第1 本記事で扱う資料と現在の金額
1 結論の要旨
司法修習生の基本給付金は月額13万5000円,住居給付金は月額3万5000円である。
法務省大臣官房司法法制部の平成29年1月付の法律案説明資料によれば,基本給付金の額は,日本弁護士連合会が第68期司法修習生を対象に実施した「修習実態アンケート」で,生活実費及び学資金として月額おおむね13.5万円程度の支出がされていたことを基礎とし,制度の導入理由,貸与制との連続性及び類似の給付・貸付制度との均衡等を総合考慮して決定されたものである。
住居給付金の額は,生活保護制度における住宅扶助額の全国平均(平成27年の単身世帯につき3万4,542円)等を参考に設定されたものである。
2 資料の時点と本記事の範囲
本記事は,令和8年10月17日時点で確認できた裁判所法の現行条文,司法研修所の修習給付金案内(第79期),平成29年1月付の法律案説明資料,平成29年3月の衆議院法務委員会に関する国会答弁資料及び会議録に基づく。
金額の根拠として示された統計や比較対象の数値は,いずれも平成29年の制度設計時のものである。
修習給付金の支給要件,届出及び税務上の取扱いは,末尾の関連記事で扱っている。
第2 法律上の位置付けと現在の金額
1 裁判所法の定め
修習給付金は,平成29年の裁判所法改正で創設され,第71期司法修習生から支給されることになった(國重徹衆議院議員に対する国会答弁資料の3問)。
裁判所法第67条の2第2項は,修習給付金の種類を基本給付金,住居給付金及び移転給付金とする。
同条第3項は,「基本給付金の額は、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であつて、その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。」と定める。
同条第4項は,住居給付金を,司法修習生が自ら居住するため住宅を借り受け,家賃を支払っている場合に支給することとし,その額は「家賃として通常必要な費用の範囲内において最高裁判所が定める額とする。」と定める。
2 最高裁判所規則で定める現在の額
具体的な額は,司法修習生の修習給付金の給付に関する規則で定められている。
司法研修所の「修習給付金案内(第79期)」は,基本給付金の額を一の給付期間につき13万5,000円(規則2条1項),住居給付金の額を一の給付期間につき3万5,000円(規則4条2項)と案内している。
法務省の國重徹衆議院議員に対する国会答弁資料(平成29年3月21日)も,修習給付金の額は最終的には最高裁判所規則で定められることになると説明していた。
第3 基本給付金(月額13万5000円)の根拠
1 法律案説明資料が示す支出の内訳
法律案説明資料の「修習給付金及び修習専念資金の金額について」は,日本弁護士連合会が第68期司法修習生を対象に実施した「修習実態アンケート」によれば,修習期間中に生活実費及び学資金として月額おおむね13.5万円程度の支出がされているとする。
その内訳は,次のとおりである。
①生活実費(合計約9.4万円):食費約4.0万円,交通費約0.9万円,情報通信費約0.9万円,水道光熱費約1.0万円,就職活動費約1.1万円,諸雑費(医療費・衣服費等)約1.5万円
②学資金(合計約4.0万円):学習費約1.0万円,書籍代約0.8万円,OA機器購入費約1.2万円,勉強会参加費約1.0万円
同資料の注記によれば,食費及び水道光熱費は回答中75%を占める住居費支出のある司法修習生の平均値であり,その他の生活実費と学習費は回答者全体の平均値である。
勉強会参加費は,アンケート結果の交際費(2.7万円)のうち,業務時間外に行う弁護士等との勉強会の参加費用として日本弁護士連合会が推計した金額である。
書籍代及びOA機器購入費は,関連書籍・判例集等やパソコン本体・周辺機器等の初期投資費用を月割りで按分した金額として,日本弁護士連合会が推計した金額である。
2 総合考慮された事情
法律案説明資料は,基本給付の額について,上記の生活実態のほか,法曹人材確保の充実・強化の推進等といった制度の導入理由,貸与制との連続性及び類似の給付・貸付制度との均衡等を総合考慮した上で決定されたと説明している。
注記には,次の比較資料が挙げられている。
①総務省統計局の平成27年度の家計調査で,単身世帯の消費支出が合計約16.0万円であること
②日本弁護士連合会が司法修習生に対する給付額として大学院卒者の平均給与額と同水準を要望していたところ,厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査で,大学院卒者の平均給与額(男女計・初任給)が23万1400円であること
③当時の貸与制では,月額23万円(基本額)が希望者に貸与されており,修習給付金(基本給付額)と修習専念資金の貸与額(基本額)を併せた額は23.5万円となる予定であること
3 国会答弁資料での説明
平成29年3月21日の國重徹衆議院議員に対する国会答弁資料(2問)は,基本給付金を月額13.5万円,住居給付金を月額3.5万円とした理由について,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るという制度の導入理由のほか,修習中に要する生活費や学資金等の司法修習生の生活実態その他の諸般の事情を総合考慮するなどして決定したと説明している。
