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修習給付金の税務上の取扱いと課税を争う手続(AI作成)

第1 修習給付金の種類と現在の税務上の取扱い

1 三種類の修習給付金

裁判所法67条の2は,修習給付金を基本給付金,住居給付金及び移転給付金の三種類としている。最高裁判所の司法修習生の修習給付金についてによれば,基本給付金は一給付期間につき13万5000円であり,所定の要件を満たす場合の住居給付金は一給付期間につき3万5000円である。移転給付金は,修習に伴う住所又は居所の移転が必要と認められる場合に,路程に応じた定額として支給される。

種類制度上の内容第79期案内における所得税上の取扱い
基本給付金修習期間中の生活を維持するために必要な費用を勘案した給付雑所得として確定申告の対象,必要経費なし
住居給付金自ら居住する住宅を借り受けて家賃を支払う場合の給付雑所得として確定申告の対象,必要経費なし
移転給付金修習に伴う必要な移転について路程に応じて支給される定額確定申告の対象外

2 基本給付金及び住居給付金

最高裁判所の第79期司法修習生の修習給付金案内18頁は,基本給付金及び住居給付金を所得税法上の雑所得として確定申告の対象とし,必要経費として控除できる経費はないとしている。また,これらについて源泉徴収は行われず,住民税の課税対象にもなるとしている。

したがって,現在の実務上の出発点は,基本給付金及び住居給付金の支給額を雑所得の総収入金額に算入し,修習のための交通費,書籍代,パソコン代,衣服費その他の支出を必要経費として控除しない取扱いである。源泉徴収がないため,申告時に納付資金が必要になることにも注意を要する。ただし,所得税の確定申告義務の有無は,他の所得,所得控除及び源泉徴収の状況等によって異なる。

確定申告の具体的な方法については,司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)も参照されたい。

3 移転給付金

第79期案内18頁は,移転給付金を確定申告の対象外としている。もっとも,同案内は,その法的理由までは説明していない。司法修習生は給与所得者ではないため,給与所得者に支給される転任旅費等の非課税規定を,説明なくそのまま根拠とすることは適切でない。

実際の申告に当たっては,基本給付金及び住居給付金と移転給付金とを区別し,支給記録を保存しておく必要がある。修習給付金について個別の支払通知書等は発行されないため,第79期案内19頁は,同案内の支給日等一覧表や預貯金通帳等を利用するよう案内している。

第2 基本給付金の課税を争った裁決及び裁判例

1 国税不服審判所令和3年3月24日裁決

第71期司法修習生であった納税者は,平成30年中に支給された基本給付金155万7000円を雑所得の総収入金額に算入し,交通費等を必要経費に算入して確定申告をした。その後,基本給付金は所得税法9条1項15号の「学資に充てるため給付される金品」に該当するなどとして更正の請求をした。

国税不服審判所令和3年3月24日裁決・大裁(所)令2-46は,基本給付金及び修習専念資金の無利息貸与に係る利息相当額を雑所得とし,学資としての非課税並びに交通費等の必要経費算入を否定した。裁決全文は公表裁決事例に掲載されていないが,事件の概要はTAINS収録内容公開情報で確認できる。裁決の詳細については,修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決も参照されたい。

2 大阪地裁判決及び大阪高裁判決

大阪地裁令和4年12月22日判決・令和3年(行ウ)第48号は,納税者の請求を棄却した。大阪高裁令和5年7月26日判決・令和5年(行コ)第15号も原判決を維持して控訴を棄却した。

(1) 学資としての非課税

大阪高裁は,所得税法9条1項15号による学資非課税の趣旨を学術奨励にあるとした上で,基本給付金は修習専念義務を負い生活費を稼ぐことのできない司法修習生の生活費全般に充てるため,使途を限定せずに支給されるものであると捉えた。また,司法修習生が司法修習における教育・指導の対価を負担しないことも重視し,基本給付金は学資に充てるために給付される金品に当たらないと判断した。

(2) 必要経費

大阪高裁は,基本給付金の性格及び支給要件等から,交通費等は基本給付金を得るため直接に要した費用に当たらず,司法修習も基本給付金という所得を生ずべき業務に当たらないと判断した。そのため,交通費等の支出額を領収書で立証する以前の段階で,基本給付金から控除できる必要経費の存在自体が否定された。

(3) 修習専念資金の利息相当額

この事件では,修習専念資金130万円の無利息貸与によって生じた平成30年中の利息相当額1万1286円も争われた。大阪高裁は,貸付元本そのものではなく,無利息で貸与を受けたことによる経済的利益を雑所得の総収入金額に算入すべきものとした。これは修習給付金そのものとは別の論点であるため,両者を区別する必要がある。

