修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決

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目次
1 国税不服審判所の裁決の判断内容
2 本件裁決に基づき,新65期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
(1) 71期以降の法曹関係者の全員について追加の所得税等が発生すること
(2) 修習専念資金の貸与を受けていた71期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
(3) 修習資金の貸与を受けていた新65期ないし70期の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
3 令和3年3月時点の国税不服審判所長等
(1) 本件裁決時の本部所長等
(2) 本件裁決に関する合議体
4 関連記事その他

1 国税不服審判所の裁決の判断内容
・ 国税不服審判所令和3年3月24日裁決(令和3年4月9日送達)(以下「本件裁決」といいます。)の「4 当審判所の判断」(リンク先の11頁(PDF12頁)以下)は下記のとおりであって,結論として,修習給付金は必要経費のない雑所得であり,かつ,修習専念資金の利息相当額も雑所得であると判断しました(見出しを太字にしています。)
・ 争点は以下の三つでした。
① 本件給付金は,所得税法上の学資金に該当し,非課税所得となるか否か。
② 本件費用は,雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。
③ 本件利息相当額は,所得税法上の学資金に該当し,非課税所得となるか否か。

(1) 認定事実
    請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 司法修習生の給費制及び貸与制に係る制度改正等の経緯について
    司法修習生の給費制は、昭和22年に導入され、司法修習生には、その修習期間中、国庫から一定額の給与(扶養手当、調整手当、住居手当、通勤手当、期末手当及び勤勉手当を含む。)が支給され、当該給与は、給与所得として所得税の課税対象とされていた。
    しかし、司法制度改革による財政資金の活用等の理由から、給費制は平成23年10月末に廃止され、同年11月から、申請による給費制相当額の貸与制(修習資金、月額230,000円。以下「旧貸与制」という。) となった。
    旧貸与制は、その後の改正(平成29年法律第23号による裁判所法の一部改正、平成29年11月1日施行)により、同日以後、給費制(修習給付金)及び貸与制(修習専念資金)の併存制度に改められ、司法修習生には、その修習のため通常必要な一定の期間(1年間) 、一律の修習給付金(うち基本給付金の額は月額135,000円。司法修習生の修習給付金の給付に関する規則第2条第1項)を給付することに加え、なお必要な場合には、申請による無利息での修習専念資金(月額100,000円。司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則第3条第1項)の貸付けを行うこととされた。
ロ 基本給付金及び修習専念資金の額の決定経緯等について
    平成29年11月の裁判所法の改正に際し、同法を所管する法務省大臣官房司法法制部が同年1月に作成した説明資料( 「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」と題する資料)には、基本給付金及び修習専念資金の額の決定経緯について、要旨以下のとおり記載されている。
(イ) 基本給付金の額
    基本給付金の額は、生活実費及び学習費等に関する司法修習生の生活実態等を考慮して決定されたものであり、これに関する日本弁護士連合会が第68期の司法修習生を対象に実施した「修習実態アンケート」の結果によれば、以下のとおり、修習期間中に生活実費及び学資金として、月額おおむね135,000円程度の支出がされている。
A 生活実費(合計約94,000円)
・食費(約40,000円)
・交通費(約9,000円)
・情報通信費(約9,000円)
・水道光熱費(約10,000円)
・就職活動費(約11,000円)
・諸雑費(医療費・衣服費等)(約15,000円)
B 学資金(合計約40,000円)
・学習費(約10,000円)
・書籍代(約8,000円)
・OA機器購入費(約12,000円)
・勉強会参加費(約10,000円)
(ロ) 修習専念資金の額
    修習専念資金の額は、司法修習生の修習実態等に鑑みて、司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用として、おおむね100,000円程度が想定されており、これに関する上記(イ)の「修習実態アンケート」の結果及び平成27年度の「家計調査」(総務省統計局)等によれば、その内訳(合計102,000円)は、以下のとおりである。
