相当するとした上で司法修習生に準用されている事実はなく、高等長官、地方・家庭所長あて事務総長依命通達(改正平成26年経監第1524号)の「内国旅行の旅費について」において司法修習生が二級の職務に相当するとした記載があり、これにより当該旅費及び移転給付金は国家公務員等旅費法に準じて支給されているものであり、裁判所HPにおいても司法修習生は国家公務員に準じる立場である旨記載がある上、就職と言う字句が表すところは職業に就く、すなわち一般に生計を維持するために行う仕事に従事することを指すことから、司法修習生としての採用は就職と解することはできない。
    ところで、移転給付金は司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合に支給するものであり、そうであれば当該給付金は、生活維持のためではなく、修習を受けるために移転費用の実費相当額が支給されるものと観念できることから収入と経費が一致し、結果として課税対象とはならないこととなる。
イ 旅費について
    司法修習について給与支払を受けていない修習生が支給を受ける当該旅費は所法9①四の「給与所得を有する者」に該当せず、転居のための旅行にも当たらないため非課税とはならない。ところで、当該納税者が支給を受ける旅費には交通費、日当、日額旅費等が含まれているのであるが、旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0 (各府省等申合せ2016年12月)において交通費は実際に支出した額、日当は目的地内を巡回するための交通費がおおむね半分を占め(内国旅行においては、鉄道賃等を実費支給し、目的地内巡回交通費相当分の交通費は支給しない)、もう半分は旅行中の昼食や官署への電話代を含み、日額旅費は交通費や日当に代えて長期間の研修、講習、訓練その他これらに類する目的のための旅行について財務大臣がこれを支給することを適当と認めて指定する旅費である旨規定されている。これについて旅費各内容を見るに、これらの支給は所得税法に定める利子所得ないし一時所得のいずれにも該当しない所得であると言えることから、全て雑所得の計算上総収入金額となり、これらに係る支出は実費相当額が支給されたものであると観念できるためその支出した旅費が必要経費となるのであるから結果として所得は発生しないこととなる。
ウ 住居給付金について
    住居給付金について当該納税者は受給していないため所得区分の判断は不要であるが、強いて判断を行うとすれば、毎月定額で支払われ、一時に支払われるものでなく、他の8種の所得のいずれにも該当せず、非課税規定のいずれにも当てはまらないため雑所得であると考えられ、住居費として支出される金額は所法45①一の家事費であり、雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。
(2) 基本給付金について
ア 学資金としての性質を有するか
    納税者は、修習給付金について修習専念義務(裁判所法67②、司法修習生に関する規則2条)を負っている修習期間中の生活費及び教育費に充てるために国から支給される金員であって、非課税所得に該当する給付型奨学金と同じようなものといえるから、学資金としての性質を有するといえると主張する。
    しかし、学費の負担を前提としている奨学金と基本給付金(1(1)記載のとおり当該事案の基本給付金以外の課税関係の判断はこれ以上不要であるため、以下基本給付金について述べる。)はその性質が異なる。すなわち、裁判所法67条の2③「基本給付金の額は、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であって、その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。」とあるとおり、基本給付金は生活を維持するために必要な費用を給付する旨定めており、教育費に充てることを目的としている旨の規定はなく、所得税法9条①十五規定の「学資に充てるため給付される金品」にあたると解することはできない。
イ 職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず、修習給付金が非課税所得ではないのは憲法14条1項に違反するか
    職業訓練受講給付金は、雇用保険を受給できない求職者について職業訓練期間中の生活を支援するための給付で非課税とされている一方で、司法修習という職業訓練期間中の生活を支援するための給付である修習給付金が非課税でないのは平等原則を定めた憲法14条1項に違反するといえると納税者は主張する。
    しかし、職業訓練受講給付金は、失業が長期化するほど就業意欲の減退や職業能力の衰退が進行し、人材の質の劣化及び社会経済の生産性の低下につながることから、こうした状態に陥るのを防ぐために、できるだけ短い失業期間で再就職を可能にすることが雇用対策として不可欠であることから職業訓練を推進しているものであり、このような政策的背景のある職業訓練受講給付金と、修習期間中の生活を維持するための基本給付金ではその給付の趣旨が異なるものであるため、これらの課税上の取り扱いが異なることには合理性があり修習給付金が非課税所得とならないことが憲法14条1項に違反しているとはいえない。
ウ 修習給付金について公租公課禁止規定がないことだけを理由として非課税所得ではないと判断することはできないこと
    犯罪被害者に係る被害回復給付金については公租公課禁止規定がないにも関わらず非課税であるため、同様に修習給付金についても公租公課禁止規定がないことを理由として非課税所得ではないと判断することはできない旨納税者は主張するが、所得税施行令30条1項3号にあるとおり被害回復給付金は「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」にあたると考えられるため非課税規定が適用されるものであるのに対し、当該修習給付金は所得税法9条各号及び関連法令等のいずれにも当てはまらないため非課税とは考えられない。
(3) 修習専念資金について
    裁判所法67の3において最高裁判所は司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間無利息で修習専念資金を貸与するものとする定めがあるところ、所法36において経済的利益の価額を収入すべき旨定めており、経済的利益の計算に当たっては所基通36-15(3)にあるとおり通常の利率により計算した利息の額を求める必要がある。
    当該修習専念資金は無利息であることから通常の利率により計算した利息の額に相当する利益は、経済的利益として所得税の課税対象となると考えられる。また、所基通36-49において、使用者が役員又は使用人に対して行う貸付に係る利息相当額については他から借り入れて貸し付けたものである場合を除いて特例基準割合による利率により評価する旨定めているところ、逐条解説において特例基準割合を採用している理由として「①利子税の割合は税法上の基準金利と考えられ、客観性を有すること ②利子税の特例基準割合は現在の超低金利の状況を踏まえて設けられたものであること ③利子税の特例基準割合は、国民にとって最もわかりやすい基準割引率を基準とし、かつ、変動要素をもった利率であること」とある。また、改正税法のすべてによると特例基準割合は、「諸外国の延滞利子が期限内納付のしょうよう等のために市中貸出金利等に一定の割合を上乗せしたものとなっていることを参考としつつ、我が国においては、国民にとって最も明白で分かりやすい公定歩合を基準とし、公定歩合と市中貸出金利等との差及び諸外国で市中貸出金利等に上乗せしている割合を勘案し」としている。
   当該修習専念資金は使用者が役員又は使用人に対して行う貸付には当たらないものの、所基通36-49において特例基準割合を用いて経済的利益を評価する趣旨に照らすと、当該修習専念資金についても特例基準割合を用いて経済的利益を評価することが可能であると考えられる。
    なお、所基通36-28は使用者が役員又は使用人に対し金銭を無利息で貸付けたことに係るその年における利益の合計額が5,000円以下の場合は課税しなくて差し支えない旨規定しているが、当該貸付けは使用者が役員又は使用人に対してするものではないため本通達の適用はない。

2 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であるか(予備的主張)
    所得税法37①において、「その年分の・・・雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」とあるとおり、雑所得の必要経費と認められるのは、当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年におけるこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額である。
    これを本件についてみるに、たとえ修習期間中に書籍購入代金、懇親会費や衣服購入費がかかったとしても、基本給付金は修習期間中の生活を維持するために必要な費用を賄うことを目的として司法修習生という立場であることのみを要件として支給されており、基本給付金の支給を受けるため、つまり、司法修習生という立場であるために当該書籍購入費等の費用を直接に要するとは認められないし、司法修習はこれらの所得を生ずべき業務であると解することはできず、当該書籍購入費等は所得税法45条①一の家事費にあたるものと解される。

第2 関連記事その他
1 国家行政組織法14条2項に基づく通達は,上級行政機関が関係下級行政機関に対してその職務権限の行使を指揮し,職務に関して命令するために発するものであり,行政組織内部における命令に過ぎないから,下級行政機関がその通達に拘束されることはあっても,一般の国民は直接これに拘束されるものではなく,このことは,通達の内容が国民の権利義務に関連するものである場合においても別段異なるところはないと解されています東京地裁令和2年10月5日判決。なお,先例として,最高裁昭和43年12月24日判決及び最高裁平成24年2月9日判決参照)。
2 大阪高裁平成21年4月24日判決は以下の判示をしています。
    所得税基本通達及び法人税基本通達等の規定は,課税庁内部では拘束力をもつが,裁判所が拘束されるものではないのであって,その上位規範である所得税法の規定を解釈するに当たり参考となり得えても,その解釈基準の根拠として取り扱うことは,前提において失当であるというべきである
3 さいたま地裁平成19年5月30日判決(判例秘書に掲載)は「法人役員に対し、無利息の貸付がなされた場合、当該役員は、通常支払うべき利息の支払を免れ、利息相当額につき経済的利益を得たと言うことができる」と判示しています。
4 以下の記事も参照して下さい。
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金


司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと

目次
第1 最高裁判所の公式見解
第2 所得税法及び所得税基本通達の条文
1 所得税法の条文
2 所得税基本通達の条文
第3 旅費及び移転給付金の一般的な支給額等
1 旅費(交通費,日当及び日額旅費)
2 移転給付金
第4 旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
1 総論
2 所得税法9条1項4号の条文
3 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
4 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
第5 関連記事その他

第1 最高裁判所の公式見解
1 最高裁判所としては,司法修習生に対して支給する旅費(交通費及び日当)並びに移転給付金は,実費弁償性があり,雑所得には該当しないと考えているため,源泉徴収をしていません。
2 73期までの修習給付金案内には記載されていませんが,修習給付金案内(74期)18頁(PDF22頁)には「移転給付金は,確定申告の対象外」と記載されています。


第2 所得税法及び所得税基本通達の条文
1 所得税法の条文
   所得税法
9条1項4号は,「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」は非課税所得に該当すると定めています。
2 所得税基本通達の条文
   所得税基本通達9-3は,「法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいう」と定めています。

提出書類確認スケジュール(第73期修習給付金)

第3 旅費及び移転給付金の一般的な支給額等
1 旅費(交通費,日当及び日額旅費)
(1) 総論
ア 司法修習生に対して旅費が支給されるケースとしては,①導入修習に参加するために移動する場合,分野別実務修習に参加するために移動する場合,集合修習に参加するために移動する場合及び選択型実務修習に参加するために移動する場合,並びに②実務修習において各種施設の見学等に参加する場合があります。
イ 各種施設の見学等のための近距離の移動の場合には交通費だけが支給され,それ以外の移動の場合には交通費及び日当(①の場合),又は日額旅費(②のうち,全国プログラムに参加する場合)が支給されます。
(2) 交通費
ア 交通費は,原則として,最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合の旅費により計算された金額で支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条2項ないし5項,及び7条)。
イ 司法修習生に対する交通費の金額は,最も経済的な通常の経路及び方法として鉄道,航空機等を利用した場合において実際に負担した運賃です。
(3) 日当
ア 日当は,1日当たりの定額で支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条6項及び20条)。
   また,旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0(2016年12月の各府省等申合せ)10頁及び11頁によれば,おおむね半額は目的地内を巡回する場合の交通費(「目的地内巡回交通費」といいます。)に充てるものとされ,残り半額は諸雑費(旅行中の昼食代や官署との電話代等)に充てるものとされています。
イ 司法修習生に対する日当の金額は,国家公務員等の旅費に関する法律別表第一に定める日当(二級の職務)の定額1700円の半分となる850円です。
   これは,鉄道賃等を実費支給される関係で,目的地内巡回交通費を支給されないためと思われます(令和2年1月30日付の開示文書参照)。
(4) 日額旅費
ア 日額旅費(国家公務員等の旅費に関する法律26条1項)は,交通費(宿泊先から修習先までの分),宿泊料及び日当に代えて支給されるものです(国家公務員等の旅費に関する法律6条15項参照)。
   また,旅費業務に関する標準マニュアルVer.2-0(2016年12月の各府省等申合せ)16頁によれば,日額旅費には一般業務日額旅費及び研修日額旅費があるところ,司法修習生に対する日額旅費は研修日額旅費(国家公務員等の旅費に関する法律26条1項2号)です。
イ 司法修習生の場合,選択型実務修習(全国プログラム又は自己開拓プログラム)に参加する場合に支給されるものです。
ウ 司法修習生に対する日額旅費の金額は,旅館に宿泊する場合(旅館業法2条2項及び3項の旅館業の用に供する宿泊施設に宿泊する場合),1日当たり5910円であり,下宿その他これに準ずる宿泊施設に宿泊する場合(例えば,旅館業法の許可を受けていないウィークリーマンションや,カプセルホテル,寮,民泊等に宿泊する場合),1日当たり3260円であると思います(研修等の旅行の日額旅費について(平成31年3月15日付の最高裁判所経理局長の通達)参照)。
2 移転給付金
(1)ア 移転給付金は,裁判所法67条の2第5項に基づき,赴任に伴う居住所の移転が行われた場合に支給される旅費(いわゆる引越代)であり,距離区分等に応じた定額を支給されるものであって,国家公務員等に対する移転料(国家公務員等の旅費に関する法律6条9項及び36条)に相当するものです。
   実際,67期ないし70期の司法修習生に対しては,「移転料」という名前で引越代が支給されていました(「司法修習生に対する修習資金等の状況のあらまし」参照)。
イ 国家公務員の場合,着後手当(採用又は転任により居住地の移転が行われた場合に新居住地に到着後の諸雑費に充てるために支給される旅費)を支給される(国家公務員等の旅費に関する法律6条10項及び37条)のに対し,司法修習生の場合,着後手当に相当する手当を支給されません。
   そのため,新居住地に到着後の諸雑費については,基本給付金に対する必要経費として主張できるかもしれません。
(2)ア 司法修習生に対する移転給付金の金額は,国家公務員等の旅費に関する法律23条1項及び別表第二・2項に定める移転料(二級の職務)の半分(赴任の際に扶養親族を移転しない場合に関する同法23条1項2号参照)と同じ額を支給されるものです。
イ 移転給付金の具体的な金額は,移転距離に応じて以下のとおりです(司法修習生の修習給付金の給付に関する規則10条及び別表)。
鉄道          50km未満: 4万6500円
鉄道  50km以上 100km未満: 5万3500円
鉄道 100km以上 300km未満: 6万6000円
鉄道 300km以上 500km未満: 8万1500円
鉄道 500km以上1000km未満:10万8000円
鉄道1000km以上1500km未満:11万3500円
鉄道1500km以上2000km未満:12万1500円
鉄道        2000km以上:14万1000円

第4 旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
1 総論
(1)  「修習給付金案内」には,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金について確定申告が必要であるなどとは書いてありません。
   そのため,司法研修所としては,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金について課税関係は発生しないと考えていると思います。
(2) 公務のための旅行について旅費を支給する法律である国家公務員等の旅費に関する法律(同法1条参照)が,司法修習生が二級の職務に相当するとした上で,司法修習生に準用されています(内国旅行の旅費について(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長依命通達)1(1)及び別表第1)。
   そのため,司法修習生としての採用は所得税法9条1項4号の「就職」に当たり,司法修習生としての司法修習は同号の「職務」に当たると思います。
(3)ア 交通費は,所得税基本通達9-3の「運賃」に該当すると思います。
イ 日当は,所得税基本通達9-3の「運賃等の支出」に該当すると思います。
ウ 研修日額旅費は,所得税基本通達9-3の「運賃,宿泊料等の支出」に該当すると思います。
エ 移転給付金は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税基本通達9-3の「移転料」に該当すると思います。
(4) 司法修習生に対する旅費及び移転給付金は,その金額規模からすれば,所得税基本通達9-3「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」に該当すると思います(旅費につき令和元年11月25日付の理由説明書,移転給付金につき令和元年12月9日付の理由説明書参照)。
2 所得税法9条1項4号の条文
所得税法9条は柱書で「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と定めていますところ,同条1項4号は以下のとおりです。
 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
3 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
   導入修習参加のための旅費(交通費及び日当)並びに移転給付金は,「就職をした者が就職に伴う転居のための旅行をした場合」に支給されるお金ですし,所得税法9条1項4号の条文上,「給与所得を有する者」に支給したものに限定されているわけではありませんから,所得税法9条1項4号に基づき非課税所得であると思います。
4 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
(1) 旅費
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する交通費及び日当(導入修習参加のためのものを除く。)並びに日額旅費は,給与所得を有する他の裁判所職員と同じように,国家公務員等の旅費に関する法律等に準じて支給されるものです(「内国旅行の旅費について」(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長の依命通達)参照)から,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。
(2) 移転給付金
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する移転給付金(導入修習参加のためのものを除く。)は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。
5 大阪国税局の見解
   司法修習生としての採用は就職ではないため,所得税法9条1項4号の適用はないものの,旅費及び移転給付金については,収入と経費が一致し,結果として課税対象とはならないとしています(「修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解」参照)。

第5 関連記事その他
1 転勤族のバイブルブログに,「【傾向と対策】国家公務員の赴任旅費(移転料)が実費に!金額変わる」が載っています。
2(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 司法修習生に対する分野別実務修習参加のための移転料支給事務Q&A
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
・ 司法修習生の司法修習に関する事務便覧
・ 司法修習生の旅費に関する文書

修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料

目次
第1 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
第2 関連記事その他

第1 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
1 平成29年4月18日の,元榮太一郎参議院議員(自民党)の以下の質問に対するもの
① 修習給付金制度の導入に至った理由及びその背景について,法務当局に問う。
② 今回の制度設計に当たり,どのような検討により,基本給付金を月額13.5万円,住居給付金を月額3.5万円とする制度としたのか,給費制下の支給額と比較して低いのではないか,法務当局に問う。
③ 今回新たな給付制度を導入しつつ,貸与制を併存させる理由は何か,貸与制の内容日打て見直しをするのか,法務当局に問う。
④ 現行貸与制下の司法修習生に対して救済措置を講ずるべきではないか,法務当局に問う。
⑤ 基本給付金の額を検討するに当たって,修習期間中の交通費は考慮されたのか,法務当局に問う。
⑥ 法曹資格取得までの期間を短縮するため,法科大学院修了前に司法試験の受験を可能とし,4月から司法修習を開始できるようにすべきと考えるが,法務当局の見解を問う。
⑦ 司法修習期間が1年間と短期間である中,懲戒的措置として戒告を設ける意味はあるのか,法務当局に問う。
⑧ 今後とも,法曹の魅力を高め,法曹人材を確保するための不断の検討を続けるべきではないか,法務大臣の所見を問う。

2 平成29年4月18日の有田芳生参議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 本改正法案の立法目的は何か,法務大臣に問う。
② 本改正法案により,法曹志望者は増えるのか,法務当局に問う。
③ 司法試験出願者数の推移について,法務当局に問う。
④ 法曹志望者が減少した理由について,どのように考えるか,法務当局に問う。
⑤ 法科大学院の課程を修了したことを要件とする現行司法試験の受験資格を見直すべきではないか,法務当局に問う。
⑥ 法科大学院修了者の司法試験合格率が,予備試験合格者の司法試験合格率より大幅に低いのは,司法試験法第5条違反ではないか,法務当局に問う。
⑦ 有為な法曹人材の確保に向けた法務大臣の決意を問う。

3 平成29年4月18日の,真山勇一参議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 各種の「子どもの人気職業ランキング」等で法曹関係者の人気下落が著しいが,この点につき,法務大臣の見解を問う。
② 小学生や中学生に対し法曹の魅力を伝える努力をすべきではないか,法務当局に問う。
③ 司法修習制度が存在する理由及び司法修習生に対し修習専念義務が課されている理由について,法務当局に問う。
④ 給費制から貸与制に移行した理由について,法務当局に問う。
⑤ 登録5年目の弁護士の平均的な所得額はどうなっているか,法務当局に問う。
⑥ 登録5年目の弁護士の所得状況に照らし,貸与金の返還義務の負担の軽重についてどのように考えるか,法務大臣の見解を問う。
⑦ 現行の貸与制下の司法修習生に対して救済的措置を講ずるべきではないか,法務大臣の所見を問う。
⑧ 現行の貸与制下の司法修習生に対する救済的措置の是非について検討したことがあるか,法務当局に問う。
⑨ 現行の貸与制下で司法修習を終えて弁護士となった者による独立開業を支援すべきではないか,法務当局の見解を問う。

4 平成29年4月18日の,佐々木さやか参議院議員(公明党)の以下の質問に対するもの

① 修習給付金創設の趣旨及び背景について,法務当局に問う。
② 修習給付金と給費制下における給費の性格や金額の違いについて,法務当局に問う。
③ 法曹有資格者の活動領域の拡大に今後も努めるべきではないか,法務当局に問う。
④ 今回の改正で,修習の停止及び戒告の制度を設けた理由について,法務当局に問う。
⑤ 改正後の裁判所法第68条第1項で,心身の故障等を罷免事由として明記した理由について,法務当局に問う。
⑥ 修習給付金を受け取って法曹となった者の社会貢献活動の在り方についてどのように考えるか,法務大臣の見解を問う。

5 平成29年4月18日の東徹参議院議員(日本維新の会)の以下の質問に対するもの
① 弁護士会は強制加入団体であると言われているが,それに違いはないか,法務当局に問う。
② 弁護士会のような強制加入団体では,政治的中立性を確保することが極めて重要であると考えるが,法務大臣の見解を問う。
③ 弁護士会において,政治的中立性が適切に確保されるため,どのような対策が行われているのか,それが効果的であるのか,法務当局に問う。
④ 今後,法曹をどこまで増やす必要があるのか議論がある中で,なぜ法曹志望者を確保するために給付金制度が必要となるのか,法務大臣の見解を問う。
⑤ 貸与制を導入した理由について,法務当局に問う。
⑥ 司法修習生に対する経済的支援策として,修習給付金制度以外の選択肢を検討しなかったのか,法務当局に問う。
⑦ 昨年12月に法曹三者間において修習給付金制度の内容について確認がされたが,なぜ法曹三者で確認したのか,法務当局の見解を問う。
⑧ なぜ,弁護士等の養成課程において司法修習が必要なのか,法務大臣の見解を問う。
⑨ 修習給付金制度の創設により,国の財政的負担が増大することから,裁判所法を改正して司法修習の期間を短縮すべきではないか,法務当局の見解を問う。

6 平成29年4月18日の,山添拓参議院議員(日本共産党)の以下の質問に対するもの

① 質の高い法曹を輩出する理由についてどのように考えているか,法務大臣の見解を問う。
② 本改正法案は,貸与制に移行したことで法曹志望者の減少に拍車がかかったという反省を踏まえて提出したものか,法務大臣の見解を問う。
③ 給費制下の支給金額及び貸与制下の貸与額は,修習専念義務の下,司法修習生が修習生活を送る上で必要な額であるという前提で制度設計がなされていたのか,法務当局に問う。
④ どのような検討により,基本給付金を月額13.5万円,住居給付金を月額3.5万円とする制度としたのか,法務当局に問う。
⑤ 貸与制を併存させる理由について,法務当局に問う。
⑥ 本改正法案は,修習給付金だけでは生活できない司法修習生がいるという前提で制度設計されたものか,法務大臣の認識を問う。
⑦ 現行貸与制下の司法修習生の救済について,法務大臣の見解を問う。

7 平成29年4月18日の,糸数慶子参議院議員(沖縄社会大衆党)の以下の質問に対するもの
① 平成29年司法試験出願者数について,法務当局に問う。
② 平成18年(2006年)以降の司法試験出願者数の推移について,法務当局に問う。
③ 法曹志望者の減少の要因について,法務当局に問う。
④ 国選弁護人を10年間担っているある弁護士の方が「法曹を養成する段階では充分な国費を投入することがまずもって求められている。」と述べているが,法曹養成の重要性について,法務大臣の見解を問う。
⑤ 現行貸与制下の司法修習生を救済する必要性があるのではないか,法務大臣の見解を問う。

8 平成29年4月18日の,山口和之参議院議員(無所属)の以下の質問に対するもの

① 本改正法案で「修習の停止」及び「戒告」を新たに設ける趣旨は何か,また,これらはどのような効果を持つ処分か,法務当局に問う。
② 裁判所法で規定されている司法修習制度の目的と意義についてどのように考えるか,法務当局に問う。
③ 司法修習を経ずに弁護士となるルートとして,どのようなものがあるか,また,そのようなルートを経て弁護士になった者と,司法修習を経て弁護士となった者とでは,その資格等に違いがあるか,法務当局に問う。
④ 司法試験合格者のうち,かつては新司法試験組より旧司法試験組の方が,現在は法科大学院組より予備試験組の方が,就職に有利な扱いを受けていると聞くが,法科大学院を経た者が低い評価を受ける原因をどのように考えるか,法務当局に問う。
⑤ 今後,法科大学院改革を含む法曹養成制度改革にどのように取り組んでいくのか,法務大臣の決意を問う。

第2 関連記事その他
1 参議院法務委員会の会議録のうち,平成29年4月13日開催分及び同月18日開催分を掲載しています。
2 以下の記事も参照してください。
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等

修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料

目次
第1 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
第2 関連記事その他

第1 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
1 平成29年3月21日の,安藤裕衆議院議員(自民党)の以下の質問に対するもの
① 司法修習生に対する経済的支援が給費制から貸与制に変わった理由,そして,今回,給付金制度を新設した理由について,法務当局に問う。
② 課税関係について,なぜ給費制下の給与所得から,給付金は雑所得に変わるのか,年金や健康保険は国民年金や国民健康保険ということだが,これもなぜ給費制下の取扱いと変わるのか,法務当局に問う。
③ 大学の給付型奨学金も今国会で法案が提出されているが,司法修習生で奨学金と修習資金の両方の貸与を受けるとかなりの負債を負うことになる。65期から70期までの司法修習生の救済策について,法務当局に問う。
④ 法曹志望者の減少理由をどのように考えているか,法務当局に問う。
⑤ 弁護士になっても就職できない,また収入が低いという減少が現れており,それが有為な法曹人材の確保のため,今後法務省としてどのように取り組むのか,法務大臣に問う。

2 平成29年3月21日の,國重徹衆議院議員(公明党)の以下の質問に対するもの
① 修習給付金制度の導入の理由について法務当局に問う。
② 平成27年6月の法曹養成制度改革推進会議決定に基づき修習給付金制度の制度設計を担った法務省では,どのような検討により,基本給付金を月額13.5万円,住居給付金を月額3.5万円とする制度設計をしたのか,法務当局に問う。
③ 今後の修習給付金の金額水準の見直しの在り方につき,制度設計を担った法務省としてはどのように考えているのか,法務当局に問う。
④ 修習給付金について,給付型奨学金等とは異なり,司法修習生に一律に支払う理由につき,法務当局に問う。
⑤ 司法修習生の懲戒的措置に関する規程の整備として,罷免以外に修習の停止及び戒告を設ける理由につき,法務当局に問う。
⑥ 修習停止の期間中に修習給付金は支給されるのか,法務当局に問う。
⑦ 昨年12月の法務省,最高裁判所及び日本弁護士連合会の確認にある「修習の成果の社会還元を推進するための手当て」に関する検討状況につき,法務当局に問う。
⑧ 法曹志望者が大幅に減少している中,今後の法曹養成制度の改革に向けた決意につき,法務大臣に問う。

