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司法修習生の給費制・貸与制・修習給付金制度の比較(AIリライト)

第1 司法修習生への経済的支援は三段階である

司法修習生に対する経済的支援は,給費制と修習給付金制度だけを対比すると全体像を捉えられない。新64期及び現行65期までの給費制,新65期から70期までの修習資金貸与制,71期以降の修習給付金制度と修習専念資金貸与制という三段階に分ける必要がある。

「現行65期」は旧制度による長期修習の最終期であり,「新65期」は新制度による修習の期である。名称は似ているが,現行65期には給費制が適用され,新65期には給費がなく修習資金貸与制が適用された点で制度上の位置付けが異なる。

区分対象期支給又は貸与の内容返還税・社会保険の骨格
給費制新64期及び現行65期まで給与及び所定の手当不要給与所得であり,裁判所共済組合の対象であった
修習資金貸与制新65期~70期無利息の修習資金必要給与及び修習給付金の支給はなかった
修習給付金制度と修習専念資金貸与制71期以降基本給付金,住居給付金,移転給付金及び希望者への無利息貸与給付金は不要,貸与金は必要基本給付金及び住居給付金は雑所得であり,裁判所共済組合には加入しない
司法修習生に対する支給等一覧

上の図は,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会に提出された答弁参考資料である。三制度の違いを一覧化した歴史資料として有用であり,71期以降の金額が現在も維持されていることは,第79期の最新案内で別に確認できる。

第2 給費制(新64期及び現行65期まで)

1 給与及び各種手当

給費制下の司法修習生には,改正前の裁判所法67条2項に基づいて給与が支給された。新64期の給与月額は20万4200円であり,扶養手当,住居手当,通勤手当,地域手当,寒冷地手当,期末手当及び勤勉手当も,それぞれの要件に応じて支給された。

司法修習生は裁判所共済組合の組合員であり,健康保険及び年金について同組合の制度が適用された。修習終了後も,要件を満たせば国家公務員共済組合の任意継続制度による短期給付等を受けることができたため,71期以降とは社会保険上の取扱いも異なる。

2 給与所得と確定申告

給費制による給与は給与所得として源泉徴収等の対象となった。ただし,「給与所得であるから確定申告が不要であった」と一律に説明することはできず,年末調整の有無,他の所得,医療費控除その他の事情によって申告の要否は異なる。

給費制と71期以降の修習給付金制度との税務上の主要な違いは,前者が給与所得であるのに対し,後者の基本給付金及び住居給付金は雑所得として扱われる点にある。

第3 新65期から70期までの修習資金貸与制

1 給与も給付金もない無利息貸与

平成23年11月採用の新65期から70期までについては,給費制が廃止され,修習給付金制度もまだ存在しなかった。希望する司法修習生が最高裁判所から無利息の修習資金を借りる仕組みであり,貸与金は生活費の給付ではなく返還義務を伴う債務である。

司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則によれば,一貸与単位期間の基本額は23万円であった。希望者は18万円を選択でき,扶養親族又は賃借住宅に関する要件を満たす場合は25万5000円,両方の要件を満たす場合は28万円とすることができた。

2 保証及び返還

貸与を受けるには,自然人2人による人的保証又は最高裁判所が指定する金融機関による機関保証が必要であった。返還は修習終了後5年間据え置かれ,その後10年間の年賦によることが原則とされた。

この新65期から70期までが,一般に「谷間世代」と呼ばれる。給費制の給与も71期以降の修習給付金も受けていないため,三制度を比較する際には独立した区分として扱う必要がある。

第4 71期以降の修習給付金と修習専念資金

1 基本給付金・住居給付金・移転給付金

裁判所法67条の2は,修習給付金を基本給付金,住居給付金及び移転給付金の三種類としている。最高裁判所の制度案内及び第79期修習給付金案内によれば,基本給付金は一給付期間につき13万5000円である。

住居給付金は,司法修習生が自ら居住するため住宅を借り受け,家賃を支払い,所定の届出をした場合に,一給付期間につき3万5000円が支給される。すべての司法修習生に一律に支給されるものではなく,届出期限を過ぎた場合は原則として受給できない。

移転給付金は,修習に伴って住所又は居所を移転する必要があると認められる場合に,最高裁判所が定める路程に応じた定額が支給される。これは日々の通勤費に対応する通勤手当とは別の制度である。

修習給付金には,給費制の地域手当,扶養手当,通勤手当及び寒冷地手当に対応する給付はない。扶養親族がいる場合に増額されるのは,次に述べる返還義務のある修習専念資金であり,基本給付金の扶養加算ではない。

2 修習専念資金による補完

裁判所法67条の3は,修習給付金の支給を受けてもなお必要な資金を,申請により無利息で貸与する修習専念資金制度を定めている。最高裁判所の現行案内によれば,一貸与単位期間の基本額は10万円であり,扶養親族を有して所定の手続をした場合は12万5000円となる。

修習専念資金も,自然人2人による人的保証又は指定金融機関による機関保証を要する。返還は修習終了後5年間据え置かれ,その後10年間の年賦によることが原則であり,給付金と貸与金を混同してはならない。

3 制度創設後の金額据置き

令和7年12月11日の衆議院法務委員会で,最高裁判所長官代理者は,基本給付金13万5000円及び住居給付金3万5000円は,平成29年11月採用の71期から変更されていないと答弁した。また,その時々の物価水準に合わせて逐次変更することまでを想定した金額ではないとの認識を示した。

したがって,制度創設時の金額は,令和8年の第79期でも維持されている。これは制度の現在性を判断する際に重要であり,創設時の資料だけでなく第79期案内による確認が必要である。