・社会保険料(約16,000円)
・所得税・住民税等(約5,000円)
・勉強会参加費を除く交際費(約17,000円)
・奨学金返済費用(約6,000円)
・教養娯楽費(旅行費・月謝類等。ただし、書籍費を除く。) (約15,000円)
・理美容・嗜好品等(約14,000円)
・自動車等関係費(約7,000円)
・仕送り金(約3,000円)
・家具家電・衣服購入費等(約19,000円)
(2) 争点1 (本件給付金は、所得税法上の学資金に該当し、非課税所得となるか否か。)
イ 検討
    所得税法第9条第1項第15号にいう「学資」については、所得税法上の定義規定はないことから、その意味は社会通念に従って解すべきところ、「学資」とは、一般に、学問の修業に要する費用を意味すると解される。
    したがって、他から給付された金品が所得税法上の学資金に該当するか否かは、給付当事者の意思解釈として、当該金品が学問の修業に要する費用として給付されたものか否かを問題にすべきである。
    この点、基本給付金は、「司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用」として最高裁判所から支給されるものであるところ(裁判所法第67条の2第3項) 、上記(1)のロの(イ)からすれば、その金額の算定要素は、主として、生活実費(合計約94,000円) と学資金(合計約40,000円)から成り、当該学資金の算定要素には、学習費や書籍代等が含まれていると認められることから、基本給付金の一部は、学問の修業に要する費用の趣旨が含まれているとも考えられる。
    しかしながら、基本給付金は、旧貸与制と異なり、司法修習生の地位に基づいて、個々の司法修習生の申請によることなく、また、その給付を受ける個々の司法修習生が実際に上記のような給付を学問の修業のために必要としているか否かにかかわらず、一方的、かつ、一律に、定額(月額135,000円)が給付されるものである。しかも、司法研修所が司法修習生(第71期)に対して配付した「修習給付金案内」の記載内容からすれば、基本給付金の給付者である国は、司法修習生に対し、基本給付金は、雑所得として申告の必要があること、つまり、非課税の学資として給付するものではないことを明示してこれを給付していることが認められ、そうである以上、司法修習生も、そのことを理解した上でこれを受領しているというべきである。
    以上のような事情の下では、基本給付金の給付当事者の意思解釈として、基本給付金を学問の修業に要する費用として給付したものと解することは困難であり、基本給付金は、修習専念義務を負う司法修習生という地位に起因する特別な給付として、国から給付されるものとみるよりほかはない。
    したがって、基本給付金は、所得税法上の学資金には当たらず、その他、これを非課税とする規定も見当たらないことから、本件給付金は、非課税所得とはならない。
    なお、本件給付金は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得となる(所得税法第35条《雑所得》) 。
ロ 請求人の主張について
(イ) 所得税法上の学資金該当性について
    請求人は、給付型奨学金について国税庁が所得税法上の学資金に該当する旨の解釈を示しているとみられることや、甲南大学法科大学院がA種特待生に対して支給している月額15万円の給付金について所得税法上の学資金に該当すると思われることから、所得税法上の学資金には、学術又は技芸の習得に専念する目的で使用される生活費も含むものであるとし、基本給付金も、その支給目的が、司法修習生が学術又は技芸の習得である司法修習に専念するのに必要な生活費を賄えるようにすることであるから、上記給付型奨学金や給付金と同様に、所得税法上の学資金に該当する旨主張する。また、請求人は、東京都認証保育所の保育料助成金が所得税法上の学資金に該当するという取扱いを受けていること、及び、貸金業の規制等に関する法律施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令附則第20条第2項第2号イの「学資としての資金」には、学校教育法上の「学生」に限らず人材育成のための教育訓練を受けている者に対するものや児童又は幼児の保育料という学術又は技芸の習得とは関係のないものも含まれると解されていることとの均衡からすると、本件給付金も、所得税法上の学資金に該当すると主張する。