3 平成29年3月22日の,井出庸生衆議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 司法修習生の実務修習地についてどのように決まるのか,希望は通るのか,法務大臣に問う。
② 司法修習生の修習先に応じた経済的負担を把握するため,司法修習生の経済的負担につき,アンケートなどの実態調査はしているのか,法務大臣に問う。
③ ①実家から修習先へ通勤できる修習生,②従来の居住地から引っ越しをすることなく修習地に通勤できる修習生,③実家等から修習先への通勤が不可能で,新たに住居を確保することを迫られる修習生の割合は過去5年でそれぞれどの程度か,法務大臣に問う。
④ 住居費に応じた司法修習生に対する経済的支援はどの程度あり,実体としてどれほどの住宅補助の役割を果たしているのか,法務大臣に問う。
⑤ 司法修習生は,司法修習において,罪刑法定主義や刑法の謙抑主義を改めて学ぶのか,法務大臣に問う。
⑥ 国際法,国際人権法,国際刑事法については,司法修習でどのような形でどのくらいの時間をかけて学ぶのか,法務大臣に問う。
⑦ 将来の司法を担う人材である司法修習生が,激変する国際法,国際人権法,国際刑事法を学ぶ大切さにつき,法務大臣の所見を問う。
⑧ 司法修習において,双罰性についての考え方,日本の裁判例などは教えるのか,法務大臣に問う。
⑨ 司法修習において,国際法と国内法との優先順位,国際法の実効性についてどう教えるのか,法務大臣に問う。

4 平成29年3月22日の,逢坂誠二衆議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 法曹志望者の減少の要因と解決策につき,法務大臣に問う。
② 司法試験制度の抜本的な見直しにつき,法務大臣に問う。
③ 修習給付金制度の創設は歓迎すべきことだが,修習給付金制度の課題をどのように考えているか,法務大臣に問う。
④ 修習給付金の金額は適切であると考えるか,法務大臣の所見を問う。
⑤ 修習給付金の税務上の取扱いにつき,法務大臣に問う。
⑥ 司法修習生の社会保険の取扱いにつき,法務大臣に問う。
⑦ 司法修習修了者の社会貢献の在り方につき,法務大臣に問う。
⑧ 現行貸与制と修習給付金制度との制度間の不公平につき,法務大臣に問う。

5 平成29年3月22日の,階猛衆議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 裁判所法改正法案の立法目的は何か,法務大臣に問う。
② 同改正法案で立法目的は達せられるのか,法務大臣に問う。
③ 立法目的を達するために,同改正法案以外に他の選択肢を検討したのか,法務大臣に問う。
④ 司法試験受験資格を見直すべきではないか,法務大臣に問う。
⑤ 予備試験合格者の司法試験合格率が法科大学院修了者の司法試験合格率を上回り続ける理由について,法務大臣に問う。

6 平成29年3月22日の,松浪健太衆議院議員(日本維新の会)の以下の質問に対するもの
① 法曹志望者の減少の要因につき,どのように考えているか,法務当局に問う。
② 弁護士の収入について,平成23年の調査と平成28年の調査を比較して所得中央値が半減した理由は何か,法務当局に問う。
③ 法科大学院出身者である弁護士の平均年収について,法務当局に問う。
④ 法曹人口増大が,弁護士の収入など弁護士の需給バランスに与えた影響について,法務当局に問う。
⑤ 平成28年司法試験について,予備試験合格による受験資格者と法科大学院修了による受験資格者のそれぞれの司法試験合格率について,法務当局に問う。

7 平成29年3月22日の,藤野保史衆議院銀(日本共産党)の以下の質問に対するもの
① 修習給付金制度創設の意義について,法務大臣の所見を問う。
② 今回の制度設計をした法務省では,どのような検討により,基本給付金を月額13.5万円,住居給付金を月額3.5万円とする制度としたのか,法務当局に問う。
③ 現行の貸与制下の司法修習生に不公平が生じているが,貸与制下の司法修習生に対する経済的措置や救済措置を講ずべきではないか,法務大臣の所見を問う。
④ 司法修習生に対する懲戒的措置の整備により,司法修習生による自主的な法曹としての識見を高めるための諸活動を萎縮させることにならないか,法務大臣の所見を問う。
⑤ 戦前と異なり,一元的な法曹養成である現行の司法修習を行うことの意義について,法務当局に問う。

8 平成29年3月31日の,階猛衆議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 修習給付金を支給する制度を導入した上で,現行制度を維持した場合,来年の司法試験の受験者数は増えるのか,法務大臣の所見を問う。
② 法科大学院修了者の司法試験合格率が予備試験合格者の司法試験合格率より著しく低いことからすれば,予備試験は法科大学院修了者と同等の学識を有することを判定するという司法試験法第5条に照らし,法科大学院は,本来,法科大学院を修了すべきでない者を修了させていることになるのではないか,法務大臣の所見を問う。
③ 法科大学院の修了認定を厳しくし,司法試験法第5条のとおりに法科大学院を修了すべき者に法科大学院修了資格を付与していれば,司法試験受験者は,現在よりもっと減少するのではないか,法務大臣の所見を問う。
④ 仮に,来年も司法試験の受験者数が減少した場合,合格者数1,500人以上という目的は達成できるのか,法務大臣の所見を問う。
⑤ 3月22日の質問時に,私の「まず司法試験の受験資格を見直すことだ」という質問に対し,大臣は「委員のご指摘を踏まえて,検討をしていくプロセスを用意すれば,それはそれで非常に大きな前進になるのではないか」と答弁したが,検討していくプロセスとは具体的に何か,法務大臣の所見を問う。
⑥ 3月22日の質問時に,私が示した法学部に在籍する学生に対する法曹志望に関するアンケートにつき,大臣は「こういう精緻な資料を何枚かいただいてこの話に臨んだことは,私は残念ながら初めてだ」と答弁したが,肝心なデータを部下から得ていないのは,法務省の組織の在り方として問題ではないか,法務大臣の所見を問う。
⑦ 法曹志願者を量的にも質的にも高めていくためには,修習給付金を支給する制度の復活だけでなく,司法試験の受験資格の見直しが不可欠ではないか,法務大臣の所見を問う。

9 平成29年3月31日の,今野智博衆議院議員(自民党)の以下の質問に対するもの
① 修習給付金制度の意義と,基本給付金を司法修習生全員に一律に支給する制度とした理由について,法務当局に問う。
② これまでの貸与世代の修習生について,何らかの救済策を講じるべきではないか,法務当局に問う。
③ 法曹志望者の確保のため,弁護士が行政庁や企業などで活躍分野を広げる取組が重要と考えるが,法曹有資格者の活動領域の拡大にどのように取り組むのか,法務大臣に問う。

10 平成29年3月31日の,山尾志桜里衆議院議員(民進党)の以下の質問に対するもの
① 「谷間の世代」である現行貸与制下の司法修習生の人数と全法曹人口につき,法務大臣に問う。
② 法曹志望者の減少の理由につき,法務大臣に問う。
③ 「谷間の世代」である現行貸与制下の司法修習生に対して救済措置を講じない理由につき,法務大臣に問う。
④ 法務省としては,どのような検討の結果,現行貸与制下の司法修習生に対して救済措置を講じないこととしたのか,これまでの検討状況の詳細につき,法務大臣に問う。
⑤ 現行貸与制下の司法修習生に対する救済措置を講ずるか否かにつき,法曹養成制度改革連絡協議会で検討されたのか,法務大臣に問う。
⑥ 法曹養成制度改革連絡協議会の議事録が非公開とされている理由は何か,法務大臣に問う。
⑦ (最高裁判所が説明する)予算規模からすれば,現行貸与制下の司法修習生に対して救済措置を講ずるべきではないか,法務大臣の所見を問う。
⑧ 昨年12月に法曹三者間で確認された「修習の成果の社会還元」とは何か,法務大臣に問う。
⑨ 「修習の成果の社会還元」と弁護士自治との関係につき,法務大臣に問う。

11 平成29年3月31日の,國重徹衆議院議員(公明党)の以下の質問に対するもの
① 司法試験の合格者について,年間3,000人目標を撤回し,年間1,500人程度とした理由は何か,法務当局に問う。
② 司法修習終了後の弁護士未登録者数の状況は,最近どのような傾向にあるか,法務当局に問う。
③ 法曹有資格者の活動領域の拡大について,法務省としても,取組をバックアップしていくべきではないか,法務当局に問う。

第2 関連記事その他
1 衆議院法務委員会の会議録のうち,平成29年3月21日開催分同月22日開催分同月24日開催分及び同月31日開催分を掲載しています。
2 以下の記事も参照してください。
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
・ 裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
・ 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金

生活保護受給者と,修習給付金及び修習専念資金との比較

目次
1 生活保護受給者の権利及び義務
2 生活保護に基づく支給の種類
3 生活保護で支給される金額の例
4 修習給付金及び修習専念資金との比較
5 生活保護に関するメモ書き
6 関連記事

1 生活保護受給者の権利及び義務
・ 大阪府門真市HPの「生活保護受給者の権利と義務」(リンク切れ)によれば,以下のとおりです。
(1) 生活保護受給者の権利
① 不利益変更の禁止(生活保護法56条)
   正当な理由なく、保護費を減らされたり保護を受けられなくなったりするなどの不利益を受けることはありません。
② 公課及び差押えの禁止(生活保護法57条及び58条)
   保護により支給された金品には、税金をかけられたり、差し押さえられたりすることはありません。
(2) 生活保護受給者の義務
① 譲渡禁止(生活保護法59条)
   保護を受ける権利を他人に譲り渡すことはできません。
② 生活上の義務(生活保護法60条)
   常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければなりません。
③ 届出の義務(生活保護法61条)
   世帯に収入があったときや世帯員の状況に変化があったときは、福祉事務所へすみやかに、正しく届け出なければなりません。
④ 指示等に従う義務(生活保護法62条)
   福祉事務所が最低生活の保障と生活の向上や自立のために必要な指導・指示をしたときは、これに従わなければなりません。


2 生活保護に基づく支給の種類
(1) 生活保護受給者の場合,以下のように,生活を営む上で必要な各種費用に対応して扶助が支給されます(厚生労働省HPの「生活保護制度」参照)。
① 生活扶助:日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費等)
② 住宅扶助:アパート等の家賃
③ 教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
④ 医療扶助:医療サービスの費用
⑤ 介護扶助:介護サービスの費用
⑥ 出産扶助:出産費用
⑦ 生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
⑧ 葬祭扶助:葬祭費用
(2) 生活保護受給者の場合,居住移転の自由に対する制約はありませんし,働いて得た収入のうち,必要経費及び基礎控除額等を差し引いた分は手元に残ります。


3 生活保護で支給される金額の例
(1)   生活保護で支給される金額は,1級地1,1級地2,2級地1,2級地2,3級地1,3級地2の6段階となりますところ,例えば, 東京都特別区,横浜市,さいたま市,大阪市,京都市,神戸市及び名古屋市は1級地1に該当します。
   そして,平成28年4月現在, 1級地1に居住する3人世帯(夫婦子1人)(33歳,29歳,4歳)の場合,生活扶助として16万110円が支給され,住宅扶助として最大6万9800円が支給されますから,合計22万9910円となります(厚生労働省社会・援護局保護課の,平成28年5月27日付の「生活保護制度の概要等について」右下13頁(PDF15頁)参照)。
(2) 布施弘幸行政書士事務所HPの「生活保護 金額 自動計算」を使えば,都道府県,市町村,世帯構成等を入力することで,生活保護費を計算することができます。


4 修習給付金及び修習専念資金との比較
(1) 33歳の司法修習生,29歳の専業主婦及び4歳の子供という家族構成の場合,毎月17万円の修習給付金(うち,住居給付金は毎月3万5000円),及び毎月12万5000円の修習専念資金(うち,2万5000円は扶養加算)の合計29万5000円を支給してもらえます。
(2) 扶養家族のいない,神戸地裁配属の71期司法修習生の場合,最大で,平成30年分所得税が7万7100円となり,平成31年度住民税が16万2000円となり,平成31年度国民健康保険料は24万4160円となります(「修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い」参照)から,ひと月当たりの負担額は,48万3260円÷12月=4万272円となります。
   これに対して生活保護受給者の場合,国民年金保険料を支払う必要がありませんし,自分で医療費を支払う必要がありませんし,所得税,住民税及び国民健康保険料を支払う必要はありません。
   そのため,夫婦で3万2680円の国民年金保険料(平成30年度の金額です。日本年金機構HPの「国民年金保険料」参照)及び医療費の自己負担をも考慮すれば,平成28年4月時点において最大で毎月22万9910円を支給してもらえる,東京23区における3人暮らしの生活保護受給世帯の方が手取り額が多いかもしれません。
(2) 生活保護受給者の場合,支給された生活保護費を返還する必要はないのに対し,司法修習生の場合,貸与された修習専念資金を返還する必要があります。


5 生活保護に関するメモ書き
(1)  生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は,被保護者の死亡により当然に終了します(朝日訴訟に関する最高裁大法廷昭和42年5月24日判決)。
(2)ア 生活保護法による保護を受けている者が同法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品又はその者の金銭若しくは物品を原資としてした貯蓄等は,同法4条1項にいう「資産」又は同法8条1項にいう「金銭又は物品」に当たりません(最高裁平成16年3月16日判決)。
イ  生活保護法62条3項に基づく保護の廃止の決定に先立ち,処分行政庁による被保護者に対する同法27条1項に基づく指示が生活保護法施行規則19条により書面によって行われた場合において,当該書面に,指示の内容として,被保護者の特定の業務による毎月の収入を一定の金額まで増収すべき旨が記載されているのみで,被保護者の保有する自動車を処分すべきことも指示の内容に含まれているものと解すべき記載は見当たらないといった事情の下においては,処分行政庁が被保護者に対し従前から増収とともにこれに代わる対応として上記自動車の処分を口頭で指導し,被保護者がその指導の内容を理解しており,当該書面にも指示の理由として従前の指導の経過が記載されていたとしても,上記自動車の処分が当該指示の内容に含まれると解することはできません最高裁平成26年10月23日判決。なお,同判決の解説として「京都市伏見福祉事務所長生活保護廃止決定事件」参照)。
(3) マネーファクトHPに「生活保護受給者がお金を借りる最終手段!受給中でも借りられる?」が載っています。
(4) 交通事故による被害者は,加害者に対して損害賠償請求権を有するとしても,加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり,賠償を直ちに受けることができない場合は,他に現実に利用しうる資力がないかぎり,傷病の治癒等の保護の必要があるときは,同法4条3項により,利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして,例外的に保護を受けることができるのであり,必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではありません(最高裁昭和46年6月29日判決)。
(5) 最高裁平成24年2月28日判決は生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準の改定が生活保護法3条又は8条2項の規定に違反しないとされた事例です。
(6)ア 平成26年7月1日以降,生活保護法78条に基づく徴収金(不実の申請その他不正な手段により生活保護を受けたような場合の徴収金)は非免責債権となっています(生活保護法78条4項・破産法97条4号及び253条1項1号)。
イ 平成30年10月1日以降,生活保護法63条に基づく返還請求権(急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けた場合の返還金)は非免責債権となっています(生活保護法77条の2・破産法97条4号及び253条1項1号)。
(7)ア 生活保護法による医療扶助をもらっている場合,市区町村長に対し,「生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書、施設療養費明細書、訪問看護療養費明細書及び調剤報酬明細書」の開示請求ができると思います(東京都豊島区の生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書等の開示に関する要綱参照)。
イ 令和3年に改正された個人情報保護法が令和5年4月1日に施行されましたから,任意代理人でも個人情報開示請求ができるようになりました(愛知県稲沢市HPの「個人情報保護法改正に伴う個人情報の開示請求の手続きの変更について」参照)。


6 関連記事

 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
・ 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
 司法修習生の旅費に関する文書
 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
・ 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等

修習給付金と最低賃金等との比較

目次
1 修習給付金と最低賃金の比較
2 技能実習生の平均給与額
3 税務上の取扱いの違い
4 関連記事その他

1 修習給付金と最低賃金の比較
(1)  平成30年12月1日発効の,埼玉県最低賃金は時給898円です(埼玉県HPの「埼玉県の最低賃金・最低工賃」,及び埼玉労働局HPの「埼玉県の最低賃金」参照)。
   そのため,埼玉県において最低賃金で1日8時間働いた場合の30日分の給料は,898円×40時間×30日/7日(約171時間)=15万3943円となります。
(2) 司法修習が労働に該当するとした場合,月額13万5000円の修習給付金(1月の労働時間を171時間とした場合,時給は789円)は,埼玉県の最低賃金を下回ることとなります。
(3) 厚生労働省HP「地域別最低賃金の全国一覧」に,地域別最低賃金の最新版のほか,平成14年度以降の地域別最低賃金改定状況が載っています。

2 技能実習生の平均給与額
(1) 公益財団法人国際研修協力機構(略称は「JITCO」です。)HPの「研修生・技能実習生の講習手当・研修手当・賃金情報について」によれば,平成21年度の調査では,技能実習生の全業種平均給与額は14.3万円でした。
(2) 法務省HPに以下のデータが載っています。
① 平成28年における留学生の日本企業等への就職状況について(平成29年11月 7日付)
② 平成29年における留学生の日本企業等への就職状況について(平成30年10月10日付)

3 税務上の取扱いの違い
(1) 最低賃金で働いた場合,給与所得控除として一定の必要経費が認められますし,給与所得である点で確定申告をする必要がないです。
(2) 司法研修所の公式見解によれば,修習給付金の場合,必要経費が認められませんし,雑所得である点で確定申告をする必要があります。
(3) も参照してください。

4 関連記事その他
(1) 最低賃金法4条2項は,「最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。」と定めています。
(2) ガベージニュースHPの「アルバイトの時給動向をグラフ化してみる(2017年)(最新)」 によれば,パート・アルバイト募集時平均時給(三大都市圏)は,986円(2015年12月)→1006円(2016年12月)→1030円(2017年12月)→1058円(2018年12月)という風に推移しています。
(3) 厚生労働省HPの「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)について」には,以下のパンフレットが掲載されています。
① ハローワークでは労働関係法令違反があった事業所の新卒求人は受け付けません!
→ 平成28年3月1日以降の取扱いであり,労働基準法,最低賃金法,男女雇用機会均等法及び育児介護休業法に関する規定が対象です。
② 労働関係法令違反があった事業所を新卒者などに紹介しないでください
(4) 残業ゼロのIT企業AXIA社長ブログ「顧客の要求に安易に無償対応しないことの大切さ」に,「ビジネスの場では仕事の対価は「お金」です。これは当たり前の事実です。いや、仕事の対価は達成感だとか、自身の成長だとか、ブラック感満載のことを言うのはやめてください。もちろんそういうものも仕事で得られることではありますが、それも対価としてのお金をきちんともらってはじめて成立するものです。」などと書いてあります。
(5) 以下の記事も参照して下さい。
・ 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金

 


法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料

司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金

目次
第1部 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する公式の説明等
第1 司法修習生の給費制

1 昭和22年の給費制導入
2 司法官試補及び弁護士試補が合体したものとしての司法修習生
3 昭和23年の,裁判官の報酬等に関する法律の制定
4 給費制時代の給与
5 関連記事
第2 司法修習の期間を1年6月とした,平成10年の裁判所法改正
1 平成10年の裁判所法改正
2 平成10年の裁判所法改正前の取扱い
3 掲載資料及び関連記事
第3 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正
1 平成16年の裁判所法改正
2 修習資金貸与制の内容
3 司法修習生の給費制の廃止理由
4 貸与制に移行しても司法修習生の法的地位に何ら変化はないとされたこと
5 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連会長談話
6 掲載資料及び関連記事
第4 司法修習生の給費制を1年延長した,平成22年の裁判所法改正(議員立法)
1 平成22年の裁判所法改正までの経緯
2 平成22年の裁判所法改正の内容
3 平成22年の裁判所法改正に伴う予算措置
4 平成22年の裁判所法改正が裁判所の現場に与えた影響
第5 平成23年11月採用の新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始したこと
1 修習資金貸与制が開始するまでの経緯
2 平成23年11月1日,民主党が給費制廃止の政府方針を了承したこと
3 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
4 修習資金貸与金の返還開始時期
5 関連記事
第6 67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援,及び68期司法修習で開始した導入修習
1 平成25年11月開始の,67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援
2 平成26年11月採用の68期司法修習で開始した導入修習
第7 修習給付金制度を創設した,平成29年の裁判所法改正
1 修習給付金制度の発表開始前の経緯
2 平成28年12月の,修習給付金制度創設のための裁判所法改正予定の表明
3 平成29年の裁判所法改正の内容
4 修習給付金制度に関する国会答弁
5 貸与制導入時からの状況の変化が考慮されていること
6 掲載資料
第8 谷間世代となった新65期ないし70期司法修習生に対する対応
1 谷間世代の存在
2 最高裁判所の対応
3 法務省の対応
4 日弁連の対応
5 名古屋高裁令和元年5月30日判決の付言
第9 法務省としては,従前の給費制に戻すことは考えていないこと
第10 令和元年制定の大学等修学支援法に関する内閣法制局審査資料等
1 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年5月20日法律第47号)に関する資料
2 平成28年の所得税法改正に関する資料(学資金関係に限る。)
3 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(平成29年3月31日法律第5号)に関する資料
4 大学等における修学の支援に関する法律(令和元年5月17日法律第8号)に関する資料

第2部 基本給付金は,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であるという個人的主張
第1 基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されること
1 規定の趣旨目的を考慮することは許容されること
2 基本給付金が所得税法9条1項15号の学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえないこと
3 小括
第2 両者の給付の目的が類似していること
第3 両者の給付の趣旨が類似していること
1 給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容
2 基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似していること
3 小括
第4 基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであること
1 基本給付金の金額の設定根拠
2 学生との公平性の観点からは特に問題がないこと
3 他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないこと
4 司法修習生の経済的負担は一段と増えたこと
5 小括
第5 基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないこと
2 学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあること
3 司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれること
4 小括
第6 基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないこと
2 基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があること
3 基本給付金には課税所得となるべき担税力がないこと
4 基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっていること
5 小括
第7 基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議を特に行わなかった結果に過ぎないことからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないこと
1 文部科学省は学生の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,給付型奨学金の非課税化を実現したこと
2 厚生労働省は医師の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,医師の修学等資金の債務免除益の非課税化を実現したこと
3 最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったこと
4 小括
第8 その他の主張
1 修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないこと
2 基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないこと
3 基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が異なること
4 法科大学院奨学金との整合性を考慮すべきであること
5 文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであること
6 法令用語としての「学資金」の使用例
第9 結論

第3部 その他
第1 給付型奨学金の位置づけが基本給付金の学資金該当性に与える影響
1 国税庁に対する説明内容を前提とした場合の影響
2 内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合の影響
3 国会に対する説明内容を前提とした場合の影響
第2 司法修習生に関する裁判所法の条文
第3 関連記事その他


第1部 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する公式の説明等

第1 司法修習生の給費制

1 昭和22年の給費制導入
(1) 裁判所法(昭和22年4月16日法律第59号)57条2項(司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。)のほか,裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律(昭和22年4月17日法律第65号)(昭和22年5月3日施行)(リンク先の「閲覧」タブをクリックすれば,御署名原本を閲覧できます。)8条及び9条に基づき,
    司法官試補が昭和22年5月3日に高輪1期又は高輪2期の司法修習生に切り替わった時点で(裁判所法施行令18条参照),司法修習生の給費制が導入されました(ただし,給費の金額については昭和22年12月31日までの応急的措置でした。)。
(2) 裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律8条及び9条は以下のとおりです。
第8条
①   司法修習生の受ける給与の額は、当分の間、最高裁判所の定めるところによる。
② 前項の給与については、第五条及び第六条の規定を準用する。
③ 司法修習生には、第一項の給与の外、当分の間、一般の官吏の例による給与を支給することができる。
第9条
    裁判官の報酬及び司法修習生の給与等に関する細則は,最高裁判所がこれを定める。
(3) 帝国議会会議録検索システムにおいて「司法修習生」で検索しても司法修習生について給費制を導入した理由に関する答弁は見当たりません。
    また,22期の山崎潮内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)の平成16年12月1日の参議院法務委員会における国会答弁でも,弁護士の卵についてまで給費制を導入した理由に関して「国会の議事録、余りはっきり言っているものがないわけでございます」と書いてあります。
(4) 裁判所法逐条解説(中巻)397頁には「法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性にかんがみ、これに人材を吸収し、また修習に専念させる等の見地から、とくに一定額の給与が支給されることとされたものである。」と書いてあります。
2 司法官試補及び弁護士試補が合体したものとしての司法修習生
(1) 首相官邸HPの「法曹一元について(参考説明)」(平成12年4月25日付)には「裁判所法によって司法修習制度が新設され、従来の司法官試補と弁護士試補とは合体した形となって、養成段階である出発点における法曹一元が実現された。」と書いてあります。
(2)ア 判事及び検事の卵であった司法官試補には給与が支給されていたのに対し,弁護士の卵であった弁護士試補には給与が支給されていなかったものの,司法修習制度の創設に伴い弁護士の卵にも給与が支給されるようになりました。
イ 司法官試補は官吏でないものの,奏任官待遇が与えられていたのに対し,弁護士試補は官吏ではなく,官吏待遇でもありませんでした(裁判所法逐条解説(中巻)384頁)。
(3) 司法官試補としての正式な採用は昭和18年採用の29期まででしたが,終戦直後に司法官試補に採用されて,昭和22年5月3日の裁判所法改正前に修習を終了した人については司法官試補30期(例えば,第10代最高裁判所長官の寺田治郎裁判官)と呼ばれることがあります(「司法省司法研究所の沿革」参照)。
(4) 司法官試補に対応する弁護士試補の制度は,弁護士法(昭和8年5月1日法律第53号)に基づき,昭和11年4月1日に開始しましたところ,東京弁護士会百年史447頁には弁護士試補の生活問題に関して以下の記載があります。
     昭和一三年ごろからは、修習にさしつかえなく、試補の品位を汚さず、かつ、会の許可を受けた場合には、他の職業に就き、あるいは、内職をすることはさしつかえないという方針がとられた。国庫補助金を大幅に増加すべき旨の決議、弁護士試補の無給制は、司法官試補と比べてまことに不平等であるからその有給制実現のためにたたかうべきであるという意見、修習開始後六カ月を経た試補に対しては、指導弁護士の事件にかぎり復代理人又は代理人として実務をとらせる等の意見もしきりに出された。しかし、官尊民卑、「正業に就け」といわれる軍国主義時代の中で、弁護士会の力も弱く、いずれも、実現するに至らなかった
3 昭和23年の,裁判官の報酬等に関する法律の制定
    裁判官の報酬等に関する法律(昭和23年7月1日法律第75号)(公布日施行であるものの,俸給その他の給与(旅費は除く。)の額に関する規定は昭和23年1月1日に遡及して適用されたことにつき同法付則1項)により,裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律は廃止されました。
    しかし,同法第14条は,「裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律(昭和二十二年法律第六十五号)は、これを廃止する。但し、司法修習生の受ける給与については、なお従前の例による。」と定めていましたから,司法修習生の給与の額等については応急的措置のままとなりました。
4 給費制時代の給与
(1)ア 司法修習生の給費制時代の給与は,「給与」として支給されていたわけですから,税務上の取扱いは給与所得でした。
イ 給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう(最高裁昭和56年4月24日判決)ものの,例えば,会社との間で委任関係となる役員の給料は給与所得です(国税庁HPの「No.2508 給与所得となるもの」参照)。
(2)ア 平成16年の裁判所法改正当時となる司法修習生の給与は以下のとおりでした。
給与月額(本俸):20万2900円
調整手当(平均額):1万3000円
→ 調整手当は,平成18年度に導入が開始した地域手当に相当する手当でした。
寒冷地手当(平均額):1000円
期末手当(平均額・月割):4万2000円
勤勉手当(平均額・月割):2万円
扶養手当:1万3500円(配偶者),6000円(子ども一人当たり)
住居手当:家賃の約半額(上限額は2万7000円)
通勤手当:交通費実費(上限額は5万5000円)
イ 給費制時代につき,71期以降の司法修習生に対する移転給付金に相当する手当はありませんでした。
(3) 最高裁昭和42年4月28日判決は「これらのこと(山中注:司法修習生の給費制,兼職禁止,守秘義務等)はすべて、司法修習生をして右の修習に専念させるための配慮ないしはその修習が秘密事項に関することがあるための配慮にすぎないのであり、司法修習生の勤務形態が国の事務に従事する職員に類似し又はこれに準ずる形式ないし実態があるからではない。」と判示しています。
5 関連記事
・ 昭和22年の司法修習生の給費制導入

裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)からの抜粋です。

第2 司法修習の期間を1年6月とした,平成10年の裁判所法改正
1 平成10年の裁判所法改正
 裁判所法の一部を改正する法律(平成10年5月6日法律第50号)による改正後の裁判所法67条2項は,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。」となり,第53期司法修習以降については,司法修習の期間が1年6月となるとともに,二回試験の合格留保者に対する給与の支給が廃止されることとなりました。
2 平成10年の裁判所法改正前の取扱い
(1)ア 司法修習生に対して給与が支給される根拠と裁判所法67条2項の改正の趣旨について(平成10年2月4日付の法務省文書)には以下の記載があります。
 現在,修習生に対する給与については,所定の2年間の修習期間のみならず,その修習期間経過後も,例えば,二回試験を受験したが合格留保となった者に対しては,追試により合格して修習を終了するまでの間,これが支給されている。
イ 裁判所法逐条解説(中巻)396頁ないし398頁には,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。」と定める当時の裁判所法67条2項の解説が載っていますところ,例えば,「病気その他の正当な理由によって修習しないときでも罷免されない限り給与を受けることができる。」と書いてあります。
(2) 22期の山崎潮 法務大臣官房司法法制調査部長は,平成10年4月10日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① まず結論から申し上げますと、現在、二回試験を受けまして、合格留保と言っておるわけでございますが、残念ながら受からなかった人でございますけれども、そのまま修習生の身分を継続いたしまして、追試の機会がございます。その追試の機会で合格すればそれで卒業するんですが、そのときまで給与の支給を受けております。
 今回は、そういう関係からいきますと、通常二回試験を受けまして、新制度では一年六月、約一年六カ月になるわけでございます。もちろん、その期間については若干年によって出入りがございますので、最高裁判所の方で定めるわけでございますが、そこの期間を過ぎたら、今度は修習生の身分は残りますけれども給与は出ない、こういうふうに変わるわけでございます。
② (山中注:司法修習生の給与が)どういう理由で出るのかということでございますけれども、やはり法曹というのは非常に公的な仕事でございますから、大事なものですから、給与を支給して修習に専念をさせるということになるのだろうと思うのです。
(3) 28期から52期までの二回試験の場合,不合格により罷免された司法修習生はいなかったのに対し,69期以降の二回試験の場合,一科目でも不合格になった司法修習生については,二回試験の不合格発表の翌日にある最高裁判所裁判官会議の決議をもって,同日付で一律に罷免されるようになりました(「二回試験不合格時の一般的な取扱い」参照)。
3 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 内閣法制局の法律案審議録(内閣法制局開示分)
→ 形式的な内容の文書です。
・ 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正

第3 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正
1 平成16年の裁判所法改正

(1) 現行64期までの司法修習生については,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。」と定める裁判所法67条2項に基づき,給与の支給を受けていました(司法修習生の給費制)。
    しかし,裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)による改正後の裁判所法67条2項は,「司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。 」となり,平成22年11月1日からの給費制の廃止,修習資金貸与制の導入が決定されました。
(2) 裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)3項は,裁判官の報酬等に関する法律(昭和23年7月1日法律第75号)14条ただし書を削りました。
(3) 平成16年の裁判所法改正では当初,新60期司法修習生から貸与制を導入することを前提に,平成18年11月1日から施行することが予定されていました(「裁判所法の一部を改正する法律案」(第161回国会閣法第7号)付則1項参照)。
    しかし,貸与制実施の延長を求める日弁連の活動(平成16年6月14日付の「司法修習給費制の堅持を求める緊急声明」参照)等の結果,裁判所法の一部を改正する法律案に対する修正案が可決されたため,平成22年11月1日から施行される予定ということに変更されました。
2 修習資金貸与制の内容
(1) 修習資金の交付は,最大で,司法修習生に採用された年の12月から翌年12月までの合計13回でした。
(2) 13ヶ月間貸与される修習資金の貸与月額は,以下のとおりです(司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則3条1項及び2項)。
① 基本額未満の貸与を希望する場合,18万円(貸与額の合計は234万円)
② 基本額の場合,23万円(貸与額の合計は299万円)
③ 配偶者,子等がある場合,25万5000円(貸与額の合計は331万5000円)
④ 家賃を支払っている場合,25万5000円(貸与額の合計は331万5000円)
→ マンスリーマンションであっても住居加算が認められることがあります。
⑤ ③及び④のいずれにも該当する場合,28万円(貸与額の合計は364万円)
(3) 裁判所HPの「司法修習生の修習専念資金の貸与等について」に,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(平成21年10月30日最高裁判所規則第10号)及び修習資金貸与要綱が載っています。
3 司法修習生の給費制の廃止理由
(1) 裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)別紙1・4頁(リンク先のPDF15頁)には以下の記載があります。
(注)以前の財政経済事情と数百人体制の予算額(司法修習生の数は長年の間500人程度にとどまっていた。)の状況の下では,法曹の社会的使命の重要性にかんがみ,司法修習に専念する義務を担保して司法修習制度を経済的に支えるための方策として,公務員でなく公務にも従事しない者に対する給与の支給という特例的な取扱いについても一定の社会的な理解が得られていたものと考えられるが,現下の厳しい財政経済事情と増大する財政負担の状況の下で,今後の法曹人口の更なる拡大や司法制度全体の財政負担の増大等の諸事情も踏まえれば,前記のような給費制に対する批判(山中注:司法修習は個人が法曹資格を取得するための課程である以上,負担と受益の観点からは司法修習生が自ら必要な経費を負担すべきであるなどの批判)のあることをも考慮して,今後の司法修習生に対する経済的支援の在り方について,国民の理解が得られる制度を再構築することが不可欠の状況に立ち至っているといわざるを得ない。
(2) 41期の小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長は,平成30年3月20日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 司法修習生につきましては、昭和二十二年の裁判所法制定以降、給費制がとられておりまして、平成二十三年七月から修習を開始した旧六十五期の司法修習生まで給与及び手当が支給されておりました。
    給費制から貸与制への移行でございますが、平成十六年の裁判所法改正によるものでございまして、貸与制は、平成二十三年十一月に修習を開始した新六十五期の司法修習生から実施されたところでございます。
② この給費制から貸与制への移行の理由でございますが、
   司法修習生の増加に実効的に対応する必要があったこと、
   また、司法制度改革の諸施策を進める上で、限りある財政資金をより効率的に活用し、司法制度全体に関して国民の理解を得られる合理的な財政負担を図る必要があったこと、
   また、公務員ではなく、公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは現行法上異例の制度であること
   などを考慮しますと、給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難だと考えられたことによるものでございます。

③ その後、法曹志望者数が大幅に減少いたしまして、これに実効的に対応する必要があるなど、貸与制に移行した後の大きな状況の変化が認められましたことから、法曹人材確保の充実強化の推進を図るとともに、司法修習の実効性の一層の確保を図るため、昨年の裁判所法改正により、貸与金額を見直した貸与制と併存させる形で、修習給付金の支給を内容とする新たな制度が創設され、昨年十一月に修習を開始した七十一期の司法修習生から実施されているという状況でございます。
4 貸与制に移行しても司法修習生の法的地位に何ら変化はないとされたこと
 37期の小川秀樹法務省民事局長は,平成25年10月30日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    まず、お尋ねのありました、修習生の法的な立場について御説明いたします。
    司法修習生は、先ほどからもお話がありますように、公務員ではございませんで、裁判所法上、法曹に必要な能力を身につけるための修習を行うべき者と位置づけられております。このような司法修習生の法的地位は、平成十六年の裁判所法改正により給費制から貸与制に移行しても何ら変更されていないものと承知しております。
    なお、司法修習生は公務員ではございませんが、従前は給与の支給が公務員に準じて行われていたことから、その意味で、公務員に準じた面があったものと承知しております。
    次に、労働基準法との関係でございますが、司法修習生は、公務員に準ずる、準じないとは別に、いずれにせよ事業または事務所に使用される者ではなく、労働基準法上の労働者の性質は有しないということでございますので、労働基準法の適用はないとされてきたものと承知しております。 
5 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連会長談話

(1) 平成16年12月3日付の日弁連会長談話(第161回臨時国会の終了にあたって)には以下の記載があります。
    本日、第161回臨時国会が会期満了により終了した。今国会において審議された司法制度改革に関連する法案のうち「裁判外紛争解決手続の利用の促進等に関する法律案(ADR法案)」及び「裁判所法の一部を改正する法律案(司法修習生への給費制廃止)」の2法案は可決成立し、「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(弁護士報酬の敗訴者負担制度)」は廃案となった。今臨時国会は、司法制度改革推進本部の設置期限が平成16年11月末とされたその最終の国会であり、今次司法制度改革における立法は基本的に完了した。
(2) 平成16年度につき,日弁連会長は19期の梶谷剛弁護士(第一東京・全期会)であり,日弁連事務総長は25期の山岸憲司弁護士(東京・法曹親和会)でした(「日弁連の歴代会長及び事務総長」参照)。
6 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の記事も参照してください。
・ 内閣法制局の法律案審議録(内閣法制局開示分)
→ 形式的な内容の文書です。
・ 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
→ 裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)が含まれています。
(2) 以下の記事も参照してください。

・ 司法修習生の給費制に関する,平成16年の裁判所法改正

第4 司法修習生の給費制を1年延長した,平成22年の裁判所法改正(議員立法)
1 平成22年の裁判所法改正までの経緯

(1) 平成22年3月10日の再投票で当選し,同年4月1日に日弁連会長に就任した宇都宮健児弁護士の主導により,日弁連は,給費制の存続を訴える活動を開始し(日弁連HPの「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を」参照),同年5月28日の定期総会において,市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議を出しました。
(2) 法科大学院協会理事長は,平成22年10月12日,「修習生の給費制維持は司法制度改革に逆行(理事長所感)」(リンク切れ)を発表して,司法修習生の給費制を維持することに反対しました。
(3) 平成22年11月18日午前5時,司法修習生の給費制を1年延長するための裁判所法改正を議員立法で行う予定であることがNHKで報道されました。
(4) 司法修習生の給費制の1年延長を定めた裁判所法の一部を改正する法律案(第176回国会衆法第13号)は,平成22年11月24日に衆議院に付託され,翌25日,衆議院本会議で可決され,翌26日,参議院本会議で可決成立しました(衆議院HPの「議案審議経過情報」参照)。
2 平成22年の裁判所法改正の内容
(1) 新64期司法修習が開始する前日である平成22年11月26日,給費制を1年間延長する旨の裁判所法改正法が成立しました。
   その結果,同年11月1日から平成23年10月31日までに採用された司法修習生(具体的には,新64期及び現行65期の司法修習生)は,裁判所法の一部を改正する法律(平成22年12月3日法律第64号)(同日施行)による改正後の裁判所法付則4項・67条2項に基づき,1年間の修習期間中,国庫から一定額の給与(本俸月額は20万4200円)を受けることができることとなりました(詳細につき,司法修習生の給与に関する暫定措置規則(平成22年12月9日最高裁判所規則第11号)参照)。
(2) 司法修習生の貸与制は平成22年11月1日にいったん開始していましたから,同年12月3日,同年11月1日に遡及して,新64期司法修習生に対して給費制が適用されることとなりました。
3 平成22年の裁判所法改正に伴う予算措置
(1)ア 新64期及び現行65期の司法修習生に対する給費制を存続する際,最高裁判所長官は,財務大臣に対し,平成22年12月27日付で予算流用等承認要求を行い,財務大臣は,最高裁判所長官に対し,平成23年1月4日付で予算流用等承認を通知しました(財政法33条2項及び3項のほか,「平成22年度一般会計歳出予算流用等の承認要求書及び承認通知書」参照)。
    具体的には,「修習資金貸与金」という目から,「司法修習生手当」という目に,20億4676万2000円を流用しました。金額については,平成22年12月から平成23年3月までの分と思われます。
イ 裁判所所管の一般会計歳出予算各目明細書における①最高裁判所,下級裁判所,検察審査費,裁判費,裁判所施設費及び裁判所予備経費という「項」の区分,及び②職員基本給,職員諸手当といった「目」の区分は国会の議決事項であり(財政法23条及び31条),③各目の経費の金額の流用は,財務大臣の承認を得ることを条件とする各省各庁の長の権限事項です(財政法33条2項)。
(2) 34期の林道晴最高裁判所経理局長は,平成22年11月25日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    給費制が一年間延長された場合には、まず、平成二十二年度予算におきまして、この十一月二十七日に採用される予定の修習生、司法修習新六十四期の修習生になりますが、それに係る司法修習生手当あるいは共済組合の関係の負担金等として、合計約二十七億円の予算を計上する必要があります。これにつきましては、裁判所の他の予算を流用する手続を速やかに取ることになると考えております。また、平成二十三年度の予算につきましては、本年の十一月から貸与制に移行することを前提として概算要求を行っておりますので、給費制が一年間延長された場合には、それに応じた予算要求に改めることが必要になります。
(3) 裁判所HPに「裁判所の予算・決算・財務書類」が載っています。
4 平成22年の裁判所法改正が裁判所の現場に与えた影響
・ 37期の菅野雅之最高裁判所事務総局審議官は,平成23年7月13日の第3回「法曹の養成に関するフォーラム」において以下の発言をしました(リンク先の16頁)。
    早いもので,既に次期第65期の修習生が11月には修習を開始するという状況になっております。昨年は,貸与制がいったん施行された後に,私どもがよく分からない状況のもとで,議員立法によりこれを遡及的に延期するという正に異例の事態が起こり,現場には大きな影響が生じて,その対応に苦慮することになりました。今回は昨年とは異なり,正にこういうお忙しい委員の先生方をお迎えしてこのようなフォーラムで議論していただくという大変貴重な機会が設けられているわけですので,私どもとしてもそういう意味では安心しているところでございます。是非このフォーラムで早期にきちんとした結論を出していただけるようにお願いしたいと申し上げます。
5 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 衆議院法務委員長提出予定の裁判所法の一部を改正する法律案に対する国会法第57条の3に基づく内閣の意見要旨(平成22年11月22日付)
→ 「標記裁判所法の一部を改正する法律案については,政府としては,やむを得ないものと認めます。」と書いてありますところ,平成22年11月24日の衆議院法務委員会において朗読されたみたいです。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置

第5 平成23年11月採用の新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始したこと
1 修習資金貸与制が開始するまでの経緯
(1)ア 平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。
    また,法務省の「法曹の養成に関するフォーラム」は,平成23年8月31日,司法修習生に対する経済的支援の基本的な在り方は,「貸与制を基本とした上で,個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しない者に対する負担軽減措置)を講ずる。」等とする第一次取りまとめを行いました(法務省HPの「法曹の養成に関するフォーラム」「第一次取りまとめ」及び「概要」参照)。
    そのため,平成23年11月採用の新65期以降については特段の法改正はなされませんでしたから,新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始しました。
(2) 法曹の養成に関するフォーラムにおいては,司法制度改革の理念を踏まえるとともに,平成22年7月6日付け「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」検討結果(取りまとめ)及び同年11月24日付け衆議院法務委員会決議の趣旨を踏まえつつ検討を行うこととされていました(平成23年5月13日付の内閣官房長官等の申し合わせ)。
2 平成23年11月1日,民主党が給費制廃止の政府方針を了承したこと
・ 時事通信社2011年11月1日配信の記事には以下の記載があったみたいです(弁護士作花知志のブログ「司法修習生の給与制が廃止へ」参照)。
「給与制廃止を了承 民主党
民主党は11月1日,司法修習生に月額約20万円を支給する『給費制』を廃止し,無利子の『貸与制』に移行する政府方針を了承することを決めた。党の判断を一任されていた前原誠司政調会長が同日の政調役員会で報告した。
前原氏は記者会見で廃止理由について,『私も父を亡くしてから奨学金を活用し,中,高,大学と学ばせてもらった。借りたものは返済することが法曹界に限らず基本だと思う』と説明。経済的な困窮者には返済猶予措置を講じると強調した。
政府は貸与制移行のための法案を今国会に提出する方針だが,民主党内には給費制存続を求める意見も強く,法務部門会議で議論していた。」
3 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
    「法曹の養成に関するフォーラム」「第一次取りまとめ」4頁及び5頁には,「給費制を維持すべきとの見解(貸与制導入に支障があるとの見解)」として以下の趣旨の意見が表明されたと書いてあります。
① 法科大学院在学中の学費・生活費及び司法試験合格までの生活費の負担に加え,貸与制導入による経済的負担の増大により,資力に乏しい者が法曹になれなくなるおそれがあること。
② 上記同様,貸与制導入による経済的負担の増大は,法曹志願者が大幅に減少している現状において,とりわけ社会人出身者や他学部出身者を含む法曹志願者減少を更に拡大させ,人材の多様性を確保できなくなるおそれがあること。
③ 給費制は法曹の公共的使命の自覚を促し,弁護士の公共心や強い使命感の醸成を制度的に支え,弁護士の社会への貢献・還元に資するものであること。
④ 給費は,司法修習生が司法研修所長や配属地の高裁長官らの監督に服して修習に専念すべき義務を負い,兼職禁止や守秘義務等の公務員同様の身分上の制約を受ける代償であること。また,司法修習の実態は訴状や判決文の原案作成,被疑者の取調べ,接見など労働に近く,全国各地への任地配属に伴う経済的負担(例えば,転居費用など)も大きいこと。

4 修習資金貸与金の返還開始時期

(1) 平成30年7月25日,新65期司法修習生であった人の修習資金貸与金の返還が開始し,令和3年7月25日,68期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始しました。
(2) 令和 4年7月25日,69期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始し,令和5年7月25日,70期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始します。
5 関連記事
・ 平成23年11月採用の新65期からの,修習資金貸与制の導入
・ 66期ないし70期司法修習開始時点における,修習資金の貸与申請状況
・ 修習資金貸与金の返還状況



司法修習生に対する修習資金及び修習専念資金の貸与・返済状況等に関するデータの提供について(日弁連事務総長に対する,令和2年11月16日付の最高裁総務局長回答)の別紙です。

第6 67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援,及び68期司法修習で開始した導入修習
1 平成25年11月開始の,67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援
(1) 法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)11頁には以下の記載がありました。
    司法修習生に対する経済的支援の在り方については,貸与制を前提とした上で,司法修習の位置付けを踏まえつつ,より良い法曹養成という観点から,経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにするため,措置を講じる必要がある。具体的には,可能な限り第67期司法修習生(本年11月修習開始)から,次の措置を実施すべきである。
1 分野別実務修習の開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者本人について,旅費法に準じて移転料を支給する(実務修習地に関する希望の有無を問わない。)。
2 集合修習期間中,司法研修所への入寮を希望する者のうち,通所圏内に住居を有しない者については,入寮できるようにする。
3 司法修習生の兼業の許可について,法の定める修習専念義務を前提に,その趣旨や司法修習の現状を踏まえ,司法修習生の中立公正性や品位を損なわないなど司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には,司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めることとする。
(2)ア 平成26年11月20日開催の第13回法曹養成制度改革顧問会議の資料6-1「司法修習の充実等に向けた検討の状況について」にあるとおり,67期ないし70期の司法修習生に対しては,①実務修習地への移転料(転居費用)の支給,②集合修習期間中の入寮の確保(入寮を希望する者のうち通所圏内に住居を有しない者の全員)及び③兼業許可の運用緩和(法科大学院における学生指導等の教育活動など)といった経済的支援がなされました。
イ 71期以降の司法修習生に対する移転給付金と異なり,①導入修習のための司法研修所への引越,②集合修習のための司法研修所への引越及び③選択型実務修習のための実務修習地への引越については,旅費は支給されるものの,移転料は支給されませんでした( 平成25年12月17日開催の第5回法曹養成制度改革顧問会議の資料3-2「司法修習生の修習資金等の状況のあらまし」参照)。
(3) 司法修習生に対する移転料は,旅費法別表第一・2項の「三級以下の職務にある者」のうち,「赴任の際扶養親族を移転しない場合」(旅費法23条1項2号)に該当するものとしての金額が支給されました。
2 平成26年11月採用の68期司法修習で開始した導入修習
(1) 法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)21頁には以下の記載がありました。
◯ 最高裁判所においては,司法修習生に対する導入的教育や選択型実務修習を含め司法修習内容の更なる充実に向けた検討を行うことが求められる。また,第4で述べる新たな検討体制の下で,質の高い法曹を育成できるよう,法科大学院教育との連携,司法修習の実情,上記の最高裁判所における検討状況等を踏まえつつ,司法修習生に対する導入的教育や選択型実務修習の在り方を含め司法修習の更なる充実に向けて,法曹養成課程全体の中での司法修習の在り方について検討を行い,2年以内に結論を得るべきである。
(2)ア 導入修習は,平成26年11月採用の68期司法修習生に対するものから開始しました。
イ 最高裁判所は,司法研修所近隣の税務大学校から,導入修習期間中の寮の借用を承諾してもらうことで,入寮できる司法修習生の人数を増やしました。
(3) 「導入修習の実施に関する司法研修所事務局長の説明」も参照してください。

第7 修習給付金制度を創設した,平成29年の裁判所法改正
1 修習給付金制度の発表開始前の経緯

(1)ア 内閣官房の法曹養成制度改革顧問会議HPに載ってある「法曹養成制度の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)には以下の記載がありました。
    法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。
イ 「司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明」(平成28年1月20日付の日弁連の会長声明)には,「司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。」という表現がありました。
(2) 経済財政運営と改革の基本方針2016~600兆円経済への道筋~(平成28年6月2日閣議決定。略称は「骨太の方針2016」です。)には「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化」という文言が含まれていました。
(3) 「未来への投資を実現する経済対策」(平成28年8月2日閣議決定)22頁(PDF28頁)に,「(2)若者への支援拡充、女性活躍の推進(中略)・法科大学院に要する経済的・時間的負担の縮減や司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化等の推進(法務省、最高裁判所、文部科学省)」と記載されました。
2 平成28年12月の,修習給付金制度創設のための裁判所法改正予定の表明
(1) 71期司法修習生に対応する平成29年度司法試験の願書受付の終了日(平成28年12月8日)後に発表された,法務省HPの「司法修習生に対する経済的支援について」(平成28年12月19日付)には以下の記載があります。
    「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日閣議決定)においては,政府として「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化(中略)を推進する」こととされ,これまで法務省,最高裁判所及び日本弁護士連合会においてその対応を検討してきましたが,今般,三者間において,(1)平成29年度以降に採用予定の司法修習生に対する新たな経済的支援策となる給付制度を新設すること,(2)法務省が,当該支援策を実施する上で必要となる裁判所法の改正に向けた作業を進め,次期通常国会における同改正法案の早期成立に向けて努力すること,(3)最高裁判所及び日本弁護士連合会は,新制度の円滑な実施に協力すること,(4)新たな制度の導入後は同制度について継続的かつ安定的に運用していくことをそれぞれ確認しました。新たな制度の導入に当たっては,今後,平成29年度予算の閣議決定や裁判所法改正の手続を経ることとなります。
(2) 令和4年4月就任の日弁連会長となる小林元治弁護士(東京・33期)は,平成28年度日弁連副会長として法曹養成を主担当としていました(「日弁連の歴代副会長の担当会務」参照)。

3 平成29年の裁判所法改正の内容
(1) 裁判所法の一部を改正する法律(平成29年4月26日法律第23号)による改正後の裁判所法67条の2に基づき,71期以降の司法修習生に対して,修習給付金として,基本給付金(月額13万5000円),住居給付金(月額3万5000円)及び移転給付金(移転距離に応じて4万6500円から14万1000円までの金額)が支給されるようになりました(裁判所HPの「司法修習生の修習給付金について」,及び司法修習生の修習給付金の給付に関する規則 (平成29年8月4日最高裁判所規則第3号)参照)。
    また,修習給付金に加えて,修習専念資金(従前の修習資金に相当するもの)が貸与されるようになりました。
(2) 修習専念資金の額は原則として月額10万円ですが,司法修習生が扶養親族を有し,貸与額の変更を希望する場合,月額12万5000円となります(裁判所HPの「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要」,並びに司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則(平成21年10月30日最高裁判所規則第10号)及び修習専念資金貸与要綱)。
    ただし,配偶者又は子に収入がある場合でも,扶養加算は認められるみたいです(裁判所HPの「修習専念資金貸与FAQ ~これから貸与を受ける方へ~」参照)。
(3) 裁判所HPに「司法修習生の修習給付金について」及び「司法修習生の修習専念資金の貸与等について」が載っています。
4 修習給付金制度に関する国会答弁
(1) 修習給付金制度は,貸与制度と併存する新たな給付金制度であること
・ 40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年4月18日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    給費制下の司法修習生につきましては、平成十六年改正前の裁判所法第六十七条第二項におきまして「国庫から一定額の給与を受ける」とされておりまして、法律上、給与としての支給がされておりました。他方、本法案は、これまで御説明しておりますけれども、平成二十九年度以降に採用予定の司法修習生に対し修習給付金を支給する制度を創設いたしまして、貸与制につきましては、貸与額を見直した上でこれを併存させること等を内容とするものでございます。修習給付金は、給与として支給されるものではないわけでございます。
    それで、修習生に対して支給される金額につきましても、給費制下におきましては、最終的には月額二十万四千二百円の給与に加えまして、給与として付随するものでございまして、通勤手当、期末手当といいました各種諸手当が支給されておりました。これに対しまして本法案で創設される修習給付金は、司法修習生、これ全員に一律に支給されます月額十三万五千円の基本給付金のほか、住居給付金及び移転給付金から構成されるものでございまして、給与であるのに伴うような各種手当、諸手当は支給されないわけでございます。
    ということでございまして、今回の修習給付金制度は、かつての給費制に復活するものではなく、貸与制度と併存する新たな給付金制度を創設するものでございます。
(2) 修習給付金の金額決定
・ 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長は,平成29年3月22日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 修習給付金の金額の点の御質問がございました。
    この具体的な金額につきましては最終的に最高裁判所規則において定めることになりますが、基本給付金として全ての修習生に対して一律十三万五千円、そのほか、住宅を借り受け、家賃を支払っている場合には住居給付金、あるいは移転に必要な移転給付金といったものを支給するということを予定しているところでございます。
    これらの修習給付金の額は、制度設計の過程の中で、法曹人材の確保、充実強化の推進等を図るという制度の導入理由のほか、修習中に要する生活費や学資金等の司法修習生の生活実態その他の諸般の事情を総合考慮するなどして決定されたというふうに承知しているところでございます。
② 最高裁といたしましては、この新たな給付金制度の円滑な実施及び継続的かつ安定的な運用に努めてまいりたいというふうに考えておりますが、今後、制度のいろいろな問題点等は運用の中で出てくるかもしれません。
そのようなところはまた法務省等とも御相談申し上げて、運用については万全を図っていきたいというふうに考えているところでございます。

