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修習給付金の必要経費――平成30年当時の見解とその後の裁決・裁判例(AI作成)

第1 現在の取扱い及び本記事の範囲

1 基本給付金の必要経費は認められていないこと

現在の申告実務では,基本給付金について必要経費を控除しない取扱いが出発点となる。
最高裁判所司法研修所事務局の第79期司法修習生の修習給付金案内18頁は,基本給付金及び住居給付金を所得税法上の雑所得として確定申告の対象とし,「必要経費として控除することができる経費はありません」と案内している。
また,基本給付金を直接扱った大阪地裁令和4年12月22日判決及び大阪高裁令和5年7月26日判決は,交通費,書籍代等の必要経費算入を否定した。

もっとも,最高裁第二小法廷令和5年12月22日決定は上告受理申立てを不受理としたものであり,必要経費について独自の実体判断を示したものではない。
大阪高裁判決が当該事件で確定したことと,最高裁がその理由を判例として示したこととは区別する必要がある。

2 本記事が扱う範囲

本記事は,基本給付金を雑所得とした場合に,司法修習のための交通費,転居費,書籍代その他の支出を必要経費として控除できるかを扱う。
平成30年当時に提示された必要経費算入説の根拠と,その後の裁決・裁判例による判断,なお残る学説上の批判を区別して整理する。

修習給付金の種類,現在の申告方法及び住民税等を含む全般的な取扱いについては,修習給付金の税務上の取扱い―司法研修所の案内,裁判例及び確定申告(AIリライト)を参照されたい。
更正の請求,審査請求及び取消訴訟の期限と手続については,修習給付金の税務上の取扱いと課税を争う手続(AI作成)に譲る。

3 三種類の修習給付金を区別する必要があること

裁判所法67条の2は,修習給付金を基本給付金,住居給付金及び移転給付金に区分している。
第79期案内18頁は,基本給付金及び住居給付金を雑所得として申告対象とする一方,移転給付金を申告対象外としている。

大阪地裁及び大阪高裁が直接判断したのは基本給付金であり,住居給付金の必要経費を直接判示したものではない。
したがって,住居給付金については,司法研修所の現行案内が必要経費なしとしていることと,基本給付金事件の判決の直接の射程とを分けて理解する必要がある。

第2 雑所得の必要経費に関する所得税法の仕組み

1 雑所得であることだけでは必要経費の存在は決まらないこと

所得税法35条2項2号は,公的年金等以外の雑所得について,総収入金額から必要経費を控除して所得金額を計算すると定めている。
しかし,同号は,あらゆる雑所得に必ず控除可能な必要経費が発生することまで定めたものではない。

必要経費に該当するかどうかは,同法37条1項その他の規定により,個々の収入と支出との関係を検討して決まる。
基本給付金をめぐる裁判では,雑所得という所得区分そのものよりも,同項の費用類型に当たる支出が存在するかが中心的な争点となった。

2 個別対応費用及び一般対応費用

所得税法37条1項が定める必要経費は,①総収入金額を得るため直接に要した費用と,②所得を生ずべき業務について生じた費用に大別できる。
前者は特定の収入との対応を問題とする費用であり,後者は所得を生ずべき業務全体との対応を問題とする費用である。

基本給付金事件では,交通費等が基本給付金を得るため直接に要した費用といえるか,また,司法修習が基本給付金という所得を生ずべき業務といえるかが争われた。
裁判所は,いずれの費用も観念できないと判断した。

3 家事費及び家事関連費との関係

所得税法45条1項1号は,家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものを,原則として必要経費に算入しない。
所得税法施行令96条は,家事関連費のうち,主たる部分が所得を生ずべき業務の遂行上必要であり,その必要な部分を明確に区分できる場合等の取扱いを定めている。

もっとも,基本給付金事件の判決は,家賃や交通費のうち家事分をどこまで区分できるかという段階で必要経費を否定したのではない。
司法修習が所得を生ずべき業務に当たらず,基本給付金との間に所得税法37条1項の対応関係を認められないとして,それ以前の段階で必要経費の存在を否定した。

第3 平成30年当時の必要経費算入説

1 修習専念義務と支出との関係を重視した見解

平成30年当時には,司法修習生が修習専念義務を負い,司法修習に参加することによって基本給付金を受ける以上,司法修習のための支出は基本給付金に対応する必要経費になるとの見解が示されていた。
国税庁に対する情報公開請求で,修習給付金の税務上の取扱いを記載した行政文書が確認できなかったことも,この問題を所得税法37条1項から改めて検討する契機となった。

この見解は,雑所得として課税するのであれば,その所得を得るための支出も所得計算に反映するのが整合的であるとの問題意識に基づくものであった。
しかし,平成30年当時の情報公開請求の結果は,その後の裁決・裁判例及び現行案内より優先する現在の法的根拠にはならない。