平成29年3月22日の井出庸生衆議院議員に対する国会答弁資料(想定6問)は,日本弁護士連合会の修習実態アンケートの結果も参考として制度設計を検討したと説明している。
同資料によれば,第68期司法修習生の実務修習期間中の標準的な1か月の平均支出月額は約18万1000円であり,このうち住居費の支出を要しない自宅等からの通所者は約13万5000円,アパートを借りるなどして住居費の支出を要する者は約20万7000円であった。
法律案説明資料の「おおむね13.5万円」は生活実費と学資金の内訳を積み上げたものであり,国会答弁資料の「約13万5000円」は自宅等からの通所者の平均支出月額である。
両者は算出の方法が異なるため,同じ数値の資料として扱わないよう注意を要する。
第4 住居給付金(月額3万5000円)の根拠
1 法律案説明資料と国会答弁資料の説明
法律案説明資料は,住居給付の額について,生活保護制度における住宅扶助額の全国平均(平成27年の単身世帯につき3万4,542円)等を参考に設定していると説明している。
井出庸生衆議院議員に対する国会答弁資料(想定8問)も,住居給付金の額は,制度の導入理由のほか,他の給付制度との比較,司法修習生の生活実態その他の諸般の事情を総合考慮して決定したものであるとし,注記で次の数値を挙げている。
「生活保護法における単身世帯の住居扶助額の全国平均は月額3万4,542円。」
「なお,国家公務員については,一般職の職員の給与に関する法律に基づき,住居手当については,月額2万7,000円を上限として支給される。」
同資料は,住居給付金について,司法修習生の修習期間中に要する住居を確保するための資金の一部として,一定の役割を果たすことになるとの所見を記載している。
国家公務員の住居手当の上限額は,国会答弁資料が作成された当時の額である。
2 転居を要する修習生の割合に関する答弁
平成29年3月22日の衆議院法務委員会では,井出議員が,住居給付金及び移転給付金に関連して,転居を要する修習生の割合を質問した。
最高裁判所事務総局人事局長は,その割合は調査したことがないとした上で,貸与制の下で住居加算を申請した者の割合は直近5年間でおおむね2割程度であると答弁した(会議録の発言番号49)。
同じ質疑では,実務修習地の決め方と経済的な事情の扱いも答弁されており,その内容は実務修習地の決め方―国会答弁と情報公開答申から分かる考慮事情と配属割合で紹介している。
第5 移転給付金の額の考え方
法律案説明資料は,移転給付について,修習に伴う住所又は居所の移転につき,国家公務員等の旅費に関する法律が規定する移転料に準拠して支払われると説明している。
同資料の例では,福岡市居住の者が札幌修習となった場合,福岡市から埼玉県和光市,和光市から札幌市,札幌市から和光市の3回分の移転料(計34万0500円)が支給されることになるとされている。
現在の路程別の支給額と届出の手続は,司法修習生の移転給付金―対象となる転居,路程別の支給額,7日以内の移転届及び対象外例で扱っている。
第6 関連記事
①司法修習生に給料はあるか―修習給付金の支給額・手取り,税金,国保・年金及び扶養判定
②司法修習生の住居給付金――支給要件,7日以内の住居届,寮・実家・親名義及び二重家賃
③司法修習生の移転給付金―対象となる転居,路程別の支給額,7日以内の移転届及び対象外例
④修習給付金制度が創設されるまでの経緯
⑤司法修習生の修習給付金の導入理由等
⑥司法修習生の給費制・貸与制・修習給付金制度の比較
⑦66期ないし70期司法修習開始時点における,修習資金の貸与申請状況
⑧修習給付金と最低賃金・物価・技能実習生賃金との比較
⑨生活保護と修習給付金・修習専念資金の比較―同一世帯・同一時点での試算
⑩修習給付金の税務上の取扱い―司法研修所の案内,裁判例及び確定申告
⑪修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決
⑫修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
⑬修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
⑭実務修習地の決め方―国会答弁と情報公開答申から分かる考慮事情と配属割合
⑮司法修習生の修習給付金及び修習専念資金(山中法律事務所のサイト)
第7 出典
①e-Gov法令検索「裁判所法」第67条の2
②司法研修所事務局「修習給付金案内(第79期)」6頁,8頁,10頁及び29頁~30頁(いずれもPDFの頁)
③法務省大臣官房司法法制部「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月)1頁~2頁(PDF3頁~4頁)
④法務省大臣官房司法法制部「平成29年3月21日國重徹衆議院議員(公明党)に対する国会答弁資料」2問及び3問(PDF2頁及び3頁)
⑤法務省大臣官房司法法制部「平成29年3月22日井出庸生衆議院議員(民進党)に対する国会答弁資料」想定6問(PDF2頁~5頁)及び想定8問(PDF7頁)
⑥国会会議録検索システム「第193回国会衆議院法務委員会第5号」(平成29年3月22日)発言番号48及び49