(3) 修習給付金の税務上の取扱い及び社会保険の関係
ア 40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年3月21日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① まず、税務上の取り扱いについての御質問がございました。
    これは、当時、給費制下におきましては、裁判所法に基づきまして司法修習生に対して給与が支給されておりました。給与でございますので、これは給与所得として課税されていたものと承知しております。
    これに対しまして、修習給付金制度のもとでは、先ほど立法の理由についても御説明しましたが、修習給付金は給与として支給されるものではないわけでございまして、そういうことから、給与所得に該当せず、雑所得として区分されるものと認識してございます。
② 次に、社会保険の関係でございます。
    社会保険につきまして、旧給費制下におきましては、裁判所法に基づきまして、今申し上げましたとおり司法修習生に対して給与が支給されておりましたので、司法修習生は裁判所共済組合への加入が認められておりました。
    これに対しまして、修習給付金制度のもとでは、司法修習生は国家公務員ではございませんし、この修習給付金も給与として支給されるものではございませんので、現状、貸与制でございますが、この貸与制下の司法修習生と同様に、裁判所共済組合の組合員たる職員には該当せず、国民健康保険の被保険者に該当することになるものと認識しております。
    また、司法修習生は、修習期間中、その修習に専念することとされておりまして、修習給付金が労務の提供に対して支払われるものでなく、修習期間中の生活を維持するために必要な費用として定められる額を支給するものであることを踏まえますと、年金の関係でございますが、厚生年金保険の被保険者には該当せず、国民年金の第一号被保険者に該当することになるものと認識しております。
イ 修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について,必要経費として控除することができる費用が存在しないという趣旨の国会答弁はない(国会会議録検索システムにおいて「修習給付金 必要経費」で検索すれば分かります。)のであって,最高裁判所が文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもないまま,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について必要経費として控除することができる費用は存在しないと判断しました平成30年度(最情)答申第77号(平成31年3月15日付)参照)。
ウ 国税不服審判所令和3年3月24日裁決は,司法修習生の基本給付金及び修習専念資金の利息相当額は必要経費のない雑所得であると判断しました。
5 貸与制導入時からの状況の変化が考慮されているこ
・ 「修習給付金(仮称)について」「には「貸与制導入時からの状況の変化」として以下の記載があります。
    平成16年裁判所法改正時の貸与制導入時には,その立法理由として,司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)において, 「平成22年ころには司法試験の合格者数を3,000人程度とすることを目指す」 とされたことを前提に,①新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に実効的に対応できる制度とする必要があること,②新たな法曹養成制度の整備や日本司法支援センター(法テラス)の創設,裁判員制度の導入等,新たな財政負担を伴う司法制度改革の諸施策を進める上で,限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度全体に関して国民の理解が得られる合理的な国民負担(財政負担)を図る必要があること,③公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは現行法上異例の制度であること等を考慮すれば,給費制の維持について国民の理解を得るのは困難であることが挙げられていた。
    しかしながら,①の点については,司法試験の年間合格者数3,000人目標は現実性を欠くものとして「法曹養成制度改革の推進について』 (平成25年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)において事実上撤回されており平成27年度の司法修習生数は1,787人と,給費制下の平成22年度(2,124人)よりも少なくなっている。
    また,②の点についても,司法制度改革関連予算については,貸与制創設当初には想定されていなかった上記3,000人目標の撤回や法科大学院の統廃合等(平成17年度のピーク時には74校あったが,平成28年5月現在, 32校が学生の募集を停止しており,学生の募集をしているのは42校のみ)を背景に平成22年度(567億円)をピークに減少傾向にあり,平成28年度予算では約450億円程度にまで減少している。
    このように,貸与制創設当初は想定されていなかった様々な事情を背景として,現時点では,貸与制導入時から大きな事情の変化が認められる。
    なお,③の点についても,導入予定の制度は,貸与制を前提とするものであり,給与を支給する給費制を復活させるものではなく,制度の連続性・整合性は維持されており,必ずしも妥当しない。
6 掲載資料
(1) 平成29年6月26日付の内閣法制局長官の行政文書開示決定通知書によって開示された資料として,平成29年の裁判所法改正法の法律案審議録(内閣法制局保有分)を掲載しています。
(2) 平成29年7月14日付の法務大臣の行政文書開示決定通知書によって開示された資料として,平成29年の裁判所法改正法の法律案審議録(法務省保有分)を掲載しています(例えば,裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】(平成29年1月の法務省大臣官房司法法制部の文書)が含まれています。)。
(3) 平成29年11月16日付の司法行政文書開示通知書によって開示された資料を以下のとおり掲載しています。
① 裁判所法の一部を改正する法律案関係資料(平成29年・第193回国会提出)
→ 作成名義人は法務省になっています。
② 想定問答
→ 裁判所は,国会に対する法案提出権を有していないため,国会における法案審議等において,想定問答等を裁判所が作成することは想定されていません(平成28年度(最情)答申第28号(平成28年10月11日付))から,法務省が作成したものを最高裁判所が取得したのかもしれません。



法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料からの抜粋


法務省作成の,平成29年4月18日の参議院法務委員会の国会答弁資料からの抜粋です。

71期司法修習生向けの修習給付金案内
からの抜粋です。


第8 谷間世代となった新65期ないし70期司法修習生に対する対応
1 谷間世代の存在
    現行65期までの司法修習生については,その修習期間中,国庫から一定額の給与を支給されていましたし,71期以降の司法修習生については,その修習期間中,修習給付金を支給されるようになりました。
    しかし,新65期ないし70期の司法修習生については,その修習期間中に上記の給与又は修習給付金のいずれの支給も受けられませんでしたから,谷間世代又は無給修習世代といいます。
2 最高裁判所の対応
(1) 平成29年11月14日付の不開示通知書によれば,司法修習資金貸与制の対象となった新65期ないし70期に対して,どのような救済措置を講ずべきかについて最高裁が検討した際に作成した文書は存在しません。
(2) 令和2年12月18日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
    本件決議(山中注:安心して修習に専念するための環境整備を更に進め,いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議(平成30年5月25日の日弁連定期総会の決議))は, 日本弁護士連合会から最高裁判所に対して参考として送付されたものであり,また,その内容も最高裁判所に対して何らかの応答を求めるものではないことから, 同決議に関し,最高裁判所としての検討内容を記載した文書は作成していない。
(3) 最高裁判所としては,谷間世代の救済など一切検討していないと思います。
3 法務省の対応
(1) 42期の金子修法務省大臣官房司法法制部長は,令和2年4月2日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(質問者は67期の安江伸夫参議院議員(公明党)でした。)。
    従前の貸与制下で司法修習を終えたいわゆる谷間世代の司法修習生に対する救済措置につきましては、既に修習を終えている者に対して国の財政負担を伴う事後的な救済措置を実施することにつき、国民的理解を得ることは困難ではないかという問題があるように思われます。また、仮に何らかの救済措置を実施するとしても、従前の貸与制下において貸与を受けていなかった者等の取扱いをどうするかといった制度設計上の困難な問題もあるように思います。
    他方、従前の貸与制下の司法修習生が経済的な事情により法曹としての活動に支障を来すことがないようにするための措置として、貸与金の返還期限の猶予も制度上認められているところでございます。すなわち、災害、傷病その他やむを得ない事由により返還が困難となった場合、返還が経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由がある場合には、貸与を受けた者は最高裁判所に対して個別に貸与金の返還期限の猶予を申請することが可能となっており、このような個別の申請に対しては最高裁判所において適切に判断されるものと承知しております。
    以上のとおり、従前の貸与制の下で司法修習を終えた司法修習生に対して立法措置による抜本的な救済策を講ずることは困難であり、救済策を講じることは考えていないというところでございます。
(2) 法務省は一貫して,谷間世代に対して救済策を講じることは考えていないという趣旨の答弁をしています。
4 日弁連の対応
(1) 日弁連は,谷間世代の経済的負担や不平等感を軽減し,日弁連が統一性のある組織を形成していることを確認等することを目的として,谷間世代のうち一定の要件を満たす会員に対し,一律20万円を給付する制度を平成31年4月1日から実施しています(2019年5月1日付の日弁連新聞第544号参照)。
(2) 日弁連による一律20万円の給付金は一時所得となっています(国税庁HPの「司法修習生の修習期間中に給与等の支給を受けられなかった者に対して支払われる給付金の課税関係について」)。
5 名古屋高裁令和元年5月30日判決の付言
    司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求控訴事件に関する名古屋高裁令和元年5月30日判決(裁判長は38期の戸田久裁判官)の付言には以下の記載があります。
    当裁判所としても,従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については,決して軽視されてはならないものであって,控訴人らを含めた新65期司法修習生及び66期から70期までの司法修習生(いわゆる「谷間世代」)の多くが,貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い,貸与金の返済も余儀なくされている(なお,例えば,N本人の供述によれば,貸与の申込みをしなかった者が必ずしも経済的に恵まれていたわけではなかったことが認められる。)などの実情にあり,他の世代の司法修習生に比し,不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。法解釈としては,給費制及び給費を受ける権利が憲法上保障されているということはできないとしても,例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは,立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられるが,そのためには,相当の財政的負担が必要となり,これに対する国民的理解も得なければならないところであるから,その判断は立法府に委ねざるを得ない。


法務省作成の,平成29年3月21日の衆議院法務委員会の国会答弁資料からの抜粋です。

第9 法務省としては,従前の給費制に戻すことは考えていないこと
    令和元年6月18日の参議院文教科学委員会では現実の質疑応答はなかったものの,同委員会のために法務省が用意した以下の国会答弁資料によれば,法務省としては,修習給付金制度を継続的かつ安定的に運用していくことが重要と考えており,従前の給費制に戻すことは考えていないとのことです。


第10 令和元年制定の大学等修学支援法に関する内閣法制局審査資料等
1 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年5月20日法律第47号)に関する資料
・ 法律の略称は求職者支援法です。
・ 内閣法制局の審査資料(平成22年9月から平成23年1月):1/42/43/44/4
→ 最終段階の資料として,職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律案 御説明資料(平成23年1月の厚生労働省の内閣法制局審査資料)がありますところ,「租税その他の公課は、職業訓練受講給付金として支給を受けた金銭を標準として課することができない。」と定める求職者支援法10条については,「職業訓練受講給付金は、求職者が訓練を受講することを容易にするための給付であるところ、これに公課を課し減額することは、本給付の趣旨に照らし矛盾することとなることから、本給付に公課は課さないこととする。」という記載があるだけです(同資料末尾23頁)。
2 平成28年の所得税法改正に関する資料(学資金関係に限る。)
(1) 平成28年の所得税法改正の一環として「地域における医師確保の取組を更に推進するため、地方公共団体が医学生等に貸与した修学等資金に係る債務免除益について、非課税とする措置を創設する。」ことに関する財務省及び総務省に対する説明資料には以下の資料が含まれています。
① ヒアリング資料(平成27年9月11日付)
・ 学生等修学等資金貸与事業を実施している市町村は154であり(うち,課税対象となる可能性があるのは91市町村),平均貸与金額(大学6年間)は1408万円であり,活用実績として平成24年度は129人,平成25年度は125人,平成26年度は146人などと書いてあります。
② 宿題返し資料(平成27年10月8日付10月16日付及び11月19日付
・ 10月16日付の資料15頁には,「医師の修学等資金も、看護師と同様に課税しない取扱いとすることが適当と考える。」と書いてあります。
・ 11月19日付の資料1頁には,「名古屋国税局の考え方に基づき,私立大学の平均額(山中注:平均的な私立大学の授業料×6年間+入学金+月10万円×6年間で計算した結果としての2385万円)で計算した場合,全ての事業(山中注:医学生等を対象とした,91市町村の修学等資金貸与事業)が,修学する上で必要と認められた範囲内に収まる。」と書いてあります。
(2) 河合塾 医進塾HPの「給費生・特待生・奨学生入試を実施する私立大学一覧2022」によれば,例えば,杏林大学に入学する学生が東京都地域医療医師奨学金(特別貸与奨学金)制度を利用できた場合,「学生納付金(6年間合計3,700万円)、生活費(月額10万円(6年間))の貸与」(合計で4420万円)を受けられるみたいです。

財務省及び総務省に対する説明資料からの抜粋です。
   
 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(平成29年3月31日法律第5号)に関する資料
・ 給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)
・ 内閣法制局の審査資料(平成29年):1月11日1月12日1月13日1月16日
→ 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)が含まれています。
・ 各省協議の資料(法務省)
・ 国会答弁資料(平成29年):3月15日3月17日3月22日3月30日
・ 文部科学省と国税庁の協議資料(平成28年及び平成30年)
 大学等における修学の支援に関する法律(令和元年5月17日法律第8号)に関する資料

・ 法律の略称は大学等修学支援法です。
・ 内閣法制局の審査資料(平成31年):1月17日1月23日1月28日1月29日
→ 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)が含まれています。
・ 各省協議の資料(内閣府,総務省及び財務省)
・ 国会答弁資料(平成31年):4月3日4月10日4月19日4月23日
・ 施行令に関する内閣法制局に対する説明資料
→ 大学等修学支援法施行令案に関する内閣法制局御説明資料(令和元年5月24日の文書)が含まれていますところ,47頁には「学資支給金の額は,(中略)学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるような額を設定することとする。」と書いてあります。
・ 施行令に関する財務省及び国税庁に対する説明資料
→ 概要要綱案文・理由新旧対照表及び参照条文からなります。

第2部 基本給付金は,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であるという個人的主張

第1 基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されること
1 規定の趣旨目的を考慮することは許容されること
    租税法規に関する最高裁判例は,規定の文理を忠実に解釈したもの(最高裁平成22年3月2日判決及び最高裁平成23年2月18日判決(武富士事件)など),規定の趣旨目的を踏まえて解釈したもの(最高裁成18年6月19日判決(ガイアックス事件),及び最高裁平成24年1月13日判決(養老保険契約保険料控除事件)など)の双方があり,その原則的な立場を明らかにしていません。
    しかし,租税法律主義の趣旨に照らし,文理解釈を基礎とし,規定の文言や当該法令を含む関係法令全体の用語の意味内容を重視しつつ,事案に応じて,その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で,規定の趣旨目的を考慮することは許容されるといえます。
2 基本給付金が所得税法9条1項15号の学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえないこと
(1)ア 「学資」という文言を含む登録商標40例のうち,39例は「第36類」(金融,保険及び不動産の取引)であり,残り1例は「第16類」(紙,紙製品及び事務用品)です。
    これに対して「学費」という文言を含む登録商標5例のうち,2例だけが「第36類」であり,残り3例は「第35類」(広告,事業の管理又は運営,事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供),「第41類」(教育,訓練,娯楽,スポーツ及び文化活動)又は「第42類」(科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発)です。
    つまり,「学資」という文言を含む登録商標と「学費」という文言を含む登録商標とでは,商標法施行令2条及び別表が定める「商品及び役務の区分」が全く異なっています。
(2)ア 「学資」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて学資保険に関するものであるのに対し,「学費」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて教育資金に関するものであって,両者の間に共通する検索結果は全く存在しません。
イ グーグル検索において1頁に表示する件数を50件に増やした上で(ナポリタン寿司のPC日記ブログ「【Google検索】1ページに表示する件数を増やす方法」参照),「”学資”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上が学資保険に関するものであり,残りは学資ローン(生活費等にも使えるローン)です。
    これに対して,「”学費”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上は入学金,授業料その他の学納金に関するものであって,両者の間に共通する検索結果は全く存在しません。
ウ 「学資」という文言を含む登録商標の指定商品又は指定役務はいわゆる学資保険にほぼ限られています。
エ それゆえ,「学資」と「学費」とでは,現実の使用場面が全く異なるといえます。
(3) 使い道の制限がない学資保険の満期保険金に対しては所得税又は贈与税が課税されることからも分かるとおり,学資保険の場合,非課税所得としての学資金とは全く異なる意味で「学資」という文言を使用しています(マネードクターナビ「学資保険が贈与税の対象に?知っておきたい保険と税金」参照)。
(4) 予算決算及び会計令57条7号は「外国で研究又は調査に従事する者に支給する学資金その他の給与」という文言を使用しています。
    そのため,法令用語としての学資金は,生活費にも使用されることが明らかな給与に含まれる場合があるといえます。
(5) そのため,「学資」という文言の通常の意味内容がいわゆる「学費」(入学金,授業料その他の学納金)に限られていないことは明らかですから,基本給付金(裁判所法67条の2参照)が所得税法9条1項15号の学資金(非課税所得)に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえません。
3 小括
   したがって,学資金という文言や関係法令としての大学等修学支援法の「給付型奨学金」という用語の意味内容を重視しつつ,基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されるといえます。
   
第2 両者の給付の目的が類似していること
    日本学生支援機構の給付型奨学金(大学等修学支援法4条及び独立行政法人日本学生支援機構法17条の2)の導入目的は,修学に係る経済的負担を軽減することにより我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することであり(大学等修学支援法1条),基本給付金を含む修習給付金の導入目的は,司法修習に係る経済的負担を軽減することにより法曹人材確保の充実・強化を図ることです(「司法修習生に対する経済的支援について」(平成28年12月19日付)参照)。
    そのため,経済的負担の軽減により一定の政策目的を実現するという点で,両者の給付の目的は類似しています。
   
第3 両者の給付の趣旨が類似していること
1 給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容
(1) 経済財政運営と改革の基本方針2018(平成30年6月15日閣議決定。略称は「骨太の方針2018」です。)11頁に以下の記載があります。
    給付型奨学金については、住民税非課税世帯の子供たちを対象に、学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるよう措置を講じることとする。対象経費は、他の学生との公平性の観点を踏まえ、社会通念上妥当なものとすることとし、具体的には、日本学生支援機構「平成24年度、26年度、28年度学生生活調査」の経費区分に従い、修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)を計上、娯楽・嗜好費を除く。あわせて、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校(以下「大学等」という。)の受験料を計上する。
(2) 以上のような骨太の方針2018の記載からすれば,給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容は,①修学費、②課外活動費、③通学費、④食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。)、⑤住居・光熱費(自宅外生に限る。)、⑥保健衛生費、⑦通信費を含むその他日常費、⑧授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び⑨大学等の受験料であることとなります。
2 基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似していること
(1) 基本給付金が賄うことを想定している生活費は生活実費及び学資金(狭義のもの)であります(「修習給付金及び修習専念資金の金額について」参照)。
(2) 生活実費の中身は,(a)食費,(b)交通費,(c)情報通信費,(d)水道光熱費,(e)就職活動費及び(f)諸雑費(医療費,衣服費等)でありますところ,(a)は④に類似し,(b)は③に類似し,(c)は⑦に対応し,(d)は⑤に含まれ,(e)は⑨に準じていますし,(f)は⑥及び⑦に類似しています。
    また,学資金(狭義のもの)の中身は,①修学費(教科書・参考図書等のために支出した経費)に類似しています。
ウ そのため,基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似しているといえます。
3 小括
    したがって,基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,給付型奨学金が賄うことを想定している生活費の内容と類似しているのであって,両者の給付の趣旨は類似しているといえます。


第4 基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであること
1 基本給付金の金額の設定根拠は給付型奨学金と同じであること
    月額13万5000円という基本給付金の額は,平成26年11月採用の68期司法修習生の修習期間中の生活実費及び学資金が月額おおむね13.5万円程度であったという実態調査(平成27年7月15日から同年9月4日にかけて日弁連が実施したもの)を元に,司法修習生の支出の水準を総合的に勘案し,司法修習生が司法修習に専念するために必要な生活費を賄えるように設定されたものです(「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾1頁ないし4頁参照)。
    ところで,文部科学省は,内閣法制局に対し,同月下旬の説明資料において,学資支給金(給付型奨学金と同じ意味です。)の額は,日本学生支援機構の学生生活調査等をもとに学生の支出の水準を総合的に勘案し,学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるような額に設定すると説明しています(
令和元年6月28日政令第50号により独立行政法人日本学生支援機構法施行令を改正した際の,内閣法制局に対する説明資料末尾47頁)。
    そのため,基本給付金の金額の設定根拠は給付型奨学金と同じであるといえます。
2 学生との公平性の観点からは特に問題がないこと
(1) 医学生の場合,学部生としての義務を負っているにすぎないものの,非課税所得としての生活費が月額10万円まで認められています(給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)参照)。
    これに対して司法修習生の場合,高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努める義務を負っています(司法修習生に関する規則4条)し,国家公務員に準じた身分にあるものとして取り扱われる結果(裁判所HPの「司法修習生」参照),原則として兼業・兼職が禁止され(司法修習生に関する規則2条),修習専念義務(裁判所法67条2項)や守秘義務(司法修習生に関する規則3条)などを負うこととされています。
    そのため,両者の果たすべき義務の水準は大きく異なりますから,司法修習生の非課税所得としての生活費が医学生のそれよりもある程度高額になったとしても,社会通念上妥当であるといえます。
(2) 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業においてフェローシップ受給対象学生となった博士後期課程学生の場合,生活費相当額として年間180万円(月額15万円)以上の研究専念支援金を支給されます(学術の研究のためである点で学資金ではないことを理由に雑所得となることにつき,国税庁HPの「外国の研究機関等に派遣される日本人研究員に対して支給される奨学金」及び科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 公募に係るQ&A(令和3年12月の文部科学省科学技術・学術政策局の文書)末尾2頁参照)ところ,基本給付金はこれよりも金額規模が小さいです。
(3) したがって,医学生等よりも厳しい義務を負う司法修習生に対し,月額13万5000円の基本給付金を支給することは,学生との公平性の観点からは特に問題がないといえます。
3 他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないこと
(1) 司法修習生は,社会人としてのルール,マナーを守ることは当然であるものの,将来法曹として責任のある立場に立つ者として,国民からは,単にルール,マナーを守るにとどまらず,率先して規範を守り,その範を示すことを期待されています。
    また,国民は,司法修習生について優れた社会人たるべき者として高い期待を持っているだけに,良識を欠く言動やマナーに対しては厳しい批判の目を向けており,近年はその傾向が顕著であります(修習生活へのオリエンテーション(平成29年11月)3頁)。
    つまり,司法修習生は優れた社会人であること等が求められています。
(2) 司法研修所がある埼玉県の,平成29年10月1日改定の最低賃金である時給871円(平成29年9月1日付の埼玉労働局のプレスリリース参照)で1週間当たり40時間(法定労働時間であることにつき労働基準法32条1項)働いた場合,871円×40時間×30日/7日=14万9314円となりますから,月額13万5000円の基本給付金は埼玉県の最低賃金を下回る金額です。
    それにもかかわらず,司法修習生は,修習期間中,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務があるのであって,家庭教師又は司法試験の受験指導を行うことなどにより収入を得ることは,司法研修所長の許可がない限り禁止されています(修習生活へのオリエンテーション(平成29年11月)6頁参照)。
(3) 労働時間とは,使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たりますところ,例えば,参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や,使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間として取り扱われます(平成29年1月20日付の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。
    そして,司法修習は,司法修習生が自らの意思で参加しているとはいえ,法曹になるためには必須の臨床教育課程として参加する必要があるものです(裁判所法43条,検察庁法18条1項1号及び弁護士法4条参照)から,社会人としての司法修習生が司法修習を受けている時間は労働時間に準じるといえます。
(4)    したがって,社会人としての司法修習生に対し,月額13万5000円の基本給付金を支給することは,他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないといえます。
4 司法修習生の経済的負担は一段と増えたこと
    新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,73期集合修習,74期導入修習及び集合修習,並びに75期導入修習は,Microsoft Teamsを利用したオンライン形式で実施されたところ,パソコン等の情報通信機器及びインターネット環境は司法修習生が各自で準備する必要がありました(第74期司法修習の導入修習の実施方法について(令和3年1月14日付の司法研修所事務局の事務連絡)参照)から,司法修習生の経済的負担は一段と増えました。
    それにもかかわらず,73期以降の司法修習生について基本給付金の金額が増えることはありませんでした。
5 小括
    したがって,基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであるといえます。


第5 基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないこと
(1) 文部科学省の国税庁に対する説明内容

ア  給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)では,①「修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び受験料」を賄うことを予定している給付型奨学金は修学をするうえで追加的に必要となるものであり,所得税法上の「学資金」に該当するものであるとか,②検討中の給付型奨学金は最大でも月額10万円は超えない見込みである点で平成24年3月9日付の名古屋国税局の文書回答事例において決着済みの議論であるという趣旨の説明をすることで,給付型奨学金は学資金に当たるという国税庁回答が得られています。
    そのため,文部科学省は,国税庁に対し,骨太の方針2018を具体化するものである給付型奨学金は,「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」ではなく,「修学のために追加的に必要となる費用」を賄うものであるという趣旨の説明をしていたこととなります。
イ 文部科学省としては,拡充後の給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の説明をすることで,学資金であるという回答を国税庁から得ようとしたのかもしれません。
    そして,仮にこのような説明を前提とした場合,給付型奨学金は,学校等の教育機関において学術等の教育・指導を受けるために必要な費用(学費)に充てるための資金として他者から給付される金品については非課税とし,その全額を学費に充てることを可能にすることにより,学費に不足を来すことを防ぐことを目的としたものであって,支給対象者について学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するともいえます。

給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)の一部です。
   
(2) 文部科学省の内閣法制局に対する説明内容
ア 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)末尾1頁(PDF2頁)には「大学等において修学を行うためには、まずは、大学等の授業料等について支援を行うことが必須である。さらに、進学後の学生生活を送るのに必要な費用を賄えるよう学資を支給する必要がある。」と書いてありますし,末尾7頁(PDF8頁)には「本法律案は,真に支援が必要な低所得者世帯の学生等に対して,進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うための学資支給及び授業料等減免を行うものである」と書いてありますし,末尾12頁(PDF13頁)では「学資支給は進学後の学生生活を送るのに必要な費用を賄うものである」と書いてあります。
    そのため,文部科学省は,内閣法制局に対し,給付型奨学金は進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うために支給するものと説明していたこととなります。
イ 文部科学省は,内閣法制局に対し,平成29年1月当時,意欲と能力があるにもかかわらず,経済的事情により進学を断念せざるを得ない者の高等教育への進学を後押しするために創設する給付型奨学金は学資金として非課税所得であるという説明をしていました(独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁)。
    そのため,文部科学省としては,経済的事情により進学を断念せざるを得ない者の高等教育への進学を後押しするものであるという趣旨で「生活費を賄う」という文言は使用しつつも,「学生が学業に専念するため」という文言の使用は省略することで,
拡充後の給付型奨学金は従前と同様の理由により学資金であるという説明をしたのかもしれません。

独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁(学資給付金とあるのは,給付型奨学金のことです。)

(3) 文部科学省の国会に対する説明内容
ア 53期の柴山昌彦文部科学大臣は,大学等修学支援法案提出前となる平成30年11月13日の参議院文教科学委員会において以下の答弁をしています。
    高等教育については、二〇二〇年度から、大学、短期大学、高等専門学校及び専門学校の全ての意欲ある住民税非課税世帯の学生等について、授業料減免措置を講ずるとともに、支援を受けた学生等が学業に専念できるよう、学生生活を送るのに必要な生活費を賄うため給付型奨学金の支給額を大幅に増やします。また、住民税非課税世帯に準ずる世帯の子供たちについても必要な支援を行います。
イ 53期の柴山昌彦文部科学大臣は,大学等修学支援法案提出後となる平成31年3月22日の衆議院文部科学委員会において以下の答弁をしています。
    確かに、真に支援が必要な低所得者世帯の学生に対してということではありますけれども、確実に授業料等が減免されるよう、大学等を通じた支援を行うこととしております。
    また、学生生活の費用をカバーするのに十分な給付型奨学金の支給とセットで支援を行うということによって、安心して学業に専念し修学できるようにしているものであります。
    それ以外の方々に対しては、貸与型の奨学金の利活用を順次利用しやすくする、また返済の負担も軽減をさせていただいているところでありまして、現場の声にこれからもしっかりと耳を傾けてまいりたいと思います。
ウ 萩生田光一文部科学大臣は,大学等修学支援法成立後となる令和元年10月30日の衆議院文部科学委員会において以下の答弁をしています。
    給付型奨学金の額は、独立行政法人日本学生支援機構の学生生活調査などをもとに学生の支出の水準を総合的に勘案し、学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるように設定しているものです。この給付型奨学金は、定額を措置し、使途を限定しないものであり、内訳を示すことにより使途が限定されるような誤解を与えることから、費目ごとの計上額ではなく、実際の支給額のみを示しており、内訳は示さないこととしております。
    このことを前提に、あえて受験料について申し上げれば、受験料として四年間で合計十三万七千円を換算しておりまして、また、英語資格検定試験の検定料は一万五千円で計算をしております。
エ 給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」であるという趣旨の文部科学省の国会答弁は存在しません(国会会議録検索システムにおいて「修学のために追加」及び「修学をする」でそれぞれ検索すれば分かります。)。
オ そのため,文部科学省は,国会に対し,給付型奨学金というのは,使途の限定なく,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うものであるという趣旨の説明をしていたこととなります。
    そして,このような説明は,「高等教育の無償化の実施に伴う授業料・入学金の減免措置及び給付型奨学金に係る非課税等の所要の措置」(平成30年8月の文部科学省の文書)と完全に合致することからすれば,給付型奨学金に関する文部科学省の本来の説明であると思います。