    しかしながら、所得税法上の学資金該当性の判断要素は、上記イのとおりであって、そもそも、司法修習及びその給付金の制度は、司法修習の制度趣旨や制度設計等を踏まえ、上記(1)の経緯を経て、裁判所法等で個別に規定された制度であって、他の制度に係る課税上の取扱いをもって、直ちに基本給付金の課税上の取扱いが決定づけられるものではない。しかも、請求人が指摘する給付型奨学金は、「学資として支給する資金」と条文に明記されている上、経済的理由により修学に困難があるものを対象とし(独立行政法人日本学生支援機構法第17条の2第1項) 、かつ、学業成績等によって返還を求められることもあるものである(同法第17条の3) 。また、甲南大学法科大学院の給付金は、経済的事情により学修の継続が困難な場合に支給されるもので、その支給目的も学習奨励のためとされ、入学試験の成績が支給要件となっていると認められる(請求人提出資料) 。そして、東京都認証保育所の保育料助成金は、そもそもが飽くまで保育料の助成である。このように、請求人が指摘する上記各支給金は、いずれも、無償である司法修習制度の下で、司法修習生の地位があれば当然に国から給付される基本給付金とは、その趣旨、目的や対象等を異にする別の制度である。また、貸金業の規制等に関する法律は、そもそも、裁判所法とはその趣旨及び目的を大きく異にする法律であるし、「学資としての資金」との文言が明記された他の法律の当該文言の解釈によって、裁判所法に規定された基本給付金の課税上の取扱いに係る上記イの解釈が左右されるものではない。
    したがって、このような他の制度等の課税上の取扱いや解釈が、本件給付金が所得税法上の学資金に該当しないとの上記イの判断に影響を及ぼすものではないから、請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 憲法第14条第1項違反について
    請求人は、職業訓練受講給付金は、本件給付金と同様、職業訓練期間中の生活を支援するための給付であるところ、職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律第10条により、非課税所得とされているにもかかわらず、本件給付金を雑所得として課税対象とするのは、不合理な差別であって、憲法第14条第1項に違反し、許されないと主張する。
    しかしながら、職業訓練受講給付金は、雇用保険を受給できない求職者が、ハローワークの支援指示により職業訓練を受講する場合の職業訓練期間中の生活を支援するために給付されるものであるところ(請求人提出資料) 、その給付がされるには、本人の収入が月8万円以下であること等本人や配偶者等の収入及び資産が一定額以下であることなどの要件を満たす必要がある(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律施行規則第11条《職業訓練受講手当》第1項)など、職業訓練中の受給者の最低生活を保障することを主たる目的とするものと認められ、司法修習生に一律、定額が支給される基本給付金とは、その趣旨や目的、対象等を異にする別の制度である上、基本給付金と異なり、非課税とする旨の立法上の措置がされているものである(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律第10条。なお、立法上の措置がされていないことの違憲判断は当審判所の審理の限りではない。) 。
    したがって、このような他の異なる制度の課税上の取扱いと本件給付金の課税上の取扱いが異なることは、何ら不合理なものではないから、請求人の主張には理由がない。
(3) 争点2 (本件費用は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。)
イ 検討
    所得税法第37条第1項は、その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、雑所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他雑所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、かかる規定に照らせば、雑所得の金額の計算上、ある費用が必要経費に算入されるためには、客観的にみて、当該費用が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要であることを要すると解される。
    これを本件についてみると、司法修習生が司法修習に専念する上で種々の費用が必要となるのは請求人の主張のとおりであるところ、かかる費用を負担して従事する司法修習自体は、無償のものとして国によって実施されるものである。そして、上記(2)のイからすれば、その無償の司法修習に従事する上で種々の費用が必要となることから、司法修習生という地位に起因する特別な給付として基本給付金が給付されるという関係にあると解されるのであって、司法修習生が基本給付金を得るために司法修習に従事するという関係にあるわけではなく、そうである以上、司法修習が基本給付金という所得を生ずべき業務であると解することはできないし、また、司法修習生が基本給付金を得るために種々の費用を支出する関係にあるわけでもない。
    したがって、本件費用は、いずれも本件給付金を得るために直接要した費用ではないのは明らかであって、客観的にみて、所得を生ずべき業務と直接関係する支出とも、当該業務の遂行上必要な支出ともいえない。