第5 税務・社会保険・移動費の違い

1 基本給付金等の所得税及び住民税

第79期案内は,基本給付金及び住居給付金を所得税法上の雑所得とし,所得税及び住民税の課税対象としている。源泉徴収は行われず,必要経費として控除できる経費はないと案内されている一方,移転給付金は確定申告の対象外とされている。

もっとも,「雑所得に該当すること」と「すべての受給者に確定申告義務が生じること」は同じではない。同案内も,具体的な手続の要否,時期及び方法は個々の司法修習生の事情によって異なるとしているため,他の所得等を含めて税務署に確認する必要がある。

2 健康保険及び年金

71期以降の司法修習生は,裁判所共済組合の健康保険及び年金保険には加入できない。ただし,そのことから全員が同じ手続をするわけではない。

健康保険について,既に国民健康保険に加入している者は原則として加入を継続する。勤務先の被用者保険に加入していた者又は家族の被扶養者であった者は,保険者の認定に応じて国民健康保険への加入等が必要となる場合がある。

年金について,既に国民年金第1号被保険者である者は資格変更がない。厚生年金の第2号被保険者又は被扶養配偶者である第3号被保険者は,原則として第1号被保険者への変更が必要となる。

3 通勤手当・旅費・移転給付金

71期以降の司法修習生には給与法上の通勤手当が支給されない。しかし,修習に伴う移動費用がすべて自己負担となるわけではない。

平成25年4月3日の衆議院法務委員会会議録によれば,最高裁判所は,採用内定時の住所地から実務修習地への移動,集合修習に参加するための実務修習地から司法研修所への移動及び実務修習中の事件出張等について,国家公務員に準じて旅費を支給している。最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和2年度(最情)答申第23号も,司法修習生に交通費及び日当から成る旅費が支給されるという前提で,その実費弁償性から所得を構成しないとする取扱いを記録している。71期以降の移転給付金は,これらの旅費及び日常の通勤費とは別に,住所又は居所の移転に着目した給付である。

第6 給費制廃止と修習給付金課税をめぐる裁判例

1 給費制廃止違憲訴訟

名古屋地裁平成29年12月20日判決(平成25年(行ウ)第78号)は,新65期司法修習生らによる給費支払請求,国家賠償請求及び損失補償請求をいずれも棄却した。同判決は,司法修習生の身分,修習専念義務及び給費制の沿革を検討した上で,給費制の廃止が直ちに憲法上保障された給費請求権を侵害するとは認めず,新65期と給費制適用期との区別等について憲法14条1項違反も否定した。

名古屋高裁令和元年5月30日判決(平成30年(行コ)第5号)は控訴を棄却した。これらは貸与制を政策として評価した判決ではなく,原告らが主張した憲法上の権利,平等原則,国家賠償及び損失補償の成否を判断した裁判例である点に留意を要する。

2 基本給付金及び無利息利益の課税訴訟

大阪地裁令和4年12月22日判決(令和3年(行ウ)第48号)は,基本給付金155万7000円が所得税法9条1項15号の「学資に充てるため給付される金品」には当たらず,雑所得になるとした。さらに,司法修習のために支出した交通費,書籍代及び衣服代等の必要経費算入を認めず,無利息の修習専念資金について支払を免れた利息相当額1万1286円も,経済的利益として雑所得の総収入金額に算入すべきものとした。

大阪高裁令和5年7月26日判決(税務訴訟資料第273号・順号13866)は控訴を棄却した。最高裁令和5年12月22日決定を経て確定したことは,最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和6年度(最情)答申第19号に記載されているが,最高裁決定の事件番号及び決定本文は公表資料から確認できない。

第7 給費制維持運動と谷間世代への施策

1 給費制の廃止と1年間の施行延期

平成16年法律第163号は給費制を廃止して修習資金貸与制へ移行することとし,日弁連は平成16年12月3日会長談話で給費制の堅持を求めた。平成22年度の日弁連会務報告書によれば,日弁連は給費制維持を求める約67万筆の署名を集約し,平成22年法律第64号によって貸与制の施行は1年間延期された。

その後,平成23年11月に新65期から貸与制が施行され,平成29年法律第23号によって71期から修習給付金制度が始まった。その結果,新65期から70期までが給与も修習給付金も受けなかった谷間世代となった。

2 平成30年の総会決議と日弁連給付金

日弁連第69回定期総会議事概要によれば,平成30年5月25日の定期総会は,修習環境の整備と谷間世代に対する施策の早期実現に力を尽くす決議を可決した。他方で,最高裁判所に新65期から70期までの修習資金返還請求の撤回を求める別の会員発議は否決されており,両議案を混同してはならない。

日弁連は平成31年3月1日の臨時総会で,修習期間中に給与及び修習給付金のいずれも受けなかった会員への給付金制度を創設した。東京国税局の文書回答によれば,所定の要件を満たす対象会員に20万円を1回給付する制度であり,この日弁連給付金は一時所得に当たる。司法研修所の基本給付金及び住居給付金が雑所得となることとは区別を要する。

第8 関連する記事

出典・参考資料

1 法令及び裁判所資料

2 裁判例

3 国会・日弁連・税務資料

4 文献

  • ① 木山泰嗣「最新判例・係争中事例の要点解説(第184回)司法修習生の基本給付金は『学資に充てるため給付される金品』にあたらず非課税ではないとされた事例」『税経通信』2026年1月号115頁~124頁
  • ② 自由法曹団編『自由法曹団物語』(日本評論社,2021年)357頁~367頁