給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)の一部です。

令和元年10月30日の衆議院文部科学委員会の国会答弁資料の一部です。

(4) 給付型奨学金の位置づけは「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」であるという趣旨の行政府の有権的解釈を国税庁が争うことは許されないこと
ア 文部科学省は,「修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び受験料」を賄う給付型奨学金の位置づけとして,①国税庁に対しては,「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の説明をしていて,②内閣法制局に対しては,「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」という趣旨の説明をしていて,③国会に対しては,「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の説明をしていたわけですから,三者に対する説明の内容がなぜか異なります。
    そして,以下の事情からすれば,給付型奨学金の位置づけは「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」であるという趣旨の,国会に対して行った説明が行政府の有権的解釈であるといえます。
① 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成29年3月22日の衆議院文部科学委員会の付帯決議)において「七 給付を廃止し、又は返還をさせる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、学生ができるだけ安心して学業に専念できるよう、慎重な運用を行うこと。」と記載され,独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成29年3月30日の参議院文教科学委員会の付帯決議)において「六、給付を廃止し、又は返還をさせる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、学生が安心して学業に専念できるよう、慎重な運用を行うこと。」と記載されていることからすれば,給付型奨学金は,平成29年度の導入当初から,学生が学業に専念できるようにするための給付であったといえること。
② 閣議決定としての骨太の方針2018において,給付型奨学金に関して「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるよう措置を講じることとする」という文言が使用されていたし,参議院議員藤末健三君提出大学などの高等教育無償化に関する質問に対する答弁書(平成30年7月24日付)でもそのことが確認されていたこと。
③ 安倍晋三内閣総理大臣は,平成31年2月12日の衆議院予算委員会において,「来年度からは、真に必要な子供たちに対する高等教育の無償化を行います。と同時に、既に始めていることでありますが、いわば返金不要の奨学金を拡充をしてまいります。それのみならず、授業料を減免して、なおかつ、生活費にも充てることができるような形で、我々、奨学金を出していくということで、そういう学生の皆さんがアルバイトをしなくて学業に専念できるような環境をつくるために、しっかりと取り組んでいるわけでありますし、更にそれを進めていきたい、こう考えております。」と答弁していること。
④ 大学等における修学の支援に関する法律案に対する附帯決議(令和元年5月9日の参議院文教科学委員会の付帯決議)において「六、学生等ができる限り安心して学業に専念できるよう、支援を打ち切る場合や学資支給金を返還させる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、慎重な運用を行うこと。」と定められていたことから,給付型奨学金は,平成31年度の拡充後も,学生が学業に専念できるようにするための給付であったといえること。
⑤ 内閣法制局設置法3条に基づき,内閣法制局は,行政府による行政権の行使について,憲法を始めとする法令の解釈の一貫性や論理的整合性を保つとともに,法律による行政を確保する観点から,内閣等に対し意見を述べるなどしてきた国家機関である(参議院議員小西洋之君提出内閣法制局長官と法の支配に関する質問に対する答弁書(平成26年11月28日付))から,国税庁に対する説明よりも内閣法制局に対する説明を優先すべきであること。
⑥ 憲法63条において,内閣総理大臣その他の国務大臣は,議院で答弁又は説明のため出席を求められたときは出席しなければならないとされており,これは,国会において誠実に答弁する責任を負っていることを前提としていると解される(衆議院議員平野博文君提出閣僚等の答弁・説明義務及び「あたご」事故の調査等に関する質問に対する答弁書(平成20年4月4日付))から,国会においてその内容を当然に知ることまでは予定されていない行政機関内部に対する説明よりも,国会に対する説明を優先すべきであるのは当然であること。
⑦ 給付型奨学金に関して,使途の制限を定めた法令の定めは存在しないこと。
イ 国税庁の通達が法規の解釈を法的に拘束するわけではありません(最高裁平成24年1月13日判決の裁判官須藤正彦の補足意見参照)。
    また,行政府としての法令の解釈につき,最終的には,行政権の帰属主体である内閣がその責任において行うものであると解されます(参議院議員小西洋之君提出内閣の解釈変更と議院内閣制等との関係に関する質問に対する答弁書(平成27年10月6日付)参照)。
    そのため,骨太の方針2018を具体化するものである給付型奨学金の位置づけについて,前述した行政府の有権的解釈を国税庁が争うことは許されないといえます。
(5) 小括
    したがって,給付型奨学金は授業料等減免と一体のものとして実施されている(大学等修学支援法3条及び4条参照)とはいえ,「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」である点で学費負担を当然の前提としているとまではいえませんから,学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないといえます。    
2 学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあること
(1) 日本国政府は,社会権規約13条2項(c)が定める国際水準を漸進的に達成するための行動義務を負っていること
    社会権規約
2条1項は「この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。」と定めています。
    そして,日本国政府は,平成24年9月11日,「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」と定める社会権規約13条2項(c)等に付していた留保を撤回する旨を国際連合事務総長に通告しました(外務省HPの「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」参照)。
    そのため,日本国政府は,同条項が定める国際水準を漸進的に達成するための行動義務を負っていることとなります。
(2) 学費負担を高等教育の不可欠の条件としないことが,社会権規約13条2項(c)に基づいて達成すべき国際水準であること
    諸外国における大学の授業料と奨学金(国立国会図書館の調査と情報869号(2015年7月9日付))によれば,「日本以外の OECD 加盟国には、授業料が有償で高額、かつ給付制奨学金がない国は見られないが、各国における制度の在り方は多様である。」とのことですし(リンク先のPDF1頁)し,OECD諸国のうち,エストニア,オーストリア,ギリシャ,スウェーデン,スロバキア,スロベニア,チェコ,デンマーク,ドイツ,トルコ,ノルウェー,フィンランド及びポーランド(あいうえお順)については,国公立大学等の授業料は無償になっています(リンク先のPDF8頁ないし15頁)。
    また,国立国会図書館調査及び立法考査局が2013年2月に作成した「各国憲法集(5)ギリシャ憲法」に載ってある,ギリシャ憲法16条4項は「全てのギリシャ人は、国立の教育機関のあらゆる段階において無償で教育を受ける権利を有する。国は、優秀な成績を修め、又は援助若しくは特別の保護を必要とする学生に対して、その能力に応じて援助を行うものとする。」とまで規定しています(リンク先のPDF39頁)。
    そのため,学費負担を高等教育の不可欠の条件としないことが,社会権規約13条2項(c)に基づいて達成すべき国際水準であるといえます。
(3) したがって,学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあるといえます。


3 司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれること
(1) 司法修習は,実務修習を中核とする実務に即した高等教育を行う課程であること
    法科大学院は,将来の法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力(弁論の能力を含む。)並びに法律に関する実務の基礎的素養を涵養するよう適切に配慮しなければなりませんし(専門職大学院設置基準20条の2第2項),法科大学院の授業科目のうちの法律実務基礎科目は,法曹としての技能及び責任その他の法律実務に関する基礎的な分野の科目です(専門職大学院設置基準20条の3第1項2号)から,法科大学院教育は職業訓練としての要素を有しているといえます。
    また,職業訓練は学校教育との重複を避ける必要がある(職業能力開発促進法3条の2第2項)のに対し,司法修習は法科大学院教育との有機的連携の下に行われるものであって(法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律2条3号),法科大学院教育との重複を避ける必要があるとはされていません。
    さらに,勤労学生控除における勤労学生には「職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程を履修させるもの」の学生が含まれる(国税庁HPの「タックスアンサーNo.1175 勤労学生控除」参照)ことからすれば,司法修習が職業訓練としての要素を強く有するというだけの理由により高等教育から外れることはないといえます。
    そのため,法科大学院教育と司法修習の役割分担について,法科大学院教育は,法理論教育及び実務への導入教育を行うものであるのに対し,司法修習は,法科大学院における教育を前提とし,これと連携を図りながら,実務修習を中核とする実務に即した高等教育を行う課程であるといえます(法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)21頁参照)。
(2) 司法修習生の身分は学生に類似するところがあること
    司法修習生に品位を辱める行状,修習の態度の著しい不良その他これらに準ずる事由がある場合,罷免又は修習の停止を受けることとなります(裁判所法68条2項,及び司法修習生に関する規則17条2項)。
    そして,法務省大臣官房司法法制部は,司法修習生の「罷免」は「退学」に対応し,「修習の停止」(司法修習生の身分は保有するが,一定期間修習をさせない処分)は「停学」に対応すると説明している(裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】(平成29年1月の法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾10頁及び11頁)ことからしても,司法修習生の身分は学生に類似するところがあるといえます。
(3) そのため,司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれるといえます。
4 小括
    したがって,司法修習生には学費に充てるための資金を確保する必要性がないこと,つまり,基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないといえます。
   
第6 基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないこと
(1)ア 平成29年創設時の給付型奨学金に関しては,内閣法制局説明資料において,「学資支給金は、所得税法上、非課税の対象とされている「学資に充てるために給付される金品」(所得税法第9条第1項第15号)に該当する」というだけの理由により非課税所得扱いとする許容性があると説明されています(独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁)ところ,所得制限があるから非課税所得扱いとする許容性があるなどとは説明されていません。
イ 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)では,平成31年改正後の給付型奨学金が学資金として非課税所得扱いであることに関する説明すらありません。
(2) 所得税法9条1項15号前段が学資金を非課税所得としているのは,あくまでも学術奨励という公益目的のためであって,所得税法9条1項15号後段と異なり受給者の経済状態への配慮を目的としたものではありません。
実際,平成30年11月16日付の文部科学省の文書では,給付型奨学金を非課税とすることについて検討した際,支給を受ける学生等の経済状態への言及は一切ありません。
    また,平成24年3月9日付の名古屋国税局の文書回答事例では,「県から奨学金の貸与を受けた医学生が医師免許取得後県内の医療機関に一定期間従事することによりその返還及び利息の支払に係る債務を免除された場合の課税関係」について検討した際,貸与を受ける医学生の経済状態への言及は一切ありません。
(3) そのため,受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないといえます。
2 基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があること
    すべての司法修習生は,裁判所法上,修習専念義務を負い,兼業が原則として禁止されており,その経済的事情にかかわらず,生活の基盤を確保して修習専念義務を担保し,修習の実効性を確保すべき点に違いはないことにかんがみ,基本給付金については,すべての司法修習生に支給されることとなりました(想定問答(リンク先の5頁)参照)。
    そして,弁護士法が弁護士資格を,原則として司法修習生の修習を終えた者に限ったのは,弁護士の職務内容が国の裁判制度と不可分の関係にあり,その公職的性格が顕著であることによるものです(最高裁昭和43年11月15日判決)から,司法修習の実効性を確保すべき必要性は極めて大きいといえます。
    そのため,基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があるといえます。
3 基本給付金には課税所得となるべき担税力がないこと
    所得税法は,23条ないし35条において,所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し,それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ,これらの計算方法は,個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解されます(最高裁平成24年1月13日判決)から,担税力のないものが課税所得となることはないといえます。
    そして,基本給付金は,68期司法修習生の修習期間中の生活実費及び学資金が月額おおむね13.5万円程度であったという実態調査に基づいて月額13万5000円と定められたのであって,租税公課の支払を考慮した金額にはなっていません(「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾1頁ないし4頁参照)。
    また,司法修習生は原則として兼業を禁止されている(司法修習生に関する規則2条)関係で,住居費を除く生活費に充てることができる所得は基本給付金だけです。
    そのため,基本給付金には課税所得となるべき担税力がないといえます。
4 基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっていること
(1) 司法試験の受験者数につき,ピーク時の平成15年度は4万5372人であったにもかかわらず,修習給付金制度が創設された平成29年度は5967人であり,71期司法修習生であった人が確定申告をした後となる令和元年度は4466人であり,令和3年度は3424人です(資格Times「司法試験の受験者数はどれくらい?受験者・合格者の推移や今後の展望を徹底考察!」参照)。
    また,司法試験の出願者数につき,令和3年度は3754人であるのに対し,令和4年度は3367人であって(法務省HPの「令和4年司法試験の出願状況について(速報値)」参照),令和4年度の出願者数は昭和26年度の出願者数である3668人を下回ってしまいました(法務省HPの「旧司法試験第二次試験出願者数・合格者数等の推移」参照)。
    そのため,令和4年度司法試験においても受験者数の減少に歯止めがかかる見込みは全くありません。
(2) したがって,基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっています。
5 小括
 以上より,基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないといえます。



* 想定問答5頁目にある文書です。

第7 基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議をしなかった結果に過ぎないことからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないこと
1 文部科学省は学生の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,給付型奨学金の非課税化を実現したこと
(1) 文部科学省は,国税庁と協議する際,骨太の方針2018で言及されていた給付型奨学金の法的性格に関して,賄う予定の生活費に関する説明内容は維持しつつも,内閣法制局及び国会に対する説明と異なるニュアンスの説明をすることで,給付型奨学金は学資金に該当するという回答を国税庁から引き出しました。
    また,予算関連法律案の審議はしていない点で財務省及び国税庁の定期的なチェックが及んでいないと思われる平成30年11月13日の参議院文教科学委員会において,給付型奨学金の増額に関して「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という文部科学大臣の答弁を残した一方で,大学等修学支援法案の提出後は,給付型奨学金に関して「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の国会答弁は残しませんでした(国会会議録検索システムにおいて「修学のために追加」及び「修学をする」でそれぞれ検索すれば分かります。)。
    さらに,大学等修学支援法案に関する国会審議の内容については定期的にチェックしている可能性がある財務省及び国税庁から,給付型奨学金に関して法案提出前の説明と異なるというクレームが来ないようにするためかもしれませんが,大学等修学支援法案に関する国会審議において,給付型奨学金に関して「学業に専念」及び「必要な学生生活費を賄うための費用」という文言を文部科学省が同時に使用することはありませんでした(国会会議録検索システムにおいて「学業に専念」で検索すれば分かります。)。
    その結果,文部科学省は,大学等修学支援法が成立する前の段階で給付型奨学金は「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の国会答弁を残す一方で,財務省の同意を得た上での立法措置を取ることもなければ,給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」であるという国会答弁を残すこともないまま,給付型奨学金の非課税化を実現しました。
(2) 文部科学省は,甲南大学法科大学院のA種特待生の給付奨学金(月額15万円),及び京都産業大学法科大学院(令和2年9月30日廃止)がかつて行っていた自校出身の司法修習予定者に対する一律200万円の支援金の一括給付(「法科大学院を考える皆さんへ ご存知ですか?法科大学院生に対する様々な支援制度」24頁参照)いった法科大学院独自の給付型奨学金制度の説明を避けることで,これらの手厚い給付型奨学金が雑所得の課税対象として税務当局に把握されていない状態を維持することに成功しました(国税庁において令和2年度法科大学院関係状況調査における「11 修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置」も把握していないことにつき令和3年12月16日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
    また,給付型奨学金の金額は政令事項です(独立行政法人日本学生支援機構法17条の2第2項「学資支給金の額は、学校等の種別その他の事情を考慮して、政令で定めるところによる。」)から,文部科学省が将来,給付型奨学金の増額に関して独立行政法人日本学生支援機構法施行令の改正を発案するために財務省及び国税庁との協議を行う際,給付型奨学金は「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の国会答弁だけが存在することは大きな意味を持つといえます。
    そのため,文部科学省は,給付型奨学金の非課税化以外の点でも,学生の利益を守るという観点から税務当局との間で協議をしたといえます。
2 厚生労働省は医師の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,医師の修学等資金の債務免除益の非課税化を実現したこと
(1)ア 地域枠は,平成22年度より都道府県の地域医療再生計画に位置付けた医学部定員増であり,大学医学部が設置する「地域医療等に従事する明確な意思を持った学生の選抜枠」であって(医療法第三十条の二十三第二項第五号に規定する取組を定める省令2号参照),都道府県が設定する奨学金の受給が要件となっています。そして,平成22年度地域枠入学定員は313名であり,平成28年度以降,新たな医師として地域医療等に貢献することが期待されていました(平成27年10月16日付の厚生労働省の宿題返し2頁参照)。
    ところで,平成28年改正前の所得税法9条1項15号は「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)」と定めていたため,債務免除の要件として指定する卒業後の勤務先が修学等資金の貸与をした当該地方公共団体等が運営等を行う医療機関に限定されている場合,債務免除益が学資金に該当しないために給与所得として課税されることになっていました。
    そのため,厚生労働省としては,所得税法9条1項15号につき,平成28年度の税制改正において,債務免除の要件として指定する卒業後の勤務先が修学等資金の貸与をした当該地方公共団体等が運営等を行う医療機関に限定されている場合についても,債務免除益が学資金に該当するという内容に改正することを財務省に要望しました。
イ 厚生労働省は,平成28年度の税制改正に向けて財務省ヒアリングを受けた際,医学生等に事業として貸与した修学等資金の債務免除益に関して都道府県が行う事業において医師の修学等資金の貸与額が3000万円を超えるものが多数存在すること(河合塾 医進塾HP「給費生・特待生・奨学生入試を実施する私立大学一覧2022」参照)に一切言及することなく,市町村が行うすべての事業において医師の修学等資金の貸与額は2385万円(平均的な私立大学の授業料×6年間+入学金+月10万円×6年間で計算したもの)の範囲内に収まるという趣旨の説明をすることで(「平成27年11月19日付の厚生労働省の宿題返し資料」2頁参照),医師の修学等資金は看護師と同様に課税しない取扱いとすることに対する同意を財務省から引き出しました。
    その結果,厚生労働省は,平成28年の所得税法改正により,地方公共団体が医学生等に貸与した修学等資金に係る債務免除益の非課税化を実現しました。
(2) 医学部定員に占める地域枠等の数・割合は増加してきていますから,医学生等に対する修学資金の貸与総額も増え続けている(第37回医師需給分科会(令和3年3月4日開催)の資料「これまでの医師偏在対策について」参照)のであって,平成28年の所得税法改正による債務免除益の非課税化はますます重要なものになっていると思います。
    ところで,厚生労働省HPには,第35回医師需給分科会(令和2年8月31日開催)の資料として,「地域枠の従事要件と奨学金について」等が載っているものの,都道府県修学資金の貸与額の規模への言及はありませんし,医師需給分科会の他の開催日の資料でも都道府県修学資金の貸与額の規模への言及は確認できません。
    そのため,医学生等に対する修学資金の貸与額の規模に関して法案提出前の説明と異なるというクレームが来ないようにするためかもしれませんが,厚生労働省としては,都道府県修学資金の貸与額の規模については一切把握していないという立場を取っているようです。

厚生労働省の,平成27年10月16日付の宿題返しの資料の一部です。

3 最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったこと
(1) 「法曹志願者数の減少は,法曹の給源である法曹志願者や司法修習生の質の低下を招き,ひいては有為な法曹の減少につながりかねないものであるから,公共的・公益的使命を有する法曹の役割の重要性にかんがみ,経済的不安による法曹志望の阻害要因の除去を図る」ために,修習給付金制度が発案されました(「修習給付金(仮称)について」参照)。
    また,修習給付金制度は、司法修習生に給与を支給していたかつての給費制が復活したものではなく,貸与制度と併存する新たな給付金制度ですし(平成29年4月18日の参議院法務委員会の国会答弁資料参照),給与の名称として「給付金」という用語が用いられている事例もありません(「「修習給付金(仮称)」の名称について」参照)から,給費制に基づく給与が給与所得であったことは,修習給付金が学資金であることと何ら矛盾するものでありません。
 そのため,司法修習制度を運営している最高裁判所,及び司法修習制度を定める裁判所法を所管している法務省(法務省HPの「法務省所管の法律」参照)としては,経済的不安による法曹志望の阻害要因の除去を一層図るために,修習給付金が学資金に該当するという主張を税務当局との間で本格的に行うことで,司法修習生の利益を守るための協議を行うべきであったといえます。
(2) それにもかかわらず,最高裁判所は,文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもないまま,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について必要経費として控除することができる費用は存在しないと判断したり(平成30年度(最情)答申第77号(平成31年3月15日付)参照),修習給付金の支給に伴い必要となる所得税等に関する手続については住所地を管轄する税務署に問い合わせるなどしてくださいと司法修習予定者に伝えたり(71期司法修習生向けの修習給付金案内27頁等参照),修習給付金の税務上の取扱いについては最終的に税務当局が判断すべき事項であると考えたりしています(令和2年度(最情)答申第26号(令和2年10月27日付)参照)から,税務当局との間で一切協議はしていないと思います。
    また,法務省は,修習給付金の税務上の取扱いに関して,税務当局との間で文書を作成した上での協議まではしませんでした(平成29年8月29日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
(3) 結果として,最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったといえます。
4 小括
    したがって,基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,税務当局との間で所管する業界の利益を守るための協議を巧みな手段で行った文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議をしなかった結果に過ぎないからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないといえます。
第8 その他の主張
 修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないこと
(1) 71期司法修習生向けの修習給付金案内は,司法研修所事務局総務課・経理課が,文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもなく決定した,71期司法修習生に対して周知すべき内容を記載したものにすぎません。
    そして,移転給付金に関するものではあるが,司法修習生に対する給付の税務上の取扱いについては,最終的には税務当局が判断すべき事項であると最高裁判所事務総長は考えています。
    また,修習給付金が非課税所得又は雑所得に該当するかどうかに関する法務省と国税庁の協議文書が存在するわけでもありません。
    そのため,修習給付金案内の記載をもって,基本給付金の給付者である国の最終的な考えが示されたとはいえません。
(2) 修習給付金の支出者は最高裁判所であるし,最高裁判所における会計法13条1項の支出負担行為担当官は最高裁判所事務総局経理局長である(裁判所会計事務規程別表第二・二)ところ,修習給付金案内の作成者は司法研修所であって,最高裁判所事務総局経理局長ではありません。
    また,文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)の「司法行政文書の種類」によれば,法令の解釈を示す司法行政文書は「通達」です。
    そのため,修習給付金案内が法令の解釈を示す司法行政文書ということはできないと思います。
(3) 修習給付金案内は,司法修習生としての採用内定通知の約1週間後に,他の資料と一緒に司法研修所から一方的に普通郵便で送付される資料であって,司法修習予定者としては,税務上の取扱いに関する司法研修所の認識を通告されただけです。
    そして,修習給付金案内には,「司法研修所及び実務庁会においては,問合せに答えることはできません。」とか,「詳細は,税務署に問い合わせるなどして確認して下さい。」と記載されていることからすれば,司法修習予定者又は司法修習生が自分で税務署に問い合わせた場合,税務上の取扱いに関して修習給付金案内の記載とは異なる理解に至る可能性もあったといえます。
(4) したがって,修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないといえます。

2 基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないこと
    経済的理由により修学に困難があるものを対象とする日本学生支援機構の給付型奨学金は,「学術又は技芸の習得に専念する目的で使用される生活費」という意味での「学資」として支給される資金である(甲31の4)ことが日本学生支援機構法17条の2第1項に明記されているに過ぎません。
    そのため,基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないといえます。
3 基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が異なること
    法務省が考えるところの,修習給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が分かる文書は,衆議院法務委員会における国会答弁資料,及び「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱いについて」(甲5・6頁ないし9頁)だけである(甲46の1)。
    しかし,これらの資料には,修習給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由は記載されていない(甲46の2参照)。
    そのため,職業訓練受講給付金とはその趣旨や目的,対象等を異にすることを理由として,基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかったというわけでは全くない。
4 法科大学院奨学金との整合性を考慮すべきであること
(1) 甲南大学法科大学院のA種特待生の奨学給付金は月額15万円であるところ,司法修習生の学資金(学習費等に限ったもの)の平均額は約4万円であることからすれば,その想定使途の大部分は法科大学院の学習及び司法試験の受験勉強に専念するための生活費であるといえます。
    それにもかかわらず,当該奨学給付金は学資金に該当すると思います。
(2) 福岡大学法科大学院は,福岡大学法学部卒業後に福岡大学法科大学院に入学した成績優秀者に対し,福岡大学高田法曹育成基金奨学金から,原則3年間,月額12万円の給付奨学金を支給しています。
    そして,当該奨学金を受給して司法試験に合格した人が司法試験合格後に「忙しくアルバイトをする時間もなかった自分にとってこの奨学金は本当に助かりました」と福岡大学法科大学院関係者に話していたことからすれば,当該奨学金の想定使途の大部分は法科大学院の学習及び司法試験の受験勉強に専念するための生活費であるといえます。
    それにもかかわらず,当該奨学金は学資金に該当すると思われます。
(3)ア 平成27年9月当時,京都産業大学法科大学院は,同大学院を終了して司法試験に合格した後に司法修習生となる予定の人に対し,全員一律に200万円の支援金を一括給付していたところ,その想定使途の大部分は司法修習期間中の生活費であったと思われます。
    それにもかかわらず,当該支援金は一時所得(所得税基本通達34-1(5)の「法人からの贈与により取得する金品」)ではなく,学資金に該当していたと思われます。
イ 平成27年7月当時,龍谷大学法科大学院は,就学のために下宿等賃貸物件に居住せざるを得ない法科大学院生に対し,月額3万円を上限とする奨学金を給付していたところ,その想定使途は当然,生活費の一種としての家賃の支払のためであったと思われます。
    それにもかかわらず,当該奨学金は所得税法上の「学資金」に該当していたと思われます。
5 文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであること
    文化功労者に対して終身で支給する文化功労者年金(文化功労者年金法3条1項)の場合,文化功労者という地位に基づいて,個々の文化功労者の申請によることなく,また,その給付を受ける個々の文化功労者が実際に文化功労者年金を学問の修業のために必要としているか否かにかかわらず,一方的,かつ,一律に,定額(年額350万円)が給付されるものです。
    しかし,このような事情があるにもかかわらず,文化功労者年金は公益(文化の向上,学術の奨励政策)を目的として非課税所得とされている(所得税法9条1項13号)ことからすれば,同様の事情があることを理由として,修習給付金が公益(学術奨励)を目的として非課税所得とされている学資金に該当しないと解することはできません。
    そのため,このような文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであるといえます。

第9 結論
    よって,修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)の主張内容をも考慮すれば,基本給付金は,学費負担が予定されていない司法修習生に対して所得制限なく一律に支給されるという事情があるにしても,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であると思います。