    以上からすると、本件費用は、請求人の雑所得の金額の計算上、必要経費に算入できない。
ロ 請求人の主張について
(イ) 本件費用の必要経費該当性について
    請求人は、司法修習生が修習課程で用意されているカリキュラムへ出席することは修習専念義務の中核をなすものであり、司法修習生考試は司法修習生が修習を終了するために必ず受験しなければならないものであるから、本件交通費は、本件給付金を得るために直接要した費用であり、また、司法修習生は、高い見識と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努める義務があるため、法律に関する書籍代、衣服購入費等、交際費及び名刺代は、雑所得である本件給付金を生ずべき業務について生じた費用であると主張する。
    確かに、司法修習生が修習に専念し、高い見識と円満な常識を養うように努めるなどする上で、種々の費用が必要となることは、請求人が主張するとおりであるが、上記イのとおり、無償の司法修習に従事する上での費用が必要となることから基本給付金が給付されるのであって、司法修習生が基本給付金を得るために司法修習に従事するという関係にあるわけでも、司法修習生が基本給付金を得るために交通費その他の費用を支出する関係にあるわけでもないことからすると、請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 農業次世代人材投資資金(準備型)の課税上の取扱いとの比較について
    請求人は、農業次世代人材投資資金(準備型)が、研修の対価として支給されるものではないにもかかわらず、交通費や授業料など研修に要した費用を必要経費に算入できるとされていることとの均衡からしても、基本給付金が修習の対価でないことをもって、基本給付金に係る必要経費が存在しないとはいえない旨主張する。
    しかしながら、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、農業次世代人材投資資金(準備型)は、次世代を担う農業者となることを志向する者の就農前の研修を後押しするための資金で、都道府県が認める道府県の農業大学校等の研修機関等で研修を受ける就農希望者に対して交付されるものであると認められ、国が直接主宰する無償の司法修習に伴って支給される基本給付金とは、その趣旨や目的、対象等を異にする別の制度であることからすると、農業次世代人材投資資金(準備型)に係る課税上の取扱いが上記イの判断に影響を及ぼすものではなく、請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 憲法第14条第1項違反について
    請求人は、農業次世代人材投資資金(準備型)については、その研修に要した費用を必要経費に算入できるとされているにもかかわらず、本件給付金について、必要経費の控除を一切認めないのは、必要経費の実額控除が認められている他の雑所得者等との関係において不合理な差別であって、憲法第14条第1項に違反し、許されないと主張する。
    しかしながら、農業次世代人材投資資金(準備型)は、上記(ロ)のとおり、国が直接主宰する無償の司法修習に伴う基本給付金とは異なるものであって、課税上の取扱いに差異があっても何ら不合理ではないから、請求人の主張には理由がない。
(4) 争点3 (本件利息相当額は、所得税法上の学資金に該当し、非課税所得となるか否か。)について
イ 検討
(イ) 経済的な利益について修習専念資金の貸与を受けた司法修習生は、通常の金銭消費貸借取引であれば利息の負担が生ずるところ、裁判所法第67条の3の規定により、無利息で資金の貸与を受けている。そして、無利息で資金を貸与された者は、通常であれば支払う必要のある利息相当額の支払を免れ、実質的に同額の利益を得たことになるから、請求人には、修習専念資金の貸与により、所得税法上、利息相当額の経済的利益が生ずることになる。
    これは、国が金銭の貸付けを行う場合、本来的には利息を徴することが原則とされている(国の債権の管理等に関する法律第10条) ことに照らし、当該無利息貸付けに係る法令の規定がなければ支払うことになるであろう利息相当額が、所得税法上の経済的な利益として観念されることによるものである。
    したがって、本件利息相当額は、所得税法第36条第1項に規定する「経済的な利益」に該当する。
(ロ) 所得税法上の学資金該当性について
    本件利息相当額が所得税法上の学資金に該当するかについては、経済的な利益自体は、そもそも、所得税法第9条第1項第15号に規定する「給付される金品」には当たり得ないから、その発生原因である修習専念資金が所得税法上の学資金に該当するか否かにより決すべきである。
    そして、その判断は、上記(2)のイと同様、給付当事者の意思解釈として、修習専念資金が学問の修業に要する費用として給付されたものか否かを問題にすべきである。