2 必要経費として想定された支出

必要経費の候補としては,実務修習地及び司法研修所への交通費,日々の通所費,修習に伴う転居費,家賃,書籍代,情報通信費,パソコン等の購入費が想定されていた。
これらは,司法修習へ参加するため現実に支出され得る費用であるという点では共通する。

もっとも,支出の現実的な必要性と,所得税法上の必要経費該当性とは同じではない。
後発の裁判例は,司法修習の遂行に必要な支出であるかだけでなく,その支出が基本給付金を得るための費用又は基本給付金を生ずべき業務の費用に当たるかを問題とした。

3 給与所得者及び事業所得者との比較の限界

平成30年当時の見解では,給与所得者の給与所得控除及び特定支出控除との均衡や,事業所得における必要経費の考え方も参照されていた。
しかし,給与所得控除及び特定支出控除は給与所得者について設けられた制度であり,雑所得である基本給付金に当然に適用又は類推されるものではない。

東京高裁平成24年9月19日判決・平成23年(行コ)第298号は,弁護士の事業所得における必要経費について,一般対応費用に個別収入との直接的な関係を別途要求しなかった。
しかし,同判決は,所得を生ずべき弁護士業務が存在することを前提とした事案である。
基本給付金事件では司法修習そのものが所得を生ずべき業務に当たるかが否定されたため,東京高裁判決から直ちに交通費等の必要経費算入を導くことはできない。

第4 必要経費を否定した裁決及び裁判例

1 国税不服審判所令和3年3月24日裁決

第71期司法修習生であった納税者は,平成30年分の確定申告で基本給付金を雑所得の総収入金額に算入し,交通費等を必要経費に算入した後,基本給付金が所得税法9条1項15号の非課税学資金に当たることなどを理由として更正の請求をした。
国税不服審判所令和3年3月24日裁決・大裁(所)令2-46は,基本給付金を雑所得とし,交通費等の必要経費算入を否定した。

この裁決は国税不服審判所の公表裁決事例には掲載されていない。
裁決の内容については,修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決に裁決全文の公開写しが掲載されている。

2 大阪地裁令和4年12月22日判決

大阪地裁令和4年12月22日判決・令和3年(行ウ)第48号は,基本給付金が司法修習生としての身分に基づいて一律に支給され,授業やカリキュラムへの出席が支給要件とされず,成績によって金額も変わらないことを重視した。
その上で,基本給付金については,所得税法37条1項の個別対応費用を観念できず,司法修習は所得を生ずべき業務にも当たらないため,一般対応費用も観念できないと判断した。

同判決は,交通費,書籍代及び衣服購入費を含む支出について,基本給付金の必要経費に算入できないとした。
また,給与所得者や農業次世代人材投資資金の受給者との取扱いの差は,所得区分又は給付の性格・支給要件の違いに基づくものであり,憲法14条1項に反しないと判断した。

3 大阪高裁令和5年7月26日判決及び最高裁決定

大阪高裁令和5年7月26日判決・令和5年(行コ)第15号は,原判決を維持して控訴を棄却した。
同判決は,国税庁の一般的な説明から必要経費の存在を観念できない雑所得は存在しないとはいえず,基本給付金の性格及び支給要件に照らして所得税法37条1項の費用該当性を検討すべきであるとした。

最高裁第二小法廷は,令和5年12月22日,民事訴訟法318条1項により受理すべきものとは認められないとして,上告受理申立てを受理しない旨を決定した。
この決定によって大阪高裁判決は当該事件で確定したが,決定理由は上告受理要件を満たさないというものであり,必要経費について最高裁独自の実体判断を示したものではない。

4 奈良地裁から大阪高裁に至る別系列の判決

奈良地裁令和5年2月14日判決及びその控訴審である大阪高裁令和5年9月21日判決も,基本給付金を非課税学資金とする主張及び交通費等の必要経費算入を否定した。
後者については上告及び上告受理申立てがされたことまでは判決原文から確認できるが,確認した裁判所HP及び国税庁公表資料では最高裁の終局書誌を確認できなかった。

第5 交通費等と領収書の取扱い

1 交通費及び書籍代の支出自体が否定されたわけではないこと

大阪地裁及び大阪高裁は,司法修習生が交通費,書籍代等を現実に支出しなかったと判断したものではない。
支出が司法修習の遂行に必要であったとしても,基本給付金の総収入金額を得るため直接に要した費用又は所得を生ずべき業務について生じた費用には当たらないと判断したものである。

したがって,費用を支出したことと,基本給付金の所得計算上控除できることとは別の問題である。
領収書,交通履歴又は賃貸借契約書によって支出額を証明できても,所得税法37条1項上の対応関係が否定される限り,その金額を基本給付金から控除することはできない。

2 移転給付金及び修習に伴う旅費を分けること

第79期案内18頁は,移転給付金を確定申告の対象外としており,基本給付金及び住居給付金と異なる取扱いを示している。
もっとも,同案内はその法的理由まで説明しておらず,司法修習生は給与所得者ではないため,給与所得者に支給される転任旅費等を対象とする所得税法9条1項4号を,説明なくそのまま根拠とすることは適切でない。