第3部 その他

第1 給付型奨学金の位置づけが基本給付金の学資金該当性に与える影響
1 国税庁に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 形式的に学資金に該当しない可能性が出てくること
ア 文部科学省の国税庁に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,学生の修学のために「学費に」追加して必要となる費用を賄うものとなります。
    そして,基本給付金の場合,司法修習に関して「学費」に相当するものはありませんから,ただそれだけの理由により学資金に該当しない可能性が出てきます。
イ 国税庁HPの「問9-3 学生に対して大学等から助成金が支給された場合の取扱い〔令和2年5月15日追加〕」では,学生に対して大学等から生活費を賄うために支給された支援金は,一時所得の収入金額になると説明されています(ただし,文部科学省との協議を経ていないことにつき令和4年3月9日付の国税庁長官の行政文書不開示決定通知書参照)ところ,このような説明は,給付型奨学金は「修学のために追加として必要となる費用」を賄うものであるという位置づけと整合的です。
(2) 金額規模が妥当なものといいにくくなること
ア 学資金としての給付型奨学金は「修学のために追加として必要となる費用」を賄うであるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,名古屋国税局の文書回答事例(平成24年3月9日付)にあるとおり「下宿代や通学費用、食費、教科書や医学書の購入費用など」といったもの骨太の方針2018・11頁の表現でいえば,住居・光熱費(自宅外生に限る。),通学費,食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。),修学費)に限られるのであって,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料(以下「課外活動費等」といいます。)は除外されると解するのが自然であると思います。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものとはいいにくくなります。
イ 文部科学省と国税庁の協議では,給付型奨学金は最大でも月額10万円を超えないとされたため,この点に関して国税庁から問題提起されることはありませんでした(給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)参照)。
2 内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 学資金に該当する可能性が出てくること
    文部科学省の内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」となります。
    そのため,基本給付金が学資金に該当する可能性が出てくるものの,学業又は司法修習に専念するためのものという類似性が欠けるという点では,学資金に該当しにくくなります。
(2) 金額規模が妥当なものといいやすくなること
    学資金としての給付型奨学金は「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」であるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料まで賄うものといいやすくなります。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものといいやすくなります。
3 国会に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 学資金に該当しやすくなること
    学等修学支援法案提出前,又は大学等修学支援法成立後の文部科学省の国会に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,「使途の限定のない,学生が学業に専念するために必要な学生生活費を賄うもの」となります。
    そのため,司法修習生が司法修習に専念するために必要な生活費を賄う基本給付金は,給付型奨学金と同様の目的を有するわけですから,学資金に該当しやすくなります。
(2) 金額規模が妥当なものと一層いいやすくなること
    給付型奨学金は「使途の限定のない,学生が学業に専念するために必要な学生生活費を賄うもの」であるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,学業に専念したい学生がアルバイト等の収入を得る必要がないようにするため,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料まで賄うものと解するのが自然であると思います。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものと一層いいやすくなります。


第2 司法修習生に関する裁判所法の条文
・ 裁判所法の「第四編 裁判所の職員及び司法修習生」の「第三章 司法修習生」は以下のとおりです。
(採用)
第六十六条 司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
② 前項の試験に関する事項は、別に法律でこれを定める。
(修習・試験)
第六十七条 司法修習生は、少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは、司法修習生の修習を終える。
② 司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。
③ 前項に定めるもののほか、第一項の修習及び試験に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
(修習給付金の支給)
第六十七条の二 司法修習生には、その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、修習給付金を支給する。
② 修習給付金の種類は、基本給付金、住居給付金及び移転給付金とする。
③ 基本給付金の額は、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であつて、その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。
④ 住居給付金は、司法修習生が自ら居住するため住宅(貸間を含む。以下この項において同じ。)を借り受け、家賃(使用料を含む。以下この項において同じ。)を支払つている場合(配偶者が当該住宅を所有する場合その他の最高裁判所が定める場合を除く。)に支給することとし、その額は、家賃として通常必要な費用の範囲内において最高裁判所が定める額とする。
⑤ 移転給付金は、司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合にその移転について支給することとし、その額は、路程に応じて最高裁判所が定める額とする。
⑥ 前各項に定めるもののほか、修習給付金の支給に関し必要な事項は、最高裁判所がこれを定める。
(修習専念資金の貸与等)
第六十七条の三 最高裁判所は、司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習専念資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であつて、修習給付金の支給を受けてもなお必要なものをいう。以下この条において同じ。)を貸与するものとする。
② 修習専念資金の額及び返還の期限は、最高裁判所の定めるところによる。
③ 最高裁判所は、修習専念資金の貸与を受けた者が災害、傷病その他やむを得ない理由により修習専念資金を返還することが困難となつたとき、又は修習専念資金の貸与を受けた者について修習専念資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるときは、その返還の期限を猶予することができる。この場合においては、国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)第二十六条の規定は、適用しない。
④ 最高裁判所は、修習専念資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体の障害により修習専念資金を返還することができなくなつたときは、その修習専念資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
⑤ 前各項に定めるもののほか、修習専念資金の貸与及び返還に関し必要な事項は、最高裁判所がこれを定める。
(罷免等)
第六十八条 最高裁判所は、司法修習生に成績不良、心身の故障その他のその修習を継続することが困難である事由として最高裁判所の定める事由があると認めるときは、最高裁判所の定めるところにより、その司法修習生を罷免することができる。
② 最高裁判所は、司法修習生に品位を辱める行状その他の司法修習生たるに適しない非行に当たる事由として最高裁判所の定める事由があると認めるときは、最高裁判所の定めるところにより、その司法修習生を罷免し、その修習の停止を命じ、又は戒告することができる。

第3 関連記事その他
1 旧司法試験の場合,昭和31年度から短答式試験が導入されましたところ,昭和30年度につき出願者数は6347人・最終合格者数は264人(対出願者合格率は4.16%)であり,昭和31年度につき出願者数は6737人・最終合格者数は297人(対出願者合格率は4.41%)でした(法務省HPの「旧司法試験第二次試験出願者数・合格者数等の推移」参照)。
2 修習給付金制度の立案段階における法務省と国税庁の担当者協議では,修習給付金の金額規模等から学資金と直ちに解するには難しい面があるのではないかという指摘がありました(「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」参照)。
3(1)  大学院設置基準42条の3は,「大学院は、授業料、入学料その他の大学院が徴収する費用及び修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置に関する情報を整理し、これを学生及び入学を志望する者に対して明示するよう努めるものとする。」と定めています(運用の詳細につき,学校教育法施行規則及び大学院設置基準の一部を改正する省令の施行等について(令和元年9月26日付の文部科学省高等教育局長通知)参照)。
(2) 文部科学省HPに載ってある「修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置」(法科大学院生に関するもの)のうち,どの措置が雑所得として課税されているかが分かる文書は国税庁に存在しません(令和3年12月16日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
(3) 関西医科大学の藤森民子賞(一般選抜(前期)合格者のうち最優秀成績で入学した学生に対して500万円を贈呈するというもの)が学資金に該当するかどうかに関する文書は大阪国税局に存在しません(令和3年12月8日付の大阪国税局長の不開示決定通知書)。
4 経済産業省HPの「不安な個人,立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(平成29年5月 次官・若手プロジェクト)30頁には,「日本は,少子高齢化の影響を考慮したとしても高齢者向け支出に比べて現役世代向け支出が低い」と書いてあります。
5 日弁連HPに以下の資料が載っています。
・ 新第65期司法修習生に対する生活実態アンケート資料
・ 「司法修習生に対する経済的支援案提出のお願い」への回答(平成26年1月24日付)
6 外国人技能実習生の場合,日本への入国直後の講習期間中に講習手当が支払われますところ,講習手当は生活実費ということで所得税の対象外になっています(厚生労働省HPの「監理団体による監査のためのチェックリスト」参照)。
7 以下の記事も参照して下さい。
(社会保険及び税務に関する公式見解)
・ 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
・ 修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決
・ 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
・ 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
・ 司法修習生の旅費に関する文書
・ 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
・ 司法修習終了翌年の確定申告
(社会保険及び税務に関する公式見解に反対する見解)
・ 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
→ 修習給付金は学資金(所得税法9条1項15号)に該当するという見解です。
・ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
・ 修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等
・ 修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
(その他修習給付金関係)
・ 修習給付金制度が創設されるまでの経緯
・ 司法修習生の修習給付金の名称に関する説明
・ 司法修習生の修習給付金の導入理由等
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度等に関する規則案についての司法研修所事務局長の説明
・ 月額13万5000円の基本給付金の根拠
・ 月額3万5000円の住居給付金の根拠
・ 修習給付金と最低賃金等との比較
・ 生活保護受給者と,修習給付金及び修習専念資金との比較
・ 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
・ 谷間世代(無給修習世代)に対する救済策は予定していない旨の国会答弁
(その他)

・ 昭和22年の司法修習生の給費制導入
 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正
・ 司法修習生の給費制に関する,平成16年の裁判所法改正
 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正の経緯
→ 大分地裁平成29年9月29日判決の「平成16年改正に至るまでの経緯」からの抜粋でありますところ,判決文を見る限り,裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)といった法務省の法律案審議録は書証として提出されなかったみたいです。
 司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置
・ 平成23年11月採用の新65期からの,修習資金貸与制の導入
・ 修習資金の返還の猶予
→ 平成24年の裁判所法改正による,修習資金の変換猶予事由の拡大について説明しています。
・ 66期ないし70期司法修習開始時点における,修習資金の貸与申請状況
・ 修習資金貸与金の返還状況
・ 修習専念資金
・ 修習専念資金の貸与申請状況
・ 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
→ 法務省民事局長の国会答弁として,「司法修習生は、先ほどからもお話がありますように、公務員ではございませんで、裁判所法上、法曹に必要な能力を身につけるための修習を行うべき者と位置づけられております。このような司法修習生の法的地位は、平成十六年の裁判所法改正により給費制から貸与制に移行しても何ら変更されていないものと承知しております。」というものがあります。
・ 平成31年3月提出の,法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案の説明資料

修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等

目次
第1 修習給付金の税務上の取扱いについて争いたい場合の流れ
1 所得税関係
2 住民税及び国民健康保険料関係
第2 取消訴訟の管轄裁判所等
第3 修習給付金に関する司法研修所の公式見解が絶対ではないと思われること
第4 国税不服審判所及び税理士関係の資料
第5 関連記事その他

第1 修習給付金の税務上の取扱いについて争いたい場合の流れ
1 所得税関係
(1) 修習給付金が必要経費を伴う雑所得であることを前提として,平成31年3月15日(金)の法定申告期限までに確定申告をする(所得税法120条1項柱書)。
・ 所得税の納税地は,原則として,確定申告書を提出する際の自分の住所地です(所得税法15条1号)から,自分の住所地を所轄する税務署長(国税通則法21条1項)に確定申告書を提出する必要があります。
・ 確定申告書は,国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」で作成できます。
・ 修習給付金が非課税所得であることを前提として確定申告をした場合,更正の請求の理由(国税通則法23条1項各号)がないため,更正の請求ができません。
・ 確定申告書を税務署に郵送した場合,発送した日を提出日とみなしてもらえます(国税通則法22条)。
・ 確定申告書を提出する際,①マイナンバーの記載及び②本人確認書類の提示又は写しの添付が必要となります(国税庁HPの「確定申告が間違っていたとき」参照)。
・ 通知弁護士が確定申告の税務代理をする場合,(a)委任状(通知弁護士の場合,記載事項が異なるために税務代理権限証書を使いにくいですし,私の経験では,適宜の書式の委任状でも税務署に受理してもらえます。),(b)税理士業務開始通知受領書のコピー及び(c)納税者本人のマイナンバーの記載がある住民票(本人の記載だけでいいですし,本籍地の記載も不要です。)を添付すればいいのであって,納税者本人の運転免許証のコピーといった本人確認書類は不要です(国税庁HPの「本人確認に関するFAQ」のQ1-6参照)。
・ 国税庁HPに「国税局長に通知を行った弁護士」が載っています。
(2) 平成31年3月15日(金)の法定申告期限が過ぎた直後,税務署長に対し,修習給付金は学資金として非課税所得に該当するし,少なくともより多くの必要経費を伴う雑所得であることを前提に,所得税及び復興特別所得税について更正の請求をする。
・ 更正の請求書は,国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」の「新規に更正の請求書・修正申告書を作成する」(直接のリンクを張れませんが,リンク先の最下部にあります。)で作成できます。
   また,国税庁HPの「[手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続」には「取引の記録に基づき請求の理由の基礎となる事実を記載した書類を1部提出してください。」と書いてあるほか,「平成 年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求書・書き方【平成29年分以降用】(PDF/1,136KB)」等が載っています。
・ 松本寿一税理士事務所HP「所得税の更正の請求書 平成29年分」等の記載例が載っています。
・ 更正の請求自体は,法定申告期限から5年以内であれば可能です(国税通則法23条1項)。
   そのため,他の元司法修習生が提起した審査請求又は取消訴訟の結果を待った上で,更正の請求をすることもできます。
・ 法定申告期限内に更正の請求書を提出した場合,正しい計算に基づいて作成した新たな確定申告書を提出してくれと税務署にいわれるだけで終わるかもしれません(所得税基本通達120-4参照)。
   ただし,例年,国税庁HPの「確定申告書等作成コーナー」で更正の請求書を作成できるようになるのは法定申告期限が経過した直後です。
・ 更正の請求書を提出する際,①マイナンバーの記載及び②本人確認書類の提示又は写しの添付が必要となります(国税庁HPの「確定申告が間違っていたとき」参照)。
・ 国税通則法23条3項は「更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない。」と定めています。
・ 「更正の請求」の処理件数は,31万2000件(平成25年度),36万7000件(平成26年度),37万8000件(平成27年度),40万件(平成28年度),41万3000件(平成29年度)というように推移し,「更正の請求」の3ヶ月以内の処理件数割合は,平成29年度でいえば,98.1%です(財務省HPの平成29年度国税庁実績評価書「実績目標(小)1-1(税務行政の適正な執行)(PDF:466KB)」のPDF2頁(末尾20頁)参照)。
・ 更正の請求が認められた場合における還付加算金(平成31年分の利率は1.6%であることにつき国税庁HPの「延滞税の割合」参照)は,①更正の請求があつた日の翌日から起算して三月を経過する日と②当該更正があった日の翌日から起算して一月を経過する日とのいずれか早い日を起算日として発生します(国税通則法58条1項2号)。
(3) 「更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の通知書」(国税通則法23条4項)を税務署長が出した場合,税務署長に対する再調査の請求(国税通則法81条)で決定が覆ることはありえないと思われることにかんがみ,3か月以内に国税不服審判所長に対する審査請求をする(審査請求前置につき国税通則法115条1項)。

・ 国税不服審判所HP「不服申立手続等」が参考になります。
・ 国税不服審判所HP「提出書類一覧」には,「審査請求書」用紙,「審査請求書」の書き方,「審査請求書作成・提出時のセルフチェックシート」用紙,「代理人の選任(解任)届出書」用紙等が載っています。
・ 国税不服審判所は,国税通則法の一部を改正する法律(昭和45年3月28日法律第8号)に基づき,昭和45年5月1日に設置されました。
・ 国税不服審判所は,国税庁の「特別の機関」(国家行政組織法8条の3)であり,東京(霞が関)にある本部のほか,全国に12箇所の支部(札幌,仙台,関東信越,東京,金沢,名古屋,大阪,広島,高松,福岡,熊本,沖縄)及び7箇所の支所(新潟,長野,横浜,静岡,京都,神戸,岡山)があります(支部につき国税通則法78条3項参照)。
・ 審査請求は,正副各1通の審査請求書を原処分庁の管轄区域を管轄又は分掌する国税不服審判所の支部に提出することで行います(国税通則法施行規則12条1項参照)。
   例えば,兵庫県内の税務署長が原処分庁である場合,大阪国税不服審判所に審査請求書を提出することとなります。
・ 審査請求は,審査請求に係る処分をした税務署長を経由してすることもできます。この場合,審査請求書は原処分庁としての税務署長に提出すればいいです(国税通則法88条1項)。
・ 平成28年4月以降,白色申告者であっても直接,国税不服審判所長(国税通則法78条2項)に対する審査請求ができるようになりました。
・ 審査請求人等の審理関係人(国税通則法92条の2)は,原則として,職権収集証拠も含めて証拠書類の閲覧謄写ができます(国税通則法97条の3)。
   ただし,担当審判官が,審査請求人又は関係人その他参考人に対して行った質問の供述調書の閲覧謄写は認められていません(国税通則法97条の3第1項中,97条1項の2号だけが引用され,1号は除外されています。)。
・ 審査請求人は,担当審判官(主担当の審判官)との面談(「請求人面談」といいます。)ができますし,口頭意見陳述の申立て(国税通則法95条の2)をすれば,原処分庁の担当者が出席する場において,担当審判官の許可を得て,処分の内容や理由などについて原処分庁に質問することができます(国税不服審判所HPの「Q)口頭で意見を陳述できるの?」,及び「口頭意見陳述の申立てをされた方へ」参照)。
・ 国税不服審判所長は,担当審判官及び通常2人の参加審判官(国税通則法94条1項参照)の合議による議決(過半数の意見によることにつき国税通則法施行令36条)に基づき,法令解釈の統一性が確保されているか,文書表現は適正かなどの審査を行った上で,裁決を出します(国税通則法98条4項)。
   ただし,権限の委任等を定める国税通則法113条・国税通則法施行令38条1項で明記されているわけではありませんが,内部的には,支部の首席国税審判官(国税通則法78条4項)に裁決権が委任されています(国税不服審判所における行政文書の決裁委任及び発信者名義等の取扱規則8条1号)。
・ 国税審判官(任命資格につき国税通則法施行令31条)は,国税不服審判所長に対してされた審査請求に係る事件の調査及び審理を行ない,国税審判官は,国税審判官の命を受け,その事務を整理します(国税通則法79条2項)。
   ただし,国税審判官のうち国税不服審判所長の指名する者は,国税審判官の職務を行うことができますが,担当審判官になることはできません(国税通則法79条3項)。
・ 国税審査官は,国税審判官の命を受けて,その事務を整理します(国税不服審判所組織規則3条2項)。
・ 税務署長等は,国税不服審判所長の裁決を不服として訴訟を提起することはできません(国税通則法102条1項参照)し,国税不服審判所の裁決は,税務署長等が行った処分より審査請求人にとって不利益となることはありません(国税通則法98条3項ただし書)。
・ 国税不服審判所長は,国税庁長官通達に示された法令解釈と異なる解釈により裁決をすることができます(国税通則法99条参照)。
   この場合,国税不服審判所長が自らその権限を行使することとなります(国税通則法施行令38条2項,並びに国税不服審判所における行政文書の決裁委任及び発信者名義等の取扱規則4条1号)。
・ 国税不服審判所は,税務署長の処分が不当であることを理由に取り消すことがあります(国税不服審判所平成22年12月1日裁決参照)。
・ 国税不服審判所長の裁決は,審査請求人に裁決書の謄本が送達された時にその効力が生じる(国税通則法98条3項)のであって,裁判所の判決と異なり言渡しはありませんから,ある日突然,裁決書が送られてきて結果を知ることとなります。
・ 国税庁HPの「平成29年度における審査請求の概要」(平成30年6月)によれば,平成29年度に終結した2475件の審査請求につき,取下げが247件であり,却下が186件,棄却が1840件,認容が202件(うち,全部認容が54件,一部認容が148件)であり,認容割合は8.2%であり,1年以内処理件数割合は99.2%です。
・ 国税庁HPの「平成30年度における審査請求の概要」(令和元年6月)によれば,平成30年度に終結した2923件の審査請求につき,取下げが261件であり,却下が136件,棄却が2310件,認容が216件(うち,全部認容が139件,一部認容が77件)であり,認容割合は7.4%であり,1年以内処理件数割合は99.5%です。
(4) 国税不服審判所長が棄却裁決(国税通則法98条2項)又は一部取消しの裁決(国税通則法98条3項)を出した場合,地方裁判所に対し,6か月以内に更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求訴訟を提起する。
・ この場合,被告は国であり,処分行政庁(行政事件訴訟法11条4項1号)は税務署長となり,法務大臣が被告の代表者となります(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(法務大臣権限法)1条)。
・ 国税不服審判所長に対する審査請求をした日の翌日から起算して3ヶ月を経過しても裁決が出ない場合,裁決が出る前であっても,取消訴訟を提起できます(国税通則法115条1項1号)。
・ 取消訴訟を提起した場合において,必要経費又は損金の額の存在その他これに類する自己に有利な事実につき課税処分の基礎とされた事実と異なる旨を主張しようとするときは,相手方当事者である国が当該課税処分の基礎となった事実を主張した日以後遅滞なくその異なる事実を具体的に主張し,併せてその事実を証明すべき証拠の申出をしなければなりません(国税通則法116条1項本文)。
   また,申告納税の所得税にあっては,納税義務者においていったん申告書を提出した以上,その申告書に記載された所得金額が真実の所得金額に反するものであるとの主張・立証がない限り,その確定申告にかかる所得金額をもって正当なものと認められます(最高裁昭和39年2月7日判決)。
・ 国税庁HPの「平成29年度における訴訟の概要」(平成30年6月付)によれば,平成29年度に終結した210件の訴訟につき,取下げ等が18件,却下が17件,棄却が154件,国の敗訴が21件(うち,一部敗訴が8件,全部敗訴が2件)であり,国の敗訴率は10%です。
・ 国税庁HPの「平成30年度における訴訟の概要」(令和元年6月付)によれば,平成30年度に終結した199件の訴訟につき,取下げ等が16件,却下が10件,棄却が145件,国の敗訴が6件(うち,一部敗訴が3件,全部敗訴が3件)であり,国の敗訴率は3.4%です。
・ 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては非課税とする所得税法9条1項15号(現在の所得税法9条1項16号)に関する最高裁平成22年7月6日判決の事案では,長崎税務署長の平成16年6月23日付の再更正処分の取消しが求められました。
   そして,長崎地裁平成18年11月7日判決(第一審判決)は納税者勝訴であり,福岡高裁平成19年10月25日判決(控訴審判決)は納税者逆転敗訴であり,最高裁平成22年7月6日判決で最終的に納税者が勝訴しました。
2 住民税及び国民健康保険料関係
(1) 住民税の課税標準は所得税の課税標準と連動しています(道府県民税につき地方税法32条2項,市町村民税につき地方税法313条2項)。
   また,国民健康保険料の所得割額の賦課基準は住民税の課税標準と連動しています(国民健康保険法81条・国民健康保険法施行令29条の7第2項第4号及び同条第3項第4号)。
   そのため,所得税について減額更正が認められた場合,これと連動して住民税及び国民健康保険料について減額の賦課決定がされますから,住民税及び国民健康保険料独自の不服申立て手続をとる必要は原則としてありません。
(2) 住民税及び国民健康保険税に関する減額の賦課決定は過去5年分についてできる(地方税法17条の5第4項)ものの,国民健康保険料に関する減額の賦課決定は過去2年分についてしかできません(国民健康保険法110条の2)。
   そのため,取消訴訟の請求認容判決を待っていたのであれば,平成33年7月を過ぎてしまう可能性が高いことにかんがみ,平成31年度国民健康保険料の賦課決定に対し,納入通知書等の受領日から3ヶ月以内に都道府県の国民健康保険審査会(国民健康保険法92条)に対する審査請求(国民健康保険法91条)をした方がいいかもしれません(審査請求前置につき国民健康保険法103条)。
(3) 所得税及び住民税の課税標準との関係で修習給付金が雑所得のままであるのに対し,国民健康保険料の所得割額の賦課基準との関係で修習給付金が非課税所得になるというのが理論上ありうるかどうかは不明です。

第2 取消訴訟の管轄裁判所等
1 兵庫県内の税務署長が処分行政庁となる場合,以下の地方裁判所に取消訴訟を提起できます。
① 東京地裁
・ 被告となる国の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所です(行政事件訴訟法12条1項)。
・ 国の普通裁判籍は,訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まります(民事訴訟法4条6項)ところ,「訴訟について国を代表する官庁」は法務大臣です(国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(法務大臣権限法)1条)。
   そのため,国の普通裁判籍は東京都千代田区にあることとなります。
② 神戸地裁
・ 処分をした行政庁(兵庫県内の税務署長)の所在地を管轄する裁判所です(行政事件訴訟法12条1項)。
③ 大阪地裁
・ 原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所(原告が神戸市在住の場合,大阪高裁となります。)の所在地を管轄する地方裁判所です(行政事件訴訟法12条4項の「特定管轄裁判所」です。)。
2 取消訴訟は行政訴訟の一部であります(行政事件訴訟法3条2項参照)ところ,地裁支部は行政訴訟を取り扱っていません(地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則1条2項)。
   そのため,地裁本庁に取消訴訟を提起する必要があります。
3 東京地裁に取消訴訟を提起した場合,2民,3民,38民又は51民に係属し,大阪地裁に取消訴訟を提起した場合,2民又は7民に係属し,神戸地裁に取消訴訟を提起した場合,2民に係属します。

第3 修習給付金に関する司法研修所の公式見解が絶対ではないと思われること
1(1) 司法修習生研修委託費(略称は「司法修習委託金」です。)は,弁護士会において司法修習生の弁護実務修習の指導に要する経費に充てることをその使途とするものです。
(2) 予算の示達の場面において,司法研修所ひいては最高裁判所が,司法修習委託金を消費税の課税対象と考えていなかったようにもうかがえることは,司法修習委託金が消費税の課税対象となることを妨げるものではありません(大阪高裁平成24年3月16日判決(判例秘書))。
   また,東京高裁平成26年6月25日判決(平成26年度法務年鑑162頁ないし164頁)も,司法修習委託金は消費税の課税対象であると判断しています。
2(1) 平成30年8月23日付の司法行政文書不開示通知書によれば,「最高裁判所が修習給付金について必要経費として控除することができる経費があるかどうかを検討した際に作成し,又は取得した文書」は存在しません。
(2) 平成30年9月26日付の最高裁判所事務総長の理由説明書によれば,「司法研修所では,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について,必要経費として控除することができる費用が存在するか検討したが,この検討内容については,文書を作成するほどの複雑な内容のものではなかったことから,文書を作成していない」とのことです。
3 そのため,修習給付金に関する司法研修所の公式見解が絶対ではないと思います。

第4 国税不服審判所及び税理士関係の資料
1 国税不服審判所関係の資料
① 国税不服審判所定員細則(平成25年7月現在)
② 国税不服審判所事務分掌規則(平成25年7月現在)
→ 国税通則法78条5項・国税不服審判所組織令3条・国税不服審判所組織規則8条に基づいて定められた訓令です。
③ 国税不服審判所事務分掌細則(平成30年8月現在)
④ 国税不服審判所における行政文書の決裁委任及び発信者名義等の取扱規則(平成30年8月現在)
⑤ 担当審判官等の指定等(審査事務提要からの抜粋)
⑥ 国税審判官(特定任期付職員)の面接試験実施要領(平成30年1月15日及び同月16日実施分)
⑦ 国税不服審判所の役割・組織(令和元年7月29日新任審判官等研修)
⑧ 国税不服審判所の支部の支所に派遣する国税審判官等の定数について(昭和45年5月1日付の通知)
2 税理士関係の資料

① 税理士事務提要(平成25年6月現在)1/2及び2/2
② 税理士法事務取扱規程(平成25年7月現在)
③ 税理士法聴聞事務取扱規程(平成25年7月現在)
④ 税理士関係事務について(平成14年10月30日付の大阪国税局の事務運営指針)
⑤ 税務相談事務に係る基本的な対応について(平成20年9月24日付の大阪国税局の事務運営指針)
3 その他の資料
① 課税関係訴訟事務処理要領(平成20年6月23日付の国税庁の事務運営指針(平成26年6月30日最終改正))
② 質問応答記録書作成の手引(平成29年6月の国税庁課税総括課作成の文書)1/42/43/44/4