    ところで、現行の司法修習生に対する給付制度は、上記(1)のイのとおり、旧貸与制と異なり、裁判所法第67条の2による給費の制度(修習給付金の支給)と、同第67条の3による無利息貸付けの制度(修習専念資金の貸与) とが併存している。
    そして、修習専念資金は、「司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であって、修習給付金の支給を受けてもなお必要なもの」(裁判所法第67条の3第1項括弧書) として、申請により国から貸与されるものであるところ、上記(2)及び(3)のとおり、現行の裁判所法は、司法修習生が司法修習に専念する上で種々の費用が必要となることから、それに必要な費用相当額については、司法修習生という地位に伴う特別な給付として、修習給付金を給付することとしたものと解される。実際に、その金額の算定方法をみても、上記(1)のイのとおり、旧貸与制の下での修習資金は、司法修習生がその修習に専念することを確保するための金額として、月額230,000円とされていたところ(平成29年法律第23号による改正前の同法第67条の2第1項) 、上記(1)のロからすれば、現行の裁判所法においては、このうち、いわゆる学資金的な要素といえる学習費、書籍代、OA機器購入費及び勉強会参加費は、既に基本給付金の金額の算定の段階で考慮され、月額135,000円の基本給付金の中に織り込まれているといえる。
    他方、修習専念資金(上記月額残の約100,000円)の算定要素は、上記(1)のロからすれば、社会保険料、所得税・住民税等、勉強会参加費を除く交際費、奨学金返済費用、教養娯楽費、理美容・嗜好品等、自動車等関係費、仕送り金及び家具家電・衣服購入費等などであると認められるのであって、これらは、必ずしも直接司法修習に専念するために必要なものとはいえないものであり、そうすると、修習専念資金は、むしろ、その周辺の純然たる生活費としての性質が強いものといえる。
    以上の事情に加え、上記(1)の事実及び上記(2)で検討したところからすれば、現行の裁判所法は、|日貸与制の下での修習資金(月額230,000円)から、直接司法修習に専念するために必要と考えられる費用(月額135,000円)を基本給付金として切り分けた上で、これを学資とはせず、司法修習生たる地位に伴う特別な給付として給付することとしたことをも併せ考慮すると、逆に、その周辺の純然たる生活費としての性質が強い費用(上記月額残の約100,000円)に限っては、学問の修業に要する費用として貸し付けることとしたと解することは、給付に係る当事者の意思解釈として、困難である。
    以上からすると、修習専念資金は、修習専念義務を負う司法修習生の生活補助のために貸し付けられるものというべきであり、所得税法上の学資金には該当しないから、本件利息相当額も、所得税法上の学資金には該当せず、非課税所得とはならない。
    なお、本件利息相当額も、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得となる。
ロ 請求人の主張について
    請求人は、修習専念資金は、司法修習生の通常の支出のうち修習給付金では賄われない費用を補填する趣旨を有する金員であるから、基本給付金と同様の性格を有するといえる旨主張する。
    しかしながら、上記イのとおり、修習専念資金は、純然たる生活費としての性質が強く、生活補助のために貸し付けられるものというべきであるから、請求人の主張は採用することができない。
(5) 原処分の適法性
イ 本件通知処分について
    上記(2)及び(4)のとおり、本件給付金及び本件利息相当額は、いずれも所得税法上の学資金に該当せず、雑所得の金額の計算上総収入金額に算入され、また、上記(3)のとおり、本件費用は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入されない。
    これらに基づき、請求人の平成30年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、別表2の「更正処分」欄の各金額といずれも同額となり、確定申告書に記載された総所得金額及び納付すべき税額が過大であるとは認められない。
    なお、本件通知処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
    したがって、本件通知処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
    上記イのとおり、請求人の平成30年分の総所得金額及び所得税等の納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額である。
    なお、本件更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
    したがって、本件更正処分は適法である。
(6) 結論