大阪高裁令和5年7月26日判決は,移転給付金を申請しなかったことによって基本給付金の必要経費が生じるとの控訴人の追加主張も退けた。
移転給付金を受領しなかったことや,現実の転居費が支給額を上回ったことだけから,その差額を基本給付金の必要経費とすることはできない。

3 領収書を保存すれば必要経費になるわけではないこと

領収書その他の資料は,必要経費に該当する取引について,支出の事実,相手方,日付及び金額を証明するための資料である。
領収書を保存したこと自体が,その支出を所得税法上の必要経費へ変えるものではない。

基本給付金については,現在の裁判例が必要経費の存在自体を否定しているため,交通費や書籍代の領収書を追加するだけで結論が変わるものではない。
確定申告の具体的な方法については,司法修習終了翌年の確定申告―修習給付金・給与・弁護士報酬(AIリライト)を参照されたい。

第6 裁決・判決に対する学説上の批判

1 基本給付金が雑所得なら必要経費を伴うとする見解

吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて」は,国税不服審判所令和3年3月24日裁決を批判的に検討している。
同論文は,基本給付金に司法修習に伴う負担を補う性格があることを踏まえ,基本給付金を雑所得とするのであれば,旅費等を必要経費として扱うべきであるとの見解を示している。

同論文は大阪地裁及び大阪高裁判決より前に公表されたものである。
そのため,裁決に対する有力な反対説ではあるが,後発判決を検討した論文ではないという時点上の限定がある。

2 判決の理由付けが不明確であるとの批判

藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」は,大阪高裁判決が挙げた事情から,基本給付金を雑所得としながら必要経費の発生を否定する理由が十分に明らかではないと批判している。
特に,給付が労務の対価ではないことや一律定額であることを重視すると,雑所得ではなく一時所得ではないかという別の問題が生じると指摘する。

田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」は,基本給付金を非課税の学資金に含めない判決の理解を批判的に検討している。
木山泰嗣による判例解説も,現行法の解釈として非課税とすることの難しさを認めつつ,司法修習に必要な費用を含む給付への課税及び制度設計上の問題を検討している。

3 学説上の批判と現在の申告実務を区別すること

これらの論文は,基本給付金について必要経費を全面的に否定する理由や,学資金非課税を認めない理由を再検討する上で重要である。
しかし,学説上の批判が存在することと,現在の確定申告で交通費等を必要経費として控除できることとは別である。

現在の申告実務では,第79期案内と確定した大阪高裁事件の結論を踏まえ,基本給付金について必要経費を控除しない取扱いを前提とすることになる。
これと異なる申告又は課税処分を争うことを検討する場合は,期限及び既存判決との相違点を個別に確認する必要がある。

第7 出典・参考資料

1 法令

裁判所法67条の2
所得税法9条1項4号・15号,35条,37条及び45条
所得税法施行令96条
民事訴訟法318条1項

2 司法研修所の案内

① 最高裁判所司法研修所事務局「第79期司法修習生の修習給付金案内」18頁(PDF22枚目)

3 裁決及び裁判例

① 国税不服審判所令和3年3月24日裁決・大裁(所)令2-46(TAINSコードF0-1-1378,公表裁決事例未掲載。裁決全文の公開写し
大阪地裁令和4年12月22日判決・令和3年(行ウ)第48号(税務訴訟資料272号順号13795)
大阪高裁令和5年7月26日判決・令和5年(行コ)第15号(税務訴訟資料273号順号13866)
④ 最高裁第二小法廷令和5年12月22日決定(所得税更正処分取消請求上告受理事件,事件番号は公表資料で伏字。税務訴訟資料273号順号13915,裁判所HP未掲載)
奈良地裁令和5年2月14日判決(事件番号は公表資料で伏字,税務訴訟資料273号順号13814)
大阪高裁令和5年9月21日判決(事件番号は公表資料で伏字,税務訴訟資料273号順号13887)
東京高裁平成24年9月19日判決・平成23年(行コ)第298号

4 文献

吉沢健太郎「裁判所法67条の2第1項に基づく修習給付金の課税上の取扱いについて―国税不服審判所裁決令和3年3月24日の検討―」東京大学法科大学院ローレビュー17号(東京大学法科大学院ローレビュー編集委員会,2022年)80頁~102頁,特に100頁~102頁
藤間大順「司法修習生が得る基本給付金および修習専念資金の非課税所得該当性」新・判例解説Watch租税法No.186,vol.35(日本評論社,2024年)211頁~214頁,特に213頁~214頁
田中治「非課税所得該当性をめぐる近時の紛争例」税務事例研究202号(日本税務研究センター,2024年)11頁~31頁,本件関連部分14頁~20頁
木山泰嗣「最新判例・係争中事例の要点解説(第184回)司法修習生の基本給付金は『学資に充てるため給付される金品』にあたらず非課税ではないとされた事例」税経通信81巻1号・通巻1146号(税務経理協会,2026年)115頁~124頁