第5 関連記事その他
1 東弁リブラ2009年2月号「租税争訟における弁護士の役割」が載っています。
2 岡山大学学術成果リポジトリ「弁護士のキャリアと国税審判官のお仕事」が載っています。
3 行政処分に対して不服申立てができるのは,当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者,つまり,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者です(最高裁昭和53年3月14日判決参照)。
4 以下の記事も参照してください。
・ 令和元年7月採用の国税審判官の研修資料
・ 歴代の国税不服審判所長
・ 国税庁長官及び東京国税局長の事務引継資料(令和元年7月頃の文書)

修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い

目次
第1 総論

第2 必要経費に関する一般論等
1 必要経費に関する一般論
2 所得税基本通達の条文
3 最高裁大法廷昭和60年3月27日判決の判示
第3 必要経費に算入できそうな項目,及び給与所得者の特定支出控除
1 必要経費に算入できそうな項目
2 給与所得者の特定支出控除
3 東京高裁平成24年9月19日判決の取扱い
第4 雑所得の場合,必要経費に関する領収書を残しておけば足りること
第5 平成31年度の税金及び国民健康保険料は安くなること等
第6 その他

第1 総論
1 司法修習生が修習専念義務を果たして修習給付金を支給してもらうために必要な経費(所得税法35条2項2号)は当然に存在すると思います。
2 サラリーマン税金訴訟に関する最高裁大法廷昭和60年3月27日判決は,給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であること等を理由として,給与所得者について必要経費の実額控除を認めず,給与所得控除による概算控除しか認めないことは,必要経費の実額控除が認められている事業所得者等との関係において憲法14条1項に違反しないと判示しています。
   そのため,司法修習生において自ら負担する必要経費が存在するにもかかわらず,修習給付金について必要経費の控除を一切認めないことは,必要経費の実額控除が認められている他の雑所得者等との関係において憲法14条1項に違反すると思います。
3 国税庁において雑所得に該当すると判断された訓練・生活支援給付金につき,必要経費の有無については言及されていません。
4 平成30年7月9日付の国税庁長官心得の行政文書不開示決定通知書によれば,司法修習生に対する修習給付金に関する税務上の取扱いが書いてある文書は国税庁に存在しません。
5 したがって,修習給付金について必要経費として控除することができる経費は存在しないとする司法研修所の公式見解は不当であると個人的に思います。

第2 必要経費に関する一般論等
1 必要経費に関する一般論
(1) 不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得の金額を計算する上で必要経費に算入できる金額は,一般論としては以下のとおりです(所得税法37条1項参照)。
① 総収入金額に対応する売上原価
② その総収入金額を得るために直接要した費用の額
・ ①及び②は個別対応の必要経費です。
③ その年に生じた販売費、一般管理費,その他業務上の費用の額
・ ③は期間対応の必要経費です。
・ 償却費以外の費用については,12月31日現在で債務の確定しているものに限られます。
(2) 個人事業の場合,家事(生活)上の費用と事業上の経費とが混在していることが多いところ,事業又は業務上必要な経費は「必要経費」として,収入金額から控除されます。
   しかし,例えば,以下に掲げる家事費や家事関連費等は所得の処分と考えられ,必要経費として控除することはできません(所得税法45条1項各号)。
① 家事費(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条)
・ 例えば,自己又は家族の生活費や交際費,医療費,住宅費です。
② 家事関連費(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条)(例外あり)
・ 例えば,店舗兼住宅に係る地代,家賃,火災保険料,水道光熱費です。
③ 租税公課(所得税法45条1項2号ないし5号・所得税法施行令97条)
・ 例えば,個人を対象として課税される所得税,住民税です。
④ 罰金及び科料並びに過料(所得税法45条1項6号)
⑤ 損害賠償金(生活上の損害賠償金,業務上の故意又は重大な過失による損害賠償金)(所得税法45条1項7号・所得税法施行令98条)
(3) 家事関連費について,所得税法では,家事関連費の主たる部分が不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり,かつ,その必要である部分を明らかに区分することができる場合,その部分に相当する経費に限り,必要経費に算入できるものとされており,区分できない場合,雑所得については必要経費に算入できません(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条1号)。
(4) 青色申告者については,家事関連費のうち,その備付けの帳簿記録によって,その年分の不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額も必要経費に算入できます(所得税法施行令96条2号)ものの,雑所得についてこのような定めはありません。
(5) 必要経費に関する一般論は,税大講本「所得税法」(平成30年度版)に基づいて記載しています。
2 所得税基本通達の条文
(1) 所得税基本通達45-1(主たる部分の判定等)は以下のとおりです。
   令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。
(2) 所得税基本通達45-2(業務の遂行上必要な部分)は以下のとおりです。
   令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。
3 最高裁大法廷昭和60年3月27日判決の判示
   サラリーマン税金訴訟に関する最高裁大法廷昭和60年3月27日判決が,「給与所得者が勤務に関連して費用の支出をする場合であつても、各自の性格その他の主観的事情を反映して支出形態、金額を異にし、収入金額との関連性が間接的かつ不明確とならざるを得ず、必要経費と家事上の経費又はこれに関連する経費との明瞭な区分が困難であるのが一般である。」とか,「各自の主観的事情や立証技術の巧拙によつてかえつて租税負担の不公平をもたらすおそれもなしとしない。」などと判示しているとおり,必要経費に該当する家事関連費の範囲を明確に判断するのは困難です。

第3 必要経費に算入できそうな項目,及び給与所得者の特定支出控除
1 必要経費に算入できそうな項目
   修習給付金に関する雑所得を計算する上で,必要経費に算入できる項目は以下のとおりと思います。
   なお,括弧内の金額は,「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)「修習給付金及び修習専念資金の金額について」に書いてある金額です。
(1) 争いなく算入できそうな項目
① 実務修習地や司法研修所に赴くための旅費
・ そもそも非課税項目です(所得税法9条1項4号参照)が,同額が旅費として支給されるため,課税関係は発生しません。
② 配属先の裁判所,検察庁及び法律事務所並びに司法研修所に通所するための日々の交通費
③ 導入修習,分野別実務修習,集合修習及び選択型実務修習に参加するための引越代
・ 大阪高裁管内のA班の71期司法修習生の場合,移転給付金は合計4回支給されます(1回あたり4万6500円(鉄道50km未満の場合)から14万1000円(鉄道2000km以上の場合)までです。)。
   そして,移転給付金は非課税項目である(所得税法9条1項4号参照)とはいえ,引越代のうち,移転給付金を超過する部分については必要経費になると思います。
(2) 算入できるかどうか微妙な項目
① 導入修習,実務修習及び集合修習における家賃
・ 少なくとも修習専念義務等を履行するために必要な家事関連費に該当すると思われますものの,修習専念義務等を守って修習給付金を得るために必要であり,かつ,その必要である家賃部分を明らかに区分することができるかどうかがよく分かりません。
   ただし,実務修習地で新たに部屋を借りた場合,家賃の全部が修習給付金を得るために必要な費用といえるかもしれません。
② その他の交通費(日々の交通費込みで約0.9万円)
③ 情報通信費(約0.9万円)
④ 学習費(約1.0万円)
⑤ 書籍代(約0.8万円)
⑥ OA機器購入費(約1.2万円)
⑦ 勉強会参加費(約1.0万円)
・ ②ないし⑦の全部が,修習給付金を得るために必要な費用であるとはいえないと思います。
(3) 算入できなさそうな項目
① 食費(約4.0万円)
② 水道光熱費(約1.0万円)
③ 就職活動費(約1.1万円)
・ 法律事務所への就職活動は,修習給付金を得るために必要な費用ではないと思います。
④ 諸雑費(医療費,衣服費等)(約1.5万円)
⑤ 社会保険料(約1.6万円)
・ 社会保険料控除の対象になります(所得税法74条)。
⑥ 所得税・住民税等(約0.5万円)
⑦ 勉強会参加費を除く交際費(約1.7万円)
⑧ 奨学金返済費用(約0.6万円)
⑨ 教養娯楽費(旅行費・月謝類等。ただし,書籍費を除く。)(約1.5万円)
⑩ 理美容・嗜好品等(約1.4万円)
⑪ 自動車等関係費(約0.7万円)
⑫ 仕送り金(約0.3万円)
⑬ 家具家電・衣服購入費等(約1.9万円)
・ ⑤ないし⑬の費用(合計10.2万円)は,月額10万円の修習専念資金で対応することが想定されています。
(4) 新たに部屋を借りた際の敷金等
   実務修習地で新たに部屋を借りた際の敷金,礼金,不動産仲介手数料,火災保険料,鍵交換費用等は平成29年12月までに支出されていると思いますから,平成30年中の雑所得に係る必要経費にはなりません。
2 給与所得者の特定支出控除
(1) 給与所得者が以下の①ないし⑥の特定支出をした場合,給与等の支払者(例えば,勤務先)の証明を得ること等を条件に,その年の特定支出の額の合計額が,その年中の給与所得控除額の2分の1を超えた場合,確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができるという「給与所得者の特定支出控除」があります(昭和62年9月25日法律第96号による改正後の所得税法57条の2)。
   例えば,給与収入が180万円である場合,給与所得控除額は180万円×40%=72万円ですから,①ないし⑥の特定支出のうち,36万円を超える部分の金額が,給与所得控除とは別に認められる必要経費となります。
① 通勤費
・ 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出です。
② 転居費
・ 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出です。
③ 研修費
・ 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出です。
④ 資格取得費
・ 職務に直接必要な資格を取得するための支出です。
・ 平成25年分以後は,弁護士,公認会計士,税理士等の資格取得費も特定支出の対象となります。
⑤ 帰宅旅費
・ 単身赴任等の場合で,その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出です。
⑥ 勤務必要経費(⑥の経費の上限は65万円です。)
・ (a)図書費(書籍,定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用),(b)衣服費(制服,事務服,作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用)及び(c)交際費等(交際費,接待費その他の費用で,給与等の支払者の得意先,仕入先その他職務上関係のある者に対する接待,供応,贈答その他これらに類する行為のための支出)です。
(2) 修習給付金に関する必要経費を判断する際,給与所得者の特定支出控除に関する定めが考慮される可能性が高いと思います。
3 東京高裁平成24年9月19日判決の取扱い
(1) 東京高裁平成24年9月19日判決は,ある支出が事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには,当該支出が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であることを要するが,その支出が事業の業務と直接関係を持つことは必要ではないと判示し,その根拠として,①当該支出が事業の業務と直接関係を持つことを求めると解する根拠がないこと,②「直接」という文言の意味も明らかでないこと,③所得税法施行令96条1号が,家事関連費のうち必要経費に算入することができるものについて,その支出の主たる部分が「事業所得を・・・生ずべき業務の遂行上必要」であることを要すると規定していることを挙げています(平成24年12月21日付の上告受理申立て理由書15頁及び16頁)。
(2) 国の上告受理申立ては,最高裁平成26年1月17日決定により不受理とされました(国税庁HPの「最高裁不受理事件の意義とその影響」参照)。
   しかし,国税庁は,本件判決はあくまで事例判断であり,「事業所得の金額の計算上必要経費に算入される支出の取扱いが変更されるものではない 」という見解を出しているみたいです(Profession Journal「弁護士の必要経費訴訟からみた「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察 」参照)。

第4 雑所得の場合,必要経費に関する領収書を残しておけば足りること
   不動産所得,事業所得又は山林所得の場合,収支内訳書(所得税法施行規則47条の3第1項)を確定申告書に添付する必要があります(所得税法120条6項)し,平成26年1月1日以降の所得については,白色申告であっても記帳義務があります(所得税法232条1項)。
   しかし,雑所得の場合,収支内訳書を確定申告書に添付する必要はありませんし,記帳義務はありませんから,税務調査に備えて必要経費に関する領収書を残しておけば足ります。

第5 平成31年度の税金及び国民健康保険料は安くなること等
1(1) 修習給付金について必要経費が存在することを前提に確定申告をした場合,雑所得の金額を相当減らせる結果,司法研修所の公式見解と比べると,平成31年度の税金及び国民健康保険料は安くなります。
(2) 給与収入が180万円以下である場合,給与所得控除額は給与収入の40%(ただし,最低額は65万円)であること(所得税法28条3項1号)にかんがみ,修習給付金に関する必要経費率の目安は40%であるかも知れません。
2 平成30年度の神戸市の計算式を前提とした場合,1人世帯である場合の国民健康保険料(被保険者均等割額及び世帯別平等割額)は,雑所得の金額が83万円以下であれば2割軽減となり,60万5000円以下であれば5割軽減となり,33万円以下であれば7割軽減となります(国民健康保険法81条・国民健康保険法施行令29条の7第5項3号参照)。
3 後日の税務調査において修習給付金について必要経費が存在するとする主張が認められなかった場合,事後的に税金及び国民健康保険料が増えますから,リスクがないわけではありません。
   しかし,ある程度の税金及び国民健康保険料は支払うわけですから,修習給付金が非課税所得であることを前提に雑所得が0円であるとして確定申告をした場合と比べると,税務調査を受ける可能性はかなり小さいと思います。
4 一人世帯において平成30年分の雑所得が57万円以下となる場合,令和元年7月から令和2年6月までの国民年金保険料について,住所地の市役所等又は年金事務所に国民年金保険料免除・納付猶予申請書を提出することで,全額免除を受けることができます(国民年金法90条1項1号・国民年金法施行令6条の7)。

第6 その他
   全般的な話については,「司法修習生の修習給付金及び修習専念資金」を参照して下さい。

修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い

目次
第1 非課税所得としての学資金等

第2 修習給付金は,非課税所得としての学資金に該当する可能性があること等
1 学資金としての性質を有すると思われること
2 金額規模等を理由に学資金から除外される理由はないと思われること
3 修習給付金は給与その他対価の性質を有するものではないこと
4 職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず,修習給付金が非課税所得でないのは憲法14条1項に違反すると思われること
5 修習給付金について公租公課禁止規定がないことだけを理由として非課税所得ではないと判断することはできないこと
6 訓練・生活支援給付金が雑所得であると国税庁が判断していたことを理由に,修習給付金が雑所得であると判断することは不当であると思われること
7 修習給付金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではないこと
8 小括
第3 修習給付金が非課税所得であると仮定した場合の,平成31年度の税金及び国民健康保険料の試算の合計等
第4 注意書き
1 修習給付金が非課税所得であることを前提とした確定申告は大きなリスクを伴うこと
2 国民健康保険について税方式が採用されている場合の取扱い
3 税金及び国民健康保険料は自己破産における非免責債権に該当すること
第5 その他

第1 非課税所得としての学資金等
   ①学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)(いわゆる「学資金」です。)及び②扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品は,社会政策的配慮(担税力)に基づき,非課税所得とされています(所得税法9条1項15号)。

第2 修習給付金は,非課税所得としての学資金に該当する可能性があること等
1 学資金としての性質を有すると思われること
   修習給付金は,修習専念義務(裁判所法67条2項,司法修習生に関する規則2条)を負っている修習期間中の生活費及び教育費に充てるために国から司法修習生に支給される金員であって,非課税所得に該当する給付型奨学金と同じようなものといい得ますから,学資金としての性質を有すると思います。
2 金額規模等を理由に学資金から除外される理由はないと思われること
(1) 司法研修所がある埼玉県の最低賃金871円(平成29年10月1日からの金額)で1週間について40時間(法定労働時間であることにつき労働基準法32条1項)働いた場合,871円×40時間×30日/7日=14万9314円となりますから,月額13万5000円の基本給付金は埼玉県の最低賃金を下回る金額です(厚生労働省HPに「地域別最低賃金の全国一覧」が載っています。)。
   また,基本給付金の13万5000円という金額は,住居費の支出を伴わない68期司法修習生の平均的な生活費等を参考に設定された金額ですから,担税力がありません。
(2) 住居給付金の3万5000円という金額は,生活保護制度における住宅扶助額の全国平均(平成27年の単身世帯につき3万4542円)等を参考に設定された金額であって(「平成29年3月22日の衆議院法務委員会における,井手庸生衆議院議員(民進党)に対する国会答弁資料」の想定8問参照),司法修習生の配属場所である都道府県庁所在地及び東京都立川市における住宅扶助額の平均ですらありませんから,担税力がありません。
   例えば,全国的に住宅扶助基準額が見直された平成27年7月1日以降の,神戸市の単身世帯の住宅扶助基準額は4万円です。
(3) 法科大学院の中には,成績優秀者に対し,授業料の全額又は半額相当額の奨学金等を支給しているところがありますところ,当該奨学金は学資金として非課税所得であると思います。
   特に,甲南大学法科大学院は,A種特待生(入学試験にきわめて優秀な成績で合格した者)に対し,学費免除だけでなく,月額15万円もの給付金を支給しているみたいです(甲南大学法科大学院HP「学費・学費減免」参照)が,当該給付金も学資金として非課税所得であると思います。
(4) 修習資金の貸与を受けなかった新65期ないし70期司法修習生が家賃を払って一人暮らしをしていた場合,両親等の扶養義務者から生活費及び教育費という趣旨で月額17万円以上の仕送りを受けていた事案がごく普通にあったと思われます。
   そして,それらの仕送りについて贈与税が課税された事例があるとは思えないことからしても,月額17万円という金額規模は,扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品(非課税所得)と比べて特に大きいわけではありません。
(5) 平成28年度税制改正において所得税法9条1項15号が改正されて「通常の給与に加算して受ける学資金」が非課税とされた結果,医学生等に対する修学等資金の債務免除益は,通常の給与に加算して受ける学資金に該当するものとしてすべて非課税となりました。
   ところで,兵庫県医師養成制度を利用して兵庫医科大学に進学した場合,6年間で合計4480万円(うち,生活費は130万円×6年間=780万円)の貸付けを受けられますし,大学を卒業後,医師として9年間,兵庫県が指定するへき地の病院,診療所等において勤務した場合,貸与を受けた修学資金の返還を免除されます。
   そのため,4480万円もの修学資金の返還免除に基づく債務免除益であっても,学資金として非課税となると思われます(医学生に対する6年間の奨学金1069万6800円の返還免除に基づく債務免除益が学資金として非課税となることにつき名古屋国税局の文書回答事例参照)。
(6) そのため,修習給付金は,金額規模等を理由に学資金から除外される理由はないと思います。
(7) 国税庁は,法務省との担当者協議において,修習給付金の金額規模等から,学資金と直ちに解するには難しい面があるのではないかという指摘をしていたみたいです(「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」参照)。
   そのため,国税庁としては,修習給付金は金額規模を理由として学資金に該当しないと考えているのかもしれません。
3 修習給付金は給与その他対価の性質を有するものではないこと
(1) 最高裁昭和56年4月24日判決は,「給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しています。
   また,平成28年度(最情)答申第26号(平成28年9月1日答申)は,「司法修習生は国の事務を担当するものでない」と判示しています。
   ところで,最高裁判所事務総局総務局が作成した裁判所法逐条解説(昭和44年6月30日発行)(法曹の養成に関するフォーラム第4回会議(平成23年8月4日開催)資料6に含まれています。)397頁には,「修習は、国に対する勤務ないし給付の性質をもつものではなく、むしろ自己の向上のためになされるものであるから、修習の対価として給与を受けるということは、意味をなさない。」と書いてあります。
   つまり,最高裁判所は,現行65期で終了した給費制時代から,司法修習生の給料は役務の提供等の対価としての性質を有しないと説明していました。
   そのため,修習給付金は給与その他対価の性質を有するものではないことになります。
(2) 国税庁は,法務省との担当者協議において,「修習給付金は労務提供の対価ではなく(給与とは明らかに性質の異なるものと整理されている。),司法修習生の任用関係を雇用契約類似と整理することも容易ではない」という指摘をしていたみたいです(「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」参照)。
4 職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず,修習給付金が非課税所得でないのは憲法14条1項に違反すると思われること
(1) 法令上の「給付金」のうち,公租公課禁止規定を有するものの名称については以下のものがあります(「「修習給付金(仮称)」の名称について」参照)。
① 犯罪被害者等給付金(犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律),特定B型肝炎ウイルス感染者給付金(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法)のように,その支給の客体に着目した名称
② 職業訓練受講給付金(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律),育児休業給付金(雇用保険法)のように,支給対象者が置かれた状況に着目した名称
③ 老齢年金生活者支援給付金(年金生活者支援給付金の支給に関する法律)のように,その支給目的に着目した名称
(2) ①の給付金は,犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律18条,特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法20条に基づき非課税所得です。
   ②の給付金は,職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律10条,雇用保険法12条に基づき非課税所得です。
   ③の給付金は,年金生活者支援給付金の支給に関する法律33条に基づき非課税所得です。
(3) 様々な給付金の中でも,職業訓練受講給付金は,雇用保険を受給できない求職者について,職業訓練期間中の生活を支援するための給付です(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律2条の他,厚生労働省HPの「職業訓練受講給付金(求職者支援制度)」参照)。
   ところで,東京高裁平成30年5月16日判決(判例秘書)は,「司法修習は,司法修習生が法曹資格を取得するために国が法律で定めた職業訓練課程であり,高度の専門的実務能力と職業倫理を備えた質の高い法曹を確保するために必須な臨床教育課程として,実際の法律実務活動の中で実施される」と判示しています。
   そのため,職業訓練受講給付金が非課税所得であるにもかかわらず,司法試験に合格しない限り採用されない司法修習生について,司法修習という職業訓練期間中の生活を支援するための給付である修習給付金が非課税所得でないのは,平等原則を定めた憲法14条1項に違反すると思います。
5 修習給付金について公租公課禁止規定がないことだけを理由として非課税所得ではないと判断することはできないこと
   被害回復給付金(犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律)については,公租公課禁止規定がありません。
   しかし,犯人に対する損害賠償請求権等の請求権は,被害回復給付金の支給を受けた額の分だけ消滅する(法務省HPの「被害回復給付金支給制度 Q&A 」のQ25参照)ことから,被害回復給付金の受給は,犯罪被害にあった自分のお金の一部を取り戻すことを意味するのであって,新たに所得を得るわけではない点で,非課税所得であると考えられています(結論につき,Internet 会計事務所HP「被害回復給付金 支給申請手続き始まる」参照)。
   また,平成31年2月19日付の法務省大臣官房秘書課情報公開係の文書によれば,被害回復給付金について公租公課禁止規定を設けなかった理由が分かる文書は存在しませんし,修習給付金について公租公課禁止規定を設けなかった理由が分かる文書に該当するものは以下の①ないし③の文書しかないとのことですが,以下の①ないし③の文書はいずれも法律案の作成経緯に関する文書ではありません。
① 平成29年3月21日(火)衆議院法務委員会 安藤裕議員への答弁資料
② 平成29年3月22日(水)衆議院法務委員会 逢坂誠二議員への答弁資料
③ 「「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱いについて」の説明資料」
   さらに,71期以降の司法修習生に対する修習給付金が非課税所得又は雑所得に該当するかどうかに関する法務省と国税庁の協議文書は存在しません(平成29年8月29日付の行政文書不開示決定通知書参照)。
   そのため,修習給付金について公租公課禁止規定がないことだけを理由として非課税所得ではないと判断することはできません。
6 訓練・生活支援給付金が雑所得であると国税庁が判断していたことを理由に,修習給付金が雑所得であると判断することは不当であると思われること

(1) 訓練・生活支援給付金は,平成21年7月末に開始した緊急人材育成支援事業による職業訓練等を受講する者に支給されていました。
   これは,職業訓練の期間中,被扶養者を有しない者については月額10万円,被扶養者を有する者については月額12万円を支給するというものであり,平成23年10月以降,求職者支援制度に基づく職業訓練受講給付金となっています。
(2) 国税庁課税部審理室長は,厚生労働省職業能力開発局能力開発課長に対し,平成22年1月27日付の文書回答において,訓練・生活支援給付金は,訓練期間中における生活保障や円滑な訓練受講に資するために支給されるものであること等にかんがみ,雑所得であると回答しています。
   しかし,訓練・生活支援給付金の後継制度である職業訓練受講給付金は非課税所得であることからすれば,訓練・生活支援給付金が雑所得であると国税庁が判断していたことを理由に,修習給付金が雑所得であると判断することは不当であると思います。
7 修習給付金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではないこと
   所得税法上,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得で,営利を目的とする継続的行為から生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に区分されます(最高裁平成29年12月15日判決)。
   しかし,修習給付金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではありません。
8 小括
   よって,修習給付金は,非課税所得としての学資金に該当する可能性があります。

第3 修習給付金が非課税所得であると仮定した場合の,平成31年度の税金及び国民健康保険料の試算の合計等
1 修習給付金が非課税所得であることを前提に雑所得が0円であるとして確定申告をした場合,平成30年分所得税及び平成31年度の住民税は0円となります。
2 住民税非課税世帯となりますから,高額療養費支給制度における自己負担限度額(69歳以下の場合)が1ヶ月あたり3万5400円となります。
3(1) 平成30年度の神戸市の計算式を前提とした場合,平成31年度の国民健康保険料は,医療分1万4600円,後期高齢者支援金分4730円の合計1万9330円となります(被保険者均等割額及び世帯別平等割額について7割軽減が適用されます。)。
   神戸市HPからダウンロードできる国民健康保険料計算シート(エクセル)を使えば簡単に計算できます。
(2) 修習給付金が非課税所得であることを前提として所得税又は住民税の確定申告をしなかった場合,市区町村において所得の判定ができないため,被保険者均等割額及び世帯別平等割額について7割軽減が適用されません。
4 所得税の控除対象扶養親族から外れませんし,配偶者控除の適用があることとなります。
   ただし,修習資金の貸与を受けた新65期ないし70期司法修習生の場合と同様に,健康保険及び厚生年金保険の扶養親族からは外れたままになります。
5 一人世帯である場合,平成31年7月から平成32年6月までの国民年金保険料について,住所地の市役所等又は年金事務所に国民年金保険料免除・納付猶予申請書を提出することで,全額免除を受けることができます。

第4 注意書き
1 修習給付金が非課税所得であることを前提とした確定申告は大きなリスクを伴うこと
(1) 後日の税務調査において修習給付金が非課税所得であるとする主張が認められなかった場合,所得税に対する5%又は10%の過少申告加算税(国税通則法65条)のほか,延滞税(国税通則法60条)又は延滞金(地方税法321条の2等及び国民健康保険法79条3項)を付加した税金及び国民健康保険料の支払を求められることとなります。
   また,平成23年12月2日法律第114号による国税通則法改正により,税務署長による増額更正は法定申告期限から5年間可能となりました(国税通則法70条1項1号)から,平成30年分所得税の増額更正は平成36年3月まで可能です。
   さらに,住民税の増額の賦課決定は原則として法定納期限から3年間可能であり(地方税法17条の5第1項),所得税について更正があった場合,法定納期限から5年間可能です(地方税法17条の6第3項1号)。
   そして,平成31年度の税金を全く支払わず,かつ,平成31年度の国民健康保険料を2万円程度しか支払わない場合,税務調査を受ける可能性が否定できない点で,修習給付金が非課税所得であることを前提とした確定申告は大きなリスクを伴いますから,不服申立てにおいて主張した方が安全です。
(2) 平成30年における,所得税に対する延滞税及び住民税に対する延滞金の利率は年8.9%(平成30年の特例基準割合1.6%+7.3%)です(租税特別措置法94条及び地方税法附則3条の2)。
(3)ア 平成27年度以降の国民健康保険料の賦課決定は,当該年度における最初の保険料の納期(通常は7月です。)の翌日から起算して2年を経過した日以後はすることができません(平成26年6月25日法律第83号による改正後の国民健康保険法110条の2)。
   また,期間制限の特例を定める地方税法17条の6第3項に相当する条文は,国民健康保険法にはありません。
   そのため,平成31年度国民健康保険料に関する増額又は減額の賦課決定は,平成33年7月までしかできません。
イ 税務署長が修習給付金について雑所得であるとして増額更正をした場合,国税不服審判所長に対する審査請求及び地方裁判所に対する取消訴訟が可能でありますところ,係争中である場合,国民健康保険料に関する増額の賦課決定はされないかもしれません。
   そのため,増額の賦課決定がされないまま,国民健康保険料の賦課決定の期間制限が過ぎるかもしれません。
(4) 申告納税方式による国税(国税通則法16条1項1号)に関して,納税申告書の提出があった場合に税務署長が行うのが更正(国税通則法24条)であり,納税申告書の提出がない場合に税務署長が行うのが決定(国税通則法25条)です。
   賦課課税方式による国税(国税通則法16条1項2号)に関して税務署長が行うのが賦課決定(国税通則法32条)です。
2 国民健康保険について税方式が採用されている場合の取扱い
   地方自治体によっては,国民健康保険について税方式が採用されています(国民健康保険法76条1項ただし書)。
   この場合,国民健康保険税の増額の賦課決定は原則として法定納期限から3年間可能であり(地方税法17条の5第3項), 所得税について更正があった場合,法定納期限から5年間可能です(地方税法17条の6第3項1号)。
3 税金及び国民健康保険料は自己破産における非免責債権に該当すること
   税金だけでなく,国民健康保険料も租税等の請求権(破産法97条4号)に該当します(国民健康保険法79条の2「法律で定める歳入」・地方自治法231条の3第3項「地方税の滞納処分の例」・地方税法331条6項「国税徴収法に規定する滞納処分の例」参照)。
   そのため,税金及び国民健康保険料は自己破産における非免責債権に該当します(破産法253条1項1号)から,免責許可決定が確定したとしても支払う必要があります。