    よって、審査請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり裁決する。



2 本件裁決に基づき,新65期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
(1) 71期以降の法曹関係者の全員について追加の所得税等が発生すること
    国税不服審判所は,修習給付金は必要経費のない雑所得であるとする司法研修所の公式見解(修習給付金案内の「所得税等の取扱い」のことです。)を追認しました。
    そのため,司法研修所の公式見解と異なる考えに基づき,修習給付金について必要経費を計上していた場合,過少申告していたこととなりますから,修正申告をする必要があります。
(2) 修習専念資金の貸与を受けていた71期以降の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
ア 司法研修所の公式見解では言及されていませんでしたが,修習専念資金は無利息であるため,修習専念資金に係る利息相当額は経済的利益として雑所得の総収入金額に算入されることとなります。
イ 本件裁決に関する審査請求人の場合,平成30年1月から同年12月にかけて修習専念資金の残高が増加していったことを考慮した計算の結果,修習専念資金に係る利息相当額は1万1286円となりました。
ウ 2019年以降,130万円の修習専念資金が残ったままですから,返済を開始しない限り,毎年,130万円✕1.6%=2万800円の経済的利益を受け続けていることとなる結果,司法修習生をしていた年分まで遡って修正申告をする必要があります。
    この場合,これに対して5%以上の所得税及び10%の住民税が発生しますし,国民健康保険に加入している場合,国民健康保険料も高くなります。
エ 平成30年以降の「通常の利率」は,年1.6%です(国税庁HPの「No.2606 金銭を貸し付けたとき」参照)。
(3) 修習資金の貸与を受けていた新65期ないし70期の法曹関係者について追加の所得税等が発生すること
ア 修習資金は修習専念資金と同様,修習専念義務を追う司法修習生の生活補助のために無利息で貸し付けられたものです(平成29年法律第23号による改正前の裁判所法67条の2第1項参照)から,修習資金に係る利息相当額も経済的利益として雑所得の総収入金額に算入されると思います。
イ 23万円の修習資金を13回借りていた場合,その残高は299万円であって,299万円の修習専念資金が残ったままである場合,299万円✕1.6%(平成30年以降の利率)=4万7840円の経済的利益を受け続けていることとなる結果,後述するとおり,平成27年分まで遡って修正申告をする必要があります。
    この場合,これに対して5%以上の所得税及び10%の住民税が発生しますし,国民健康保険に加入している場合,国民健康保険料も高くなります。
ウ 税務署長による増額更正は法定申告期限から5年間可能です(国税通則法70条1項1号)。
    そのため,令和3年4月現在,平成27年分以降の所得税が増額更正の対象となります。
エ 住民税の増額の賦課決定は,所得税について更正があった場合,法定納期限から5年間可能です(地方税法17条の6第3項1号)。

3 令和3年3月時点の国税不服審判所長等
(1) 本件裁決時の本部所長等
ア 国税不服審判所長は42期の東亜由美裁判官であり,大阪国税不服審判所長は43期の川畑正文裁判官でした。
イ 裁判官出身の大阪国税不服審判所国税審判官として59期の梅本聡子裁判官がいました。
(2) 本件裁決に関する合議体(大阪国税不服審判所神戸支所の人です。)
① 担当審判官の一瀬圭子
→ 直前のポストは多分,高知県安芸市にある安芸税務署長です(ほうじん安芸23号8頁)。
② 参加審判官の堀田善之
→ 夕陽ケ丘法律事務所(大阪市天王寺区上本町)に所属している63期の弁護士でしたが(大阪弁護士会HPの「堀田善之(ほったよしゆき)」参照),令和3年5月14日に弁護士登録を取り消しています。
③ 参加審判官の武井幸造
→ 直前のポストは多分,兵庫県西脇市にある西脇税務署総務課長です(税の筬(おさ)2019年夏号2頁参照)。
(3)ア 公認会計士・税理士 大橋誠一事務所HP「【0049】国税不服審判所の4月異動」には以下の記載があります。
    私が在籍していた大阪国税不服審判所は2年ごとに所長(裁判官)と法規審査担当の審判官(裁判官)が揃って異動になりますが、前任の所長の最後の事案の決裁が3月20日頃で、後任の所長の最初の事案の決裁が4月20日頃になっていました。
    前任の所長も後任の所長も離着任の挨拶回りがありますし、特に後任の所長は、現在係属している事案の概要の把握などがありますので、それによって決裁の空白時期が1か月程度生じていました。
イ 令和3年4月1日現在,45期の西村欣也裁判官が大阪国税不服審判所長に就任しました。

 