3 最高裁令和5年12月22日決定と判決の射程

最高裁第二小法廷は,令和5年12月22日,民事訴訟法318条1項により受理すべきものとは認められないとして,上告受理の申立てを受理しない旨を決定した。これによって大阪高裁判決は確定した。事件番号は公表資料で伏せられており,この決定は裁判所HP未掲載であるが,国税庁の税務訴訟資料第273号・順号13915で決定書を確認できる。

この不受理決定は,最高裁が学資非課税,必要経費又は所得区分について独自の実体判断を示した判例ではない。「最高裁が大阪高裁の理由を是認した」とまではいえない一方,大阪高裁判決が確定したという手続上の効果はある。

確定判決の既判力は当該事件の当事者間に及ぶものであり,他の司法修習生を直接拘束するものではない。しかし,国税不服審判所,大阪地裁及び大阪高裁が主要な主張を退け,最高裁判所の現行案内も同じ課税処理を示している。事実関係が同じ事件で同じ主張を繰り返す場合,現在の実務上の見通しは極めて厳しい。

第3 判決後も残る学説上の議論

1 生活費を学資から除外できるか

判決に対しては,学資には修学に必要な合理的範囲の生活費も含まれ得ること,基本給付金は修習専念義務の下で司法修習を継続させるための給付であること,使途制限がない給付も学資非課税となり得ることから,生活費と学資とを明確に分ける判決の理解には疑問があるとの批判がある。

田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」は,制度設計時の調査で司法修習生の学習関係費用が月額約4万円と把握されていたことも踏まえ,少なくとも基本給付金の一部を学資と捉える余地を検討している。木山泰嗣「司法修習生の基本給付金は『学資に充てるため給付される金品』にあたらず非課税ではないとされた事例」も,職業上の技能の修習に必要な費用が学資の概念から当然に外れるわけではないことを前提に,現行法の文言と制度目的の関係を検討している。

2 修習費用と必要経費との関係

吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて」80頁~102頁は,司法修習と基本給付金との関係を踏まえ,所得区分,学資非課税及び必要経費について裁決とは異なる解釈の可能性を検討している。藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」211頁~214頁も,基本給付金と司法修習との関係を十分に評価せずに必要経費を否定した判決理由を批判的に検討している。

これらは重要な理論的議論であるが,確定した個別事件の結論や現在の最高裁判所の案内を変更するものではない。学説上の批判があることと,現在の申告実務で必要経費を控除できることとは分けて理解する必要がある。

3 所得区分及び立法上の問題

基本給付金を一時所得又は給与所得と捉える見解も検討されている。しかし,一時所得については,制度に基づいて各給付期間に継続して支給されることとの整合性が問題となる。給与所得についても,司法修習生が国との雇用関係に基づいて労務の対価を受けるものではないとする現行実務との隔たりが大きい。

また,旧給費制の給与では給与所得控除が適用されたのに対し,現在の基本給付金は必要経費のない雑所得とされる。この差異や,法曹人材確保のために設けられた給付へ課税することの当否は,立法政策上の問題として残る。もっとも,裁判所法に明文の非課税規定がない現状では,政策的な疑問だけから確定申告上の取扱いを変更することは困難である。

第4 現在も課税を争う場合の入口

1 当初申告と更正の請求

既に提出した確定申告書の税額が過大であったと考える場合は,国税通則法23条1項に基づく更正の請求が入口になる。所得税の更正の請求は,法定申告期限から原則として5年以内であり,国税庁の更正の請求手続案内によれば,書面のほかe-Taxでも提出できる。古い年分については既に期限を経過している可能性が高いため,他人の事件の結果を待つ前に,自分の年分の期限を確認する必要がある。

更正請求書には,請求後の所得金額及び税額,請求理由並びにその理由を基礎付ける資料を示す。もっとも,基本給付金の必要経費については,確定した事件が支出額ではなく法的な対応関係を否定しているため,領収書を追加するだけで結論が変わるものではない。

当初から基本給付金を申告しない,又は修習費用を必要経費に算入する方法を採った場合,増額更正処分,加算税及び延滞税の問題が生じ得る。現行の公的案内及び確定判決に反する申告を,課税を争うための一般的な方法として勧めることはできない。

2 再調査の請求又は審査請求

更正をすべき理由がない旨の通知又は増額更正処分に不服がある場合は,処分庁への再調査の請求又は国税不服審判所長への審査請求のいずれかを選ぶことができる。国税庁タックスアンサーNo.7200「不服申立て」によれば,いずれも原則として処分通知を受けた日の翌日から3か月以内である。国税通則法77条3項は,正当な理由がある場合を除き,処分の日の翌日から1年を経過すると不服申立てができないという期間も定めている。