第5 その他
   全般的な話については,司法修習生の修習給付金及び修習専念資金」を参照して下さい。

修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い

目次
第1 司法研修所の公式見解

1 修習給付金案内の記載
2 支給された基本給付金及び住居給付金の全額が雑所得となること等
第2 平成30年中に支給される基本給付金及び住居給付金の合計
1 平成30年中に支給される基本給付金の金額
2 平成30年中に支給される住居給付金の金額
3 平成30年に支給される基本給付金及び住居給付金の合計
第3 平成30年分所得税及び平成31年度住民税の試算の合計
1 基礎控除しか適用されないと仮定した場合の試算
2 復興特別所得税,所得税及び住民税の補足説明
3 所得税及び住民税の試算の合計
第4 平成31年度国民健康保険料の試算
1 国民健康保険料の試算
2 その他の情報
第5 平成31年度の税金及び国民健康保険料の試算の合計
第6 他の雑損失との損益通算は可能であること等
1 他の雑損失との損益通算は可能であること
2 税務調査で否認される可能性があること
第7 弁護士登録関係費用は開業費(繰延資産の一種です。)になると思われること
1 弁護士登録関係費用
2 弁護士登録関係費用は開業費に該当すると思われること
3 開業費の計上方法等
4 開業費の償却方法
5 法律書等の書籍代及び勉強会参加費の取扱い
第8 旅費及び移転給付金は非課税所得であると思われること
1 総論
2 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
3 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
第9 修習1年目に支給される基本給付金13万5000円については,原則として確定申告をする必要がないこと
1 一般論として,確定申告が必要なケース
2 初回の基本給付金13万5000円について確定申告をする必要がない場合の具体例
3 修習専念資金の貸与は関係がないこと
第10 修習給付金に関して存在しない文書
第11 関連記事その他

第1 司法研修所の公式見解
1 修習給付金案内の記載
(1) 司法研修所事務局が作成した「修習給付金案内(71期)」に含まれる「所得税等の取扱い」には以下の記載があります(修習給付金案内(72期)にも同趣旨の記載があります。)。

◎所得税・住民税
   修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金は,所得税法上の「雑所得」に該当するため,確定申告の対象となります。
   特に,2年目(平成30年分)については,大多数の方が確定申告をしなければならないと予想されます。詳細は,税務署に問い合わせるなどして確認してください。
(注)(1) 源泉徴収は行われません。
(2) 必要経費として控除することができる経費はありません。
   また,基本給付金及び住居給付金は,所得税のほか,住民税の課税対象になります。
   詳細は,各市区町村のウェブサイトを参照するなどして確認してください。
(2) 修習給付金案内(74期)にも同種の記載があるものの,移転給付金は確定申告の対象外であると明記されるようになりました。

2 支給された基本給付金及び住居給付金の全額が雑所得となること等
(1) 司法研修所の公式見解によれば,修習給付金は雑所得に該当するだけでなく,必要経費として控除することができる経費は存在しないこととなります。
   そのため,支給された基本給付金及び住居給付金の全額が雑所得となりますから,司法修習生に採用された年の翌年(71期司法修習生の場合,平成30年)については,所得税の控除対象扶養親族から外れますし,配偶者控除の適用はないこととなります。
(2) 給与所得者の場合,住宅手当は給与所得として課税対象です(国税庁HPのタックスアンサー(よくある税の質問)「No.2508 給与所得となるもの」参照)。
   また,住宅手当は社会保険料を計算する際の標準報酬月額に含まれます(日本年金機構HPの「厚生年金保険の保険料」,及び全国健康保険協会HPの「標準報酬月額の決め方」参照)。

第2 平成30年中に支給される基本給付金及び住居給付金の合計
1 平成30年中に支給される基本給付金の金額
(1) 71期司法修習生の場合,基本給付金は,初回の支給日は平成29年12月15日であり,2回目の支給日は平成30年1月15日であり,13回目の支給日(最後)は修習終了日である同年12月12日です。
   そのため,平成30年中に支給される基本給付金は12回分となり,最後の支給分は日割り計算となります。
(2) 平成30年中に支給される基本給付金は,
13万5000円×11回分(2回目ないし12回目の支給分)
+13万5000円×16日/30日(日割り計算となった13回目の支給分算)
= 148万5000円+7万2000円
= 155万7000円となります。
(3) 修習終了日は毎年,二回試験の不合格発表日の翌日の水曜日となっています。
   また,司法修習生の修習終了は,修習終了日に開催される最高裁判所裁判官会議(毎週水曜日開催)の報告事項になっています(司法修習生に関する規則16条)。
2 平成30年中に支給される住居給付金の金額
(1) 大阪高裁管内のA班の71期司法修習生の場合,導入修習及び集合修習において通常は司法研修所の寮に居住しますところ,その期間(①平成29年11月27日~12月26日の1か月分,②平成30年8月14日~同月26日の日割り計算分及び③同月27日~9月26日の1か月分)については,実務修習地で空家賃を支払っていたとしても,住居給付金は支給されません。
   そのため,実務修習地で部屋を借りている大阪高裁管内のA班の71期司法修習生の場合,2回目(事実上の初回)の支給日は平成30年2月15日となり,12回目(事実上の10回目)の支給日は修習終了日である同年12月12日となり,13回目(事実上の11回目)の支給日(最後)は平成31年1月15日となります。
(2) 以上の事情を前提とした場合,平成30年中に支給される住居給付金は,
3万5000円×10回分
-3万5000円×13日/31日(9回目(事実上の8回目)となる平成30年9月18日の不支給分の日割り計算)
= 35万円-1万4677円
= 33万5323円であると思います。


3 平成30年に支給される基本給付金及び住居給付金の合計
   155万7000円+33万5323円=189万2323円であり,この金額がそのまま雑所得の金額となります。

第3 平成30年分所得税及び平成31年度住民税の試算の合計
1 基礎控除しか適用されないと仮定した場合の試算
   生命保険料控除,社会保険料控除等が適用されず,基礎控除しか適用されないと仮定した場合の試算は以下のとおりです。
① 平成30年分所得税の試算
(189万2000円-38万円)×5%(所得税率)×1.021(復興特別所得税の加算)= 7万7187円→7万7100円
② 平成31年度住民税(神戸市在住の場合)の試算
(189万2000円-33万円)×10%(所得割)+5800円(均等割)
= 16万2000円
2 復興特別所得税,所得税及び住民税の補足説明
(1) 復興特別所得税は,平成25年分ないし平成49年分の所得税の2.1%です(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興財源確保法)13条)。
(2) 所得税及び住民税では,課税標準額から1000円未満が切り捨てとなり,納税確定額から100円未満が切り捨てとなります(所得税につき国税通則法118条1項及び119条1項,住民税につき地方税法20条の4の2)。
(3) 個人住民税所得割の税率の内訳につき,平成29年度までは市民税が6%,県民税が4%でした。
   また,平成29年度に政令指定都市に係る県費負担教職員の給与負担事務が道府県から政令指定都市へ事務移譲されたことに伴い(平成26年6月4日法律第51号による改正後の市町村立学校職員給与負担法1条及び2条参照),政令指定都市の場合,平成30年度からは市民税が8%,道府県民税が2%となりました(平成29年度は,経過措置として,個人住民税所得割のうち税率2%相当分が道府県から政令指定都市へ交付されました。)。
(4) 5800円の均等割額の内訳は,神戸市の市民税が3500円であり,兵庫県の県民税が2300円です。
   なお,個人住民税の均等割の標準税率は,市町村民税が3000円であり(地方税法310条),道府県民税が1000円です(地方税法38条)。

3 所得税及び住民税の試算の合計
   平成30年分所得税及び平成31年度住民税の試算の合計は,最大で23万9100円となります。
   ただし,平成30年度の国民年金保険料,国民健康保険料等について社会保険料控除の適用を申請した場合,これよりも税金は安くなります。


第4 平成31年度国民健康保険料の試算
1 国民健康保険料の試算
(1) 国民健康保険料(介護分)の負担がない39歳以下の人が神戸市で1人世帯として国民健康保険に加入した場合,平成30年度算定用所得額は189万2000円-33万円=156万2000円となりますから,具体的な金額は以下のとおりとなります。
① 国民健康保険料(医療分)
156万2000円×8.17%(所得割額)+3万710円(被保険者均等割額)+2万1360円(世帯別平等割額)=17万9680円
② 国民健康保険料(後期高齢者支援金分)
156万2000円×3.11%(所得割額)+1万1670円(被保険者均等割額)+8110円(世帯別平等割額)-3870円(緩和措置)=6万4480円
(2) 国民健康保険の算定用所得額を計算する場合,前年の総所得金額から控除されるのは基礎控除33万円(地方税法314条の2第2項)だけです(国民健康保険法81条・国民健康保険法施行令29条の7第2項第4号及び同条第3項第4号「基礎控除後の総所得金額等」参照)。
   つまり,社会保険料控除等のその他の所得控除は適用されないということです。
(3) 平成30年度の神戸市の計算式を前提とした場合,平成31年度国民健康保険料は最大で24万4160円となります。
2 その他の情報
(1) 国民健康保険HPに以下の記事があります。
① 年収別の国民健康保険料【全国平均】
② 主要都市の保険料を比較しよう
→ 平成31年度で言えば,一番安いのが長野県の37万5100円であり,一番高いのが兵庫県の56万5800円です。
(2) 国民健康保険計算機HPを使えば,自治体を選択した後,「年齢区分」及び「その他収入」(受領した基本給付金及び住居給付金の合計額です。)を入力することで,国民健康保険料を計算することができます。

第5 平成31年度の税金及び国民健康保険料の試算の合計
   最大で23万9100円+24万4160円=48万3260円となります。


法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料からの抜粋

第6 他の雑損失との損益通算は可能であること等
1 他の雑損失との損益通算は可能であること
(1) 所得税法35条2項2号は,雑所得の金額について,「その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」と定めています。
   そのため,雑所得内で利益と損失がある場合には損益通算をすることができます。
(2) 修習給付金に基づく雑所得と,採点バイト等に基づく雑損失(バイト収入から書籍代等の必要経費を控除したことによる損失)との間で損益通算をすることはできます。
   そのため,修習給付金に関する税金及び国民健康保険料を減らしたい場合,兼職許可を受けて採点バイト等を行い,雑損失を計上した方がいいかもしれません。
2 税務調査で否認される可能性があること
   採点バイト等に基づく雑損失の計上については,税務調査(国税通則法74条の2ないし74条の13の2参照)で否認される可能性はあります。

第7 弁護士登録関係費用は開業費(繰延資産の一種です。)になると思われること
1 弁護士登録関係費用
(1) 弁護士登録関係費用として少なくとも以下の費用が必ず発生しますし,入会先の単位弁護士会ごとに別途,費用が発生します。
① 登録免許税6万円
・ 登録免許税法別表第一の「三十二 人の資格の登録若しくは認定又は技能証明」の「(三) 弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第八条(弁護士の登録)の弁護士の登録」に基づくものです。
② 日弁連登録料1万円
・ 日弁連会則23条1項1号括弧書きに基づくものです。
③ 登録月の日弁連の会費
・ 平成30年6月以降,日弁連会費が6200円であり(日弁連会則95条2項),日弁連特別会費(日弁連会則95条の3)が4200円です。
(2) 大阪弁護士会で弁護士登録をする場合,大阪弁護士会の入会金として3万円,登録月の大阪弁護士会の会費として7000円を支払う必要があります(月額6000円の会館特別会費の徴収月を入会後3年を経過する月としてもらった場合)。
   また,大阪弁護士会に入会してから4年以内に会館負担金会費40万円を支払う必要があります。
(3) 東京弁護士会HP等に,弁護士登録時の必要費用等が詳しく書いてあります。
(4) 弁護士会の会費は司法修習終了後の経過年数等によって異なります。
2 弁護士登録関係費用は開業費に該当すると思われること
(1) 弁護士登録関係費用については,所得税法2条1項20号(繰延資産の意義)・所得税法施行令7条(繰延資産の範囲)1項3号ホの「イからニまでに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用」に該当するものとして,弁護士業の開業費(繰延資産の一種です。)として必要経費になると思います所得税基本通達2-29の4参照)。
(2) 所得税基本通達2-29の4は以下のとおりです。
   同業者団体等(社交団体を除く。)に対して支出した加入金(その構成員としての地位を他に譲渡することができることとなっている場合における加入金及び出資の性質を有する加入金を除く。)は、令第7条第1項第3号ホに掲げる費用に該当するものとする。
3 開業費の計上方法等
(1) 弁護士業の開業日は弁護士登録をした日以後になると思われますところ,事業所得があるとは限らない勤務弁護士となった日と,事業所得を生ずべき弁護士業を開業した日は異なると思います。
   そのため,修習終了直後の12月に弁護士登録をした場合であっても,即独又は軒弁でない限り,開業日は翌年1月以降になることが多いと思います。
(2) 開業日を翌年1月以降とした場合,開業費は翌年1月以降に計上することとなります。
(3) 開業日は,個人事業の開業・廃業等届出書(いわゆる「開業届」です。)に記載する日付でありますところ,開業届については,国税庁HPの「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」に書式が載っています。
4 開業費の償却方法
・ 開業費の償却方法につき,国税庁HPの「償却期間経過後における開業費の任意償却」には以下の記載があります。
 繰延資産(開業費)の償却費の計算については、60か月の均等償却又は任意償却のいずれかの方法によることとされています(所得税法施行令第137条第1項第1号、第3項)。
 任意償却は、繰延資産の額の範囲内の金額を償却費として認めるもので、その下限が設けられていないことから、支出の年に全額償却してもよく、全く償却しなくてもよいと解されます。
 また、繰延資産となる費用を支出した後60か月を経過した場合に償却費を必要経費に算入できないとする特段の規定はないことから、繰延資産の未償却残高はいつでも償却費として必要経費に算入することができます。
 なお、支出した開業費の内容及びその開業費の額が過年分において必要経費に算入されていないことを明らかにしておく必要があります。
5 法律書等の書籍代及び勉強会参加費の取扱い
(1) 繰延資産とは,不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるものをいいます(所得税法2条1項20号)。
(2) 繰延資産の一種としての開業費とは,不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいいます(所得税法施行令7条1項1号)。
    そのため,法律書等の書籍代及び勉強会参加費は,弁護士業の開業準備のために特別に支出する費用に該当するとまではいえない場合,開業費に該当しないこととなります。
(3) ミツモアMediaに「個人事業主の「開業費」の範囲は?開業費に関する基礎知識」が載っています。


第8 旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
 総論
(1)  「修習給付金案内」には,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金について確定申告が必要であるなどとは書いてありません。
   そのため,司法研修所としては,旅費(交通費,日当及び日額旅費),並びに移転給付金は非課税所得であると考えていると思います。
(2) 公務のための旅行について旅費を支給する法律である国家公務員等の旅費に関する法律(同法1条参照)が,司法修習生が二級の職務に相当するとした上で,司法修習生に準用されています(内国旅行の旅費について(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長依命通達)1(1)及び別表第1)。
   そのため,司法修習生としての採用は所得税法9条1項4号の「就職」に当たり,司法修習生としての司法修習は同号の「職務」に当たると思います。
(3)ア 交通費は,所得税基本通達9-3の「運賃」に該当すると思います。
イ 日当は,所得税基本通達9-3の「運賃等の支出」に該当すると思います。
ウ 研修日額旅費は,所得税基本通達9-3の「運賃,宿泊料等の支出」に該当すると思います。
エ 移転給付金は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税基本通達9-3の「移転料」に該当すると思います。
(4) 司法修習生に対する旅費及び移転給付金は,その金額規模からすれば,所得税基本通達9-3の「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」に該当すると思います(旅費につき令和元年11月25日付の理由説明書参照)。
(5) 大阪国税局としては,司法修習生としての採用は就職ではないため,所得税法9条1項4号の適用はないものの,旅費及び移転給付金については,収入と経費が一致し,結果として課税対象とはならないとしています(「修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解」参照)。
2 導入修習参加のための旅費及び移転給付金の取扱い
   導入修習参加のための旅費(交通費及び日当)並びに移転給付金は,「就職をした者が就職に伴う転居のための旅行をした場合」に支給されるお金ですし,所得税法9条1項4号の条文上,「給与所得を有する者」に支給したものに限定されているわけではありませんから,所得税法9条1項4号に基づき非課税所得であると思います。
3 導入修習参加のためのものを除く,旅費及び移転給付金の取扱い
(1) 旅費
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する交通費及び日当(導入修習参加のためのものを除く。)並びに日額旅費は,給与所得を有する他の裁判所職員と同じように,国家公務員等の旅費に関する法律等に準じて支給されるものです(「内国旅行の旅費について」’(昭和61年9月12日付の最高裁判所事務総長の依命通達)参照)から,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。
(2) 移転給付金
   司法修習生は「給与所得を有する者」に該当しないとはいえ,司法修習生に対する移転給付金(導入修習参加のためのものを除く。)は,国家公務員等に対する移転料と同趣旨で支給されるものですから,所得税法9条1項4号類推適用に基づき非課税所得になると思います。


第9 修習1年目に支給される基本給付金13万5000円については,原則として確定申告をする必要がないこと
1 一般論として,確定申告が必要なケース
   国税庁HPの「確定申告が必要な方」には以下の記載があります(ナンバリングは変えています。)。
① 給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える
② 給与を2か所以上から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える
※ 給与所得の収入金額の合計額から、所得控除の合計額(雑損控除、医療費控除、寄附金控除及び基礎控除を除く。)を差し引いた残りの金額が150万円以下で、さらに各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円以下の方は、申告は不要です。
2 初回の基本給付金13万5000円について確定申告をする必要がない場合の具体例
(1) 賃貸アパート経営に基づく不動産所得等がないことを前提とすれば,導入修習中の12月に支給される初回の基本給付金13万5000円について確定申告をする必要がない場合の具体例は以下のとおりとなります。
①の具体例
   司法修習生になった年に会社員をしていたものの,アルバイトはしていなかったため,1箇所だけの給与所得しかない場合
②の具体例
   司法修習生になった年に会社員をしたり,アルバイトをしたりしていて,2箇所以上の給与所得があるものの,会社員としての給与所得については源泉徴収及び年末調整をされていて,かつ,アルバイト代については6万5000円以下である場合
(2) 初回の住居給付金3万5000円が支給されるのは司法修習生に採用された年(修習2年目)の翌年1月ですから,修習1年目の確定申告とは関係がないです。
3 修習専念資金の貸与は関係がないこと
   修習専念資金は借金であって,所得ではありませんから,修習専念資金の貸与を受けていることを理由に確定申告義務が発生することはありません。


第10 修習給付金に関して存在しない文書
1(1) 平成30年8月23日付の司法行政文書不開示通知書によれば,「最高裁判所が修習給付金について必要経費として控除することができる経費があるかどうかを検討した際に作成し,又は取得した文書」は存在しません。
(2) 平成30年9月26日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
   司法研修所では,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について,必要経費として控除することができる費用が存在するか検討したが, この検討内容については,文書を作成するほどの複雑な内容のものではなかったことから,文書を作成していない。
   なお, この検討結果については,司法修習生に配布した「修習給付金案内」に記載している。
2(1) 平成31年3月1日付の司法行政文書不開示通知書によれば,「修習給付金に関する所得税及び住民税,並びに健康保険の取扱いについて,最高裁判所が自ら税務署,健康保険組合,市区町村等に問い合わせをした上で,その結果を司法修習生に伝えようとしない理由が分かる文書」は存在しません。
(2) 平成31年3月25日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
   修習給付金に関する所得税及び住民税並びに健康保険の取扱いについては,修習給付金制度導入時に,所要の調査,検討を行った上で,司法修習生に周知すべき内容としては「修習給付金案内」に記載した内容とすることが相当であると判断し,現に「修習給付金案内」を配布して周知したものであるが,周知すべき内容の検討のために文書を作成することまではしていないため,個々の調査の結果を司法修習生に周知するか否かの理由を記載した文書も作成又は取得していない。

第11 関連記事その他
1 財務省HPに「電子取引データの出力書面等による保存措置の廃止(令和3年度税制改正)に関する宥恕措置について」が載っています。
2 所得税基本通達2-47は以下のとおりですから,「生活費」と「学資金」を区別しています。
2-47 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
3 以下の記事も参照してください。
① 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
② 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
③ 修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等
④ 司法修習終了翌年の確定申告
 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金
⑥ 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
⑦ 日本弁護士国民年金基金

修習給付金制度等に関する規則案についての司法研修所事務局長の説明

染谷武宣司法研修所事務局長は,平成29年7月12日の第33回司法修習委員会において以下の説明をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。

1 先般の通常国会において,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るために,司法修習生に対し修習給付金を支給する制度の創設などを行うことを内容とする裁判所法のー部を改正する法律が成立し,今年11月1日から施行されることになった。
   これを受け,最高裁判所では,関連する最高裁判所規則の制定あるいは改正の作業を行ってきた。本日は,改正法と規則案の概要について御説明をし,現時点での規則案について御意見をお聞きしたい。

2(1) まず,裁判所法改正の概要から御説明する。今回の法改正は大きく分けて修習給付金制度の創設と司法修習生に対する懲戒に関する規定の整備の二つを内容とするものである。
(2)   修習給付金制度創設の目的,立法理由について,国会で答弁されたところを若干紹介すると,近年,法曹志望者が大幅に減少しており,新たな時代に対応した質の高い法曹を多数輩出していくためにも,法曹志望者を確保していくということが喫緊の課題になっており,特に,法学部生に対する法曹志望に関するアンケート調査でも,貸与制も含めた法曹になるための経済的負担というところが不安要素のーつとして現れていて,平成27年6月の法曹養成制度改革推進会議決定においても,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討することが求められたことから,今般,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るために修習給付金制度が創設されたということである。
(3) 修習給付金は,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間において支給されるものである。
具体的には,司法修習生全員にー律に支給される基本給付金,自ら居住するために住宅を借り受けて家賃を支払っている場合に支給される住居給付金,修習に伴って住所又は居所を移転する必要が認められる場合に支給される移転給付金の3種類からなる。
   これらの給付金の額は最高裁判所が定めるとされており,これから御説明する規則案で具体的な金額を定めているが,同金額は立法の立案過程の段階から念頭に置かれて議論が進んできたものであり,国会でもその旨答弁されたところである。
(4) なお,現行の貸与制については,この修習給付金制度の創設に伴い,貸与額を見直した上で併存させることになった。
   また,裁判所法改正により,名称が従前の修習資金から修習専念資金と変更された。

3 続いて,懲戒に関する規定の整備について御説明する。
これは,品位を辱める行状その他の司法修習生たるに適しない事由が認められる場合に,現在は罷免しか定められていないところ,これに加えて,修習の停止又は戒告の処分をすることができるようにするという内容である。
   それらの処分に該当する事由等については最高裁判所が定めるとされており,これも後ほど規則案のところで御説明する。
   今回の裁判所法改正に伴う最高裁判所規則の制定・改正としては,修習給付金関係で新規の規則を制定するほか,現行のニつの規則,貸与の関係の規則と司法修習生に関する規則をー部改正することとしている。

4(1) まず,司法修習生の修習給付金の給付に関する規則案から御説明する。
   この規則は,修習給付金の額,支給要件,支給手続等を定めている。
   現時点での具体的な条文案については,資料64を御覧いただきたい。
(2) 基本給付金の額については,2条1項のとおり,月額13万5000円を支給することとしている。
   月額といっても,正確には,修習開始日から原則 1か月ずつの期間を取っていき,これを給付期間と呼び,このーつの給付期間ごとに13万5000円ということになる。
   1か月に満たない最後の給付期間や,後ほど御説明する修習停止の期間については,その部分を控除して日割計算で支給額を計算することになる。
(3) 住居給付金については,4条2項で月額3万5000円を支給することとしている。
   先ほど御説明した基本給付金と同様に,日割計算になる場合があるほか,4条3項各号にも日割計算になる期間が定められている。
   特に,導入修習あるいは集合修習の期間中に司法研修所の寮あるいは自宅等に居住した場合には,この期間については.住居給付金は支給されないこととなる。
(4) 移転給付金については,10条,別表になるが,最高裁判所の定める路程,簡単にいえば距離に応じた定額を支給することとしており,具体的な支給額は別表で定めるという関係になる。
   そして,具体的な距離の取り方については,採用時に住んでいた場所を管轄する地方裁判所と司法研修所との間,あるいは司法研修所と実務修習を行う地方裁判所との間を基準として計算することを予定している。
   そして,住居給付金と移転給付金については,法律が定める要件を備えた司法修習生が届け出ると,これに基づいて支給されるという仕組になっている。

5 続いて,司法修習生に関する規則の一部改正案について御説明する。これは,法改正で司法修習生に対する懲戒に関する規定が整備されたことに伴い, 関連する最高裁判所規則を改正するというものである。
   改正後の裁判所法68条が,成績不良,心身の故障等の事由による罷免を定めた1項と,司法修習生たるに適しない非行に当たる事由による罷免,修習の停止,戒告を規定した2項に分けられたことを受け,それぞれの事由を,司法修習生に関する規則,資料66の17条1項,2項で定めることとしている。
   それに加え,新設される修習の停止について, 18条で,停止の期間を1 日以上20日以下とし,停止を命ぜられた司法修習生はその停止の期間中は修習をすることができず,また,修習給付金,具体的には基本給付金と住居給付金の給付を受けることができないと定めている。

6 最後に,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則のー部改正について, 資料66を御覧いただきたい。
修習給付金制度の創設に伴い,現在23万円である貸与の基本額を月額10万円に変更すること,基本額からの増減については,扶養家族がある場合の2万5000円の加算のみ維持し,現行の貸与制における住居を賃借している場合の増額,基本額未満の貸与を廃止することとなる。
   なお,住宅を借りている場合の加算は住居給付金で賄われることとなる。

7 以上が最高裁判所規則案の概要である。いずれの規則も改正裁判所法と同じく本年11月1日の施行を予定している。

*1 同日の司法修習委員会議事録31頁には「修習給付金制度等に関する規則案については,委員会で議論した結果,現時点での規則案のとおり制定ないし改正することが相当である。」と書いてあります。
*2 「司法修習生の修習給付金及び修習専念資金」も参照してください。