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(1) 本件裁決については,原処分の取消しを求めて令和3年5月11日,大阪地裁に取消訴訟を提起しました。
(2) 課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象は,当該課税処分によって確定された税額の適否であり,課税処分における税務署長の所得の源泉の認定等に誤りがあっても,これにより確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ,当該課税処分は適法です(最高裁平成4年2月18日判決)。
(3)ア 生命保険金を年金で受け取った場合,雑所得として課税することは二重課税に当たるかどうかが争われた長崎年金訴訟の場合,納税者は,国税不服審判所裁決では審査請求を棄却され,長崎地裁平成18年11月7日判決(判例秘書に掲載)で勝訴し,福岡高裁平成19年10月25日判決(判例秘書に掲載)で逆転敗訴し,最高裁平成22年7月6日判決で逆転勝訴しました。
    その結果,国税庁は,過去5年分の所得税については更正の請求を経て減額更正を行うことで返金しました(「最高裁破棄自判の波紋、長崎年金訴訟は二重課税!-実務に影響大、野田財務相発言と国税庁の対応-」参照)。
イ 「長崎年金二重課税事件―間違ごぅとっとは正さんといかんたい!」という書籍 に関するアマゾンの説明文には「毅然と立ち上がった勇気ある納税者とたった一人の税理士が国を動かした。二〇万件、三〇〇億円の衝撃。苦節七年にわたる裁判ドキュメント。」と書いてあります。
(4) 東弁リブラ2009年2月号「租税争訟における弁護士の役割」が載っています。
(5) 幻冬舎GOLD ONLINEの「国税不服申し立てで「勝つ」確率を少しでも高くするには?」には以下の記載があります。
     「審査請求」では公開裁決が採用されているので、審査の結果が公表される場合があります。メンツを重んじる税務署員にとって、負けた結果が公表されるのは当然避けたいことですから、万が一「審査請求」で税務署側が負ける可能性があると思えば、「再調査の請求」の時点で認容してくれるかもしれません。
(6) 以下の資料を掲載しています。
・ 裁決書起案の留意事項
→ 31頁には以下の記載があります。
     最高裁は、租税法規の解釈について、ある時は言葉に忠実に、またある時は言葉の本来の意味から離れて、限定解釈したり、逆に拡張解釈したりと、一貫性があるとはいえず、悪く言えばご都合主義的であり(したがって、事前に予測しにくい。) 、任命された最高裁判事の個性やメンタリテイによって多少のブレが認められるものの、概ね、①法規の文理が明確と判断し、その文理に即した解釈の結果が規程の趣旨・目的に合致すると判断した場合には、文理解釈をメインに置き、趣旨・目的をその文理解釈による結論を支えるものとして位置づけ、②文理が不明確と判断した場合や文理解釈の結果が不合理と判断した場合に、趣旨解釈によって法規の意味を明らかにすべきであるという解釈原理を採る傾向があるといえる(納税者に有利・不利を問わない。) 。
 裁決書起案の留意事項(参考資料)
 裁決書の概要
→ 平成29年7月1日以降に審査請求書を収受する事件から,原則として「新たな裁決書方式」により裁決書が作成されています。
・ 課税関係訴訟事務処理要領(平成20年6月23日付の国税庁の事務運営指針(平成26年6月30日最終改正))
(7) 以下の記事も参照してください。
(公式見解等)
 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
 司法修習生の旅費に関する文書
 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
 司法修習終了翌年の確定申告
(公式見解に反対する見解)
・ 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
→ 修習給付金は学資金(所得税法9条1項15号)に該当する可能性があります。
・ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
 修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等
 修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
(その他)

・ 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
→ 現行65期までの司法修習生に対する給費は,職務の対価ではなく,修習に専念させるための配慮に過ぎないとのことです。
・ 歴代の国税不服審判所長
 令和元年7月採用の国税審判官の研修資料
 国税庁長官及び東京国税局長の事務引継資料(令和元年7月頃の文書)

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