再調査の請求を経た後に審査請求をする場合は,再調査決定書謄本の送達を受けた日の翌日から1か月以内である。再調査の請求を経ず,初めから国税不服審判所へ審査請求をすることもできる。国税不服審判所の審査請求書の書き方には,請求書様式,記載例及び提出方法が掲載されている。

3 審査請求後の取消訴訟

国税処分の取消訴訟は,原則として審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起できない。ただし,審査請求の日から3か月を経過しても裁決がない場合等には例外がある。出訴期間は,行政事件訴訟法14条により,原則として裁決があったことを知った日から6か月であり,裁決の日から1年を経過すると提起できない。

訴訟を検討する際は,①自分の処分及び裁決に関する期限が残っているか,②確定事件と異なる法的争点又は重要な事実があるか,③税額への影響が費用及び時間に見合うか,④既存の裁決及び判決を踏まえてもなお主張する目的があるかを確認する必要がある。同じ事実関係で学資非課税又は修習費の必要経費算入だけを繰り返す場合,現時点で積極的な見通しを示すことはできない。

本記事は一般的な制度及び裁判例を説明するものであり,個別の申告,期限又は訴訟方針について法的若しくは税務上の助言をするものではない。具体的な案件では,処分通知書,申告書及び支給記録を持参し,税理士又は弁護士に確認する必要がある。

第5 住民税及び国民健康保険料への影響

1 住民税

個人住民税の総所得金額は,地方税法32条及び313条により,原則として所得税法の計算に従う。したがって,基本給付金及び住居給付金は住民税の課税対象となり,所得税の所得金額が更正によって変われば住民税額にも影響し得る。

もっとも,所得税の更正があれば何の確認もせずに住民税が確実に減額されるとまではいえない。自治体の処理時期や期間制限も関係するため,所得税の更正通知を受けた後は,住民税の税額通知を確認し,必要に応じて市区町村へ照会すべきである。

2 国民健康保険料等

国民健康保険料又は国民健康保険税の所得割は,一般に前年の総所得金額等を基礎として計算されるため,修習給付金に係る所得金額の変更は保険料等にも影響し得る。ただし,計算方法,反映時期及び賦課の期間制限は自治体によって確認する必要がある。住民税額そのものを直接の計算基礎とするとの説明は正確でない。

また,第79期案内18頁は,司法修習生は裁判所共済組合の健康保険に加入できないこと,国民健康保険の継続又は加入手続が必要となる場合があることを案内している。被用者保険の被扶養者に該当するかどうかは,税法上の所得区分だけでなく,各健康保険組合等の認定基準によって判断されるため,加入先へ個別に確認する必要がある。社会保険の概要については,修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い(AIリライト)も参照されたい。

第6 出典・参考資料

1 法令及び公的案内

裁判所法67条の2及び67条の3

所得税法9条1項15号,35条,36条及び37条

国税通則法23条,75条,77条,115条及び116条

行政事件訴訟法11条,12条及び14条

⑤ 最高裁判所司法修習生の修習給付金について

⑥ 最高裁判所第79期司法修習生の修習給付金案内18頁~19頁

⑦ 国税庁所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続

⑧ 国税庁タックスアンサーNo.7200「不服申立て」

⑨ 国税不服審判所審査請求書の書き方

2 裁決及び裁判例

① 国税不服審判所令和3年3月24日裁決・大裁(所)令2-46(TAINSコードF0-1-1378,公表裁決事例未掲載)

大阪地裁令和4年12月22日判決・令和3年(行ウ)第48号(税務訴訟資料272号・順号13795)

大阪高裁令和5年7月26日判決・令和5年(行コ)第15号(税務訴訟資料273号・順号13866)

最高裁第二小法廷令和5年12月22日決定(税務訴訟資料273号・順号13915,裁判所HP未掲載)

3 文献

吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて―国税不服審判所裁決令和3年3月24日の検討―」東京大学法科大学院ローレビュー17号(東京大学法科大学院ローレビュー編集委員会,2022年)80頁~102頁

藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch35号(日本評論社,2024年)211頁~214頁

田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」税務事例研究202号(日本税務研究センター,2024年)11頁~32頁

木山泰嗣「最新判例・係争中事例の要点解説(第184回)司法修習生の基本給付金は『学資に充てるため給付される金品』にあたらず非課税ではないとされた事例」税経通信81巻1号(税務経理協会,2026年)115頁~124頁